.


マスター:十三番
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/11/15


みんなの思い出



オープニング

●5/6
「バカ言えよ」
「……なんだと?」
「失礼。本音が漏れました。
 図書館で暴れて備品を壊した、だけじゃないんですよ、彼らは。
 斡旋所で、食堂で好き放題に暴れ、多くの生徒に多大な迷惑を掛けていたんです。ご存じないんですか?」
「軽微だったのだ! だから――」

「『自治クラブを盾に隠し通そうとした』、ですよね?」

「……何を、言っている」
「センセエの書いたネットの記事、読みましたよ。
 どーしてご立派なセンセエがあんな生徒を許しているのか、ずっと気になっていたんです。
 でも、その謎も解けました。――センセエが隠ぺいしてたんでしょ?」
「馬鹿なことを言うな!」
「自治クラブなんてありません。名前はありますが、在籍しているのは全て退学した生徒。活動実績も取って付けたようなものばかり。いるのは顧問のセンセエだけです。
 で、彼らのリーダー、壱。センセエが受け持っていた生徒ですよね? 調べましたよ、あの手この手を使って。
 自分が受け持つクラスから退学する生徒が出てしまったら、センセエの責任問題ですもんね?
 だからあなたは隠したんです。自治クラブという団体を『わざわざ』作って」
「全て憶測だろうが!」
「大声出しても変わりませんよ。私は辿り着きましたから、センセエと壱の関係に。
 生徒があんなになるまで何もできなかったというセンセエの落ち度は変わりません。事がここまで大きくなったんです、処理を間違った私と同等か、それ以上の処分が下るのは目に見えてる」

 長く、ゆっくりと煙を吐いた。

「学園にいてもよい? いてもらわないとテメエが困るからだろ?
 学園に弓引いた? そんなもんこっちは慣れっこなんだよ。
 したり顔で押し付けに来ても今更好転なんかしねぇから。とっとと同い年の上司に辞表の書き方習ってこい!!」



●第6会議室
「先行してくれた『2班』『3班』『4班』『6班』の報告により、ゲートの位置が判明したわ」
 言うと同時、小日向千陰(jz0100)が指を躍らせる。プロジェクターは地図に新しい円を映し出した。
 その傍らには2つの赤い円。その右側を指し示し、彼女はあなたたちに力強い視線を送った。
「乗り込む前に、やってもらいたいことがあるわ。
 残った『伍(ウー)』の『攻略』よ。
 『2班』の報告から、彼女らがシュトラッサーでないことが判明したわ。まだ助けられる可能性があるの。
 それに、放っておけば、天使――訶梨帝母(かりていも)との戦闘でどう響いてくるか判らないからね」

 彼女は一瞬だけ瞳を天井に向けた。

「寡黙で、彼らと行動を共にして、元は忍軍。そして、確かな使い手よ。実力だけなら随一でしょう。
 他の報告を加味すれば、そこに天使によって更なる力を加えられている。
 間違いなく危険な依頼となるでしょう。
 甘っちょろいことを言うわ。
 くれぐれも気を付けて。あなたたちが怪我を負う以上に失敗となる要因なんて、無いんだからね」



●雑木林
「伍ッ!」
 痩せ衰えた木々が並ぶ林の中で、参(サン)は、乱れた息を整えぬまま声を荒げた。
「いるんでしょ? 出てきて! 話があるの!!」
 反応は無い。
 続けて呼ぼうとした彼女の口を、背後から回った手が塞いだ。続けて、落ち葉の絨毯に押し倒される。
「……ッ」
 伍は参の前に立ち、来訪者に向き直った。


