●最初は下見!
一行は、浮かない顔のアリス・シキ(jz0058)に連れられて、屋内ウインタースポーツ施設にやってきていた。気合いを入れた服装の矢野 古代(
jb1679)が、30分ほど前から外で待っていた。
「そう心配することもないぜよ。ちゃんと戻ってくるから、信じて待つであるよ」
アリスの恋人が危険な仕事に赴いたことを知っている麻生 遊夜(
ja1838)が、元気づけようとして、アリスにケラケラ笑ってみせる。
「ウィンタースポーツのコースなどは他の仲間に任せておいて、俺は下見や情報収集を重点的に行おうかな」
二神・龍二(
ja0437)の言葉に、雀原 麦子(
ja1553)が頷いた。
「そうね。最初はそれぞれ遊んでみて、お昼にみんなで集まってご飯を食べながら意見会議っていうのがいいんじゃないかしら。私は古代ちゃんと模擬デートしながら、カップル視点で見て回るつもりよ」
そういう訳でよろしくね、と古代に手を差し出す。
「こんなおっさん相手で申し訳ないが、今日一日、よろしく頼む」
古代が恭しく麦子の手を握り返す。
「やたー! オープン前に遊べるなんて、むっちゃ凄〜い! へへー、スキーもスノボも、慣れてるし得意だし! まるで俺のために用意された依頼みたいだなっ!」
自前のウェアを持ち込み、えへんと胸を張る末松 愛(
ja0486)。俺とか言ってますけど乙女です。
「おおっ、何て美味しい依頼なんだっ! 皆で楽しんで、良い案だそうなっ!」
早速スキーのコースを遠目でチェックし始める水杜 岳(
ja2713)。
「他人の恋は蜜の味、自分の恋よりハチミツ食べたい、楠です。がんばりますー」
楠 侑紗(
ja3231)がぺこんと頭を下げる。
「すきー、すのぼ、すけーと‥‥ふうむ、移動手段を遊戯に昇華するとは、人の子は面白い事を考えるものじゃ。これだから人の子は愛しくて仕方ない」
神がかった外見10歳のロリババ‥‥失礼、自称神である白蛇(
jb0889)が、興味深く周囲を見回す。
まずはゲート。ここで入場料を払うことになっているが、モニターは全額免除なので、通過する。
そして無料コインロッカーに荷物を入れ、鍵を確認。マジックテープでどんな細い手首にでも巻けるようになっている。これなら子供でも、落とす心配は少ない。
ウェア持ちの愛は更衣室に消え、他の皆はサイズと趣味でウェアを選んで借りて、更衣室へ。
ちなみに、貸出品には、クリーニング済みの防寒肌着も揃っていた。
「雀原さん、きっと冷えますから、どうぞ使ってください」
使い捨てカイロを事前に購入していた古代が、さりげなく麦子に手渡す。
「麦子でいいわよ。一応、模擬デートだからね。私も古代ちゃんって呼ぶから」
(実際に荷物を借りてみましたが、さて、スキー経験が殆どないので、どうしたらいいのでしょう)
侑紗はウェアと格闘していた。係員にも手伝ってもらいながら、何とかブーツまで着用する。
「あ、自前のウェアはここで乾かすんだねっ。乾燥機も無料で使えるのかぁ、うん、いいねっ!」
乾燥室を見て回る愛。
回るコースをそれぞれ決めて、喫茶室での集合時間を決めて、皆、散開する。
スキー、スノボ、スケートを堪能する者たち、施設を見て回る龍二。
「さてさて、私たちは、どこから回ろうかしらね?」
古代の腕に麦子が腕を絡め、色っぽい声で尋ねる。
擬似デートもつつがなく始まった。
●お昼ご飯と意見交換!
