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マスター:十三番
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/06/22


みんなの思い出



オープニング


 小日向千陰(jz0100)は、久遠ヶ原学園図書館のカウンターでノートパソコンのキーボードをしきりに叩いていた。数度叩いては口元に手を当てて思案し、またキーを叩く。リズミカルに、そして無駄のない指の動きは、まるでゲームに興じているかのようだった。
 もちろん実際は違う。目つきの悪さも相成り、声を掛ける余地などとてもなかった。

 音もなく、彼女に人影が降りる。小日向は一瞥し、またモニターに視線を戻した。
「ずいぶん熱心に作業されるのですね」
 眼鏡を掛けた優男の生徒はカウンターに肘を置き、身を乗り出した。
 必要最小限の動作でモニターを傾ける小日向。
「そんなに警戒なさらなくても」
 優男は苦笑、言葉を続けたが聞き取れなかった。

 何故か。

 背後で他の生徒が騒いでいたからである。

 体格のいい男子生徒と背の低い女生徒は大テーブルを挟んで蔵書を投げ合っていた。
 それを眺め、展開に笑う度に本棚を乱打する女の生徒。
 我関せず、と蔵書を枕にして床で眠る大柄な男の生徒。
 大テーブルの下でスナック菓子を食べながら音楽プレイヤーを操作する女生徒のイヤホンからはシャカシャカと音が漏れている。
 この5名が入館する時、先頭に立っていた優男が小日向へ執拗に声を投げる。
「わたしたちを無頼の輩と断じているのなら、それはお門違いですよ。
 ご覧のとおり、わたしたちは正規の授業に顔を出さず、図書館へ涼を取りに訪れたわけですが、それはすなわち他の生徒に余分な迷惑を掛けない為です。考えなしに暴走する、他の問題児どもと一緒くたにされるのは甚だ心外です」

 モニターに結論が表示される。
 彼らはここ数日、学園内で騒音や乱痴気騒ぎ、暴力沙汰や恐喝を振るっている集団(パーティ)だった。どこからともなく現れて、面倒事を起こしてはリーダーである優男がやってきて、姿をくらませる。そんな報告が幾つも上がっている。ページの下部には、被害が比較的小規模で治まっており、且つ被害も軽微であるので、今のところ捨て置いている、と他の職員が補足する記事があった。

「久遠ヶ原学園は自由な校風を謳っていますよね。そこに惹かれて……まあわたしたちに才能があったのは言うまでもありませんが……入学してみれば、結果そこにあったのは『手や目が届かないところは黙認』というなんともお粗末極まりない有り様だったわけです。わたしは辟易しましたよ。わたしだけではありません、ここにいる全員が同じ思いを抱いている。
 ご理解いただけますか、小日向女史。わたしたちは久遠ヶ原学園の言う『自由』に明確なアンチテーゼを叩き付ける、統率の取れたパーティなのですよ」

 小日向は口に手を当てて動かない。
 優男の口が吊り上る。
 終業のチャイムが館内に鳴り渡った。
 振り返ろうとした優男に、小日向が一冊の本を差し出す。
 男はそれを受け取り、眺めた。表紙には国語辞典、とある。
「『自由』を引いたことは?」
 どこか冷めた目で見上げる小日向。
 優男は鼻で笑い飛ばし、
「わざわざ調べる大学部の生徒がいますか?」
 辞書を床に落とした。
「みなさん、移動しますよ」
 優男が言い、自身はとっとと出入口へ向かう。5人はぶつくさ言いながら移動を始めた。
「あー涼しかった! また来ようね!」
「いいねえ、誰もいねえし、貸し切りで遊べるなんて最高だぜ! 文句も言われねえしよォ!」