「今、他の子がいませんでしたか?」


「――知らない」
 首を振る伍を優しく、そして執拗に見つめる天使・訶梨帝母。
 暫く気配を探ったものの、参を見つけるには至らなかった。
「そうなのですね。無事なのはあの子だけのようだったから、一刻も早く保護しようとしたのだけれども」
「――無事……?」
「他の子は全て、学園の撃退士に倒されましたよ。青の子も、赤の子も、紫の子も。そして白の子も」
 伍の、閉じかけていたまぶたが一気に持ち上がる。
「――……嘘、ついたの?」
「『充分な撃退士を倒したら、あなたたちの巣立ちを見送る』とは言いました。
 力が及ばなかったのはあなたたちの責任。母のあずかり知るところではありません。
 でも安心なさい。皆、『家に帰って』いますよ。だからあなたも、思う存分敵を倒しなさい。
 白の子が言っていたわ。あなたは誰よりも頼りになる、と」
「――……壱(イー)が……」
 伍は足元に視線を落とした。
 彼女に訶梨帝母が音も無く歩み寄る。
 参は懸命に呼吸を堪えた。
「倒しなさい。あなたが憎むべき相手を。友の期待に応えるのです」
 それと、と天使は笑顔で加える。
「嘘は吐かないようになさい」
 言い残し、瞬く間に何処かへ去って行った。


「――もう、平気」
 伍が言い終わるより早く、参は顔を上げた。
「っぱ! はぁ、はぁ……ッ」
「――参、逃げて、来たの?」
 違う。彼女は全力で否定した。
「訶梨帝母の言ってたことは嘘! 負けて、サーバントに連れてかれたんだって、学園の連中が言ってたの。
 連中はあたしらより天使の討伐を目指してるっぽい。だからあたしは、負けたけど見逃してもらえたの。
 サーバントも倒してくれた。あいつら、約束守ってくれたの!」
 腕を広げ、胸の傷を見せる。肉まで届いたその傷は、否定しようもない戦闘の証明。
「一緒に天使を裏切ろうよ、伍。
 その後のことはその後考えればいいじゃん。学園と天使に戦わせて、その隙に逃げよ?」
「嫌」
「伍ッ!!」
「――みんな、戦ったって……。戦って、負けたって……。
 ――だったら、私も、そう、する。みんなと、一緒が、いい」
「死んじゃったらどうにもならないじゃん!」
「みんながいないなら、生きてても仕方ない」
「伍ってば!!」
「――静かに」

 つい、と伍の視線が流れた。同時、薄い唇が微かに動く。

「――来た。逃げてて。でも――できたら、みんなのところに行って」
「……絶対に嫌」
 怒鳴り、参は駆け出す。時折落ち葉に足を取られながら、全速力で走り、すぐに見えなくなった。

 小さな溜息を落とし、伍は黒いフードを頭に被せた。
「(――私は、ただ、みんなと一緒にいたかっただけなのに)」
 胸に去来する、学園での日々。
 耳をつんざくような馬鹿笑いと、気を抜けば寝首を掻かれる日々。
 ハイリスクでアナーキーな、だが確かに、それは彼女の日常だった。


「(――みんなのところに、いく。絶対。だから――)」


 帳に身を隠す黒い影は、僅かに深紅の尾を引いた――。


リプレイ本文

●雑木林
 話し声と落ち葉の音を頼りに6人が駆けつける。が、そこに標的――伍(ウー)の姿はなかった。
 銘々が息を呑んで気配を探る。
 それでも尚無音。梢の音さえ聞こえない。
 静寂を破ったのは鷺谷明(ja0776)。にこにこと口を動かす。
「かくれんぼにでも興じるのか」
 他の誰も動かない。
「そもそもどこを向いている? 天使に使われて死ぬまで戦うのか? 私らを滅ぼすまで戦うのか?」
「それは説得ですか、それとも挑発ですか」
 機嶋結(ja0725)がやや後方から声を投げた。明は笑顔を半分見せただけで答えない。結は短く息を落とした。
「考えましたが、やはり説得は無理だと思います。天使側に付いた者が寝返り直すなど、有り得ません」
「同感ね。どいつもこいつも甘いのよ」
 鷹代由稀(jb1456)が続いた直後、2人の間にいたマキナ・ベルヴェルク(ja0067)が小さく呟き、前をあごで指した。


