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マスター:加賀間 透
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:5人
リプレイ完成日時:2012/01/09


みんなの思い出



オープニング

●よくあること
 久遠ヶ原学園は、敷地が広く、所属する人数も多いマンモス校だ。
 そんな学園の問題のひとつに、遺失物がある。敷地が広いため、どこに置き忘れたのか、はたまた落としてしまったのか、過去の行動を思いだしながら探すとなると大変な手間になる。一度なくしたものは、ほとんど諦めるしかない。
 しかし、そうして途方に暮れたとき、一度は訪れてみるべき場所がある。それが、忘れもの・落としものコーナーである。
 忘れもの・落としものコーナーには、善意の拾得者に拾われた遺失物の一部が届けられる。届けられた遺失物は一定期間、コーナーの棚に並べられる。残念なことに、棚に並べられる品はほとんど増える一方だった。せっかく届けられたものの、思いのほか落とし主は現れないものなのである。
 だが、本当に大切なものならば、やはり一度はやってくる。今目の前にいる生徒も、そんな様子だ。よほど大切なものをなくしたのだろう。顔面蒼白で、棚を眺めている。
「なにをなくされたんですか?」
 声をかけてみた。
「……」
 反応がない。棚に並べられた遺失物を、左から右へ、上から下へと、一つひとつ凝視している。最後まで行くと、再び上に戻って見返す。度の強そうなメガネをかけた、小柄な男子生徒だった。
「どんなものなんですか?」
「大事なものです、とても……」
 今度は反応があった。どうやら、本当にただの忘れものや落としものではないようだ。
「でも、ええ、その、もういいです……」
 消え入りそうな声で言って、もうこれ以上蒼くなれないだろうというぐらい顔をこわばらせ、メガネの生徒はコーナーを後にしていった。
 まあ、よくあることだ。
 扉の向こうに消えていく生徒の背中を尻目に、俺は、ポケットに入れていた小さな箱を取りだした。

●このことは内密に
「見た目はこんな感じです」
 度の強そうなメガネをかけた生徒がホワイトボードに絵を描いて、集まった生徒たちに説明している。立方体の形状をしていて、大きさはこぶし大ぐらいのものらしい。指輪を入れるような箱にも見える。
「なくしたのは二日前です。どこに置き忘れたのか、まったく検討がつきません」
 それでは探しようがない。集まった人間は、誰もがそう思った。
「あら? それ、あたしがおととい拾ったものと似てる」
「えっ!!」
 説明をしていたメガネの生徒の目が、レンズいっぱいに見開かれた。
「ど、どこでです! そして今どこにっ!?」
「その日のうちに、落としものコーナーに届けたけど」
「そんははずは! ぼくが昨日行ったときにはありませんでしたよ!」
 男子生徒は悲痛な叫びとともに、拾ったという女子生徒に詰め寄る。彼女に非がないことはわかっていても、ものがものだけに、感情的にならざるを得ない。
「さぁ、わからない。ただ、届けたことは事実だから」
 すでになくしものが見つけられていたことを知り、捜索者募集の張り紙を見て集まった人々は、やれやれといった様子で解散していく。部屋を出て行こうとする彼らの背後で、結局あれはなんだったのかと、女子生徒がメガネにたずねた。
「……爆弾です」
 一斉に振り返った。


リプレイ本文

●午前の部
 度の強そうなメガネをかけた男子生徒が落としたもの。それは爆弾だった。
 時限式の爆弾で、すでにカウントダウンは開始されている。
 現在、午前9時。タイムリミットまで、あと──11時間。

