●洞穴を探し出せ〜聞き込み調査編
現在は管理者がおらず、放置された防風林。誰も近づかなくなり、随分時が過ぎた。
龍崎海(
ja0565)は、周辺住民に聞き込みを開始していた。
「子供や、子供時代に秘密基地とかで、洞穴を使用したりとか、ありそうかな?」
周辺住民代表――その辺で遊んでいたお子ちゃまは、ぷるぷる首を振った。
「直接知らなくても、危険な場所だから近づくなとか、蝙蝠とか見かけたことがあるとかも、手がかりになるかな?」
お子ちゃまは、もう一度ぷるぷる首を振った。
「あそこはね、ヌシさまがいるから、近寄るなってばっちゃもじっちゃも言ってる」
黒井 明斗(
jb0525)が、「管理人が居なくなったのは何時頃のことでしょう?」と重ねて聞く。わっかんね、と答えて走り出すチビッコ。
「‥‥寄生蜘蛛とか、何か気持ち悪ぃでありやがるです‥‥寄生された娘達は、もっと恐怖や混乱、しやがってるんでしょう、ね。相手はディアボロでありやがるんですから、早く何とかしねぇとですね。俺、これが初仕事なんで、緊張しやがるですが、俺に出来るコトを‥‥頑張りやがる、です」
エドヴァルド・王(
jb4655)がおどおどと、独特な口調で語った。
青木 凛子(
ja5657)がこくりと頷いた。
「‥‥女の子の体に触っていいのは愛する人だけよ」
全くです。
「防風林の中に、洞穴があるという話や、記録、記憶とかは、ありやがらねえですか?」
エドヴァルドが聞き込みを続ける。周辺住民2号――じっちゃは「ハテ?」と小首を傾げた。
「さあ‥‥あそこには最早誰も近づかんからのう、記録ならお役所にでもあるんでねえかや?」
(危険を察知しやがれば、生き物は近寄りたがらねぇと思うんですよね‥‥)
エドヴァルドはうむむと悩みこんだ。
●洞穴を探し出せ〜データ解析編
場所は変わって、依頼斡旋所内。
麻生 遊夜(
ja1838)は、拡大コピーをした現場付近の地図をテーブルに広げていた。
「被害者宅の分布と‥‥そうだな、ここ数週間の風向き等から地図上に線引きすりゃ、ある程度の場所は絞れると思うのぜ。他のメンバーが集めてきた情報と統合すりゃあ、特定とまでは行かなくとも、洞穴は探し易くなるだろ(ケラケラ)」
笑顔を絶やさずに、テキパキと小さな赤いシールを、被害者の家に貼り付けていく遊夜。
「‥‥おぉ‥‥事件開始当日の風向き‥‥、気象庁のサイトから‥‥見つけましたですよぉ‥‥」
月乃宮 恋音(
jb1221)が、パソコンからデータを印刷した。
「寄生された人は気が気でないでしょうね。早めに解決しちゃわないと」
フローラ・シュトリエ(
jb1440)は、遊夜のマークした被害者宅分布状況と、恋音の出してきた風向き情報を見比べた。
きゅ、きゅと、マーカーで地図に印をつけていく。
このへんがあやしい
ストレートで、わかりやすいマーキングであった。
「‥‥うぅ‥‥位置は、多分、いいと‥‥思いますぅ‥‥」
「この後はアジト搜索であるな。あぁ、服ン中に子蜘蛛に潜り込まれるのも厄介だな。予めテープで目張りして、隙間をなくしておくと良さそうだな(クスクス)」
遊夜がぺたぺたと布テープで服の隙間を覆う。
その横で、凛子も同様、隙間が少ないミリタリーウェアを更にテープで隙間を塞ぎ、子蜘蛛対策を強化していた。
●洞穴を探し出せ〜ローラー作戦編
これより、ローラー作戦‥‥ぶっちゃけ「しらみつぶし」が始まろうとしていた。
凛子がスナイプゴーグルで、目標となった場所を遠距離から捜索。パラサイト子蜘蛛が集まっていないか確かめる。
海は、お安く買ったオペラグラスを双眼鏡がわりにして、林の木に登り、上空を視認。
