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マスター:神子月弓
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/01/20


みんなの思い出



オープニング




 原磯にて。

 絵羽(えわ)の父ダンが、工事現場で事故に遭った。
 足場が崩れて下敷きになり、下半身不随となった。

「それで済んで良かったです。両手も無事ですし、お話も出来ます。とうちゃんは幸運だったと思います」
 報せを受けて、絵羽はにっこりと微笑んだ。





 都内某所。
 ひなびたアパートに、ひとりの女性がいた。

 女性――田辺博美(たなべ・ひろみ)は、幼い頃から両親に束縛されて育った、箱入り娘だ。
 高校の時に初恋をしたが、親に反対され、ボーイフレンドを作ることは出来なかった。
 その後、親の選んだ女子大へ通学し、就職先も女性ばかりの職場を選ばされた。

 博美がOL3年目に突入する頃、母が交通事故で亡くなった。

 父は博美に、給料を全額家に入れろ、家事も全てこなせ、と命令した。
 博美は刃向かえないまま、年を重ねた。

 アラサーと呼べる時期も過ぎた頃、父に突然「孫はまだか」とせっつかれた。
 結婚相談所に登録しても、もう年齢的に遅かった。
 お見合いをしても、男性と付き合った経験が皆無なため、黙り込んでしまってご破算になった。

 そんな中、今度は父が、転倒して介護が必要になり、長く勤めた会社を辞めざるを得なくなった。
 その後は介護と家事で手いっぱいだった。

 既に60代に差し掛かっていた博美の胸中は、どろどろと濁っていた。

「若い頃は徹底的に男性を遠ざけておいて、手遅れになってから、いきなり彼氏はまだか、結婚はしないのか、孫はいつ、なんて、勝手すぎる! 私はおとうさんの奴隷じゃない、家政婦じゃない! 私の人生返してよ!!」

 博美は時折、アパートの隣人にも聞こえるくらい、わあわあと泣き叫んだ。
「うるさい! 誰が育ててやってきたと思っているんだ!」
 決まって、80代の父親が怒鳴り返し、互いに罵声を浴びせる大喧嘩になった。

 しかも、父親に物忘れの兆候が出始めて、余計にひどくなった。
 何か不手際があると、父は博美を叱りつけた。気に入らないことは全て博美の所為にされた。
 自分自身の落ち度であっても、父は絶対にそれを認めなかった。

 博美はよく家出をするようになった。
 アパートの隣人である香子(きょうこ)を亡き母のように慕い、時に避難させてもらっていた。
 香子とは、スーパーで会話したり、井戸端会議で愚痴を聞いてもらっている仲だった。

 香子には身寄りがない。所謂、独居老人だった。こちらも80代、亡き母と同じ年代だ。
 それもあってか、香子は博美をよく庇ってくれた。よく話を聞いてくれていた。





 ある日、香子が不在だった時、博美にとって耐え難いほどの大喧嘩が起こった。
 介護と家事でへとへとに疲れ切っていた博美は、「もう終わらせよう」と考えた。

 サンダルをつっかけて、商店街で練炭を買ってきた。
 父と心中するつもりだった。
 なのに決心がつかなくて、ひとり、誰もいない公園のベンチで、黄昏ていた。

「こんな寒いところで‥‥どうかしましたか?」

 博美に声をかけたのは、上質なスーツに身を包んだ若い男、二階堂辰巳(にかいどう・たつみ)である。

 誰でも良かったのかもしれない。とにかく、胸の内を話せる相手が欲しかった。
 博美は泣き崩れて語った。親の言いなりになって逃した青春、ひとりで背負いこんだ介護と家事のつらさ。最近の父の理不尽な罵声に怯えていることも‥‥死のうとして心が揺れていることも。

