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マスター:神子月弓
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/04/07


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。
 オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。





 世界は、滅んだ。
 ニンゲンは、消滅した。

 今、この世界に居るのは、ワタシタチだけ。
 ゼンマイ仕掛けのニンギョウ兵士である、ワタシタチだけ。

 ニンギョウ兵士に戦闘を任せて、ニンゲンは消えた。
 世界は滅んだけれど、ワタシタチの戦いは終わらない。
 敵のニンギョウ兵士が、常にワタシタチを狙っている。

 敵と遭遇すると、ワタシタチの回路には、「戦え」という指令が浮かぶ。





 世界が終わった日、太陽が輝きを失った。
 暗い暗い、埃っぽい空に、うっすらと蒼い月だけが浮かんでいる。

 その、ほのかな明かりの中で、ワタシタチはお互いのネジをまく。

 ギシ、ギシ、ギシ、ギシ。

 ネジも埃で軋んで、悲鳴のような音を立てる。
 敵に見つからないうちに、どこかで潤滑オイルを入手しないと。
 




 オペレーターの役割を担うニンギョウが、回路をフル回転させる。

(そういえば、ワタシタチを製作した研究施設が、あったはず)
(そこへ行けば、オイルが入手できるかもしれない)

 詳細な地図が、機械の脳内に展開される。

  ルート1:近くの廃墟を通って施設へ向かう。最短コース。しかし、敵のニンギョウ兵士が潜伏している可能性大。

  ルート2:瓦礫の砂漠を超える。敵との遭遇確率は低下。メンテナンスをこまめに行わないと、砂や塵芥が球体関節から入り込んで、動けなくなる危険が高い。ゆえに時間がかかる。

 オペレーターは、ルート情報を検索する。





 埃っぽい風が吹く。
 荒れ果てた大地に設置した、お粗末なテントが揺れる。

 誰が勝者で、誰が敗者かわからぬまま、終わったはずの戦争は続く。


リプレイ本文

※このお話は夢の中の出来事です。ゆえに、設定などが架空のものになっている場合がございます。





 蒼い月が沈み、紅い月が昇る。
 かつては太陽と呼ばれ、地上を照らしていた紅い月。
 今では、大気を覆う濃密な灰によって、微かに天球に見えるだけ。

「周波数調整」
 軍服とアンティークドールのドレスを混ぜたような衣装のニンギョウ、リーダーのエヴァ・グライナー(ja0784)が号令をかける。
「私の声が聞こえる?」

 埃っぽい空気の中、ざらざらと通信に雑音が混じる。
 ニンギョウ兵士たちは、イエスの意味で、指を立てた。

 オペレーターのユウ(jb5639)が、壊れかけの体を起こして、作戦を提示する。
「ルート1、廃墟突入。最短距離で進めますが、敵情報が余りありません。待ち伏せの危険が高いと思われます。斥候もしくは先遣隊の派遣を提案します」

 がりがりとユウの内部から、ずれた歯車の摩擦音が微かに聞こえてくる。

「ルート2、砂漠越え。瓦礫・砂礫を超えてゆくため、施設到着時刻は、蒼い月が天頂に来る頃と判断します。但し、無事に到着するためには、全員のメディカルチェックを並行で行い、定期的なメンテナンスの実施も必要と思われます。遅くても紅い月が昇るまでに到着できれば順調と言えるでしょう」

「ではルート2を選択するわ。敵のホームエリアで、数もわからないのに、相手にする気はないもの」

 メンテナンスエンジニアの宇高 大智(ja4262)が、エヴァの指示で、ひとりひとりの球体関節に、砂よけの布を巻いていく。

「この隊は、隠密するには人数が多すぎる。少人数での偵察は必要じゃないですかね。誰が犠牲になるか決めておいたほうがいいんじゃないですか」
 気だるげに、そして皮肉げに、城里 千里(jb6410)が呟いた。

