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マスター:神子月弓
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/06/06


みんなの思い出



オープニング

●広告チラシ


 アリス・シキ(jz0058)のバイト先である依頼斡旋所の、入口のポストに、チラシが挟み込まれていた。アリスは「何かしら?」と、チラシを開いた。


  『アルバイト募集中!』

  6月のウェディングシーズン到来に合わせ、当ホテルでもウェディングイベントを
  開催する予定です。つきましては、事前アルバイトを募集いたします。

  アルバイト内容)衣装デザイン、試着、広告用の写真撮影

  募集人数)要相談・男女問わず

     ホテル・プレシャスパレス 担当 澤木


●ネットでチェック!


 広告の内容に興味を持ち、アリスはネットでホテル・プレシャスパレスについて調べてみた。
 どうやら、毎年行われているイベントのようだ。
 チラシはイベントの事前準備のアルバイト募集広告のようで、少なくとも依頼元がしっかりしていることは確認できた。

 アルバイト内容は、まず、「こんな衣装が着たい!」という要請を出すこと。
 ホテル側は、準備したドレス等を改良したり、或いは最初から作り直したりして、対応してくれるそうだ。(但し、その場での仮縫いになるため、しつけ糸がチラリと見えたり、諸々あるのはご容赦を)
 尚、募集は女性だけかと思いきや、「燕尾服やフロックコートのデザインもあり」と、男性バイトも歓迎する様子である。

 そして、OKが出た衣装を、試着し、広告用に写真撮影するようだ。
 女性だけで撮ったり、男性だけで撮ったり、カップルで撮ったり、たくさん撮影するそうである。撮影スペースはイベントホールの一角に用意され、カメラマン、メイク担当、撮影アドヴァイザー等が控えているらしい。

 余談ではあるが、「ウェディングドレスを着ると婚期が遅れる」という迷信を払拭すべく、ホテル全体をお祓い済みだそうである。


●興味がございますわ!


 アリスは、昨年のイベント(本番)の様子を、ネットで見ながら考え込んでいた。
「‥‥行ってみたい、ですわ〜」

 自身の着用する黒ゴス服だけでなく、普段着まで全て、手作りするアリスである。
 プロのお針子さんが、どんなお仕事をするのか、強く興味を持った。

「偶には、こんなご依頼を斡旋致しましても、構いませんわよね?」
 早速、依頼ネットにチラシの内容を流し、アリスはもう一度、昨年のイベントページを凝視した。


リプレイ本文

●サプライズ色々


 ホテル・プレシャスパレスでのアルバイトがスタートした。
 イベントオーナーである澤木氏は、数人の手を借りて、男女わかれた更衣室に衣装を運びこませていた。水簾(jb3042)が、ホテル従業員たちに混じり、いそいそと機材運びなどを手伝っている。


 そんな中。


 雪成 藤花(ja0292)が、会場の隅で、おずおずと澤木に話しかけた。
「あの‥‥わ、わたしは15歳で、まだウェディングドレスが着られないのです。ですが、その、‥‥せめて、気分を味わいたいので、ヴェールだけでも、お貸し頂けませんか?」
 人目のないところで、そっと打ち明ける。
「本当は、その、‥‥この秋‥‥わたしの16歳のお誕生日に、入籍予定ですので‥‥婚礼衣装、とても着たかったのですけれど‥‥トレーンベアラーで、今回は、我慢しようと‥‥」

 もごもご口ごもる藤花に、明るい口調で澤木が答えた。

「おやおや、そういうご事情がおありなんですね。でしたら構いませんよ、折角ですし、当ホテルでの挙式をご検討頂けるのであれば、ウェディングドレスをお召し頂いても」
「えっ!」
 傍らに立つ婚約者、星杜 焔(ja5378)と顔を見合わせる。焔は優しく藤花の頭を撫でた。
「よかったね〜。‥‥あの、澤木さん、じゃあ、撮影も一緒にできますか〜?」
「ほうほう、ご入籍のご予定は‥‥なるほど、11月ですか。では、さほどの問題はございませんでしょうし、どうぞどうぞ」
 澤木の取り計らいで、藤花は婚約者と共に、ウェディングドレスを選び直す作業に取り掛かった。


