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マスター:神子月弓
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2012/06/26


みんなの思い出



オープニング

●不快な匂い
 窓の外を、しとしとと雨が降っている。梅雨時の湿気た、こもった空気が校舎内に漂っていた。
 そんな中。

 湿っぽい空気の中に、何かが腐ったような、発酵したような、変な匂いが混じっていることに、学生たちはうっすらと気づいていた。

 その原因は。

●這いよるカサカサ
「あたしのお弁当が!!」
 糸を引くお米。目も当てられないおかずたち。
 梅干が腐食しているってどういう状況ですか。
「うわあ、ダメだこの焼きそばパン!!」
 男性生徒がゴミ箱に投げ捨てる。かびかびのでろでろになったそれは、購買部で買ったばかりの真新しいパンであった。

「うあああーん!」
 誰かの甲高い泣き声がする。
 声の主、天丼と焼きそばの大盛りとざるうどん特盛とカレーWラージにハンバーグステーキと大盛りライス(※全部見事に傷んでいる)を学食のテーブルに並べていたマリカ先生(jz0034)が、めそめそと泣き出している。
「どれもこれも、変な匂いがするですー。腐敗菌にかもされてますー。これじゃ食べられないですー! 先生お腹がすいたですーーうー!!」
 泣きたいのは、マリカ先生だけではなかった。
 購買部でも、学食でも、食べ物という食べ物が皆、腐敗している。
「誰が‥‥こんなことを‥‥」
 泣き伏すマリカ先生。お腹を空かせた撃退士の学生たちも、空腹で殺気立っている。
「あ、あれ!」
 貴布禰 紫(jz0049)が目ざとく、この阿鼻叫喚を作り出している元凶である腐食ディアボロの気配に気がついた。

 なんというか、この腐食ディアボロ、Gで始まる何かに似ている。

 カサカサと素早い動きで、腐食ディアボロは次なる購買部へと向かっていく。
「食べ物の怨みは恐ろしいのですー」
 ゆらりと先生が、服の中からナタのようなモノを取り出して、腐食ディアボロを追いかけようとする。
「先生、無理だから! 一般人の攻撃は通らないから!」
 周囲の学生たちが先生を止める。
「ボク、先回りして、みんなを集めてくるよ!」
 紫が走り出した。

「うう‥‥先生のご飯が‥‥ご飯が‥‥」
 マリカ先生は駄目になった料理の数々を見て、ぽろぽろと涙をこぼした。


リプレイ本文



 ぴんぽんぱんぽーん♪

 「G」という言葉から連想されるものに不快感を覚える方、及び、お食事中、もしくは、お食事を控えている方は、十分お気を付けて、お読みください。

 ぴんぽんぱんぽーん♪



 学食の異変、腐敗臭、そして学生たちからの情報が飛び交い、これから食事を取ろうとしていたメンバーは即時光纏し、手もちの阻霊符・阻霊陣を、購買を守るべく、ひろく展開した。
 敵は腐食ディアボロ。外見的特徴から、Gボロと呼ばれていた。

「房の出来るだけ多いバナナと、両面テープのとっても強力なのをください」
 若菜 白兎(ja2109)はおっとりと、しかし着実に迫り来ると伝わるGボロに対処すべく、購買で必要品を購入している。
 御蔵 葵(ja8911)と共に、壁に強力粘着両面テープを貼り巡らせる。
「食べ物の恨みは怖いですよ‥‥」
 にっこり笑顔の葵の背後には黒いオーラがゆらめいていた。空腹で腹が鳴る度、黒いオーラが吹き出す。

「兵糧攻めとは兵法が解っているな、Gボロめ!」
 鴉乃宮 歌音(ja0427)が、目印として透明ポリ袋に入れたおにぎりを見ながら、他生徒からの『ディアボロ情報』を基に、購買部へ向かう廊下を捜索していた。
「‥‥わた、しの‥‥バナナオレが‥‥」
 ユウ(ja0591)が愛して止まないバナナオレも、学食付近に居たためか、被害にあったようだ。
「‥‥許さない、逃がさない、生かしておけない‥‥‥ヤキコロス」
 白いオーラが狂気を含んでゆらめいた。
 歌音は腹をすかせ、殺気立つ撃退士たちに、無事な購買へ続く廊下の封鎖と包囲を頼んだ。

