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マスター:十三番
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/11/08


みんなの思い出



オープニング


 彼方で戦闘を繰り広げるディアボロと撃退士。歓声と絶叫が上がるその一帯へ、戦車にも似た大型のディアボロが頭部から砲弾を射出した。深紅の砲弾は浅い弧を描いて飛んでゆき、戦場へ着弾、爆音と土埃を産み出し、一切合財を黙らせた。
「……いいなコレ。今度作ってみよっかな」
 呟き、ドクサは臀部の下、ディアボロの頭をぺちぺちと叩いた。
 もうもうと立ち込める土煙を眺め、しかし彼女の表情は冴えない。
 身体のあちこちが痛んでいた。背中に受けた傷は未だ半ばほどしか塞がっていない。古傷だけならまだ耐えられたが、顔も、肩も、ずきずきと悲鳴を上げ続けている。そしてそれらは到底無視できる程度ではなかった。
 堪えるように腕を組む。
「……あのクソ馬鹿……」



●県庁:2/2
「がーーんばってくださいねーー」
 朗らかに手を振るドクサの隣で、トゥラハウスは頭を抱えて息を落とす。
「目覚めたら目覚めたで、相変わらず手間の掛かる……」
「いちいちネチネチ煩いったらないね。アバドン様がぜーんぶブッ倒してくれるって」
「過信はできない、という話だ」

 トゥラハウスが片眼鏡の位置を直し、遠く、長の背中を見遣る。

「耳には入っているだろうが、原住民は先日、アバドンから逃げ切っている。少なくともそれだけの力を有している個体が原住民の中に居る、ということだ」
 片眉を吊り上げて口をへの字に曲げるドクサ。彼女を黙殺し、トゥラハウスは続ける。
「恐らく、間もなく連中は攻め込んでくるだろう。そのための消耗戦だ。アバドンには『本戦』で実力を発揮していただかなければならない。こんな場面で傷を負われては困るのだ」
「信用してないってこと?」
「信頼しているとも。だが戦いに絶対などない。そして、現状を僅かにでも絶対に近づけるのが、私の役割なだけだ」
「前半、ウソだろ」
 組んだ腕から指を一本伸ばすドクサ。
「さっきから『様』が抜けてんだけど」

 指摘を受け、しかしトゥラハウスは動揺する素振りも見せず、袖の中で腕を組んだ。

「万が一ここで傷を負うようなら、策を根幹から見直さなくてはなるまい」
「テメエで前線出ればいいじゃん。ゲートの下でうろうろしてるばっかじゃなくってさ」
「指揮官がのこのこと前に出るなど愚の骨頂だ」
「それも言い訳に聞こえるんだよね。肩書きを盾に引き籠ってるだけじゃん、実際」
「手のかかる上官と部下に挟まれているからだ。貴様を筆頭にな」
「じゃあやっぱり指揮官が無能なんじゃん。ここまで攻め込まれたのもテメエのせいだ」
「責任転嫁も甚だしいな」
「少なくとも、ドクサの方がゲキタイシのことは知ってるよ。テメエなんかよりずーっと」
 金色の視線が上官の眉間を射抜く。
「あいつら強いよ。策が悪けりゃ、テメエだって、アバドン様だって危ないんだから」

 科白は中ほどで唐突に途切れた。
 突然伸びたトゥラハウスの腕が、ドクサの顔、下半分を痛烈に縛り上げたのだ。
 骨が軋む音が耳の内側から鳴り渡る。ドクサは顔を顰めた。だがそれは不快な音にではなく、相変わらず涼しい形相で烈火の如く猛るトゥラハウスに対してだった。

「だからどうした」

 言葉は更に淡々と紡がれてゆく。

「こんなところで終わりを迎えるなど誰が容認できようか。
 大量の上質な魂を収穫する為にどれだけの労力を費やしたと思っている。
 その対価を求めて何が悪い。誰が私を糾弾できる。
 貴様に頭を下げた時、あの鈍牛に傅いている時、私がどんな胸中だったのか、貴様に判るのか」

