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マスター:十三番
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:6人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2012/10/08


みんなの思い出



オープニング

●4/6
 鼻からゆっくりと息を吐き出し、教諭は口を開く。
「君はいまいち事態を理解していないようだ。
 いいかね。学園には『自治クラブ』というものがある。撃退士の犯罪を防ぐべく、自治に勤しむ者達だ。
 存在を知らないわけではあるまい。まあ、君ならあり得るかも知れんがね。あるのだよ、実際に。
 だが、重要なのはそこではない。自治クラブが活動している学園に彼らが属していたという事実だ。
 判るかね。彼らは自治クラブからは許されていたのだよ。学園が活動を許可した、秩序を守る生徒たちに。
 それを君があぶりだしてしまった。
 報告書を見たよ。図書館を荒らされた腹いせに討伐したそうだね。
 だが被害はいずれも軽微。破損した物品も書物も価値は低い。幾らでも賄えるものだ。
 だのに君は冷静さを欠き、生徒によって追放した。何も知らない生徒たちを言葉巧みに焚き付けて。
 この意味が判るかね。
 君は弓を引いたのだよ。罪の無い彼らだけでなく、自治クラブにも……――それと、久遠ヶ原学園にも、かな?」
 紙巻きを燃やし、小日向千陰(jz0100)は目を細めた。



●第6会議室
 真っ暗な部屋の教壇に立ち、千陰はプロジェクターを操作する。
「志願ありがとう。さっそくだけど状況を説明するわね」
 投影されたのは茨城県沿岸の略図。6ヶ所に赤い円でマークしてある。
 地図の右端には、縦に並んだ6つの顔写真。
「元久遠ヶ原学園の生徒たちが同時多発で暴動を起こしているわ。
 彼らは24時間前に呼吸はおろか指一つ動かせない状況だったの。
 さらに、そうなった直後、彼らのすぐ近くで、微弱ながら『天使』の反応も観測されているわ。
 ……判るわね。場合によっては、数百人が動く作戦にも成り得る事態なのよ」
 千陰は一瞬だけ目を伏せてから、やや内陸、他の円から離れた赤い円を指した。

「あなたたちは『肆(スゥ)』の『抑制』をお願い。
 肆は彼ら6人の中で最も好戦的。振り切れてる、と言ってもいいわ。
 一度狙いを定められたら乱戦になるのは必至よ。
 でも、絶対に無理はしないで。手に負えないと判断したらすぐ逃げてくるの、いいわね?」



●無人の商店街
「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

 ケージの張られた商店街。その北側から侵入した肆は、手当たり次第に店舗に攻撃、その手ごたえを楽しんでいた。
 腕を振るっただけで洋服店が中身ごと吹き飛んだ。
 腰を入れた蹴りを放つだけで定食屋が機材もろとも爆発した。
 まるで無敵になったような気がしていた。

「いいねェいいねェ! コレだよコレ! こういうのを待ってたんだよ!!」

 笑い、猛る。

「負ける気がしねェよ。なァ、もうウチら負けねェよなァ、壱!
 もうバカにされなくて済むんだ。クソみたいなあのハゲや、ゴミみたいな連中に!
 アイツラ全員見返してやれるぜ!!」

