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ぴんぽんぱんぽーん♪
「G」という言葉から連想されるものに不快感を覚える方、及び、お食事中、もしくは、お食事を控えている方は、十分お気を付けて、お読みください。
ぴんぽんぱんぽーん♪
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学食の異変、腐敗臭、そして学生たちからの情報が飛び交い、これから食事を取ろうとしていたメンバーは即時光纏し、手もちの阻霊符・阻霊陣を、購買を守るべく、ひろく展開した。
敵は腐食ディアボロ。外見的特徴から、Gボロと呼ばれていた。
「房の出来るだけ多いバナナと、両面テープのとっても強力なのをください」
若菜 白兎(
ja2109)はおっとりと、しかし着実に迫り来ると伝わるGボロに対処すべく、購買で必要品を購入している。
御蔵 葵(
ja8911)と共に、壁に強力粘着両面テープを貼り巡らせる。
「食べ物の恨みは怖いですよ‥‥」
にっこり笑顔の葵の背後には黒いオーラがゆらめいていた。空腹で腹が鳴る度、黒いオーラが吹き出す。
「兵糧攻めとは兵法が解っているな、Gボロめ!」
鴉乃宮 歌音(
ja0427)が、目印として透明ポリ袋に入れたおにぎりを見ながら、他生徒からの『ディアボロ情報』を基に、購買部へ向かう廊下を捜索していた。
「‥‥わた、しの‥‥バナナオレが‥‥」
ユウ(
ja0591)が愛して止まないバナナオレも、学食付近に居たためか、被害にあったようだ。
「‥‥許さない、逃がさない、生かしておけない‥‥‥ヤキコロス」
白いオーラが狂気を含んでゆらめいた。
歌音は腹をすかせ、殺気立つ撃退士たちに、無事な購買へ続く廊下の封鎖と包囲を頼んだ。
「縁のご飯が‥‥! 絶対に許さないんだよー!」
学食でご飯をとろうとしていた真野 縁(
ja3294)が、倍増した恨みに拳を震わせる。
「今度のディアボロはGボロって話だし、クローブのアロマオイルが効くかも!」
クローブ――丁子の香りは、昆虫のGを遠ざけると言われている。
縁は脱脂綿とアロマオイルを購入すると、オイルを染み込ませた脱脂綿を購買前に点々と置いた。
白兎が房をちぎって、点々と置いたバナナが、廊下にシュールに置き去りにされている。
ぐう、と縁のお腹が鳴る。
戸次 隆道(
ja0550)は購買で入手したトリモチをやはり壁に塗りつけていた。しかし、聞き及ぶところによると、今回現れたGボロ、いや、ディアボロは、全長50センチくらいだという。購買で扱っているトリモチだけで足りるとは思えなかった。
しかし、白兎と葵がトリモチ代わりに貼った粘着両面テープもある。
(うまく足止め出来ることを祈ります)
縁、紀浦 梓遠(
ja8860)、革帯 暴食(
ja7850)はトランシーバーの調整をし、それぞれに散った。
「もうさ、これ叩きのめすしかないよね?」
赤い目に赤いオーラに心情的にも赤信号な梓遠が、不機嫌オーラをめらめらさせていた。
「腐っても喰いモンッ! さぁ、喰わせろッ!」
暴食がケラケラ笑いながら、捨てられゆこうとしている学食の腐敗物に手を伸ばす。
「やめなさい」
隆道に止められ、尚更ヒートアップする暴食。口を模した模様が全身に幾つも浮かび上がり、腹部には一際大きな口が現れて、今か今かとGボロの登場を待っている。
「Gボロでも何でも、喰いモンであるならお前を愛そうッ! ケラケラケラ」
ずるり。暴食は、ピアスのついた舌で唇を舐めた。
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カサカサカサ‥‥
待ち伏せ班の耳に、這いよるGボロの気配が徐々に近づいてきた。
「あ」
縁が廊下に並べたバナナが、順に変色していく。
(どこ!?)
