「ふむ。今回はこれで全員だね」
依頼を受けた今回のメンバーは久遠ヶ原にある、辺鄙な研究所にきていた。なるほど。特殊なことをあうるだけあって、設備を整った印象は受けた。
集まったのは、鷺谷 明(
ja0776)、アスハ・ロットハール(
ja8432)、安瀬地 治翠(
jb5992)、時入 雪人(
jb5998)、ゼロ=シュバイツァー(
jb7501)、Vice=Ruiner(
jb8212)、カティーナ・白房(
jb8786)の七名。
それを見渡して、すぐに芦原が始めようと促した、が、明がそれを遮った。
「私は戦いが好きだ。だからこそこれは全力で挑む」
しかし、と続け。
「敵を倒せば勝ちなのか、最期まで立っていれば勝ちなのか。まずは勝利条件を明確にしたまえ」
と芦原に告げた。不満が出たという形に芦原は苦渋の面を作りつつも、真剣なものにし、
「僕は、撃退士というものでも、敵をただ倒せばいいとは考えてないからね。生き抜いて後世に受け継ぐことが重要だと思うわけだ」
それが、今回の依頼の目的の主題であり、彼の考えなのだろう。
ともあれ、不備は認め、芦原が謝罪を行ったところで、件の活動が始まった。
視界を開ける、と。まず最初に静けさを感じた。目の前にはビル群。人気は全くない。
そこに降り立った7人の元に、早速、交戦の音が届いた。
まずは明。自分の置かれた場所を確認する。少し広めの道。少し遠目にサーバントとディアボロが戦闘をしている。確認すると同時にカードを取り出した。スキルカード。この世界でのみ使える特殊アイテムだ。
彼の持つカードが光輝き、弾けると同時に彼の周りを光が纏わりついた。その後すぐに、明は蜃気楼を発動。別職のスキルを使えるのがこのカードの利点だ。
不可視となった明がすぐに手短なビルを壁走りで登ろうとする。が、残念ながら、彼がスキルを行使する前に、彼は天魔に補足されていた。彼が登ったビルの側面から銀の三騎士、炎の馬が別々に現れ、銀騎士が一。双剣を持つものが飛び上がり、感じるままに明の存在する場所へと振り抜いた。ヒット。装備でデメリットを受ける彼にはかなり痛い一撃だ。
それを無視して明は進む。今回の目的は対人だ構う暇はない。
続いてアスハ。こちらも開始と同時に即行動を開始。周囲に手頃な高さのビルを発見し、そちらと反対のビルの側へ、グローブとした焔のリングから杭を打ち出し狙撃。破壊すると同時に移動を開始する。
定めたビルに外付けた非常階段を上りつつ、同様に届く範囲で遠方のビルへ攻撃を加えて音を響かせ足音を紛らわす。屋上へ到着し、そこでひとつ息をつく。
「ちょうどよく、ビルがあった、な。さて」
登りきったのは周囲一帯を見渡せる場所。ぐるりと見渡せばいくつかすでに戦闘が起きているらしい。魔具を対戦ライフルへ換装し、構える。すでに、さっそく、狙いをつける相手は定まりつつあった。
結果として妨害を受けなかったアスハであったが、それは紙一重を交わしたにすぎない。彼が攻撃したビルには治翠がいた。小破したビルの原因を探ろうとする前に、彼が大通りで戦闘に入った雪人を見つけたためだ。タッグを組むことにして参加したが、自分は屋上、雪人は大通りで前方に銀騎士、後方にカティーナと最悪の位置取りだった。救援のためにビルから即決で飛び降り、大通りをかけてゆく。
その雪人は銀騎士が接近する前に後退を開始。カティーナが上空へと飛び立ち、符での攻撃を加えるも、これは雪人が避けてビルの間へとするりと抜けてゆく。
「逃がしたわね」
銀騎士は迷う素振りの後に雪人の後を追うのを確認してカティーナが再度周囲を確認。近くに戦闘はなく、漁夫の利を狙う彼女としては移動しなければならない。翼をはためかして隣のビルへ移る、と、
「ちょいっとおねぇちゃん。こっちに俺もおるで?」
やや高めのビルそこから自分を見下ろすゼロの和弓から放たれた矢がカティーナを貫いた。
すぐさま全力移動を開始し、逃れようとするも、遅れて同じように全力移動で追いついたゼロにひとつ意識をもって行かれた。
銃撃、戦闘、嘶き。様々な音が混ざり合う中で、案外、近くを通る足音は気づきにくものだ。もっとも、音だけに頼れば、であるが。
