●ふんどし配布
大きめのレジャーシートに、どっさりと布を抱え下ろし、マリカせんせー(jz0034)は、ひとりひとりにサメよけふんどしを配った。
「さーさ、皆さんどうぞですー。色指定が無かった人のは、せんせーが勝手に考えて染めちゃったですー」
「‥‥蝶模様‥‥♪」
抑揚のないトーンで呟いたのは、常塚 咲月(
ja0156)。黒地に蝶がプリントされたビキニ+瞳と同じボトルグリーンの蝶柄ふんどし(前垂れ1.5m)。
「この前垂れを、体に巻きつけて‥‥」
高虎 寧(
ja0416)は、スカイブルーの色彩デザインのモノキニワンピース+青色ふんどし(前垂れ5m)。
「‥‥なんじゃ、この色は?」
白蛇(
jb0889)は、スク水+金ピカふんどし(前垂れ5m)。
「だってー、いちおう神様らしーですしー?」
邪気のない笑顔で微笑むせんせー。
「面白そうなのです!」
わくわくしているエリーゼ・エインフェリア(
jb3364)は、白ビキニ+白ふんどし(前垂れ3m)。
「前垂れは、自分の身長を足して5mとなる長さがいいですね」
黄昏ひりょ(
jb3452)は、スク水+薄い青色のふんどし(前垂れ3.35m)。
「み、見ないで‥‥」
(正直着けたくない、恥ずかしい、‥‥だが、せんせーの厚意を無下にも出来ない‥‥)
遠石 一千風(
jb3845)は、スク水+髪と同じ赤色のふんどし(前垂れ60cm)。
「聖褌帝の名を持つわしじゃ、ふんどしの締め方が分からなければ、教えてしんぜようぞ」
千 庵(
jb3993)は、白地に雨の模様の越中ふんどし(前垂れ折込み)+祭を思わせるデザインのふんどし(前垂れ1m)。
ふんどしonふんどしである。なにそれ新しい。
「まずは準備体操だぴょん☆ 皆もやるのだぽん!」
歌音 テンペスト(
jb5186)は、スク水+紅白幕デザインのめでたいふんどし(前垂れ5m)姿で、提案した。
全員、準備運動を念入りに行う。
‥‥せんせー、忘れてたんでしょ。
「コホン、で、では、沖合いに出るそうですー。こちらのボートに乗ってくださいですー」
せんせーは皆を、漁師さんの用意してくれたボートまで誘導すると、笑顔で手を振って見送った。
早速、長い前垂れに蹴躓いて転んだ数名がいたことは、見なかったふりをした。
●かっぷる大作戦!
白い砂浜が遠のくと、見渡す限りのエメラルド・ブルー。
海水の透明度も高く、とっても綺麗である。
「海です! 青い海です! ディアボロ退治依頼ですが、正真正銘、夏の海ですー!」
エリーゼはボートにかかる水飛沫を敢えて受けながら、はしゃいでいた。
ボートの先頭に立ち、手を広げて、船乗りには縁起でもない、何かの映画の真似をする。
やがてボートは、漁船が魔魚に襲われたという位置へ到着した。
思わず海面を覗き込む一行。
極大〜極小まで、多くの魚影が、透明な海水越しに見えている。
「さて、かっぷるを作るぴょん! 魔魚とサメのカップルに勝てるのは、カップルだけぽん!」
歌音が声を張り上げ、その場で相談して、ペア行動をとる相手が決まった。
「今回もよろしくね、歌音さん」
「あ、あたしチョット気づいたのだけど、白蛇さんは『様』呼びなのに、あたしは『さん』付けって、どうゆうことぽ〜ん!」
知り合いとして、気軽に声をかけたひりょに、歌音は膨れてみせた。
「あはは、ごめんごめん。じゃあ、歌音様、リラックスして行こうね。これでいいかな?」
ひりょは苦笑して呼び方を変える。歌音は満足げに微笑んだ。
「流石、『違いの分かる男ひりょぽん』、物わかりが良いぴょん♪」
「『違いの〜‥‥ぽん』?」
呆然とするひりょに、こくこく頷く歌音。
「帰ったら、黄金ブレンドを振舞うでぽん!」
●それぞれの戦い
「早く戦闘を終わらせて、海の幸‥‥食べたい‥‥」
抑揚のないトーンで、咲月が呟いた。こくり、と庵が頷く。
「サメすらも避けていくとは、ふんどしの力は偉大じゃな。さて、行くかのぅ? 今回はよろしく頼むのぅ」
柳一文字を抜き放ち、水に飛び込む。
「師より賜りしふんどしの前に、サメ共よ去れ!」
そんな言葉を放って庵は海中へと姿を消した。
庵は、どかして逃がしたサメに【気迫】を放ち、あうるぱわぁで威圧した。怯んだのか、サメは、動きを止める。
――ちゃんすじゃ!