 ドクサの平手が光る。狙いは伸びた腕だ。
 察したトゥラハウスに投げ飛ばされ、県庁の屋上で乱暴に受け身を取れば、トゥラハウスはすっかり腕を仕舞っていた。
 程なく、転がり込むようにして使い魔が訪れる。
 必死の報告を受けてから、トゥラハウスは今までと変わらぬ表情で咽るドクサを見下ろした。

「遠方で孤立しているディアボロがいる。そこそこ強力な個体だ。行って補佐して来い」
「……なんで、ドクサが――!!」
「独白ついでに教えてやろう。貴様の役目は既に完了している。
 その上命令にも従わないのであれば、貴様の価値はあのヴァニタスよりも無いと知れ」




 こんなところで終われない、という思いはドクサも抱いていた。こんなのはただの暇つぶしに似た仕事のひとつ。命を賭けるほどじゃない、と。
 だが、彼女の胸中は僅かに色合いを変えていた。

 幾度となく撃退士と戦うことで、
 そして敗れることで、
 泣きながら捨て台詞を残して逃げることで、


 こんなところで『こんなままでは』終われない、へと発酵していた。


 だからこそトゥラハウスの言葉を呑み込めない。
 あれは安全圏から動かないまま無傷で逃げようとしている。その為ならば自分などあっさりと――いや、既に見限られているのだろう。自分だけでなく、もしかしたらアバドンさえも。
「……んー……」
 首を捻った。
 なんとか一泡吹かせてやりたい。だが、アバドンには勝利して欲しい。且つ、自分は事が済んだら帰りたい。
 何一つ切り捨てられないまま数式だけがこんがらがっていき、一向に解へ辿り着く気配がない。
 それでも悩み続けるドクサの下で、ディアボロの頭がぐりん、と動いた。

 砲身の先、土煙の中から、無傷の撃退士――あなたたちが駆けてくる。

「うっわ、強そうだなー……やだなー……」
 何度も舌を打ちながら、ドクサはディアボロに下がれと命じる。車輪のような幾つもの足がガラガラと蠢き、道路を砕きながら後退していく。
「挟み撃ちにするよ! 回り込め!!」
 振り向いて叫んだ先で、巨大な蛙のようなディアボロが一本の長い舌を振り回した。


リプレイ本文


 ドクサが眉を寄せて見つめる先、T字路を撃退士の一団は曲がっていった。ただ1人――機嶋 結(ja0725)を除いて。
 彼女は首を揺らしながら、胸中を抉るように睨んで歩みを進めてくる。
「攻撃が来ませんが……打ち止めですか」
 ドクサは答えない。額に汗を浮かべてディアボロの後部へ下がる。それから平手でディアボロの頭をペチンと叩いた。
 砲身の先端が火を噴いた。放たれた深紅の砲弾は縦方向に回転しながら結を目指し、あっという間に到達する。
 炸裂する轟音と立ち込める土煙。ドクサは一瞬だけ口角を上げるが、すぐにそれは下がった。揺れた人影はすぐに色を帯び、変わらぬ様子で向かってくる。
 ドクサが腕を振る。軌跡から奔る光の刃は、しかし先程と同じように、結の前に現れた、亡霊を思わせる強固な盾に因って阻まれてしまう。結は一瞬だけ足を止めて堪えると、身の丈を遥かに超える大剣を担いだ。
「ここで終われ、悪魔」
 結の陰から桐原 雅(ja1822)が飛び出す。彼女は猫のような身のこなしで建物の壁を蹴ると、そのまま鋭角にディアボロの背を目指し、強烈な蹴りを叩き込んだ。手応えは確か。ディアボロはその巨体を揺らし、ドクサは尻餅をついてしまう。
 そこへ結が切り込む。ディアボロを足蹴にし、悪魔の脳天目掛けて大剣を振り降ろした。
「〜〜〜〜ッ!!」
 ドクサが腕を突き出す。刹那、両者の間に発生した金色の障壁が分厚い刃を完全に受け止め、霧散した。
 結は眉間を狭め、しかし手を休めない。改めて踏み込み、切っ先を突き出した。先端から放たれた強烈な光は、しかし再び発生した障壁に因って阻まれてしまう。
「さっさと割れなさい、この壁……!」
「いいからとっとと諦めろよ――ッ!」
 同時に弾ける紫と金の光。反動で結は体を浮かせ、そこにドクサが光刃を放つ。三度現した盾で被害を最小限に食い止めた結だったが衝撃は凄まじく、遥か後方に吹き飛ばされてしまう。宙で受け身を取りながら着地、顔を上げれば、仄暗い砲身の穴が彼女に狙いを定め終えていた。
 放たれた深紅の砲弾は、しかし、結の寸前で下半分を炸裂させ、唐突に軌道を変えた。
「……私の目の前で、それは許さない」
 結の後方、援護を完遂した矢野 胡桃(ja2617)が銃口を滑らせる。
「……退場してもらうよ、ドクサ」
 粉砕されて舞い散る瓦礫の中を、銃弾と仲間が疾走する。

