●かいえ〜ん
園長に元気よく新年の挨拶をした後、水杜 岳(
ja2713)は、「久遠の湯」と「喫茶スノー・ベル」の看板を指差し、デジカメで自分撮りした。
「お、名前採用されてる! うわ、照れるけどこれは嬉しいな! 帰ったら従姉に自慢だっ!」
早速「スノー・ベル」に入ってみる。今日のホワイトセットは白パンにクリームシチューとミルクプリンであった。トッピングを施したココアと限定ケーキも購入し、ガラステラスのテーブル席について、料理をデジカメにおさめる。ガラスが反射して外の景色まではうまく撮れなかった。
(この間隔と荷物置き‥‥ちゃんと形にしてくれたんだ。料理も美味しいし、色々贅沢だなぁ‥‥)
岳はゆっくりとココアを飲みつつ、ふかふか椅子で寛いで、ガラス越しにスポーツエリアを眺め、優雅な時間を過ごすことにした。
来栖 千絢(
jb0871)は自分だけ当選したことに、不貞腐れていた。大好きな双子の兄を留守番させてしまい、自分だけが楽しむ気になどならなかった。
「下見して帰る‥‥」
千絢は心の中で号泣しながら、施設をうろうろと歩き回る。
「‥‥雪遊びって、最後にしたのいつだっけ‥‥?」
雪遊びゾーンで、子供達(一般人)がキャッキャと騒いでいるのを見て、何となく和んできた。
「今度はちぃと一緒に来て、雪合戦でもやろうかな。ふふっ」
そして自然と喫茶「スノー・ベル」に足が向かった。
ひとりでゆったりしていた岳と挨拶を交わし、「俺は今日は下見。機会を見てまた来ようと思ってるんだ。オススメあったら教えてくれない? あと、2人で食べられるお土産とか」と、千絢は笑顔を作った。
岳情報によると、売店にて『AMPウィンタースフィアへ行ってまいりました』なる、チョコ饅頭がボックスで売られているそうだ。
口溶けの良いほっくりした生地で生チョコをくるんだ菓子である。
『留守番させてごめん。お土産買ったよ。今度は一緒にこよう』と、スポーツエリアの写メと一緒に、兄へメールを送る千絢。
生チョコ饅頭6個入りを1箱購入して、千絢はひとり、施設を後にした。
●はじめての、雪
バトラ(
jb3025)は注意書きを読まずに、まっしぐらにスポーツエリアに来ていた。
「お、おおお、おおおー!! スゲー! 白い!!」
ふわっふわのパウダースノーを鷲掴みにする。
「冷てー!!! しかも、なんかメッチャ寒みー!!! 鉛弾の中を散歩する方が楽じゃねェかッ」
顔中を、唇まで真っ青にしてガタブルと震えるバトラに気づき、霧隠 孤影(
jb1491)が、「あそこで防寒着とウェアが借りられますよー!」と助言した。
バトラはダッシュで更衣室へ向かい、装備を万全にして再び雪にダイブした。
「おおっおー! スゲー!! なんか感動だぜ! お、あれ何だ?」
初めて見る雪だるまの作り方を、ふむふむと凝視する。パンク系の兄ちゃんに見つめられて、若干子供&親(一般客)は引きかけていた。
「面白れーな! あ、えーと、さっきのお礼を言わなくちゃだな」
孤影の姿を探す。
「チキチキ! 24時間耐久ソリ何回滑れるか大会です! 参加者はボク一人です! ぼっち遊びです! 一人遊び楽しいです! チョー滑るですー! チョー楽しいです! キャハハハー!」
孤影は、『忍』の文字がデカデカと入ったプラスチック製のピンクのソリを担いで、雪遊び広場のソリコースを黙々と登っては、滑走していた。
「おー、何かチョーテンション高っけー! 全力で楽しんで滑ってんなー。登るのも全速力って感じだし、凄っげー楽しそーに笑ってんなー!」
「それはですね、ニンジャだから滑るです! 滑ってこそのニンジャです。滑らなかったらニンジャ失格なのです!」
「ほう、そーなのかー。お、俺はニンジャじゃねーけど、でもでも、混ぜてくんねー?! その、乗るやつはねーけどさ、雪だるまで勝負すっぜ!」
‥‥あの、ソリ、借りられますよ?
