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「はじめましてっ! 久遠ヶ原学園高等部三年の佐藤としお(
ja2489)です。今日は目一杯楽しみましょう♪」
「ゆかり(
jb8277)です、よろしくお願いしますね」
克己に握手を求めたのは、刺青の入った見事な体を晒すとしおと、日本酒の匂いをぷんぷんさせているゆかり。
「ゆかりちゃんと、今年初めての海だぁ〜!」
グラサージュ・ブリゼ(
jb9587)はゆかりに抱きつき、そして、マリカせんせー(jz0034)に目を留めた。
「ん? せんせーの隣にいるのはもしかしてそっくりさんのミチルちゃん?‥‥ということは、そこにいるのは、もしかしなくとも例の本屋の‥‥モゴモゴっ」
咄嗟にグラサージュの口を押さえたのは、何やら目がマジな歌音 テンペスト(
jb5186)である。
「ねっ! せんせーとミチルちゃん、どっちが好みなのん!?」
グラサージュを押さえたまま、歌音の脳裏に、壮絶な誤解が展開されていく。
(マリカせんせーがフライドチキン屋で、本屋男をナンパ‥‥だ‥‥と?!‥‥せんせー‥‥ナンパするほど、よっきゅーふまんだったのね、でも「せんせー×本屋男」は絶対に阻止するんだぴょん!!)
めらめら。歌音は青い瞳に炎を宿して、ずいずいと克己に迫っていく。
「さああ〜答えるのよ、どっちが好みなのん!? どっち! どっち!?」
「そ、そう言われましても‥‥」
克己、たじたじである。日焼けすらしていない、ひょろんとしたもやしっ子に見える。
「とりあえず落ち着こう、歌音さん。ね?」
黄昏ひりょ(
jb3452)が歌音をグラサージュから引き剥がした。
「だって‥‥だって‥‥(えぐえぐ」
歌音は(本屋男にマリカせんせーは渡さないのん! あたし×マリカせんせー、これこそがジャスティス!)と、泣きながらひりょの胸を叩いた。
「ははぁ。海で遊びつつ、気になるアノ子とお近づきになりたいんやって? 隅に置けんな〜」
黒神 未来(
jb9907)がミチルの頬をぷにぷにする。
「よっしゃ、一肌脱いだろ! 協力できることがあったら、何でも言うたってや?」
「そうね、ここは共闘と行きましょう」
立ち直り、歌音もミチルの手を取る。
(あなたが本屋男とくっついてくれれば、マリカせんせーはあたしのモノ決定なのねん!! ほら、双方とも利害一致だわ!! 頑張るのよミチルちゃんっ!!!)
「あ、あのー‥‥何か、雰囲気が変なんですけど?」
皆の気合の入りように圧され、克己は、マリカせんせーに尋ねていた。
「そーですー? 皆さん良い人ばかりですしー、竜田さんを喜ばせたくて仕方がないんだと思うのです〜」
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浪風 悠人(
ja3452)&浪風 威鈴(
ja8371)夫妻は、BBQセットを組み上げ、何やらクーラーボックスを大事そうに持っていた。
そこには、夫婦で手作りしたケーキが収められている。
「ああ、あなたがミチルさんですか。よろしくお願いしますね」
「これ‥‥食事のときの、サプライズ‥‥中、ケーキ、だから‥‥」
悠人と威鈴が、クーラーボックスをミチルに預ける。
一方、としおは早速、克己をサーフィンに連れ出していた。
のんびりと波にゆられながら、克己と徐々に会話を弾ませていく。
