.


マスター:神子月弓
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/09/08


みんなの思い出



オープニング




「‥‥読め」
 轟闘吾 (jz0016)からチラシを受け取り、「あらあら何です〜?」とマリカせんせー(jz0034)は覗き込んだ。


  <久遠ヶ原島大花火大会のお知らせ>

  今年も全国各地で、競技花火大会が行なわれてまいりました。
  しかしながら台風や豪雨で中止になったお祭りもちらほら。
  そこで、夏の終わりの思い出作りとして、
  久遠ヶ原島で、残った花火を一斉に打ち上げるというお祭りを
  開催したいと思います。
  是非、皆様お誘い合わせの上、お越し下さいませ。


「あらあら〜、轟さんも行きたいのですー?」
 無邪気に笑むせんせーに背を向け、帽子を目深にかぶる闘吾。
「‥‥軟派な催しに、興味はない」
「でもチラシは配ってくれるんですね〜、有難うございますー」
「‥‥」





 そんな訳で、フェリーが到着し、続々と全国から花火師の乗ったトラックが降りてくる。

「海で打ち上げるんですねー。水中花火というのが、気になるのですー」
 早速様子を見に行くせんせー。
 露店も出揃いはじめ、至るところに提灯も飾られ、徐々にお祭りらしさが増していく。

 
「この夏最後のお祭りになるかもしれないのですー。皆さん、存分に楽しみましょうですー!」
 セールで浴衣をゲットしたせんせーが、学生たちを誘って回った。


リプレイ本文




 花火師たちの準備も整い、久遠ヶ原浜にはぐるりと露店が組まれていった。
 ゆっくりと日が暮れていく。
 あんなに暑かった日差しが赤い光となり、涼しげな風に暑気を払われているようだ。

 秋の気配。
 一言で言ってしまうと、風情はないけれど、でも、そんな印象が強く残った。


 ジャッ、ジャッ、ジャッ。

「海の家ゲンヤ出張店」と書かれた出店から、ソースの焦げるいい匂いがしている。
 コテさばきも景気よく、もやしにキャベツに人参に肉、そして麺を、天板の上で躍らせる。

「やきそばにはちょっとうるさくてな。なんせ前世では、海の家で腕前を磨いていたからな」
 額に手ぬぐいを巻いた詠代 涼介(jb5343)が、遠く某有名ビーチに残してきたおじいさんを思いつつ、コテを振るう。
 せっかく立て直した「海の家ゲンヤ」の名に恥じぬためにも、どこよりも美味い焼きそばを仕上げねばならない。

 ――あれ?
 前世は「常連」だったんじゃないの?

「細かいことは気にするな」


 その斜向かいに、もう一軒の焼きそば店が。

(‥‥なんで俺はこんなとこで働いてんだ‥‥? 成り行きって怖ぇ)
 ため息をつきながら、嶺 光太郎(jb8405)がジャッジャッと焼きそばを作っている。
 ハチマキで額に浮かぶ汗の玉を拭う。

「おい、じーさん、作り方これであってるのかよ」

 自分をバイトに雇ったはずのご老体へ視線を向けると、既にこくりこくりと舟を漕いでいた。
「ちっ、しょうがねえなあ。よくわかんねえけど、作り方は大体知っているし、2〜3回やれば普通にこなせるようになるだろう」


 綾(ja9577)は、メイド喫茶【Lovely Princess】出張店の準備に追われていた。
 花火の絶景ポイントは確保済みである。
 飲み物、デザート、冷菓を中心に、仕込みを開始する。


 その他、様々な露店が並ぶ。
 鑑夜 翠月(jb0681)が調べたところ、これだけの露店が見受けられた。

 カラフルなレインボーアイス。
 クレープパフェ。
 綿氷(ふわっとした雪のような食感のかき氷)
 白いたい焼きアイスパフェ。
 ケバブサンド。
 ラーメン。
 もんじゃ味のお好み焼き。
 学園長の顔を模した人形焼。
 揚げたピザ。
 パスタを揚げて塩をふったお菓子。
 とりのからあげ。
 牛の串焼き。
 揚げパン。
 レインボーデコレーションバナナチョコ。