だがしかーし、バトラは芯となる雪玉を作って、麓からソリコース頂上へと無心に転がしていった。頂上に無事にたどり着き、雪玉が大きく成長したことに、達成感がもりもりと湧いてくる。
折しも、頂上から孤影がソリを走らせた時。バトラの手から大雪玉が離れた。
‥‥あ。
雪玉は勾配を転げ落ちながら更に大きくなり、ソリごと孤影を巻き込んだ。
「うーわー!!」
目を回しながら、雪玉に取り込まれていく孤影。
慌てて助けに行くバトラ。
「だ、だいじょーぶかよ、おい?」
「バタンきゅ〜‥‥くるくるですー‥‥」
孤影は医務室で一夜を過ごすこととなった。
●押しかけグラビアアイドル?
Beatrice (
jb3348)は、事務所で園長に交渉を持ちかけていた。
「わらわが、妖艶なグラビアアイドルとして、この施設の素晴らしさを皆に伝えてやろうと言うておるのじゃ。撮影班の手配は可能なのじゃろうな?」
交渉開始と同時に、いきなり上から目線口調です。
「あ、いや、それは、本日ですと、他のお客様のご迷惑になりますので、日を改めてお願いできますか?」
そこで、たじたじになる園長も、腰が低いというか何というか。
それより、グラビア写真と施設紹介写真は、被写体の表現から、そもそも違うような気がしますが、いかがでしょうか。
やむなくBeatriceは「スノー・ベル」で試食し、「久遠の湯」を下見する程度にとどめることにした。
●限定品に弱いんです
「かっくほー♪」
「スノー・ベル」では、レイティア(
jb2693)が、限定のホワイトセットとチョコケーキを手に、おひとり様席についていた。
「もうもう、この為に来ちゃったんだからね♪ 限定って聞くと何か凄そうなイメージだけど、どんなのかなー‥‥? 見た目は普通だけど‥‥」
ホワイトセットのシチューをぱくり。旨い! 食券導入喫茶レベルとは思えない、まったりと濃厚でコクがあり、しかも飽きない味付けだ。まだ温かい白パンを浸すとより旨さが増す。シメのミルクプリンは、口をさっぱりとさせるのにとても良かった。
そしてケーキは‥‥これまた旨い!! 文句なしである。レイティアの顔がほわほわ緩む。
ご馳走様の後、レイティアは「久遠の湯」へと向かい、極楽気分を満喫していった。
●性別迷子はよくある話
「せ、拙者は断じて、覗きではないでござるっ! これでも女でござるっ! 本当でござるっ」
鳴海 鏡花(
jb2683)は「久遠の湯」の暖簾をくぐろうとして、売店のおばちゃんの視線を痛く感じ、慌てふためいていた。
(広い湯船でゆったりしたいので、空いてる時間帯を狙って来てみましたが‥‥私達以外のお客さんの事も考えればその方がいいと思うし、良くも悪くも視線には慣れているから、好奇の目は気にする事もないけど、余計なトラブルは起こしたくないものね。私達が一般客を驚かせたり怖がらせたりしないように気を遣う必要性は十分に認めるけれど、その上で向こうが天魔に慣れていく必要性もあると思うのよねぇ)
そこへ、あれこれと思考を巡らせながら、紅刃 鋸(
jb2647)が現れた。鏡花に目を留める。
「どうかしました? お風呂に入りたいなら入れば良いのに」
「し、しかし‥‥周囲の視線が‥‥拙者は女でござるのに‥‥」
「んー、そんなこと気にしないのよ。私は天魔であることを隠しも主張もしないわよ。ウザく絡まれたときは『コスプレだけど何か?』で結構済んでしまうものだしね」
まあお風呂に入るかどうかは自分の心ひとつよ、と言い残して、鋸は暖簾をくぐっていった。長い人生の中で色々と達観してきた様子だ。鏡花は暫く考えた末に、もっと鋸と話してみたくなって、勇気を奮い立たせて、女風呂へと足を踏み入れた。
「では、その、‥‥」
「紅刃 鋸よ」
「失礼、拙者は鳴海 鏡花と申す。‥‥紅刃殿は、拙者がケーキを食しても、その、大丈夫だと思うのでござろうか? お、男がケーキを、などと思われたりは‥‥」
