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マスター:神子月弓
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/08/27


みんなの思い出



オープニング




 マリカせんせー(jz0034)は、暑さのあまり、教師寮の自室でへばっていた。
 フローリングは、窓から差し込む強い日差しに温められて、床暖房状態。
 扇風機から、もわんと熱風が吹いてくる。

 暑いのですー。うだるのですー。

 言葉も出ないほど朦朧としながら、ぼんやりと、デスクに設置されたパソコンを見やる。
 モニターには、世界の美しい風景が、次々と映し出されていた。

 そう、その画像群は、せんせーの編集した、スクリーンセーバーである。

 スライドショー形式で次々と切り替わり、涼しげな高原や美しい花畑、海や山、海外の古城などを映している。

 モニターにウユニ塩湖が映ったあたりで、せんせーはごろごろとフローリングを転がった。
「きれいで涼しい所にいきたーい、ですー! せんせーにだって休む権利はあるのですー!」


 それまで、せんせーは、小等部の「夏休みの宿題」図画工作部門を、採点していたのだった。

 敢えて言わずとも、久遠ヶ原学園はかなりのマンモス校である。
 その中で小等部に限っても、せんせーが、図画工作を担当している生徒数はすごい数に上る。
 彼らの作品を、ひとつひとつ、しっかりと採点し、成績表用のデータを、期限までに、教員用データベースに送らなければいけない。

 買い置きのアイスが切れるまでは順調だった。
 冷凍庫が空っぽになった現在、せんせーのやる気ゲージはマイナスになっていた。

「こんなんじゃダメです‥‥まだ、中等部も、高等部も、大学部もあるのですー‥‥」

 美術実技専任教師であるせんせーは、ぐるぐると目を回していた。

 自室用のクーラーを買うことも、いい加減に考えなければならないですー。
 でも、クーラー代のつもりでお金を貯めると、気が付くとアイスに化けて消えてしまうのですー。
 世界の不思議なのですー。

 ‥‥

 ‥‥

「そうですー、気分転換に、バカンスに行くのですー」

 むっくりとせんせーは起き上がった。

「でもお金がないのですー」

 再びぺたんとフローリングとお友達になる。

「‥‥講堂をひとつ借りて、バカンス気分に浸るのはどうでしょう? あそこなら空調もありますしー、スクリーンに海外の風景をプロジェクターで投影すれば、あっという間に、好きな場所で過ごしている気分になれるのですー」

 イイコトを思いついた、とばかりに、せんせーは浮かれ始めた。

「こう暑いと、涼しいところがいいですねー、雪山登山とか氷河のお散歩とかどうでしょうー、講堂をキンキンに冷やしてもらって、南極とかもいいのですー」

 独り言の途中で、はたと気が付く。こんなアイデアがあっても、ひとりでは何もできない。

「‥‥そーですー、涼を取りたい学生さんに手伝ってもらうのですー。せんせーは南極を希望するのですー、ペンギンさんや動物さんと戯れたいのですー。いっそ文化祭みたいに『南極カフェ』とか開いちゃってもいい感じなのですー」

 そんなことを思いついた瞬間、脳裏に、普段からお世話になっている、とある外食チェーンオーナーである紳士の姿が浮かんできた。
 早速、電話をかけるせんせー。

「もしもーし、松井さんですー? 実は、南極カフェを開きたいのですー。食のプロである松井さんのお知恵とー、ついでに松井さんのお店で使っている食器や機材とー、あとついでに消費期限切れ寸前の食品なんかをちょこっと拝借出来ないでしょうかー?」

 勿論、期限間近の食材については、全部自分で食べるつもりだ。松井は電話越しに、鋭くその意図を見通してきた。
 期限切れ間近の食材を使ったまかないを、普段からせんせーに提供しているだけのことはある。

『マリカ先生が開くのはカフェかね? 料理がメインのレストランではなく?』
「ですですー。あ、松井さんは、もしかしてレストランを開くつもりですー? なら、せんせーが学園内に場所を借りて、提供するのですー、これでお互いさまなのですー」

 だいぶ、せんせー側が無茶を言っている気がするが、交渉は無事に成立し、ここに「南極レストランと南極カフェ」のコラボレーションが誕生したのであった!