 品の無い笑い声が全て館外に去る。

 小日向は腰を上げた。
 遊び道具にされた蔵書は床にばらまかれたままになっている。万全な状態のものは殆ど鳴く、表紙が取れかかっているものもある。ぺったりと足跡がついているものもあれば、スナック菓子の食いカスの上に開いて落ちているものもあった。
 カウンター前に転んでいた辞書は角が潰れていた。
 それら全てを小日向は黙して片付けていく。自前のクロスで表紙の汚れを拭き、破れた表紙はテープで補強し、もともあった場所へ戻した。食いカスは箒と塵取りで集めたのち、雑巾を手に膝をついて丹念に拭いた。椅子の欠損だけはどうしようもないので、デジカメで撮影して修繕の手筈を整えた。


 3時間かけて、図書館は元通りになった。閉館時間はとっくに過ぎていた。
 控室から荷物を取り、入口を施錠して帰路に着く。
「(このくらい、よくあることよ)」
 彼女は自分に言い聞かせながら歩みを進めた。

 まっすぐ帰るつもりだったのに、着いたのは校内の大喫煙所。
 無人であることを確かめ、彼女は喫煙所に踏み入る。照明は点けない。指定席に腰を下ろし、荷物を足元に置き、スーツから煙草を取り出して火をつけた。
 携帯を取り出し、数瞬操作、発信ボタンを押下する。

「はい、久遠ヶ原学園依頼斡旋所です」
「お疲れ様です。小日向です」
「ああ、お疲れ様です。今日はずいぶん遅くまで残っ……」
「急で申し訳ないんですけど、依頼を登録していただけますか」
「え、今からですか?」
「ええ、今から……いえ」
 みしり、と携帯が軋む。
「今すぐに」
 吐き出された紫煙が、彼女の周囲でとぐろを巻いた。


リプレイ本文



 その、敵意と表すには余りに鋭利で濃密な気を受け、陸は口角を上げた。
 彼は目を見開いて立ち上がり、刀を抜く。
「敵襲だ! 出会え!」
 咆え、全速力で駆ける。飛来した、下妻笹緒(ja0544)が放つ光の玉を潜り抜け、天風静流(ja0373)が投擲したナイフを弾き、一目散に『標的』を目指す。
「シィッ!!」
 激突する二振りの蛍丸。
 始めこそ拮抗したものの、陸が体重を乗せて振り抜くと綾川沙都梨(ja7877)は大きく後ろに押し返された。
「くっ!」
 受け身を取り体勢を立て直した彼女に、陸が切っ先を向ける。
「貴様のような者を求めていた。嬉々として戦場に立つ者を。
 決闘だ、女」
 無言で、頷きもせず刀を構える沙都梨。
 真一文字に結んだ口の端が微かに痙攣していた。

「綾川君!」
「わっ! 弐、あのパンダしゃべったよ!」
 声に振り返れば、ビルの入り口には弐と、彼の首にしがみついた参がいた。
「馬鹿! 黙って背後から襲えって言われてただろうが!」
 眉を寄せる静流の隣で、笹緒が丸っこい手をわなわなと震わせる。
「貴様ら……何故リーゼントではない? 改造学ランはどうした? 化粧が控えめ過ぎるぞ!」
「なにあのパンダ。おもしろーい!」
 ひょいと跳び、笹緒の前に立つ参。あどけなさの残る顔の前で二丁の銃がくるくると舞う。
「ね、モフモフさせてー!」
「なんと凡庸な口調だ……」
 スクロールを展開する笹緒。
「私の期待を裏切った罪は重いぞ!」

「っつーことで、アンタの相手はオレだ、姉ちゃん」
 頭二つ分ほど大きい男が静流の前に立ちはだかる。笹緒と参は彼の陰に隠れて見えない。沙都梨は背後、遠方だ。
「これが貴様らの戦い方か」
「オレらは言われたことをやるだけだ」
 はにかみ、弐は得物を取り出す。右手に釘バット、左手には鈍色のシールド。
「ここは通さねえ!」
「やってみろ」
 二刀を携え、静流が疾走する。