アスハは屋上出入り口を影に狙撃体勢を維持。上下を確認していると、いた。蜃気楼を使いながらも、途中ほぼ光のなくなるビル側面を壁走りする明の姿が。気づけたのは彼がピンポイントに壁走りも警戒に入れていたからだ。走りを邪魔するように、銃口が火を吹いた。火力重視の一撃が壁をえぐり、足場の崩落した明が宙に投げ出されて地面へと叩き付けられる。そこへ、彼を追って現れたディアボロとサーバントが殺到した。
このビル街においては天魔系の敵が自由に闊歩しすぎる。絶対数の多い天魔は自然物陰からの不意打ち等は地上の撃退士に仕掛けやすくなり、結果、雪人と治翠は地上で奮戦し、蜃気楼を使う雪人が治翠を囮に裏から奇襲などで天魔を落とすも、結果二人共一度づつ気絶。リスタートをきった。
明は、アスハの妨害時にリスタート、再度壁走りをしつつ、スナイパーライフルでヴァイスへの奇襲が成功していた。ヴァイスは天魔を相手を主体に動きながら、壁を背に、徹底的に物陰からの狙撃で天魔を落としていた。壁は背にしても壁を伝っての攻撃は避けきれなかった形になる。脳天から銃弾を受けてのリスタートを切った。
そして舞台が切り替わる。ステージが霧へと切り替わり。平衡感覚も失われ。そして次にそれが戻ると、そこは森の世界。
密林の中で、サバイバルが続けられる。
「なんにせよ、生き残らねばならないか」
やれやれと一息をつき、ヴァイスが動き出した。目的は自分の力を試すといういうものよりも、他の参加者の動きを目で追いたいという思いだ。ならば自然、それを果たしやすい舞台までは生き残る必要がある。じっとしてはいられない。すぐさま移動を開始した。
「そういえば、ハル」
「どうしました?」
密林の中は霧で覆われる時間帯がある設定がされている。現在はその霧の中で雪人と治翠が周囲を警戒しながらも小声で会話していた。
「これは、屋内での活動でもあるから引き篭もりだと言えるのか……疑問に思って。ハルはどう思う?」
「そうですね。少なくとも、部屋から出ていますし引き籠もりではないと思いますよ?」
本家当主かつ、幼馴染のような関係ももつ雪人がこうした形でも外にでることを嬉しいと思いつつ、足を進める。基本的に、周囲の木々の物陰に隠れるようにしての行動だ。
しかし逆にそれが災いしてか、二人の頭上から一つの影があっても気づけない、そして二人が丁度その真下をゆく時に。
その攻撃の主、明によって二人の視界が一瞬で暗転。意識外からの攻撃では、確かに耐えるのも困難だったのだろう。
「知りたまえ。これが対人戦というものだ」
カティーナが携帯品として持ち込んだホイッスルを吹き上げる。霧のなかでもその音は響き渡り、ある程度の敵に聞かれているだろう。しかしかといって狙い通りに策も進まなかった。
ホイッスルの音に惹かれて出会ったもの同士が戦いだすのを期待していたが、明白に敵の出す異音を頼る相手はいなかった。それに、このフィールドでは、骸骨騎兵の機動力の高さが厄介にもなる。
今もこうして。カティーナに素早く駆け寄る姿を彼女が確認した。即効で退避を測るカティーナ。天魔との交戦をあえてするつもりはない。
そうして退避する中で、戦闘音が聞こえた。そちらへ注意を向ける、と。
人影が6、さらに別の馬の影が1と中々に大混戦だった。
その中の一人、アスハにいち早く発見される。ようやく開けた視界ため、両者の距離は遠くない。様子を見るに、残りのViceとゼロが共闘しているらしい。銀騎士を相手にしながら、アスハにも牽制等を加えている。
カティーナが一撃を加えようとアスハに狙いを定めると、彼もまたすぐに逃走を開始した。構わずに一射。しかしこれは難なくよけられてしまった。装備スキルと回避を整えたダアトに魔法での攻撃はいささか難しいか。
今度は自分が標的にならないよう、直ぐさま離れるように退避する。どの道留まれば後ろに迫る騎馬に追いつかれる。
「昨日の敵は今日の友、ってな♪」
Viceと共闘しながらゼロがご機嫌に呟いた。
目の前にいる銀騎士を丁度屠ったところだ。しかし、やはり慣れないデータを落とし込んだ体のために違和感が付きまとう。これは全員に言えるだろう。
残りは騎馬が一つ。さて、と意気込んだところで頭上で音がした。辛うじて間に合ったのは、Viceだけだった。
頭上から降りてきたのは、明。その手にアサルトライフルを持って。一度経験したViceは即回避できていたが、ゼロは初動が遅れて被弾。急所ではなくとも、天魔と交戦したダメージもあってか、それを耐え切ることはできなかった。Viceがすぐさま銃口を明に向けるも、そのままするすると対象は木々を縫って消えてしまう。
