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マスター:神子月弓
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:4人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2016/08/26


みんなの思い出



オープニング




 撃退士たちがエンハンブレを探索している頃。
 悪魔小娘ジェルトリュード(jz0379)が何をしていたかというと、相変わらず、人間狩りだった。

 いつものように、一般人を拉致して回り、運搬用ディアボロ「ヘルくじら」に載せて運ぶ。

 但し、行き先はつくば方面ではなかった。
 つくばゲートやエンハンブレではなく、新たなるディアボロを量産すべく、自身のゲートに運んでいたのだ。

 そこがどこかは、まだ撃退士には知られていない。


 「ヘルくじら」には、<光学迷彩>というスキルが実装されている。

 普通に飛べば、綺麗な水色の表皮が輝き、幼稚園児が描いたような可愛らしい「くじら」の姿で、ばかでかいぬいぐるみが空の高みを泳いでいる、と例えてもよい光景だ。

 そして、スキルである以上、<光学迷彩>の効果時間は、数分程度である。

 ゆえに。

 あちこちで、空飛ぶ水色の「ヘルくじら」の可愛らしい姿が、目撃されていたのであった。





「どうやら、つくば以外の場所にも、ヘルくじらは向かっていると考えられますの」

 地図上にピンを次々と刺しながら、斡旋所秘書アリス・シキ(jz0058)は、集まった撃退士たちに告げた。

「こうしてピンを刺しましたところが、ヘルくじらの目撃されました位置ですのよ。いずれも、埼玉県南東部方面を中心に、見失ってございますの」

 アリスは顔を上げた。

「今回皆様にお願いいたしますのは、ヘルくじらの向かう、もうひとつの目的地を、突き止めていただきたいのですわ。どうぞよろしくお願いいたします」





 とはいえ。

 超高度を長く速く飛行できる「ヘルくじら」を、時間制限や高度制限のある飛行スキルで追うのは、非常に困難だ。

 そこで、撃退士たちは、「ヘルくじら」が地上に着陸しているとき、即ち、人間狩りの最中に、仕掛けることを考えた。
 最新の目撃情報から、「ヘルくじら」が向かったであろう山村(観光地)を目指す作戦だ。

 
「ヘルくじらの第二の目的地を突き止められましたなら、人的被害のみならず、ディアボロがこれ以上増えるのを止められると思いますの」

 ヘルくじらの処分については、今回は問わないという。

「勿論、討伐まで出来ましたなら、今後人間が拉致されてしまう危険が著しく減りますので、理想的ではございますが‥‥」





 今日もジェルトリュードは、風光明媚な観光地を狙って、ディアボロたちに襲わせていた。
 夏休みということもあり、遠方から来た家族連れなどが、面白いように沢山捕獲できる。

 ディアボロ「影」で人々を惑わせて、地上に降りた「ヘルくじら」の口の中に、進んでダイブさせていく。
 自力で動けない人間は、運搬用中型ディアボロ「あだ」で吸引して、無理やりさらう。
 やり口は大して今までと変わらない。ジェルトリュードは、ワンパターンな手口でも、以前うまくいったのだからと、あまり気にしなかったし、さして新しい工夫も凝らさなかった。

「暫くは要らないと思うけど、次はどんなディアボロが必要になるかしらね? そろそろあたしの身を護る役割の子も必要かしら?」

 「ヘルくじら」の背中の上から見下ろし、UV対策万全の状態で、ジェルトリュードは一枚のカードを取り出した。ケッツァー構成員のひとりに貰った、「ケッツァー(ベリアル様正規FC)会員証」である。喧嘩にならぬよう、会員番号は全員「No.0002」と配慮されている。幻の「No.0001」はベリアルねーさまの夫君、ルシフェル様専用カードだそうだ。

(ねーさま‥‥久しいわ。そろそろお会いしたいわね‥‥)

 しげしげと会員証のベリアル様ご近影を見つめた後、手のひらサイズの六分儀、『エストレリャ・ポラール』を取り出し、見つめる。
 これを起動すれば、何処からでもエンハンブレの位置がわかるし、近づけば簡単に帰れる。
 ケッツァーの一員にとって、とても大切な『鍵』なのだ。

