●準備は万端!
伊南フーズの実態が明らかになった今、荒ぶる佃煮との決戦、ならぬ、追いかけっこが幕を切って落とされようとしていた!
マリカ先生(jz0034)からの情報を元に、事前に用意してきたもの。
事態を見てから、そっと倉庫を抜け出し、買い出しに街へ走ったもの。
様々いたが、要するにこんな感じである。
虫捕り網と大きめのポリ袋、ハエ取り紙を用意する、影野 恭弥(
ja0018)。
コンビニでチンしてもらった白米と割り箸、粘着力の強いガムテープを構えたアーレイ・バーグ(
ja0276)。
「あ、あの…お、おはしもつけて、なの」
近所のコンビニで、おどおどとごはんを買ってくる、エルレーン・バルハザード(
ja0889)。
捕虫網を用意する礎 定俊(
ja1684)。
「食べる準備は万全です。さぁ、張り切っていきましょう!」
白飯が入っている炊飯器と人数分の箸&お椀を用意する或瀬院 由真(
ja1687)。因みに彼女は、肩から提げる虫篭にとりもちを入れた物を複数用意し、バトルフライパンにも、とりもちを貼り付けていた。
虫取り網と数個の虫かご、割り箸、ガムテープ、お茶を買い揃え、塩おむすびを作ってきた牧野 穂鳥(
ja2029)。
全身茶色のウェットスーツで足は蹄、馬のマスクを被り、焦げ茶色の腰布を巻いている(つまり、いつもどおりの姿の)金鞍 馬頭鬼(
ja2735)。
発送用ダンボール箱と梱包用テープを用意した糸魚 小舟(
ja4477)。こっそりとサンドイッチパンに、お菓子も用意してある。
「お手拭きも買いましたのです〜♪」
マリカ先生もコンビニで、アルコール除菌ティッシュを購入していた。
さあ! 食べる準備は出来ている! いざゆかん、勇者たちよ!
●刮目して見よ、マスクドイナゴーパワー!
まず、いつもどおりにニット帽をかぶり、風船ガムを噛んでいる恭弥が、倉庫の入口付近にハエ取り紙を設置した。
馬頭鬼は倉庫中の窓・扉を閉めきった。
由真が、倉庫の出入り口から恭弥に向けて佃煮を追い立て、挟撃を試みる。
逃げられないように2人で追い詰め、見事に包装済み佃煮をキャッチ!
トリモチのついていない側のフライパンで由真が叩き、コンテナにシュートッ!
「ふむ。やってみれば案外簡単か。しかし何故佃煮が動いている?」
恭弥は、ハエ取り紙にくっついた1匹(OPで少しばらけたヤツ)を、つまんでしげしげと眺めた。
佃煮イナゴは、光纒していた。
‥‥いや、光纒とは違う何かであった。
あえて描写するなら‥‥「ゆらめくオーラをまとっていた」?
え、つまり光纒じゃないかって?
アウルパワーではなく、マスクドイナゴーパワーなので、光纒ではないのです。念のため。
「”普通は”イナゴで摂取できるのはカルシウムで、コラーゲンは期待するほど含まれてませんけれどねえ」
定俊がおっとりと言った。
はい、その通りです。
このゆらめくオーラ(賞味期限10時間で切れる)に、お肌ぷるぷる成分+旨味成分が凝縮されているのです!
観察が終わると、小舟が物欲しそうに恭弥の手元を見ていた。
思わずつまんでいるイナゴ1匹(の佃煮)差し出すと、嬉しそうに小舟はサンドイッチパンに挟んだ。
もぐ、もぐ、もぐ
「待て。そこは、パンではなく、メシではないのか?」
思わず呟く恭弥。
「‥‥邪道、でしょうか‥‥?」
言葉少なく返す小舟。
と。小舟の体に変化が起こった。
アニメの魔法少女の変身シーンのように、全身を光が取り巻く。
全てが終わると――、
『お肌も長い髪もつやつやのぷるぷるのすべすべ、手先足先までイキイキと活力にあふれ、美人度も300%以上アップしている、まぶしげな美少女』
――が、そこに立っていた。
1匹の佃煮サンドイッチでこれだけの効果が出るとは、恐ろしいぞ、マスクドイナゴー!
「ふむ‥‥!」
アーレイの目に、真剣と書いてマジと読む炎が宿る。
「百近い数の依頼をこなしたこのあーれいといえど、こんな相手は初めてです。とはいえ相手は只の佃煮。ぷるんぷるんの胸‥‥はもう持っているので、あのように、ぷるんぷるんのお肌をGETするべく頑張りましょう!」
「あんなふうに、私もかぁいく、おはだぴかぴかてやてやになるのっ!」
エルレーンもやる気が倍増した。
「こ、このぷるぷる感‥‥! 触ってみるまでも無いたまご肌のてやてや感‥‥素晴らし過ぎます!」
由真がおっとりと小舟に見とれた。
言葉を発することも出来ず、ただただ、うっとりと眺める穂鳥。
「素晴らしい‥‥! 自分のこのウェットスーツがぷるぷるになるのが楽しみでなりませんね」
馬頭鬼が気合を入れる。
あれ? このウェットスーツって、馬頭鬼さんのお肌なの?