 突如訪れた気配に、彼女は振り向く。

「……おう、そろそろだと思ってたぜ。動かねえモン殴んのも飽きてきたとこだ」

 舌舐めずり、両腕を広げ、目を見開いた。


「お待ちかね、だ。この力、試させろ。
 具体的にはさーァ? ――……足掻くだけ足掻いてぶっ飛ばされてくれよォッ!!!」


 叫び、嗤い、深紅の暴風が迫る――。


リプレイ本文

●商店街
「ぉぉおおおおらああああああああッッッ!!」
 咆哮と同時、固めた拳を繰り出す肆(スゥ)。しかし標的は既におらず、敷き詰められたタイルが粉々に吹き飛ぶばかりだった。
「おやおやまあまあ。元気そうで何よりだ」
 店舗の軒から、標的の片割れ――ジェーン・ドゥ(ja1442)が笑みを落とす。
「こんなに面白いことになるなんて、あの時刎ねるのを我慢した甲斐がある」
 肆は鼻を鳴らした。
「テメェか、ド変態忍軍。また逢えて嬉しいぜ」
「乙女に向って変態とは失礼な」
「殺し合いの最中に笑うような奴は変態だよ」
「僕はじゃれ合いたいだけ、首を刎ねたいだけさ。殺し合いなんてとてもとても」
「そうかよ、悪かったなド変態。
 なァ、こないだの続き、やろうぜ」
「それは、それは――」
「――了承致しかねます」
 肆の背後でカーディス=キャットフィールド(ja7927)が声を上げた。高ぶる精神と怨敵の姿に気取られ、初撃を後退して回避した彼に肆は気付けなかったのだ。
 つい、と彼女の首が回る。
「邪魔すんな、眼鏡っ子。怪我じゃ済まねぇぞ」
 カーディスは溜息。
「まるで駄々っ子のようですね」
「……あ゛ぁ?」
「貴女は何のために力を求めるのです?」
「決まってんだろ――」
 静かに広げた拳、そこに深紅の光が集う。
「テメェみてぇな奴を、根こそぎぶっ飛ばしてぇからだよ!!」
 風を裂くように腕が振られ、紅い刃が走る。カーディスは流れるような動きで回避、目を逸らして口角を上げた。
「相変わらずだね、君は」
「テメェもなァ!」
 振り向きざま、ジェーンにも同じ攻撃を放つ。しかしジェーンはカーマインを伸ばすとケージの梁に巻き付け、まるでサーカスのピエロのようにふわり、と宙を舞って逃げ果せた。
 舌を打つ肆に大剣を携えたカーディスが迫る。彼はやや離れた位置で踏み切り、彼女の脳天目掛けて得物を振り降ろした。
 だが――
「見えてるっつーの!」
 肆は半身になって攻撃を回避、そのままカーディスの顔面に回し蹴りを放つ。
 間一髪、仰け反って事なきを得た彼を、
「おや……」
 再び紅の刃が襲った。

 ドオオオオオオオオオオオオ!

 派手な爆発が巻き起こる。ケージも道路もぐらぐらと揺れた。
 ニタリと肆の顔が歪む。
「しゃしゃり出っからだよ、眼鏡っ子!」
 げらげらと笑う肆。
 を、頭上から振ってきた巨大な『帽子』がすっぽりと覆った。
「あ!?」
 遠くで聞き覚えのある声がした。
「裁縫は得意、得意、得意なのさ。遠慮せずにお一つどうぞ?」
「……んのおおおおおッ!!」
 両手足を振り回し、帽子を打ち破る。散り散りになった帽子は名残惜しげに少し輝いた。

 その隙間。
 両脇の店舗から飛び出した猪狩みなと(ja0595)と榊十朗太(ja0984)が迫る。

「(……ブッ叩く!)」
 踏み込みと同時、みなとが振り回した戦槌が肆の脚、膝のやや下を横から打ち付けた。
「……ッ!」
 がくりと膝を折る彼女の頭部を、十朗太が槍の柄で薙ぎ払う。
 たまらず肆は手を付く。
「ぐァ……!」
 頭を振る彼女を、カーディス、そして店舗に潜んだ一条常盤(ja8160)が放つ銃弾が、
 同じく物陰に隠れていたマキナ(ja7016)の矢が、
 加えてジェーンが撃つ風の刃が同時に襲った。
「チィ……ッ!」

 全ての攻撃が直撃すると、ケージまで届くほどの土煙が上がった。
 細かな瓦礫を孕んだそれは黙々延々と立ち上る。
 寸分の揺らぎ無く。

 常盤が銃口を下げる。
「……やった、のでしょうか……?」
 食品店の2階でジェーンが笑みを転がす。
「まさか、まさか」

 彼女の呟きを肯定するように、追撃をかけるべく、みなとと十郎太が得物を構え煙の中へ特攻する。
 ――罠であることを半ば承知で。

 みなとが槌を振り回すと同時、そして十郎太が槍を振るうより早く、肆の掌底が両者の鳩尾を捉えた。
「くぁっ!」
「……っ!」
 堪らず背後の店舗の仲間で弾き飛ばされるみなとと十郎太。
 新旧の土埃の狭間には、顔を伏せて両腕を開いた肆の姿があった。