「おおー、あの本屋の正社員になれたんですか! おめでとうございます! ほうほう、オーナーさんが後見人さんで、それでこの島に移住を? ああ‥‥ご家族を事故で‥‥親戚をたらい回しに‥‥そうですか、大変でしたね。そのタイミングで天魔に襲われたなんて、災難としか言いようがないですね。じゃあ、高校卒業までは島外だったんですねえ。お疲れ様です」
まず自分の経歴を話し、そして相手の話に耳を傾けていく、としおの話術。
「それにしても、本屋のオーナーさんが後見人になってくれて、良かったですねえ。お仕事も順調のようですし、昇進がお誕生日とも重なったようで、いやぁ〜めでたいめでたい!」
見た目は刺青もあり、ちょっと怖そうなとしおだったが、お喋り好きでよく話にも耳を傾けてくれるためか、克己は自然に打ち解けていた。
「2人とも気持ちよさそうだなあ」
ひりょがとしおと克己を眺めながら、ビーチバレーの仕込みをしていた。
「せんせー、竜田さんのお誕生会を皆で祝うなんて、ナイスアイデアですよ。これで2人が少しでも仲良くなれたらいいですよね。‥‥あと、今日の水着も素敵です、似合ってますっ(ぐっ」
「あらあら、有難うですー」
無邪気に笑いながら、せんせーはコートのライン引きを手伝っていた。
「一般人と撃退士では身体能力が違いすぎますから、ちょっとクジに細工をしましょう」
未来とゆかりが、作業をしながら、楽しそうに微笑む。
「ふっふっふ、どのような引き方をしても、これでミチルさんと竜田さんは同じ組に決定ですよ」
「せやね。試合でも、ちゃあんと手加減せえへんとあかんで?」
「ミチルちゃん、本屋男をモノにするには、基本は色仕掛けよっ!」
歌音は自慢のGカップを、ぎゅーとミチルの腕に押し付けた。
「ねー、あっち行ってみようよー、とか、こうやって甘えて男をめろめろにするの! お食事時の、はい、あ〜んも基本中の基本よ!!」
マリカせんせーを奪られまいと、歌音、必死である。ミチルは真っ赤になって慌てふためいた。
「い、いろじかけってっ‥‥あた、あたしそんなムネないし!」
「ちっぱいにはちっぱいの魅力があるのん! とにかく腕ぎゅうは基本なのよ!」
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ビーチバレーは、見事に一般人チームと、撃退士チーム数組に分かれた。
尚、一般人のせんせーは審判である。
「や〜ん、コワーイ!」
と言いつつ、相手が撃退士の場合に限り、歌音、マジガチのスマッシュを決める。
「キャッ! 転んじゃった」
Gカップをアピールしながら悩ましいポーズで転倒。
見ているミチルのほうが、恥ずかしさに顔を覆っていた。
「はい、威鈴、トス!」
悠人が愛妻にボールを送る。威鈴は手加減をしながら、克己に向かってかるーくスマッシュ。
「うわあ」
それでも受けきれない克己。アウトドアは苦手だと、としおに語っていた。
そこへ、俊足を活かして走り込み、何とかビーチボールを拾うミチル。
「すごいですね、ミチルさんは足が速いんですね」
試合後、驚いたように克己がミチルに声をかけた。真っ赤になるミチル、「今よ! 腕ぎゅうよ!」と目で訴える歌音。(無理無理無理!!)と首を細かく振るミチル。
「やるからには優勝を目指しますよ、覚悟はいいですか!?」
つるぺたを強調するような黒い三角ビキニで、ゆかりがグラサージュに勝利宣言をした。彼女のペアはとしおである。
「ゆかりちゃん相手なら、本気モードで相手するからねっ! ビーチバレーは自然を操ったもん勝ちよ♪」
グラサージュの、体型カバー機能付きバンドゥビキニの、薄水色の水玉模様が、太陽光に照り返す。
(ゆかりクンには勝った気ぃすんのやけど、この学園て、ムネのおっきい娘が多すぎやなぁ‥‥)
