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マスター:十三番
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/06/06


みんなの思い出



オープニング

●久遠ヶ原学園・校舎脇

 五所川原合歓(jz0157)は抱えた紙袋から絶えず季節外れの特盛じゅうしぃ肉まんを取り出してもぐもぐしながら、先程見た光景を回顧していた。
 同僚の肩に頭を預け、すやすやと眠る上司。やきもちは同僚に対してで、できることなら代わりたかった。でもあの同僚になら安心して任せられる――だろう。何かあったら怒る。あれやこれやと考えつつ、彼女はぐもぐもと口を動かして、少しでも涼しい方へと移動していく。何か忘れている気がするが、きっと大したことではないだろう。肉まんはとても美味しい。


 やがてグラウンドに出た。赤銅色の土の上で、何人もの生徒たちが足腰を鍛える為に列を成して走ったり、大きな声で意思疎通しながらボールを追ったりしている。太陽の下で何かに打ち込む姿は日差しに負けず劣らず眩しく見えた。
 眺めていると、不意にあごを引いてしまった。ああいう経験はない。どんな顔で眺めていいのか、自分が眺めてもいいものなのか、判断できなかった。
 自分の影が落ちた狭い視野に、大きな白い影が躍り出た。敵襲か、と思わず息を呑む。久遠ヶ原学園に乗り込んで来る敵など居るはずもないのだが、思わず身構えてしまうほど、それは異質だった。
 ふさふさの白い毛の中から金色の瞳が見上げてくる。その間、すぐ下で割れた口から
「おあー」
 と漏れた鳴き声でネコなのだとギリ判断できた。
(「――……猫?」)
 これが? このサイズで?
 合歓は二度見する。どう見ても、ちょっとしたブラウン管ほどの大きさがあった。
 それでも「おあー」と脚に頭をこすりつけてくる仕草は紛れもなく猫のもので、合歓はまあいっかと自己解決し、紙袋を置いて、両手で存分にもふり倒そうとした。
 次の瞬間。


「あぶなーーーーーいっ!!」


 遠くから飛んできた声に顔を上げる。
 目の前には丸い影が迫っていた。



●グラウンド

「だ、大丈夫ですか?」
「――う、うん……」
 鼻を抑えて頷き、合歓は男子生徒にボールを差し出した。
 初めて触るボールだった。一見バレーのそれのようだが二回りほど小さく、バスケットボールよりもまだ固い。サッカーボールのような模様に縫われているが白一色だ。これが地面と水平に顔へ飛んできたのだからひとたまりもない。猫に気が緩み切って直撃を受けてしまった。
 全身土まみれの男子生徒はそれを受け取ろうとして――


「ンだ、まだやろうってのかぁ?」


 ――後方から飛んできた言葉に体を硬直させた。
 合歓が見遣る。
 そこにいたのは7名の生徒。誰も彼もアスリート、といった風貌だが、スポーツマンシップから遠く離れた笑みを浮かべてこちらを見ている。足元には6名の生徒が横たわっており、ボールを受け取ろうとした生徒と同じユニフォームに袖を通していた。全身にスポーツでは負いそうにない傷がいくつも浮かんでいる。靴跡まで見て取れた。

 火を見るより明らかだ。間違いなく厄介ごとが起きている。
 余計な危うきには近寄らず。そうやって生きてきた。
 だが今の自分は久遠ヶ原学園の職員。
 あの人と同じ立場なのだ。

「――……ど、どうか、したの……?」
「べっつに。ただ勝負してただけだぜ、新任司書センセの出る幕はねーよ」
 なあ、と仲間を見回し、多くの笑いを味方に付ける。
 違うんです、と泥だらけの生徒が首を振った。

 自分たちはある職員から『地図』を預かった。元スポーツ選手だった自分たちに勝てたら渡す、という決め事だったのだと。だが訪れた彼らとの試合はスポーツでもなんでもなく、ほぼ乱闘のような有り様だったという。君たちに渡すことはできない、と生徒が告げると、彼目掛けて『シュート』が放たれた。なんとか躱したものの、後方にいた合歓に当たった、というのが一連の流れらしい。