ひとしきり遊んだり、見て回った後、風呂を使う者は使い、集合時間には喫茶店に全員揃っていた。
「ふむ。下見のため遊んでみたが、中々難しいし体が冷えるものじゃの。すまぬが風呂を貰ったぞ。わしは熱い茶と天ざるを所望する」
白蛇が注文すると、暫くして揚げ物の音が聞こえてきた。揚げたての天ぷらが、蕎麦、蕎麦湯と共に供される。白蛇が噛むと、天ぷらがサクッといい音を立てた。
「喫茶店なんだし、パンやコーヒー、パスタあたりが良いかな? コーヒーは種類が豊富にあると良いなと個人的には思うが‥‥レジャーのおまけの施設ならそんなにたくさんはいらないかな。喫茶店の内装は、暖色系のあたたかい雰囲気にしておけば、落ち着きがあって、ゆったりと休めるのではないだろうか」
龍二が提案する。喫茶店にはまだ壁紙は貼られていないため、壁はコンクリの打ちっぱなしになっていたのだ。更に龍二は続ける。
「なかなか感心したのは、避難口が確りとわかりやすく設置されているところだな。救護室もコース毎に備えられているし、病院へのホットラインもあったし、悪くない。喫茶に関しては、地元産の食材を使ったメニューがいいと思う」
実際に、事前にここ一帯の特産物を調べてリスト化したものを、さりげなく控えていた園長に渡す。
「俺は個人用に、地元食材をふんだんに使ったカレー推しであるな。カップルジュースやカクテル各種があると、もっと良いと思うぜよ」
「そうねー、やっぱりお風呂上りにはビールが欲しいわ!! ノンアルでもいいし、コーヒー牛乳も定番ね」
遊夜と麦子の提案に、白蛇が反応した。
「風呂があることを考慮するに、酒に弱い者は倒れかねん。年端も行かぬ者への教育にも悪い」
お酒の話に飛びました。
岳が「今はほら! 喫茶メニューの話題、だよなっ?」と軌道修正する。
「メニュー案だけど、やっぱ、温かい飲み物が欲しいな。ココアなんて甘さやトッピングでアレンジ出来ないかな? ビター・マイルド・ホワイトと選べて、トッピングはホイップやジンジャー黒蜜、きなことか、アイスもいいよね!」
麦子も同意する。
「あったかいものがいいわね。パスタとかピザとか」
「そうだなっ。あと、スープもいいと思うんだ。具沢山ミネストローネは基本で数種類用意してさ、チーズに拘ったオニオングラタンスープなんて、こういう施設だと珍しいだろ? あと、豚汁とか和食系も入れて、おにぎり、パンを選んでスープの量もLMSサイズ指定で調節出来れば、がっつり腹ごなししたい人から、小腹を満たす程度の人まで、対応できると思うんだ。作りおき出来るし」
岳が考えたメニューを披露する。
侑紗が淡々と園長に尋ねた。
「ご飯を食べられる他の施設との距離はどのくらいありますか‥‥?」
頑張って丁寧語で話しかける。園長は「近くに、レストラン併設のホテルがあります。歩いて10分もかからないと思います」と答えた。
(もし遠く離れているようなら、軽めの物だけじゃなくて、ある程度おなかが膨れるような物も出していただけると個人的に嬉しいかと思いましたが、どうなんでしょう、スポーツの後ですし、ラーメンとか、ご当地ラーメンとかを提案してもいいのでしょうか‥‥)
侑紗が悩んでいると、白蛇が口を開いた。
「わしは、飯は天ざる一択であるが、風呂に入らず休憩がてら飯を食う者もいよう。それを考えれば温かい蕎麦も外せぬ。うどんやらーめんも良いじゃろう。そして、水と米の味を最大限引き出す塩粥、雑炊も要るか。また疲れには甘味が良いと聞く。和洋関わらず菓子の類と茶も必要じゃな。ああ、和菓子は粒餡好きと漉し餡好きがおるゆえ、餡菓子は両方用意せねばなるまい」
コダワリが凄いです、白蛇様。
そして密かに、らーめんが提案されていたことが嬉しかったりする侑紗であった。