庵と咲月の2人で、息を合わせて、魔魚に襲いかかる。
咲月のオートマチックから、あうるぱわあが飛び出し、魔魚を抉る。
と思うと、庵の柳一文字が鋭い一撃を繰り出して、魔魚を切り伏せる。
魔魚は、必死に反撃を試みていた。
しかし、身を隠せるサメがいないため、お得意のヒット&アウェイ戦法が使えない。
傷が再生する前にと、連携して攻撃を叩き込んでいると、魔魚の心臓部があらわになった。
咲月は止めとばかりに【スターショット】を放つ。
まずは1体撃破のお知らせである。
「ふうむ、鮫か‥‥鱶鰭料理を食いたいものじゃなあ。‥‥い、一匹ぐらい、良いじゃろう? 誤射するやも知れぬし」
「だ、駄目ですよ、白蛇様!」
白蛇の呟き(=本音)に、慌ててパートナーのひりょが止めた。
「そうか、駄目、か‥‥残念じゃが、仕方あるまい」
金色の邪眼を食べ物マークに変化させたまま、白蛇は無念の呻きを発した。
「じゃが、せめて戦闘後には、新鮮な魚を獲り、海の幸を味わう事としようぞ。その為にも‥‥行けい、司よ!」
堅鱗壁(ストレイシオン)を召喚し、その背に【クライム】する白蛇・ウィズ・シュノーケル。
長い5mの前垂れをたな引かせて、海中を気持ちよく泳ぎ回る。
ひりょも海に飛び込んだ。フィンを使って、KIAI☆でサメを追い立て始める。
ふんどしが‥‥体に絡みついて、結構、邪魔である。しかも、相当速く泳ぎ続けなければ、後ろには棚引かない。
ストレイシオンを召喚し待機中の歌音の歌声が、水音に遮られ、微かに聞こえる。
「♪でーでん、でーでん、でーで、でーで、でーでででででででで‥‥♪」
‥‥これって、凶悪人喰いザメ映画のテーマですよね? ねっ?
寧は、一千風と組んで、手合図を一緒に考えていた。
「本当は、この手合図、全員に認識させられれば良いのだけど」
寧は海に潜り、ふんどしをまとめた状態でサメへ近づき、(こっちへおいで)と誘導する。
少し時間が経過して、一千風に手合図を送る。
(どう? 魔魚とサメ、引き離せてる?)
(難しい‥‥)
一千風は淡々と、状況を説明した。
いよいよ、ふんどしぱわーに頼るしかなさそうだ。
寧は水面に接近し、【水上歩行】で水面を歩きながら、水面下に、畳んでいたふんどしの前垂れ部分を垂らした。
「こういうのは、水遁忍軍の出番よね」
サメを追い立てるように、すいっと走り出す。
逃げるサメを追って、少し遅れて動き出した魚――魔魚を狙い、一千風が機械剣S−01を取り出した。
アウル色に淡く発光している。
「行ってくる」
船の上の仲間たちに笑顔を向ける一千風。
武器を持ち、海中に身を投げ、同時に、魔魚の心臓狙いで、鋭い突きを繰り出した。
すごい速度で立ち向かってくる魔魚。くわっと開いた口の中に、鋭い牙が並ぶ。
「そこだっ!」
光纏で、文様が浮かびあがった腕を伸ばして、攻撃!
(ぐあああああ!)
1匹撃破!