 それを視認する常盤。次いで認識したのは、頭部から零れた赤に塗れた肆の瞳。

「(いけない――!)」
 急ぎ防御の体勢を整える常盤。
 だが彼女は、一足跳びに踏み込んできた肆の拳を受け、盾ごと遥か後方へ吹き飛ばされた。
「取っとけオラァッ!!」
 追撃の赤刃が常盤を強襲。三度土煙が舞い上がる。
「次はテメェだ、ド変態ッ!!」
 振り返り見上げた先、しかしジェーンの姿は無い。
 代わりに、

「カーディス!」

 視界の端、斧槍を構え迫るマキナが見えた。
「ハッ、いい男じゃねぇか――!」
「おおおおおおおおおおおおっ!」
 肆が『首元から大鎌を取り出す』。
 それと同時、マキナは前進しながら身を屈めた。
「あ?」
 彼の頭上を、カーディスが放った弾丸が疾走する。
 肆は舌打ち、首を曲げてそれを往なす。
 その分だけ反応が遅れた。マキナが振り降ろしたハルバードが彼女の肩口を裂く。
 だが浅い。肆はすぐさま踏み込み、脳天目掛けて鎌を振るった。斧槍の柄で受けるも、続く切り上げには対処しきれず、耳障りな金属音を聞きながら彼は宙に浮く。
 が、マキナはそのまま回転、勢いを乗せた切り降ろしを肆に撃った。肆は目を見開くと、鎌でそれを受け、前進、着地したマキナへ足刀を放つ。
 身を反って躱し薙ぎ払った斧槍と、掬い上げるように振られた大鎌が激突。
 互いに大きく弾かれるものの、再び打ち合い、打ち合い、打ち合う。
「ハッハァッ!!」
「おらぁっ!!」
 渾身と渾身が合致し、鍔迫り合いへ移行。二人の赤髪が、互いの呼吸が届くほどの距離で笑い合う。
「あれだけ徒手で粋がっておいて結局武器を使う。自分の力が信じられないんだな?」
「素手に斧持って突っ込んできた奴が偉そうに言うぜ」
「――小日向(jz0100)司書を痛めつけたらしいな。殺すぞ」
「へーぇ? あのババア、まーだ生きてんのか。やる事がいっこ増えた……なァッ!!」
 強く柄を握り、思い切り押し返す。マキナは靴の裏でタイルを削りながら後退、手を付いて勢いを止める。
 追撃をかけるべく体を前に傾ける肆。彼女の後頭部に――


 ぱきょっ


 生卵が当たった。
 静止し、ぎこちない動作で振り向く。その顔面に、今度は納豆と、間髪入れず藁の束がぶつかる。
「……なんの真似だ、ド変態」
 ころり、とジェーンが飴を転がす。
「なに、なに、ただの嫌がらせ。意味などないさ」
「そうかよ……ああ、そうなのかよおおおッ!!」
 湧き上がる怒りに身を任せ、大股に踏み込み鎌を振る。が、ジェーンは笑みを湛えて一歩後退。鎌の切っ先はタイルに深々と突き刺さった。
「ンのォ……ッ」
 顔を上げる。
 眼前には円形の平面が迫っていた。
「――受けてみなさい」
 言い、戦槌を振り抜くみなと。備えも受けも取れるはずもなく、肆の顔面は直撃を許す。
 潰れた鼻から鮮血を巻き上げ、浮く肆。
 続けざま、彼女の脇腹を、十郎太の十字槍が食い破った。
「がァ……ッ!!」
「力の使い方を間違えたてめえなんかに……」
 敵意の視線を向けられながら、彼は槍を捻り、払い――
「……負けてたまるかよ!」
 ――叩き付ける。
 弾み、しかしそれでも肆は立ち上がろうとした。が、ダメージが深く、起き上がることができない。それでもなんとか腕を伸ばして上体を上げるが、
「……ッッ!!」
 背中に矢と銃弾を受け、また突っ伏した。
 帽子のつばを抑え、ジェーンが軸をずらす。
 その遥か彼方から、常盤が気合一喝、ハイランダーを振るった。
 刀身から放たれた衝撃は一直線に爆走、後、

 ドオオオオオオオオオオオオンッッ!!