「……ぅっぜえええええええええええええええッッッ!!」

 先陣を切って飛来した銃弾をドクサは障壁で受ける。
 短く息を吐いて移動する胡桃の前にふたつの影が躍り出る。龍崎海(ja0565)とRehni Nam(ja5283)はそれぞれ道の両脇から、似た色の光の槍を同じ呼吸で投擲した。
 悪魔はがなりながら両手を突き出す。対の障壁はまたも撃退士が放った光を遮断した。
 舞い散る光の中を、腕を引いた若杉 英斗(ja4230)が突っ込んできた。手に装着しているのは竜頭を思わせる白銀の手甲。英斗は声を張りながらドクサに殴りかかる。全力で放ったそれは、しかし彼の予想通り金色の壁に防がれてしまう。
「本当に硬いんだな」
「判ったら帰れ……よッ!」
 ドクサが脚を突き出した。心得の無い、力任せのそれは到底『蹴り』とは呼べず、ただ英斗をディアボロの上から追いやっただけだった。
 息つく間も与えず、上空からカーディス=キャットフィールド(ja7927)が迫る。壁を蹴り、一直線に迫り来る様は、宛ら弾丸、或いは急降下と表現できた。
 会心の一手は、しかし障壁を突き破るに至らない。壁の向こう、苦々しく歪む悪魔の表情に片眉を上げてから、カーディスは側面へ跳び退く。
 彼と入れ替わり、ドクサに斬り掛かるのは望月 六花(jb6514)。交叉させるように振り降ろした二刀は、
「んもおおおおおおおおおッッッ!!」
 一際気合いの入った障壁に弾き飛ばされてしまう。辛うじて壁に当たる前に受け身が間に合った六花は、そのまま背に翼を現し、平屋建ての書店の屋根に着地した。
 地面に着地した英斗を、ディアボロの頭部に取り付けられた機銃が発見した。ずるりと動き、即座に火を噴く――と、思われた。
 だが、そこに雅が繰る青い鋼糸が絡み付く。靄のように漂ったそれは一瞬で集い、機銃を纏めて圧し折った。
 助かった。手を挙げる英斗に、雅は力強く頷く。
 対し、ドクサの顔色は極めて悪い。ディアボロは早くも損壊し、上と横には敵が展開している。しかも遠くからは海と結、そしてRehniがこちらを目指して走ってくる。
「(こいつら……!)」
 辺りを見回すドクサの目に、ぽっかりと開いた穴が飛び込んできた。
 彼女は遮二無二ディアボロの頭を蹴って行動を促す。ディアボロはその、幾つも連なった足を忙しなく動かして旋回すると、全速力で穴、書店の地下を目指して後退、爆走していった。
 合流した7人の撃退士は鬱陶しく立ち込める煙の中で視線を交わし、行動を再開する。
 続こうとした六花は、一度だけ背後を振り返った。