「そうだ。司書センセからも言ってやってくれよ。約束を違えるんじゃねえ、ってな」
「――……」
「ふざけるな! あんなの、ただの暴力じゃないか!!」
「最終的にスコアでも勝ったろ? 負けた癖に咆えてんじゃねーよ」
「だからって……!」
「――……て」
 合歓の言葉に、生徒は耳を疑った。だが視線で尋ねても、口元を締めた合歓が紡いだのは同じ言葉だった。
「――地図、渡して」
「な? センセがこう言ってんだからよォ?」

 大柄な男の言葉に、生徒が涙をこらえて地図を差し出す。
 にやついた男が地図を受け取ろうとして――しかし、合歓に横から掻っ攫われた。

「あ?」
「――……わ、私も、地図、持ってる、よ……」
「だから?」
「――……しょ、勝負、しよ。勝てたら、これも、私のも、あげる」
「で、負けたら謝れってか? 新任の考えそうな――」
「――そんなの、いらない」
 合歓は首を振り、
「――負けたら、咆えないんでしょ?」
 と、睨んだ。
「……いいぜ。乗ってやるよ。但し内容はこっちで決めさせてもらうぜ」
「――いいよ。何?」
「ハンドボールだ」
「――……」
「選手交代無しの前後半10分ずつ、他は公式ルール準拠。妨害、スキル有りアリ。飛行状態でボールを持った移動と召喚獣のプレーは反則とする、ってとこか」
「――……」
「相手が司書センセらなら俺等も遠慮しねえぜ? ガッツンガッツン行かしてもら……」
「――……は、ん……?」
「そっからかよ!?」
「すごく噛み砕くと、手でやるフットサルです」と土まみれの男子生徒。
「お前ルールブック持ってたろ、貸してやれ。あと司書センセは他の6人連れてこいよ、7人いねえとできねえぞ」
「――わ、わかた……」
「どうぞ、ルールブックです」
「――あり、がと……」
「よーっし、お前ら、今度は本気(ガチ)の本気(ガチ)で行くぞ! 怪我しねぇようにウォームアップしとけよ!」

 \うぇーい/

 どこか気だるげな、しかし軽やかな号令と共に、7名の生徒は次々とボールを回し、ゴールへ飛びかかってシュートを叩き込んでいく。
 その様子と、並ぶ文字と図を交互に見ながら、合歓は遠巻きに様子を見ていた生徒ら――あなたたちに駆け寄った。


リプレイ本文

●前半戦

 色濃い青空にボールが放たれた。

 より高く跳んだのは五所川原合歓(jz0157)。青目の女は遅れを自覚するや否や目標を合歓に定め、拳を固めた腕を振る。合歓はこれを軽く往なし、腕を伸ばしてボールを獲得、すぐに右側、神喰 茜(ja0200)へ送る。
 相手方はキーパー、赤毛の大男の指示でライン沿いに集結、青目は舌を打ち合歓と衝突、互いに道を譲らない。いち早く駆け込んだ或瀬院 由真(ja1687)は相手ポスト、褐色の大女に接近、背中からぶち当たる。丸太のような膝で押されながらも、懸命に両腕を伸ばして茜を呼んだ。
 軽々に応えることはできない。緑のジャージを着こんだ少年が腰を落として腕を広げて進路を塞いでいる。ゴールを見遣るも大女の巨躯、亀山 淳紅(ja2261)と押し合う黒肌の悪魔がネットを丸々隠してしまっていた。
 少年がカットに迫る。タイミング、角度共に手慣れていた。通常の試合だとしたら対応に移ろうと思考する暇さえ与えられなかったことだろう。
 しかし今回は『久遠ヶ原式』。
 茜の掌底が少年の胸元を撃ち抜いた。少年は体を折りながら大きく後退、大女に激突する。バランスを崩すには至らなかったが好機を作るには充分だった。僅かな射線を逃さず茜がパスを出し、由真は難なくキャッチ、間髪入れず角度を変えて送り出す。ゴールエリアラインの奥に放られたボールを、飛び込んだ合歓が宙で握った。
 茜も止まらず前へ。淳紅を出し抜いた黒肌が止めに来るが、茜はこれを大きく横に跳んで回避、すぐさま同じ軌道で戻り、ライン前で踏み切る。
 大男は両腕を広げて前に出た。頑丈げな半身と筋骨隆々の腕がゴールまでの道を完全に閉ざしてしまう。それでも合歓は振り被り、腕を振った。大男の予想とはかけ離れた位置への一投。脚を伸ばすがボールに触れず、ならばアウトだ、と振り向いた先で、茜が捕球を済ませていた。
 止める者はいなかった。これ見よがしに、ど真ん中に放たれたボールがネットを貫かんばかりの勢いで揺らす。