「子蜘蛛が手のひらサイズなら、保護色となっていなければ、発見できなくはない‥‥はず」
ちなみに海も勿論、光纏しているのだが、全く変化しているように見えなかった。
「子蜘蛛を発見できれば、その風上に巣がある可能性は大きいはず‥‥」
もう春も間近で、木々は若葉を揺らしている。
つまり、枝葉が邪魔である。
海はやむなく、地上で他メンバーたちと一緒にローラー作戦に加わることとなった。
視界に仲間が必ず1人は見えている状態を保ちながら、ゆっくりしっかりと調べていく。
袋井 雅人(
jb1469)も、地道に慎重に、ローラー作戦に加わっていた。
人の手で管理されていない防風林は、海からの潮風を受けて、木々の中には腐食しているものも多かった。
海と明斗が、スマフォで連携して手分けしつつ、「生命探知」をフル活用して調べる。
どこもかしこも、生命に溢れていた。
子蜘蛛、多すぎです。ほかの生物もいますけどね。
「作戦中はクールに行くわ‥‥でも、女性にとって今後大切な時に、トラウマになりかねない事態を引き起こしてくれちゃった大蜘蛛ちゃんには、その命で責任をとってもらうしかないわね」
凛子が、女性として、とてつもない怒りを胸に秘めて、(今は作戦中‥‥)と自己暗示をかけていた。
2人の「生命探知」が尽きた。
海は、「アウルディバイド」で、使い果たした「生命探知」のスキル数を回復させ、再び搜索に戻った。遊夜は、鋭敏聴覚と索敵を頑張って活用していたが、子蜘蛛だらけの防風林に半ば辟易していた。
このへんがあやしい
マーカーで地図に書き込まれた辺りを探っていると、海は不意に、生命溢れていた朽ちた林の中に、1体しか察知できないモノを感じ取った。
範囲8察知と、効果の比較的広いスキル内に、1体しか感じ取れないもの。
ぱっと見では洞穴とわからない、枯葉や泥や石にまみれた、土蜘蛛の巣を大きくしたようなモノ。
急いで全員に連絡を取る。皆、出来るだけ気配を消して、洞穴と思しきモノに、ある程度距離をとりつつ、近づいた。
●戦闘準備段階
海は、活性化させるスキルを「アウルディバイド」から「アウルの鎧」へ、「生命探知」から「ヴァルキリージャベリン」に変更していた。
そこへ、皆が、気配を殺して近づいてくる。探索用のスキルを、戦闘用に切り替える者も多い。遊夜は「鋭敏聴覚」と「索敵」を、「腐爛の懲罰」、「天騙る者」に変更し活性化。
明斗は「生命探知」を「祝福」に変えてスタンバイ。
と。
足場の悪いこんな場所に、折りたたみ式の野外テーブルが置かれた。テーブルクロスを用意し、お手拭きを配る雅人。
「この時のために、みんなの分のサンドイッチと熱い紅茶を水筒に入れて用意してきたんです。ささ、どうぞ! 食べて甲の緒を締めよという言葉もありますし!」
ありません。
気にせず、いい笑顔で飲食物を配る、とっても天然な雅人。
すぐそばに、不確定名:敵の巣穴。
「えーと? 現状、把握しては、いるのかしら?」
「勿論です!」
凛子の問いに、爽やかに返す雅人。
状況を把握しているのか否かわからない、天然な笑顔を振りまいて、雅人は更に提案した。
「あの、不確定名:巣穴辺りに、ファイアワークスを撃ってみてもいいでしょうか? 爆発が起きるかどうか見てみたいんですけど」
う‥‥うん。やりたいなら、やるがよいのです。
ただその、テーブルとか飲食物は、仕舞うか、全部胃袋に収めちゃってからにしてください。
「‥‥あぅ‥‥戦うのは、ど、どうしても怖いのですよぉ‥‥」
恋音は震えていた。紅茶をふうふう吹きながら飲むのがやっと、という感じだった。
●突入!