 ジェルトリュードが、会員証とともに六分儀を大切にしまいこむのと、何か異変が起きたことがわかったのとは、ほぼ同時だった。

「?」

 「ヘルくじら」の背中から、はるか下を覗き込む。ジェルトリュードの望遠片眼鏡で見えたものは、撃退士たちが人間狩りを阻止するため、「ヘルくじら」の周りに集まってくるところだった。


リプレイ本文




「鯨‥‥? わぁ‥‥大きい」

 浪風 威鈴(ja8371)は、冥魔・影を撃退すべく、幻覚で惑わされている人々に紛れて、冥魔・ヘルくじらに近づいた。
 思わずヘルくじらを見上げる。

 確かにやたらと大きい。そして、ふわもこである。そう、本物のぬいぐるみのように。


(ファンシーなくじらで人間狩り、ね。どこまでもふざけているのか、悪魔は)

 遠石 一千風(jb3845)は、赤毛をなびかせながら近づき、唇をかみしめた。

(アウルに覚醒したからには、この力で手の届く限り全てを救いたいが‥‥今回、ある程度あきらめなければならない事が本当に辛いな)


「今回は、残念だがあの鯨は討伐するべきではないか‥‥」
 サガ=リーヴァレスト(jb0805)は影の幻覚に耐えながら、遠くからでもはっきり見えるヘルくじらを睨んだ。

 手の中には、アリス・シキ(jz0058)が手を尽くして探し出し、支給した発信機3つと、透明な粘着力の強いテープが収まっている。


『申し訳ございません、発信機ですが、全部で3つしかご用意できませんでしたの』
 転移前、斡旋所での会話が脳裏をよぎる。
『スマホのGPSと同じ機能がついてございます。ですから、電波の届かない場所では、お役に立てないかもしれませんわ』

 それでも、ヘルくじらの行き先を突き止めるヒントになれば。サガはそう考えていた。


 一千風はその折に、ヘルくじら出現位置を印した地図も、入念に把握しておいた。


 浪風 悠人(ja3452)はアリスと通信をつなげたまま、ヘルくじらを視認し、群がる人々を確認し、阻霊符を展開した。
 サガもすっと姿を隠し、離れた場所から阻霊符を展開する。


「‥‥?」

 威鈴は影を見失った。そこにいたのは、間違いなく、とても大事な、愛する夫である。
 だが、本物の夫は後ろにいる、はずだ。

 くらくらする。影の放つ、脳に直接響き渡る音が、撃退士でも抗えない幻覚を呼び起こす。
 影が、一番大切な誰かに見える、そんな幻覚を。

(気をつけて)

 悠人はこの幻覚に以前、一度かかっていた。だから、影の能力を皆に伝えておくことが出来た。
 幻覚が激しく心を揺らそうとするが、もう撃退士たちは惑わされない。





「何か起こったのかしら‥‥また害虫が邪魔をしに、湧いてきたのかしらね?」

 悪魔小娘ジェルトリュード(jz0379)は、ヘルくじらの背中でぽふぽふ寝ころびながら、望遠片眼鏡で周囲を見回した。


 銀髪眼鏡の見覚えのある撃退士(悠人)が、一般人を避けて<封砲>を影に撃ち込み、続いて妻の威鈴が、和弓・天波に<スターショット>を乗せて、絶妙な弓さばきで、追撃していた。

 冥魔・影は、夫婦の絆を思わせる連携攻撃に耐えられず、幻覚をまき散らす音を発することが出来なくなってしまった。
 そうなれば、影など、ただのハリボテ人形だ。
 我に返った人々の間に、混乱が走る。


「少し仲間達を返してもらうわ。悪魔さん」
 一千風が声をはりあげる。

「刹那の暗闇が翳る間に(=ちょっと目を離した隙に)よくもやってくれたわね――邪魔しないでよ!」
 唇を尖らせ、悪魔小娘がホルンを響かせた。

「うっ!」
 威鈴が体をくの字に折った。夫、悠人が、自分のことを後回しにして、妻を心配し駆け寄る。
 魔装、常闇のローブが瘴気に侵食されかけている。【腐敗】だ。恐らく【封印】も同時にかかっているだろう。

 このスキルも悠人は以前、目にしている。ダメージの無い、純バステ付与スキルだ。
 しかし、ヘルくじらの背中からここまで届くなんて、どれだけ射程が長いのだろう。
 更に見回すと、一千風も悠人自身も、影響を受けたようだ。

(長射程の範囲スキル‥‥!?)
(厄介な‥‥!)