 蛙のようなシルエットの巨体なディアボロは、そのでっぷりとした腹でアスファルトを撫で回しながら進軍を進めていた。主の名に従い、激戦を繰り広げる彼女を助力すべく、角を左に曲がる。
 遠く。
 本当に遠くに、人影が見えた。
 銀色の前髪の隙間からライトグリーンの双眸がこちらを視認する。
「……ここは通行止め」
 告げ、胡桃は漆黒のライフルを構える。巻き付いた鎖が小さく鳴った。
「今みんなが、本丸と戦ってるの。悪いけど……邪魔は、させない」
 ディアボロは無防備に距離を詰めてくる。




 先陣が地下に足を踏み入れた瞬間を狙い、ディアボロが砲弾を射出する。天井を浅く抉りながら緩い弧を描いて飛来した不意の攻撃を、
「だろうね」
「安易な……」
 海の盾と結の大剣が防ぐ。
 一瞬で蔓延する音と塵と埃。
 その一切を切り裂き、Rehniが投擲した光の槍が放たれる。ディアボロは軌道から砲身を狙われていると判断、大急ぎで身を捩り、頭部の側面で光を受ける。
 こちらに向いた、折れ曲がった機銃に雅が糸を振る。不可視に限りなく近い鋼糸は先程と寸分違わぬ位置に巻き付いた。重心を傾けながら一気に引けば、ぶち、ぼこ、と不快な音を残して、機銃はぼとりと床に落ちた。
 背けた視界に鮮烈な光が飛び込む。
 それは、先程から何度か見た光。
 悪魔が遥か彼方から放った、敵意の塊と呼べる光刃のそれだった。
 攻撃の終わり際を捉えられ、雅は回避不能と判断、咄嗟に腕を交差させる。その前に優しい光が漂った。
 光が直撃、炸裂する。
 自身に直接訪れなかった衝撃に、雅はゆっくり顔を上げた。
「俺の前で、味方をやらせはしないぜ」
 暗闇に向かって言い放った英斗が肩越しに雅を見て、笑った。
「ありがとうだよ」
 告げた雅と、笑みを強めた英斗が、ディアボロの足部目掛けて、それぞれ脚と拳を突き出した。
 ぐらりと傾くディアボロを眺め、ドクサは暗闇の中で唇を尖らせる。
 耳が物音を拾った。気の所為とも取れたそれは、突如急激に大きくなる。
 横、上、下、横。
 存分にかく乱したカーディスが満を持して切り込む。
 ようやくドクサの目線が追いついた。障壁は間一髪で、カーディスが握る大剣の刃を完全に受け止める。
「先程から顔色が優れませんが」
「うるっせえなドクサは眼鏡が嫌いなんだよ眼鏡!」
「失礼。気遣うつもりはありませんので」
「――ッ!!」
 険しい目つきで障壁ごとカーディスを押し返す。難なく着地し、眼鏡の位置を直す彼の傍らには海と結がついた。
「徹底してはどうですか」
 小柄な体の周りを大剣が舞う。
「まあ、逃がしも勝たせもしませんが」
「今日は泣かないようにね。少しは罪悪感を覚えるから」
 つい、と海が視線を背後へ流す。
「『彼女たち』が到着したみたいだよ」