ピストルを構え、葵が警戒する。
「『目標の捜索を開始』」
歌音が幻視索敵『通信士』を使用して、相手の位置を探った。バナナがまたひとつ、そしてもうひとつと、腐食していく。敵は近い。歌音のおにぎりが腐敗していく。
「あ!」
葵は天井を見上げ、そして怒りに任せて黒いオーラをぶち込んだ。
Gボロは、天井を走っていた。
並走して速度差を減らしつつ、静かに怒りまくっているユウが、雷を帯びたアウルの剣を乱れ撃ち。
ほんの一瞬Gボロの動きが止まったところで、『白雀雷鎖』を試みる。
「‥‥ユルサナイ‥‥ユウの、バナナオレ‥‥」
「学園生徒の怒りを代弁しよう」
そこへ、歌音は確りと狙いをつけ、クロスファイアでGボロの羽の付け根を撃ち抜いた。
黒光りする大きな昆虫の羽が、天井からこぼれ落ちる。てらてらと油分が黒く光った。
「罠の方へ追い込みましょう」
隆道がGボロを壁のほうへ追い立てる。勿論、念入りに準備した、あの粘着壁である。
「メーデーメーデー、待ち伏せ班と交戦中だよっ、オーヴァー」
縁がトランシーバーで梓遠と暴食に連絡を取った。
「少しでも怯んでくれないでしょうか」
白兎が己の手を光らせ、煌々とGボロを照らす。
羽を撃ちもがれたGボロは、えぐいくらいに不気味だった。
明るく照らし出されたソレを見た者は、精神的なダメージを受けたような気がした。
しかし、空腹による怒りが、撃退士たちの心をかえって奮い立たせる。
「‥‥ニガサナイ」
ユウが狂気を宿した瞳で、炎を撒き散らし、Gボロの動きを止めにかかった。
「うー、ぐぬぬ、お腹すいたあああー!! 縁のご飯返せー、なんだよー!」
縁は、粘着テープで動きが鈍くなったGボロに向かって、バルキリーナイフをこれでもかと打ち込んだ。
白兎がおずおずとマジカルステッキに持ち替え、更にGボロの動きを封じる。
「審判の時来たれリ‥‥悪行の報いを受ける時がきたの‥‥。食べられる前に逝ってしまった、美味しい食べ物さん達の無念‥‥今ここで晴らします!」
完全に、Gボロは動きを封じられた。
「ケラケラケラ、まだ逃げるつもりなら、うちが全力移動して敵の前に回り込み、そして――ブッ喰い殺ぉすッ!」
合流した暴食はケラケラ笑いながら、足技でGボロをいたぶり、そして節くれだった足にがぶりとかぶりついた! そのまま、むしゃりと音を立てて喰いちぎり、ぺっと吐き出す。
普通に戦うよりも、余計に気分が悪くなりそうな光景だった。
「このぉ、さっさとくたばれ!!!」
鉤爪を使い、連続で切り裂く梓遠。噛み付いてこようともがくGボロだが、粘着テープに邪魔されて反撃もままならない。
「きみをッ! 倒すまでッ! 攻撃の手をッ! 緩めないッ!」
梓遠の怒りが、ざしゅざしゅとGボロの体内に鉤爪を埋める。鉤爪が、臭くてどろりとした液体にまみれていく。
「さっさとぉ、くたばれぇぇぇぇ!!!」
そこでくたばらないのが、GボロのGボロたる所以である。
梓遠が全力を使い果たすと、今度は、隆道と暴食の友情コンボが待ち受けていた。容赦なく足技を叩き込む暴食。
「正直、直接触りたくはないんですが、背に腹はかえられませんし‥‥うん、でも、まずはこれから試してみましょうか」
隆道はそう言うと、召炎霊符でGボロに攻撃した。てらてら、ぽたぽたと、体液がGボロの体から垂れている。油分を含んだそれは、嫌な臭いを立てながら引火し、燃え上がった。
ぷすぷすから、やがて、パチパチへ音が変わっていく。
「‥‥ふ‥‥ふふっ‥‥アハハハハハハハハハハハハハハッ!! ‥‥ヤキコロス!」
ユウが無表情に、火炎放射器で触角とか脚から炭にしていく。
ごうっと炎が渦を描いた。
「最初に歌音さんが、先に甲羅を撃ち落として下さったおかげで、大分楽になりましたね」
「それと、べたべた粘着テープサッ! 完全にGボロちゃんの反撃を封じてくれたじゃないのサッ! 白兎ちゃんや皆の足止めも、役に立ってるじゃないのサッ!」
齧りとったGボロの足をもさもさと食べ始める暴食。
ばりっ、と黒光りする表皮が、カニの甲羅のような音を立てて折れる。びっしりと生えた黒い毛をぷっと吐き出し、暴食は更に悪食を続けた。
もさもさ食べながら、燃えゆくGボロに、恍惚の笑みを向ける暴食。
「さぁ、お前の腐らせたパンの数を数えろッ!」
いや、Gボロに算数とか、無理ですし。
「Gボロは燃えてもいいけど、万が一、校舎内で火事になったら、大変だし」
どこぞのファミレスのウェイトレスっぽい服装のまま、歌音が淡々と消火器を持ってきた。
消火器を横に置いて、暴食がもぎ取っていない足の関節を狙撃し、完全にGボロを壁のオブジェと化す歌音。
「このまま、パイルバンカーで胴体も潰しておく? 隆道の火で燃え尽きるとも限らないし」
「う‥‥」
暴食が美味そうにGボロの足を貪っている様に、精神的なダメージを受け、口元を押さえている隆道に敢えて尋ねる歌音。
「た、頼んだ‥‥」
べちょっと臭い体液が潰された腹部から飛び散り、燃え移った火が、勢いを増した。
そこへ、容赦なく消火液をぶっぱなす歌音。
(この後片付け、誰がやるのかな?)