 肆に激突。
 彼女を黒い光が押し潰すように包んだ。
「風紀委員会独立部隊、一条。ここに風紀を執行します。
 他がどうであれ、我々はあなたの蛮行を許しません」
 告げ、膝を折る常盤を、駆け付けたジェーンが支える。
「おや、おや。大丈夫かな?」
「……すみません。ありがとうございます」

 カーディスが眼鏡の位置を直す。
「今度こそ、でしょうか」
「どうだかな……」
 マキナの表情は強張ったまま。

「手応えは、あった、よね」
「俺もです。けど……」
 目配せするみなとと十郎太。


 二人の視界の端で、黒い光を切り裂いて赤が立ち昇った。


 間欠泉のように噴き上がる赤い光の根元、中央。
 肆はすっかり立ち上がり、あごを引いて佇んでいた。

 視線の先には常盤。



「許さねえ、って言ったか」



 それは。
 先程までと同じ人物のものとは到底思えないほど、冷え切った声だった。



「どうしてテメェに許されなくちゃならねぇんだ。
 ウチがテメェに何をした。そもそもテメェは許せるのか。何様なんだよ、おい」



「――私は……」

「黙ってろ」



 肆がぐいと腕を伸ばすと、光が彼女の内側に収束された。
 瞳を燃やし、皮膚をすり抜け、警告色が胎動する。


 破裂寸前の水風船を観ているような。
 嵐が訪れる直前の浜辺にいるような。


「行くぜ。ぶち壊す」


 仕掛けたのは十郎太。握った槍で腰を入れて払う。
 呼吸を合わせ、みなともハンマーを振り被る。肆の背面から、狙いは後頭部。
 いずれも直撃。
 だが肆は意に介さず、前方に大きく跳躍。着地した先で踵を返し、赤刃を放った。みなとと十郎太は横に跳んで回避する。迫っていたマキナの矢とカーディスの銃弾は赤い光に呑み込まれて霧散した。
 その光景を肆は見ていなかった。彼女は既に跳んでいた。

 ケージが怯えるほどの咆哮。

 ジェーンは軒に登る。
 と、同時。
「絡めるぞ、搦めるわ――」
 彼女が呟くと、肆の足元から茨が伸びた。
 しかし肆は、己の四肢に巻き付くそれらを振り解き、引き千切りながら標的へ向かって直走る。
 標的、常盤は再び剣を振った。
 放たれた漆黒の衝撃波が深紅の肆と激突する。
 拮抗は、しかして一瞬。
 黒を食い破り、赤が前に出る。
 得物を傾け備える常盤。
 肆は彼女のやや前方で跳躍、まるで押し潰すようにしてソバットを放った。

「っ!!」

 その一撃は、踏ん張るとか、堪えるという程度のものではなかった。
 常盤は絹を裂くような悲鳴を上げ、商店街の外まで吹き飛ばされてしまう。
「おやおやまあまあ」
 呟くジェーンを赤い刃が襲う。彼女は斜向かいの店舗に飛び移りながら再び呟き、茨を呼び起こす。
 鋭利な棘を湛えた無数の茨は、しかし肆に文字どおり一蹴されてしまう。
 顔の前まで上げた腕に『赤』を集める肆。
 その腕にマキナが放った矢が喰らい付く。
 視線を向ければ、目前にカーディスが迫っていた。
 彼は振り上げた大剣を肆の脳天に、全体重を乗せて振り降ろす。
 手応え――半々。
 がくん、と頭を垂れた姿勢から、肆は回し蹴りを撃った。
 的確に、正確に放たれたそれは、しかし虚空、放られたブーツを裂くに終わる。鬼頭忍軍に伝わる奥の手、空蝉と呼ばれる技だ。
 だが、次いで訪れた肩からの胴当てには対処できなかった。大剣越しに直撃を許し、大きく後方に吹き飛ばされる。マキナが身を呈して止めるまで、彼はタイルの上を転がり続けた。
「く……」
「大丈夫か」
 駆け付けた十郎太が二人の隣に滑り込む。
「これ以上消耗する前に引くぞ。常盤のところには猪狩さんが行った」
「ああ……だが――」


 マキナの視線の先。
 赤の前にジェーンが降り立っていた。


「何見てんだよ、ド変態」
 ジェーンは答えない。
 眉を下げ、じっと肆を見つめていた。
「余裕くれやがって。調子に乗ってられんのも今の内だけだ。すぐにはっ倒してやるぜ」
 全身の赤が弾ける。
 幾多の光は、数瞬だけ蛍のように舞い、やがて跡形も無く掻き消えた。
「他の奴はどうした。6人いたはずだ。全部ぶっ倒れたか。じゃあ続きだ。今度こそ続きをやろうぜ」
 膝が折れた。
 肩が垂れる。
 瞳は虚ろだ。
「見下してんじゃねえ。ウチはまだやれる」
 かくん、と首が曲がり、
 はらり、と髪が零れた。
「さあ、続きだ」


