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マスター:十三番
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/08/27


みんなの思い出



オープニング


 関東地方北西部、魔の蔦が絡みついた33F建てのビル。かつては県庁舎として機能していた建物も、今は悪魔の支配の象徴である。
 魔族好みの内装にカスタマイズされた上層の一室で、とある悪魔は部下の報告に、眉を顰めていた。
「周辺地域で撃退士がでしゃばっている?」
「はい、埼玉北部、栃木東部‥‥所謂『県境』と呼ばれる地域でも、奴らの干渉が確認されております」
 壁掛け鏡の表面が歪み、ぼおっと明るさを増した。
 映しだされたのはどこか遠くの山中。久遠が原学園の制服を来た少年少女たちと地元の住民が、嬉しそうに握手を交している様が見える。
「ふん、このような子どもにやられるとは‥‥この地域の担当者は余程の無能か」
「恐れながら、ここだけではございません」
 その言葉を裏付けるように、鏡の映像が変わった。
 埼玉県北部、通称「骨の街」。ドラゴンゾンビを中心に据え、既に自治を奪って久しいはずの地域だ。
「‥‥これはいつの記録だ」
「斥候のコウモリが持ち帰ったのは、1ヶ月ほど前かと」
 広がる廃墟の中、凛と駆ける撃退士の姿。
「さらに他にも‥‥」
「もう良い、貴様の懸念はわかった」
 さらに実例を示そうとする部下を制し、悪魔はううむと唸る。不愉快極まりないが、部下の手前、ここで露わにするわけにもいかない。
「だが、このエリアはアバドン様の膝下。強大なお力で結界を施している。撃退士とはいえ所詮人間、這い入ることはおろか『気づく』こともできぬわ。それとも何か、貴様はアバドン様の偉大なるお力を、信じられぬと申すか?」
「滅相もございません。ですが‥‥」
 強大な支配者の名に、部下が一瞬身震いする。だが、憂いの表情は晴れないままだ。
「人間の慣用句に、念には念を入れる、というものがございます。ここは我々の力を示し、撃退士、ひいては人間どもに無力な身の程をわからせることも、無駄ではないかと」
「ふむ……」
 悪魔は天井からぶら下がったシャンデリアを視線を移し、考えをめぐらせた。
「それも一理あるな」
「左様で」
 強大な支配者の側近として「この地」に遣わされてもう随分になる。支配は安定しているが、拡大の目途は中々立たないままだ。
──ならば積極的に、撃退士を「駆除」するのも悪くないのではないか?
「よかろう。周辺地域の撃退士を、根絶やしにしてやろうではないか。二度と「この地」……アバドン様のお膝元に近づこうなどと、思わないようにな」
 立ち上がり、笑みとともに判断を下す悪魔。
「かしこまりました」
 部下は一礼し、大きなコウモリに姿を変える。そしてそのまま、割れた硝子の隙間から外へと飛び立った。
 受け取った命令を、同胞に伝えるために。







 ハンドルを握ること2時間弱。撃退士を乗せた車両は栃木県の佐野インターチェンジを降りたところで停車した。
「ミーティングがてら10分休憩しましょう」
 言うなり、小日向千陰(jz0100)はドアを開け、ひらりと歩道に舞い降りた。

 時刻は17時をやや回ったところ。夏の暑さは弱まらず、呼吸をするだけで汗が滲む。

「国道50号線沿いおよそ12キロにかけて、生半可ではない量のディアボロが発生しているの。
 ただ、弱い個体ばかりよ。苦戦することはまずないでしょう。
 でも、それをいちいち各個撃破しているような暇はないし、なにより効率が悪いでしょ」
 だから――
 千陰は傍らの車両を二度ノックした。



「中央を一気に突破しつつ、できる限り多くのディアボロを撃破しましょう」



 車両はそれぞれ屋根にV兵器を搭載している。形は異なるがどちらも久遠ヶ原学園で制作された試作品で、実用化はおろか公表さえされていないそれを彼女がコネを盾にゴネてなんとか拝借してきたのだ。
 千陰はニヤついて煙をくねらせる。
「もちろん殲滅が望ましいけれど、今回は数が数だからね。ざっとでいいわ。
 でもマトが決まっていないわけではないの。
 今作戦の終点、つまり12キロ走った先にいる、腕が翼になっている大型のディアボロは最低限倒してきてね。
 あれだけは、ちょっと捨て置けないわ。用心して挑んでね」