 悠人と一千風は、ぷんすこ怒っている様子のジェルトリュードに、交渉を持ちかけて、ディアボロや一般人たちから、注意をそらせることに決めた。





 サガは潜行状態で、ヘルくじらに接近していた。
 影の放つ幻覚が収まり、集められた人々は困惑していた。

 あぐ。

 ヘルくじらはお構いなく、ぬいぐるみのような口をあーんと開けて、その場にいる一般人たちを飲み込み続けていた。

 サガは、逃げ遅れた2人のポケットに、素早く発信機を忍ばせた。

 そして、背中にいるはずのジェルトリュードの死角に回り、ヘルくじらのふわもこのおなかに、強力粘着テープで発信機を貼りつけた。

 触った感じは、まさにぬいぐるみだった。





「ジェルトリュードさま、凄いですね! とてもお強いのでしょう? 今のスキルで十分わかります。戦闘になってはこちらはひとたまりもないでしょう。我々のような虫如きの退治は、貴女程のかたがする事では無いですし、こちらももう楯突きませんので、少々お話がしたいのですが」

 悠人は下手に下手にと意識しながら、頭上の悪魔小娘に頭を下げた。
(何があっても、狼狽えず、本音を殺して対話に臨むんだ!)
 自分に強く言い聞かせる。最悪、土下座をしてでも、必要な情報を持ち帰るのだ!


「あたしのディアボロに喧嘩をふっかけて、あたしのクールでスマートな悪魔的計画をおじゃんにしてくれておいて、よくもまあ、そんなことが言えたものね。本心とは思えないわ。あんたの魂を不可視の世界の混沌深くへと送り込んでやる!」

 コードレスマイクを持ち、怒りに震えるジェルトリュード。

「もう戦闘の意志はありません。失礼しました、武器をおさめますね」

 悠人は魔具をヒヒイロカネにしまい込んだ。

「飛空艇エンハンブレでは、ジェルトリュードさまにお会い出来なくて残念でした」

 ベリアル様が美しかった事、熱狂的な配下の日誌が捨てられていた事、ベリアル様にとても臭う飴を置いて行った不届き者が居たこと、など、次々と話題を振って、悠人は悪魔小娘の注意を引くとともに、時間を稼ぐ作戦に出た。


 その隙に、彼の妻、威鈴と、一千風、遅れてきたふりをして混ざったサガが、影と戦っていた。

 弓で足止めしつつ、機をみて接近し、剣撃をお見舞いする一千風。
 <ゴーストアロー>で目に見えない闇の矢を作り出し、撃ち込むサガ。
 和弓・天波にアウルの矢をつがえて、射貫く威鈴。

 機敏に攻撃を躱そうとしながらも、影は追い詰められ、終いには威鈴の懐に飛び込み、抱きついて自爆した。
 吹き飛ばされて転がる威鈴。耳の中で、ピーン、ぶつっという音がした。

 あだは、撃退士を避けるように宙を逃げ回りながら、逃げ回る一般人を吸引している。
 攻撃手段をもたないためか、保身行動に転じたようだ。

「何にしても厄介なディアボロを潰しきらねばな。あれも落とすぞ」
 <氷の夜想曲>で、サガ自身を中心に、あだを巻き込みつつ、眠りを誘う凍てつく痛い風を巻き起こす。あだは【睡眠】には耐えたが、ぬいぐるみめいた表皮のあちこちが切り裂かれて、詰まった綿が顔を覗かせる。
 あだも、ヘルくじらのように、ぬいぐるみに似た作りだったのだ。

「あの中には吸い込まれた一般人がいるが、脱出のさせ方は?」
 一千風にクールに問われ、サガは「‥‥わからん。だが、このまま連れ去られても」と言葉を濁す。
「なら私は攻撃をやめておこう。中の一般人ごと切り裂いてしまってはいけない」
 悔しさに唇を噛みながら声を絞り出し、一千風は剣をおろした。


 一方その頃。
「‥‥ああ、大体仲間から聞いてはいるわ」
 途中まで興味なさそうに悠人の話を聞いていたジェルトリュードだったが、愛しのベリアル様を讃えられると、一気に舞い上がった。

