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マスター:神子月弓
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/10/21


みんなの思い出



オープニング

●一足お先に予行演習

 久遠ヶ原学園内の、こども英会話教室。
 ここでは、撃退士の子供たちが集まって、英会話や英語の歌などを学んでいる。

 世間は10月、10月といえばハロウィーンである。
 この英会話教室でも、概ね月末に、先生も生徒も全員仮装して、「トリックオアトリート」と言いながら街を練り歩くのであるが、何しろ、「こども」英会話教室、である。
 やんちゃ盛りで、言う事を聞かない撃退士坊や・お嬢ちゃんが、わんさと席を連ねている。

(これは、街の皆様にご迷惑をおかけしないように、演習が必要かな‥‥)

 先生方は悩み、何度も会議を開き、そして早めの時期に予行演習を行うことに決めたのであった。

●依頼斡旋所にて

「所長、変わった依頼が来ておりますのー」
 お茶汲み兼秘書もどきの、アリス・シキ(jz0058)が依頼ネットから、見つけ出した。

「依頼人は、こども英会話教室教員一同、となっておりますの。依頼内容はハロウィーンの予行演習だそうですわ。英会話教室の近隣の商店街にもご協力頂き、本番のつもりで全員、仮装して、いわゆる『トリックオアトリート』を行って欲しい、とのことです」

 依頼内容を読み上げるアリス。

「集合は夕方、こども英会話教室前にて。初等部のかたがいらしたら、英会話教室の子供達と混ざって、お菓子を『もらう側』になってください、とのことです。中等部以上のかたは、お菓子を『配る側』として、参加してください、とのことです。お菓子は、ドッキリ要素もありますので、そちらでご用意ください、と書いてありますわ。あと、予行演習中は、英語以外の言葉、つまり、日本語も禁止だそうです」

「簡単そうに見えて、なかなかシンドい依頼だねえ」
 所長は素直に感想を漏らした。


リプレイ本文

●打ち合わせ


 こども英会話教室の裏手で、先生方とバイトの学生撃退士たちは顔合わせをした。
 先生たちはそれとわかるように、皆、同じ仮装をしている。ジャコランタン(と聞こえた)の仮面をつけて、黒いローブをかぶっている。先生の総数は5人、うち一般人が2人である。
 子供たちは、20人の予定だったが、急な熱や風邪で欠席者が出て、14人となったそうだ。

 すっと、ピエロ風仮面+黒い服装の平山 尚幸(ja8488)が進み出て、バイトの学生撃退士たちで事前に話していた内容を先生方に伝えた。

 若い人は、ピストル型のクラッカーで驚かすこと。
 心臓の弱いお年寄りには、中国の不死妖怪のように、顔にぺたりと貼り紙を貼ること。
(カーディス=キャットフィールド(ja7927)によって、色とりどりのパンプキンや蝙蝠模様の紙が用意され、「トリックオアトリート」と書かれている)

 イタズラが過ぎたり、悪いことをした子供には‥‥

 視線が、魔女の付き添いの黒猫さんに変装した草薙 胡桃(ja2617)に移る。
 胡桃の出で立ちは、真っ黒のミニ丈尻尾つきワンピースに、黒の猫耳カチューシャ、ミニハットにロングブーツと網タイツであった。
「悔しいけど私が作る料理やお菓子って、兵器並みに不味いから。一応手作りのお菓子を持って来たよ。‥‥味は、ゴメンね。やっぱり駄目だった。とはいえ、本当に兵器にするわけにはいかないから、そこまでではないはず‥‥」
 自信なさそうに、パンプキン型のクッキーをドニー・レイド(ja0470)に差し出す胡桃。
「ドニーさん。よかったらこのお菓子、食べてみてもらえませんか? そこまで兵器ではないですよね?」
 
 軽くメイクも施し、グロテスクにならない程度に肌色も薄くして、飾り物の硬質ゴム製大鎌も用意し、本格的に「ぼろぼろの死神のローブ」に化けたドニーが、恐る恐るクッキーに手を伸ばす。

 ぱく。

 ‥‥即座に英会話教室裏の水道でリバース。

「レ、レイド‥‥!」
 吸血鬼に仮装した桜木 真里(ja5827)が、駆けつけて、用意していた胃薬と水を渡す。
「だ、だ、大丈夫‥‥白砂糖の飽和溶液を口にしたと思えば‥‥」