「そうね。斥候や先遣隊は必要だわ。砂漠も見張られていないとは限らない」
 エヴァはぐるりとニンギョウたちを見回し、その任を佐藤 としお(ja2489)に委ねた。

 としおは任務内容を復唱する。

「空気の様に隠密に行動し、敵に見つかる前にこちらが先に相手を見つける事、それから先は仲間に状況を伝え、戦況を有利にする事、それと仲間の援護だな」

「そうよ。お願いね」
「や、やめましょーよー、ひとりで斥候なんて危険ですよー」

 レンタス(jb5173)の言葉に、としおは背中を向けたまま、手を振った。
 どこか、仲間を拒絶しているようなその背中に、レンタスは言うべき言葉を失う。

 ゴツゴツと痛い砂混じりの風が吹く。
 ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)の燕尾服の裾を大きくはためかせ、ジェガン・オットー(jb5140)のマントを引きちぎらんばかりに、埃っぽい風が吹く。

 砂が眼球をたたき、口の中にざりざりと侵入する。
 ニンギョウ兵士たちは、風をものともせず、互いのネジをまく。

 そして、砂漠方向へ、歩き出した。





 僕の胸には、パーツが足りない。
 どんなにメンテナンスを繰り返しても、風がすかすかと通り抜ける。

 <あの人>の気配がこの世界から消えたとき、僕の胸に隙間があいた。
 理解できない。理解したくない。

 <あの人>は、数多のニンギョウたちの中から、何故か僕を選んでくれた。
 遠くから撃つ事しか出来ない僕を、いつもそばで庇ってくれて、いつも僕の体を気遣ってくれて。
 <あの人>が傍にいるだけで、何故だろう、スペック以上の成果が出せた。
 そんなとき、いつも笑顔で僕の体をメンテナンスしてくれた。

 いつしか僕はその笑顔が見たくて戦っていた‥‥。

 信じられない。
 信じたくない。
 僕は<あの人>を守れなかった。

 守れなかったんだ‥‥。


 としおは、風の吹き抜ける胸を押さえ、<索敵>に集中していた。
 今のところ、敵の気配なし。


 ‥‥もし、僕が機能停止したら、この胸がすーすーする感覚は、なくなるのかな?
 <あの人>と同じ所へ、行けるのかな?





 大気が灰に覆われた今、地表の温度は下がり続けている。
 冷たい砂漠を歩き続けるニンギョウたち。
 目的の施設まで、半分を過ぎた頃だろうか。

 としおと回路をリンクさせていたユウが立ち止まった。

「佐藤さんの<索敵>レーダーに敵影あり。敵兵士2体、ともに3時方向、距離50m。戦闘体勢への移行、もしくは潜伏及び更なる迂回を、提案します」

「距離50mか‥‥そうね、ここは潜伏してやりすごし、迂回しましょう。今エネルギーを無駄に消費することはないわ」
 まだ施設までの道のりは長い。大事な宝物である香水瓶を握り締めて、エヴァは決断した。
 香らない香水瓶に、エヴァの顔が映り込む。


 私には、どうして、感情回路があるのかしら。
 仲間と共に大きめの瓦礫に身を隠し、風を避けながら、エヴァは自問する。
 分かりあって、分かち合うために、ほかのニンギョウたちに働きかけてもみた。
 しかし、誰にも、感情は芽生えなかった。

 戦いで仲間のニンギョウが倒れるたびに、胸の奥がぎゅっと軋んだ。
 表現すべき語彙をもたなかったけれど、でもそれは<痛み>に近かった。

 痛みなんて、私には無いのに。
 カラダに傷がついても、なんともないのに。


「ねえ、笑ってみせてよ」
 メンテナンスを終え、関節に布を巻き直してくれている大智に、わがままを言ってみる。
 ぼろいマントを頭からかぶった大智は、真っ直ぐな緑の瞳をエヴァに向けた。
「それは何だ?」
「‥‥笑い方を知らないのね」
 あなたもか、エヴァは内心で呟いて、地面に目を落とした。
 雑用を積極的にこなしつつ、レンタスが、意味がわからないという顔でエヴァを見る。

「リーダーには感情回路があるんですか」
 千里が心底、面倒そうに呟いた。
(ニンギョウになってまで、すべきことに縛られるなんてアホらしい)

 としおが斥候から戻り、皆と合流する。
 大智にメンテナンスされているとしおを見て、ユウが更なる提案をした。
 オペレーター能力で、近隣の地形から敵のとりうる行動を検証する。

「この先、施設までに、敵とぶつかる危険が高まります。斥候として、佐藤さんのほか、<索敵>レーダーをお持ちの城里さんを動員することを、提案します」
「そうね。ここからは慎重に進みたいわね」

