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「要するに、たけのこ派が反論出来なくしちゃえばいいのよねェ‥‥?」
きのこ派の黒百合(
ja0422)は、調理実習室の片隅で、座学授業用タブレットを使い、たけのこ派を黙らせるための資料を制作していた。
『全世界でのキノコ、タケノコ消費率について
キノコ消費率5000万t/年
タケノコ200万t/年』
参考資料や論文の引用まで詳しくつけられた、素晴らしいレポートだった。
ただ、覗き込んだマリカせんせー(jz0034)は、ちょっとだけ、引用元の国際組織らしき『大世界食用きのこ学会』及び『銀河たけのこ研究機関』なる名称に首をかしげた。
「こんな研究施設、本当にあるんですー?」
「それが、あるのよォ♪」
即時でっち上げた、トップページしかないブログを見せて、微笑む黒百合。
すんなり信じるマリカせんせー。
まだ怯えている新米調理科教師を押しのけて教壇に立ち、黒百合は演説を始める。
「タケノコとキノコを比べるなら、圧倒的にキノコの方が有利なのよォ。キノコは食用にしてもいいし、漢方薬として活用してもいい、時には毒薬として重宝され、観賞用としても利用されてるわァ、反面、タケノコなんて種類は少ないし、食べ方も限られてるわァ、世界規模を考慮してもキノコの使用率の方が圧倒的に上、それに比べてタケノコなんてアジアの一部の地域でしか食べられていなのよォ‥‥はい、反論あるかしらァ?」
黒百合は、タブレットの資料を見せながら、艶然と笑む。
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(炊き込みご飯なんだから、きのこも筍もほかの野菜も、諸々と入れろよ‥‥と思うが、ここまできてしまえば、どちらも腹一杯になるまでぶつかるしかないか。俺としては筍派を推すかな)
地領院 徒歩(
ja0689)が黒百合に続き、美味しそうなたけのこ料理のフリップを持って立った。
「さて、ご拝聴願おうか。栄養面を見れば、筍はカロリーが低い割に食物繊維が豊富だ。他にビタミン、カリウムなども含み便秘、美容、むくみ、高血圧に良い」
採れたてでしか頂けない、たけのこのさしみとサラダの写真フリップを出して語る。
「また、歯ごたえがあり満腹感を得られるため、過食対策にも効果的だ。酒のツマミにもいいだろう」
今度は土佐煮の写真フリップで、皆の胃袋に直接アタックだ!
「魔術的観点からみれば、その性質から『成長』を司る縁起物でもある。自身の成長に不満のあるものは、この機会に食しておくのもいいだろう」
(まぁ筍推しではあるけれど、ムキになるほどでもないし、皆がそれなりに満足したら、きのこ派に勝ちを譲ってもいい。飯に善悪などないしな)
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演説を終えて、徒歩が教壇から降りようとした瞬間。
「アッーーーー!」
転げ悶える徒歩。そこにはたけのこを抱えて、仁王立ちした歌音 テンペスト(
jb5186)の姿が!