 場所は変わり、受付にて。


 鈴代 征治(ja1305)は、自分の衣装だけでなく、恋人であるアリス・シキ(jz0058)のドレスまで、注文を出していた。
(きっと、自分の結婚式のウェディングドレスも、自分で作っちゃうんだろうし‥‥こういう機会に、彼女さんの夢は叶えてあげたいからね)

 ちなみに、アリスはそのことを知らなかった。プロのお針子の腕を見るためにバイトに同行した、ただそれだけのつもりだったのである。
 なので、自分用に白いウェディングドレスが用意されていたことに、驚愕していた。
「えっ、えっ、何でですの? はうっ?」
 戸惑っているアリスを見つけ、紅鬼 姫乃(jb3683)が、がばちょと飛びつく。

「くぅ〜! やっと会えたぁ−! シーちゃんも一緒に出よーよー、ドレスもあるみたいだし?」
「は、は、はわわあああ!?」 

 ただでさえ、慣れない人との接触を怖がるアリスであるが、こう不意をつかれては、躱すことも出来ない。「えへへ〜♪」とはしゃぐ姫乃にそのまま押し倒され、頬をスリスリされ、更にほっぺちゅーまで頂いてしまった。
 女の子同士ならまあいいかな、と、遠くから見ていた征治だが、涙目のアリスに気づき、流石に止めに入ることにした。
「まあまあ、そのくらいで‥‥」
 彼氏さんらしく、紳士的に、半泣きのアリスを助け起こそうとする。と、姫乃は艶やかで悪戯っぽい視線を征治に投げた。
「くぅ〜、じゃ、じゃあ、せーくんでもいいのよ?」

 姫乃、着替える前から大暴走である。
 ‥‥誰か、とめてあげて。


●バトル勃発


 模造刀2本を持った神凪 宗(ja0435)と、同じく模造刀を持った雀原 麦子(ja1553)は、互いに向き合って礼をしていた。

「こういう格好で戦う事など無いだろうが、面白い撮影会になりそうだ」
「そうね。悪いけれど、本気でお相手してあげるわ♪」
「うむ。雀原殿も気合十分のようだし、素晴らしい殺陣を演じようか」

 動きやすく改良したグレーのフロックコート姿の宗。
 ライトブラウンを基調としつつも縁は黒く、肩紐無しのマキシ丈カラードレス姿の、麦子。
 会場の空いている場所へ移動すると、いきなり軽い打ち合いを始める。

「あ、あの、挙式中に、或いは二次会で、その、荒事をなさるお客様はいらっしゃらないと思うのですが‥‥」

 ホテル従業員がとんできて、慌てて口を挟むと、宗と麦子は動きを休めずに、言い返した。

「天魔はいつ襲って来るかわからない」
「そうよー、あと、花嫁のお父さんが『娘が欲しくば俺を倒せ』とか、立ち塞がるかも知れないでしょ? それに、ありきたりの格好じゃあ、つまらないわ♪」
「‥‥動きやすい礼装なら、撃退士の需要も見込める」
「動きやすさは大事よね! このドレス、可愛いんだけど‥‥ちょっと動きづらいかな?」

 するり、と、麦子はドレスのリボンを解いた。はらりとスカートの下の部分が落ち、ショートドレスに早変わり。いきなり麦子のスラリとした脚が目にとまり、男性の悲しい性質か、一瞬だけ目を奪われる宗。
「これで蹴りやすくなったわね♪」
 ひゅんと麦子の蹴りが舞う。それを危うく躱して、ならばと宗は攻撃のスピードをあげる。自身の煩悩を断ち切るかのように、隙のない連撃を放ち、麦子を追い詰めていく。
 勝負を制したかと思いきや。
「慢心にご注意あれ♪」
 麦子から、思いがけない返り討ちにあう宗。降参のポーズをして、模造刀をしまう。
「やはり綺麗どころが相手だと、本気にはなれないな」
 宗はそう呟いて、苦笑した。

 同時刻。
 
 近くで、似たような光景が今にも繰り広げられようとしていた。
 式に参列する兄妹のイメージで服を頼んだ2人組である。

「ちょっと、今足踏んだでしょ、アスハお兄ちゃん?」
「いや‥‥踏んではいない‥‥はずだ、が?」

 深い群青色のスーツに白いドレスシャツ、赤いネクタイに小さめのコサージュを着用した、アスハ・ロットハール(ja8432)が、完全に、宗と麦子の殺陣に見入っていた。
 その袖をぐいぐいと引っ張る小さい手。やや明るめの青のパーティドレスに白のボレロ、真珠のネックレスとブレスレットで着飾った、珠真 緑(ja2428)が、更に問い詰める。