「‥‥え、何?」
 俺の出る幕ないんじゃないのー? 面倒いな‥‥。
 千里は聞き返し、仕方がないなとため息をついた。





 ぎし、ぎし、砂を踏む音が、静寂をかき乱す。
 ぎり、ぎり、ゼンマイのゆっくり回る音が、薄暗い空に消えていく。

 研究施設が見えてきたところで、敵影が3体、<索敵>レーダーに引っかかった。
 場所は施設入口付近。2体は見張り、1体は指令中継機ではないかと、ユウが推測する。

『リーダー、オーダーを。ここを突破しなければ、潤滑オイルは手に入りません』
 執事のように恭しく、銀髪の青年――ジェラルドが膝をかがめた。
「わかったわ。敵を掃討し、施設に突入するわよ」
 少し考え、エヴァが決断した。
「そ、そんな‥‥危ないですよー‥‥」
 慎重派のレンタスが狼狽えるが、エヴァの瞳には強い光が点っていた。
「レンタス、あなたは何としても大智を守り抜きなさい。エンジニアの大智が破壊されたら、オイルが入手できても、私たちはおしまいなのだから」


『掃討戦を開始いたします。ordered acceptance‥‥operations start‥‥』

 ジェラルドの目が赤く光り、長い銀髪が風になびく。冷たい印象が増す。
 そのまま滑るように、敵の見張りニンギョウに接近し、ワイヤーでその首を落とす。続く動作でもう1体。
『ボクは、ニンゲンに最後に作られた最新鋭のニンギョウ兵士。旧式ごとき、相手になるわけがないでしょう?』
 優雅に舞い、圧倒的に高性能なその戦闘能力を見せつける。

「仲間を呼ばれたり、アラート鳴らされたりは厄介なんでね、黙ってもらうよ」
 千里は指令中継機と思しき個体を狙う。<専門知識>で急所を解析し、二丁銃で撃ち貫く。

 ぱすーん!
 どこかからビームが放たれた。ジェガンのカラダがよろめいた所へ第二射。
 ジェガンは勢いで激しく転がり、パーツを破損し、中綿をまき散らして、沈黙した。
 吹き飛ばされたパーツには、カチカチと回るゼンマイと歯車。

「ジェガンさん!」
 大智が助けに行こうとして、ユウに止められる。レンタスも大智を庇って立つ。
「いけません、あなたを守り抜かなければ、私たちも終わってしまいます!」


 としおがスナイパーライフルで、ジェガンを狙撃したものを狙う。
 それは――施設そのものに内蔵された、侵入者排除システム。

「これを壊したら、この建物の扉が自動的に閉まる‥‥だから、大智さんを連れて先に行け、リーダー!」

 としおの目には、戦闘の音に気づいた敵小隊が、廃墟方向から近づいて来るのが見えていた。
 その<索敵>レーダー情報は、回線をリンクさせているユウにも伝わる。

 ユウは、ぼろぼろのカラダを引きずって、ビームと銃弾の降り注ぐ中、エヴァと大智の背を押した。
 レンタスも急いで続く。

 4体が研究施設の入口をくぐろうかという時、つと、エヴァの大事にしていた宝物、香水瓶の蓋が落ちた。
 飛沫が、としおの顔にかかる。
 慌てて蓋を拾い直し、施設へ入り込んだエヴァが顔を上げると、侵入者排除システムがとしおによって撃ち抜かれ、今まさに非常扉が閉まっていくところだった。


 この建物の外で、非常扉のすぐ向こうで、千里が、ジェラルドが、としおが、戦っている。

「あった!」
 大智は、液状の潤滑オイルと、ゼリー状のグリースを探し当てていた。
「パーツも結構揃っている。これで当分の間、まともなメンテナンスが出来るな」

「でも、修理が必要なのは、外で戦っているみんなよ! 早く、誰かこの扉をあけて!」
 エヴァはそう言って、扉をがんがんと叩いた。
 非常扉はびくともしない。
「ねえ、いい案はないの、ユ――?」

 ――エヴァの声が滲んだ。

 オペレーターは、その場で沈黙していた。
 大智とエヴァを銃弾とビームから庇い、背中から大ダメージを受けていた。
 カラカラと、噛み合わない歯車が、虚しくユウの体内で音を立てている。