 舞草鉞子(ja3804)が扉を蹴破り二階へ侵入、遊佐篤(ja0628)が続き、やや間を置いてからアニエス・ブランネージュ(ja8264)も足を踏み入れた。
 彼らの右手には上下階に続く階段が闇の中に佇んでいる。
 正面には開けたフロア。その中央で、
「ギャハハハ! 本当に来やがった、陸のギャグかと思ってたぜ!」
 髪と服が真っ赤な女、肆が手を叩いていた。
 視認するや否や、鉞子がカーマインを伸ばし、肆目掛けて振った。先端に錘を付けたそれは、しかしニタニタと笑む肆の上で弾かれる。
「いいねいいねぇ! そうでなくちゃあなぁ!」
 軽やかに跳ね、構える肆の手には大ぶりなナイフ。
 鉞子は周囲を警戒する。
 時間を稼ぐべく篤が銃を構えて前に出る。
「アンタら、ずいぶん見境なしに暴れてるそうじゃねえか。何考えてんだ?」
「何も考えてねーし」
「阿呆か。阿呆なんだな?」
「てめぇらみてぇな馬鹿よりマシだ!」
 言って肆は壁側に移動、窓から身を乗り出し、屋上に向かって叫んだ。
「『逃げろ』、壱!」
「んの野郎!」
 篤が放った銃弾を肆は大げさにバック転して回避。
 彼女目掛けて再び鉞子がカーマインを振るう。が、闇から伸びた深紅の鋼糸に絡め捕られてしまう。
 鉞子は今度こそはっきりと確認した。糸の先、天井から蝙蝠のようにぶら下がる、真っ黒なパーカーで目元を隠した女、伍の姿を。
 鉞子がカーマインを仕舞うと同時、伍も糸を収納し部屋の角まで後退する。
「さぁ! さぁ! さぁ!」
 勇み、悠々と歩を進める肆。
「阿修羅と忍軍のタッグバトルだ! 存分に楽しもうや!」


 屋上に続く鉄製の扉が重い音と共に閉じる。
「そう。あなたたちはそう動くでしょう」
 夜風に髪をなびかせ、壱は目を細める。
「どれほど綿密に作戦を立てたとしても、討伐という不自由がついて回る。だから不利と判っていても屋上に人を裂かざるを得ない。
 対して私たちは、全滅を逃れればそれでいい。逃走、迎撃、どちらを選ぶも自由だ。
 私たちはそうしてきた。自由に振る舞い、生き抜く。今までも、これからもね。
 お判りですか。不自由なあなたたちが自由な私たちに勝てるはずなど、ないのです」
 アニエスは肩をすくめた。
「自由と無軌道を履き違えるのは、せいぜい中学生で卒業するものだと思うんだけど」
「……はい?」
「明確なアンチテーゼ大いに結構。愚にもつかない主張の末路をその身で示せばそれでいいよ。
 『自由』の下に勝手をやったんだ。『自らを由として』起こる結末、受け入れる覚悟はできているんだろうね?」
「……もちろん、できていますよ」
 憤怒に満ちた笑みを浮かべる壱。
「――無知蒙昧の輩をぶちのめす覚悟が、ね」
「おや、奇遇だね」
 本が開き、撃鉄が起きる。


