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マスター:影西軌南
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:10人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/04/20


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

 この季節がくるたび、桜の花を見るたび、私はいつも思いだす。
 これは私の記憶? それともただの夢?
 あの人はいったい、誰なの?
 その人は私に背中を向けている。私が思いだすあの人の周りには、いつも桜の花が舞っている。どんなに追いかけても、追いつくことは出来ない。
 私は走って、その人に手を伸ばす。
 けれど、その手はどうしても、届かない。
 その人は私に振り向く。
 なぜだろう、その人の顔はよく見えなくて、でも、私に微笑んでいるのは、わかる。
 私はもう一度、あの人に会いたい。
 会ってどうするのか、何を伝えたいのか、はっきりとしていないけれど、あの人に会いたい。
 ずっと、そう願ってきた。
 そして、私は確かに感じた。
 今日、私はあの人に会える。朝、目を覚ましたときからわかった。
 それは気のせいや、思い込みとは違う。
 敢えて言葉にすらなら、そう、運命。
 あの人が私を待っている。
 だから、私は行きます。
 あなたへ会いに。


リプレイ本文


 あの人が私を待っている。ただ、その思いだけで、少女は当てどなく、街中を彷徨っていた。
 きっと今日、あの人に会える、という思いが少女の胸にはある。それは確信にも似た、不思議な予感。
 初めは一人。心細く、不安がよぎる。
 しかし今は、多くの人が少女の側にいた。
 これもまた、不思議な運命。少女に引き寄せられるように、一人、また一人と、人が集まってきた。
「こんな感じでどうかしら? と言っても、ほとんどラフっていうか、抽象画みたいに曖昧になっちゃったけど」
 美術学生の楊 玲花(ja0249)が少女の話を元に、あの人の絵を描いてくれたところだ。
「ううん、ありがとう」
 少女はその絵を眺める。こうやって、あの人が形をもったものになるのは、それだけで嬉しい。
「なになに? 描き終わったの?」
 少女の持つ絵を、真っ先に覗きこんできたのはナターリエ・リンデマン(jb3919)。故郷、ボンの桜が懐かしくて、桜を見に来ていたところで、ナターリエとは出会った。
「へえー、いいないいな。あたいもあの人の絵を描いてもらおっかな」
 ナターリエの初恋は桜の思い出でもある。だからこそ、ナターリエは少女の手伝いをしたい、とも思った。
「私も、描いてほしい、かも……」
 すると、ナターリエにつられたのか、炎武 瑠美(jb4684)もぼそりと、呟いた。独り言のつもりだったのだろうが、はっきりと少女たちに、その呟きは聞こえた。
 瑠美もまた、ある人の背中をずっと思ってきた女の子の一人。少女のことが他人事とは思えず、こうして一緒に行動を共にしている。
「ちょっと、今は目的の人を探すのが優先でしょ。絵ならまた今度描いてあげるから」
 玲花の言葉に、そうでした、とナターリエは自分の頭をこつんと、瑠美は恥ずかしそうに顔を赤くした。
「だが、何もないよりかはいいと思います」
 不意に隣から声がして、少女は驚いて振り向く。そこにいたのは、マキナ・ベルヴェルク(ja0067)だ。普段の癖、或いは身体に染みついた性なのか、まったく気配を感じなかった。
「とにかく、捜索を再開しましょう。私もヒリュウちゃんもがんばりますから」
 元気に声を上げたのは、雨音 結理(jb2271)だ。結理の言葉通り、彼女の肩には空色のヒリュウがとまっている。彼女たちはずっと一緒に旅をしている。少女の今日という、この一日が少しでも楽しい思い出になるように、結理はそう願っている。
「どうやら、あっちの方にも桜の木があるみたいだよ」
 率先して聞き込みをしていた永連 璃遠(ja2142)が少女たちに声をかけた。
 推理小説大好きの璃遠は初め、少女たちが何かを探している姿を見かけて、何か事件かも、と声をかけたのだった。それから、少女の話に興味を持ち、今はこうして手伝っている。
「綺麗な桜並木があるんだって。行ってみようよ」
 璃遠の言葉に、少女たちは頷く。全員で歩きだしながら、少女は思う。
 今日は素敵な一日になりそう。
 それはただの予感か、それとも、今日あの人と会える、と感じたのと同じ、確信という名の運命か。