 落葉の絨毯に人影が佇んでいた。

 目深に黒いフードを被った小柄な女――伍(ウー)は、伏せがちの双眸で6人を睨んでいた。
 強く、強く睨んでいた。

「答えてくれるか? なに、ただの興味本位だ。気が向いたらで構わんよ、お嬢さん」
「――……う……」
 伍は体をくの字に折り、声を絞り出す。
「――……違う……!」
 吐き捨て、姿をくらませる。まるで初めからそこにいなかったかのように、文字どおり影も形もなくなった。
「違う? 何を指しての否定か?」
 明の問いは林の静寂に呑まれた。
 一斉に得物を構える。
 神喰茜(ja0200)が、ロッドを手にした月詠神削(ja5265)に声を投げた。
「こだわり過ぎないようにね」
「ああ……」
 茜は距離を置く。神削は彼女を横目で見送り、杖を前方に掲げて光を宿す。
 彼の隣で、明が、まるで人のそれとは思えぬ咆哮を上げた。我武者羅な、それでいて明確な威嚇。


 遠くから伍は観察する。注意と思慮を深めて。
「(――……囮、かな……)」
 見覚えのある顔がいた。倉庫の夜、陸(リュウ)と斬り合った女と、弐(アル)を打破した男。
 腕前は判っている。後回しにするべきだ。
 そうとは判っていても、あの夜のどうしようもない思い出は、彼女の行動を制限させた。


 落ち葉が一点、舞い上がった。一同が注視した瞬間、やや離れたところで、続けて反対側で同様の変化が起こる。伍の行動が始まったのは明かだった。
 結が冷静に、懸命に気配を探る。しかし敵意も殺気も感じられない。その間にも落ち葉は跳ね、漂う。時折赤い糸が見えた。
 鋼糸による広域のかく乱。

「鬱陶しいなあ……」
 ぼやき、茜は自身の周囲に赤い糸を張り巡らす。
「とっとと来いってのよ……!」
 足元を掬い上げ、落ち葉で即席の結界をこしらえる由稀。

 両者の策の隙間を縫い、出所不明の『赤』が迫る。

 落ち葉が触れたようなか弱い感覚に茜は視線を向けた。その瞬間、腕に絡み付いた鋼糸が彼女をぐい、と持ち上げる。しかし茜は冷静に対処、自身のカーマインを絡ませると一息に引き、脱出、着地した。
 時同じくして、由稀もまた釣り上げられていた。顔を顰めて引き千切ろうと、もがく。
 二手、三手と腕をよじり、ようやっと抜け出した――直後だった。由稀の顔面、鼻を中心に衝撃が走る。由稀は落下、滲む視界に映っていたのは、膝を振り抜いた伍の姿だった。
 墜落の直前で由稀は身をよじり、伍に狙いを定めてトリガーを引いた。撃ち出された弾丸を伍は半身で回避する。だが、続く結の光刃には直撃を許した。着弾と同時に爆発。伍は大きく吹き飛ばされるが、空中で回転、体勢を整える。
 彼女の脚に、明が繰る純白の糸が絡み付いた。視線を降ろす伍。にこやかにほほ笑む明が一瞬で射線に化け、すぐに強い衝撃が彼女の背中を叩いた。
 振り解き、立ち上がる。
 眼前には刀を振りかざした茜が迫っていた。長い髪を黄金に染め、赤の光を振り乱す剣鬼が。
「久しぶり」
「――どいて……!」
 伍はパーカーの下から短刀を取り出し、振り降ろされた刀を迎えた。澄んだ金属音が辺りに木霊する。間を置かず振り上げられた剣閃を一歩下がって往なし、マインゴーシュを突き出す。茜は踏み込むことにより直撃を回避し、更に刀を振る。横薙ぎのそれは伍の肩を捉えた。ばん、と己の身体が裂ける音を聴きながら、尚も伍は応戦、踏み込み、遠心力を乗せた突きを放つ。短い刃が茜の太腿を捉えた。確認するや否や、伍はバック転を繰り返し、大きく距離を取る。
「(――きつい。でも、まだ……)」
 遠くで明が露骨に肩を落とした。
「天使の駒になれば、こうなることくらい予測できただろうに」
「挙句逃げ回るだけなら、どうして天使の言うことを聴くんだ?」
 続く神削の一言に、伍は反応する。
「――違う!」
 反応してしまった。だから一瞬、反応が遅れた。
 年老いた彩色の中を極彩色がすっ飛んでくる。伍は視認、威力は少ないと判断、パーカーを脱ぎ盾に見立てる。
 茜が投擲したカラーボールが着弾、破裂し、黒いパーカーに蛍光色が広がる。軽い音の裏で舌を打ち、投げ捨てようと振りかざした瞬間、似た物に目が行った。慌てて引き戻し、結のカラーボールを防ぐ。
 化学の匂いが鼻を突く。しまった、と伍は目を見開き、今度こそパーカーを投げ捨てた。
 だが、彼女が察したとおり、事態は進展、状況は後手に回っていた。
 肩口にリボルバーの弾丸が喰らい付く。
 歪む視界の中を、黒の焔に身を包むマキナが迫る。
 考えるより先にカーマインを振っていた。怖気が吐き気となって喉を駆け上り、前進を震わせるような声が出た。
 鋭く振るわれる深紅の鋼糸を、マキナは右、左と身をよじり回避する。更に一歩踏み込めば、そこは既に射程圏内だった。
「――……ッ」
「では――」
 神速で突き出された右の拳から放たれた黒炎が伍に直撃、爆発する。ふらつくほどの衝撃が雑木林を縦に揺らした。