 ぞわり、と背骨が泡を吹いた。
 『彼女たち』という単語が引き起こしたのは、紛れもない畏怖の感情。
 この状況下に増援が来れば、もう逃げることさえ叶わない。


 表情を凍て付かせたドクサはくいと踵を返し、一目散に逃げ出した。
 その様子はディアボロに対応しているメンバーにも充分見て取れた。
「追ってください!」
 遠くからRehniが叫ぶ。
「ここは私たちが抑えるです!」
 言葉と同時、暗闇に浮かんだ光が彗星を模し、一斉にディアボロへ降り注いだ。光の雨を掻い潜り、雅が渾身の足刀を放つ。衝撃は巨躯を突き貫け、反対側で炸裂した。
「いまだっ! 燃えろ、俺のアウル!! セイクリッドインパクト!!!」
 気合一喝、膨大な光を纏った英斗の拳が胴体側面を強かに叩く。
 打たれ、貫かれ、叩かれ。今度こそディアボロは明確に怯んだ。
 雅、英斗、Rehniは更に距離を詰める。
 海、結、カーディスは踵を返し、出口を目指す。
 小柄な少女の姿をした悪魔は燦々と漏れ入る光の中に消えていった。




 胡桃の弾丸が黒の巨体を穿つ。ディアボロは身じろぎひとつせず、ずかずかと距離を詰めてくる。
 似た光景は暫く続いた。胡桃の弾丸をディアボロは避けようともしない。到底避けられるようなものでもなかったのだが、敢えて向かっていくようなきらいも、また確かにあった。
 同じ匂いは胡桃からも漂っていた。敵は着実に近づいてくる。だが彼女は一歩も退かず、狙いを定め続け、トリガーを引き続けた。それは、敵の射程内に入っても尚続いた。
 満を持して、ぬれぬれと赤く煌めく長い舌が持ち上がった。かと思うと、次の瞬間には振り降ろされ、風を斬りながら胡桃のいる位置を目指した。
 胡桃は揺るがない。頭部、右上から猛烈な力で払われ、全身をぐらつかせても、彼女は引き金を握った。
 その射線にドクサが飛び出してきた。慌てて飛び出してきた為、対応が間に合わない。辛うじて転がるように身を屈めるが、そんな彼女の耳に飛び込んだのは、弾丸が『我が子』を痛烈に穿つ音だった。
 想定外の光景に、胡桃は一瞬息を呑み、すぐに狙いを定めた。
 ドクサが、体の向きが変わるほどの勢いで腕を振る。彼女が放ったのは光刃。だが、それは今までのどれよりも細く、鋭かった。ただ一点を狙った激情の一撃。
 胡桃は避けない。
 光が走る。
 決死の思いで屋根を蹴った。
 行動は実を結ぶ。胡桃のほんの数メートル手前で、六花が交叉させた二刀で光を受け止めた。
 足の裏がアスファルトにめり込みそうな衝撃を奥歯を食い縛って堪える。振動で融解しそうになる両手で柄を力いっぱい握り締めて耐えた。
 そして耐え抜いた。光の終点が激突し、衝撃が六花を強く押しやる。
 靴底を擦りながら下がる彼女を、胡桃が片腕で受け止める。
「……ありがと」
「お怪我は、ございませんか……?」
「……これから、させる」
 もう片腕が握ったライフルが光を放った。弾頭は呆気にとられるドクサの脇を抜け、後方、ディアボロの眉間に突き刺さる。彼女の目標は、彼女の目的は、悪魔ではなく、それなのだ。
 ディアボロはとうとう怯んだ。撃たれ続けた傷痕を深く穿たれ、遂にその足を止めてしまう。
 ドクサは目を見張る。怪我が治っていないとはいえ、頑丈さだけがウリのこの子が。
 その虚をカーディスが狙う。抱えるように大剣を構え、切っ先から突っ込むように駆けて行く。
 障壁は紙一重で間に合った。互いに押し合い、大きく離れる。カーディスは飛び出てきた位置へ、ドクサは建物の壁に背から衝突し、そのまま空へ浮かび上がる。
 カーディスは狙いを逸らさない。更に追撃を仕掛けようとする。しかしそうはさせまいとディアボロが赤く長い舌を矢鱈に振り回した。胡桃の狙撃が突き刺さっても、威嚇のような舌の動きは止まらない。
 だが、海が放った光の槍が舌の根元に突き刺さると劇的に動きを変えた。ぐったりと前に倒れ、ずりずりと暴れ回る。ドクサの援護に向かおうとするが、折れてしまい、上がらない。ただ辺りに埃を巻き上げるだけとなった舌に、胡桃が容赦なく銃弾を放つ。