「嘘! 踏んだわ! 絶対よ!」
「そ、そうか、スマン‥‥視界に入って無かった」
 そう答えるアスハは、依然として宗と麦子の試合を見つめ続けている。
 ぴきっ。緑の頭の中で、何かが切れる音がした。
「あはは‥‥アスハお兄ちゃん、酷いなぁ‥‥」
 そう言って、にっこりと微笑み、全力で足を踏み返す緑。
「ぐあっ!?」
(暗にチビって言いたいんでしょ、チビって! それは事実だし、別にイイけど、イイけど、うー、でもやっぱ気に障るのよっ! このこのこのッ!)
 踏んだ足にぐりぐりと力をこめていく緑。
「むぅっ‥‥」
 流石のアスハもカチンときたらしく、妹役の足を、容赦なく踏み返した。

「痛ぁっ! やったわねっ!」
「ぬうっ!」
「このぉっ!」
「‥‥っ!」

 兄妹喧嘩は凄い勢いでヒートアップし、2人が光纏して魔具を取り出すまでに到った。
 もはや、ホテル従業員では、止められない。

「どうどうどう。お2人とも、落ち着いてくださいね?」
「そうですよ? 学園に依頼がきたってことは、撃退士らしい写真もあったほうがいいのかな、とは思いますし、俺も、普通に写真を撮った後、光纏や星の輝きの光を使って、普通では取れない写真を撮ってみようかと思っていましたが、能力を使った喧嘩はいけませんよ、喧嘩は」

 黒モーニングスーツ姿の龍崎海(ja0565)が、アスハを。
 薄緑色の、ウエストに花飾りをたっぷりとあしらった、チュールレイヤード・フォーマルワンピース(ボレロつき)でめかしこんだRehni Nam(ja5283)が、緑を、取り押さえる。

 何とか兄妹喧嘩が収まったところで、海は会場を見回した。

「どこかに、新郎募集中の人はいないでしょうかね? ウェディングイベントなのだし、どうせなら、新婦役の人と写りたいなぁ」
「み、見つかるといいですね」
 レフニーは恋人を思い浮かべ、さりげなくそう応えると、撮影スペースへと逃げていった。
 
「私のような姿の者でもよければ、構わぬがのぅ?」
 そこに現れた妖艶なスタイルの花嫁――狐獣人型悪魔の狐珀(jb3243)が、海に話しかけた。
 ふっさふさの尾がドレスのしっぽ穴から出されて、揺れている。

 天魔向けの衣装もあったほうが良い、とのことで、完全な人型ではない狐珀(と姫乃)は、かなり重宝されていた。狐珀の衣装は注文通り。パニエのボリュームは抑え目、フリル少なめの、大人っぽいプリンセスラインのドレスの色は、オフホワイト。襟元はビスチェタイプで、自慢の胸と毛皮を強調しており、ヴェールは狐耳を邪魔しない程度、耳元には花飾りがあしらわれている。
「不思議よのぅ、こうして着てみると、案外その気になってしまうものじゃな」
 狐顔を笑みで満たし、花婿役を了承した海と共に、撮影スペースへ戻っていく。

「はい、視線こちらにお願いしまーす。次はこの手を見て〜」
 撮影アドヴァイザーの、よくとおる声が、聞こえてきた。


●撮影会


 童顔が気になる19歳、天谷悠里(ja0115)は、化粧ルームでカチコチに緊張していた。
 淡い水色の、大人っぽい、ロングトレーン姿の自分が鏡に写っている。マーメイドラインゆえに腰のくびれが引き立ち、スタイル抜群に見える。メイクが進むにつれて、気にしていた平凡そうな童顔が、魅力ある女性へと変貌していった。

(うわぁ‥‥普段こんな色は使わないけれど、私に似合う色ってあるんだね‥‥)

 好きな色と、似合う色は違う。プロのメイク師は、それを即時見抜いて、仕上げていった。
 すっかり美人さんに変貌である。今の悠里なら、美人の多い久遠ヶ原島の中でも全く引けを取らないだろう。