 そう。胡桃の作る料理は、全て兵器並みの甘さなのだ。

「皆さんもどうぞ♪ たーくさん作って来たんです。モモの小等部6年での最後の依頼ですし!」
 ざざっとひきまくる大人たち。

「あ、味がわかりましたので、2度目からは大丈夫です。確かにこれほどすごいオシオキ菓子は無いような‥‥」
 がぶがぶと水を飲んで落ち着き、ドニーはなんとか微笑を取り戻した。
「子供たちの前では演技抜きに悶え苦しめる自信ができましたよ‥‥」
「ムチャシヤガッテ‥‥あなたの犠牲は無駄にしないのです」
 茶虎猫の着ぐるみにぴこぴこハンマーを持ち、カーディスはほろりと目を押さえた。

「班分けについて話した結果、2人1組で子供たちを見たらどうかなと思っているの!」
 アティーヤ・ミランダ(ja8923)が元気いっぱいに、先生方に説明した。
 その姿は自作の猫妖精ケット・シー。マントと王冠をはじめとする王様ルックと猫耳猫しっぽ。腕にしがみつき黒猫ぬいぐるみをつけている。

 A班:ドニー・レイド、草薙胡桃(子供役)
 B班:桜木真里、雨宮祈羅(ja7600)
 C班:カーディス=キャットフィールド、平山尚幸
 D班:アティーヤ・ミランダ、アンナ・ファウスト(jb0012)(子供役)

 魔女帽子+黒いケープとワンピースで、魔女に変装したアンナ・ファウストが、胡桃のクッキーに用心してミネラルウォーターを持ち込んでいる。
「お揃いですわね」
 とんがり魔女帽子にとんがり靴で黒いドレスのアリス・シキ(jz0058)が小さく声をかけた。
「あ、あの‥‥それで、わたくしは何をすればよろしいのかしら?」
 尚幸が「じゃあ撮影をよろしく。最後に集合写真を撮るから、その分は残しておいてくれよな?」と、アリスに使い捨てカメラを手渡した。

 先生たちの案内で、ご協力頂ける商店街を事前に見て回る。賑わう商店街には、子供からお年寄りまで多くの人が居て、今日の予行演習のために、あちこちで簡単な仮装を作っていた。

「さて、そろそろ英会話教室前に行きましょうか。集合時間が迫ってきました。あちらで待機している先生にも、色々と連絡しませんとね」
 先生の一人が腕時計を見て、携帯を取り出した。


●子供の味覚は恐ろしい 〜ここから先の会話は全て英語です〜


「ハッピーハロウィーン!」
「トリックオアトリート!」
「トリックアンドトリックだろ、そこは!」
「なーなーせんせーの顔にマジックで鼻毛かいていい??」
「やだー、スカートめくるのはダメー! えっちー!」

 英会話教室前は、かなり早くから待機していた先生(2人)では手に負えないくらい、子供たちがはしゃぎまわっていた。仮装こそ急ごしらえだが、当人たちはもう本番のつもりで暴れまわっている。
「でーすーかーらー、してもいいイタズラは、貼り紙とクラッカーだけですよー! 先生の話を聞いていますかあー!?」
「イエスマーム!」
「お菓子を頂いたら御礼を言うんですよー! イタズラはお菓子がもらえない時だけですよー!」
「イエスマーム!!」

 マジックで眉を書かれた犬が逃げていく。
 本当? 本当にちゃんと言いつけ守れるの? この子たち。
 念のため、カーディスが前へ出て、「よーし、お兄さん達と約束しよう!」と手品で紙吹雪を出した。


 【お菓子をもらう際のお約束】
 その1! きちんと元気よく挨拶をする! 「トリックオアトリート!」
 その2! お菓子をもらったらちゃんとありがとうと言う!
 その3! 悪戯をする時は力を加減する!