縁が首をかしげた。
はい。皆さんで手分けして、やりましょうね。
包囲網になってくれたモブの生徒さんたちも、手伝ってくれますからね。
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暴食はひっじょーに不愉快であった。Gボロの死骸を食べられなかったからだ。
学食や購買で腐ったものは、廃棄処分になっていて、暴食の手に渡ることはなかった。
「手料理でよければご馳走しますから。好きなだけ食べていいですから」
隆道が食欲を完全に失い、暴食のために購買で材料となる食糧を買いあさった。
「本当? きみの手料理? ケラケラケラ、いいサッ、それでも構わないサッ!」
ご馳走してもらえると知り、暴食はさらりと機嫌を直した。
守り抜いた購買には、生徒が押し寄せ、棚は殆ど空っぽである。
それでも、ここを守り抜いた8人には、優先的に買い物が出来るように手配されていた。
「‥‥緊急事態が収束したことをお伝えします。繰り返します、学食、購買において発生していた緊急事態が‥‥」
歌音の声がスピーカーから流れてくる。
「今回のディアボロの発生源について、心当たりのある方は鴉乃宮 歌音までお知らせ下さい」
「‥‥これ、購買の残りものだけど、よかったら」
ユウは、適当に菓子パンを買って、マリカ先生(JZ0034)や、被害にあった人々にプレゼントして回っていた。そして、とぼとぼと姿を消す。その手には、火炎放射器と、駄目になってしまったバナナオレが握られていた。
校舎裏にて。
「‥‥おいしく飲んであげられなくてごめんなさい。けど、仇は討ったから。‥‥だから、またね」
泣きながらユウは、火炎放射器で腐敗したバナナオレを火葬し、「バナナオレさんここに眠る」と書いた札を地面にさし、丁寧にお墓を作って、手を合わせていた。
「せんせー! 学園のオアシス(=購買)を汚さんとする悪魔に、裁きの鉄槌を下したのです!」
白兎はマリカ先生に飛びついていた。
「私、がんばったのです。こわかったけど、気持ち悪かったけど‥‥」
撃退士といえど6歳。白兎は、マリカ先生に抱きついて、くすんと鼻を鳴らした。
「よく頑張ったのですー。えらいのですー。先生には何も出来なかったのですー。若菜さんは自分を誇って良いのですー」
マリカ先生は優しく白兎を抱きとめ、よしよしと頭を撫でた。
「お腹すいたよー!」
縁は購買でパンを大量に買いこみ、食いまくっていた。
「やっぱり食べ物って大事なんだよー、生きる活力なんだね‥‥」
もぐもぐしながら、おいしいパンの味を噛み締める。
(もしまた出たら、ホウ酸団子をGボロに突っ込もう‥‥)
新たな誓いを胸にする縁であった。
「もうGボロはこりごりだよ‥‥それよりお腹空いた」
梓遠はため息をついた。優先的に買えたとは言え、パン1つではお腹の足しにもならない。
「片付けも終わりましたし、スッキリしたらお腹がすきましたね」
にこっと葵が話しかける。その手には惣菜パンと野菜ジュース。
だが、腐食ディアボロの所為で、食料が大幅に足りていなかった。
パンすら買えない学生もいるようだ。
学食が被害にあったのが、最も厳しいところであった。
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というわけで、有志のものには、マリカ先生オススメの、「1000久遠で無制限食べ放題」のお店を紹介してもらえることになった。
マリカ先生自身には、どうも何か事情があるらしく、店員に見つからないようにそーっと入口を教えてくれて、そして何故か逃げるように去っていった。
お腹をすかせた学生たちが殺到し、あっという間に満席になる、食べ放題の店であった。
「おいしいね」
「そうだね。残すなんて、もったいないよね」
しみじみと、食べ物の有り難さを再確認する学生たちであった。