 爆弾を拾った女子生徒──もちろん、拾った当時は、それが爆弾であると知らなかった──の証言から、爆弾は忘れもの・落としものコーナーに届けられている。しかし、次に落とし主が訪れたときには、影も形もなくなっていた。状況的に、担当者の誰かが、届けられたものをそのまま自分のふところに入れてしまった可能性が高い。
 千葉 真一(ja0070)と長成 槍樹(ja0524)、滅炎 雷(ja4615)は、容疑者を特定すべく、忘れもの・落としものコーナーを訪れていた。
「届けられた遺失物の管理がどうなっているか、たずねたい」
 受付に座っているまじめそうな女子生徒に、真一はここの管理体制についてたずねた。
 いわく、受付日時と拾った場所、届けた人などを記録しているという。およそ、真一が予想していたとおりの答えが、受付の女子生徒から返ってきた。
 ならば、届けられたはずの小さな箱について、受け付けた記録が残っているはずだ。
「確認させてもらっていいか?」
 受付の女子生徒に了解をもらい、真一は記録を確認する。
 ない。
 女子生徒からきいていた日時に、小さな箱が届けられたという記録は書き込まれていなかった。女子生徒も、変ですね、とけげんな顔をする。
「この時間帯の担当者は?」
「……それは、担当の生徒が盗んだと疑っているんですか」
「念のためだ」
 受付の女子生徒は小さくため息をついて、担当表を確認する。白く細い指が、曜日、時間と、担当表の上を滑っていった。
「彼、ですね」
 表が上下を逆さにされ、真一たちに見やすいようカウンター上に置かれる。雷は、女子生徒の指がさした先にある名前を確認すると、手帳に書き込んだ。
「なあ、『届けたはずのものが、落とし主が現れる前になくなった』ってことは、以前にもあったのかい?」
 真一に代わって、今度は槍樹がきく。
「ええと……ああ、誰かがそんなことを言っていたことがあったような……」
 おやおや、と雷が小さくこぼした。
「それはいつのことか、思いだせる?」
 槍樹は膝をおり、数十cm身長の違う女子生徒の視線に合わせる。詳しい情報が手に入れば、犯人が残した証拠に近づけるはずだ。
「さあ……ただ、それほど前の話ではありませんでした」
「なるほど、ありがとう」
 いいえ、と言った女子生徒の頬が赤いのは気のせいか。身長、マスク、泣きボクロ、のどれかに惹かれたのだろうか。もしくは、大人の男が醸しだす魅力にかもしれない。槍樹の歳は、女子生徒と一回り以上離れている。
 犯人の氏名は割れた。そして過去、似たような事件が起きていたという情報を得ることができた。しかし、同一犯であることを証明することは、今の情報だけではできそうになかった。

●昼休み
 現在、正午。タイムリミットまで、あと──8時間。

「──と、いうことだ」
 槍樹が、午前中に得た情報を、別行動していた仲間に伝えた。
「顔はわかったの?」
「そりゃもう、バッチリだよ」
 霧間 蒼(ja0639)の問いに、雷は満面の笑みで携帯電話のディスプレイを見せる。そこに映った顔を見て、蒼がつまらなそうに鼻で笑った。
「すっとぼけた顔しちゃって」
 男子生徒はめでたく、蒼の気にいらないヤツに認定された。
「そっちはどうだったんだ」
「それが……」
「教えてもらえなかったよ」
 氷月 はくあ(ja0811)のにごした続きを、荘崎六助(ja0195)がついだ。
 午前中、はくあと六助の二人は、落とし主であるメガネの男子生徒のところへ、爆弾の解体方法をたずねにいっていた。だが男子生徒は、自分以外に解体は不可能だと言って、解体方法を教えてくれなかった。爆弾を作った理由も語ることはなく、ただ悪気はなかったことだけを強調していた。
「うぅーむ、これで8時までに届けなきゃいけなくなっちゃいました」
「仕方ないよ。犯人はわかったから、すぐに取り返せば大丈夫さ」
 しょんぼりしたはくあに、六助がフォローを入れる。はくあは、そうですねっ、といつもの元気な笑顔に戻った。