 立ち込める残光を、柔らかな秋風が凪ぎ、連れ去った。


 伍は辛うじて立っていた。呼吸は荒く、細い。しかし白い髪から覗く瞳は、未だ輝きを保っていた。
 マキナはざっと彼女を観察すると、ぐい、と襟首を掴み、引っ張るようにして投げ飛ばした。されるがまま伍はもたつき、落ち葉に突っ伏す。むせながら顔を上げる。結が彼女を見下ろしていた。
 程なくして――
「武器を捨ててください」
 大剣の切っ先が鼻先に突き付けられる。
「高くつきましたね。とはいえ、天使に組したのなら、この結末も覚悟の内でしょう」
 かさり、と落ち葉が握られた。
「――……う……違う……!」
「その、違う、というのはどういう意味だね?」
 木に肩を預けた明が問う。結が視線を送るが、動じない。すまない、興が乗った。

 伍は言葉を絞り出した。発言には、何度も、幾重にも咳が混じった。

「――……私は、ただ……助かりたくて……。天使なんて……呼んでない……!」
「方々で暴れたのは天使の指示だそうじゃないか」
 生きたかった、と伍は言う。
「――みんな、は……止められなかったし……逆らえば、なに、されるか……わらかないし……。
 それでも……私は……!」
「お前だけじゃない」
 小さく震える背に、神削が声を落とす。
「仲間を助けたいと思ったのは、お前だけじゃない」


 語る神削の3歩奥で、刀を正眼に構えた茜が目を閉じる。


 伍の顔の隣に5枚つづりの紙が投げられた。瞬きする伍に、神削が補足する。
「先だって、学園生が弐(アル)と戦闘してきた。それは報告書のコピーだ」
「――……弐……」
「あいつは、そしてお前たちは、シュトラッサーになったわけじゃない。まだ人間なんだ。
 それを聞いた弐は、監視していたサーバントの攻撃から学園生を庇い、学園生に訶梨帝母の撃破を託し、連れて行かれた肆(スゥ)と陸を護る為、天使の許へ戻ったよ」
「――……弐、が……?」


 新しい煙草を咥え、由稀はリボルバーの具合を確かめる。


「お前は、どうする?」
「――……わ……」
「まだ戦うなら、俺達もそうする。小日向(jz0100)先生に言われているのは、お前たちを天使に渡さないことだけだ」
「――……私、は……」