 そして撮影へ。

 背後のスクリーンに景色やイメージ画像が浮かぶ中、アドヴァイザーの言葉通りに視線を向けるだけで、次々と素敵な写真が撮られ、カメラと繋がったパソコンには、写真データがどんどん流し込まれていく。

 悠里の撮影が終わると、次は、楊 玲花(ja0249)の番だ。

(‥‥この間ウェディングドレスは着たばかりですけど、せっかくの機会ですから、違ったドレスを着てみるのも悪くないですね。ちょっと楽しみです)
 
 玲花の注文はこうだ。

「ピンク色のシックなドレス。アクセントとして胸元に造花のコサージュ。イヤリングとネックレスは銀で統一、デザインはシックに。ヒールのある黒革の靴。バンドが銀の鎖状になっている女物の時計。普段結わえている髪はドレスに合わせてアップにまとめる」

 まさに、注文通りの品が揃えられていた。ピンクという難しい色でありながら、シックにまとまったコーディネート。靴の黒とアクセサリーの銀を挿し色に使い、洗練された雰囲気を醸し出している。
(‥‥こういうドレスは普段着ないですから、似合っていると良いんですけれど‥‥)
 着こなせるのか、少し不安になる。だが、化粧台でメイクを施された玲花には、いつもの自信が戻ってきていた。

 これは、勝つる。バイトの最後に貰えるという写真データを印刷して、【太狼酒楼】に飾れば、集客率アップも夢ではないかも、と思える程に。
 玲花は胸を張り、良い意味で本物のモデルのように、撮影に臨んだ。

 続いて、密かに二児の母でもある、藍 星露(ja5127)が、マーメイドラインのセクシーなウェディングドレスで撮影に臨んだ。
(実際の挙式は神道式で、白無垢だったから、やっぱりドレスも着てみたいのよね)
 別のところでプリンセスラインのドレスを着ていたため、今回は思い切って、自身のスタイルの良さを活かすドレスをチョイスしたのであった。
(愛しの旦那様と一緒に撮りたかったけれど、周囲にあれこれバレても、まずいものねえ。ひとりで撮るのも楽しいから、いいかな)
 撮影用メイクの濃さに、自身の結婚式を懐かしく思い出す。綺麗という言葉がぴったりの美人が、更に凄みを増して、次々と指示されたポーズをとる。
 撮影済みデータに目を通して、満足そうに微笑む星露。
(帰ったら旦那様に見せてあげようっと)
 こっそり、手袋の下につけている結婚指輪をなぞって、星露はくすりと笑った。

「えっ、さ、さらしを巻いていては、いけないのか‥‥?」
 水簾が更衣室で、ドレス担当助手と軽くもめていた。
「さ、さらしが無いと、落ち着かないのだが‥‥」
「はいはい、今だけは、言うことを聞いてくださいね〜」
 注文通りの、マーメイドラインの青味がかったウェディングドレスを着せつけられ、ヘアセットコーナーに回される。
 いつもはお団子にしている髪をポニーテールにして簪をつける。これも注文通りだ。
 メイクを施されている間、恋人のことが頭から離れなくなっていた。
(‥‥ウェディング、か。憧れる、な‥‥)
 ほんのりと水簾の頬が上気する。

 撮影中も、恋人の顔が頭から離れない。
「戦う忍花嫁というイメージで、片手にブーケ、もう片手に忍刀・蛇紋を持ち、忍刀を突き出したポーズで、写真を1枚、頼みたいのだが‥‥」
 撮影中にも注文をつけてみる。
「いいですよ。じゃあ、良い笑顔をお願いしますね」
「え、笑顔? ちょっと、待て、戦う忍花嫁、が、笑うのか?」