 空を覆うほどに咲き誇る満開の桜。それはまるで桜のトンネルだ。
 桜並木を歩いているときに、少女たちはカメラに興じる一人の赤い少女に出会った。
 萬里香(リラローズ(jb3861))はおばあさまに美しい桜を見せるため、写真を撮っているのだという。
 少女たちと一緒に桜並木を歩いている間も、萬里香は桜を撮り続けている。出会った時はどこか大人びて見えたが、桜を撮っている時は子供のようにはしゃいでいる。
 かと思えば、萬里香は急に桜の根元に座り込んでしまった。
「ど、どうしたの?」
 少女は慌てて、尋ねる。
「ご、ごめんなさい。大丈夫……、ちょっと疲れただけだから。少し休めば落ち着くわ」
 萬里香は息を整え、青空と桜のコントラストに目を細めて見上げつつ、
「……貴方も、何かを探しているの?」
 そう尋ねた。少女が何かを探していることには気付いていた。
「ある人を、探しているの」
「そう、心に想うかたがいらっしゃるのね……」
「私にも、よく分からない……。でも、会わなければいけない気がするの」
「そう、貴方にとってとても大切な事なのね……。その方も、きっと貴方を待ってるわ」
 それは根拠などどこにも無い言葉だったかもしれない。けれど、そう言ってもらえたことが嬉しくて、
「ありがとう」
 少女は笑顔を浮かべた。
「私は、もう少し休んで行きます……。最後までご一緒できなくてごめんなさい。貴方が大事な人と巡り会えるように……。私も願っているわね。また、貴方に会えると嬉しいわ」


『どうしたんですか?』
 その声が聞こえたのは、不意のことだった。
 少女は視線を彷徨わせる。一緒にここまで来てた誰の声でもない。少女は耳を澄ます。
『何か困っているの?』
 今度は、先ほどよりもはっきりとその声が聞こえた。まだ幼さの残る女の子の声だ。
 そう思った時には、初めからそこにいたかのように、少女の目の前には雪成 藤花(ja0292)の姿があった。
 中国古来の女性装束のような服を身に纏っている。その服装もだが、藤花はどこか現実の人間とは思えなかった。
「だ、だれ?」
 少女は戸惑いの声を出す。
『驚かせてごめんなさい』
 藤花は優しく微笑み、
『でも、わたしも驚いているの。わたしのことが視えるとは思っていなかったから』
 その言葉を聞いて、やはり藤花は普通の人間ではないのだ、と少女は悟った。
 藤花が人間ではないと分かっても、少女は不思議と恐怖や不安といった感情を抱くことはなかった。すると、
「どうしたのですか?」
 マキナは不思議そうに、少女を見ていた。他のみんなも同じような表情を浮かべている。みんなには視えていないんだ。
「疲れましたか?」
 心配して、瑠美が尋ねる。
「ううん、大丈夫」
 少女は首を横に振る。
『やはり他の方たちには視えないんですね』
 少し残念そうに、藤花は言った。
『心の中で私に話しかけてみてくれませんか?』
(こう?)
 恐る恐る少女は心の中で尋ねる。
『うん、ちゃんと聞こえますよ」
 藤花は少女の心の声を聞くことができるみたいだ。
『少しお話をしませんか? あなたの話を聞かせて下さい』
(うん)
 少女は藤花に、桜の木の下で待つ、あの人のことを話した。今日、その人と会える予感がするのだ、と。
『そういうこと……。わたしが共感するのも無理は無い』
 少女から事情を聞いた藤花は、納得したように頷いた。藤花もまた、少女と同じ、ある人を思い続ける女の子の一人だから。
『わたしは一緒には行けないけれど、貴方の信じる道を歩いてください』
 気付けば、藤花の姿は消えていた。初めから、そこには誰もいなかったかのように。けれど少女は、
(ありがとう)
 心の中でそう呟くのだった。


「あれ、雨?」
 少女は不思議そうに空を見上げた。太陽の光を反射しながら、キラキラと雨粒が落ちてくる。それはどこか幻想的な色を宿している。お天気雨だ。
「あら、珍しいわね。素敵だけど、このままじゃびしょ濡れになってしまうわ。どこかで雨宿りをしましょ」
 玲花の言葉で、少女たちが立ち寄ったのは、一軒の喫茶店だった。
「いらっしゃいませ」
 カウンターの向こうから、坂城 冬真(ja6064)が少女たちに声をかける。なんだか、不思議なメンバーだな、と思いつつも、冬真は少女たちにカウンター席を勧めた。
「ここって食べ物の持ち込みはオッケーですか?」
 席につくと、結理が質問した。
「ええ、構いませんよ」
「えへへ、実はお菓子をいっぱい用意してきているのです」
 そう言って、結理は背負っていたリュックから、クッキーやパイなど、大量のお菓子をカウンターに並べはじめた。
「みんなでお菓子を食べながら、いっぱいお話をしましょう。そうすれば、何か思いだせるかもしれないですよ」
「それは素敵ですね。でも、折角なんで、何か注文して頂けると僕も嬉しいですけどね」
 微笑みながら、冬真がそう言うと、
「確かに、何も注文しないのは失礼よね」
 玲花がそう言って、注文し、他のメンバーもそれに続く。
 全員から注文を聞き終えると、手際よくそれらを作りながら、冬真は少女にそっと尋ねた。
「あなたは……、誰かをお探ししてるのですか?」
「え? ど、どうして、ですか?」
 少女は驚いた顔を冬真に向ける。
「いえ、以前お会いした人に雰囲気が似ていたものですから。もしかして、と思いまして」
「そうなんですか……」
 少女は不思議そうに冬真を見つめる。
「もしよろしければ、お話を聞かせては頂けませんか?」
 少女はこくりと頷き、話し始めた。
 少女から事情を聞いた冬真は、作った注文を全員に配り、ゆっくりと口を開いた。
「焦ることはありません。ゆっくり、落ち着いて夢を思い出せば、おのずと行くべき場所がわかります」
「そう、なのかな……?」
「大丈夫です。その人もあなたに会いたいのです。時間がかかっても必ずそこで待ってくれていますよ」
「……うん。ありがとうございます」
 少女は小さく呟いた。
「あっ、雨が上がったみたいだよ」
 ナターリエの言葉で、皆が窓の外に視線を向ける。窓から差し込む光は眩しくて、早く外に出ておいで、と少女たちを誘っているようでもある。
 誰ともなく席を立ち、会計を済ませようとすると、
「お代なら結構ですよ。桜の木はあなたが思う方向へ行けば必ず見つかるでしょう。お代は探している人に会えて、またここに来た時で大丈夫です」
 冬真はそう言って、優しく微笑んだ。
「……はい」
 少女はその言葉にしっかりと頷く。
 カランカラン、と出口の鈴が鳴る。少女たちの出ていった扉を見つめ、冬真はぽつりと呟いた。
「あの精霊によく似ていると思えば、桜の木を探してるとは……。不思議な縁を持った子でしたね」
 その言葉が空気に溶けるように、冬真の姿も薄ぼやけていく。
 少女たちが再び桜の木へ向かっていくころには店は消えている。この喫茶店は探し物や迷いがある人にしか見つからない。そういう店なのだから。


「こんにちは」
 桜の木の下。おっとりとした微笑を、その女性は少女に向けた。
 カフェのテラス席でブラックコーヒーを飲みながら、砂原 小夜子(jb3918)はタロットカードをめくっている。
「こ、こんにちは」
「今日、私は桜の下で誰かを占う……、そう出てたの。あなたがそうなのかしら」
 不思議な雰囲気の女性だ。人とは違う何かを見ているような、そんな瞳をしている。
「探し物をしているなら――良かったら、占いましょうか? 探しているのは人かしら、物かしら……」
 扇状に並べたタロットから、三枚を選ぶように小夜子が言った。少女は促されるままタロットを選ぶ。
「方角は南、そこに行けば、光があなたを包み込むわ」
 少女は占いをしてくれた事への感謝を告げ、歩き出そうとする。
「お嬢さん……、これをあげるわ」
 小夜子が差し出したのは、天然石<スティルバイト>。桜を思わせる石。
「この石は、あなた自身の持っている元々の優しさや愛情……、そういう良いところを引き出す手伝いをしてくれる力があると言われているの。温かな関係を築いたり、人生において大切なひとと巡り逢えるそうよ。色も桜色で、あなたによく似合うわ……」


「あっちの方に桜なんてあったかしら?」
 小夜子と別れて暫く歩いたところで、玲花が言った。
「大きな桜の木があるみたいだよ。ただ、十年ほど前から、その桜は花を咲かせていないんだって」
 璃遠は、いつの間にか聞き込み調査をしていたらしい。
「花を咲かせない、桜の木ですか……。不思議ですね」
 瑠美がぽつりと呟く。
「謎だね。もしかして、少女の記憶と何か関係があるのかな?」
 璃遠はどうも深読みしたがる節がある。
「とにかく行ってみましょう!」
 結理は逆に、細かいことは気にしない。
「そうだね。とにかく行ってみようよ」
 ナターリエは少女の肩に手を置き、促した。
「私たちは最後まで、あなたに付き合います」
 マキナは静かに、けれど力強く、言う。
「うん」
 それに少女が頷き、次の目的地は決まった。


「うわー、本当に花が咲いてないんだね!」
 まるで新しいおもちゃでも見つけたかのように、ナターリエが声を上げた。
「なんだか、少し寂しいですね……」
 瑠美は桜の木を見つめて、呟く。確かに、他のどの桜の木も満開に咲き誇っているのに、ひときわ大きいその一本だけが花をつけていないのは、寂しくある。
「話によると、十年前この桜の木に雷が落ちたそうだ。奇跡的に外傷はなかったけど、それ以来この桜の木は花を咲かせていないんだって」
 まだ聞き込みを続けていたらしい璃遠が説明した。
「どうしたの、ヒリュウちゃん?」
 すると、結理が不意にそんな声を上げた。
 視線を向けると、ヒリュウは何かを警戒するように、まっすぐ前方に視線を向けている。そこにあるのは、花のない桜の木。
 どうしたのだ、と全員が疑問を浮かべる中、一人だけ違う行動をとった人物がいた。少女だ。
「どうしたの?」
 玲花が声をかけるが、少女には聞こえていないのか、桜の木に向かって歩み始める。少女は引き寄せられるかのように、一歩、また一歩と桜の木へ近づいていく。
 どこか様子がおかしい。そう思うが、誰もその場から動くことができなかった。まるで、足が地面に縫い付けられたかのようである。
「あなた、だったんだね……」
 少女の呟きが聞こえた。小さな呟きだったが、はっきりと全員の耳に届いた。
 光が弾けたのはその時だった。
 思わず、目を瞑る。誰もが、何が起きたのか分からなかった。
 だが、目を開いた時、そこに映る光景が一つの答えを示していることを、自然と理解した。
 そこには、桜の木の下に佇む男性の姿と、その彼に手を伸ばす少女の姿があった。
 何の光かは分からない。けれど、やたらと視界が眩しくて、男の顔はよく見えない。だが、少女の言っていた通り、彼が微笑んでいる事だけは、分かる。
 そして、男も少女に手を差し伸べ――
 二人の手が重なった。
 それは一つの奇跡だったのかもしれない。いや、或いは運命。
 咲かないはずの桜の木が、満開の桜を咲かせていた。
 これまで咲くことの出来なかった、十年分を取り返すように、誇らしく。
 そこに居合わせた皆の胸に、不思議な感情が芽生える。それは懐かしいような、切ないような。
 誰かを思う気持ち。
 けれど、それは暖かくて。いつも心に思うあの人に、或いはまだ見ぬ誰かに、会いたい。そんな思いが胸に広がる。
 彼と少女が光に包まれる。二人の手は確かに繋がれていて、まるで一つになるように。誰もが一人ではないのだと、証明するように。
 そして、一層の光に辺りは包まれ、
 そこに二人の姿はなくなっていた。
 だが、確かにそこに、二人はいたのだと証明するように、咲かないはずの桜は、満開の花を咲かせているのだった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

撃退士・
マキナ・ベルヴェルク(ja0067)

卒業 女 阿修羅
『九魔侵攻』参加撃退士・
楊 玲花(ja0249)

大学部6年110組 女 鬼道忍軍
思い繋ぎし紫光の藤姫・
星杜 藤花(ja0292)

卒業 女 アストラルヴァンガード
戦ぐ風、穿破の旋・
永連 璃遠(ja2142)

卒業 男 阿修羅
撃退士・
坂城 冬真(ja6064)

大学部7年294組 男 アストラルヴァンガード
白露のリリー・
雨音 結理(jb2271)

大学部3年137組 女 バハムートテイマー
砂糖漬けの死と不可能の青・
リラローズ(jb3861)

高等部2年7組 女 ナイトウォーカー
撃退士・
砂原 小夜子(jb3918)

大学部6年93組 女 ダアト
故郷を思いし元気っ娘・
ナターリエ・リンデマン(jb3919)

大学部4年152組 女 ルインズブレイド
惨劇阻みし破魔の鋭刃・
炎武 瑠美(jb4684)

大学部5年41組 女 アストラルヴァンガード