「では『極楽園』に来ませんか」

 辰巳はパンフレットを渡し、NPO法人『極楽園』の理事長だと自己紹介した。





 香子が足をゆっくり引きずりながら、夕餉の買い物から帰ってくると、博美の部屋のドアが大きく開いていた。

 大荷物を抱えた博美。年齢の割に前髪が薄めの、若いスーツの男性。
 そして、半仮面の天使と、博美の父親を抱えた赤い着物の女。

「博美ちゃん、どうしたの?」
「『極楽園』に行くんです。もう、ひとりで介護や家事を背負わなくていいんだそうです」

 博美は半信半疑だったが、それでも辰巳の言葉にすがってみようと考えていた。

(でも‥‥あのかたは、天使さん、よねえ? 信じてしまって良いものかしら‥‥?)
 香子は、天使、双貌のドォル(jz0337)を見て、小首をかしげた。

「今までうるさくしたりして、すみませんでした。お元気で、香子さん」





 1か月が過ぎ、香子のもとに手紙が届いた。消印は都内某所郵便局だ。

『香子さんへ
 此方へ来てよかったです。今は穏やかな日々を送れています。父も徐々に慣れてきたようです。
 怒鳴り散らすこともなくなりました。車いすを押して、2人で散歩をすることもあります。
 父には色々と悪いことを言ってしまいました。でも今は、喧嘩も全くしません。
 良い人たちにも囲まれていて、とても幸せです。 博美』





 香子は、学園の斡旋所のひとつに、連絡を取ってみた。

 天使がいるとしたら、久遠ヶ原学園だろうと踏んだのだ。
 天使族なら、博美の行き先を知っているかもしれない。そう考えたのだ。

「私も行ってみたいんです。あんなに喧嘩を繰り返していた2人が、1か月でがらりと変わるなんて、手紙の内容がまず信じられません。それに、アパートを出ていく時に天使さんがいたようですし、何とかして博美ちゃんに会いたいんです」

 香子は、可能なら『極楽園』への行き方を調べて、結果を教えてください、と頭を下げた。


リプレイ本文




 下半身不随になった絵羽(えわ)のとうちゃんから、進行した胃がんが見つかった。

「生前葬でもするがね。皆と騒いで、楽しんで逝きたいずら」
 余命がないことを知り、とうちゃんは、遺される絵羽とともに、宴会のプランを練り始めた。





 川澄文歌(jb7507)と薄氷 帝(jc1947)は、香子(きょうこ)を訪ねていた。
 田辺博美(たなべ・ひろみ)から来た手紙を見せてもらう。

「博美ちゃんのところは、ずっと親子喧嘩が絶えなかったのよ。なのに、1か月で人ってこんなに変わるものなのかしら?」

 不安そうに香子は、博美の家での揉め事を、知る範囲で話した。

「私は天魔が信用できるとは思えないの。うちの息子が殺されているんですからね。博美ちゃんは騙されているのではないかしら」

「婆さん自身は、何が知りたいんだ?」
 帝が尋ねると、香子は考え込み、そしてゆっくりと口を開いた。
「お願いしたとおり、『極楽園』への交通手段です。博美ちゃんを追いかけたいの。連れ戻したほうがいいのかは、まだ判断がつかないんですけれど」

「絵羽ちゃんの事も心配ですし、原磯の場所は私も知っておきたいですね」
 文歌は『極楽園』のパンフレットを見せてもらい、連絡先をメモしていた。





 シェリー・アルマス(jc1667)は、以前、乳児院に保護された赤ちゃん、のぞみについて、斡旋所経由で状況を聞いていた。

「元気にすくすく育っています、か。良かったぁ」

 少なくともグウェンダリン(jz0338)は覚えているだろう。自分の保護した赤ちゃんのことだ。
 もしかしたら、気にかけているかもしれない。





「今回はお兄ちゃんに真面目にしろって釘刺されたし、大人しく仕事しよう」

 しゅんとして、薄陽 月妃(jc1996)は、斡旋所に向かっていた。
 『極楽園』理事長の、二階堂辰巳(にかいどう・たつみ)について、聞き込みをしようと考えているのだが、相手に悟られないよう、辰巳の活動範囲とはかぶらないように、場所を選びたいとも思っている。

 そのためには、辰巳の活動範囲を知ることが、必要だった。

 斡旋所にて、今までの事件記録などから、辰巳の行動範囲を絞り込む。
 どうやら、千葉、東京、神奈川、埼玉の都市部などで、広く行動しているようだ。
 都市部に限らず、県境のほうにも足をのばしているらしい。

「これは‥‥広いですね‥‥範囲を限定するのも難しいです」
 辰巳にばれないように聞き込み捜査、というのは、困難かもしれないですね、そう月妃はため息をついた。

 やむなく、斡旋所のネットで『極楽園』について検索してみる。

 NPO法人としてすぐに出てきた。理事長の辰巳のプロフィールも載っている。
 現在20代後半。出身校は日本最高学府。経営や経済の勉強も修め、取得した資格がずらりと並んでいる。中には介護の資格も入っていた。

「お兄ちゃんに褒めてもらえ、じゃなくて、お兄ちゃん曰く、これが次への布石、になれば良いな」
 月妃はそのページを印刷してファイルに保管した。





 文歌のメモした番号に電話して、辰巳を都内の喫茶店に呼び出す。
 そう待たされることもなく、辰巳と天使双貌のドォル(jz0337)、使徒グウェンダリンが現れた。

「お久しぶり。グウェンダリンさん、のぞみちゃんは乳児院で、順調に育っているらしいですよ」
 シェリーが挨拶を交えて報告する。

「それは良かったです! 折角助かった命ですし、本当に良かったです。このまま元気に育ってほしいですね」
 にこにこと、辰巳が反応した。
「‥‥そう‥‥」
 一方、グウェンダリンは、思ったより反応が薄い。どんよりした眼を床に向けている。


「買い出しの途中だったんだけどね。何か重要な用でもあるのかと思ってやってきたよ」
 ドォルが軽くはじめましての挨拶を終える。マスターである天使の様子を見て、グウェンダリンも「はじめまして」とやっと会釈をした。

「そうなんです。グウェンダリンさん、私の代わりに買い出しにいっておいてもらえますか?」
 辰巳は、買い物をグウェンダリンに頼もうとした。
「二階堂くんは攫われた経験があるじゃないか。ぼくが行くよ。グウェンダリンは二階堂くんの護衛についたほうがいい」

 買い物メモとクレカを辰巳から奪い取るドォル。
 そして、メモをみて不思議そうな顔をした。

「ああ、新設した乳児院の分ですよ。あとはいつものお店で、いつものようにお願いすれば良い筈です。ではお任せしますね」


 狩野 峰雪(ja0345)は、3人のやり取りを見つめながら、軽くため息をついた。

(誰もが幸せに暮らせるユートピアか。実在するなら、僕も行ってみたいところだけど、どうしても胡散臭く感じてしまう‥‥そんな都合のいい話があるわけないって。今回は天使も関わっているんだよね)

 見せてもらったパンフレットの内容を思い起こす。

(ギリシャ神話に出てくるエリュシオンは、死者の楽園。何の苦労もない人生があるのだとしたら、それは死んでいるのと変わりはない‥‥。世には、死を選ぶしかないほど追い詰められている人は存在する。それを救おうとするのは崇高なことだけれど、果たして天使に利用されてはいないのかが、不安なところだよね)

 でもまあ、僕は天使の買い物につきあうかな。峰雪はそう考えた。


「うちも同行してよいかねぃ? 値切り交渉なら手伝えるさぁね」
 変わり者の天使に興味を持ち、ついてきた九十九(ja1149)が、買い物への同行を申し出る。
 肩には三毛猫のライムがちょこんと乗っている。

 そう言えば、ドォルの肩にも、小さなインコが乗っていた。
 猫と目が合うと、するりとドォルの白衣に潜って隠れてしまう。

「それ、サーバントだよね? サーバントも辰巳さんの護衛の為に、ここに残して欲しいな」
 シェリーが言う。

「喫茶店で相対するのは、こちらは3、対してそちらは2だ。どうこうするつもりはない、が。不安ならそのインコを置いていくことをお勧めする」
 帝もシェリーと同じ発言をする。

 峰雪が付け加えた。
「動物は盲導犬以外は店内に入れないから、外でお留守番だよ。これ、人間社会の常識だからね」

「グウェンダリンが1人いれば、二階堂くんの身は絶対に安全だよ。寧ろぼくに護衛が必要なんだ。だからサーバントは連れていくよ。使わずに済むならいいけれど、買い物中に冥魔が襲ってきたら必要になるじゃないか」

 ドォルは言い返した。

「それに、それが人間社会の常識なら、この喫茶店にも入れないはずだよね? 入口に置いておけっていうのかい? その場合、動向を管理する者がいなくなるから、インコが何をしでかすか保証できないよ」

 天使は大きな翼を向けて歩き出した。インコは白衣に隠れたままだ。

「さて、お話があるようですから聞きましょう。おごりますよ」
 辰巳が喫茶店のドアを開ける。
「あ、いえ、おごろうと思っていたのは寧ろ私のほうで‥‥!」
 慌てたシェリーが辰巳に続く。

 帝、月妃も喫茶店へと足を踏み入れた。





 喫茶店内。
 間接照明が照らし出す中、シェリーは結局おごられたタワーパフェにスプーンを突っ込んでいた。

(お兄ちゃん‥‥私服も似合っているって言ってほしいけど‥‥)
 3人とも私服である。月妃はもじもじしながら帝を見たが、帝もタワーパフェを黙々と食べていた。


 あっという間にタワーパフェを平らげ、帝は辰巳に詰め寄った。

「先に見せた通り俺は育ちが悪くてな。極楽なんて言う奴は善きにしろ悪しきにしろ信じていない。まずは俺が黙るだけの理屈を並べてくれ」

「理屈ですか? 人は環境が変われば、言動も変わるものですよ」

 辰巳は話し始めた。学問を修めていた頃に見聞きした醜聞の数々。些細な原因から大きな原因まで、人は争いから逃れられないのかと絶望した。心優しい辰巳にとって、苦悩の日々が続いた。
 そして、ユーカリが丘という実験都市の話を聞き、自分も人にやさしい街を作ろうと決意した。

 天使と協力して作り上げた町、原磯にホームレスを迎えた時、誰かに必要とされることによって、ホームレスの目の輝きが変わっていくさまを見届けた。
 居場所のない人たちを見つけて、居場所と役割を与えることが、彼の仕事になった。
 誰だって、誰かの役に立ちたいのだ。必要とされたいのだ。

「なるほど。極楽園の事、もっと教えてもらえないかな?」

 シェリーは<紳士的対応>を使うべく、こっそり光纏した。
 鋭くグウェンダリンに見咎められる。

「そちらがアウルを使うのでしたら、こちらも能力を使いますが、よろしいでしょうか?」
 どんよりとした視線がシェリーに注がれる。

 シェリーは慌てて、光纏を中断した。
(これは<スケッチ>を使うのも難しいか‥‥)
 帝は警戒されないよう、伝えたかったことを断念する。

「え、えっと、わかったから。改めて本題ね。質問したいことがあるんだ」
 シェリーは質問を書き留めていたメモをめくった。

・現在何人受け入れていて、後どのくらい受け入れ可能か

「そうですね、順調に人も増えていますので、現在のところ人口は500人程度ですね。もっと街も設備も改良して、800人規模までは受け入れられるようにしたいと思っています」

・運営管理してるのは辰巳さんだけか? 辰巳さんの右腕あるいは後継者はいないのか

「いますよ。私は理事長ですが、理事が9人います。特に経済面で問題が起きると厄介ですから、敢えて反対派の立場のかたに理事になってもいただきました。運営面で右腕といえば、そのかたになるでしょうね」

(運営管理の方が増えれば、もっと大々的にPRできますよね? 辰巳さん一代で終わってしまわない様、私達にもご協力させて頂けますか?)

 シェリーはそう畳みかけるつもりだったが、辰巳が「トップに立つ以上、私が誰よりも一番働かないといけませんから、頑張っていますよ」と微笑んだので、上手く割り込むことが出来なかった。

「心配している人達も居る。せめて声を聞かせたり会わせたりの配慮くらいはしてくれ」
 帝が辰巳を睨む。
「現在は郵便で対処させていただいていますが、より改善していくつもりですよ」

 会談は数時間に及んだが、辰巳の回答はどれも、誠心誠意、善意から動いている印象だった。

 帝は最後に、グウェンダリンの澱んだ目に視線を向けた。
「‥‥その目。俺と同じ目だな。奪われ、憎み絶望し、破壊を願う目だ」

 月妃が反論した。
「でも、もうお兄ちゃんは違う。わかる人にはわかるよ。昔より不器用にはなったけど、目の優しさは戻ったもん。お兄ちゃんはちゃんと歩き出してる。下じゃなくて前を向いて、今を見てる」

「‥‥なら、お前のおかげかもしれないな」
 帝は目を細め、月妃の頭を撫でた。





 一方、買い出し組。

「ちょっと待って、その格好で街中に出るつもりかい? 久遠ヶ原ならともかく都心では、街中が大混乱になっちゃうよ」

 峰雪が善意で着替えを提案したが、ドォルはくつくつと笑って取り合おうとしない。

「天使の格好って目立つと思うんですけど、人間と同じ格好をしたり、翼を隠したりはしないんです?」

 文歌も尋ねるが、ドォルは「しないなあ」と答えて、慣れた様子で入り組んだ地下街へと向かった。ぐるぐると難しい道を歩いて、目当ての卸業者の店まで移動する。

 何しろ、数か月ごとに買い出しにきている、いわば常連だ。馴染みの卸業者にたどり着くと、「いつも通り頼むよ」とドォルは店主に声をかける。
「あいよ」
 店主も頷く。

「こんな風体の相手に、よく商売が出来るなあ」
 峰雪が尋ねると、店主は笑った。
「そりゃあ、店を天魔から守ってくれた恩人でもありますからね。ここの界隈はドォルさん達に守られていますから」