一千風の【命中上昇】が効いたようだ。
サメはまだ、寧のふんどしに追いかけられて、逃げ惑っていた。
サメよけふんどしの前垂れを小さく畳んでまとめ、エリーゼはサメのいる海に飛び込んだ。
ばっちゃばっちゃと大きく飛沫を立てて、水遊びを始める。
「ひゃっほー、歌音さーん♪」
「エリーゼちゃーん♪ きゃっきゃっ♪」
しかし、歌音の手には、何に使うのか、単一電池を密封ポリ袋に入れたものが10袋。
エリーゼの足もとを、すごーく大きな魚影が通り過ぎた。その全長、5mほど。
「サメだわ!」
素早く歌音が反応した。
密閉ポリ袋から、単一電池を取り出し、ぼちゃんと海水に漬ける。
何が起こったのか分からなかった。
少なくとも、即時【物質透過】を行ったエリーゼのそばを、泳いでいたサメは、逃げていった。
「あららぁ? 何をしたんですか?」
興味津々にエリーゼが尋ねる。
「サメは、生物の出す、ごく微弱な電気を検出する器官の感度が、猛烈に高いっぴょ!
そして、乾電池は海に漬けると、一瞬で放電してカラになってしまうのよ。
これを組み合わせると‥‥サメは混乱して逃げていくらしいぴょん!
ぬはっ、あたしらしからぬ知的行動!」
作戦が成功したので、歌音は大喜びだった。
サメに取り残された魔魚を、2人で挟み撃ち。エリーゼの【束縛の光鎖「グレイプニル」】が束縛し、歌音のストレイシオンの【ブレス】が、魔魚の心臓部めがけて目いっぱい浴びせられた。
1体、撃破。
「やったぁ!」
2人は手をとって喜びあった。
「やるなあ、歌音様たち」
ひりょがその様子を見て、きりりと顔を引き締めた。
「サメを逃すように、ふんどしで何とか追い払っているけれど、なかなか手ごわいんだよなあ‥‥すぐに戻ってきちゃうし、少々泳ぎづらいですし‥‥」
残る1体は、白蛇とひりょの担当である。
白蛇が堅鱗壁の【ピンポイントブレイク】で、魔魚の心臓を狙っていた。
ひりょが、魔魚を追い回して、白蛇が狙いやすいポジションへ誘導する。
「良し。退くのじゃよ、黄昏殿、退くが良いぞ!」
白蛇の言葉に、慌てて向きを変えて泳ぎ出すひりょ。
しかしひりょのふんどしは、端を魔魚にしっかりと噛み付かれ、今にも食いちぎられそうであり――
急所狙いの技である【ピンポイントブレイク】が発動し、魔魚の心臓を貫いた。
魔魚:撃退数、4匹。
サメ:全て無傷。
「やったぁぁぁ!! 割と楽勝だったね!」
全員で喜んでいると。
遠洋から、サメの魚影がぞろぞろと、こちらめがけて泳いでくるのが見えた。
(あ! 電池の放電を嗅ぎつけて、遠くからサメが集まってくる場合も、あるんだっけ‥‥)
歌音の背筋に、ぞぞっと何かが走った。
「て、徹たーいっ!」
慌てて皆、ボートに乗り込む。
焦りながら、歌音は、責任を取るべく、ストレイシオンに【超音波】を用意させていた。
(一般生物である以上、サメもこれで動けなくなるはず、だよねっ?!)
【超音波】により、サメの集団は、ぷかあと(一時的に)海面に浮いた。
●お疲れ様!
「まさか、ふんどし以外に、電池まで使うとは‥‥やるなぁ歌音様」
ひりょが歌音を労い、歌音は「いっやぁ〜それほどでもー」と、テレテレして頭を掻いた。
さて。
魔魚を掃討し、サメも大人しく遠洋へ戻っていったところで、皆で、釣りや銛うち、スキルを使った漁を楽しむ。
「あんまり、取りすぎないでくださいね? 今、食べる分だけ、とってくださいね??」
ボートの持ち主、兼、運転手である漁師に、予めきつくきつく注意を受けた。
「はーい!」
皆は、いい返事と笑顔を返した。
船上には、一千風が戦闘用にと用意した氷水や熱湯も準備されている。
食べようと思えば、今ここでも食べられる状況だ。
「海の幸をしっかり捕獲して、皆で食べちゃいましょうね!」
戦闘の緊張感も消え、ひりょは笑顔で銛を掴んだ。
「海の幸で‥‥バーベキュー‥‥」
咲月は、ボートに残り、漁師におずおずと交渉をしていた。
「――海老とか‥‥タコとか‥‥貝とか‥‥食べたい‥‥――貰える‥‥?」
「いいですよ、浜に戻ってからになりますけれど」
「ええい、鱶鰭の美味しいサメは、おらんのか!」
珍しいサメなら、先刻、ぷかあと浮いていたのに。
白蛇は内心、地団駄を踏んだ。
「一度試してみたかったのですが、【光の翼】で飛行して、海面へ魔法攻撃を撃ち込んだら、衝撃で魚とか浮いて来ないでしょうか?」
エリーゼの笑顔に、漁師が慌てる。
「や、やめてください! 衝撃で魚をって‥‥それでは取りすぎてしまいますよ〜!