雅人がテーブルを片付けたところで、いよいよ、‥‥若干脱力した感もあるものの、巣穴に奇襲をかけることとなった。全員、改めて光纏する。
明斗が恋音とフローラに「幸運をお祈りします」と手をかざす。
恋音は阻霊符を発動!
明斗は自身を光らせ、洞穴内部を照らし出した。
中は、蜘蛛の糸がごちゃごちゃと張り巡らされた、異質な空間になっていた。
「‥‥おぉ‥‥出てよ炎よ!」
「爆ぜろ、花火のように!」
恋音の「ファイヤーブレイク」に呼吸を重ねて、「ファイアワークス」を放つ雅人。
氷晶霊符で洞穴内に攻撃を仕掛けるフローラ。
邪魔な蜘蛛の糸を焼き切り、海が「不可視の槍よ貫け!」と「ヴァルキリージャベリン」でマザー蜘蛛への道を作りながら走り抜けていく。フローラも続いた。
「覚悟はいいわね? 坊やたち、後ろからちょっと、っていうか、ありったけぶっ放すわよ」
しこたま強化したスナイパーライフルCT-3を構える凛子。
「蜘蛛は比較的よく出る部類だ、多少の差異はあれどパターンは大して変わらんのぜ。ただひたすらに‥‥撃つべ‥‥うおッ!?」
遊夜の頭上を、凛子のアウル弾がかすめていった。
気づいた海、前線へ向かおうと移動していた海、フローラとエドヴァルドも、咄嗟に腰を落とした。腐敗効果を持つアウル弾がマザー蜘蛛にどすどすどすと、命中する。
「頭上に気をつけるのぜよ」
続いて、警告とともに、「腐爛の懲罰」を撃ち、腐食した場所を狙って「天騙る者」を叩き込む遊夜。少し近づいたところで、白鶴翔扇を投げつけ、ブーメランのように戻ってきたところをキャッチする海。
「これ以上子蜘蛛を撒き散らされる前に、叩かせてもらうわよ」
前衛2人を護るべく「四神結界」をはりめぐらせ、一歩進み出て「Eisexplosion」を仕掛けるフローラ。きらりと氷の破片が光った。
自身を皆の明かりとして光らせている明斗が気づいた。
「あれが‥‥マザーでありやがるですか。‥‥でけぇ、です」
髪と瞳が真紅になったエドヴァルドが、茫然とフランベルジェを構える。海は十字槍に武器を持ち替えて、マザー蜘蛛を睨み付けた。
マザー蜘蛛は、尻をこちらに向けていた。凛子と遊夜の連携攻撃で腐敗させられた部分から、じくじくと体液が滴っていた。
●隊列を整え、いざ勝負!
遊夜は、トレンチコートを閃かせ、流れるような動きで、強化済みクロスファイアの銃底で子蜘蛛を殴り、払い、蹴散らしていた。と同時に、間合い外の子蜘蛛を漏らさず銃撃する。その攻撃は疾風の如く、一分の隙もなかった。
その間に凛子は子蜘蛛対策として、武器を火炎放射器に持ち替えた。
「走れイカヅチ!」
恋音から、雷撃がマザー蜘蛛めがけて飛ぶ。
バルバトスボウに武器を持ち替える雅人。
勿論、狙う場所は決まっている。腐敗により装甲の弱った(と思しき)個所だ。
明斗は星のリングを発動し、直線移動する、流星のように輝く球体を自身の周囲に5個生み出し、纏わりつこうとする子蜘蛛を、ぼとぼとと退治していた。
「この大蜘蛛野郎っ! 緑に輝く俺の一撃、受けやがってみせてくださいぃぃ!」
エドヴァルドが茫然とフランベルジェで、「エメラルドスラッシュ」を、マザー蜘蛛の傷口目がけて叩き込んでいた。
ぶしゅう、と、体液が飛び散る。
もがき苦しむように、マザー蜘蛛の尻から、どっと水があふれるように子蜘蛛があふれ出した。
「うざったいわね。それに、大量の子蜘蛛が壁になるのも厄介だし。まとめて凍てつかせるとしましょうか。Eisexplosion!」
フローラが、今まさに子蜘蛛を吐き出している部分を範囲攻撃! この世に生まれた瞬間、子蜘蛛たちは一掃された。
隙をついて、海の十字槍がマザー蜘蛛を突き、刺し貫き、引っかけ、薙いだ。
苦しげに呻くと、蜘蛛は尻の針から、ぷちゅっと、紫色に見える液体を噴出した。
毒液だ!