 『南極カフェでバーチャルバカンスしませんか』

 せんせーは早速、学園の掲示板に張り紙をはった。勿論ネットのSNSにも書き込んである。

 『第4講堂を借りて、ヒンヤリ南極カフェを催します。

  プロジェクターやライトを扱える、舞台芸術が得意な学生さん、
  ペンギンに扮して皆を和ませてくれる着ぐるみさん、
  空調を管理できる学生さん、
  せんせー用の料理を作ってくれる調理師さん、
  南極スイーツ(こちらの材料は新鮮)を作って給仕してくれるメイドさんか執事さん、
  バカンス写真を上手に撮れる学生さん、
  そして勿論、お客さん役の学生さん!

  ‥‥などなど、皆さん一緒に涼を取りながら、学園内でバカンスしちゃいましょう!

   詳しくはマリカせんせーまで、寸志ですが報酬もありますよー』

 完全にノリと勢いで、企画を立ててしまったせんせー。
 果たして、せんせーの希望するバーチャル・バカンスは、実現するのだろうか???


リプレイ本文




 南極カフェ。

 マリカせんせー(jz0034)の依頼を聞いた瞬間、皆の脳裏に閃いたのは、様々な「南極」のイメージだった。


「南極気分を味わいたいなら、あたいにお任せよ!」

 ウシャンカをかぶり直し、雪室 チルル(ja0220)が気合いを入れる。

「とりあえず、空調は、最低温度に設定。風力も最大稼働で働かせ、思いっきり講堂を涼しくするわ! 念のため、室外機の冷却効率を上げるために、氷枕もセットするし、扇風機もよそからいっぱい借りてきて、全力稼働させるわよ!」

 今のチルルはイヌイットの民族衣装に身を包んで、防寒対策も万全だ。

「空調はとうぜん限界設定まで下げるよ! 扇風機もぶん回すんだから!‥‥これで雪でも降れば完璧なんだけどね‥‥」


「キャハハァ、甘いわねェ‥‥チルルちゃん♪ 南極を再現するとなればァ、温度はマイナス89度、風速は秒速30m以上‥‥南極で観測された最低気温が目標じゃないのォ‥‥♪」

 どこかに電話をかけていた黒百合(ja0422)が、にやりと微笑む。

「降らぬなら、降らせてみせましょ、ほととぎす、だわァ♪ 私たちに不可能はないのよォ♪」


 あれ? 黒百合さんの背後で、なんだかいっぱい業者らしき作業着の人がやってきて、講堂を次々と改造していきますよ?


「液化窒素式の空調装置、及び、商業用大出力電源の確保、順調です!」

「講堂外部の空きスペースに、液体窒素貯蔵タンク、及び、空調用室外機の各所設置、完了です!」

「講堂各所に空調用ダクト、送風機、人工造雪機を増設しました!」

「各所の密閉作業、講堂内部の補強作業、保温作業、完了しました!」

「温度センサー、風速センサー、湿度センサー、設置完了です! 今から自動制御回路を組み込んで各種機器の試験運転を始めます!」


 ちょ、ちょ、ちょ、待ってくださいなのですー、これってちゃんと以前の状態に修復できるんですー? それに工賃はどうするんですー?

 慌てたせんせーが黒百合に尋ねようとした瞬間、講堂がマイナス89度に設定された。
 扇風機と送風機と人工造雪機が稼働し、冷たくかき混ぜられた空気が猛吹雪を生み出し、せんせーの口に雪がすごい勢いで飛び込む。

「あァ、工賃はせんせーの後払いにしておいたからァ、無問題よォ♪」

 ぴらぴらと請求書を風にはためかせ、黒百合は微笑んだ。


 \大丈夫! これコメディだから!/


「寒いのは、むしろ懐かしくて好きだなあ」

 半袖半ズボンの藍那湊(jc0170)が、猛吹雪の中を、気持ちよさそうに堪能している。


「こ、ここまで寒くするなんて、聞いておりませんでしたわ!」

 半袖ミニスカートのもこもこ服に、ブーツともこもこ帽子という、あったかそうな見た目に反し、むき出しの手足を凍りつかせている斉凛(ja6571)が、慌ててアウルを身にまとう。

 そう、あうるぱわーで、防寒もバッチリですのよ!
 女の子たるもの、可愛いウェイトレス衣装を着こなすためなら、多少の我慢は必要ですわ!