「あっ‥‥間違えて、たけのこ派を襲っちゃったかも、‥‥て、てへぺろ?」
「待って! 歌音さん待って! 出来れば話し合いで解決したいのよ」
エルナ ヴァーレ(
ja8327)が、教壇の中に避難しながら、たけのこ派に向かってまくしたてた。
「あたいは断然きのこよきのこ! キノコって何種類あると思ってんの!?!? たけのこなんて一種類じゃない!!! いろんな種類があるんだから、誰だってお気に入りの一品の1つや2つや100ぐらいあるでしょー!!」
息を継いで、エルナは更に説得を続ける。
「たけのこコリコリしたいなら、きくらげ食え!! きくらげ!! あとあたいビール派だから、やっぱりきのこは譲れないのよ!!! たけのこは日本酒イメージよね!!! 同意者求む! 異論は認めない!!」
歌音の説得(物理)を回避すべく、背を低くしながら、調理台に向かうエルナ。
たけのこ派の学生の班の鍋に「それでもたけのこを推すなら、この『なんかいい気分になるキノコ』で‥‥」と、何かをポイポイ入れてしまう。
何とも言えない香りが鍋の中から漏れ出してきた。
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「マリカせんせー! あたし立派に敵を撲殺するお! 精神的にも肉体的にも」
極太サイズのたけのこに頬ずりしつつ、歌音はセクシーにマリカせんせーに流し目を送る。
せんせーは歌音の流し目には、全く気づいていないようだった。
「地領院さん、大丈夫ですー?」
それより、ぷるぷると倒れ伏したままの徒歩を心配するマリカせんせー。
嫉妬の炎が歌音の心に燃え上がった。徒歩の背を片足で踏み(ヒドイ)、歌音は叫んだ。
「みんな、もうあたしのために争うのはやめて!」
全くもって意味不明であるが、構わずに歌音はたけのこを構える。
「わかっているわ、あなたたちはきのこがエ■く感じるから好きなんでしょうけど、たけのこだって充分エ■いのよ! なぜなら、■■■皮■■■■固■■太■■■■!!!」
良い子には意味が全然わからない口撃を繰り広げる歌音。
「ちがぁぁぁう!」
教室中のきのこ派全員が、全否定した。
歌音がスレイプニルを呼んで、更に説得(物理)を続けようとするも、ここは実習室内。屋内で召喚獣を呼んだら教室が破壊されてしまう。
はたとそこに気づき、スレイプニルを使用した電撃作戦を諦めて、両腕に抱えたたけのこで、きのこ派を襲おうと、路線変更する歌音!
「たけのこドリルアターッッック!!」
両脇に抱えたたけのこを、一生懸命、腕の力で回しながら、歌音は調理実習室を見やる。
果たして徒歩の次に狙われるのは誰か!!?
資料を見せながらプレゼンしていた、きのこ派代表(?)の黒百合だ!
「甘ァい♪」
敵襲を警戒していた黒百合は、するりと<物質透過>で、歌音入魂のたけのこドリルを見事に通り抜けた。
「わああん卑怯なりぃー!!」
えぐえぐと泣き出す歌音に、戦争は放置して、こつこつと料理を進めているRehni Nam(
ja5283)がため息をついた。
「ふぅ、お菓子ならともかく、山菜の、実物のキノコとタケノコで戦争って‥‥どっちも良し、強いて選ぶならキノコ一択で確定じゃないですか。バカらしいです」
「こ、こ、こんなところにも、隠れきのこ派がぁー!! やっぱり■殖率の問題かしら! ■■■■■■■!?」
子供にはわからない何ごとかをわめきながら、血の涙を流す歌音。
歌音の、たけのこドリルアタックを、パルテノンで受け止めて、ひょいと弾き返すレフニー。
何事もなかったかのように、消毒用石鹸で手を洗い、再び調理に戻る。
わあわあと泣き喚く歌音。
歌音の発言の意味を全くわかっていない、ある意味無垢なマリカせんせーが、よしよしと背中をさする。
「全く、面倒くさい子ねェ‥‥この程度の人数なら、たけのこなんかじゃなく、スキルだのV兵器だの使って、敵勢力をまとめて血祭にしてしまえば楽でしょうにィ‥‥」
歌音の様子に呆れ、ちょっぴり物騒な発言をする黒百合。
いや、歌音はそれをしようとして、狭くて挫折したのですよ。