海が瞬時に前へ出てシールド防御。フローラとエドヴァルドを庇ったつもりだったが、庇いきれなかった。
毒液の雫が少しだけ2人に飛び散って、2人は眩暈を覚えた。
だが、そこはKIAIで抵抗する。
耐えた。
続いて海が狙われ、ねとねとした糸に絡みつかれそうになる。
パン。
発砲音が響いて、遊夜のクロスファイアが、今まさに糸を吐こうとしていた管のような部分に命中する。
ゴウッ。
凛子が火炎放射器を使いこなして、邪魔だてしていた子蜘蛛をあらかた片づける。
雅人がバルバトスボウで、毒液をまき散らす針を狙った。
海もほぼ同時に、十字槍で、同じ個所を狙う。
マザー蜘蛛の毒針は無効化された。
あとは、子蜘蛛をまき散らすあの尻を何とかするしかない。
(‥‥おぉ‥‥あそこを縫い付けられるなら、縫い付けたいですぅ‥‥)
恋音は雷撃をぶちかましながら、何か自分に出来ることはないか、考えていた。
「最後のEisexplosion! これでダメでも、まだ手はあるんだからねっ」
フローラがずいと前に出て、子蜘蛛産道を巻き込む形で、氷の爆発を巻き起こした。
「さ、あそこからお腹まで、ずんばらりんとやっちゃって!」
エドヴァルドがずいと一歩踏み出し、そして、開いたままの産道から腹全体に向かって、大剣を思いっきりふるった。緑の光が軌跡を描く。
返す刀で、もう一撃。
雷撃と矢が援護するように飛んできて、大剣は緑の光を失い、そして、マザー蜘蛛はゆるやかに消滅した。
明斗が戦っていた子蜘蛛も、まるで幻影のように消えていく。
洞穴内の光源は、明斗自身のみ。用意してきたものはペンライトをつけて、洞穴内を探索した。
あのべたべたした糸も消えている。ディアボロが居たという痕跡も残されてはいない。
ただ、餌食とされたのであろう、干からびた鳥や小動物の死骸が散らばっていた。
凛子は、子蜘蛛を怨念をこめてピンヒールで踏み潰せなかったことを、悔しがっていた。
●大団円へ
(寄生された人達が心配でたまりません。以前の依頼で、ディアボロに寄生された被害者の悲惨な最期を看取りました。今回はでも、あの大蜘蛛には勝ちました。今回こそは‥‥)
明斗は治療行為を行いながら、心の中で、海と恋音に礼を言っていた。
(尊敬するお2人が居て下さったおかげで、悪魔が相手でも勝てると信じられました。有り難うございました‥‥)
被害者の家を一軒一軒回って、異変が消滅したことを確認して回る、明斗と凛子。
明斗は、異変の消滅に安堵する。凛子は、被害者一人一人に、事件が完全に解決したこと、今後もし大切な命を授かることがあった時に、悪影響は無い事を説明して回る。
「実際にいつか妊娠したとき、お腹が膨らんでも、不安になることはないの。それは自然なことなのよ」
出産経験のある立場から、最善の言葉と態度を尽くす凛子。
「いつか大切な命がお腹に宿ることがあって、もしその時に今回のことを思い出してしまっても、この件はきっちり片を付けたわ。それに、お腹の中の子の方が何万倍も強く貴女を勇気づけてくれるから、心配しないでね」
涙ぐむ女性一人一人の手を握りながら、凛子は「よく頑張って耐えたわね」と微笑んだ。