「俺の意見としては、まず、香辛料を用いて体を温めるメニューがあるといい。先程出たが、カレーは鉄板だろう。まあ、お子様向けに、香辛料なしのものもあっても良いかな。後は、全てのメニューにカロリーと塩分、代表的なアレルゲン食品の表示があると良いと思う。デザートも温かいものがいいだろうな。後は、ベジタリアン用のメニューも出来れば欲しいところだ」
「お風呂でほかほかしたあとに冷たーいアイス、も、なかなか捨てがたいけどね!」
古代の発言に、愛が加わった。
「施設の形に似せたケーキ、ってどう? まだ外装工事も済んではいないから、何色になるかわからないけど、施設外見が茶系ならキャラメル味とか、赤なら苺味とか!」
んーと考えて、更に提案する。
「お子様ランチのプレートの柄が、施設のイラストとかマスコットキャラとか‥‥あと、日替わりホワイトセットはどう? リゾットやグラタン、シチューとか、白い食事に拘ってみたり!」
めいめい、適当なものを注文し、食べながら語り合う。
貸切状態だからなのか、料理はどれもアツアツウマウマで、高評価だった。
‥‥混雑状態でも、このクオリティで料理を出せるのかは心配だったが。
続いて、ぼっち参加の対策に話題が移る。
「一番、景色が良いところに、お一人様向け専用席を作って、専用メニューを出すのはどう?」
愛が提案した。
「ゲレンデを見つつ、のんびり出来る場所があると良いのぜ」
遊夜も愛に同意する。
「一人でも気兼ねなくゆっくり座れるスペースが欲しいのは確かだね。例えば窓向きに横一列のテーブル席を、間隔もそこそこ空けて、小物入れも置いて、ちょっとふかっとしたいい感じの椅子にするとか。若しくは、ストーブを囲むようにぐるっとソファを並べて、好きな所に座れるのとか」
岳が具体的なイメージを伝える。
「喫茶店内に個人席を作るのは賛成だ。カップルにはペア割引を導入し、おひとり様でもカップルペアにも適用できるポイント制にするのはどうかな? ペアの貸し出しウェアをお揃いにするとか」
古代がゆっくりとコーヒーを口に運んだ。
「少し話は飛ぶのじゃが、げれんでの上に展望風呂を設置できぬものじゃろうか? 硝子に蔦を這わせれば覗きも出来ぬじゃろ。斯様な施設で望遠れんずで写真を撮る者も居るまい。望遠れんずは許可制とし、非許可の者は拘束すればよい」
白蛇が提案する。皆、悩みこんだ。目隠し案と、硝子のくもり対策はいいとしても、それでは浴室から外が見えない、見えても開放感がない、ということが大きくデメリットとして挙げられた。
「ゲレンデが見渡せる風呂、には惹かれるものがあるのぜ。ただ、難しそうではあるやな」
遊夜がふうむと腕を組む。
「寧ろ、待ち合わせ用にも使える休憩室を、今のお風呂の隣に作ったほうがいいんじゃない? マッサージチェアとか置いて、コーヒー牛乳とかノンアルコールビールの販売機を置いたりして」
麦子が希望を述べる。
「水質を変えた湯を幾らか用意したり、サウナや歩ける浴槽もあっていいかもしれない。俺は将棋や囲碁、チェスなどのボードゲームが、休憩室にあるといいと思う」
ぼそりと龍二も呟く。
そして話題は新施設へ。
「託児所を設けたり、初心者コースでの子供スキー教室もいいかもな。ナイター営業もあると嬉しい」
古代が「その場合、宿泊施設が必要になるが」と続けた。
「ナイターするなら、日を跨げるように、カプセルホテル的なものがあれば良いと思うのぜ。次の日の料金が割引になるサービスも欲しいであるな」
遊夜も頷く。園長は「近くのホテルと提携すれば実現可能ですね」とメモを取った。