●午後の部
 現在、午後5時30分。タイムリミットまで、あと──2時間30分。

 蒼は、忘れもの・落としものコーナーのカウンターの前に立っていた。
「キーホルダーですか? そこの棚にあるだけですので」
 蒼に応対しているのは、遺失物横領の容疑者、爆弾を持っているらしい男子生徒だ。
「んー、ないようですね」
 残念そうに肩をすくめて、蒼は首にかけたヘッドフォンを直した。
「ああ、そういえば、小さな箱なんて届いてませんか。指輪ケースみたいな大きさなんですけど」
「箱……ですか。さあ、わかりません」
 白々しい態度に、蒼は口角を上げた。カウンターに肘をのせ、体勢を前に傾ける。ここだけの話なんですが、と前置きして口元を手で隠す。
「その箱っていうのは、男にだまされた女が作った、危険なシロモノらしいんですよね。それが最近なくなってしまって、探してるって話です。あまりおおやけにできないんで、今持ってる人は大変な目に合うとか」
 男子生徒は蒼の語る話に、笑顔のまま首を傾げる。その顔がやや引きつっているように見えなくもない。
「ま、届けられたりしたら気をつけてください」
「そうします」
 ヘッドフォンを耳にかけ、蒼はその場をあとにした。
 蒼と入れ替わりで、はくあが男子生徒を伴ってカウンターに近づいていく。
「前にも来てましたね、まだ見つからないんですか」
 メガネの男子生徒を見て、容疑者の男子生徒が声をかけた。
 メガネの生徒は、ただ頷くだけの応答をして、棚に目をやる。相当焦っている様子だ。しかし、やはり探しものは見当たらない。
「こんな形のものなんですが」
 はくあは、落とし主に書いてもらった箱、つまり爆弾の絵を容疑者の生徒に見せた。絵を見て、男子生徒は眉をひそめる。
「どうかしましたか?」
「……いえいえ、なんでもありません」
 一瞬の間に期待したが、どうやら爆弾を返してくれる気はないようだ。
 もう問い詰めるほかない。
 はくあは、一度コーナーを出て、メガネの生徒と別れた。その後、真一と六助に合流し、再びコーナーへと足を向ける。
「またですか? 箱は届いていませんよ」
 まだ白を切り続ける容疑者に、はくあたちは目を合わせた。
「あなたが持っているんですよねっ」
 はくあが突きつけた言葉に、瞬間、明らかな動揺を見せる。しかし、すぐさま落ち着きを取り戻す。
「なんのことですか」
「しらばっくれても無駄だ。拾った箱をお前に届けたと、女子生徒が証言している」
 真一はカウンターに手を置き、男子生徒に詰め寄る。
「こっちとしても手荒なマネはしたくないんだ。返してくれるなら、今回の件は目をつぶるよ」
「いわくつきの品ってわけか」
 六助の提案に、男子生徒の態度が一転する。張り付いたような笑顔から、鋭い目つきに変わり、口の端を余分に持ち上げている。
「なるほどなるほど、確かに状況的に見て、あやしいのは俺だ。──が、証拠はなんだ? まさか、女の証言だけというわけではないだろう?」
 すらすらと語るその語り口は、先ほどまでとは別人だ。
 男子生徒の言い草に、六助は言葉につまる。
「あなたの持ち物を調べればわかりますっ」
「はあァ? お前らになんの権利がある。たとえ、お前らに調べられてブツがでてきたとして、それがお前らのものだと、誰が証明できるんだ」
「いいのか、このことを先生たちに話せば、おおごとになるぜ」
「そんなことして、ブツが見つからなかったときは、お前らこそ大変なことになるんじゃないのか?」
 はくあ、真一の言は、ことごとく男子生徒の反論に跳ね返される。
 現状、六助たちが集めることができたのは、状況証拠のみだった。
 いくら言葉を重ねても、男子生徒は証拠がないの一点張りだ。時間だけが過ぎていく。タイムリミットまで1時間を切ろうとしていた。
 時計を確認した六助が、突然カウンターを離れ、窓際に向かう。窓を開け放ち、身を乗りだした。
「か──ッ!?」
「(いきなりなにしやがる!)」
 何者かが六助の口をふさぎ、耳元で小声で怒鳴るという芸当をみせた。
 口をふさいだ大きな手は、槍樹のものだった。
「(もう時間がないんです)」
「(取り返したとしても、騒動になったら意味ないだろ)」
 六助と槍樹の言い合いを遠目に、男子生徒はやれやれと大げさに首を振る。
「まったく、なんなんですかね。さて、時間ですから」
 口調の戻った男子生徒は、担当時間が過ぎたことに文句を言いながら、受付を離れようとした。
「悪は、絶対に討つ」
 男子生徒に拳を向け、真一が言い放つ。
「少なくとも今この場で、善悪は決まってねえよ」
 男子生徒は、真一に手を開いて見せた。