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レフニーの師匠こと水無月沙羅(
ja0670)も、静かに調理を進めている1人である。
後ろで戦争が起きているなんて思ってもいないような、優しい顔で、丁寧に料理にまごころを込めて丹念に作っていく。
「私は、きのこ派ですが、たけのこ派とも仲良くやっていける未来があると、信じています☆」
沙羅の笑顔が眩しく輝いた。
「ですよねえ。タケノコ単体のタケノコご飯も良いですけど、やっぱりキノコ、個人的な好みでいえば、しめじを入れて一味加えないと、やっぱり満足できません。タケノコの歯応えは、確かにキノコには出せない、素晴らしいものではあります。しかし‥‥」
レフニーは沙羅と共に調理に勤しみながら、呟いた。
「‥‥タケノコは味が淡白すぎるのですよねぇ‥‥その分調味料や、他の具材の味を生かせるといえばその通りですが、でも、それならお米で事足りてしまいます」
「そうなると、香りも味も歯応えも、種類で様々なキノコにはどう足掻いても勝てない‥‥それが事実であり、真理であると思うのですよ」
淡々と調理を続けながら、レフニーは自身の思いを、師匠・沙羅に告げた。
その言葉に耳を傾けていたものがいた。
そう、皆にすっかり忘れ去られている新米先生、調理科の教員だ。
「ではこうしましょう。今日の課題は炊き込みご飯でしたが、お好きなものを作ってください。たけのこ派ときのこ派、どちらがより美味しい料理を作れるか、そこで勝負しましょう。マリカせんせーも、味見と採点に協力してくださるそうです」
「え? え?」
ずるずるとマリカせんせーは教壇に連れて行かれ、学生たちは、調理に戻った。
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「切るとか煮るとか、雑で簡単なことしかできぬが、まぁ役には立つだろう。俺のことも好きに使ってくれていいぞ」
徒歩が班に戻り、あく抜きしたたけのこを、食べやすい大きさに切り分ける作業を手伝い始めた。
エルナが悪戯をした鍋には、食用ではあるものの、食後に飲酒を行うと、肝臓によるアルコール分解を妨げ、二日酔い状態を起こすとされている、ヒトヨタケが放り込まれていた。
「‥‥あら、意外と美味しいじゃない。ビールが欲しくなるわね」
勿論、授業中の飲酒は禁止です。
しかしドイツ人のエルナにとって、ビールは女の子がソーイングセットを持つようなもの。
新米教員が止める間もなく、エルナの手には小さなビール瓶が握られていた。
「大丈夫よ。撃退士のあたいがビール如きで酔うわけが‥‥」
自信満々なエルナが、ヒトヨタケの恐ろしさを思い知るまで、あと、1時間弱である。
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レフニーが「先生できましたー!」と左手を振った。
彼女は左利きなのである。
「松茸の土瓶蒸しに、椎茸の肉詰め、そしてしめじとタケノコの炊き込みご飯に、なめこおろしですか。良いですねぇ。とっても美味しそうです」
先生2名は、感心しながらレフニーの料理を少しずつ口に運んだ。
松茸の土瓶蒸しは、蓋を開けたときに漂う松茸の香りが心地よい。飾り切りしたすだちを加えながらスープをいただくと、だし汁の塩加減が実に良い。
椎茸の肉詰めは、一口噛むと、ジューシィな肉汁と椎茸の旨みが口の中で混ざり合う。からし醤油やケチャップにも合いそうな味だ。このまま照り焼きなどにも応用できるかもしれない。
定番の炊き込みご飯には、人参と油揚げも入っていて、見た目も味のバランスも良い。炊飯器を開けた時にふんわり香るしめじと、歯応えのあるタケノコのハーモニーが、食欲をかき立てる。
辛味の少ない大根をおろして作ったなめこおろしは、刻んだシソとポン酢がかけられており、さっぱりといただける味わいだ。
「美味しいのですー、素晴らしいのですー」
マリカせんせーは試食なのを忘れて、ぱくぱく食べそうになり、新米教員に止められていた。
「一応きのこ派ですが、タケノコとの相性の良さもわかって欲しいと思ったのです」
先生方の好評ぶりに、レフニーが無い胸を張る。