 撮影スタッフと、噛み合わない会話が続く。

「笑う、っていうのは、こーんな感じですよ」
 にっこりと微笑んで見せる、アステリア・ヴェルトール(jb3216)。フリルのエンパイアラインドレスを見事に着こなし、右側頭部に白百合コサージュ付きのマリアヴェールをつけ、凛とした姿勢で、撮影の順番を待っている。
「こ、こう‥‥か?」
「はい、そうです。あの、時々目が泳ぎますけれど、何を考えているのでしょうか?」
 アステリアに問われ、水簾は更に赤くなった。
「つい、その、なんだ、彼氏のことを考えてしまって、な」
「そうなんですね。どんなかたなんですか?」
 撮影スタッフの助けになればと、アステリアはどんどん突っ込んだ。
「自分の彼氏‥‥言うのか?」
 水簾が俯いて、火照る顔を押さえた。
「‥‥そうだな、すごく、優しくて‥‥自分が一番、大好きな人だ」
「ほうほう。そうなんですね」
 正直なところ、アステリアは、こういう話題に興味がない。「家名に相応しき騎士として在りたい」という思いが強くあり、今後そういう相手を探す気もなかった。
 ただ単に、ドレスアップへの憧れがあって来ただけだ。
 しかし騎士たるもの、そんな思いを顔に出してはいけない。ここは話に乗った風を装って、水簾の撮影をスムーズに進める方が先だ。

 アステリアの誘導で水簾も徐々にリラックスし、撮影も波に乗った。
 いい記念だから、と、女性陣でまとまって、数枚、写真を追加で撮ることにもなった。

「ひめはねぇ、シーちゃんと一緒に撮りたーいっ!」
 オフホワイトのマーメイドラインドレスに身を包んだ姫乃が、着つけを済ませたアリスをくいくい引っ張った。
「えっ、は、はうっ?」
 戸惑うアリスを更衣室から引っ張り出し、メイク&ヘアセットへゴー!
 そして、撮影スペースで、超仲良し女子同士な感じのいちゃいちゃらぶらぶを敢行!
 今の姫乃に、怖いものなど何もない。

(‥‥アリスさん、綺麗だなあ‥‥何て感想を言えばいいんだろう? いつも僕が黒い学ランで、アリスさんは黒ゴスだから、2人とも白い服装って珍しいよね、とか、かなあ?)
 数秒ほど、未来の花嫁さんと心に決めた相手を凝視し、幸福感に浸る征治。

 しかし、である。

 黒いイヴニングドレスに身を包んだ「新婦の母」役、歌音 テンペスト(jb5186)が、涙をほろほろさせながら、姫乃の手をぎゅっと強く握って、こう言ったのだ。
「姫乃、あなたの花嫁姿を夢に見ていたわ‥‥おめでとう。シキさんに、幸せにしてもらってね」
「くぅくぅ♪ はい、おかあたま♪ ひめはシーちゃんと、幸せになりますぅ♪」
 たいへん良いお返事の姫乃。

「はわぁっ!?」
(えっ!?)

 征治とアリスは、同時に、耳を疑っていた。
 一体いつからこんなことになったのだろう?――なんとなく、だが、このままでは、未来の花嫁さんを、奪われそうな‥‥イヤな予感がする。

「あ、あの、えーと、僕たちの撮影は、いつになりますか?」
 たち、に目一杯力をこめて、征治は撮影スタッフに尋ねた。
「そうですね、今の撮影が終わりますまで、お待ち頂ければと‥‥」

 撮影スペースに目を向けると、光纏して、一層大人びて、銀狼獣人らしくなった姫乃が、色っぽくアリスに迫っているところだった。
「あらあら、照れているの? ふふっ、シーちゃんたら可愛いわね♪」
 姫乃は、身長の足りないアリスにあわせて身をかがめ、首に腕を回し、抱きつくようにキスを‥‥。

「はわわ、ご、ごめんなさいですのっ!!」

 アリスが自身も光纏して姫乃の腕をかいくぐるのと、耐えかねた征治が撮影ブースに飛び出すのが、同時だった。トレーンに躓きそうになったアリスを、征治が抱きとめる。
 姫乃は光纏を解き、えへへと無邪気に笑って、「冗談よ。いつまでも仲良くね♪」と撮影ブースから出て行った。
「ご冗談が過ぎますの〜」
 またも半泣きのアリスをなだめ、メイクを直し、2人は改めて写真を撮った。
(実現するのはもう少し先だけれど、そんなに長くは待たせないから、その時までこれで我慢してね)
 ほかの人に聞こえないよう、こっそりと囁く征治。
(ごめんね、次からはちゃんと守るから。もう大丈夫だから、ね)
 ぎゅ。征治の腕に添えられたアリスの手に、ほんの少しだけ、力が入った。
 