●夜の部
 現在、午後7時30分。タイムリミットまで、あと──30分。

 容疑者の男子生徒が、寮へと向かう。
 昼間に比べれば少なくなった人通りも、途切れているわけではない。男子生徒を追う雷は、奇襲のタイミングを見計らっていた。
 最終手段として考えていた、奇襲による奪還を行うことになったのだ。
 男子生徒が大きな道から、小さな道へ入っていった。急にひとけがなくなる。
 今しかない。雷が死角から魔力弾を放った。
「ごめんね。痛くはしないよ」
 魔力弾は一直線に男子生徒の背後に迫り、着弾と同時にはじける。
「いてっ……はぁ、結局こうくるのかよ」
 男子生徒の周囲を黒いオーラが包んでいた。完全に戦闘モードへ移行する。男子生徒にしてみれば、正当防衛の大義名分ができたのだから遠慮する必要がない。それほどに、戦闘には自信をもっていた。
「あちゃー」
 雷は頭をかく。威力を抑えすぎたかもしれない。かといって、全力で放つわけにもいかなかった。
「お前らいるんだろ。出てこいよ」
「ったく、あんたがさっさと返さないのが悪いのよ」
 電灯に照らされ、小柄な影が姿をあらわす。蒼の指のあいだには、手裏剣がはさまれていた。
「観念してくださいっ」
 さらに蒼の影からもっと小さい影、はくあがあらわれ、男子生徒に銃口を向ける。
「小さい子は嫌いじゃない。だが、ちょっとばかりオイタが過ぎたようだな」
 男子生徒が取りだした得物は、短刀。
 真一と六助が、男子生徒の前に立った。二人は攻撃を防ぎ受け、敵の行動を制限することだけを考えた。敵の無力化は、雷たちに任せる。
 はくあが放った弾丸が男子生徒の足をかすめ、雷の魔力弾が肩をはじいた。
「くくく、スキルもまともに使えないひよっこが」
 男子生徒は余裕の表情を崩すことなく言って、三度のバク転で距離を取る。
 それを目で追っていった雷が、あっ、と短く声をあげた。
 三人の生徒が、こちらに近づいてきていた。そのうちのひとりと、目が合う。
「なんだー、喧嘩かあ」
「ありゃ、なんか5対1みたいだぞ」
「ん? あれ高等部の人じゃない?」
 彼らの声に気づき、さらに幾人か集まってくる。
 まずい。
 戦闘が始まったときは、確かにひとけはなかった。しかし、ここは寮への通り道のひとつなのだ。いつ人が通ってもおかしくない状況だった。
 奇襲をしかけ、短期決戦の腹づもりだった雷たちだが、思った以上に力量差があり、戦闘が長引いてしまった。
「状況は最悪みたいだが、まだやるか?」
「なら、みんなの前で、お前の悪事を暴いてやるぜ」
 真一は構えをとかない。それは、短剣を構える男子生徒も同じだった。
 戦いは続行されるかに見えた。だが、夜の空気を切り裂いて飛んできたなにかが、対峙した二人のあいだに突き刺さる。
「お前らァ! なにしとるかァァーーッ!!」
 辺りに、怒号が響いた。
 ずっしりとした体躯の男性教員と、細身の女性教員が駆け寄ってくる。生徒の誰かが、教員に報告したのだ。
 蒼たちが構えた姿勢で固まっている一方、男子生徒は静かに後ずさる。一歩、二歩。しかし、後頭部に衝撃を受け、足が止まった。
「逃がさんよ」
 人ごみから魔弾を飛ばし、逃走を妨げたのは槍樹だ。
 男子生徒は足を止めたものの、どうにかしてこの場から去ろうとしている。
「──! みんな伏せろっ!!」
 午後8時。
 六助の叫びに応じた者たちの頭上を、爆風が抜けた。
 爆心地となった男子生徒は、うめき声をもらし、腹を抱えている。ひどい様子だが息はあり、すぐさま治療にかかれば死にはしないだろう。
 女性教員が男子生徒を抱え、医務室へと駆けた。
「さて、お前たちには、どういうことか説明してもらおうか」

 あくる日、学園から呼び出しを受けたメガネの男子生徒は、爆弾を作った理由について黙秘を通した。答えは、彼の胸のなかで眠り続けることとなった。


依頼結果

依頼成功度:失敗
MVP: 天拳絶闘ゴウライガ・千葉 真一(ja0070)
 泰然自若・長成 槍樹(ja0524)
重体: −
面白かった!:2人

天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
美味作る者・
荘崎六助(ja0195)

大学部3年93組 男 ルインズブレイド
泰然自若・
長成 槍樹(ja0524)

大学部9年172組 男 ダアト
撃退士・
霧間 蒼(ja0639)

大学部4年55組 女 鬼道忍軍
ヴァニタスも三舎を避ける・
氷月 はくあ(ja0811)

大学部2年2組 女 インフィルトレイター
泥んこ☆ばれりぃな・
滅炎 雷(ja4615)

大学部4年7組 男 ダアト