 返ってきた頷きに微笑む千陰。腕時計を見ると定刻が迫っていた。

「じゃ、行ってらっしゃい。私はここで待ってるわ。
 ――ハイスコア出した方には、なにかご褒美あげようかな?」


リプレイ本文


「さ、時間よ」
 小日向千陰(jz0100)の発声を合図に撃退士たちはそれぞれの車両に乗り込んでゆく。


 砲型V兵器を搭載した『みかぜ』には天風静流(ja0373)、烏丸あやめ(ja1000)、羽空ユウ(jb0015)が搭乗、酒々井時人(ja0501)が運転席に着き、キーを捻ってハンドルを握る。


 アンカー型V兵器を装備した『ほまれ』は運転席に戦部小町(ja8486)が、荷台には鷺谷明(ja0776)、エイルズレトラ・マステリオ(ja2224)、高峰彩香(ja5000)、そして千陰が乗り込んだ。
「あれ、小日向さんも行くんですか?」
 目で頷き、千陰は煙草に火をつける。
「待ってるつもりだったんだけどね。誘われちゃって」
「誰に?」
 火種で指した先、運転席でエンジンがかかり、先に発進した『みかぜ』を追うべく急発進する『ほまれ』。
 うっかりバランスを崩し、倒れそうになる彩香をマステリオが腕を回して救う。明は顔に笑顔を張り付けて端から暮れだした空を眺めていた。
「すぐ出てくるわよ。気を付けてね」



 千陰が言うとおり、ディアボロの群れはすぐに現れた。犬猫程度の小ぶりなものが多く、稀に熊ほどの個体が混ざっている。
「これはまた、随分と多いものだな……」
 『みかぜ』の屋根の窓から体を出していた静流は、沿道を埋め尽くす黒い影に目を見張った。だが彼女は長い黒髪を風に流し、
「まあ、相手が誰であれ蹴散らすだけだがね」
 拳銃を構え、照準を合わせて引き金を引いた。
 弾丸は一直線にディアボロへ向かい、貫通、霧散させる。
 事前に聞いていたとおり耐久力は相当低いようだ。確認した彼女は目まぐるしく流れゆく景色に浮かぶ黒を撃ち抜いてゆく。
 時速120キロメートルで走行する車上からのリボルバーによる狙撃。無論全てを撃ち落とせるだけではない。それでも『みかぜ』班が一定以上の成果を上げていたのは、車内からの援護が行き届いていたからに他ならない。
「逃がさ、ない――」
 静流が撃ち漏らしたディアボロをユウが放つ雪玉が吹き飛ばす。
「させるかいっ!」
 車を狙う酸をあやめが生み出した風の刃が弾き、消す。
 『みかぜ』は時人がハンドルを切る度に左右へ大きく揺れた。だがその甲斐もあり車体への損傷は未だ出ていない。どうしても避けきれない、且つ運転席を狙う酸は時人がシールドで防ぐ。

 受けず、被らず、撃ち尽くす。
 その様は正に一騎当千。宛ら黒塗りの荒野を行く一陣の風。

「ちょっと多いね」
 時人が苦笑を浮かべる。前方、交差点を封鎖するようにディアボロが群れを成していたのだ。
「使おうか」
 静流の短い言葉を聞き、時人は右足を少し引く。
「どこかに掴まって」
 後部座席のあやめとユウに声を投げると同時、静流がV兵器の引き金を握った。
 刹那、特大の銃口から白色の弾丸が放たれる。
 それは緩やかな弧を描き、群れの中央付近に着弾。そしてすぐ、衝撃を伴う強烈な閃光が周囲を覆った。思わず目を逸らす彼らの耳に特大の爆発音が飛び込む。顔を上げる彼らの先で、幾多ものディアボロの破片が舞っていた。
「ごっついなあ……」
「文字通りの切り札だね。この調子で行こうか」
「ああ。反動も少ない、以後減速は無用だ」