「貼り紙とクラッカーは用意してあるからな」
 カーディスが、貼り紙について説明をする。
 続いて胡桃が、「皆で鳴らすと一回で終わっちゃうから、順番を決めて。クラッカーを鳴らした後、皆で声を揃えてトリックオアトリートだよ!」と子供たちにジャンケンで順番を決めさせた。

「そしてそして‥‥言うことを聞かない子には、これを食べさせちゃうんだぞー?」
 胡桃が高々とパンプキン型クッキーを掲げ、ドニーに手渡す。
「グハァッ!‥‥ハァッ‥‥ハァッ‥‥!」
 ぼろぼろの死神のローブが、悶え、苦しみ、何かを求めるように宙に手を伸ばし、ばたっと倒れた。中の人(ドニー)は心の中で、(水! 水をくれー!)と叫んでいた。
 幾ら兵器的甘さであったとしても、子供の前で、食べ物を粗末にしてはいけない。
 ましてリバースなど。
 ふるふると(演技ではなく)震えながら甘味地獄をなんとか飲み下そうとしているドニー。
 アンナが駆け寄って、ミネラルウォーターを渡す。

「スゲー! そのお菓子食べてみたい!」
「ぼくも!」
「わたしも!」
 その頭上を、恐れ知らずな子供たちの声が飛んでいた。
 想定していた反応と違う。胡桃が驚いてあわあわする。
「や、やめといたほうがいいよ?」
「あのお菓子、食べたいですか? 私は絶対に嫌ですよ」
 アンナも小声で、さりげなく止める。
「ヤダー!」
「ちょうだーい」

 甘味地獄に挑戦した子供たちは、糖分が文字どおり糸を引くクッキーを平然ともぐもぐしながら、「甘ーい」「ベタベタするー」「せんせーお茶ちょーだーい」と、さして堪えた気配はなかった。
(確かに子供は甘いものが好きだけれど‥‥オトナとは味覚が違っちゃうのかな?)
 アティーヤが小首を傾げた。
 急ぎ、バイト撃退士たちで輪を作り、オシオキになりそうなお菓子を物色する。

 ドニーの赤いグミ‥‥は、普通に美味しそう。
 胡桃の兵器的激甘クッキーは、見事に威力を失った。
 真里の美味しい洋菓子店のフィナンシェは、むしろご褒美。
 祈羅のクッキーも普通。
 尚幸の味いろいろキャンデーに1つだけ混ざった青汁味は、引き当てるのが難しそうだ。
 アティーヤの一口サイズのチョコは普通だろう。
 アリスのクッキーも普通だ。

 カーディスのミニパイ(内訳:アップルパイ、パンプキンパイ、ドッキリ用お菓子トマトパイ)は‥‥ん? トマトパイならいけてないだろうか?
 野菜嫌いの子供は多い。これだ。これしかない。

 新たなる兵器を得て、バイト戦士たちの子守作戦が始まる。


●トリック・オア・トリート練習中!


 手始めに、自分たちからトリックオアトリートを開始する。
 決められた順番で、1人がクラッカーを鳴らし、続けて一斉に「トリック・オア・トリート!」と叫んでお菓子をねだる子供たち。
「皆、迷惑をかけるようなことをしちゃダメですよ。いい子にしていたらお姉さんがお菓子を分けてあげます」
 子供達でも年長であるアンナが周りの子供たちに言い含めた。

 思いがけず最初の標的となった真里は、驚いて「わ!」と声を上げた。そして苦笑しながらフィナンシェを配る。子供たちが嬉しそうにお菓子を頬張るのを見て、自然と微笑しついつい皆の頭を撫でてしまう。

「‥‥受け取れ、お前達の好きな物だ」
 挨拶に応えて真っ赤なグミの袋詰めを渡すドニー。死神のぼろローブらしく、精一杯凄みを効かせて演技をする。グミ自体は普通にストロベリー味で、可愛い形のものも入っていた。

「私の兵‥‥クッキー、食べ尽くされて、無くなってしまいました。配るものがないですー」
 しょげる胡桃に、アリスが手焼きのクッキーを渡す。
「わたくし、撮影係ですもの。どうぞこちらをお使いくださいませ」

 ポン、と手品で煙と同時にお菓子を出し、子供たちを喜ばせるカーディス。
 あの「オシオキ用の」パイは隠して、普通のミニパイを配る。

「ほーら、少年、少女達、キャンディーあるぞー」
 尚幸は挨拶に応えて、味いろいろキャンディをひとつずつ配った。
「中に、ひとつだけアタリがあるからな?」
 ニヤっと口の端をつり上げる。まだこの段階では、青汁味は埋もれていて出てこなかった。

 先生方にもひととおりトリック・オア・トリートを終えたところで、いざ、商店街へれっつらGOである。


●トリック・オア・トリート、予行演習スタート!