「そんなの気にしなくていいのよ。ケーキの好き嫌いに、性別も種族も関係ないでしょう」
クールにさらっと流す鋸。ついでに「脱げばちゃんと女性じゃない。確かに胸はないけど、腰のくびれがとても綺麗よ」と鏡花の背中も流してくれる。
鏡花は、限定ケーキとホットコーヒー、そしてカップの抹茶アイスを食べに行く決心が固まった。
「たまには、こうやってゆっくりするのも良いですね」
鑑夜 翠月(
jb0681)は、ガラステラスのおひとり様用テーブル席について、限定ケーキとココアを楽しんでいた。後ろから見ると、緑色のリボンを後頭部で蝶結びにした可愛くて黒猫っぽい女の子に見える。前から見てもその印象は変わらない。
だが、男だ。
「このケーキ、施設の外見に良く似ていますね。食べるのがもったいないです」
ふかっと気持ちのいい席で、ゆっくり飲食しつつ、ガラスごしにスポーツエリアを眺める。
「ステージも子供が沢山居て人気ですし、ウィンタースポーツをしている方も楽しそうですね。時折、妙に派手な動きをしている方が居ますが、撃退士の方でしょうか? この平和を護るためにも、今後も頑張らないといけませんね」
翠月の視線の先には、スキーエリア。
「魅せます! サムライ魂!」
喫茶店にその声は届かないが、明らかにスキーウェアではない格好で、浮いている人物がいた。和装(着物)の上に、自分で藁から編みあげた、藁靴・すげ笠・藁蓑を着こなし、竹にしか見えない(いや、間違いなく竹だ)スキーで滑走する、草薙 雅(
jb1080)である。
●皆さんのスキー教室☆
「寒稽古でござる!」
雅は、スキーウェアではないので、些か寒そうではある。明らかに唇に色がない。
「なんだかんだで久々やから、うち、一応初級者コースから慣らしてくで!」
桐生 水面(
jb1590)が準備体操を済ませる。田村 ケイ(
ja0582)も真似て体操をする。
「ここがスキー場‥‥楽しみね。さあ、レッツ初滑り♪」
淡々と呟くケイに、水面が「おお? さては結構滑れるクチやな?」と声をかけた。
「いえ、人生☆初滑りよ」
固まった。誰がって、雅と水面が。
超・熟練者用コース行きのリフトに、さりげなく乗り込みながら、淡々とケイが続ける。
「友人に、足をハの字にすればオールOKと言われたので、止まり方も良く分からんし、スピードの落とし方も良く分からんが、まあ体感しながら覚えればいいと思って」
「思って?」
「チョモランマ・コースの?」
「最難関コースに?」
「「向かっている訳ーっ!?」」
慌ててケイを追う2人。何とかぎりぎりのタイミングで、リフトから引きずり下ろす。
「ス、スキーは危険なスポーツでござるよ! 初めてなら初心者コースから徐々に慣れていくものでござる! 拙者がおぬしにその、れくちゃあ、して、しんぜようぞ!」
「せやせや、うちらと一緒に滑ろうや。うちは慣らし運転のつもりで初心者コースから行こー思とったんよ」
雅と水面に説得され、無表情でこくりと頷くケイであった。
一方。
櫟 諏訪(
ja1215)と藤咲千尋(
ja8564)も、仲良くスキー初心者コースにいた。
「雪だー!! 真っ白ー!!」
地元が雪と縁遠い土地のため、はしゃぐ千尋。
あったかい表情でほくほく見守る恋人、諏訪。
「今日はスキーいっぱい楽しみましょうねー!」
「はーい! すわくん先生、よろしくお願いしまーす!」
ぺこ、と千尋が元気よく頭を下げる。
「板は八の字にして滑ると楽ですよー? 内側に両方のエッジを立てるとブレーキになるのですよー?」
「せ、先生、足で8の字は難しいです!!」
基本から丁寧に教える諏訪。足をプルプルさせながら頑張る千尋。
「あとは上手に転んで、怪我をしないことですよー」
上手な転び方も丁寧に教える諏訪。取り敢えず、勾配のないところで千尋が動けるようになるまで、リフトに乗るのは見送った。
(‥‥撃退士って、オリンピック選手並みの運動神経じゃなかったっけ?)