 食べ物のみならず、射的、投げ縄、スーパーボール釣り、バルーンアート、こんぺいとう掬いなども揃っている。


「レインボーデコレーションバナナチョコが気になりますね。トッピングのチョコスプレーがカラフルなんですね。チョコ自体にも色がついていますし、何というかド派手ですね」
 翠月は1本買って、すぐに食べてみた。
 トッピングがすごい勢いでかけられていて、食べ方を誤るとパラパラ落ちてしまう。
 味はしっかりチョコバナナだ。

「ケバブサンドも気になりますね、レインボーアイスもいいですし‥‥」
 気になるお店を回っては、翠月が食べまくる。
 花火が始まる前に、お腹がいっぱいになってきた。


 その中を、浴衣を着たままカラコロ草履を鳴らして走ってくる、マリカせんせー(jz0034)。

「焼きそばくださいなのですー! お腹ぺこりんちょなのですー!」
 涼介は焼きそば1パックをせんせーの手に置いた。
「‥‥まあ、あれです、この間の件で、体を張って(?)協力していただいたんで、そのお礼で」
「??」

 海の家ゲンヤ立て直しのとき、くじの景品に混ぜられた自分のブロマイドのことだ、と気づいたのは、せんせーが食べ終わる頃だった。
 具体的には、3秒後くらいである。

「まあ、まあ、気にしなくていいのですー。それより、お代金、いいんですー?」

 涼介が頷くと、せんせーは、ぱあっと笑顔になった。
 タダ飯で釣れる、おやすい女教師である。

「こっちの焼きそばには紅しょうがが入っているんですー? せんせー食べたいのですー!」
 光太郎の露店にも近づき、焼きそばを物色する。
「あー、1つ、400久遠な」


「あ、こんばんは。いいですねえ、マリカせんせー。僕も焼きそば食べたいです」
 珍品に飽きたのか、翠月が涼介の露店にぴょこりと顔を出した。
「甘いものが続きましたんで、箸休めというところでしょうか。ひとつ僕にもくださいなのです」

 定番メニュー、焼きそばは、これ以上なく美味に感じられた。
 やっぱり、珍品もよいが、スタンダードな品揃えも重要だと感じる翠月であった。





「あー、マリカせんせー!」
 綾が手を振って、せんせーを呼んだ。「ちゃおでーす」とせんせーも手を振り返す。
「せんせー22歳なんだって? ボクたち、同い年だなんて運命じゃない?」

 が、外見がせいちょうしてないだけなのですー、とせんせーはすっと目をそらした。

「せんせー、お酒飲む? 引率のつもりならダメかしら?」
「あ、引率じゃないのですー。今日はせんせーもオフなのですー、遊びに来たのです〜!」
「じゃあ!」

 ででーん。
 女性向けの、可愛くて軽めのお酒(カクテル)が、ずらりとカウンターに並んだ。

「遠慮なくあがっていってちょうだいね♪」
 綾は微笑んだ。

 せんせーは、飲んで酔いが回る前に、お財布の中身を確かめておく知恵をつけていた。


 そこへ、珍しい露店を回ってきた、黛 アイリ(jb1291)、黄昏ひりょ(jb3452)、川澄文歌(jb7507)、アリス・シキ(jz0058)のグループが通りがかる。

 紺地に彼岸花模様の浴衣姿のアイリは、ふらりと珍しい露店を見つけては消え、美味しそうなものを手にしては、皆のところへ戻ってきていた。

「白いたい焼きアイスパフェがあったよ」
 何でも、あんことカスタードが両方入った白いたい焼きに、ソフトクリームが添えられている一品だという。

「本当に面白いものがあるんですね」
 ミスティローズ色を基調とした浴衣に、髪を上げて簪をさした文歌が、ニッコリと微笑む。
 穏やかな微笑みにつられて、ひりょも微笑む。

(お祭り、来てみて良かったな。文歌さんが気を遣って誘ってくれたんだもんな。今日は楽しまなくちゃ!)
「ひりょさん、その可愛いお友達、紹介しなさい!」
 綾の声が、ほんわかと心の平穏に浸っていたひりょの耳に、届いた。

「あ、綾さん!?」
「そうよ、ここはメイド喫茶【Lovely Princess】出張店よ。おかえりなさいませ、皆様」
 綾はメイド喫茶らしく、客に膝を折った。
「というわけで、紹介してもらおうじゃないの! さあさあ、さあ!」