馬マスクやウェットスーツがぷるっぷるになるって‥‥え?
「んん? 不思議だ、なんにも聞こえないなー!」
全てはアウルの力なのでしょう。アウルパワー便利! 賞味期限もないし!
●捕れるぞ、逃げるぞ、大捕物
さて、女性全員+馬人の士気があがったところで、佃煮との追いかけっこは続きます。
実際に食べた人を見た以上、もう何も怖くない。
寧ろ羨ましい。
縮地と併用して一般スキルの感知・跳躍を活かし、(OPで)開封した佃煮を一匹も逃がさず捕まえ、ばりぼりと食す馬頭鬼。
「実に生きが良いですねぇーいただきましょう! む、‥‥これは‥‥? イナゴの佃煮! それ以上でも、それ以下でもなくッ! どう味わっても普通の佃煮です、本当にありがとうございましたッ!」
声を残して馬頭鬼が光に包まれ、ハイパーぷるりん馬頭鬼へと変貌する。触っても触っても、ウェットスーツがぷるっぷるてかてかツヤツヤに変貌している。
思わず、ボディビルダーのように、あれこれとポージングを決める馬頭鬼。
「お馬さん‥‥ぷるぷる肌というか、毛に艶が出たという、か?」
小首をかしげる由真。思わず見とれる穂鳥。
「触っても、いいのよ?」
チラ、と仲間に視線を送る馬頭鬼。
「ぷるぷる? おうまさんぷるぷる?」
エルレーンがもにゅもにゅした。
ほかの皆は、それどころではなかった。
淡々とコンテナに佃煮を閉じ込めていく恭弥。
「マリカ先生もどうぞ?」
恭弥に渡されたはぐれ佃煮を食べて、光に包まれ以下略な先生。
「マリカ先生の敵〜!!」
アーレイが異界の呼び手で、面倒くさそうな相手を捕獲する。
え、敵なの?
先生、キレイになれて、超・舞い上がってますよ?
敵だったの!? もしかして昇天扱い!?
「骨は拾って差し上げます」
にっこりと笑うアーレイであった。
そして包装が破れないように慎重に踏みつけながら、
「イナゴの分際で全く! あーれい様とお呼び!!」
と佃煮に命令していた。
馬頭鬼の手触りを堪能したエルレーンは、自分もかぁいくなろうと、壁走りの術で先回りして佃煮を捕まえ、影縛の術で梱包ごと束縛し、梱包用テープでくっつけてコンテナに押し込む、という手段をとった。
「いきのいいつくだになのっ、これはそうとうなこらーげんが入ってるに違いないのっ!」
コラーゲンではなく、マスクドイナゴーパワーです。
定俊は虫取り網とハリセンで佃煮を捕獲していた。容器が壊れないように手加減をしてハリセンで打ち、動きがとまったところを虫取り網ですくい上げる戦法だ。
(見ている分には、いいんですけどねえ)
おっとりと馬人を見つめる。
(いくら美味しそうとはいえ、ツッコミ所満載の食品もどきを口にできるほど私は勇者じゃないです。それに、万が一、人には言えないようなところが、プルップルのツヤツヤになりでもしたら、目も当てられないじゃないですか‥‥)
どこそれ、とか突っ込むのはナシでプリーズ。
定俊が捕獲した佃煮は、梱包テープでコンテナの内壁に厳重に貼り付けて、次の佃煮へ。
「逃がしませんよ? 貴方達は、ここで私のお肌の糧となるのです!」
由真がとりもちで格闘している。
穂鳥は、難しそうな相手を狙い、異界の呼び手で足止めをしてから虫取り網でキャッチし、虫かご内にリリース、という戦法をとっていた。何度か繰り返し、全てのかごが一杯になったら梱包テープで蓋をとめて、虫かごごと、コンテナへ詰めこむ。
300%美少女になった小舟は、一生懸命に走り回り、手で佃煮(包装済み)を捕獲しては、ダンボールに閉じ込めていた。
●スーパーてかてかタイム到来!
遂に、全てのイナゴ佃煮を回収することができた。ハエ取り紙の効果はかなり偉大であった。
ご飯や炊飯器、塩おむすびなどを用意して、万全の体制で佃煮を食す構えを見せる女性陣。
穂鳥が皆にお茶を配って回る。
(マスクドイナゴーとは、何者だったんだ?)