「これなら、本物のかまくらも作れそうだね」
 黄昏ひりょ(jb3452)が苦笑した。
 親友の凛に歩み寄る。

「凛さんは普段と服装が違うから、何だか新鮮な感じだね? そういうのも凄く可愛いと思うよ」


 猛吹雪の中、白い頬を染めて照れる凛。
 逆方向を見ると、そこには、南極と南国をはき違えた格好のせんせーが、氷の彫像のようになっていた。





「素敵だわァ、これこそ南極って感じよねェ♪」

 黒百合が微笑む。

 空調試運転は、マイナス89度を観測したところで一旦完了し、通常運転(マイナス20度維持)に戻った。吹き荒れていた人工雪も今は収まっている。


「ここにオーロラの映像を映したら綺麗だろうなあ」
「ですねぇ」

 ひりょの言葉に湊も頷く。

 講堂の一角、撮影ブースにて、積もった人工雪でかまくらを作りながら、ひりょはペンギンの着ぐるみを着てぬくぬくしていた。


 黒百合の設置させた救難所で、防寒服を身につけ、ひりょの用意したふわふわのコートを身にまとい、チルルの温カイロと、凛の紅茶で暖をとり、凍えていたせんせーも、何とかほっと息を吹き返す。
 一般人のマリカせんせーには、アウルという最終防寒兵器(注釈:この依頼に限る)はないのであった!


「あたいのぺんぎんさんを貸してあげるわ! その代わり、ばりばり働くのよ!」
 ペンギンの着ぐるみを差し出すチルル。

「せんせー思うんですけど、講堂の外に出れば自然にあったかくなると思いま‥‥」
「却下ぁぁ! 折角の南極気分が台無しだよJK‥‥!」

 やむなく、有り難くペンギンの着ぐるみを受け取り、防寒着の上から更に装着するせんせー。

「もちろん料理やら、その他を運ぶのもペンギンのお仕事よ! 持ち手がおかしい気もするけど、ペンギンだから何とかなるはず!!」
「えー、せんせーも働くんですー?」
「当たり前よ!」


 チルルとそんなやり取りをしていると、黒百合が携帯を残念そうにしまっていた。

「ガッカリだわァ、ホッキョクグマは絶滅危惧種だからァ、貸し出せないんですってェ」

 それ以前に、南極にホッキョクグマっているんですー?
 ちょう素直にせんせーは思った。

 A.いません。(マジレス)





 いよいよ「南極カフェ」開店時間である!
 涼を取りたい、暑さで猛烈にうだった人々が、入口に行列をなしている。


 お客様をお迎えしたのは、凛の運び込んだ氷の塊と、マイナス20度に設定された寒さだった。
 冷たい風がびゅうびゅうと吹きつける中、照明が落とされ、湊の<ダイヤモンドダスト>が細かな氷の結晶を舞い散らせる。
 スポットライトが氷の結晶を浮かび上がらせ、神秘的な風景を浮き出させる。

 見上げれば、プロジェクターから映し出されるオーロラのカーテン。
 人工雪で出来たかまくらに、ペンギンの着ぐるみが何体か、とてとてヨチヨチと歩いていた。


 お客様が漸く落ち着いたところで、凛が巨大な氷塊を持って現れた。

「さて、これからご覧に入れますのは、氷の彫刻ショーですわ。完成後には何ができますか、お楽しみくださいませですの!」

(マリカ先生の前で彫刻って緊張しますわね、でもお客様に楽しんでいただきたいですわ)

 凛は、美術実技専任教師であるぺんぎん=マリカせんせーを意識しながらも、豪快に彫刻道具とバーナーを振るった。
 ダイナミックに空を飛んで、上からがしがし氷を削って行くそのスタイルに、「うわぁ」と思わず湊が赤くなり、顔を両手で覆った。