●素敵な挙式予行演習


「あ、あの、澤木さん、目立ちますから、その、ちょっと‥‥」
 ウェディングドレスを踏まないよう持ち上げて、そろそろと藤花が、澤木を追いかける。
「いえいえ、折角ですし、予行演習みたいなものとお考え頂いて‥‥さあ、どうぞどうぞ」
 急遽、撮影会場を移動し、本物のチャペルの一角での撮影がスタートした。

「‥‥素敵なドレスがいっぱいなの! 愛ちゃん、幸せなの! でも、愛ちゃんは今日、お仕事で来ているの。だから、きちんとお仕事、頑張るの!」
 周 愛奈(ja9363)は、淡いピンクを基調とした、レースいっぱいのドレスを着て、普段はお団子にしている髪を解いて後ろに流し、所々に綺麗なリボンを飾って、めかしこんでいた。

 藤花が真っ赤になって俯く。オフホワイトのタキシードに瞳と同じ紫のタイを合わせ、白いライラックのブートニアを挿した焔が、藤花に手を差し出す。
「俺は一人でモデルをするより、藤花ちゃんと一緒に写真に写りたいな〜。勿論、リハーサルってわかっているけれどね〜」
「は、はい‥‥」
 ぷしゅうーと顔から蒸気を噴き出し、藤花は指定された位置へ立った。焔が寄り添う。フラワーガール役の栗原 ひなこ(ja3001)が花かごを持って花嫁の前に立ち、トレーンベアラー担当の愛奈が藤花のトレーンの裾を持った。

 音楽のない、ウェディング予行演習が幕を開けた。
 歌音が泣き出す。「新婦の母」を演じるのに、ここまで適した環境はないだろう。

 かあさんね、あなたの、藤花のことをよくおぼえているわ。
 初めての妊娠・出産、お腹の痛み‥‥
 初めて藤花がはいはいして、たっちして、やっと1歩だけ歩いた日
 大きなランドセルに背負われて、入学式
 転んでも頑張って起き上がって走りきった、運動会
 反抗期の親子喧嘩
 そして、初めて家へ恋人を連れてきたあの日‥‥
 とうさんはぷんすか怒っていたわね
 だけど、藤花、あなたを心配してのことよ、許してあげてね
 
 かあさんから、藤花にひとこと贈るわ
 幸せはふたりで編み上げていくものよ
 どちらかが我慢したり、苦労することではないの
 一緒に、確実に、これからも人生を歩いていってね
 時々はかあさんのところにも、顔を出してね

 すっかり「新婦の母」になりきり、号泣する歌音であった。

(ひなこ、可愛いな。頑張れよ)
 見学にきていた如月 敦志(ja0941)が、カメラでひなこ中心に撮影する。

 誰もいない壇上を見上げ、藤花は誓いの言葉をこそりと口にした。
 焔にだけ、聞こえるように。
 焔は微笑んで、藤花のヴェールをめくり、その頭を優しく撫でた。
 アレキサンドライトの指輪を取り出し、緊張気味の藤花にそっと嵌めて、ひとこと。
「‥‥もうすぐ、本当に花嫁さんだね」

 ホテルスタッフがチャペルを片付け、皆は再び、会場に戻った。
「‥‥どのドレスも素敵なの。愛ちゃんも大きくなったら、あんなドレスを着たいな!」
 愛奈がはしゃいで、ショートドレス姿のまま、興奮の赴くままに走り回る。
 撮影スペースでは、ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)が、淡い青色のプリンセスラインのウェディングドレスで、ひとり、撮影をしているところだった。

 裾に花のついたオフホワイトのオーガンジードレスに花冠姿で、フラワーガールを務め上げたひなこが、ぷはあっと深呼吸した。
「ああ、緊張したぁ〜!! フラワーガール頑張ったよ〜!」
「フラワーガールも可愛かったぜ。でも次はやっぱり、ウェディングドレスを着せてあげたいな」
 敦志がよしよしとひなこを労う。緊張後の笑顔を手持ちのカメラでぱしゃり。
 その背後に、ファティナの微笑が見えた。
「あ、ファナちゃんやっほー! えっと、そうだった、あのね、あのね。あ、敦志くんを紹介するね。なかなか、会わせられる機会が無かったんだよね‥‥」
 照れて上目遣いになりつつ、ひなこが恋人をファティナに紹介する。