「頭上はやはり注意が必要か……」
考え込む、前に、目の前にいる騎馬の攻撃を回避しての続きだった。
密林の舞台において猛威を振るったのは明の戦法だった。潜行から強襲、離脱を行って安定して蹴落とす。短期間で3人を倒れ伏させた。
ここまでにストック数で言えば残数トップはアスハの3つ。しかし、天魔との戦い等で消耗もしている。2つの明、ゼロ、カティーナははそれほど被害もない組み、Viceは2つめを消耗させた状態。そして治翠、雪人が残り1つであり消耗は特にない状態で。
最後の舞台へと飛び込んでゆく。
最終決戦はグラウンドの開けた場所だ。舞台が移り変わると、全員がどの位置にいるか比較的よくわかる。
端的に言えば、割とばらけていた。撃退士、天魔共に。そしてそこから最後のバトルロワイヤルが始まる。
まず初め。最短の距離感だった雪人とゼロが交戦に入った。雪人がその手に愛用の魔杖『ティマイオス』を手に接近、魔力刃でもって一閃。強化を加えた杖のブースト機構による一撃は、ゼロもそうはよけられない。一部へと届いたダメージにゼロが苦悶の声をあげる。が、それを堪えてカードを取り出す。輝き出すそれがゼロを纏わりつく光に変わった瞬間、再度振るわれた雪人の攻撃は、気付はスクールジャージを貫いていた。
「……空蝉」
名答だ。そして上空へゼロが翼を使い飛び上がり、上空からの狙撃。これを雪人は回避するも、一気に不利の形になる。ついで、右手から銀騎士が迫る。相方の治翠の様子をぐるりと見渡して確認すると、向こうも交戦中だった。
「っと、次は当てるで」
そう言いながら、弓を引くゼロ、の後ろにカティーナ。体にはあの光が渦巻いている。その光が無数の蝶となってゼロを襲った。朦朧の付与も兼ねたそれを喰らいながらもなんとかバステは回避。
そして出来た隙を追うように双剣の銀騎士がゼロに一撃を飛び上がりつつ入れる。こうして3者と天の3との混戦が始まった。
雪人の相方、治翠。こちらは明の一打を丁度受けたところだった。盾越しに伝わるダメージに顔をしかめている。しかし一転、目の前にいるいる明へ重量のある盾による一撃を加える。明がこれを避けきれず被弾。
そしてその両者を視界に収めながらアスハ。自前のスキル、零の型で一気に距離を詰める。そしてその手には、一つのカード。両者を登録スキル範囲内に収めつつ、即時発動。アスハの身体を急激に傷つける代わりにカードが弾けとんだ。そうして飛び散った光がすぐさま効果を及ぼす光が打ち出す杭となって大量の銃線を作り出す。バレットストーム。範囲内にいる二人に対して、これでもかというほどの猛攻撃。その嵐が終わると、そこに立つのはアスハだけだった。が、彼とてここまでやりきったが、一つ目の体力は限界だった。続いて参戦したViceによるカードによる精密射撃で倒れることとなった。
そしてもう一方。ゼロは倒れて現在はカティーナ、雪人の一騎打ち、でもなく天魔入り混じれての戦闘。
カティーナが焔の烙印、で自身を強化、安定して距離を稼ぎつつ雪人をなんとか蹴落とすも、同時に集まりだした天魔を裁けず撤退。
Viceもまた、アスハを倒したあとに周囲に天魔がよりはじめ、回避しつつ健闘も奮わず倒れる。
全体として天魔を大いに残したまま、最終局面へと突入していた。
「これが、ジョーカーってやつや!」
ゼロが明に仕掛けた。休息に接近してのなぎ払い。も、これは回避をされる。その手にはカード、が発動しないところをみると条件に合わないのか。
「甘い」
それを皮切りに明が氷を纏う。神話に書されるものの再現。その氷が周囲を渦巻いてゼロや天魔を包み攻撃する。ゼロにとっては、それが最後に貰う一撃だった。
「お前も、甘い、な」
アスハが接近し、こちらも自前のスキルを振るう。弾葬。あたり無数に飛び出た魔法陣から、銃弾のアウルが飛び散った。この一撃で明も敗退。残すはアスハ、Vice、カティーナとなったのだが。
周囲に、天魔がうようよと残っていた。全体として放置しすぎたために、残ってしまった奴らのようだ。残り消耗した彼らが闘うのは――は少々無理がありすぎた。
結果、今回のサバイバル、最後まで残ったのは、銀騎士のサーバント、という結果になるのだった。