「縁のご飯が‥‥! 絶対に許さないんだよー!」
 学食でご飯をとろうとしていた真野 縁(ja3294)が、倍増した恨みに拳を震わせる。
「今度のディアボロはGボロって話だし、クローブのアロマオイルが効くかも!」
 クローブ――丁子の香りは、昆虫のGを遠ざけると言われている。
 縁は脱脂綿とアロマオイルを購入すると、オイルを染み込ませた脱脂綿を購買前に点々と置いた。

 白兎が房をちぎって、点々と置いたバナナが、廊下にシュールに置き去りにされている。
 ぐう、と縁のお腹が鳴る。

 戸次 隆道(ja0550)は購買で入手したトリモチをやはり壁に塗りつけていた。しかし、聞き及ぶところによると、今回現れたGボロ、いや、ディアボロは、全長50センチくらいだという。購買で扱っているトリモチだけで足りるとは思えなかった。
 しかし、白兎と葵がトリモチ代わりに貼った粘着両面テープもある。
(うまく足止め出来ることを祈ります)

 縁、紀浦 梓遠(ja8860)、革帯 暴食(ja7850)はトランシーバーの調整をし、それぞれに散った。
「もうさ、これ叩きのめすしかないよね?」
 赤い目に赤いオーラに心情的にも赤信号な梓遠が、不機嫌オーラをめらめらさせていた。
「腐っても喰いモンッ! さぁ、喰わせろッ!」
 暴食がケラケラ笑いながら、捨てられゆこうとしている学食の腐敗物に手を伸ばす。
「やめなさい」
 隆道に止められ、尚更ヒートアップする暴食。口を模した模様が全身に幾つも浮かび上がり、腹部には一際大きな口が現れて、今か今かとGボロの登場を待っている。
「Gボロでも何でも、喰いモンであるならお前を愛そうッ! ケラケラケラ」
 ずるり。暴食は、ピアスのついた舌で唇を舐めた。



 カサカサカサ‥‥
 待ち伏せ班の耳に、這いよるGボロの気配が徐々に近づいてきた。
「あ」
 縁が廊下に並べたバナナが、順に変色していく。
(どこ!?)
 ピストルを構え、葵が警戒する。
「『目標の捜索を開始』」
 歌音が幻視索敵『通信士』を使用して、相手の位置を探った。バナナがまたひとつ、そしてもうひとつと、腐食していく。敵は近い。歌音のおにぎりが腐敗していく。
「あ!」
 葵は天井を見上げ、そして怒りに任せて黒いオーラをぶち込んだ。

 Gボロは、天井を走っていた。

 並走して速度差を減らしつつ、静かに怒りまくっているユウが、雷を帯びたアウルの剣を乱れ撃ち。
 ほんの一瞬Gボロの動きが止まったところで、『白雀雷鎖』を試みる。
「‥‥ユルサナイ‥‥ユウの、バナナオレ‥‥」
「学園生徒の怒りを代弁しよう」
 そこへ、歌音は確りと狙いをつけ、クロスファイアでGボロの羽の付け根を撃ち抜いた。
 黒光りする大きな昆虫の羽が、天井からこぼれ落ちる。てらてらと油分が黒く光った。
「罠の方へ追い込みましょう」
 隆道がGボロを壁のほうへ追い立てる。勿論、念入りに準備した、あの粘着壁である。
「メーデーメーデー、待ち伏せ班と交戦中だよっ、オーヴァー」
 縁がトランシーバーで梓遠と暴食に連絡を取った。
「少しでも怯んでくれないでしょうか」
 白兎が己の手を光らせ、煌々とGボロを照らす。

 羽を撃ちもがれたGボロは、えぐいくらいに不気味だった。
 明るく照らし出されたソレを見た者は、精神的なダメージを受けたような気がした。
 しかし、空腹による怒りが、撃退士たちの心をかえって奮い立たせる。
「‥‥ニガサナイ」
 ユウが狂気を宿した瞳で、炎を撒き散らし、Gボロの動きを止めにかかった。