 幾度となくぶつかり合う剣閃には明確な力の差があった。
 陸の押し返しで沙都梨の体が地を転がる。
 同じ光景を彼は少なくとも十度は見ていた。
 即ち。


「……にはぁ……」


 陰湿な笑みを浮かべて立ち上がる敵の姿を。


 鋭く息を吐き呼吸を整える陸。熱を帯びた彼の顔にもまた、朗らかに歪む。
「貴様はこちら側だろう?」
「フフフ……フフフハハ!」
 上体を前に倒し低い姿勢で迫る様は宛ら蜥蜴。
「これは仕事……仕事し事仕ごとしごとシゴト……!」
 勢いを乗せた振り上げ。
 直撃すれば致命傷は免れないそれを陸は紙一重で回避、刀の流れに沿って切り上げ、沙都梨の刀を弾いた。
 持ち主の手を離れ月に浮かぶ蛍丸。
 陸はそれを目で追った。追ってしまった。
「シゴトおおおおおおお!」
 油断していたところに大鎌が振り下ろされる。受けなど間に合わぬ、躊躇なき一撃を陸は辛うじて回避。
 だが、
「楽しいいいイい! シゴト楽しいよお!!」
 続く斧槍の薙ぎ払いは直撃を許した。
「ぬ……っ!」
 足元を掬われ、豪快に尻餅をつく陸。
 仰向けに倒れた彼に、再び蛍丸を携えた沙都梨が飛び乗り、顔の真横に突き立てた。
「……俺の、負けだ。殺せ」
 一層笑みを深め、刀を振り被る沙都梨。
「フフ……仕事、し……おっと、仕事でありました」
 ふい、と表情を戻すと、得物をワンドに持ち替え、陸の頭を全力で打ち抜いた。
 剥かれた白目と痩躯から抜ける力を確認する。
 沙都梨は彼の脇に立ち、揃えた手を額に当てた。
「いやー、とっても気分がいいであります!」


 笹緒の左肩をとうとう銃弾が貫いた。
 参は彼の周囲を左右に大きく移動して、二丁拳銃の専売特許である断続的な射撃を行使していた。光弾による威嚇を併用しても、被弾面積の広い笹緒が攻撃を回避し続けるには限界があった。
 加えて参も口だけではなかった。怯みを逃さず、すかさず右の腿を狙撃する。
「ぬ……」
 膝を突く笹緒に、参は軽やかな足取りで近づき、首に抱き着いた。
「じゃ、失礼して……。んー、モフモ……」
 げっ、と舌を出す参。
「なによ、ただの着ぐるみじゃないのー! せっかく手加減してたのにがっかりだよ!」


「――ふむ」


 ぞわり、と参の背が粟立った。例えようのない本能の警鐘に従い、彼女は慌てて距離を取る。
 むくりと立ち上がる笹緒。
「憤慨の――」
 投げるように広げた巻物から――
「――極みだ」
 数多の光弾が放たれた。それらは編隊を成して参を追尾する。
「っとと!」
 参のいた位置に続々と着弾する光の群れ。
「まだだ」
 掌を合わせる笹緒の両脇に燈籠が生える。笹緒が顎で指すと、灯された幽玄な光から焔の玉が射出された。
「うわわわわわ!」
 直撃すれば重症は免れぬそれを参は大きく跳んで回避する。
 ここで笹緒の敵意が活きた。彼女は回避を焦る余り、着地に失敗、姿勢を崩してしまったのだ。
 腕を組んで彼女を眺める笹緒。
「手温いな」
 彼の背後に展開された黄金色の屏風から6本の氷錐が放たれた。それらは一度高い位置まで浮かび上がって――
「……っ!」

 ドガドガドガドガドガドガッッッッッッ!

 ――参の周囲に突き刺さり、頑丈な柵をこしらえた。
「ちょ、何よこれ!」
 蹴っても撃ってもびくともしない氷の柱。
 その隙間から彼女が見たものは、軽い音を立てて畳まれる金色の屏風と、
「白面を悔やむがいい」
 笹緒が放った、薄紫色の矢だった。