私ら漁師たちの生命線を、脅かさないでください!」
そんなこんなで、漁師をあたふたさせつつ、ボートはのんびりと島に戻ってきた。
一千風は「海と風が気持ちいい‥‥」と、あんなに恥ずかしがっていた「サメよけふんどし」を外し忘れたまま、開放感に浸っていた。
もう、外してもいいんですよ?
「お疲れ様なのですー♪ 皆さん無事ですー?」
浜では、フリフリ水着のマリカせんせーが、もしゃもしゃしながら、待っていた。
アナタ、何一人で白身のお刺身食べてるの‥‥。
海岸で、それぞれの役割分担を決め、皆で、BBQの用意をする。
「フナムシやアメフラシなど、美味しい海の幸を、皆で一緒にいただくの!」
「‥‥それ、海の幸ちげえええー!!」
歌音が用意した『海の幸』は、皆によって、海に返された。
「かわりばんこに、皆で『はい、あーん』をしようと思っていたのに‥‥愛しのマリカせんせーとかとかとか」
しゅんと肩を落とし、歌音はせつない瞳で、捨てられてゆくフナムシ、アメフラシを見つめていた。
それは沖でとれるものなのか、と、突っ込んだら負けです。
まず、漁師とその奥さんたちに、収穫した海の幸を見ていただいて、毒がないかどうかを確認したり、捌くのをお願いしたりして、つつがなく下ごしらえが終わった。
和気藹々と、海の幸BBQが始まる。
「美味しい!‥‥」
咲月がボトルグリーンの目をパチパチさせた。
「‥‥貝の、旨みが、ジューシーにあふれて、‥‥こんなに美味しいの、初めて‥‥」
寧の入手した貝は、小粒だったので、煮込まれてお汁となっていた。
「美味しいわ! 汗をかいた身だし、この塩分がたまらないわね」
白蛇と、エリーゼのとった魚は、それぞれ、塩をふって串刺しにして、直火で焼かれていた。
美味しそうな匂いが漂う。
「こうして、皆で海の幸を堪能するのも、いいですね」
戻ってきた平和を噛み締めるように、ひりょが微笑んだ。
「さて、焼きダコ、頂きます!」
「‥‥うう‥‥フナムシ、アメフラシ‥‥」
歌音はまだ、捨てられた衝撃を隠せないようだった。咲月が、アツアツの貝の網焼きを差し出す。
「美味しい‥‥の、食べて‥‥みて‥‥」
「えっ、んっ、(もぐもぐはふはふ)‥‥うーまーいーどー!!」
火傷しそうな口からごばぁと熱風を放ち、歌音はひっくり返った。
「‥‥今回の件で、いかにふんどしが功を奏したかというお話じゃがのぅ」
もっともらしく、庵が口を開いた。
BBQの横で、庵せんせいのふんどし愛話が始まる。
「わしの水、いやふんどしは、白地に雨模様の越中ふんどしで、前垂れは折り込んである。わし的にもお気に入りで、よく着用しとるのじゃ。涼しくてよいぞい。『聖褌帝』の称号を得たわしが、選び抜いたふんどしの一つで、好んで使用しているのじゃ。サメよけふんどしは、祭を感じさせるデザインで、観るだけで盛り上がれる、気がするのじゃ。これもわしは気に入っ‥‥ええい、聞けぃ!」
延々と庵がふんどし愛を語る最中、BBQは楽しく続けられていた。