「うー、ぐぬぬ、お腹すいたあああー!! 縁のご飯返せー、なんだよー!」
 縁は、粘着テープで動きが鈍くなったGボロに向かって、バルキリーナイフをこれでもかと打ち込んだ。
 白兎がおずおずとマジカルステッキに持ち替え、更にGボロの動きを封じる。
「審判の時来たれリ‥‥悪行の報いを受ける時がきたの‥‥。食べられる前に逝ってしまった、美味しい食べ物さん達の無念‥‥今ここで晴らします!」
 完全に、Gボロは動きを封じられた。
「ケラケラケラ、まだ逃げるつもりなら、うちが全力移動して敵の前に回り込み、そして――ブッ喰い殺ぉすッ!」
 合流した暴食はケラケラ笑いながら、足技でGボロをいたぶり、そして節くれだった足にがぶりとかぶりついた! そのまま、むしゃりと音を立てて喰いちぎり、ぺっと吐き出す。

 普通に戦うよりも、余計に気分が悪くなりそうな光景だった。

「このぉ、さっさとくたばれ!!!」
 鉤爪を使い、連続で切り裂く梓遠。噛み付いてこようともがくGボロだが、粘着テープに邪魔されて反撃もままならない。
「きみをッ! 倒すまでッ! 攻撃の手をッ! 緩めないッ!」
 梓遠の怒りが、ざしゅざしゅとGボロの体内に鉤爪を埋める。鉤爪が、臭くてどろりとした液体にまみれていく。
「さっさとぉ、くたばれぇぇぇぇ!!!」

 そこでくたばらないのが、GボロのGボロたる所以である。

 梓遠が全力を使い果たすと、今度は、隆道と暴食の友情コンボが待ち受けていた。容赦なく足技を叩き込む暴食。
「正直、直接触りたくはないんですが、背に腹はかえられませんし‥‥うん、でも、まずはこれから試してみましょうか」
 隆道はそう言うと、召炎霊符でGボロに攻撃した。てらてら、ぽたぽたと、体液がGボロの体から垂れている。油分を含んだそれは、嫌な臭いを立てながら引火し、燃え上がった。
 ぷすぷすから、やがて、パチパチへ音が変わっていく。

「‥‥ふ‥‥ふふっ‥‥アハハハハハハハハハハハハハハッ!! ‥‥ヤキコロス!」
 ユウが無表情に、火炎放射器で触角とか脚から炭にしていく。
 ごうっと炎が渦を描いた。

「最初に歌音さんが、先に甲羅を撃ち落として下さったおかげで、大分楽になりましたね」
「それと、べたべた粘着テープサッ! 完全にGボロちゃんの反撃を封じてくれたじゃないのサッ! 白兎ちゃんや皆の足止めも、役に立ってるじゃないのサッ!」
 齧りとったGボロの足をもさもさと食べ始める暴食。
 ばりっ、と黒光りする表皮が、カニの甲羅のような音を立てて折れる。びっしりと生えた黒い毛をぷっと吐き出し、暴食は更に悪食を続けた。
 もさもさ食べながら、燃えゆくGボロに、恍惚の笑みを向ける暴食。
「さぁ、お前の腐らせたパンの数を数えろッ!」

 いや、Gボロに算数とか、無理ですし。

「Gボロは燃えてもいいけど、万が一、校舎内で火事になったら、大変だし」
 どこぞのファミレスのウェイトレスっぽい服装のまま、歌音が淡々と消火器を持ってきた。
 消火器を横に置いて、暴食がもぎ取っていない足の関節を狙撃し、完全にGボロを壁のオブジェと化す歌音。
「このまま、パイルバンカーで胴体も潰しておく? 隆道の火で燃え尽きるとも限らないし」
「う‥‥」
 暴食が美味そうにGボロの足を貪っている様に、精神的なダメージを受け、口元を押さえている隆道に敢えて尋ねる歌音。
「た、頼んだ‥‥」

 べちょっと臭い体液が潰された腹部から飛び散り、燃え移った火が、勢いを増した。
 そこへ、容赦なく消火液をぶっぱなす歌音。

(この後片付け、誰がやるのかな?)
 縁が首をかしげた。

 はい。皆さんで手分けして、やりましょうね。
 包囲網になってくれたモブの生徒さんたちも、手伝ってくれますからね。



 暴食はひっじょーに不愉快であった。Gボロの死骸を食べられなかったからだ。
 学食や購買で腐ったものは、廃棄処分になっていて、暴食の手に渡ることはなかった。
「手料理でよければご馳走しますから。好きなだけ食べていいですから」
 隆道が食欲を完全に失い、暴食のために購買で材料となる食糧を買いあさった。
「本当? きみの手料理? ケラケラケラ、いいサッ、それでも構わないサッ!」
 ご馳走してもらえると知り、暴食はさらりと機嫌を直した。