 既に大勢は決していた。
 鉄屑同然となった盾は静流の一閃で両断、地面に落ちて乾いた音を立てた。咄嗟に振り下ろした釘バットも避けられ、逆に鳩尾へつま先を叩き込まれてしまう。
「ぐぉ……っ」
 たまらず四つん這いになる弐。
「……ァァァッ!」
 悲鳴に視線を送ると、笹緒が放ったエナジーアローの爆風を受けて転がる参の姿が見えた。離れた位置では沙都梨が陸に手錠を掛けている。
 静流は双剣を仕舞った。
「……ま、まだだ……!」
 よろめきながら弐は立ち上がる。
「これ以上は加減できん」
 両手で握られたバットが頭の上まで持ち上げられる。
「先へは……行かせねぇッ!!」
 全力で振り下ろされる釘バット。
 その軌道の先には静流が放った小袋があった。
 釘が触れただけで袋が裂け、刺激物の粉末が舞い上がる。それはあっさりと弐の視力を奪い去った。
「うおおっ!」
 バットを手離し悶える弐の股間を静流が強かに蹴り上げる。
「こ……っ!」
 彼が患部を抑えて両膝を折ると、静流はその垂れた頭部に拳を振り抜いた。
「そこで寝ていろ」
 静流が言い捨てると、弐はどさり、とアスファルトに転がった。
「さて……」
 彼女はビルから離れ、屋上を見上げた。銃声と雷鳴が撃ち合っている様子がありありと見て取れる。


「そらそら! どぉしたぁ!!」
 マインゴージュによる連撃を鉞子がエネルギーブレードでなんとか捌く。だが元来受けには適さぬ得物。短い刃は度々するりと守りを抜け、鉞子の体を刻んでいた。致命傷には至らないが、この上なく鬱陶しい。
 何度目かの鍔迫り合い。肆が鉞子に顔を寄せる。
「時間ばっかり過ぎてくなあ? 今どんな気持ち? 今どんな気持ちなんだよ、なあ!?」
 鉞子が押し返せば、得物の差で肆が大きく下がり、床に手を突く。
 そこに狙いを定めて篤が引き金を握ると、決まって錘の付いた鋼糸が彼の狙撃を阻む。まごついている間に肆は再び鉞子に突っかかる。
「舞草先輩!」
 声を張り上げ篤が前に出る。肩越しに視線を送り鉞子も駆けた。
「どーせスイッチだろうが!!」
「うるっせぇ!」
 跳ねた両者が空中で激突する。
 篤は脚を――
「あぁ!?」
 ――折り曲げ、肆の斬撃を食い止めた。
 間髪入れず鉞子がカーマインを振る。存分に勢いが乗った錘は肆の額を捕らえた。
 2対2の状況下で『1』に集中したが故に功を成した奇策。無論代償が伴う。
 闇から伍が放った鋼糸が伸び、先端の分銅が鉞子の顔面に激突した。
「――ッ」
 たまらずよろめく――が、倒れない。どころか、彼女は分銅を両手でしっかりと掴んだ。



 彼女は『武器』だ。
 武器は折れても欠けても、怯みはしない。



 伍が鋼糸を引っ張るその度に、闇に月光を反射する赤いラインが浮かぶ。
 この機を逃す篤ではない。腰を落とし、一瞬で伍の脚に照準を合わせてトリガーを引いた。
「――っ!」
 暗がりで黒がのたうつ。
 鉞子は分銅を離し、袖で顔を拭った。
「あとは、私が」
「判りました!」
 踵を返し、走り去る篤。
 彼の背中を忌々しそうに肆が見上げる。
「こ……んのぉ……がっ!!」
 鉞子が放った銃弾が肆の膝を貫いた。
 顔中に脂汗を浮かべる彼女に、拳を固めた鉞子が無慈悲に歩み寄る。


 雷の矢を受け、アニエスは屋上の鉄柵に背中をぶつけた。
「か……っ!」
 衝撃は器官まで届いていた。微振動を続ける柵にもたれながら彼女は激しく咽た。
「……っと……」
 壱もまた膝をつく。彼の肩と腿には銃創から漏れた血が咲いていた。
「ふふ。あの雷光を回避しつつの射撃、見事という他ありません。手数では劣っていたかも知れません。
 ですが、最後に物を言うのは火力。今回は私の勝ちのようですね」
「ごほっ! げほっ! ……勝ち、ねぇ……」
「せいぜいドライを気取ればいい。結末は変わりませんからね」
「ふん、腹立たしいな」
 ずるりと体を滑らせ、腰を下ろすアニエス。
「君とはしばしば意見が合う」

 ダァン!!