「お見事です!」
「ナイスパース」
「――ないす、シュート……!」

 互いを労いながらセンターラインを越え、自軍ゴール前に集う。振り向けば既に相手チームが準備を整えていた。

 ボールはジャージを着た少女から青目の女へ。真横に出されたパスを受け取った直後、高々と上空へ放り投げた。
「ずっる! 降りてこいやー!!」
 淳紅の言葉を鼻で笑い、黒肌の悪魔は同じく空中、白肌の天使へ。体の向きと視線は明確にシエル・ウェスト(jb6351)が守るゴールに向けられていた。角度から妨害は難しい。何とかしようと動いていた合歓は青目の女が執拗にマークしていた。
 鋭角に放たれたボールは多分に光を纏っていた。眩くさえあるシュートを、シエルが異形の槍で受け止める。
 その威力、相性の悪さは凄まじく、

「っ……!」

 辛うじてボールを弾くことに成功し失点こそ免れたものの、シエルは一度膝をついてしまう。審判が持ってきたボールを受け取って立ち上がるも、近くに構えていた蒸姫 ギア(jb4049)に放るのが精いっぱいだった。
 ギアは前方、神谷春樹(jb7335)にパスと視線を送る。すぐに頷きが戻ってきた。様子を見るようにドリブルで前進、攻撃のきっかけを探る。だが先程得点を決めた茜と合歓は猛烈にマークされ、由真は大女の動きを制限するので手一杯だ。淳紅とギアは意図的に浅く守っている。
 正面から色白の女が、横から少女が迫ってくる。あからさまに開けられた壁の穴は罠で、それでも春樹は肩を回してボールを放った。由真が腕を伸ばすよりも早く、そして長く、遠く、大女が上体を伸ばしてキャッチする。
「速攻!」
 大男が発声するより早く、土塗れの球は放られていた。青目と黒肌が一息でセンターラインまで駆け込む。
「行きはよいよい、やで」
 淳紅の唇が短く奏でれば、コートの中ほどに薄紫の霧が掛かった。只中の青目は捕球と同時に昏睡、黒肌も意識を失い無防備に倒れてしまう。
 零れたボールを拾いに駆け込むギアに少女が先んじる。掠め取るようにボールを拾われたギアは
「惑いの景色を写せ、蒸気スクリーン」
 少女の目の前に手を開いて見せた。色濃い白の光に包まれ、しかしなんのこれしき、と攻め込もうとする少女の耳に幾つもの言葉が聞こえてくる。こっちだ。こっちへ。下がれ。速攻。やがて視界も信じられなくなり、辛うじて聞き覚えのある声がする方向へ放った。
 そのパスを受け取った茜が合歓と共に速攻を仕掛ける。逆サイドからは春樹が上がり、中央から斬り込む由真は再び大女と激突した。
 敵陣中腹に到達したと同時、相手方2名が目を覚ます。ギアの追走を振り切り、狙いは一点、ボールを弾ませる茜。
 多少強引にでも攻め込むしかなかった。春樹は色白の女と互いを肩で押し合っている。まとわりつく由真を鬱陶しがった大女が大きく押し遣り、手透きになった逆側へ合歓が回るのが見えた。誰もいない所へボールを送る。案の定合歓はキャッチしてくれた。
 そのまま、振り向きながら跳ぶ。頂点から足元を狙って放ったシュートは、

「舐めてんじゃねえ!!」

 キーパーの大きな掌に阻まれてしまう。目を細めた合歓が着地するより早く、ボールは自陣へ放られる。
 淳紅が手を伸ばすが、頭上、かなり高くを青目の女が跳び、掻っ攫った。降り立つなり走る。その3歩目で強く踏み切り、弧を描くラインから離れた位置にも関わらずシュートを放った。
 これを回り込んだ春樹が横から弾いた。光り輝く白球は軌道を逸らされ、サイドラインの外側遠くに墜落した。


 以降は防戦に傾いた。カットを中心とした立ち回りとなり、シュートを打たせない陣形が続く。幾度か攻め立てようと試みるものの、キーパーの大男が奮戦し、青目の女を中心とした猛攻は凌ぐので手一杯だった。


 それでも失点を防ぎ続け、9分半が経過した頃、シエルが防ぎ零れたボールをギアが拾った。すぐに投擲、上がっていた由真から春樹へ。二度弾ませ、駆ける。
「無理無理、通さねぇよ!」
 構えた大男に違和感。視線だけを動かせば、自慢の四肢に柔らかげな茶色の髪が鋼の意志を持って絡み付きつつあった。
 舐めやがって。舌を打って振り解く。顔を上げれば、色白を振り切った春樹が跳んでいた。
 両腕を広げて腰を落とす。春樹の視線は愚直なまでに一点を見つめていて、放たれたシュートは素直に従い、最小限の射程距離を経て大男の顔面に激突した。
 首だけで仰け反った大男が、そのままの姿勢で春樹を痛烈に睨む。春樹は彼を逆手で指さした。
「司書さんに当てたのに謝ってないでしょ? だから、これでお相子」
 前半終了を告げる笛が鳴った。



●ハーフタイム

「これで大丈夫」
「ありがとうございます」
「ここからは任せて。どんなボールにも必死で食らいつく」



●後半戦

 シエルが左サイドにつき、ギアが左バック、春樹がキーパーへと変更する。再びセンターラインに立った女の青い眼差しは警戒しろと言われた目の前の司書ではなく、装いを変えたシエルへ強く注がれた。本気か、囮か、それとも。
 先程までとは逆の景色の中、ボールが地面と垂直に放り上げられる。再度高らかに跳躍した合歓の正面に人影はなかった。青目の女は主導権を拒否し、少年と共に茜のマークに回っていた。茜も振り切ろうと移動を試みるが中々出し抜くことができない。同じく上がろうとしていたギアには少女がまとわりついていた。
 ならばと由真を見遣った瞬間、その一瞬を見計らって、上空から急襲した黒肌の悪魔がボールを掠め取った。すれ違いざまに放たれた膝蹴りは合歓の脇腹に突き刺さる。堪え、肩をぶつけ返そうとしたが、黒肌はこれを紙一重で躱して猛然とゴールを目指してくる。

「わかってへんなぁ」

 この有り様に、淳紅は肩を竦めた。
「膝なんか出さんでも抜けるんやないの? スポーツってのはルール内でやるからおもろい――」
 黙れ、と黒肌が放ったタックルが淳紅の鼻っ柱に炸裂。
「――痛ぁああああ何すんねんごらぁしばきまわすぞ!!」
 怒鳴った時には行動に移していた。力ずく且つ強引極まりなく奪ったボールをすぐさま突き返すように押し付ける。
 巻き起こった大爆発が黒肌を巻き込んだ。自陣で観察していた春樹が目を細め、茜は肩越しに合歓を振り返った。
 もくもくと立ち込める土煙の中を相手チームが注視する。やがて現れたのは胸元を抑えて苦悶の表情を浮かべる黒肌のみ。それぞれが見回し、だがキーパーの大男はあっさり発見する。淳紅の姿は、黒肌を癒すべく踏み出した大女の背後付近に突然現れたのだ。

「てめぇ――!」
「黙っとけやああああああ!!」

 至近距離から放たれたシュートは弾くので精いっぱいだった。零れたボールを拾った少女が兄へ体を向けるが、目の前には両目を見開いた淳紅が刹那に躍り出て来ていた。舌を打ち、向きを変える。
「ひよってんじゃねえ!! ブッ倒していきゃあいいんだよ!!」
 パスを受け取った黒肌は舌を打つ。ゴールの前にいるお前には判らないプレッシャーがあるのだ。
 例えば。

「試合前から思ってたんだけど」

 緑色の髪の横で指が鳴る。

「撃退士としてその態度はどうなのさ」

 刹那、シエルと黒肌を漆黒の闇が包み込んだ。踏み込む者はいない。それぞれは取り囲むように位置取り、いつでも捕球できるように備えた。

「この……っ!」
「ちょっ――ッキャアアアアアアアア!!!」

 眉を寄せる面々に、バチーン!! という強い音が届く。
 ぽてぽてと零れたボールを拾ったのは闇から出でたシエル。鼻をすする音に目を向ければ微かに涙が浮かんでおり、左腕はボタンが外れたシャツを懸命に寄せていた。数名が目の色を変えて踏み込もうとした瞬間、闇が晴れて黒肌の姿が現れた。コートに倒れた彼は両腕を脚の間に挟み、低く唸りながらぷるぷると震えていた。それを見て数名が同じポーズを取る。闇に消えた真相を実に雄弁に語っていた。
 一見満身創痍シエルだったが、出されたパスは鋭かった。そして、それをカットする青目の動きもまた猫のようにしなやかで的確だった。彼女を先頭に黒肌と大男を除く全ての選手が波のようにコートを駆けていく。そしてその全てが回り込むより早く、青目の女は低く前に跳びながらシュートを放った。
 回転し唸りながら地面すれすれを飛ぶボールを、キーパーの春樹が真上から弾いた。破裂したのでは、と不安にさせる程の音を残したボールは回転数だけを保ったまま空から落下、春樹がそれを両手で受け止める。
「このタイミングか」

 睨んでくる青目を余所に仲間へパスを出す。チームメイトが下がっても青目は睨み続け、彼女を余所にボールを受け取ったギアの周囲には彼のチームメイトが集っていた。

「行くよ、みんな……スチームギア、オーバードライブ!」

 両脚から溢れた光が蒸気を模して仲間の脚を包み込んだ。躍動感を得たチームメイトは下がる相手を追い抜かんばかりの勢いでコートを上がっていく。
 ボールは一旦真っ先に踏み入った合歓へ送られた。彼女は色白の追撃を掻い潜って後方を一瞥、視線とボールをギアへ戻す。顔を真っ赤にした青目が迫っていた。ギアは動じず、むしろ迎え撃つ。

「かかったね。暫くそこに居て貰うよ、ギアストリーム!」

 一際強いドリブルを打つ。波紋のように広がる土埃には光が混ざっていた。それを足元に受けた瞬間から青目の脚は硬直してしまう。涙目になりながら何度腿を叩いても動けるようにはならなかった。
 彼女を置き去りにして試合は進む。ギアのロングパスを受け取った淳紅は再び瞬間移動を試みようとする、が、ゴールライン前には残りの4名が集合していた。黒肌が退場し、青目を欠いた今、個別対応は分が悪いと判断したのだ。ならば、と淳紅はフリーの合歓にパスを出す。受け取ってから2歩前進し、白肌を充分に引き付けてからサイドにパスを出す。腕を伸ばしてキャッチした茜が片足を軸にして回転、前を塞いでいた少年を突き飛ばした。靴底で轍を作りながら下がる少年を大男が腰を落として受け止める。戻ってきたボールを捕え、シュートに移ろうとした茜を少女が必死に邪魔した。
 ならば、と体の後ろを通して放る。両手でしっかりと捕球した由真は直ぐに振り向いた。
 必ず止める。覆いかぶさるように前進した大女が見たのは鮮やかな碧の光。

「既に伝わっていると思いますが――」

 直後。

「――全力で行きます!」

 光が大ぶりの直刀を模す。それは由真のシュートに合わせて振り降ろされ、大女の胴体をカウンター気味に捉えた。
 吹き飛んでくる仲間の巨体を受け止めてから脇へどかす。その一手分だけ対応が遅れた。ラインぎりぎりから踏み切った由真が跳んでいる。
 両腕を広げて前に出た。
 ボールは、しかし後方へ投げられる。息を呑んで見つめる視界で、由真の陰から現れたシエルが宙で捕球した。
 顔面に向けられる明確な敵意に怯まず、キーパーの、主将の役目を全うすべく前へ。
 シエルが渾身のシュートを放った。軌道をなぞるように黒刃が現れ、ボールは大男の股ぐらを目指す。これに大男は辛うじて反応、腕を伸ばして脚を曲げるが、その悉くを黒光の嵐が刻んだ。

「――……ッ!!」

 大男が倒れ、彼の後ろでネットが揺れる。大男は失点を音で察した。ボールを拾おうとするが立ち上がれない。
 まだやれる。続きだ。何度も繰り返す大男を大女が抱え、コートの外に運んだ。


 その後は一方的と言う他ない展開だった。奮戦こそしたものの2名の欠員は埋めがたく、終わってみれば圧倒的な得点差が付いていたのである。





「ありがとうございました」
 傷だらけの生徒に頭を下げられ、ギアは顔を真っ赤にする。
「べ、別に気の毒とか、気にしてたわけじゃないんだからな! 気に入らなかっただけで、そういうのじゃないんだからなっ」
 語らう仲間の様子に微笑み、由真が額の汗を拭く。
「思いっきり動き回るのは、やはり気持ちいいですね」
「――……うん」
 ありがとう。お疲れ様。本当にありがとう。何度も繰り返しながら、合歓は2枚の地図を渡し、チームメイトの輪を離れた。彼女はしょげ返る相手チームの許へ立ち寄ってからグラウンドを後にする。

 やがて大男と大女を先頭に相手チームがやってきた。神妙な面持ちの面々は、リーダーの号令で揃って頭を下げた。

「怪我の治療を、手当てをさせてくれ。頼む」

 それぞれは面食らいながらも申し出を受け入れた。淳紅の怪我を大男が、シエルの怪我を大女が献身的に癒していく。双子は様子を見ていた生徒らの傷を手当てしていた。
「なにか言われたの?」
 茜が尋ねると、大男は唇を噛みながら目を伏せた。
「リーダーならもっとちゃんとしろ、仲間が可哀想だ、だとよ」
「……そっか」
 茜が肩越しに振り返る。合歓は大きな仕草で手を振り、図書館へ走っていった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:2人

血花繚乱・
神喰 茜(ja0200)

大学部2年45組 女 阿修羅
揺るがぬ護壁・
橘 由真(ja1687)

大学部7年148組 女 ディバインナイト
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
ツンデレ刑事・
蒸姫 ギア(jb4049)

大学部2年152組 男 陰陽師
久遠ヶ原から愛をこめて・
シエル・ウェスト(jb6351)

卒業 女 ナイトウォーカー
揺れぬ覚悟・
神谷春樹(jb7335)

大学部3年1組 男 インフィルトレイター