「でも先生、お師匠‥‥ミナヅキさんのお料理をいただいたら、更に価値観が変わると思いますよ」
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「きのことたけのこの良い部分を、お互いに認めてほしいと思って作りました」
沙羅は、きのこ派として、3種類のきのこ御飯を用意していた。
その本格さに、先生たちも目を見張る。
まず先生たちの目を引きつけたのは、羽釜だった。
古き良き、かまどでの炊飯に使われた、あの羽釜である。
炊きたてのご飯をよく混ぜながら、沙羅は解説した。
「珍しい茸の釜飯風御飯です。黒あわび茸、コプリーヌ、バイリングなど、貴重で珍しいきのこ6種と栗を入れました」
「黒あわびタケですか! バイリングは白あわびタケのことですよね。どちらもコリコリして美味しいですね。それに、コプリーヌなんてよく手に入りましたね、1日もせずに溶けてしまうキノコでしょう?」
興奮気味に調理科の先生が語り始める。沙羅は「お試しください」と一口分ずつよそった。
もぐもぐ。教師陣の口数が減った。
「食感がいいですね」
その一言に尽きるという感じだった。
「まだまだ、ご飯ものは続きます。炊飯器で炊きましたのは、しめじ御飯です」
木製のおひつに入れて、教師陣に提供する沙羅。
「先の釜飯と対照的に、大衆的な料理をと思いました。ぶなシメジをそのまま、冷凍シメジ、干しシメジの3種類を用意いたしまして、セルロースをいれて旨味を増しました。ホンシメジにも負けない旨味と風味のある一品です」
もう、教師陣はもぐもぐしながら、黙りこくっている。表情が実に幸せそうだ。
「土鍋で炊きあげましたのは、白トリュフ御飯です。米に白トリュフをいれて香りづけをし、普通に土鍋で炊いたご飯です。ツヤを出すため、トリュフオイルを数滴垂らしてあります。仕上げに、炊けた土鍋の中にトリュフをたっぷりスライスして、ほぐしてから召し上がっていただきます。トリュフ塩と特製なめたけを添えて、はいどうぞ」
トリュフの香りが土鍋から立ち上る。ミネラル系というかスパイス系というか、何ともまろやかな香りで、どこかバターにも近い不思議な感じだ。きのこの香りというより、香水のような印象を受ける。
「御飯ものばかりでは、汁物が欲しくなるでしょう。イベリコ豚と筍の沢煮椀と、なめこのお味噌汁を用意しました。スープに、素材の旨味と風味、召し上がるかたへの優しさを精一杯盛り込んだつもりです」
「完璧です!」
新米教員はそう言って、他の班の実習生にも沙羅の手料理を試食するよう言った。
「うめぇ!」「すげーな!」「美味しい!」と歓声が広がる。
「きのこだの、たけのこだの、何で意地張ってたんだろうな、俺たち」
男子学生が呟く。
「旨いもんは旨いのさ」
徒歩がどんと学生の背を叩いた。黒百合も頷く。
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「よかったです。仲直りできましたね。ご褒美に、たけのこのパンプディングを用意していました」
沙羅は、蜜煮にしたたけのこを、サイの目切りにし、半分はペースト状にして、サバランのパンを加え、プリン生地に混ぜて蒸していた。
黒蜜をかけて、完成である。
「たけのこのスイーツです。皆さんでどうぞ」
「やっぱりお師匠のご飯は美味しいです。キノコの良さを引き出しています」
レフニーが、あくまでもきのこ派として感想を口にした。
「これだけ美味しいんだから、やっぱりきのこでしょう!!! ま、でも出された食べ物は、おいしく全部食べるのが一番素敵よね‥‥おかわり!」
エルナも舌鼓を打つ。ヒトヨタケが効いてくるまで、あと40分。
そんな中、えぐえぐと泣いている女子がいた。
「可愛い女子だらけのこの依頼、誰かを失うなんて耐えられない」
歌音である。
「こんなに血生臭くなった以上、果てど無く続くこの戦争を終えるため、三国時代を現出するわ! 栗・秋茄子・サンマ・南瓜・銀杏・イナゴなどを放出し、第三勢力となって三つ巴にするの! 三者の睨み合いによって、この果て無き戦に幕が下りるのよ!」
‥‥まだ続ける気だったんですか、歌音さん?