 マキナは口と左手を使い、慣れた仕草で包帯を結び直した。


「迷っているならやればよい。そのほうがずっと楽しいと思うがねえ」
 明の言葉には多分に笑みが混じった。
「諦観は詰まらん。どうせなら、ハッピーエンド目指して足掻いて見せんか」


 動向を見守っていた結が、一度だけ空に目を動かす。


「――……たい……」
 思いを口にすると、
「――私は、みんなと一緒にいたい……!」
 ぼろぼろと、大粒の涙がとめどなく零れた。




 大空が一度、羽ばたいた。




 木々が揺れ、木の葉が爆ぜる。けたたましい音にそれぞれが顔を上げると、ダーツに似た純白の羽根が飛礫のように降り注いできた。
 圧倒的な密度。回避場所を与えない、雪崩のような攻撃を、一同はただ――牙を研ぎながら――耐えた。


 ただ一人、伍を除いて。


 彼女が見守る中、神削が鋭く息を吐く。『2人分』の爆撃を受けた背からは、ぷすぷすと白い煙が上っていた。
「――……あ……」
「行ってくれ……」
 薙刀を手に神削は振り返る。首のない鳩に似たサーバント――握鳥は、彼目掛けて急降下してきていた。体の下から生えた太い腕が硬く握られ振り降ろされる。神削は伍を蹴り飛ばしてから拳を回避、その挙動のまま薙刀を叩き付けるように振った。べこり、と体を凹ませ、握鳥は後退する。
 面食らう伍に神削は怒鳴る。
「行け!」
「せっかく拾った命だ。拾わせた身でなんだが、大事にしたまえよ」
 言って明は笑みを深め、
「陸によろしく言っといてよ」
 茜は跳んだ。黄金の長髪を振り乱し、勢いを乗せた渾身の斬撃を叩き込む。
 胸を真一文字に切り裂かれ、再び突き飛ばされる握鳥。腕で受け身を取るように地を叩き、低く飛び上がる。
 一瞬の滞空。その隙を逃さず、由稀が前に出る。大股で前進しながら、突き出した手に握ったリボルバーの引き金を連続で握る。着弾、着弾。首も顔も無かったが、由稀はサーバントの視線を、敵意を感じた。
 即ち、結からは逸れていた。彼女は背に宿した純白の翼を翻し、サーバントの上空から突進、激突、翼の間にクレイモアを叩き付けた。
 肉体が割れる音を上げ、握鳥は三度地面に墜落する。本能がありったけの警鐘を鳴らした。逃げられる。殺される。なりふり構わず翼に力を込め、滅多矢鱈に振り回そうとし、しかしそれは叶わなかった。翼も、胴も、表面を埋め尽くすほどの悪霊によってがんがら締めにされていたのだ。
 振り解こうと尚ももがく握鳥を、無数の黒焔の鎖が穿つ。それは握鳥の羽根や胴、腕を抉りながら絡み付く。
 漂う己の死臭から逃れようと力を振り絞る握鳥。しかしその目前で、破壊を司る黒の焔は尚も猛る。
 腰のひねりを加え、マキナが全力で右腕を振るう。
 耳をつんざく炸裂音。
 彼女の拳から飛び出した焔は、握鳥の胸を燃やし、焦がし、崩した。
 衝撃に従い、大きく仰け反る握鳥。広げられた右の翼は満面の笑みを湛えた明がもぎ取り、左の翼は付け根に連続して狙撃を受け、千切れて落ちた。
 マキナが焔を収める。
 彼女が踵を返すと同時、駆け抜けた茜と結により、握鳥の身体は十文字に切り裂かれ、弾けて霧散した。