恭弥が痕跡を調べてみるが、塵の一つも残ってはいなかった。
同じく、定俊も手持ち無沙汰なので、倉庫内の机やパソコンを物色してみた。
(先生の他にも注文しちゃった人がいるかもしれませんし、伝票とかが見つかるならば、発注した相手に対して事情の説明なり返金の手続きなりも必要でしょう)
暫く探ってみると、どうやら、マリカ先生がポチったあの広告が、ベータ版テスト広告であり、他に手をつけたお客はいないことがわかった。
(きっと黒幕がいるに違いないんですが〜、手がかりはないですね)
恭弥と定俊の2人で調べてみても、それ以上のことはわからなかった。
マスクドイナゴーとは何者だったのか。そのチカラはどういうメカニズムなのか。
真相は闇の中である。
一方で。
「いただきまーす!」
「いただきまぁす」
即座に逃げ出しそうになった佃煮に、クリスタルダストを打ち込むアーレイ。しかし逃げ出したイナゴは吹き飛んでしまい、狙ったように氷にはならなかった。
「それでは‥‥いざ迅速に、頂きます!」
由真は佃煮を取り出し、すぐに御飯にイナゴをぶっ刺し、素早く食し始めた。なかなかいい手段である。
何倍でもご飯がおかわりできそうなお味。
大丈夫、炊飯器におかわり分のご飯がたくさん炊けている!
「見るだけなら子供の頃、飽きるほど見たものですが‥‥食べる、というのは初体験ですね‥‥」
穂鳥が、逃げそうになる佃煮をご飯に沈めながら、しげしげと見つめた。
(稲穂の中を飛び跳ねていたあれが煮込まれたと考えると‥‥想像以上にグロテスクなような‥‥。あ、今、眼と目が合っ‥‥てないです。錯覚ですね。これは、お惣菜お惣菜お惣菜‥‥」
麗しく変身した小舟を思い浮かべながら、震えるお箸で佃煮をむしゃり。
「‥‥?! 何か‥‥小エビの佃煮と似た味‥‥? 思ったよりは、えぐくない、ですね‥‥あ、脚はカリカリで美味しいかもしれないです。個人的にはもう少し辛口でもいいかもですね‥‥」
穂鳥の箸が進んでいく。1包みだけ持って帰って、再調理してみよう、穂鳥はそう思った。
馬人さんは相変わらずハイパーてかてかの状態で、佃煮を食していた。
馬マスクの口内で包装を開け、容器だけ外に放り出し、両手で口を押さえて上を向いて食べる。
バリバリもぐもぐ‥‥うん、うまい。ごはんがあれば尚おいしい。
暫く、ご飯に埋もれて蠢くイナゴの姿に気後れしていたエルレーンだが、勇気を出してえいやっと一口!
「‥‥うーまあーあーいーいー!」
イナゴパワーの光を全身に浴びながら、ハイパー佃煮タイムが始まりを告げる。
美少女に変身しながら、わしゃわしゃと飲み込むように食べるエルレーン。
「かぁいくなるの! かぁいくなるのっ! うふ‥‥わ、私、かぁいい‥‥?」
ええ、とってもぷりぷりのぷるんぷるんのぴちぴちです。
ただその、口元の触角は拭くか食べるかして下さいね。
「なるほど、ご飯にイナゴを閉じ込めて、すかさず食べるわけですね。ふむ‥‥うん、美味しいですね。これで胸もお肌もぷるんぷるんですー!‥‥誰か揉んでみます?」
Kカップのたゆんたゆんな胸を揺らして冗談を口にするアーレイ。
しかし、イナゴパワーによって、何となく重みで垂れそうだったバストも、きゅっと締まって上を向いたような気がする。
ハイパー巨乳には美肌効果の他にも、美乳効果が働くらしい。これにはアーレイもびっくりである。思わず自分で揉んでみるくらい、驚きの美容効果であった。
●ご馳走様でした!
美味しく佃煮を頂いた皆さんが、イナゴオーラで300%美しくなっている間に、恭弥と定俊が帰り支度を済ませていた。
「賞味期限はきれちゃうから、おはだてやてやは無理でも、おいしかったから‥‥」
1包みだけキープしていたエルレーンが、お土産に持って帰ろうとする。
「そうそう。マリカ先生、しばらくネットでポチるの自粛! それか、買う前に商品名でググって評判を見ること! 以上、お約束ですよ!」
定俊がびしりと先生を叱り、「はーい」と先生は素直にごめんなさいをした。
「‥‥素直に謝るの‥‥良いことなのです‥‥先生に、お菓子、なのです‥‥」
小舟が持参したお菓子を先生に差し出した。
後日談。
エルレーンの所属する寮食にて。
炊飯器のごはんの中に、イナゴの佃煮(賞味期限切れで動かない)が、1包装分、まるごとぶちまけられていたそうである。
(みんな喜んでくれるかな☆)
全く悪気のない、エルレーンであった。