グラサージュのペアである未来は、Dカップを自慢にしていただけに、歌音のGカップにどうしても目が行ってしまうのであった。
\ 大きさよりカタチで勝負♪ /
未来の脳裏に、魔法の呪文がよぎった。
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「お疲れ様! ちょっとミチルさん、いいですか?」
ビーチバレーでしっかり遊んだあとは、海の家のテラスを借りて、BBQである。
先に準備をしていたひりょが、そっとミチルを呼び出す。
「竜田さんに、プレゼントしてあげてください。きっと喜んでくれますよ」
綺麗にラッピングされた辞書を、そっと差し出すひりょ。
「有難う‥‥」
「前の騒ぎの時に、俺、ミチルさんに悩みがあれば、その解決のために力を貸すというような事、言いましたよね。あれ、その場限りのつもり、ないですから」
ミチルは深くうなだれた。
「悩んでいること、いっぱいだよ‥‥色々‥‥」
「‥‥聞いてもいいですか?」
BBQの準備が整うまで、ひりょはミチルの話を真剣に聞いた。
ミチルの両親が学園関係者だったため、島外の高校に通いながらも、未成年のミチルはこの島に住むことが出来たこと。
パパは、学園の購買部に関わる搬入業者で、克己の働く書店のそばに会社があること。
出来れば、パパの会社か、どこか(希望は克己の書店)に正規雇用してもらい、島内居住資格を取りたいと思っていること。
でも、もう19歳なので、残された時間があんまりないこと。
「パパはあたしを、自分の会社にバイト雇用してもらって、そっから正社員目指せって言うけど‥‥正直、パパの束縛がうざくって、家とか会社で顔を合わせたくない。でも、死んだママみたいに、学園の非常勤講師なんてあたしには無理。高卒だしアタマ良くないし、教員免許だってとれっこない。あたしは‥‥竜田さんのお店で一緒に働けたらいいな、とか、思っちゃってる。求人はあったのに、自分でそのチャンスを逃しといて、ほんとにバカだ‥‥あたし‥‥」
うわー、と、遠くから声が上がる。
突然のスコールが、大粒の雨が、ひりょとミチルを濡らし、ミチルの頬に伝ったものを隠した。
ビーチパラソルをばしばしと叩く音がやがて弱まり、太陽が再び浜を照らしだす。
「聞いてくれてありがと、少しすっきりした。今のバイトも気に入らないわけじゃないし、あそこで正規雇用を狙っても構わないんだし。頑張ってみる。ありがとね」
濡れた顔を拭って、ミチルはひりょに笑顔をみせた。
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「よーし、焼けたよー! さあ、どんどん食べて!」
悠人が焼いたバーベキューがいい匂いをさせている。海鮮焼き、焼きそばも完璧な仕上がりだ。
威鈴が、夫の焼いた肉や野菜などを紙皿に盛り、割り箸と共に皆に配っている。
「せんせ〜‥‥せんせーはナンパなんてする人じゃないと信じてました!(えぐえぐ」
歌音が涙にむせびながら、せんせーに「はい、あーん」を敢行する。
「あら、有難うですー、いただきまーす♪」
照れもせずに、ぱくぱくいただくマリカせんせー。
キロ単位で用意した肉が、せんせーの胃袋へ消えていくさまは、圧巻だった。
「ミチルさ〜ん、はい、ちーず♪」
パシャリとゆかりのデジカメが光る。
「こうして見ても、本当にせんせーにそっくりね」
グラサージュがもぐもぐしながら、感心したような視線を投げる。
(はい、あーん! はい、あーん!!)
歌音が言葉に出さずに、身振り手振りでミチルにサインをだす。
(無理! 無理無理無理!!)