●喫煙所
「……サーバント撃破後、伍の姿はどこにもなかったわ。以上、報告終わり」
「なるほどね……。判ったわ、ありがとう。お疲れ様」
 由稀と千陰は同じベンチに離れて座り、同時に紫煙を吐き出した。由稀は背もたれに体を預け、千陰は忙しなく報告書に目を走らせる。
 由稀はサッカーに使われたかのように痛んだ灰皿を煙草で2回叩いた。
「殺せ、と命令しなかったのはどうして?」
「助かる可能性があったからよ」
 目を向けず千陰は答える。
「私たちの敵は飽く迄天使と悪魔。操られたり使われるだけの人間を端から殺すわけにはいかないわ」
「そいつが命を獲りに来ている、としても?」
「何度だって打ち倒せばいい、追い返せばいい、と考えるわ」
「お優しいことね」
「ありがとう。そんなの初めて言われた」
「皮肉よ」
 言って由稀は煙草を捨て、立ち上がる。
「判ってるわよ」
 彼女の背に、千陰が視線と言葉を投げた。それにね、と表情を一転させる。

「自分には厳しいのよ、私。
 今回の一連の騒動は、私の初動が全ての引き金で、私の対応が全ての原因なの。
 その落とし前は、必ず、きっちり付けるわ」

「そういうところが甘いのよ」
 由稀は振り返らない。
「その甘さが、いつか味方を殺すことになるかもね」
 栗色の髪を靡かせ、由稀は喫煙所を出る。
 彼女の姿が見えなくなるまで、千陰は口を噤んで見送った。



●雑木林の外れ
 枯れ木に身を隠していた参(サン)は、落ち葉を踏む音に首を伸ばした。
 続けて目を丸くした。随分派手な色合いになったパーカーを着た伍がこちらに駆けてくる。
「伍ッ!」
 思わず名前を呼び、飛び出した。伍は控えめに手を挙げ、スピードを上げる。

 合流。そして、互いの傷が痛むほどの抱擁。それぞれ肩のくぼみに額をうずめ、再会を噛み締めた。

「――ねえ、参」
「……なに?」
「――『みんなのところ』に、行こ……?」

 下がる体温に突き動かされ、参は伍を押した。続けて二度首を振る。
「学園の連中と合流してからでいいじゃん!
 ……ううん、行かなくったっていいよ! 逃げようよ!!」
 伍の表情は変わらなかった。
「――弐も、戻ったって……。これ、報告書……」
 預かった紙を突き出す。が、参は受け取ろうとしない。
「――助けよ? できること、やろ?」
 強引に紙を渡すと、伍は走りだした。向かうのは、天使の居城。
「あ……」
 参は暫し茫然。一瞬報告書に目を落としたものの、恐怖が好奇心を上回り、すぐに顔を背けた。その視界で、派手な色のパーカーは見る見る遠ざかってゆく。
「〜……!
 あー、もう! うちのチーム馬鹿ばっかりじゃん!!」
 ポケットに押し込み、参も走る。

 背中に当たる落ち葉の音を受け、伍は少しだけ速度を落とした。



●ゲート上空
「……黒の子も離反、ですか……」
 宙に浮いたまま脚を組み、頬杖をつく天使・訶梨帝母。
 頬は引き締まり、鋭い糸目が虚空を貫いていた。
「思っていた展開とはかけ離れてしまいました。所詮、人間は人間ですね」


 みゃあ みゃあ


 鳴き声はゲートの中から、気泡のように浮かび上がった。訶梨帝母は笑みを湛えてそれを受け止める。
「お友達はそれで全てよ。間もなくめいっぱい遊べる時が来るでしょう。
 その時まで今しばらくおやすみなさい。私もそうするわ」


 みゃあ みゃあ


「さあ、いらっしゃい、人間。待っているわ。いつまでも、いつまでも、いつまでも――」


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 釣りキチ・月詠 神削(ja5265)
重体: −
面白かった!:6人

撃退士・
マキナ・ベルヴェルク(ja0067)

卒業 女 阿修羅
血花繚乱・
神喰 茜(ja0200)

大学部2年45組 女 阿修羅
秋霜烈日・
機嶋 結(ja0725)

高等部2年17組 女 ディバインナイト
紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
釣りキチ・
月詠 神削(ja5265)

大学部4年55組 男 ルインズブレイド
Rapid Annihilation・
鷹代 由稀(jb1456)

大学部8年105組 女 インフィルトレイター