 息巻く『みかぜ』の隣――右車線を『ほまれ』が突っ走る。



 『ほまれ』に搭載されたV兵器に『みかぜ』のそれのような殲滅能力はない。なので必然、搭乗する撃退士らの力量に戦果が左右されることとなる。そしてそれはそのまま乱戦を意味した。
 メインとなったのは明とマステリオが放つ炎の玉と彩香の忍苦無による各個撃破。密集した地点には――
「あたしが!」
 彩香が衝撃波を放ち一網打尽とし、或いは――
「では、僕も……!」
 マステリオがアウルの土をぶつけ、群れを押し流していく。
 『みかぜ』と異なる点を更に列挙すると、『ほまれ』は車体が大きくバランスも悪いため、どうしても出せる速度に限界がある。安全かつ効率的に走行できる速度の上限が劣っている、と表してもいい。それらの要素は『包囲され易さ』に直結した。
 荷台のへりにディアボロが手を掛けた。頭部についた赤い瞳が明の姿を捕らえる。次の瞬間、ディアボロは明の振り下ろした槌によって粉砕、強制下車を余儀なくされた。千陰が見送る先、道路に転がるディアボロを火の玉が襲い、塵も残さず焼き尽くす。
「やるわね」
 賞賛の視線を送った先、明は飛来した酸を盾で受けていた。あっという間に後方へ流れてゆく小さなディアボロに火を放ち、彼は少しだけ笑みを深めた。
「風が気持ち悪いねえ」
「ええ、本当に」
 吐き出した紫煙は地面と平行に流れた。



 国道50号線は緩やかなカーブが連続する、田園を横切る二車線の道路だ。
 本来なら青々と茂っているはずの麦や稲はディアボロの跋扈を許し、見る影もない。
 点在する店舗や果樹園は既に瓦礫と化していた。
 例外なく黒にまとわりつかれた状態で、荒れた景色と化していた。

 それらを撃退士は駆逐していった。
 銃弾で、光で、炎で、刃物で。
 見る者によっては執拗であると言い表すほど念入りに、極限まで撃ち漏らさぬようにして。

 その様子を、空から見下ろしている存在がいた。

 『それ』は瞳を細め、速度を上げるように伝える。
 黒い空と黒い地の間を、真夏の影を切り抜いたような黒が横切った。



 メーターの回転を確認し、時人は周囲を見渡す。
「そろそろ例の地点だよ」
 連続する陸橋を乗り越えた先、説明のとおりの合流地点が見えた。右手に住宅街、左手には娯楽施設とガソリンスタンドが窺える。
「――翼手、この、へん?」
 あやめが首を振った。
「いてる。あそこや!」
 常に気配を探っていた彼女が指さした先には、白いボウリングのピンがあった。宣伝用の、避雷針を兼ねた看板だ。

 その上。

 黒雲とは明らかに異なる影が浮いていた。


 9名がそれを視認した瞬間。



 ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!



 地を震わせる、敵意と殺意を孕んだ咆哮が木霊した。
 影――大型のディアボロは、体の何倍もある巨大な翼をはためかせながら合流地点へと飛来する。
「揺れるよ」
「ああ」
 静流の応答を受けると同時、時人はアクセルを踏み込んだ。がくん、と揺れる『みかぜ』の上で、しかし彼女は冷静に照準を合わせ、トリガーを引く。
 時人は彼女を案じるような真似はしない。フロントガラスから翼手を見据え、軌道を読み、最も効果的なポイントを探る。
 効果的とは、即ち――


「使うぞ」


 静流が告げた時には、『みかぜ』は道路で最も平らな位置にいた。それでいて翼手を正面に捉える、正にベストポジションと言える位置に。
 穏やかな呼吸のまま、彼女はV兵器を両手で握る。
 翼手は一度大きく羽ばたき、発達した脚を振り回して迫り来る。
 それをぎりぎりまで引き付けてから、静流は引き金を握った。


 打ち出される特大の弾丸。
 道中、幾多の魔を払ってきたそれが、翼手の胸部に炸裂した。


 ――――――――――――――――――――――――――――――!


 爆発する光の直撃を許し、翼手は大きく後方へ吹き飛ばされる。部位はぷすぷすと焦げ付いていた。



 痛みに悶える翼手の傍へ『ほまれ』が回り込む。飛行能力を有する個体が地でもがいているのだ、この機を逃す手はない。
 タイミング、距離、位置。その全てが正に完璧と言えたそこで、

「いっけえ!」

 彩香がアンカーを放った。
 じゃらじゃらと太い鎖が笑い、彼女の胴回りほどの太さがある錨が空を裂く。鋭利に反り返った先端は、ちょうど焦げ付いていた胸に食い付いた。



 ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!