千尋が少しへこむが、大丈夫、慣れない運動はトップアスリートでも難しいものです。
何とか形ができたところで、いざ初級者コースに出発!
‥‥しようとしたのだが。
「せ、先生、リフトにうまく乗れません!!」
続いて。
「す、す、すわくん、どうしよ、降りられる気がしないー!!」
「大丈夫ですよー」
あばばばと焦る千尋の手をとってフォローする諏訪。
「ちょっとの角度なのに、怖い、怖いよ、すわくん!」
「じゃあ、せーの、で一緒に、ゆっくり行きますよー? うん、その調子ですよー」
幸せいっぱいな表情で、2人でゆっくりと一緒に滑って降りていく。
仲良しカップルに幸あれ。
●スノボコース「モンブラン」
グラルス・ガリアクルーズ(
ja0505)、高峰 彩香(
ja5000)、姫路 ほむら(
ja5415)の3人はスノボコースを楽しんでいた。
「さて、1年ぶりか。まずは身体を慣らさないとな」
グラルスが準備体操をして、中級者コースへ向かった。
「普段はあまり楽しめるものじゃないし、思いっきり気楽に滑って楽しもうってね」
彩香はレンタル品で全身を固め、やはり中級者コースへ。
(ここに彼女と来られたら楽しそうだなぁ。スノボエリアの名前聞いたらモンブラン食べたくなったなー。ここの喫茶にあるかなぁ?)
どちらかというと食い気が入っているほむら。
難しい技に挑戦しては、周囲(一般人)を湧かせるグラルス。
気持ちよく滑り、無理のない範囲でジャンプや技を楽しむ彩香。
「お! 負けませんよ!」
ほむらがグラルスに対抗心を燃やし、見事なジャンプをキメる。
「あたしはジャンプとか小難しい技は苦手なのよね。でも、長く滑るのは得意だよ!」
中級者コースをまったり楽しむ彩香。
いつの間にか、ヒートアップしたグラルスとほむらは、上級者コースへ行ってしまった。
「怪我しないようにねー」
手をふって見送り、「ちょっと喫茶してこようかな」と、離席する彩香であった。
ココアと限定ケーキを楽しんで、彩香は命の洗濯をする。
(夜は光の演出が楽しみだね! その中で雪がきらきらするんだろうなあ‥‥)
「ふー、なかなかやりますね」
グラルスはほむらとスケボ対決を存分に楽しんだ。
(今度はプライベートでまた来たいな。ここまで揃ってる施設もそうそうないからね)
心の中で呟くグラルス。
2人は意気投合して、仲良く喫茶と浴場に向かった。
「あー、モンブラン(ケーキ)あったー! でも売り切れかあ、ちぇー」
食券販売機を見て、赤ランプ点灯に、がっくりするほむら。
「ま、まあいいや。どうです、お風呂に行きませんか! 俺、お風呂大好き!」
「そうですね。やっぱり、たくさん滑った後の温泉は格別ですね」
かぽーん。
浴場特有の音がする中、2人は(勿論ほかにも客はいる)、広い湯船で体を伸ばしていた。
グラルスが、スノボで使った筋肉を揉みほぐしている。
(島で住んでる家は実家と比べると湯船が小さいから、こういう所でゆったり浸かれるの嬉しいなぁ。自分が男だと分かってから一年過ぎたけど‥‥まだまだ身内以外の裸を不意に見ちゃうと駄目だなぁ。もっと暗示を強くしなくちゃ。俺は男、俺は男、俺は男‥‥)
脱・美少女した(つもりの)ほむらが、難しい顔で必死に暗示をかけていた。
湯上りに珈琲牛乳とアイスを楽しんでいると、ほむらは知り合いの、みくず(
jb2654)に声をかけられた。
「姫路くん発見ですー! あの、これ、よかったらどうぞです」
如何にも婦人服という感じのワンピースを渡された。
広げてみて、悩むほむら。
女性のプレゼントを固辞するのは男(漢)にあらず!