「ええ、ええ、勿論だとも」
 鋼糸を伸ばすジェーン。


 二人の頭上のケージを突き破り、大型のサーバントが飛来した。


 瓦礫の雨から逃れるようにジェーンは後退する。
 訪れたサーバントの姿に目を剥きながら。

 鳥。
 その表現に相応しいのはシルエットのみだった。
 最も近いのは鳩。しかし頭部、そもそも首から上が無く、足の代わりに一本の、巨大な人間の腕が生えていた。
 六つ指のそれはぐいと開くと、項垂れていた肆を無造作に掴んだ。
 そして羽ばたく。
 目を開けることも、顔を上げることさえ困難な暴風を撒き散らし、サーバントはやや滞空、やがて空高く舞い上がり、いずこかへ飛び去った。




●喫煙所
「肆の討伐には、成功した、のね?」
 千陰の問いかけに、報告に訪れていたみなとが硬い表情のまま頷いた。
「近くで見ていたジェーンさんが証言しています。
 戦うことは愚か、自力で立ち上がることもできない様子だったそうです」
「そう……」
 くちびるから紙巻きを離し、改めて報告書に目を通す。
「で、彼女をサーバントが『持って行った』と」
「はい」
「凡その方角――は、あてにならないか。振り回されてしまっては元も子もないものね」
 頭を振り、千陰はみなとに笑みを見せる。
「ありがとう。そしてお疲れ様。ゆっくり休んで、怪我を癒して頂戴」
「はい。失礼します」
 軽く会釈してからみなとは踵を返し、喫煙所を後にした。


 静かになった部屋で、千陰は考察を繰り返す。


「(みんなの力を過小評価しているわけではないけれど、あの少人数で撃破できるシュトラッサーは前例が無い。
 生命維持に必要な最小限の力を与えた? なんの為に? 慈善家じゃあるまいし。
 それに、戦えなくなったシュトラッサーを回収する意図とは何?
 与えた分の力は戻らず、負けた『人間』に再び力を与えるような真似は幾らなんでも考えにくい。
 そもそも、回収するくらいならどうして加勢しなかったの?)」


 判明したことは二つ。
 天使の狙いが不明であること。そして、情報が足りないこと。
 それでも千陰は、生徒らが挙げた成果と戦果に応えるべく、そしてなんとかそれ以上の『何か』を探すべく、懸命に、何度も報告書を読み返した。




●???
 雪の中に頭を突っ込んだような心地だった。ほんのりとした絶対的な暗闇の中、右も左も、前も後ろも判らない。
 やがて聞こえてきた声も、耳に入っているものなのか怪しかった。
「それでも敗れてしまったのですね。可哀想に。可哀想な私の子」
 違う。
 肆は伝えようとした。だが喉は動かない。どころか、指一つ動かすことができない。
 だから彼女は念じた。
 まだ戦える。
 もう一度戦いたい。
 またあの『力』をくれよ!!
「いいえ。
 あなたは充分に働いてくれた。
 だから眠りなさい。覚めない夢をずっと眺めなさい」
 嫌だ。
 嫌だ、嫌だ、嫌だ!!!


「夜は更けたわ。おやすみなさい」


 訶梨帝母が指示すると、サーバントは手を開き、肆をゲートの中に落とした。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 語り騙りて狂想幻話・ジェーン・ドゥ(ja1442)
重体: −
面白かった!:5人

堅忍不抜・
猪狩 みなと(ja0595)

大学部7年296組 女 阿修羅
『榊』を継ぐ者・
榊 十朗太(ja0984)

大学部6年225組 男 阿修羅
語り騙りて狂想幻話・
ジェーン・ドゥ(ja1442)

大学部7年133組 女 鬼道忍軍
BlueFire・
マキナ(ja7016)

卒業 男 阿修羅
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
常盤先生FC名誉会員・
一条常盤(ja8160)

大学部4年117組 女 ルインズブレイド