「思い切り雪遊びが出来るスペースが欲しいな。スノーチューブやソリ、雪合戦にかまくらも作れる様な。大人も遠慮なく楽しめる様に、子供用(雪ん子広場)と大人用(雪男広場)と共通スペース(皆の広場)とわけてさ、かんじき体験とかどうだろ?」
「かんじき体験は興味深いぜよ。スノーモービルとかにも乗れるとこが欲しいやね。レース用や自由コースがあると尚良いが、カップルでのんびり乗るのもありだやな」
岳の提案に、ケラケラと楽しそうに笑って便乗する遊夜。
「すぐには無理かもしれないけど、犬ぞり体験とかあると面白いわね。珍しいものを体験してみたいし、子供から大人まで楽しめるかなと。あとはタイムアタックコースでランキングを競うとか?」
麦子が提案する。「ランキング上位は撃退士で埋まりそうであるな」と遊夜はケラケラ笑った。
「各施設に、マスコットキャラを設定できねーかな? スキーは兎、スノボはオコジョ、とか、冬毛が白くなる生き物を使って。案内板と一緒に、動物がスポーツしてる絵が在れば、小さい子でも解り易いし。着ぐるみまで用意できれば、色々展開できる‥‥かもね。グッズとか」
愛が思いつく限りの動物を提案してみた。雷鳥、梟、白熊、狼、イタチ、猿、狐、イイズナ等。
「あと、この施設専用アイドルグループを作って、どす恋達とのコラボとか!」
「そうさな、スケートしながらのお子様参加型のヒーローショーや、彼氏が彼女を助けに行ったりのアイスショーを、打診してみるのも良いだやな。定期的に演目を変えたりしても良し」
「どす恋プロミネンスの佐村さんに、冬季限定のショーを提案してみては。折角なので、開園記念公演を謳ってやってみてはどうでしょうかー、とか」
愛も遊夜も侑紗も、どすプロを巻き込む気満々であった。
●そして、ネーミング案が並ぶ
園長が、皆が挙げていった名前案を、喫茶店の黒板に並べて書いた。
施設候補
「あが☆るた」「アイスガーデン」「常雪の里」「AMPウィンタースフィア」
喫茶店候補
「雪茶房」「和み雪」「こたつみ館」「六花」
浴場候補
「幸の湯」「ローマ」「ホットスノウ」「ホットジュピター」
その他
スキー「チョモランマ」スノボ「モンブラン」スケート「バイカル」
「こーすや施設の名前は余り考え付かぬ。難易度に見合った高山の名をつけるのも良いかも知れぬ。こーすには名前だけでなく難易度も並列表記を忘れぬ様」
白蛇が腕を組んだ。
園長は皆に感謝し、これからお客様投票にかけようと言い出した。ついでに、バイトアイドルグループの募集もかけてみるそうである。
●さて、遊ぶぞう!
モニターとしての務めを果たし、皆は思い思いにウィンタースポーツを楽しんでいた。
突然、けたたましく警報が鳴り響く。
「火事が発生しました! 至急、係員の指示に従い、避難してください!」
愛が事前に仕組んでいた避難訓練である。だが、シークレットだったため、他の皆は「火元はどこだろう?」と首を傾げつつ、指示に従って避難した。
(うん、避難口も通路も誘導も完璧だねっ。これなら開園してもそこそこ安心できそうかな?)
何食わぬ顔で避難に加わった愛が、胸中で頷く。
訓練と分かり、胸を撫で下ろす皆。同時に、係員の手際の良さ、園長の指導の徹底ぶりに感心する。「ご協力有難うございました!」と一斉に頭を下げる従業員たち+園長に見送られ、再びゲレンデへ。
「遊夜! 一般人の力でわざと押して、転ばせてみてくんねー? 危ない場所は無いか、探してみるのと、救急センターまでの連絡とか通路とか、分かり易いか調べたいんだっ」
「オーケーぜよ! ていっ」
愛は遊夜とスケートリンクで、更に安全性を確かめていた。ステンと転ぶ‥‥防寒ウェアが衝撃を吸収してくれる。救急センターもわかり易い位置にある。合格だ。
満足した愛はその後、皆と同様、遊夜とスケートを堪能した。