真っ赤になってもじもじするミチル。
「そうそう、21歳のお誕生日でしたよね。おめでとうございます!」
としおがパチパチと手を叩き、克己の紙皿に、デスソースをたらーりとサービスした。
「ちょ、これってすっごく辛いやつじゃないんですか?」
「美味しいですよ?」
ちらっちらっ、と、としおはミチルに視線を投げる。
ミチルのそばにはクーラーボックス。ケーキが入ったものだけではなく、冷たい缶ジュースも用意されている。
「か、か、からいですよー!!」
悶絶する克己。としおの視線に気づき、冷たいジュースを克己に届けるミチル。
ジュースを渡すときに、指と指が触れて、慌ててミチルは手を引っ込める。
「初々しいですねえ。絡んじゃいますよ〜?」
日本酒の香りを漂わせ、ゆかりがミチルに擦り寄った。「か、からかうなよっ」とミチルは真っ赤になった。
「せやったな。克己クン、21歳のお誕生日、おめでとうや! 盛大に祝ったるで!」
未来がギターを弾き始める。
♪ハッピバースデー、トゥユー♪
皆の声が徐々に集まり、合唱になる。
ミチルは威鈴の合図を受けて、手作りのケーキを幾つか取り出し、克己の前に並べた。
「随分、ケーキが多いですね‥‥?」
「あ、こっちのはせんせー専用ですから」
克己は目を剥いた。あれだけ食べて、まだこのせんせーは、余裕があるというのか。
「いただきま〜す♪」
目の前でせんせーが、ぺろりとケーキを平らげる。
(撃退士ってすごい!)
克己は誤解した。
せんせーは、一般人です。
「デザートはこれ! スイカクラッシュ〜! 普通のスイカ割り? そんなの古い古ーい!」
大玉のスイカを強制的に皆に配り、グラサージュがしきった。
「これを玉入れの要領で空へ投げあげて! 空中待機のゆかりちゃんが全部割る! これが、スイカクラッシュだぁー!」
そして、にっこりとせんせーに微笑む。
「割れたスイカの後始末、よろしくお願いしま〜す♪」
「ちょ、グラさん待って!? <発勁>使うから、出来るだけ直線上に並ぶように投げて欲しいんですけど!?」
ゆかりが慌てる。自分はラストに技をキメて終わる予定だったのだ。
「ん〜、努力しま〜す!」
グラサージュは皆を一列に並ばせると、「せーの」でスイカを一斉に投げ上げた。
「もう、グラさん無茶ぶりがひどいですよー!」
空へ飛び上がり、<発勁>でスイカを叩き割るゆかり。幾つかのスイカは垂直落下の衝撃で砕けた。
砂を洗い落として、砕けたスイカをもぐもぐするせんせー。
克己の顔が蒼白に見えるのは気のせいか。
悠人のヒリュウが「きゅい?」と克己の顔を覗き込んだ。
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プレゼントを渡し、片付けをしているうちに日が暮れ、締めに、しっとりと花火を楽しむこととなった。
「うちの伴奏に合わせて、順番に、即興で歌を歌ってもらおうと思うねん。歌詞の内容は何でもええで? 今日の思い出でも、自分の夢でも、今思っている事でも。克己クンは詩を作るのが夢なんやろ! ならここでバーンとやってまおう!」
調律を済ませ、ギターを構えて未来が促した。
♪海、さいこー!
としおが先陣を切る。
♪楽しかったなあ
ひりょは敢えて素直に言った。
♪せんせーはあたしの!
歌音は主張する。
♪花火‥‥きれい‥‥
威鈴が珍しげに手持ち花火を見つめている。
♪素敵なお祝いだったね
悠人は愛妻の写真を含め、記念撮影に専念していた。
♪次はスイカに勝ちます!
ゆかりは打ち上げ花火に追いかけられながら、空を飛び回っていた。
♪素敵な貝殻、拾ったよ
大事な人へのお土産をそっと持って、グラサージュは目を閉じた。
♪良い思い出やな。さ、お2人さんの番やで!
未来が、ミチルと克己に振る。
♪‥‥梅ならぬ、デスソースには、渇きを止め得ず
克己にとって一番の思い出は、その味だったらしい‥‥。
最後にミチルが、もじもじと何かを言った。
「何やて?」
未来が聞き返す。
♪と、友達に、‥‥なって、ください
グラサージュとゆかりが空へ舞い上がり、手持ち花火でハートを描いた。
花火の灯りでミチルの顔色はわからない。
きっと、真っ赤になって俯いているのだろう。
「「勿論!」」
皆が、ミチルに手を伸ばした。少し遅れて、克己も微笑んで頷く。
ミチルの瞳が、じんわりと潤んだ。