結局ほむらは、暫く女性の格好でうろつくことになってしまった。
「色々と大変そうですね」
グラルスが微笑ましい視線で見つめていた。
●犬ぞりシュミレーター!
さて、肝心のみくずは、というと。
喫茶「スノー・ベル」のミルクたっぷりココアとケーキを楽しんでいた。
ガラス越しにスポーツエリアを眺めながら、「雪! 雪! いっぱいの雪! 素敵!」とはしゃいでいる。
甘党なので、限定ケーキも言うに及ばず、ほかにも販売していた甘味をほぼ制覇していた。
モンブラン(ケーキの)が売り切れだったのは、彼女によるものと思って頂いて良いだろう。
「さっきまで、雪遊び広場で雪だるまとか作っていたのです。雪合戦もしましたよー」
一般人のお客様(チビッコ達)と、ですけど。
「次はどうしましょう‥‥犬ぞりシュミレーター、やってみたいですね‥‥」
「じゃあ、一緒にどう?」
雀原 麦子(
ja1553)がノンアルコールビールを片手にぐいぐい開けながら、ぽつりと呟いたみくずを誘った。
「え、いいんですか?」
おどおどしつつ、でも嬉しそうなみくず。
「私もやろうと思っていたところなのよね。その前にお風呂を浴びてきたところ。ぷっはー、生き返る〜♪ 湯上りのビールは人類の至宝ね〜♪ これでノンアルじゃなければサイコウなんだけれど!」
まあ、アルコール入った状態で、お風呂とか、スポーツは、危険ですからね。
こうして2人は犬ぞりシュミレーターに向かうこととなった。
シュミレーターの外観は、まるでゲームセンターに置いてあるような、乗り込み型アミューズメントマシーンで‥‥戦場の何とかを連想して頂ければ、まあ、つまり、あんな感じです。
それぞれシュミレーターに乗り込み、2人で互いのマシンコードを選択し、「一緒に乗る」ボタンを押す。
犬ぞりが(バーチャルに)動き出した。
画面は360度モニタースクリーン、舞台は南極。
ガタガタと意外に揺れる。
「犬さんがんばれー!」
シュミレーター内は全く人目がないのを確認して、ちょっとだけ狐耳を出し、画面の向こうのわんこに手をふる、みくず。
「な、なかなか制御が難しいわね。ちょっと! そこを右じゃなくて左でしょ! うわっクレバス、ちょっとブレーキブレーキ!!」
手綱を握っている麦子が、バーチャル犬相手に苦戦している。
「なかなか面白かったです。有難うございました! えっと‥‥次、あたしが手綱係になっても、いいでしょうか?」
おずおずと尋ねるみくずに、ニコニコと笑顔で「いいわよー」と返す麦子ねーさん。
2人は再び、シュミレーターに入っていった。
●ギルティ、オア、ノットギルティ!