 ひりょが、救いを求めるように周囲を見回すと、アイリは、わたあめ製造機に夢中。
「店主さん店主さん、どうしてこんなふわふわの形になるの?」

 文歌は「綺麗な飲み物ですね」とカクテルを見つめている。
 カクテルのことを綾に質問して、ひりょへの攻撃、ならぬ口撃を逸らそうと画策したのだが、「未成年には飲ませられないのよ、ごめんね〜」の一言で片付けられてしまう。

「えーと、皆様、ひりょさんのお友達さまですの〜」
 わかりきったことを答えるアリス。
「それはね、わかっているのよ、うん?」
 綾が眉間に指を当てる。
「どういうお友達かってところを、聞きたいのよね‥‥ひりょさんの口から」

「どういう、っていっても‥‥」
 困惑するひりょ。綾がからかっているつもりなのは、分かっている。でもどう答えたら一番無難なんだろう? 自分がからかわれるだけならいいけれど、でも‥‥。

「んー、お話いたしましたり、お茶をご一緒にいただきましたり?」
 一方こちらは、質問の意図が全く通じていないアリス。

「まあまあ、きっと人には色々あるのですー、時としてツッコミ過ぎるのも無粋になりますのです〜」
 カクテルでほろ酔い気分のせんせーが、ひらひらと手を振った。
「お祭りの日くらい、のんびり気ままに人生送るのですー」





「‥‥」
「‥‥」

 待ち合わせの場所で、浪風 悠人(ja3452)と浪風 威鈴(ja8371)夫妻は、互いに言葉を失っていた。

(浴衣姿の悠人カッコイイなぁ)
(うわあ‥‥今日は一段と綺麗だなあ)

「い、行こうか」
 悠人が手を伸ばす。頭につけたやぎ面と、手にしたうちわが祭りっぽい。
 おずおずと手を重ねる威鈴の耳に口を寄せ、「浴衣すごく似合っているよ」と一言。
 威鈴はほんのり赤くなった。

 2人で珍しい露店を回る。
「ふわふわ‥‥綿菓子‥‥♪」
 スタンダードな露店の前で、威鈴の足が止まる。
「よし、買って一緒に食べようか。なに色がいい?」

 ピンクの綿菓子を半分こしながら、仲良くいただく。
「あ、威鈴、綿あめが頬についているよ、とってあげる」
 お祭りの提灯の暗い明かりの下で、悠人は威鈴の頬に軽くキスをした。

 2人の目を引きつけたのは、射的の露店だった。
 特等に輝いているのは、大きなシャチのぬいぐるみ。
「アレ‥‥とって‥‥?」
「よし、任せろ」

 照準の合わないおもちゃの銃で何度も挑むが、そうそう簡単には賞品をとらせてもらえない。
 悠人は真剣そのもので取り組んだが、ギブアップし、威鈴にバトンタッチした。
 威鈴も、真剣にシャチのぬいぐるみを狙う。

「‥‥的が重すぎて‥‥コルク弾が‥‥はね返っちゃう‥‥」

 結局、手に入ったのはキャラメルの箱だけだった。
 分け合って一緒に食べることにして、2人はジュースを調達しに向かった。





 あぐ。
 1つのりんご飴を交互に齧りながら、赤い浴衣の2人、桜井・L・瑞穂(ja0027)と、帝神 緋色(ja0640)は寄り添って腕を組み、歩いていた。
 瑞穂の浴衣は白百合柄、緋色の浴衣は黒い蝶の柄である。
 仲良しらぶらぶ百合カップルに見えるが、何を隠そう、2人は異性カップルである。

 あぐ。
 瑞穂がかじったりんご飴の、同じ場所をかじる緋色。
「ふふ、間接キスだね♪」
 その言葉にほんのり頬を染める恋人が愛おしくて、緋色はすっと目を細める。
「んっ。ほら緋色、アレなんて如何ですの?」
 恥じらいを隠すように、瑞穂が露店を示す。

「輪投げ、だね。瑞穂、やってみる?」
「ん〜、そうですわね、あのフランス人形、造形に気品がございまして、とても高潔な印象ですの」
 賞品を物色し、瑞穂は投げ輪を握った。本物では無いのはわかっていたが、それでもなかなかの出来だ。