「どうも、はじめまして。ひなこさんとお付き合いさせて頂いております‥‥って挨拶も変かなぁ」
 苦笑しつつ、敦志が一礼する。
「ま−、色々あるとは思いますが、これからもひなこ共々、どうぞよろしくお願いします」
「ああ、こちらの方が噂の‥‥はい、初めまして、ですね」
 ファティナが微笑んで礼を返した。
(この若さで、本当に生え際が後退しているのか、すごく気になりますが、無礼になりますし、ちらっと見るだけに止めておきましょう‥‥)
 心の声を押し殺し、笑顔でもう一度ぺこりとお辞儀をするファティナ。
「こちらこそ、ひなこさんとですから、色々と大変かも知れませんが‥‥私の大切な友人を、宜しくお願い致します」

 その頃。

 Aライン・シェルピンクのウェディングドレス姿の森浦 萌々佳(ja0835)と、白のフォーマルスーツに青い花のブートニアを挿した青空・アルベール(ja0732)のカップルが、ホテル特注品の「ガラスの靴」を手にしたところだった。
(きっちりした衣装はやっぱり苦手だなー、首んとこ苦しい‥‥。おおう、萌すっげ、普段となんか雰囲気違くて、ドキドキするな)
 青空がカチコチになって、萌々佳にガラスの靴を履かせるところを、撮影スタッフにお願いする。
「流石に様になってるなぁ」
 敦志が萌々佳を見て、感嘆する。
 まずイベント用に数枚写真を撮ってもらい、緊張がほぐれたところで遂に「ガラスの靴」の出番だ。

「あたしを、見失わないでね? なーんちゃって」
 くすくすと萌々佳が笑う。
「勿論。見失わないように、離さねーようにしておくからな。ヒーローは、必ずヒロインを迎えに行くもんだかんな」
 至極真面目に答えてしまい、「あ、わ、わ、笑うな!!」と青空は照れて、萌々佳から目をそらした。
(綺麗な萌に終始ドキドキしちまってる‥‥いつかは、本当にウェディングドレス、着て貰えるのかな? 幸せなこの時をずっと続けるために、私が彼女を守っていかなければ‥‥)
 
「うふふ、よーし、ひなこぉ、うけとれぇ〜い!」
 撮影スペースを出ると同時に、萌々佳からひなこにブーケが飛んだ。
「ふぇっ!?」
 あたふたしつつもキャッチするひなこ。目を白黒させて、しかし、嬉しそうにブーケに顔を寄せて赤い顔を隠しながら、「ありがとー」と萌々佳に伝える。
 その瞬間焚かれるフラッシュ。青空だ。
「うまく撮れてたら、敦志兄ちゃんにあげるからな、データ」
「ふぇっ!?」
「次に期待してますって事だな、これは。ブーケも貰ったし、頑張らないと、な?」
 苦笑してひなこの頭を撫で、そしてぎゅっと不意打ちのように抱きしめる敦志。

 ファティナのデジカメに、くっきりと証拠画像が残された。
(二人並んだ姿を撮れませんでしたしね、せめてもの記念に、です♪)


●男の娘だって花嫁さんになりたいんだもん!


 最後に撮影スペースに入ったのは、帝神 緋色(ja0640)と如月 統真(ja7484)のカップルである。
 緋色が男の娘、ということで、女性用更衣室がすっかり空くまで、長ら〜く待たされていたのであった。
 ごく薄い青色で、フリルいっぱいでふわふわプリンセスラインのドレスを着て、緋色は嬉しくて統真の腕にぎゅっとしがみついた。
「見て見て、どう? 僕、照明で変色することも考えて、ドレス選んだんだよ。統真に真っ先に見てもらおうと思って♪」
「あぁ、緋色。って、ええええ、やっぱり、そっちの衣装にした――っ!?」
「え、なんで? 似合わない??」

 キョトンとする仕草が、統真のハートをぐいぐいと締めあげる。

「な、なな、何でもないよ! 何でもないから‥‥っ!」
(反則だよ、こんなのっ! 如何してこんなに可愛いのさ!? 詐欺じゃないかな!!)
 耳まで真っ赤になっていく自分を意識して、ますます照れ、狼狽える統真。
「さ、撮影しよっ♪ こんなポーズにしたいとか、ある? それとも、アドヴァイザーさんにお任せしちゃおっか?」
 ドレスアップして気分もうきうきの緋色が、統真を腕ごと引っ張っていく。
 撮影スペースでの彼(緋色)は、アイドルの如く輝いていた。