「あ、あの、ミニスカートが翻って、その」

 お色気耐性ゼロの湊である。ひりょは背後から歩み寄り、湊の目をペンギンの着ぐるみの両手で覆ってあげた。


「藍那さん、流しそうめんの台を作るの、手伝いますよ。凛さんの氷塊も余っているみたいだし、本物の氷山で作れそうだしね」

「はっ、はいっ!」

 湊は真っ赤なまま頷いて、流しそうめんの土台となる氷山をひりょと共に作り始めた。


「冷やし中華始めました」
 南極カフェの入口にビラを貼り付け、チルルは満足そうに頷く。

 凍る寸前の、キンッキンに冷えた麺と具材を用意し、冷たいカフェの中でもおいしさを損なわない、ひんやりとした味の実現を目指して作ったものだ。

 チルルはカフェ内にも「冷やし中華あります」の札を下げた。
 彼女に続いて、皆が用意したお品書きが増えていく。

「南極で実際に食べられているソフトクリームを、可能な限り再現しました。ひんやり甘めでおすすめです!」

「シンプルなソフトクリーム以外にも、パフェ風のソフトクリームも準備しました」

「飲み物は温かいものと冷たいもの、両方とも準備してあります。紅茶、珈琲をどうぞ」

 ひりょがペンギン着ぐるみの中から声を張り上げた。
 そして、余暇を利用して作ったメニュー板を壁に貼り付ける。

「うき浮きスイーツプレート、浮き輪を模したドーナツとペンギン型クッキーを、粉砂糖を散らしたお皿に乗せた一品ですぅ」

「白玉善哉かんざらし風、長崎ご当地スイーツをヒントに、細かな氷を入れた冷たい善哉ですぅ」

「氷山流しそうめん、氷山にそうめん台をとりつけ、細かい氷と共にそうめんを流していただきます。涼をとりつつ量を食べたい人向けですよぉ」

 湊のメニューも、札に書かれて壁に飾られていく。

「さて、出来上がりましたわ。こちらフルーツビュッフェコーナーになりますので、どうぞお近くに寄ってお取りくださいませ」

 凛の声がして振り向くと、豪華な氷の城に、ペンギン達が遊んでいる可愛らしい彫刻が出来上がっていた。手に取りやすい位置に、カットしたフルーツを飾り立ててあり、フルーツの取り皿や、フルーツに添えるクリームやソースも数多く用意されていた。

 程なくして、「フルーツビュッフェ」の札がメニュー板に飾られる。


「南極に来たなら、もちろん冷たい料理だよね! ほら! 冷やし中華あるよ! 食べた人が凍える? それが南極だ。文句あっか!」

 チルルが元気いっぱいに言い張る。

「‥‥みんな、どうしたの? 元気ないわよ?」


 うだる暑さからやってきたお客様たちは、あまりの気温差に、凍えていた。
 入口で防寒着を渡されるまで、こんなに本格的とは、わからなかったらしい。


 ペンギンの着ぐるみで、凛の淹れた紅茶をヨチヨチ運ぶ、マリカせんせー。
 茶器を回収しようとして、素でステンと転ぶひりょ。

 お客様に和んでもらう作戦は、成功しているようだった。


 男子用に改造したメイド服のエプロンを外し、燕尾型のベストを羽織って執事風の装いの湊が、ひりょを手伝って茶器を回収する。

 <磁場形成>を使い、氷上を滑るような動きで給仕する湊。慣れた所作に隙がない。
 
「これでもバイト先のメイドバーで、メイドやってますから‥‥いえ、男ですけど!」
 ひりょに褒められて、湊は必死で「男ですけど」を強調する。ひりょは「わかっていますよ」と頷いた。

「えへへ、実は執事っぽいこともやってみたかったんだぁ」

(紳士らしく、きりっと気を引き締めて、頑張るよっ。お客さんだけでなく、ここにいる皆が楽しめたらいいなぁ)

 湊は襟を正し、給仕の仕事に戻った。





 お客様が、入れ替わり立ち替わり、喫茶と、ひえひえの南極気分を味わっていると。

「ハァ〜イ♪ これから、南極で観測された最低気温と最大風速を、体感していただくわねェ♪」

 講堂内に黒百合の声のアナウンスが流れた。

 凍ってはいけないものを、急いで避難させる、南極カフェ・スタッフ。
 もちろん、ペンギンの着ぐるみのひりょとせんせー、チルルは、運搬中にもぺたぺた転ぶ。
 ぺたぺた転びながらも、お客様に防寒布やコートなどを配るひりょ。
 それをスマートに手伝う、ウェイトレス・凛と執事・湊。