 一投、続いて一投。
 惜しくも人形に輪がかからない。

「う〜、悔しいですわ」
 瑞穂は諦めず、お尻をぐいと突き出し、胸もとも着崩れているのに気づかず、熱中していた。
「ああっ、あともう一歩ですのに!」

(瑞穂ったら‥‥夢中になりすぎて凄く厭らしい格好になってるの、全然気付いてないね。眼福だけど♪ 首尾よく成功したら、ご褒美にキスしてあげようじゃないか‥‥周りの皆に見せ付けるような濃厚なのをね♪)

 緋色が微笑んで見守る中、遂に輪が人形を捉えた。
 ゲットしたフランス人形を抱え、無邪気な子供のように跳ね回って瑞穂は喜んだ。
「ねっ緋色、やりましたわ♪ って!? あ、ちょ、コラぁ♪」
 
 衆人環視の中、緋色の唇がねっとりと瑞穂をとらえ、周囲に見せつけるような深い口づけが、長い時間、続いた。





 ぱん、ぱん、ぱん。
 水面のボートから花火大会開催の合図が鳴る。

「もんじゃ風味のお好み焼き、か‥‥珍しい、というか、どう違う、のか?」
 桟橋の隅で、アスハ・A・R(ja8432)は、余り見かけない商品をゆっくり食べていた。
 脳裏に、滋賀でのアウル覚醒者同士の闘争や、宝探し、運動会、そして仙台で続いている出征命令などが、映画のように流れていく。
(本来、こうして花火を見ているのが学生として自然なのだろう、が‥‥今の時間が、むしろ不自然なように思えてしまう、な)
 思わず失笑する。

 学生としての自分。
 戦士としての自分。
 仲間に囲まれ、青春時代を過ごしているはずの自分。
 いつ、命を落とさないとも限らない状況にいる自分。

 非常にアンバランスな現状をおかしいとは思うものの、今は今で楽しむか、と割り切って考える。
 割り切らなければ、やっていけないのも、また、学園生の背負う事実。

「何せ‥‥もうすぐ進級試験らしいから、な。たまには座学もやっておく、か」

 仙台の事件はまだ、収束していない。
 しかし、既に次の次を考えつつ、アスハは、缶コーヒーを一気に飲み干した。
 ぱあん、と大きな音を立てて、10号玉芯入り菊が開き、アスハの青く染まった髪を照らした。





「多分海岸の方が、桟橋よりまだ座れると思うのよね」
 礼野 真夢紀(jb1438)は、レジャーシートを広げて、露店で買ったお夕飯、お菓子、飲み物を重しに乗せ、礼野明日夢(jb5590)と神谷愛莉(jb5345)の座る場所を確保した。
「はいはい、ちょろちょろしないようにねー」

 花火が終わるのは20時半だ。21時には家に帰れるはず。
 真夢紀は、ほっそりした腕時計を眺めた。

「夜だとさすがに涼しいねー」
 愛莉は編んだポニーテールを揺らしながら、夕食がわりの、熱々のたいたこ焼き(たこ焼きの形がたい焼き)をほおばっていた。

(携帯は持った、ハンカチ持った、涼しいけど飲み物持った、お財布にお金も持った、ええと)
 浜に露店と提灯はあれど、暗がりには違いない。
 甚平姿の明日夢は、持ち物をチェックしていた。

「アシュも食べなよ? おいしいよー」
 次なる夕食、焼きそばに取り掛かりながら、愛莉はソースまみれの口をにんまりさせた。
 箸と容器を明日夢に向かって差し出してくる。
「ほらほら、口元汚しちゃって」
 真夢紀がハンカチで拭いてくれる。
 
 しゅごおおお、すごい音を立てて、花火が上空へ高く上っていった。
 そして、勢いよく、ぱあん!
 夜空に大輪の花が咲いた。すぅっと光が糸を引いて消えていく。

 子供たちは、食事も忘れ、花火に見入っていた。





「今年の夏も、何かと忙しくて、なかなかこんなゆったりした時間がなくて、だからお出かけも何だか久しぶりの気がします」
 流水に金魚の浴衣を着こなした星杜 藤花(ja0292)は、藍染の甚平姿の星杜 焔(ja5378)に、微笑みかけた。

「今年はお祭りで遊ぶとか、そういえばなかったねえ。でもそのぶんバイト代入ったからよかったね。まだまだ俺は一人前ではないけれど、頼れる‥‥頼らせてくれる大人にも恵まれて‥‥ぼっちだった頃がまるで夢だったかのようだね」

 本当に夢でも見ているかのような、柔らかな光を宿した、焔の瞳。
 その僅かな着崩れを自然に直し、妻・藤花はそっと寄り添った。

「飴でも食べながら花火を見ようよ。りんご飴にあんず飴、ぶどう飴、いちご飴、パイン飴、ドリアン飴‥‥は、やめておくとしても、ほかのは全部おいしそうで選べないなあ」
「では、りんご飴にしましょうか」

 2人でりんご飴をもぐもぐしつつ、空を見上げる。
(そういえばあれはもう二年も前の夏でした。なんだか少し懐かしいですね)
 色とりどりの花が大空で散るたびに、藤花の胸に去来するものがある。

「水中花火、気になるね〜、日本の花火ってとってもきれいで、子供の頃、お祭りに連れて行ってもらうのがとても楽しみだったんだ」
「ラストの仕掛け花火の時に、見られるみたいですよ」
 藤花は微笑んだ。
「子供の頃の焔さんのお話、聞かせていただけませんでしょうか?」





「おお、よく似合ってますよウィ‥‥」
「カルマ、カルマ見て下さい。この意匠‥‥素晴らしいです!」
 ウィズレー・ブルー(jb2685)はカルマ・V・ハインリッヒ(jb3046)に駆け寄った。
「見てください、白地に咲くは見事に開いた蒼い朝顔、そして浴衣に走る紺のライン! この柄の素晴らしさ、色合いの調和、実に見事です!」

 着付け師が「あ、あの、出来るだけすり足で‥‥」と絶句しているのにも構わず、ウィズレーは下駄を高らかに鳴らしながら桟橋方向に駆けていった。
「‥‥ウィズ、俺の傍を離れないように」
 半ば諦めつつ、柄は白地に銀色の桜柄の浴衣のカルマが追う。追いついたところで躓きかけているウィズレーを助け、(はあ、ウィズはいつもどおりですね)という顔をする。

 ずんと腹に響く大きな音とともに、大輪が空を彩る。
 菊、牡丹、蜂、錦冠菊、大物の間には、スターマイン。

「凄い、凄い、綺麗です。人の子はどうしてこうも素晴らしい造形を作り出すのでしょう」
「確かに凄いですね。こうした感性もまた、俺たちと違った『力』なのでしょう」

 ふらふら色々な角度から見ようとするウィズレーを制し、人にぶつかりそうになると避けさせ、必要に応じて手を掴んで進路を変更させる。





 義覚(jb9924)は、最愛の妻・葵(jc0003)の足元と人ごみを気にして、少し離れた堤防から花火見物をしていた。
「葵の君、寒くはないかい?」
「心地よいくらいぞえ」
 プライドの高い妻は、すげなく答える。露店でレインボーアイスなるものを口にしたせいか、腕をさすっているのが見て取れる。
 しかし、そこで妻の気位を損なうことはしない。義覚は葵の風上に立つことで、妻の体温を守ろうとした。

 打ち上がる花火が、夜空にスマイルマークを描き出す。

「変わった花火も増えたものよな」
「‥‥まさに、空の華‥‥だね」
「まこと、雅じゃな‥‥暗き空によく映える。さて、いつぶりとなろうかな‥‥しかし、そなたと見るは初めてじゃな? このように美しければ、歌でも詠めようか?」

 義覚はくすりと笑った。
「物思へば 川の花火も我が身より ぽんと出でたる玉やとぞ見る」

「思い出すのう、公家で育ったそなた、武家で育った私‥‥交わした文は覚えておるか?」
 気位の高さを誇示したまま、葵はそれでも声をやわらげ、ゆっくりと記憶をなぞった。
「玉の緒よ、たえなばたえね‥‥ながらへば、忍ぶることの弱りもぞする。今も変わらぬ‥‥そなたにしか、抱いた事など無い」

 妻の歌に少しだけ意外そうにした後、義覚は嬉しそうに微笑んだ。
「忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は 物や思ふと 人の問ふまで」
 葵の頬にそっと手を伸ばし、あたためるように包み込んで撫でる義覚。
「俺は‥‥俺の花が消えてしまわない事を‥‥願うのみ、かな」





「あ、ごめんなさい」
 人波に押され、浴衣姿のユウ(jb5639)が謝ったのは、Gカップを強調した白地にハート柄の浴衣で参戦中の歌音 テンペスト(jb5186)であった。
「あら、歌音さん。大丈夫ですか?」
「えぐえぐえぐ」

 両手にウシガエルの足のからあげを持参し、歌音はふるふると震えていた。

「お家で花火する時、いつも待ちきれずに覗きこんで、痛い思いをする派だったの。だから花火は恐ろしいモノなイメージ‥‥でも怖いもの見たさに負けちゃう‥‥」

 普通の拳銃で撃たれても大丈夫な撃退士ではあるが、吹き出し花火に目を直撃されたら、やはり痛いのだろう。

「あ、これあげるわ、おいしーわよ」
 ウシガエルの足のからあげ(天然モノ)をユウに差し出し、花火が鳴るたびに「キレイだけど恐いよう。えぐえぐ」とプルプル震える。

「泣きながらマリカせんせーの袖にしがみついていたの、でもせんせー見失っちゃって‥‥恐いけど花火見たいよぉ」
「一緒に探しましょうか」
 ユウは手を差し出した。

 2人で手をつないで、せんせーを探す。


 ここは東欧アンティークの露店。

「アリスさんって、東欧系のハーフなんですね」
 文歌が、アリスの誕生月を知って、「お誕生月のプレゼントです」とアンティーク絵皿をプレゼントした。アイリは純東欧系だったので、絵皿は2人で選んだ。
「わたくし東欧系ハーフと申しましても、血が混ざってございますだけで、その‥‥」
 東欧人の母とも、日本人の父とも断絶状態のため、アリスは狼狽えていた。
「あ、有難うございます。お皿、大切に飾らせていただきますわね」

「本当は、シキさんも彼氏さんと一緒に来られると良かったね‥‥」
 ひりょの言葉に、「良いのですわ」と微笑んでみせるアリス。

「あの‥‥よろしければ、どうぞですの‥‥」
 囁いて、アリスは文歌の袖に、そっと線香花火の束を忍ばせた。


 どーん。
 どーん。
 ぱしゅうう!

 花火の音が大空をゆるがせ、色とりどりの光の花が咲く。


「せんせー見つけた! わあああん!」
 学園長を模した人形焼の店先で、歌音とユウはマリカせんせーを発見した。

「あらあら、どうしたのですー?」
 その足にがしっとはりつく歌音。
「せんせー、花火が怖いですーわあああん!」

(終わる頃には慣れてくるかな、少しは怖さを克服できるかな)

「で、でも、花火はキレイだけど、せんせーや周りの女の子たちはもっとキレイです。ポッ」
 頬を染めるか、怖がるか、どちらかにしなさい。





「わー!」
 会場が盛り上がる。
「水中花火だー!」

 水中から打ち出されるスターマイン。海面に写り込んで、丸くも見える。
 いよいよフィナーレである。





 とりあえず、自慢のGカップを揺らしまくって、着崩れた浴衣を、せんせーに整えてもらい、歌音は、ふと花火の音が聞こえなくなっていることに気がついた。

「終わったの!? 終わったのかしら?」
 観察すると、テキヤも店を閉め始めている。
 人々は浜や桟橋方面から、学生寮方面に歩き出している。

「ほら、急がないと、21時までにおうちに戻れませんよ!」
 真夢紀がチビッコ2人を連れて、一生懸命歩いているのも見える。

「だいぶ冷えてきましたね」
 ユウが虫の声に気がついた。まだ早いとは言え、少しだけ、秋虫の声が聞こえてくる。
「花火に夢中で気づきませんでしたが、やはりこの時間だと肌寒い‥‥もう、夏も終わりなのですね」





 誰もいなくなった桟橋のそばで。

「今日はお疲れ様でした。いつも有難うございました。お疲れになったでしょう」
 文歌は、ひりょを呼び出していた。
「私と一緒に、花火大会、線香花火で締めませんか?」





 米田一機(jb7387)と蓮城 真緋呂(jb6120)も、同じように2人だけの花火を楽しんでいた。
 浜から花火大会を見物した後、自分達用の花火を持ち出す。

 白のサマーワンピにサンダル姿の真緋呂は、サンダルを脱ぎ、素足で海に入っては、はしゃいで楽しんでいた。
「冷たくて気持ち良いー♪ え〜い、花火攻撃っ!」
 手に持った花火をふざけて一機に向ける。
「負けないぞー!」
 一機も海に入って、しばし応戦。

 やがて、真緋呂が、ふと海に入ったまま、その先の暗い水平線をぼんやり見つめ始めた。
「どうしたの、そんな遠く見て」
 現実に引き戻すように、ぽんと肩に手を置く。

「あ、ちょっとぼんやりしてただけ‥‥」

 なんだろう。怖い。
 楽しい時間が増えるほどに、失う怖さも生まれてくる、ものなのかな?

(無意識にきっと一人でまた何かを考えてるんだろうなぁ)
 遠くを見つめる真緋呂の瞳に、そんな事を想像する一機。
 言葉でいうよりも解り易いかな、と、抱き寄せてやさしく頭をなでる。

「な、なっ‥‥えーいっ!」

 何となく、頭を撫でられたことが照れくさくて、体当たりをする真緋呂。
 二人してびしょ濡れになり、ぷかぷかと海に漂いつつ、夜空を見上げる。
 一機の手は、まだ真緋呂の頭を撫で続けている。

「‥‥夏も、もう終わっちゃうね」
「なぁに、夏は、今年だけじゃないさ。来年も、その次も、此れから先まだまだいっぱい夏は来る。‥‥また来年も来ればいいさ」

「‥‥うん」
 くすりと微笑み、真緋呂は夜空を見つめた。
 花火の名残である煙が、風でゆっくりと流されていく。

「今年の夏は色々あったなぁ。そんな夏が終わっていくね。年の瀬まであと少し、今年もなんとか越せそうかな」
「そうだね」
 一機と真緋呂は、いつまでも空を見続けていた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:12人

ラッキースケベの現人神・
桜井・L・瑞穂(ja0027)

卒業 女 アストラルヴァンガード
思い繋ぎし紫光の藤姫・
星杜 藤花(ja0292)

卒業 女 アストラルヴァンガード
魅惑の囁き・
帝神 緋色(ja0640)

卒業 男 ダアト
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
白銀のそよ風・
浪風 威鈴(ja8371)

卒業 女 ナイトウォーカー
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
キューティーバニー・
綾(ja9577)

大学部5年1組 女 ダアト
夜を紡ぎし翠闇の魔人・
鑑夜 翠月(jb0681)

大学部3年267組 男 ナイトウォーカー
銀狐の見据える先・
黛 アイリ(jb1291)

大学部1年43組 女 アストラルヴァンガード
芽衣のお友達・
礼野 真夢紀(jb1438)

高等部3年1組 女 陰陽師
セーレの友だち・
ウィズレー・ブルー(jb2685)

大学部8年7組 女 アストラルヴァンガード
セーレの友だち・
カルマ・V・ハインリッヒ(jb3046)

大学部8年5組 男 阿修羅
来し方抱き、行く末見つめ・
黄昏ひりょ(jb3452)

卒業 男 陰陽師
主食は脱ぎたての生パンツ・
歌音 テンペスト(jb5186)

大学部3年1組 女 バハムートテイマー
セーレの大好き・
詠代 涼介(jb5343)

大学部4年2組 男 バハムートテイマー
リコのトモダチ・
神谷 愛莉(jb5345)

小等部6年1組 女 バハムートテイマー
リコのトモダチ・
礼野 明日夢(jb5590)

小等部6年3組 男 インフィルトレイター
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
あなたへの絆・
米田 一機(jb7387)

大学部3年5組 男 アストラルヴァンガード
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
無気力ナイト・
嶺 光太郎(jb8405)

大学部4年98組 男 鬼道忍軍
血族の脈動・
義覚(jb9924)

大学部7年303組 男 アカシックレコーダー:タイプB
『魂刃』百鬼夜行・
葵(jc0003)

大学部7年232組 女 鬼道忍軍