 先程とは質の異なる叫び声が上がる。有効打なのは誰の目にも明らかだ。
「よし!」
 小さく呟き、彩香はハイランダーを握る。
 刀身130センチメートルの大剣を。

「駄目です!」

 マステリオが彼女の背中に声をぶつけた。
 彩香はきょとんとして振り向く。顔を強張らせた仲間が自分を見ていた。
「車から降りてはいけません。機動力の利を手放すことになります」
「でも車の上からじゃ攻撃が限定されるよ! 目の前のチャンスを逃せって言うの!?」
「チャンスならまだ訪れます。あのディアボロを引きずり、遠距離で削っていけばいいんです。とにかく、車から降りては駄目です!」
 身振りを伴う、懸命な説得は――

「ありがと、心配してくれて」

 ――しかし、彼女には届かなかった。
 違う。
 彼女には届いていた。しかしそれでも尚、彼女は降車を選択した。目の前の悪を打ち倒す為に。


 だが。


 靴の裏がアスファルトに着いた瞬間、彼女はようやく事態を理解した。
 沿道から続々と、道中散々倒してきたディアボロどもが溢れていたのだ。翼手が呼んだのか、悶絶の声につられたのかは定かではない。
 重要なのは、一列に並んだそれらが一斉に、そして不規則に酸を吐き出したことだ。
 バックラーは――間に合わない。
「……ッ!」


 顔を逸らした彼女の頭上で、


 酸の群れが爆ぜる。


 びちゃびちゃ、じゅうじゅう、と不快な音が『自分の周り』から立ち上る。
「え……?」
 顔を上げた彼女の前には、黒を纏った二人が立っていた。
 右には、ウォーハンマーを携えた明。
 左には――首を鳴らしながら両のトンファーを弄ぶ千陰。
「おや、司書が降りるとは意外だねえ」
 千陰の鼻が鳴る。
「講師としての矜持、ってことにしといてよ」
 それから肩越しに生徒らを見、彼女ははっきりと笑って見せた。
「道は作ってあげるわ。行きなさい」
「――はいっ!」
 力強く頷き、彩香は翼手を目指して走り出す。
「マステリオ君はアンカーの操作をお願いね」
「でも、アンカーは……」
「『利』がいつまでも続くとは限らないわよ?」
 言い残し、彼女はディアボロの群れに突撃した。


 眉を寄せるマステリオを目覚めさせるように、『ほまれ』が急発進する。


 アンカーごと引っ張られ、しかしディアボロは太く長い鉤爪を路面に突き立て抵抗した。
 本能で悟ったのだ。このままではまずいと。
 だからディアボロは、『胸を失うことになったとしても』アンカーから逃れる道を選んだのだ。

 この世のものとは思えぬ不気味で不快な音を立て、翼手の胸が抉れる。

 小さな瞳を怒りで濡らして羽ばたく翼手に彩香が迫る。
 ディアボロは短く咆哮、彼女に向けて腹部の口から漆黒の弾丸を放つ。
 彩香は身を低くしてそれを潜り、
「ああああああっ!」
 アウルを纏わせた大剣を振る。
 が、間に合わない。翼手はこれでもか、と全力で舞い上がり、黒雲に紛れた。
 臍を噛む彩香。だが切り替えは早かった。彼女は道路に横たわるアンカーを『ほまれ』に向けて蹴り飛ばしたのだ。
「お願い!」
「わかっています!」
 『ほまれ』の荷台で、マステリオが鎖を巻き戻す。『ほまれ』自身もアンカーを迎えに行き、漫然と回収した場合とは比較にならないほど高速で鎖が巻かれていく。

 呼吸を整え、彩香は翼手の居る空を見上げる。
 その視界の左右から、中型のディアボロが同時に跳び掛かってきた。
 彼女は――
「はあっ!」
 迷うことなく左のディアボロに斬り掛かる。ディアボロは真っ二つとなり、アスファルトの上にぐしゃり、と落ちた。顧みれば、もう片方のディアボロは無数のアウルのナイフをその身に突き立てて痙攣していた。


 突然訪れた、間。


 彼女は周囲を見渡した。


 ディアボロの群れを懸命に食い止める明と千陰。

 延々と飛来する酸を懸命に回避、撃墜しながらアンカーを巻き上げる『ほまれ』とマステリオ。

 未だに無傷で立ち回り、沿道のディアボロを殲滅していく『みかぜ』。







「(……大丈夫)」


 独りでは、ない。








 ――ァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!


 咆哮に呼応するように、彼女は剣を握り直し、空を睨む。
 翼手が降りる。先程避けられた黒弾は使わない。一撃必倒の鉤爪を極限まで開き、迫る。
 彩香が構える。


 ガアアアアアアアッ!


 地を震わせる怒声を轟かせる腹部の大口。
 そこへ――静流の殺意を纏わせた光が着弾した。



 ――――――――――――――――――――――!!!!



 閃光と爆炎が翼手を押し返す。翼手は二度弾み、陸橋の傾斜へ仰向けに倒れた。
 彩香の後方で『ほまれ』のタイヤが高い音を上げる。
「手間かけさせないでください!」
 そして間髪入れずアンカーが放たれた。けたたましい鎖を引き連れて浮き上がり、口の中へ深々と突き刺さる。



 ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!



 判っている。
 この状況は危険だと。
 だからディアボロは両の翼を懸命にはためかせ、危機から逃れようと必死に足掻いた。
 しかし――


「させへんゆうてるやろ!!」
「――逃が、さない――」


 翼に光弾と烈風の連撃、そして再び特大の光を喰らう。
 焼け、裂け、燃える翼はもう用を成さない。
 ならば、とディアボロは足を動かそうとする。
 だが動かない。見れば、無数の亡者がまとわりついていた。爪さえ動かせない。
 くすり、と遠くで笑い声。
「その足上げるな、鬱陶しい」



 ガアアアアアアア!
 アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!



 悲哀を帯びた咆哮が黒い空に鳴り渡る。



 その間を突っ切ってやって来る、赤を帯びた金色の突風。



「行くよ!!」



 気合い一喝、彩香が放った二連撃は、翼手の頭部を十文字に分断した。



 アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!



 翼手は一度大きく体をくねらせ、それっきり、二度と動くことはなかった。










「みんなお疲れ様ー。お見事だったわよ」
 労いの飲料を全員に手渡していく千陰。
「ありがとうございます。ところで、残りはどうします?」
 時人の視線の先には、国道から離れた位置で縮こまるディアボロの群れ。
 一瞥し、千陰は眉を下げる。
「キリがないからね。めぼしいの倒しながら帰りましょ」
 軽い返事を落し、それぞれ車に乗り込んでゆく。
 誰もが達成感で口元を緩める中、ただ一人、ユウだけが表情を曇らせていた。


「(暴れ、たり、逃げ、たり、しない――)」


 浮かぶひとつの疑念。


 例えば、『翼手さえ使い魔だとしたら』――。


「(――把握、しても。手出し、は無用かも、しれない)」


 思案の末、彼女は口を噤んだまま『みかぜ』に乗り込んだ。


「(……アールグレイ、が、良かった……な)」
 含んだ紅茶は、しかしほんのりと甘かった。














 娯楽施設の屋上。
 くぐもった風に長い金髪を躍らせる人影があった。


「あらまあ。あの子を瞬殺ですかあ」


 人影。人の形をした影。


「無限に近いとはいえ、徒に手駒を失うのはいただけませんねえ。みなさあん、撤退してくださいねえ」


 断じて人ではない。


「……少し、本腰を入れる必要があるかもしれませんねえ」


 人ならざる影は短く笑い、闇に紛れて消えた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 撃退士・天風 静流(ja0373)
 奇術士・エイルズレトラ マステリオ(ja2224)
 SneakAttack!・高峰 彩香(ja5000)
重体: −
面白かった!:9人

撃退士・
天風 静流(ja0373)

卒業 女 阿修羅
闇を裂く御風・
酒々井 時人(ja0501)

大学部7年55組 男 アストラルヴァンガード
紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
SneakAttack!・
高峰 彩香(ja5000)

大学部5年216組 女 ルインズブレイド
撃退士・
戦部こまち(ja8486)

大学部4年243組 女 鬼道忍軍
運命の詠み手・
羽空 ユウ(jb0015)

大学部4年167組 女 ダアト