「そっそうよ、あのかたは我らケッツァーにおける泥中の蓮、銀の短剣の禍々しい瘴気にも似た香しさを放つ、魔界に咲き誇る一輪の真紅の薔薇、夫君しか触れられない炎の翼持つ気高きグリフォン‥‥あたしの憧れ、あたしの帰るべき場所、あたしを迎え入れてくれた唯一無二の存在だわ」

 徐々にジェルトリュードの顔がうっとりとしていく。
 ‥‥悪魔小娘は意外とチョロかった。

「この後のご予定は? 差し支えなければお伺いしたいんですが」
「何よ。エンハンブレにはまだ帰れないわよ」

 やはり、ヘルくじらには第二の目的地があるのだ。

「今度は何処に行けば貴女様に会えますでしょうか。次会えたら、飛空艇で撃退士が何を見知ったかお話出来るのに。その時は、美味しい紅茶とお菓子をご用意出来ます、なんなら可愛いアクセサリーや人形等もお土産にご用意しますよ」

「美味しい紅茶! いいわね、美味しくなかったら殺すけどね。あと人形よりぬいぐるみがいいわ」

 ジェルトリュードは紅茶とぬいぐるみが好き。悠人は冷静に、脳内にメモを取った。

「あたしもいい加減、ゆっくりしたかったのよね。シェリルの治療が済んだと思ったら、莫迦アルファールでしょ、しかも次はカッツェが予約いれて待っているんだから。当分エンハンブレには戻れそうにないのよ。あーゆっくりしたい! 美味しい紅茶が飲みたい! 飲みたいわ!」


「アイドルって噂だったけど、実はナースで、越谷辺りに病院でも開いているわけ?」

 剣をおろしたまま、適当な推測をつぶやいて、ジェルトリュードの反応を窺う一千風。
 
「あたしはアイドルよ。ナースじゃないわ。でもアイドルは仲間の癒しと支えを担うべきものでしょ」
 あっさりとジェルトリュードは口を滑らせた。
「で、何でケッツァー治療院が、あたしの越谷結界の中にあるって知ってるのよ?」


 アリスが頑張って揃えてくれた、発信機の存在意義が、失せた気がした。





 ケッツァー治療院。

 そこには専用の魔術的治療機器が揃えられており、どんなにひどい怪我を負っても、かなりの対応ができるようになっている。

 今まで何人ものケッツァー構成員が、そこで重篤な怪我を、驚くべき高度な魔術的治療により、癒してきたのだ。勿論、滅多にないことだが、病気も治療できるのだ。
 
 ただし、治療機器の操作はジェルトリュード自身が行わなければならない。

 現在、治療院の敷地には、幾重にも防犯バリアが張り巡らされており、出入り口を通り抜けるためには「ケッツァー(ベリアル様正規FC)会員証」と合言葉が必要になる。

「だから、なっかなか、エンハンブレに帰れないのよ。皆、怪我しすぎだわ。あんだけ無茶はするなって言い含めているのに‥‥」

 そこまで得意げにしゃべってから、ジェルトリュードは我に返った。
 自分の話を聞いているのが、悪魔の仲間ではなく、敵対中の撃退士たちであったことに。

「コ、コホン!」

 大きく咳払いをして、ジェルトリュードは片眼鏡を直す。
「みんな、帰るわよ!」


 ヘルくじらが最後のひと呑みを行う。
 あだが、飛び回って、残された人々を吸引して回り、ヘルくじらに貼りつくようにおさまる。
 中には、傷めつけられたぬいぐるみのように、ところどころ綿をはみださせたあだもいる。


「あら? 影はどこよ」

 ぐるりと見回し、冥魔・影の死骸に目を留め、ジェルトリュードは半眼になって悠人と一千風を睨んだ。

「話であたしの気を逸らせて、大事なディアボロ達をいじめ殺す作戦だったわけね。害虫らしく、心根まで腐っているじゃないの。つくづく気に入ったわよ。存在を抹消したくなるくらいにね」

 ヘルくじらはあだを貼りつけ、悪魔小娘を乗せた状態で、急上昇していく。

 サガは<陰影の翼>を活性化させ、飛行して全力で追撃をかけた。
「何にしても厄介なディアボロ、あだを潰しておかねばな」

 本気で追いかけるが、あだの中にも人質が生きたまま囚われていることを考えると、迂闊に攻撃は出来ない。
 だが、撃退士たちの目的をディアボロ討伐・一般人の誘拐阻止と思わせるため、高度30mまでは精いっぱい追った。