スケートリンク「バイカル」に、2人の美少女がレンタルコスチュームで降り立った。
「冬はスケートよねぇ、氷上の妖精としてパーフェクトに輝くのー!」
椿 青葉(
jb0530)がイナバウアーからのトリプルアクセル、そして見事な着地と、華麗な技を見せつける。
「キラッ☆ 決まりましたぁ! いかがですぅー先輩ぁい〜?」
対照的に、初心者用のバーからずっと手を放せない、ポラリス先輩(
ja8467)である。
スイーとポラリスの前まで来て、青葉は艶めかしく微笑んだ。
「ってゆーか、滑れないなら最初に言って下さいよぉ、ちゃーんと教えてあげるんですからっ」
青葉が右腕を差し出す。がっちり青葉の腕をホールドするポラリス。
「こ、こわいよおお」
恐る恐る1歩を踏み出し、転倒しそうになる。慌てて壁際に戻るポラリス。
「勢いをつけて滑り出せば転びませんよぉ。おっかなびっくりだと、腰が引けて、バランスが崩れますよぉ?」
勝利の微笑みを浮かべ、青葉は次々と華麗な技を披露して、観衆(一般客)の目を釘付けにした。
戦いは「久遠の湯」にて、続いていた。
広い湯船に浸かりながら、じぃ‥‥と青葉をガン見するポラリス。
(あ、やだ後輩のくせに私よりデカいじゃない。ギルティ!)
その表情に、余裕の笑顔を見せる青葉。
「せんぱぁい、どーしたんですかぁ? あっ! もしかしてぇ‥‥あたしのキュートさに見とれちゃったとかぁ? うふっ、さっすが青葉ちゃん! 魅力しかないって罪ね」
いや、魅力「しかない」は、色々とマズイ気がします。
せめて、愛と勇気も、お友達にしてあげてください。
「う、でも肌と髪のキレイさなら負けてないから! な、なによー貧乳じゃないしBはあるし!」
くわっと挑みかかるポラリス。
「あたしも、髪はちゃあんとケアしてふわふわ綺麗だしぃ、お肌はぷるぷるつやつやだしぃ、スタイルも良くて優しくてぇ、笑顔は神をも悩殺出来る可愛さじゃないですかぁ」
「そういうこと、自分で言うところが、まずギルティね」
「自慢じゃないですぅ。事実ですぅ」
「ライアー! わ、わ、私のほうが絶対に可愛いもん!」
後輩相手に何を必死になっているのか、ポラリスが噛み付く。
「さぁ、どうでしょうかぁ?」
それを余裕の笑みでいなす青葉。
「私のほうが可愛い」合戦は、「湯上り瓶牛乳一気飲み勝負」へと、持ち越された。
●フラッグレース
喫茶「スノー・ベル」に、仁科 皓一郎(
ja8777)と平野 渚(
jb1264)が訪れた。
「いいか、これが今回のフラッグだ。手段は問わないが、一斉にコースの天辺からスタートして、ここへ到着、フラッグを最初にとったほうが勝ちだ」
店の入口付近で、邪魔にならないよう、飾り棚にフラッグとなるハンカチを置いた。
皓一郎の動作を見守っていた渚が頷く。
ごそごそと何かをしているようだが、何だろうか?
「では、携帯で合図して、レース開始だ」
「ん。コイっちゃんはスノボ、私はソリ。理解した」
2人で携帯番号を交換し、それぞれのスタート位置に向かう。
(ウィンタースポーツ‥‥何年ぶり、かねェ?)
皓一郎は、リフトで「モンブラン」コースの頂上まで上がったあと、スノボで容赦なく勝ちに行った。一緒に滑っている一般客を巻き込まないように注意する。
(久々にやると楽しいもんだな)
風を切る感触が心地よい。
一方、渚は、ソリコースの天辺から滑り始めていた。
「‥‥奢り。‥‥奢り」
勝つ気まんまんである。
ソリで一気に滑空し、そして、その場にソリを残して喫茶「スノー・ベル」へと走る。
「君の犠牲は無駄にする‥‥」
それってソリに言ってるんでしょうかね?
2人が別々の方から走ってくる。
タッチの差で「スノー・ベル」の入り口付近へ。
「よし、今だ」
入口に隠しておいた雪玉を皓一郎の足に打ち込み、転倒を狙おうとする渚。
だがしかし、だがしかし!