 店主は、冥魔が襲ってきた時に、サーバントとグウェンダリンが撃退してくれたことを話した。
 殆ど店の被害も出さずに済んだというおまけつきだ。

「さて、問題は‥‥こっちのほうかい」

 ドォルは渡されたメモを取り出し、悩み始めた。店主がのぞき込んで、「ああ、ならいい店紹介しまっせ」と何処かに電話をかける。そして手書きの地図をドォルに渡した。

「赤ちゃん用品‥‥また随分な量さぁね?」
 九十九が買い物メモをちらっと見て、首を傾げた。

「うん。新しく乳児院が出来たからね。そこで必要なんだって」
 気さくにドォルが答える。

「あの、ドォルさんって人間に興味はあるけど、人間が行う事それ自体、例えば買い物やお金を支払ったりとかは面倒だと感じている‥‥違います? それなら私達がドォルさんのかわりにお買い物をするので、そのお買い物を「観察」するのはどうです?」
 文歌が提案する。

「悪いけど、これは二階堂くんのお金と買い物なんだ。勝手に預けるわけにはいかないね」
 クレカの控えに手を伸ばした峰雪を避け、素早く控えをしまい込むドォル。

「手伝ってくれるのなら、この地図の場所に案内してもらえないかい?」
 ドォルは文歌に、手書きの地図を渡した。


 赤ちゃん用品の卸業者にたどり着く。その間に業者は前の店主から色々事情を聴いていたらしく、買い物メモを見て「2日ほどいただければ全て揃いますよ」と答えた。

「んー、もうちょっと安くならないかねぃ?」
 香港感覚で、九十九が、値切り交渉を始める。ドォルは面白そうに見ていた。
「いやーお客さん厳しいなあ。これくらいしか差っ引けませんよ」
 店主もなかなか手ごわい。

「で、取引方法は、前の店と同じでいいのかい?」
 ドォルの問いに頷き。
「あれ、狩野さんはどこにいったのかな?」
 文歌がきょろきょろと周囲を見回した。


 峰雪は、先の卸業者に、撃退士と明記された学園証を見せ、「先程の客は成年後見なので、買い物内容と発送先を改めていいかな?」と尋ねていた。

「あの天使さんに成年後見人がつくなら、二階堂さんでしょ。それとも【成年後見登記事項証明書】でも持っているの? 確認のために見せてもらえないかな?」
 そう言いながら、店主は笑っていた。
「店の恩人を売る気はないよ。撃退士と聞いたら尚のことだね。あの天使さんを狙うつもりかな? 悪いけど、この店を守ってくれたのは撃退士じゃなくて、あの天使さん達なんだよ」

 卸業者との交渉は失敗したが、そこが食品・生活用品を扱う店だということは、入った瞬間からわかっていた。





 天使3人組と別れた後、文歌はぼそりと呟いた。
「原磯の地名と、ドォルさん達との遭遇場所が千葉寄りな事から、千葉の海岸線近くと推測は出来るけど」

 互いに情報を交換しつつ、シェリーも悩みこんでいた。

「食料と日用品は、多分原磯の人達の生活用かな。11tトラック1台で運べるのかな? 運べないとなると‥‥車以外? 空路は費用的に論外、海路はそれだけでは輸送成立しないから多分違う。陸路で車以外‥‥?‥‥貨物列車? まさか‥‥ね」

(うう‥‥早くお兄ちゃんに甘えたい‥‥)
 月妃が自分を抑えて震えていた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 外交官ママドル・水無瀬 文歌(jb7507)
 もふもふコレクター・シェリー・アルマス(jc1667)
重体: −
面白かった!:5人

Mr.Goombah・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部7年5組 男 インフィルトレイター
万里を翔る音色・
九十九(ja1149)

大学部2年129組 男 インフィルトレイター
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
もふもふコレクター・
シェリー・アルマス(jc1667)

大学部1年197組 女 アストラルヴァンガード
復讐鬼・
薄氷 帝(jc1947)

高等部3年17組 男 アカシックレコーダー:タイプB
好き好きお兄ちゃん・
薄陽 月妃(jc1996)

高等部3年14組 女 アストラルヴァンガード