 ヘルくじらはどんどん上昇する。サガには追いきれない、空の高みまで。

 そして。

「軽くお土産を置いていくわ。あんたたちに殺された影の無念を歌うわよ!」

 マイクを通したジェルトリュードの声が響いた。
 スキル攻撃ではなく、彼女の通常攻撃技。
 厨二っぽい歌詞を紡ぐ悪魔小娘の綺麗な声が、撃退士たちと、かろうじて攫われることなく逃げ延びた一般人たちに、容赦なく襲い掛かった。





「‥‥<アウルの鎧>、効いて‥‥ない‥‥?」

 確かに悠人は、<アウルの鎧>で防御した。妻は、はっきりとこの目で見た。
 続いて脳を揺さぶられるような感覚が、威鈴にも感じ取れた。

 気絶した夫のもとへ、何とか駆け寄る威鈴。
 冥魔・影の自爆で彼女は負傷し、耳がやられたのか、周囲の音がよく聞き取れない状態にあった。
 つーんと何かが詰まったような感覚で、耳の中がこもっていて気持ちが悪い。

 威鈴が意識のない夫を膝枕して、見回すと、一千風も、きりもみ落下したサガも、気絶している。
 範囲内にいた一般人たちは、ことごとく命を落としたようだ。

 ひどい。

 しかし、驚くべきことに、一般人の中に、生存者がいた。
 耳の聞こえないお年寄りたちだけ、軽い脳震盪で済んでいたのだ。

「あの悪魔‥‥音、使い?」

 威鈴はジェルトリュードが去っていった方角の空を睨む。

「許さ、ない‥‥」

 もしかしたら。
 次からは、耳栓が役に立つかもしれない、などと、考えながら。


 ヘルくじらは、確かに、越谷市の存在する方角に向かって、消えていった。





 3人は、撃退士御用達の病院で目を覚ました。
 威鈴は病院で内耳の治療を受けたが、まだ回復には時間がかかりそうだ。

「威鈴が、完全に無事とはいえなくても、ちゃんと生きていてくれて、良かった」
 夫・悠人は、愛する妻の手に手を添えた。
「心のどこかで、威鈴が死んでしまうかもって、とても心配だったんだよ」

「あのね‥‥ボク、思ったの‥‥あの、ね‥‥」

 仲間3人が気絶し、一般人たちが薙ぎ払われて絶命した時、考えたことを、威鈴は話した。
 まだ耳が聞こえづらいため、自然に声が大きくなる。

 同室のベッドで休んでいるサガ、一千風も、耳を傾けていた。

「音を遮断する‥‥有効そうではあるね」
 悠人がゆっくりと繰り返した。
 サガと一千風も、胸中で頷いた。
 
「でも物理でも魔法でもない攻撃なんてあり得ない。俺の<アウルの鎧>が効かなかった理由がある筈だよ」
 悠人は呟いた。





 埼玉県越谷市。
 そこには、市境をぐるりと囲むように、赤い結界が展開されていた。
 結界周辺は、冥魔の跋扈する無法地帯と化している。

 攫われた人々は全員、生死を問わず、結界の中に運ばれていった。

「あたしとしたことが、一生の不覚だわ。害虫にホイホイ情報をくれてやるなんて、何なのもう! 自分が情けないじゃない!! ああ、過去の自分を殴りつけて、十四次元世界の狂気の泉に沈めてやりたいわ!」

 ジェルトリュードは毒づきながら、ケッツァー治療院の機器整備に勤しむ。

「早く仲間の治療を終えて、エンハンブレに帰りたいのに。ベリアルねーさまのお顔もしばらく見ていないし‥‥久しぶりに、美味しい紅茶も飲みたいわよー!」


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: おかん・浪風 悠人(ja3452)
 絶望を踏み越えしもの・遠石 一千風(jb3845)
重体: −
面白かった!:6人

おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
白銀のそよ風・
浪風 威鈴(ja8371)

卒業 女 ナイトウォーカー
影に潜みて・
サガ=リーヴァレスト(jb0805)

卒業 男 ナイトウォーカー
絶望を踏み越えしもの・
遠石 一千風(jb3845)

大学部2年2組 女 阿修羅