●終幕


 撮影会は、無事に終了となった。
 最後に全員がぞろりと並んで、記念撮影である。
 カメラを持ち込んだものは、ホテル従業員に頼んで、撮ってもらうことが出来た。

「撃退士さん達、そして天魔さん達も、ご協力ありがとうございました。良いお写真をおひとり様あたり、20枚ずつ、お選びください。最後にお撮りしました集合写真は数に含めません。どうぞ、ごゆるりと吟味なさって下さい」
 澤木の指示で、ノートパソコンが5台ほどテーブルに並んだ。
 そこで、山ほど撮った自分たちの写真を選び出す。
 誰もが真剣になった。

 選び抜いた写真データを、記憶媒体に入れた状態で受け取る。
 既に、バイトの報酬がネットバンクに払い込まれていた。
(あれ? 俺、見学なのに、もらっちまっていいのかな?)
 敦志は澤木を探して尋ねてみたが、「いえいえ、お連れ様の護衛も男性の務め。構いませんよ」との太っ腹な回答であった。

 ドレスアップした全員は、撮影用に濃い目のメイクを施してあったため、メイク落としの完備されている洗面所へ、順番に案内された。
 勿論、服は着替え済みである。
 撮影途中でドレスの仮縫いがちらりと見えたり、細かい突っ込みどころは色々とあったものの、概ねスムーズにバイトが出来たと言っていいだろう。

 そして、全てが終わる。

 帰りのホテル専属送迎バスの中では、疲れてとろとろと眠るものが多かった。
 ある者は、本番で素敵なドレスを纏う夢を、ある者は愛おしい人と結ばれる日を夢見て。

 そのためにも、戦わなければいけない。
 大好きで、大切な人と、仲間と、平和な日常を楽しめるように。
 明るい未来を拓くために。

 ――がんばろうね。

 皆の気持ちは、ひとつだった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:17人

おたま勇者・
天谷悠里(ja0115)

大学部7年279組 女 アストラルヴァンガード
『九魔侵攻』参加撃退士・
楊 玲花(ja0249)

大学部6年110組 女 鬼道忍軍
思い繋ぎし紫光の藤姫・
星杜 藤花(ja0292)

卒業 女 アストラルヴァンガード
凍気を砕きし嚮後の先駆者・
神凪 宗(ja0435)

大学部8年49組 男 鬼道忍軍
Silver fairy・
ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)

卒業 女 ダアト
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
魅惑の囁き・
帝神 緋色(ja0640)

卒業 男 ダアト
dear HERO・
青空・アルベール(ja0732)

大学部4年3組 男 インフィルトレイター
仁義なき天使の微笑み・
森浦 萌々佳(ja0835)

卒業 女 ディバインナイト
厨房の魔術師・
如月 敦志(ja0941)

大学部7年133組 男 アカシックレコーダー:タイプB
最強の『普通』・
鈴代 征治(ja1305)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
夜のへべれけお姉さん・
雀原 麦子(ja1553)

大学部3年80組 女 阿修羅
水神の加護・
珠真 緑(ja2428)

大学部6年40組 女 ダアト
懐かしい未来の夢を見た・
栗原 ひなこ(ja3001)

大学部5年255組 女 アストラルヴァンガード
あたしのカラダで悦んでえ・
藍 星露(ja5127)

大学部2年254組 女 阿修羅
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
幸せですが何か?・
如月 統真(ja7484)

大学部1年6組 男 ディバインナイト
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
ウェンランと一緒(夢)・
周 愛奈(ja9363)

中等部1年6組 女 ダアト
山芋ハンター・
水竹 水簾(jb3042)

卒業 女 鬼道忍軍
撃退士・
アステリア・ヴェルトール(jb3216)

大学部3年264組 女 ナイトウォーカー
久遠ヶ原のお洒落白鈴蘭・
狐珀(jb3243)

大学部6年270組 女 陰陽師
おねだりウエイトレス・
紅鬼 姫乃(jb3683)

大学部3年43組 女 ナイトウォーカー
主食は脱ぎたての生パンツ・
歌音 テンペスト(jb5186)

大学部3年1組 女 バハムートテイマー