 商店街は、予行演習のビラが配られていたためか、日が暮れてもシャッターを開けたまま、子供からお年寄りまで、様々な人が簡単な仮装をして待ち構えていた。
「おやぁ? ハロウィーンにはちぃと早くねが?」(日本語)
 英会話教室の予行演習と知らないお客さんに、店主が説明する。

 ハロウィーン♪ ハッピーハロウィーン♪ 

 そこへ、英会話教室が独自に作ったハロウィンソングを歌いながら、一団が現れた。
 商店街を練り歩き、貼り紙をぺたぺたとあらゆる人に貼り付けては(クラッカーはピストル型ということもあり、面白がって、皆すぐに撃ち尽くしてしまった)、お菓子をねだる子供たち。

 勿論、行儀よく順番に、なんて訳が無い。

 あっちへ行き、こっちへ行き、金魚鉢に手をつっこみ、野良猫を追いかけて走り回り‥‥。
 子供たちは、確かに先生が困って依頼を出すほど、やんちゃ盛りであった。

「はーい、列に戻ろうねぇ〜」
「そちらではなく、こちらです」
 外側からアティーヤが、内側からアンナが見張る組。

 一方で、引っ込み思案な子も結構居る。

 そっと内気そうな子に寄り添い、お菓子をくれる他の大人を無言で指差すドニー。
 それでも、もじもじしてしまう子供。
「‥‥無理はしなくて良いが。行った方が、楽しい」
 貼り紙を渡して、そっと背を押してあげる。

 きょろきょろしたり、そわそわしていたり、何だか真里の目に、気になる子供が映った。
「すみません、祈羅さん。あの子の様子がちょっと気になるんですけど、どう思いますか?」
「あ‥‥お手洗い、かも。近くのお店で借りられるか、聞いてみるよ!」
 黒猫ルックの祈羅がその子に付き添って、商店街の店の中へ消えていった。
 すぐそばで、今度は子供同士の揉め事が。
「お、俺がもらったんだぞ!」
「オレだよ!」
「なら、アウルパワーでしょうぶだ!」
 決闘を始めようとした2人の頭をぽふぽふして、真里は微笑を浮かべた。
「駄目だよ、こんなところで、人に迷惑を掛けちゃうようなことは。近くのお店の人や、お客さんが困っちゃうよ? 袋を開けて、2人で半分こにしよう?」
 
 こちらにも、お菓子決闘を始めようとしていた子供が2人。
 カーディスに、おもちゃのハンマーで頭をぴこぴこ叩かれていた。
「悪戯好きな子供達ー、やり過ぎると怖い事があるかもよー」
 尚幸が察して警告する。それを無視してお菓子争奪戦を続けようとする子供2人。
 ぽふっと煙と共に、カーディスがミニパイの包みを取り出した。
「そんな元気なお2人には、これをあげましょうね」

 ――最終兵器、トマトパイ。

 もふっと着ぐるみに抱きしめられて、子供2人は動けない。
「食べ終わるまで、お兄さん放しませんよー?」
「何だいこんなの。へーきだもんね!」
 強がってミニパイを口に含む子供2人。みるみる、蒼白になる。
 思わず口から吐き出し、わんわん泣き始める。
「げーまずーっ!!」
「こんなの食えないよー! トマト嫌ー!」

 野菜嫌いの子供には、てきめんに効いたようだ。

 今しがたまでイタズラに励んでいた子を、超悪い顔をしながら屈んで後ろから肩を組むようにして抱き寄せ、アティーヤは囁いた。
「‥‥あの猫さん、呼んじゃうぜぇ?」
 子供たちは、俄然、イイコになった。


●記念撮影!


 日もとっぷりと暮れ、商店街の賑わいも収まり、子供たちは英会話教室の前で保護者と合流した。
「はい、皆様、近づいて微笑んで下さいませ」
 アリスが記念写真を撮る。それまでも地道に子供たちを撮っていたため、この3枚でカメラの役目は終わる。
 撮影が全て終わると、子供たちはバイト戦士たちと握手したり、抱きついたりしてから、保護者に連れられて帰っていった。
「ばいばい、おにーちゃんおねーちゃん!」(英語)
「まったねー!」(英語)

 手を振って見送るバイト戦士たち。
 疲れた。本当に疲れた。子供ってどうしてあんなに元気なんだろうか。
「お疲れ様でした。本当に有難うございました」
 英会話教室の先生たちに頭を下げられ、ちょっと名残惜しい気持ちになりながら、解散した。

「あ」
 撮影済の使い捨てカメラを尚幸に返してから、アリスは自分を1枚も写していないことに気がついた。


依頼結果