 守り抜いた購買には、生徒が押し寄せ、棚は殆ど空っぽである。
 それでも、ここを守り抜いた8人には、優先的に買い物が出来るように手配されていた。

「‥‥緊急事態が収束したことをお伝えします。繰り返します、学食、購買において発生していた緊急事態が‥‥」
 歌音の声がスピーカーから流れてくる。
「今回のディアボロの発生源について、心当たりのある方は鴉乃宮 歌音までお知らせ下さい」

「‥‥これ、購買の残りものだけど、よかったら」
 ユウは、適当に菓子パンを買って、マリカ先生(JZ0034)や、被害にあった人々にプレゼントして回っていた。そして、とぼとぼと姿を消す。その手には、火炎放射器と、駄目になってしまったバナナオレが握られていた。

 校舎裏にて。
「‥‥おいしく飲んであげられなくてごめんなさい。けど、仇は討ったから。‥‥だから、またね」
 泣きながらユウは、火炎放射器で腐敗したバナナオレを火葬し、「バナナオレさんここに眠る」と書いた札を地面にさし、丁寧にお墓を作って、手を合わせていた。

「せんせー! 学園のオアシス(=購買)を汚さんとする悪魔に、裁きの鉄槌を下したのです!」
 白兎はマリカ先生に飛びついていた。
「私、がんばったのです。こわかったけど、気持ち悪かったけど‥‥」
 撃退士といえど6歳。白兎は、マリカ先生に抱きついて、くすんと鼻を鳴らした。
「よく頑張ったのですー。えらいのですー。先生には何も出来なかったのですー。若菜さんは自分を誇って良いのですー」
 マリカ先生は優しく白兎を抱きとめ、よしよしと頭を撫でた。

「お腹すいたよー!」
 縁は購買でパンを大量に買いこみ、食いまくっていた。
「やっぱり食べ物って大事なんだよー、生きる活力なんだね‥‥」
 もぐもぐしながら、おいしいパンの味を噛み締める。
(もしまた出たら、ホウ酸団子をGボロに突っ込もう‥‥)
 新たな誓いを胸にする縁であった。

「もうGボロはこりごりだよ‥‥それよりお腹空いた」
 梓遠はため息をついた。優先的に買えたとは言え、パン1つではお腹の足しにもならない。
「片付けも終わりましたし、スッキリしたらお腹がすきましたね」
 にこっと葵が話しかける。その手には惣菜パンと野菜ジュース。

 だが、腐食ディアボロの所為で、食料が大幅に足りていなかった。
 パンすら買えない学生もいるようだ。
 学食が被害にあったのが、最も厳しいところであった。



 というわけで、有志のものには、マリカ先生オススメの、「1000久遠で無制限食べ放題」のお店を紹介してもらえることになった。
 マリカ先生自身には、どうも何か事情があるらしく、店員に見つからないようにそーっと入口を教えてくれて、そして何故か逃げるように去っていった。
 お腹をすかせた学生たちが殺到し、あっという間に満席になる、食べ放題の店であった。

「おいしいね」
「そうだね。残すなんて、もったいないよね」
 しみじみと、食べ物の有り難さを再確認する学生たちであった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: ドクタークロウ・鴉乃宮 歌音(ja0427)
重体: −
面白かった!:5人

ドクタークロウ・
鴉乃宮 歌音(ja0427)

卒業 男 インフィルトレイター
修羅・
戸次 隆道(ja0550)

大学部9年274組 男 阿修羅
ちょっと太陽倒してくる・
水枷ユウ(ja0591)

大学部5年4組 女 ダアト
祈りの煌めき・
若菜 白兎(ja2109)

中等部1年8組 女 アストラルヴァンガード
あなたの縁に歓びを・
真野 縁(ja3294)

卒業 女 アストラルヴァンガード
グラトニー・
革帯 暴食(ja7850)

大学部9年323組 女 阿修羅
また会う日まで・
紀浦 梓遠(ja8860)

大学部4年14組 男 阿修羅
控えめな黒きオーラ・
御蔵 葵(ja8911)

大学部7年240組 男 インフィルトレイター