 何度防いでも向かってくる。
 何度打っても防がれてしまう。
 どんな子を連れてきても打ち破ってくる。
 ドクサは空で首を振った。

「(無理)」

 到底自分にはどうすることもできない。どころか、このままでは自分の命さえ危うい。


 気付いてからの行動は早かった。せっかく稼いでもらった機会を逃すわけにはいかない。
 だが撃退士の対応もまた迅速だった。結が振った深紅の鋼糸がドクサの右足に絡み付く。音は愚か気配さえ感じさせなかったそれは、主の命に従い突然、強烈に悪魔の足首を縛り上げる。
 空中でスッ転ぶドクサを結の暗い瞳が見上げる。
「遅過ぎる……」
「ッ……離せよッ!!」
「いいえ。洗いざらい吐いてもらいます。首を落とすのはその後です」
「――ッ!!!!」
 ドクサは暴れた。必要以上に、執拗に暴れた。それはまるで、子供が駄々を捏ねているようだった。
 但し狂暴。両手は光を乱発する。建物を、路面を次々に抉り、削り、爆ぜさせ、そのどさくさに紛れて光で糸を断ち斬った。
 土煙に紛れてドクサは逃げ出す。両手で口を抑え、喉を昇りそうになる怒号を必死に抑えながら。
 追撃はなかった。
 が、その代わりに――
「……っ」
 結の辛らつな舌打ちが背中を小突いた。

 程なくして、地下から仲間が合流する。
「こっちは片付いたです!」
「ドクサは?」
「すみません、逃がしてしまいました」
 英斗が結の視線を追うと、遠くの空に悪魔の姿が小さく見えた。まるで矮小だった。
「戦場で背中を見せるなんてな」
「その程度だった、ということです」
「じゃあ、残りはあの一体だね」
「一気に片付けるです!」
 蛙の成りをしたディアボロは、既に撃たれ、斬られ、刻まれ、貫かれ、辛うじて立っているような状態だった。
 そこへ更に4名が加わると、数瞬後には、跡形も無く崩れ落ちていた。




 県庁から遠く離れた高台に、ドクサは独り佇んでいた。
 配下のヴァニタスはどちらも敗れてしまい、二度と戻らない。
 丹精込めてこしらえたディアボロも壊されてしまった。
 とっておきがねぐらに二つ残ってはいるが、今単独で取りに戻る度胸はない。
「……なんでだよ、クソ……ッ」
 どこで間違えたのか、何が悪かったのか、理解できないまま、ゲキタイシに対する恐怖心だけが肥大していた。
「……フン。どーせドクサは用済みだよ。とっとと勝手に殺し合え」
 思いっきり鼻を啜り、ドクサは更に県庁から離れてゆく。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 秋霜烈日・機嶋 結(ja0725)
 ヴェズルフェルニルの姫君・矢野 胡桃(ja2617)
 守護の決意・望月 六花(jb6514)
重体: −
面白かった!:9人

歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
秋霜烈日・
機嶋 結(ja0725)

高等部2年17組 女 ディバインナイト
戦場を駆けし光翼の戦乙女・
桐原 雅(ja1822)

大学部3年286組 女 阿修羅
ヴェズルフェルニルの姫君・
矢野 胡桃(ja2617)

卒業 女 ダアト
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
守護の決意・
望月 六花(jb6514)

大学部6年142組 女 ディバインナイト