「‥‥雪玉が‥‥ない」
喫茶には当然、暖房が入っており、渚の用意した雪玉は完全に溶けていた。
「人生は実に厳しい‥‥」
うなだれる渚。
渚が動揺しているうちに、ひょい、とフラッグであるハンカチを取り上げる皓一郎。
「これで俺の勝ちだな。奢りは‥‥そうさな‥‥珈琲牛乳を頼む」
「私、負けた‥‥?」
「ああ」
やむなく、自腹で珈琲牛乳を購入する渚。「‥‥はい」と差し出すと、皓一郎は「サンキュ」と受け取った。
「あと、別口で限定のチョコケーキを頼むか。甘いモン、割と好きでよ‥‥お前さんもどうだ? 一緒に食わねーか?」
「‥‥ん‥‥いいの?」
2人で、のんびりとケーキをつまみながら寛ぐ。
「おー、これが持って帰れるっつうスプーンか。V兵器が刻まれていてカッコイイな」
未使用のスプーンをセルフコーナーから1本拝借して、皓一郎は渚に手渡した。
「今日のお礼だ。遊んでくれて、ありがとうよ」
「‥‥ありがと‥‥コイっちゃん」
渚は不器用な笑顔を向けた。
(フラッグレース、意外と‥‥楽しかった‥‥)
●雪上訓練はダメよ
只野黒子(
ja0049)と北条 秀一(
ja4438)は、雪遊び広場で、雪上訓練を行うつもりであった。
「滑走に支障のない箇所への設置は前提条件として、当施設管理者へ雪での遮蔽物設置を申請し、許諾されれば雪で作成ですね」
事務所に入っていく黒子。
駄目でした。
「他のお客様にご迷惑がかかりますので、その、訓練のようなことは避けて下さい」
汗を拭いながら園長がぺこぺこと平謝りした。
「多くの方に楽しんで頂きたいのです。撃退士さん同士で本気で雪合戦は‥‥ちょっと‥‥」
「私が守ろうと望むのは、コミュニティ、なんです。私の力には過大。ゆえに自身の命は手札も同様」
黒子は、園長にはよくわからない回答をした。
出来るだけ穏便に、ほどほどに、とお願いをされ、何度も念押しされて、2人は雪遊び広場へ向かった。
(相手は見た目は幼女、でも中身は戦争にしか興味のない邪神のような生き物なので、気を抜くとこちらがやられる!)
最初は普通の雪合戦で、観客(一般人)も楽しそうに見物していた。
だが、徐々に秀一がヒートアップしてくる。スキルを使うために、我を忘れた。
「光纏!」
はい、アウトです。
「へ? え? ちょっと、ちょっと待ったー!」
どすプロステージに登場する悪役バイトのおにーさん(学園所属の撃退士)達に囲まれ、無理矢理、連行される秀一。
「雪合戦の公式ルールに則って模擬戦。その際、安定性や保温性、視認性の通常状態との差異を確認。1ゲームごとに防寒具や具足を前回競技結果からフィードバックして調整。身のこなしも重心の調整や転倒しない範囲での移動の緩急の限界把握、視認性低下に伴う連射速度の差異を同様に調整‥‥と、ここまで考えてきたのですが‥‥」
黒子はじっと、秀一の連行される様を見つめていた。
助けてあげなくていいんですか?
「自分で何とかするでしょう‥‥多分」
流石、黒子さんであった。
●楽しい時間はあっという間に
割引パスも切れ、めいめい支度をして帰ることになった。
「では、Beatriceさん、その時が来ましたら、お願いさせて頂くと思います」
あくまで腰の低い園長であった。
Beatrice本人は、お湯でつるすべ肌になったことで、大分機嫌は回復していたようだったが。
「また、来ようね」
「そうね」
「今度は恋人と一緒がいいなっ」
色々な感想が飛び交う中、人工島へ向けて、施設の送迎バスが出発した。
バスの中でラジオが、どこかの国を局地的な大寒波が襲ったというようなニュースを流していた。