「ここまで壊れていたら、直すのは難しいな」
 ユウを点検し、基幹部分に故障を見つけ、大智は修理を諦めざるを得なかった。

『System down‥‥Can not be reboot‥‥』
 非常扉の向こうから、ジェラルドの声が聞こえ、どさりと崩れ落ちる音がした。

「ここは絶対、通さない!」
 としおのあがく声が聞こえた。

「食らいなよ、発煙筒も手榴弾も余ってるんでね」
 千里の声が聞こえた。
「前時代のオーパーツには、どうやら興味はなさそうだけど」


 戦場を共にした仲間と、非常扉一枚を隔てているだけなのに、こんなに胸がざわざわするのは何故?
 戦況を知りたい。状況が見えない。
 エヴァの胸の奥がきしきしして、痒い感じで、かきむしりたくなる。

「そうですねー、施設の中から、扉を開けられませんかー?」
 レンタスが、あちこちのレバーやボタンをいじっている。
 やがて、静かになった。動くものの気配はない。つまりその意味するところは、味方も‥‥。
 うなだれるエヴァの横で、レンタスは、漸く、非常扉を手動で開けることに成功した。





 ‥‥思い出したよ。エヴァさん――<あの人>の娘、僕の妹。
 僕を大事にしてくれた<あの人>には、娘がいた。
 でも、<あの人>の娘さん――エヴァさんは10歳で死んでしまった。
 <あの人>は、娘にそっくりの、感情回路を埋め込んだニンギョウを作って、僕の「妹」にしたんだ。

 だからかな、涙が頬を伝う感触がするよ。

 わかっている。これは香水。ニンギョウのエヴァさんの大事にしている、瓶の中の液体。
 それが僕の頬に飛んだだけのこと。

 あぁ‥‥やっと胸のパーツが埋まったよ。
 今度は同じニンゲンとして‥‥どこか、別の世界で、<あの人>やエヴァさんに、会えるかな‥‥会いたいな‥‥。


「どういうこと? どういうことなの? もしかして、私の<過去>を知っているの?」
 がくがくと、としおを揺さぶりながら、エヴァは声を荒らげた。
「まだ沈黙しないで! リーダーの言うことに従いなさい! 聞きたいことがあるんだから、いっぱいあるんだからっ!」

 エヴァは自身の中綿をえぐり出し、引きちぎり、としおの穴だらけのカラダに押し込んだ。
 なんとか息を吹き返して欲しい。
 大智の制止も振り切って、自身の中綿をちぎっては、としおに詰める。

 蓋がずれて、漏れた香水が、瓶の外側を泣いているように濡らす。
 嗅覚のないニンギョウたちには、香水の香りがわからない。
 ゆえに、誰も気づかない。


 ガタン、と音がした。
 機能停止したはずのジェラルドが、一定の時間を経て自動修復し、立ち上がれるまでに回復したのだ。最新式のニンギョウ兵士だけあって、その優秀さは飛び抜けている。
 ジェラルドは敵を探す。
 沈黙し、転がっている敵のニンギョウ兵士を見つけては、破壊する。
 破壊する。破壊する。破壊する。
 優雅に、しかし容赦なく、ジェラルドひとりの戦いは続く。

「やめて! もうやめて!!」

 エヴァの悲痛な叫び声に、ジェラルドは恭しく従い、振り上げた手をゆっくりと下ろし――





 ――目が、覚めた。

 ちゅんちゅん、スズメの声がする。爽やかな春風が、樹の枝をさやさやと揺らす。
 カーテンを開けると、いつもの景色。
 眩しい太陽と、爽やかな風と、あおあおとして鮮やかな緑の草木。

「おはよう」
「おはよー!」

 挨拶を交わして、いつものように学園へ向かう。

「あれ?」
 ふと足を止めて。
「何か永い夢を見ていたような――?」

 空を見上げる。
 直視できないほど輝いている太陽、とびきりの青い空に、微かな違和感を覚えながら。

「ま、いいか」

 そこには、いつもと何も変わらない日常が、待っていた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

撃退士・
エヴァ・グライナー(ja0784)

高等部1年1組 女 ダアト
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
駆け抜ける風・
宇高 大智(ja4262)

大学部6年42組 男 アストラルヴァンガード
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
撃退士・
ジェガン・オットー(jb5140)

大学部3年72組 男 ルインズブレイド
撃退士・
レンタス(jb5173)

大学部3年92組 男 ルインズブレイド
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
Survived・
城里 千里(jb6410)

大学部3年2組 男 インフィルトレイター