 そしてやってくる、温度マイナス89度、風速は秒速30m以上の世界。

 どよめくお客様。
 救難所に走るお客様多数。
 外へ逃げ出すお客様も。

「はい、終わりよォ。南極の自然の厳しさを体感していただけたかしらァ?」
 アナウンスとともに、空調の最大運転は終了した。


 まさか、マイナス20度の世界が、こんなに穏やかだったなんて、誰も思わなかっただろう。
 過酷な状況を体感することで、感覚がマヒしていく。

「凄かったですわね」
 お客様に温かい紅茶を振る舞う凛。

「これでも使ってあったまるのよ!」
 お客様に温カイロを手渡して回るチルル。


 救難所に待機し、風圧や暗がり、凍った床で転んだお客様を、<治癒膏>で手当してあげるひりょペンギン。

「実は魔法使いのペンギンさんなのだ!」
 小等部のお客様にそう言って、ペンギンの着ぐるみの手をパタパタさせる。

 寒さに耐えられないお客様には、ふわふわコートや肌かけ、防寒着を渡し、何くれと世話を焼く。


 続いて、かまくら前で、ペンギン着ぐるみのひりょやマリカせんせーと一緒に、撮影会が行なわれた。
 
 バックスクリーンにオーロラが映し出され、湊が<ダイヤモンドダスト>を散りばめる。

(着ぐるみひりょさん、かわいいなー)
「い‥‥一緒に撮ってもらっていいですか‥‥っ?」

 勇気を出して湊が言ってみると、ひりょは「どうぞどうぞ」とペンギンの手で招いた。

「鳳凰や、ケセランとも、お写真一緒にできますけど、どうしますか?」
「あ、えっと、俺は‥‥ペンギンさんに囲まれたいから、じゃあ、せんせーも一緒に」

「あら、せんせーもご指名ですー?」

 ヨチヨチと歩み寄る、ペンギンの着ぐるみ2人に挟まれるようにして、湊は記念撮影をした。
 パシャリ、と耐寒デジカメからいい音がする。


「わーん、ど、ど、どうしましょう」

 しっかり者メイド、ウェイトレスと名を馳せる凛だが、弱点があった。
 オーダーを取った直後、流し台の奥でべそをかいている。

「どうしたのですー?」
 ペンギン着ぐるみのまま、気づいたマリカせんせーが尋ねる。

「こ、珈琲をオーダーされてしまいましたの。わたくし飲むだけでなく、淹れることも出来ませんの‥‥」

「じゃあせんせーが助けるのですー。お湯があれば、インスタント昆布茶が作れるのですー!」

 どこからともなく、昆布茶スティックを取り出す、せんせーペンギン。
 ひりょが危うく、親友のピンチに駆けつけた。

「せんせー、オーダーは昆布茶じゃないので、珈琲の代わりにはなりませんよ」
「あら、そうなのですー? 昆布茶おいしいのにですー」

 しゅんとして去るせんせーペンギンを後に、べそをかく凛をなだめるひりょ。

「大丈夫、凛さん、俺が淹れるから、少し待っていて」
「ありがとうございますですの」

 ひりょは、一時的にペンギン着ぐるみの頭を取った。

 新鮮な珈琲豆を焙煎して、シナモンローストに仕上げ、ミルで中細挽きにして、オーダーの数だけドリップした。浅煎りなので、ブラックでごくごく味わえる軽さが売りだ。

「この寒さだし、あったかいのをごくごく飲みたくなるよな」

 喫茶店部活を手伝っているうちに、身につけたスキルである。

 凛はもう一度、恥ずかしそうに照れながら微笑んで、礼を言い、お客様のもとへ珈琲を運んでいった。





 南極カフェも閉店時間となった。

 お客様は南極の自然の厳しさを満喫し、喫茶も上々の売れ具合。

 冷やし中華もソフトクリームも完売御礼。フルーツも綺麗にはけ、湊の「白玉善哉かんざらし風」も「氷山流しそうめん」も、大いにお客様を喜ばせた。

 中でも「うき浮きスイーツプレート」は、唯一の冷たくない一品だったため、お腹を冷やしたお客様に大好評で、売り出すと同時に完売したくらいだ。


 頭を下げて、最後のお客様を送り出し、講堂に作業着の業者がやってきて、以下略。

  \あら不思議! 講堂が以前の通りに直りました/


「もう南極の自然を体感することはできないけれど、最後に皆で記念撮影をしようよ」

 まだ片付ける前の撮影スペースを指し示し、ひりょペンギンが言った。

「「さんせ〜い!」」


 皆はカメラに、オーロラの映像と、一番いい笑顔を収めた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 赫華Noir・黒百合(ja0422)
 来し方抱き、行く末見つめ・黄昏ひりょ(jb3452)
重体: −
面白かった!:4人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
紅茶神・
斉凛(ja6571)

卒業 女 インフィルトレイター
来し方抱き、行く末見つめ・
黄昏ひりょ(jb3452)

卒業 男 陰陽師
久遠ヶ原のお洒落白鈴蘭・
東風谷映姫(jb4067)

大学部1年5組 女 陰陽師
蒼色の情熱・
大空 湊(jc0170)

大学部2年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA