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マスター:十三番
シナリオ形態:イベント
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/03/28


みんなの思い出



オープニング

●潜みし蛇が嗤う頃
「我こそは聖女。我こそは救世主。我こそは、永久なる楽園を統べし者」
 教会、或いは祭壇の様な。蝋燭がボンヤリと照らす、香のにおいの詰まった空間だった。
「同胞達。我々は選ばれました。私もまた選ばれたのです。我々には力があります。我々は力ありし者としてこの世界を統制せねばなりません。絶対統制、それが我々の使命です。
 我が下に傅く者には永遠の幸福を。そして全ての生命が聖女の下に集いし時、世界は救済され浄化され、絶対的な楽園となる事でしょう」
 謳う様に語ったのは神々しくも荘厳な女であった。その前方には多くの人々が跪き、『聖女』の言葉に恍惚と感動の涙を流して奉っている。「聖女様、どうか我等を楽園へ」と誰も彼もが口を揃える。
 と、その時。
「いや、はや。お美事です、ツェツィーリア様」
 ぱちぱち、と軽い拍手がトランスに恍惚とする異常空間に響いた。
 暗がりから現れたのは一人の男――否、悪魔。外奪(ゲダツ)、と聖女に名を呼ばれたそれがニコヤカに微笑む。
「全く全く、仰る通りで。素晴らしいお考えです。地獄に生を受け早云百年――斯様に素晴らしい考えに出会った小生はきっと疑いなく幸福な悪魔なのでございましょう。こんな素敵な考えは是非とも広めねばなりませんね。いいえ広めるべきなのでございます。我々悪魔も全力で協力させて頂きますよ、えぇ。全ては楽園の為に!」
 恭しく仰々しい一礼。そんな悪魔から聖女――ツェツィーリアは同胞達に眼を移し、その腕を凛然と掲げ、言い放った。
「それでは往きなさい、楽園の同胞達。汝に聖女の救済と終わりなき安寧があらん事を。祝福あれ!」




 彼女にしてみれば妥協案であり、余談だった。

 何度となく収穫を邪魔してくる『害虫』がいた。
 距離が近かったということもあるのだろうが、それはそれは必死で纏わりついて来た。
 彼女にしてみればこの上なく無駄な時間だった。
 程度が無視できる水準を僅かに上回ったので、タリーウは彼らに手を翳した。あっさりと全員傅いた。
 その呆気なさに、逆に肩を落としたタリーウは、近場に駐屯していた『害虫』の『巣』を『害虫』に襲わせた。
 皆殺しでいい、と命じた。

 至る、現在。

 『巣』に籠っていた『害虫』の『駆除』には成功した。
 見ているだけでよかった。
 正気に戻れ。助けてくれ。何度も繰り返していた『害虫』は肉に変わって地面に転がっている。
 タリーウは重い息を吐く。終始無抵抗だった。あの『庇い合う』ないしは『助け合う』という思考がまるで理解できない。弱い個体は淘汰されて当然なのに。それが理解できなければ弱者となって然るべきなのに。

 駐屯地の屋上で、投げだした脚をぱたつかせていた彼女の耳が、遠くから轟く幾重もの声を拾った。
 見れば、餌――いや、『害虫』の群れがこちらに押し寄せてきていた。
 また『助け合い』。
 くだらない。コンクリートの上に体を倒し、指で指示を飛ばした。
 皆殺しでいい、と命じた。


 激突する『害虫』の群れ。
 そこに感慨も感想もなかった。
 強いて言うなら『もったいない』。
 時間を掛ければ『収穫』もできるのに、と。


 まあ、構うまい。
 タリーウは目を閉じる。
 数分もすれば決着が付くだろう。そうしたら術を解き、また改めて場所を探して収穫すればいい。
 『あれら』や『これら』に興味など無い。


「――」「――」


 だが。


「――!?」「――!!」


 おや。


「――!!」「――!!!!」


 ぱちり、と目を開き、タリーウは体を起こした。
 気の所為かと思われたそれは、だが、確かに彼女の眼下で起こっているらしかった。

「ハアアアアアアアアッハアアアッ!! 祝福祝福ゥアアア!!」
「ハーーーーーーイ! 今のでオレ様ジャストでレベルアーーーーーーップァーーーーーーイ!!」
「Rrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!! 次あたし! 次あたしーーーーーーー!!!」


 またひとつ、『手応え』が消えていく。


 ――『殺し合い』になっている。


 意外だった。
 てっきりまた血眼になって私の術を解こうと四苦八苦すると思ったのに、容赦なく斬り、撃ち、潰し、殺していく。
 そんな『餌』に出会ったのは初めてだった。
 こんな『害虫』は見たことがなかった。

 更に彼女は、もう一つの違和感に気付く。

 対抗勢力の中から黒い塊が飛び出した。それは鋭い牙が生え揃った口を大きく開いて『害虫』を飛び越え、ばく、と胸から上を噛み千切ってしまう。


「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! 見た見たー? 食ーわーれーてーやーんーのー!!」
「見た見たー! 超ウケる! イーーィエーーーイもっともっとー!! ぜーんぶぜーーんぶ食っちゃえー!!」


 対抗勢力の中に冥魔の使い――ディアボロが存在していること。


 『餌』に組している同胞や天使がいることは知っていたし、出会ってきた。家畜同然の存在と慣れ合うなどそれ自体が唾棄すべき思考だが、今の論点はそこではない。彼らが持ち得ない――作成できるはずのないディアボロが行動を共にしている事が取り分け鮮烈であり、異質なのだ。更に付け加えるのであれば、守るべき、或いは共存すべきである存在の成れの果てであるディアボロと行動を共にしている人間がいることも充分珍妙であり超常なのだが、人間を餌、害虫としか思っていないタリーウの考察はそこまで至らない。
 そしてタリーウは今――それさえも彼女からすれば充分異質で特別なのだが――『害虫』を『駒』と見立てていた。心を折り、急ごしらえで手に入れた戦力。ものは試しの余興の心算が、この展開と旗色の悪さはなんだ。

「……何処の誰が、何をどうしようとしているのか知らないけれど……」

 タリーウは手を開き直す。
 『駒』への命令が色合いを強めた。

「……少なくとも、面白くはないわね」

 皆殺しにしろ、と伝える。




 やや骨の折れそうな偵察任務、というお達しだった。
 撃退士の駐屯地が急襲され、その付近に悪魔がいるようだ。状況を把握し、事態を収めるように、と。
 だが、あなたたちの目の前で繰り広げられる光景は、到底『急襲』などという言葉には収まりそうにない。

 死んだような目で戦っている。
 嬉々として戦場に飛び込んでいく。
 死んだような目で死んでいく。
 死んだ命の上で爆笑している。

 それでも、あなたたちは向かわなくてはならない。
 何が起こっているのか。それをより詳細に知る為に。

 ――こんなふざけたことが、これ以上起こってしまわないように。


リプレイ本文


 交差点で激突する殺意と殺意。その中の誰かの耳が足音を拾った。
 顔を向けて笑みを強める。
「なーーーんか増えたよーーーーー!」
「「「Fooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」
 声を張り上げた。


 覚醒者の様子に反応し、虚ろな双眸が幾つも流れた。
 『皆殺しにしろ』と『言われて』いる。
 例外など無い。


 駆け込んだ君田 夢野(ja0561)が長剣を振り降ろす。鋭いその斬撃を、しかし覚醒者は笑みを湛えてひょいと跳び退くと、手にした長槍を突き出してきた。喉笛を狙った攻撃を夢野は避けない。命中を確信し、更に力が込められた槍を、横から黒須 洸太(ja2475)が手にした二刀で薙ぎ払った。突然、思い切りバランスを崩され、覚醒者は転んで転がる。同志の嘲笑を受けながら立ち上がる、その表情は変わらず笑んでいた。
 霧谷 温(jb9158)が腕を振り抜く。拳を模したアウルは直進、撃退士の顔面を捉えた。衝撃に大きく仰け反りながら、撃退士の手は止まらない。プログラムされたような挙動でページを捲る。光の玉が浮かび上がった。咄嗟に腕を交差させる温。彼目掛けて緩い弧を描いて飛来する光玉を、後方からVice=Ruiner(jb8212)が後方から狙い撃つ。軌道を逸らされた玉は脇の建物に激突。事なきを得た温が笑顔で手を挙げる。Viceは片眉を僅かに上げただけで、黒と銀の二丁で早くも次の狙いを定めていた。
 彼のやや前方で天宮 佳槻(jb1989)が集中する。四神を礎とした結界が急激に展開されていく。
 これにディアボロが反応した。『群れ』の中ほどから地を蹴り、飛び出す。牙を剥き出す巨躯の犬へ、左目を紅く輝かせた橋場 アトリアーナ(ja1403)が迫る。突き出したバンカーの先端が犬の腹に突き刺さり、次の挙動で突出、赤の残光を撒き散らしながら犬の胴を中央から圧し割った。
 彼女を先頭とした久遠ヶ原所属の撃退士11名を
「よろしくな、全力で護れ」
 長幡 陽悠(jb1350)が呼び出した龍の庇護が包み込む。青い光を纏った一同は各々の得物を構え直した。
「ハッハーーー! なんだそりゃ、カッコいいな!!」
「腕も立つ。判らないほど雑魚でもないだろう」
 目を細めたViceが強く言う。
「退け」
 左から品の無い笑いが幾つも飛んできた。
「馬ー鹿ーじゃーねーえーのーかー!? 祝福してやっからぶつくさぶっこいてないで一列に並べやオラァッ!!!」
「成る程、超絶に不愉快じゃないか」
 夢野が長剣を傾ける。
「容赦しないから勝手に死ぬなよ!!」
 舌を出した覚醒者が夢野に斬り掛かる。

 彼らから見て右側――撃退士は何も言わなかった。何も思わなかった。思えなかった。聞こえていなかった。
 やや離れた所から振られた鞭が物凄い音を上げて温を狙う。間一髪回避した彼の足元は大きく抉られていた。
「どいつもこいつも……むっかつくなー!! そんなに死にたきゃ自分で首掻き切って死にやがれ!!」
 撃退士は応えない。幽鬼のように襲い掛かる。



 激化する交差点の戦闘。氾濫する二色の殺意に懸命に抗う仲間の姿。
 この様子は、後方から観察していた一同の目にも映っていた。
 物陰から顔を出した機嶋 結(ja0725)がぽつりと呟く。
「正気ではありませんね。特に右側……まるで誰かに操られているような……?」
 彼女の言葉に鷺谷 明(ja0776)と森田良助(ja9460)が反応する。
「精神攻撃、ねえ。どこかにそんな悪魔が居たような」
「……あいつかな」
「じゃあ、左側はなに?」
 水枷ユウ(ja0591)の言葉に答えられる者はいない。小さくはない疑問と確信を抱き、4名は戦場を大きく迂回する。




 激突する3団体。奇声や喜声、光と鮮血は空からでも良く見えた。
「何が何やらですが……どっちも許しがたいですワ……」
 目的は。首謀者は。この絵図を描いたのは誰か。ミリオール=アステローザ(jb2746)は拳を震わせる。
「調べてみないと何とも言えないわねェ」
 彼女の背後から黒百合(ja0422)が声を投げる。
「手分けして終わらせましょうかァ」
「わかりましたワっ!」

 気配も、息さえ殺し、二つの影が曇天と戦地の間を征く。




 屋上に到着した只野黒子(ja0049)が膝を曲げ、彼女の背からケイ・リヒャルト(ja0004)が離れる。短い御礼に小さな頷きを返し、どちらも身を低くしたまま戦いを見下ろせる位置へ。そこでは先行したドラグレイ・ミストダスト(ja0664)がぶつかり合う撃退士らを観察していた。
 遠目に見る目を疑った現状は、近くで見ればより不可解な惨状で、だからこそ彼はカメラを構えてシャッターを押し込み続ける。1ミリでも広く様子を記録する為に。ひとつでも多くの顔を画像に捉える為に。どんな些細な情報も決して見逃さないように。
 ポケットの内側が震える。取り出せば、黒百合が上空から撮影した画像が着信していた。前髪の隙間から彼女の位置を把握しつつ、下がる。位置関係を把握しなくてはならない。
 代わるように前に出たのはリヒャルト。静かな呼吸のまま矢を引き絞り、最小限の動作で射る。手元を出発した矢は風のような光を纏って直進、夢野が切り結ぶ覚醒者の大腿部を捉えた。手応えと攻勢に転じる夢野を確認して位置を変える。早々に見つかるわけにはいかない。まだまだ敵は居る。
 仲間の活躍を肩越しに一瞥し、黒子が通信機を顔に近づけた。




――予想以上に入り組んでいます。大回りになってしまいますが誘導しますので

「あいよ、頼りにしてるぜ」
 路地裏、グィド・ラーメ(jb8434)は半身になりながら答えた。建物は奥に進めば進むほど密集しており、路は蟹のように身を反ることでようやく通れるような悪路だった。すえた臭いと黒ずんだ湿気が纏わりつく。劣悪な環境の中を、それでもグィドは懸命に進む。前を往く仲間に黒子から貰った経路を口頭で伝えながら。
「裏に回る奴は左、横から攻める奴は真っ直ぐ、だとよ」
 あごを引き、或いは手を挙げて、仲間は窮屈そうに三々五々と進んでいく。
 遠くから声が聞こえた。覚醒者の声だ。どよめき、ざわめき、笑っている。
「この混沌とした感じは久々だな……抗争を思い出すぜ」
 グィドの呟きに、直前を進んでいた田村 ケイ(ja0582)が振り向いた。
「地獄絵図、の間違いでしょう」
「だな。撃退士なら訳が違ぇ……って、集中しねぇとな」
 こちらへの攻撃はまだのようだ。伝えられたことを伝え、グィドは進む。ケイは彼を常に射程内に収め、進行の妨げになるゴミを脚でどかしながら走った。




「左側は想像以上に広がっていますね♪」
「戦況はどうなっていますか?」
「後方からの遠距離攻撃は主に右側の集団に向けられ、押しています♪」
「全く動いていない数名がいますね」
「応援役(チアー)なら気が楽なのだけれど」
「回復役(ヒーラー)と睨んでいます♪」
「でしょうね。編成と配置と分担がそれなり。勝って帰る気があるのね、この有り様で」
「今後更に前へ出ると予測します。裏に回る道はこのままで充分でしょう。
 ラーメ様、そのまま前進してください。後ろを取るのは様子を見てからになりますが」
――はいよ、了解
「右側が全く下がろうとしないわね。ここまでだと勇敢を通り越して不気味だわ」
「そちらに回った別働隊から、精神攻撃では、という推測が挙がっています」
「確かに、当て嵌まる悪魔が一柱思い浮かびます。が、ディアボロを内包する部隊と戦闘する理由が薄いと感じます」
「直接訊くことができれば早いのですけどね♪」

 考察と推察を重ねる一同の手の中で、

――見つけましたですワー!

 通信機がミリオールの報告を吐き出した。




 鼻の頭に冷たいものが当たった。全身はそのことに一切の興味を示さず、赤い双眸は眼下の様子を見つめ続ける。
 駒は確実に減っていた。手への負担が明確に減っている。向かってくる『害虫』は生きが良く、駒を減らし、新たに現れた勢力と嬉々として戦い続けている。
 雨は少しずつ主張を始めた。白い肌と青い髪が濡れていく。鬱陶しそうに頭を振る。揺れた視界の端に光の欠片が零れていた。淡雪のような、桜の花びらのような。
 あごを振る。小柄な人影が見えた。
 視線を僅かに巡らせる。向けられている敵意を幾つか感じた。

「……はぁ……」

 案の上の溜息に、ユウは動じない。
「何をしてるの? 何が見えるの?」
 形のいい唇が動こうとしている。紡ぐ言葉は容易に想像できた。
「次から次へと。面倒――」
「ね。面倒だよね。面倒は嫌だよね。
 だから、幻術を解いて退いてもらえないかな。あとはわたしたちで片付けるから」
「……面倒よりも嫌なことがあるわ」

 タリーウが手を動かす。駒が移動した。昏い瞳で彼女とユウを見上げ、得物を掲げてくる。
 緊張が満ちる。別の屋上で待機する良助がトリガーを寸前まで引き絞り、隣で明が笑みを強めた。また別の、更にタリーウに近い屋上では、結が握った旋棍に力を込め続ける。
 戦いは続いている。魅了された撃退士らはユウへ狙いを定めている。遠距離への攻撃手段を持たない駒は覚醒者の攻撃から駒を守るような陣を組み、物量に負けて押され始めていた。

「手に穴が空くこと? 実力行使してもいいけど、それこそお互い面倒でしょ?」

 タリーウが振り返る。表情をほんの少しだけ強張らせて。
 ユウは構えていなかった。
 雨が足音を鳴らし出す。
 タリーウの姿が消えた。

 直後、辺りを光が蹂躙する。

 低い位置から放たれた無数の攻撃は主が腰かけていた屋上を滅多矢鱈に襲った。その量は甚大ではなく、明の狙撃も、良助の『目印』も呑み込んでしまう。届かない。
 立ち込める土煙の中へ結が『飛ぶ』。突き出した武器から放たれた強い、強い光は、煙を吹き飛ばし、しかし幻魔には届かなかった。
 尚も屋上は揺れる。路面に並ぶ撃退士が攻撃を続けているからだ。届かないにしても面倒なことに変わりは無く、しかしユウはそれらに一切関心を示さないまま両腕を頭上に掲げた。逃げ道はこちらにしかなかった。
 放つ。
 風は凄まじい速度で螺旋を描きながら上昇、やがて凍て付き、曇天に咲く透き通った、青い一輪を模した。
 何も巻き込むことのないまま。
 道路から距離を取りながら、結が通信機を顔に寄せる。
「見えましたか」
――煙の所為で見えなかったわァ。逆に言えば、飛び出したわけでもなさそうねェ
「タリーウ!!」
 良助が声を張り上げる。
「覚えてる? 東北でキミを狙撃した虫だよ!」
 暫く待ってから、明が鼻を鳴らした。
「逃げたか隠れたか。いずれにせよ、物足りんねぇ」

 ユウの頭上、凍て付いたそれが光に戻る。雨に混じって散っていく。
 それを合図としたように、路面からの攻撃がピタリと止んだ。




 顔に当たる雨が無視できなくなってきた頃、交差点の戦況が一変した。
 呑み込まれつつあった右側の部隊、その手が一旦完全に止まったのだ。
 置かれた状況を、手に握った武器を、光を取り戻した目で必死に理解しようとする彼らを、勢いを増した覚醒者たちがごっそりと呑み込んでいく。
「え? なんだよそれ――」
「余所見してんじゃねええええええええええ!」
 大剣を携えた覚醒者が温に斬り込む。
 咄嗟に腕を交差させた彼の前に、盾を携えた日下部 司(jb5638)が躍り出た。押し付けるように出した小型の盾、そこに乗る衝撃は見た目よりも予想よりも遥かに軽いものだった。仲間の援護に眼差しを強め、大剣を押し返す。そのまま屈めば、頭上を温が放った光が通過していった。直撃を許し、仰け反る覚醒者目掛けて、体の周りを一周させた戦槌を振り上げる。脇腹をひしゃげながら大柄な男は吹き飛んだ。同胞の中に巻き込まれていく。
 やや離れた位置では夢野が1名を斬り伏せていた。だがこちらもまた、武器を持てなくなるや否や同胞に首根っこを掴まれて群れの中に担ぎ込まれていく。そしてすぐさま代わりが訪れた。鉄球持ちと棍持ちの2名。
 喜色満面の両者を、夢野は黙殺。反対側から奔ってきた刀持ちと向かい合う。低い位置から繰り出された居合抜きを長剣が受け止める。
 無視された2名は猛るどころか尚も笑んで襲い掛かろうとする。
 そこへ黒獅子の甲冑を纏った戦士――天羽 伊都(jb2199)が飛び込んだ。勢いを存分に乗せた唐竹割りが炸裂、構えられた棍を容易く両断し、その奥にあった肉を断つ。棍持ちが下がろうとする。鉄球持ちがすぐさま反応した。だがそのどちらよりも迅く、伊都が黒光に濡れる大剣を振り回した。腕胴腕、肩胸腹腿と断ち尽くす。
 例に漏れず2人は呑み込まれていく。だが新手は訪れず、代わりに飛来したのは特大の光球。伊都は大きく後退、爆発した光を物ともせず前に出ようとする。視界に暗い穴が映った。
 姿勢を低くして更に前へ。伊都の頭上をViceが放った対の弾丸が奔る。狙撃者は大柄な盾を構えた者の陰に隠れた。弾丸は悉く盾に激突、今だと言わんばかりに銃を構え直した狙撃者を、佳槻が操る淀んだ砂塵が包み込む。全身を蝕む不快感に耐えかねた狙撃者は後退。盾持ちはその場を動かず、その背後から再び巨大な光球が襲来した。再び狙われた伊都を、洸太を模した光が庇う。宙で爆ぜる敵と仲間の光を背に伊都は侵攻、大きな盾目掛けて剣を振り抜いた。得物を歪められ、それでも立ち続ける盾持ちに、盾を携えた洸太が盾から激突する。遂にバランスを崩して膝を付いた盾持ちに、温が放った光が直撃した。
 夢野は3度目の鍔迫り合いを迎えていた。カチカチと鳴る刃らの奥から見上げてくる品の無い笑みは視界に入るだけで胸が焼けた。腕にありったけの力を込めて押し返す。靴の裏を削りながら後退、即攻勢に転じる刀持ち。その顔面を司の戦槌が完璧に捉えた。足を滑らせたように転倒、のたうつ刀持ち。
「合わせろ!!」
 叫んだ夢野と頷いた司が同時に得物を振った。それぞれの軌跡から放たれた光が刀持ちと、彼を収容しようとしていた者を呑み込み、群れの中ほど、展開された力強い光と衝突する。
 四散する光を黒い犬――ディアボロが跳び越えた。降り頻る雨と爆ぜる光に挟まれて、その異質な姿は一層映えた。
 建物の屋上から明と良助の狙撃が、地上から放たれた結の光が襲い、向かいの壁を奔る月臣 朔羅(ja0820)が両手の引き金を握る。三方から四肢と体を撃たれたディアボロの動きが強張った。
「『やらせます』!!」
 陽悠の声に仲間が道を開ける。ディアボロまでの一本道。そこを目掛けてストレイシオンが雷を放った。濃密な光がディアボロの背を削り取る。あえなく墜落した犬の肩を踏み付け、アトリアーナがバンカーで頭部を吹き飛ばした。
「変化はあったかしら?」
 高所から投げられた朔羅の問いに、アトリアーナは首を振る。
「今までと同じ、ですの」
 薬きょうを再装填する彼女にViceが続く。
「やや後退気味に防御重視の陣……と、行ったぞ」
 彼が狙撃した先に目を向ければ、小柄な女性が二刀を振り回しながら壁を走ってきていた。その瞳は開戦時と変わらず危うげにぎらついている。
 ここまでに倒したディアボロの数は4。屋上と上空からの連絡で5体が確認されていた。半数以上を撃破して、それでも相手の状況に変わりはない。つまり。
 考察を重ねる彼女を連斬が襲う。朔羅は下がりながら発砲、しかし女性はこれを器用に躱して進む。声と唾と共に放たれた連続する刺突を右左と首を振って回避。ねじ込むように伸ばした腕で下っ腹に銃口を向け、発砲する。女性は刀をブレーキに見立てながら大きく後退、すぐさま前に出る。
 その進路にフルオートの狙撃が叩き込まれた。咄嗟に宙で身を返し、視線を落とす。彼女と目が合った狗月 暁良(ja8545)は構わず発砲を続ける。命中こそしなかったものの意識を充分傾けさせた。
 自身から視線が逸れた瞬間に合わせて刀を抜いた朔羅が進む。刀身は直後に黒刃へ。そして女性がそれを視認した時には、黒い刃は女性の肩を半ばほどまで押し込んでいた。
 成す術無く落下し、だが女性は受け身を間に合わせる。そこへ暁良が遠くから拳を突き出す。腕から放たれた衝撃波を、女性は二刀を交叉させて受け流した。勢い、尻餅を着く。慌てて立ち上がろうとするが、時既に遅く、目の前には布を巻いた拳が迫っていた。
 暁良が腕を振り抜く。痛烈な音を残して、女性はアスファルトを大きく跳ねた。

 南方を担当した学園撃退士の力と連携は凄まじく、戦闘開始からここまで大きく崩れることは遂になかった。目立った腕自慢は群れの中に引き込まれ、いかにも屈強そうな者らが前線に台頭し、遠距離からの攻撃が主な手段となりつつあった。
 そしてそれらが、ある瞬間を境として一斉に右側へ流れていった。こっちだ。こっちのほうがいい。




 時間は少しだけ遡る。

 標的の向こうで弾ける幾つもの光と建物、立ち昇る煙とそびえ立つ氷華。何かが起こっていることは明らかで、目の前では更に明確な変化が表れていた。己の命を投げ売るように戦っていた連中が一斉に挙動を止め、呆気にとられた様子で立ち尽くし――要約すると隙だらけになったのだ。
「なーんか一気に弱くなったんだけどー?」
「いいじゃんいいじゃん祝福祝福! ガンガンやってこうぜ!!」
「だよねー! 割り込んできたの強いし、楽な方片して次行こうよー!」
 無論、この案に反発する者も居た。使命感とも呼べそうな熱に突き動かされた者は前述のとおり南方、学園撃退士と相対しに向かった。だが旗色は遠目にも劣勢で、結局覚醒者らの多くは正面、幻術が解かれた撃退士を標的に定めていた。

 その出鼻。

 拳銃を手にした覚醒者が同士に続こうとした瞬間、横から太腿を強く叩かれた。叩かれたと思えた。堪らず転倒し、見れば、そこには矢が突き刺さっていた。
 転んだ男を傍らの女が嘲笑う。
「なにコケてんのバカじゃねー!?」
「バーカ撃たれたんだよバーーカ!!」
 言い合う二人の許に、再び路地裏から矢が射出される。茶髪の女は手にした曲刀で辛うじてそれを払い落とすと、男に援護を頼んで路地裏へ侵入した。
 おい、どこ行くんだよ。なになにどうしたの。興味本位で歩みを止めた面々、その視界の隅に鮮明な青が奔った。
 見遣る。なんだ。
「あー、遠かった!!」
 長距離走の鬱憤を晴らすかのように、雪室 チルル(ja0220)が氷柱のような直剣を強く、突き出した。鋭利な先端から吹雪を思わせる光の渦が放たれる。その様は正しく砲と言えた。光は後方で待機、或いは治療していた者らを一気に包み込み、押し流した。
 ざっと戦果を確認する。半分は立ち上がれないようだった。大回りした甲斐が少しはあったとチルルが短く息を吐く。
 そしてすぐ口元を引き締めた。敵意を含んだ笑みが幾つも向けられている。
 チルルは反るような体勢から一気に顔を突き出し、真っ赤な舌を出した。そして踵を返し、元来た路地へ戻っていく。2人釣れた。棍棒を持った男と鉄扇を持った女。
 男が先行して路地に入っていく。辛うじて通路と呼べそうな建物の狭間は天候も相まって暗く、前を行くチルルの姿を追うのが精いっぱいで、そのことに夢中だった。
 黒羽 拓海(jb7256)が張り巡らせた極細のワイヤーが男の膝辺りを引っかけた。男は成す術無く転倒、ごろごろと転がってくる彼を、踵を返したチルルが跳び越える。限界まで引いた大剣を落下に合わせて突き出した。女は広げた鉄扇でなんと受けるものの、腕を軋ませ手を痺れさせ武器を落としてしまう。追撃すべくチルルが踏み込む、が、女は得物をそのままに、脱兎の如く大通りに去って行った。
 なら。振り返る。
 男の巨体の向こう側、黒い百合をあしらった鞘から妖刀が咲き誇った。
 拓海目掛けて棍棒が振り降ろされる。図体と環境に制限された攻撃は想像通りの軌道を描いた。半歩下がって躱し、一歩踏み込んで斬り込む。が、これをぐいと持ち上がった棍棒が受け止めた。そのまま抉るように突き出される。拓海は身を反りながら前に出た。耳元を過ぎ去る強い風に眉を寄せながら、男の脇腹目掛けて刀を振り抜いた。直撃。男は肩と頭を壁へ強かに打ちつけ、得物を離してしまう。
「任せて!!」
「頼んだ!」
 拓海が大きく退く。
 男が振り返る。
 路地を青白く照らしながら光の洪水が押し寄せていた。
 押されるがまま転がってゆく。水たまりに全身を浸し、顔面から壁に激突してようやく停止した。
 咽込む男の肩を拓海が踏みつける。
「まさかとは思うが、恨むなよ」
 言いながら腕を振る。洋酒を思わせる赤い鋼糸が男の腕と胴をひとまとめに縛り上げた。

 手前の路地では更に多くの光が飛び交っていた。
 曲刀を構えた女は声を張り上げながら進む。彼女を迎える射手は鴉守 凛(ja5462)。狙いを澄まして放つ矢は、しかし女の背後から放たれる弾丸に撃ち落とされたり、体をコンクリートにぶつけるほどずらして躱されたりした。
 路地は長かった。曲刀の女がようやく射程に入り、身を屈めたケイが射撃を開始する。膝のやや下を撃たれ、それでも女は歩みを止めない。矢が飛んできた。彼女は後方支援を信じて射線分だけ身を捩り、そして裏切られた。結果的に不意の一撃となった肩への射撃を受け、顔を歪めて背中を壁に打ち付ける。
 足元から髪が伸びてきた。やや色の抜けた長い長い髪が女の全身を締め上げてくる。女がそれを辿るように視線を送ると、鞭を構えた凛が小首を傾げていた。
 我武者羅に叫んで暴れ、執拗に絡み付いてきた髪をなんとか振り解いた。
 曲刀を振り回して駆ける。
 凛は鞭を降ろして背を向けた。信頼に基づいた渾身のブラフ。
 侮蔑だ、という感想を露ほども疑わない女は使命感を更に強めて曲刀を引く。そして今まさに凛へ振られようとしたその直前、屋上から飛び降りたドラグレイが女の頭頂部へ遠慮なしに着地した。
 手応えを噛み締めて蹴り、跳ぶ。体を曲げてふらつく女に白銀色の糸を振れば、向かいから凛が操る鞭が女の捕縛を助長した。

 曲刀の女への援護が何故途絶えたか、を振り返る。
 脚を痛めた男は両手で銃を握り援護に徹していた。決して見通しがいいとは言えない路地を食い入るように見詰め、懸命に引き金を握り続けた。周囲の同士は殆ど正面へ流れ、ほぼ孤立していることにも気が付かないほど懸命に。
 ふと、視界の上が明るくなった。
 見上げる。
 蝶の大群が押し寄せていた。
 発見が遅れ過ぎ対応することもできない。光の妖蝶は男の体を、まるで貪り食うかのように襲った。
 やがて光が霧散、男が蹲って抱える頭にリヒャルトが放った矢が激突する。
 意識を吹き飛ばされた男が倒れる。リヒャルトと黒子は即座に移動を開始した。男の許へ痩躯の女性が駆け寄り、次の瞬間には屋上を睨み、壁を駆け上ってきた。
 灰色の地面、大きな水たまりに降り立ってナイフを抜く。視野を大きく左右へ振った。が、誰の姿も見当たらない。黒子は別の屋上に飛び移っており、リヒャルトは物陰に身を潜めていたからだ。
 憤りで雨水を蹴り飛ばす。そこには僅かに影が映っていた。
 振り返る。
「やらせないのですワー!!」
 ミリオールが投擲した黒色の球体が女を捉えた。体の奥から源を吸い取られるような奇妙極まりない感覚に、女は表情をぐしゃぐしゃに変えた。
 彼女をリヒャルトが射る。矢の先端は胸元に直撃、鎖骨の付け根を大きく窪ませた。
 堪らず女は駆け出す。進行方向は大通りと反対側。
 リヒャルトが通信機を頬に寄せる。
「行ったわよ」
「おう」
 応えた直後、グィドの前に痩躯の女が降ってきた。彼女がグィドを視認した時には、彼はもう書を捲っていた。ページが輝き、小柄な短毛の猫が飛び出す。短い手が振られ、女の頬に赤で三と刻んだ。
「どうにも緊張感がわかねぇ攻撃だな……!」
 顔を顰めるグィドに、両手でナイフを握った女が迫る。
「あっぶね!!」
 押すように突いてくる。グィドは咄嗟に障壁を生み出すが、それごと押し倒されてしまった。女はそのまま馬乗りになり、ナイフを彼の喉元に突き立てようとする。だがその挙動に入る直前、遠くから飛来した銃弾が彼女の頬と髪を削ぎ落した。
 女は標的を変えた。
 走る。顔面を狙われたので大きく跳び、壁を蹴って急降下した。声を張って腕を突き出す。それを半身で躱しながら、ケイは目いっぱい腕を伸ばした。銃口に確かな手ごたえを感じ取り、刹那に引き金を絞る。〇距離で放たれた弾丸は女の胸に直撃、軽い体を大きく吹き飛ばした。
「ごめんなさいね……私弱いから、敵を気遣う余裕なんてないのよ」
「いやいや、充分すげぇと思うぜ」
 横たえたグィドに動かないで、と短く告げ、ケイは彼に向けて何度も発砲した。もたらしたのは治癒の力。グィドは歯を見せて笑いながら立ち上がる。
「すまねぇな、助かったぜ」
「もう必要ないかも知れないけどね」
 手で傘を造り、咥えた紙巻きに火をつける。紫煙を吐き出す音が聞こえる程、戦いの音は遠く、小さくなっていた。




 大盾を構えた洸太が全身、相手の防具を押しやる。ガン、と強い音が鳴った。後ずさる青い盾を伊都が横薙ぎに払えば、覚醒者はよたよたと後退した。そこを同士が受け止める。そして一も二も無く走り出した。
 他の覚醒者も続いていく。捨て台詞は無く、あるのは底抜けの笑い声。
 空から黒百合が狙いを定める。射線は確保した。気配も気取られていない。スコープを覗いて標的も定めた。だが彼女は発砲しなかった。外すことはなくとも、弾かれてしまえば、貫いてしまえば、何か一つでも間違えてしまったら、『その他』に当たってしまう。交差点に仲間が飛び出したのを機に、黒百合は銃を降ろした。

 司が眉を寄せる。
 広がる光景は正視できるものではなかった。

 名もなき撃退士たちは
 斬られた腕を、
 断たれた胸を、
 折られた脚を、
 割られた頭を、
 それぞれ辛うじて動く四肢や身体で支え合いながら、
 痛みに涙する友を、
 息も絶え絶えな仲間を、
 もう動かなくなった恋人を、
 それでも懸命に守るような体勢で、
 強い雨に赤を溶かしながら、
 蹴散らされていた。

 彼らの『上』を覚醒者が進んでいく。笑いながら、満足げに。
 怪我人も出た。姿が見えない者もいる。
 だが成し遂げた。俺たちは成し遂げたんだ。祝福。祝福。祝福。
 歌うように、踊るように、覚醒者たちはこの場を後にした。

 高い位置から良助の声が雨に混じって降り注ぐ。言葉を拾えば、学園に救助隊を要請しているようだった。
 細く息を吐いた結が振り返る。


 遠くに幻魔の姿があった。屋上のへりに腰を降ろし、脚をぱたつかせながら撃退士らを見下ろしていた。


「おまえが犯人か! このおっぱい魔人!!」
 温の言葉にタリーウは反応を示さない。背後でも、友の傷を癒す陽悠が頬を掻いた程度で目立った動きはない。
 幻だからだ。食い入るように睨んでいた結は早々に気付く。降り頻る雨の中に居ながら髪は軽やかさを保っている。
 明は口の端を吊り上げて四方八方へ視線を巡らせた。しかし本体の姿を見つけることはできない。

「貴女は前も、高みの見物をしてましたね」


 その、燃ゆる昏い眼差し故か、黒ずんだ言葉故か。


「本当に」


 とにかく幻は、


「本当に、戦うことが好きなのね」


 呟いて、雨に消えた。




 救助隊は早々に到着した。路面に横たわる命、或いはその残骸へ真摯に、懸命に処置を施していく。仲間の傷もまた、陽悠や佳槻が黙々と癒していた。それらを眺め、拓海は脚の横で拳を震えるほど握り締める。
 捕縛された4名は屋上に集められていた。小柄な女性と痩躯の女性は気を失っていた。茶髪の女と巨体の男は声を揃えて笑って唱え続けた。祝福。祝福。祝福。
「で」
 2人の前に、ドラグレイが横から身を乗り出す。
「結局、あなたたちは何者なんですか?」
 男が自慢げに答えた。我々は『恒久の聖女』。
「随分……楽しそうだけれど……何の為に?」
 凛の問いに、女が誇らしげに答える。祝福だよ。私らもあいつらも祝福されたんだ。あんたらだけは違うけど。
 けたけたと笑う女の額にユウが手を置いた。女が笑いを止めて見つめる。ユウの両目には自分の姿が映っていて、ユウの脳裏には女の過去、その浅い部分が流れ込んでいた。


 顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。血。顔。顔。血。血。顔。血。顔。血。血。血。顔。血。顔。血。血。顔。血。顔。

 それらの一番奥に、『姿』が在った。

 血。血。顔。血。顔。血。血。血。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。血。顔。顔。血。血。顔。血。顔。血。血。血。

 赤い髪をした女の『姿』。

 顔。血。顔。血。血。顔。血。顔。顔。顔。血。血。顔。血。顔。血。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。血。顔。顔。

 閉じていたまぶたが持ち上がる。金色の瞳がこちらを向いて、微笑んだ。


 手を離したユウに黒子が声を掛ける。
「何か見えましたか」
「うん。それらしいのが見えた」
 彼女が光景を伝えると、茶髪の女と巨体の男の顔が引きつり、仲間の表情が訝しげに歪む。

 濡れた髪を纏めて掻き上げて、凛は交差点の様子を眺めた。
 到底無視することも隠すこともできない戦闘の爪痕が横たわっていた。
 集団でなく『組織』であり、『何か』をしようとしているのなら、これで終わるはずがない。
 細く、長く息を吐きながら顔を上げる。
 春の生温い雨は降り止む兆しさえなかった。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:11人

胡蝶の夢・
ケイ・リヒャルト(ja0004)

大学部4年5組 女 インフィルトレイター
新世界への扉・
只野黒子(ja0049)

高等部1年1組 女 ルインズブレイド
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
Blue Sphere Ballad・
君田 夢野(ja0561)

卒業 男 ルインズブレイド
cordierite・
田村 ケイ(ja0582)

大学部6年320組 女 インフィルトレイター
ちょっと太陽倒してくる・
水枷ユウ(ja0591)

大学部5年4組 女 ダアト
知りて記して日々軒昂・
ドラグレイ・ミストダスト(ja0664)

大学部8年24組 男 鬼道忍軍
秋霜烈日・
機嶋 結(ja0725)

高等部2年17組 女 ディバインナイト
紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
封影百手・
月臣 朔羅(ja0820)

卒業 女 鬼道忍軍
無傷のドラゴンスレイヤー・
橋場・R・アトリアーナ(ja1403)

大学部4年163組 女 阿修羅
踏み外した境界・
黒須 洸太(ja2475)

大学部8年171組 男 ディバインナイト
ベルセルク・
鴉守 凛(ja5462)

大学部7年181組 女 ディバインナイト
暁の先へ・
狗月 暁良(ja8545)

卒業 女 阿修羅
セーレの王子様・
森田良助(ja9460)

大学部4年2組 男 インフィルトレイター
約定の獣は力無き者の盾・
長幡 陽悠(jb1350)

大学部3年194組 男 バハムートテイマー
陰のレイゾンデイト・
天宮 佳槻(jb1989)

大学部1年1組 男 陰陽師
黒焔の牙爪・
天羽 伊都(jb2199)

大学部1年128組 男 ルインズブレイド
ファズラに新たな道を示す・
ミリオール=アステローザ(jb2746)

大学部3年148組 女 陰陽師
この命、仲間達のために・
日下部 司(jb5638)

大学部3年259組 男 ルインズブレイド
シスのソウルメイト(仮)・
黒羽 拓海(jb7256)

大学部3年217組 男 阿修羅
龍の眼に死角無く・
Vice=Ruiner(jb8212)

大学部5年123組 男 バハムートテイマー
豪快系ガキメン:79点・
グィド・ラーメ(jb8434)

大学部5年134組 男 ダアト
黒い胸板に囲まれて・
霧谷 温(jb9158)

大学部3年284組 男 アストラルヴァンガード