 扉を蹴り開け、屋上に篤が乱入した。

「アニエス先輩!」
 名前を呼び、篤が彼女に駆け寄る。アニエスは苦笑いを返した。
「ごめん。足止めで精いっぱいだったよ」
「お疲れ様です。あとはアイツだけですから!」
「馬鹿な……肆と伍はどうした!?」
 へっ、と唾を吐く篤。
「仲良く寝てるぜ」
「……一階の連中が、まだ……!」
「でかい花火が上がってから、ずいぶんと静かになったね」
 言われて壱は柵の向こうを見下ろす。
 縛り上げられた弐、参、陸の上に沙都梨が腰を下ろしていた。ビルの入口には静流が、離れた位置に笹緒が陣取り、屋上を見上げている。
 もう一度鉄の扉が動き、鉞子も合流する。


 1対6


「馬鹿なッ!」
 壱が叫ぶ。
「私たちには才能があるんだ! 完璧な策だってあった!
 それを、こんな……こんなことがあってたまるか!! こんな結末、私は認めないッ!!」
「アンタらは随分とまあ、自由って奴を楽しんでたみたいだけどな。何をしたって結果は必ず付いてくるんだよ」
「そうとも。この結末も分からなかったのなら……そんな才能、たかが知れてる」
「うるさいィッ!!」
 壱は彼らに背を向け、柵を登ろうとした。飛び降りて逃げる、という選択肢は確かにあった。
 だが、それも五体満足なら、の話だ。
 撃たれて上手く動かない脚に、鉞子のカーマインが絡みつく。
「ぐぅ……っ!」
 彼女はそのまま鋼糸を収納していく。
 仰向けになり、背中をずりながら三人の下に連行される壱。
 その先では、篤がタイミングを取りながらステップを踏んでいた。
「これが『結果』だ」
「や……やめ……!」
「受け取れ!」
 腰の入った、篤渾身のローキックが、壱の顔面を蹴り飛ばした。


「うぉーい」
 捕縛した6名を駐車場に集めたところへ、小日向千陰(jz0100)が声を投げた。
「小日向殿!? 学園で待機していたのでは……?」
「待ちくたびれて、来ちゃった」
 言うと、彼女はぱんぱんに膨らんだ携帯灰皿に煙草を押し込んだ。
 手錠を掛けられた上から荒縄でがんがら締めにされた6名を一瞥し、ふむ、と千陰は顔を上げる。
「警察に連絡は?」
「今終わりました」
 言って静流が携帯を閉じた。
「ん。IDは?」
 彼女が尋ねると、6人は1枚ずつIDを取り出した。
 千陰はそれらを受け取り、1枚1枚念入りに確認してから、まとめて鋏で裁断、切れ端を灰皿に詰め込んだ。
 そしてパン、と手を叩く。
「お疲れ様。慰労会ってことで、皆で焼き肉食べに行こうか。奢るわよ」
「おっ! ごちそう様です、小日向先生!」
「司書だって言ってるでしょ。……ま、いいわ。行くわよ」
 言いながら歩き出した彼女は、ふ、と立ち止まり、振り返った。


 そして左目を線にして
「――ありがとね」
 満面の笑みをあなたたちに向けた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 冷静なる識・アニエス・ブランネージュ(ja8264)
重体: −
面白かった!:7人

撃退士・
天風 静流(ja0373)

卒業 女 阿修羅
パンダヶ原学園長・
下妻笹緒(ja0544)

卒業 男 ダアト
恋する二人の冬物語・
遊佐 篤(ja0628)

大学部4年295組 男 鬼道忍軍
撃退士・
舞草 鉞子(ja3804)

大学部9年158組 女 阿修羅
暴走という名のテスト・
綾川 沙都梨(ja7877)

大学部4年3組 女 阿修羅
冷静なる識・
アニエス・ブランネージュ(ja8264)

大学部9年317組 女 インフィルトレイター