●これはある朝の、彼女の日常たる景色なり
┌(┌ ^o^)┐職人の朝は早い。
明朝。まだ暗がりも感じるその頃からその活動は始まるのだ。
「やはり毎日の神サイトめぐりはだいじな習慣ですなの」
エルレーン・バルハザード(
ja0889)の視界の先には愛用する、ある系統のサイトが開かれたモニタがあった。ああ、いや。ここで言葉を濁すべきではないだろう。
日々においてその系統、BLサイトを回る数は相当なもの。
「もえをたくさんきゅうしゅーしないと、いい┌(┌ ^o^)┐はうまれませんから」
誰にとでもなく、いや、いま彼女はあなたに語ったのだ。見ればその姿から一目瞭然だろう。
アウルを巨大な┌(┌ ^o^)┐の形としたエルレーンさんは、はにかみながらあなたにそう語るのだった。
興味がある方は是非彼女とコンタクトを取るといいのかもしれない。きっと、今までにない世界がそこに広がっているはずだ。
●花弁振りまく黒の百合。コスモに舞う白の精。
「今日はよろしくお願いしますワ、黒百合さん」
にこやかに言いながら笑顔を浮かべたのはミリオール=アステローザ(
jb2746)だ。視界の先には白の彼女と相対するような、黒を振りまく少女、黒百合(
ja0422)がいた。
黒百合がどこか狂気さと、しかし秘める不思議な蠱惑を滲ませるような口調でそれに応える。
「きゃはァ、可愛い可愛い天使様ァ……貴女のダンスのエスコート役を勤めさせて頂くわァ……」
両者の距離は10数メートルか。撃退士にとってはあってない距離だ。
むろん、修練場にてこうして向き合うのは理由がある。この二人で模擬戦を行うためだ。
ミリオールに笑いかけた黒百合がその手に随分と馴染んだ一つの鎌を顕現させる。デビルブリンガーをベースに改造を施し続けた一品。切り裂くための鎌に、抉り切るような機能を付与したそれは赤と黒の色合いも作用し果てしなく恐怖をその矛先へと与えるのだろう。
しかし、それでもミリオールは一礼をした。
「ではでは、楽しむと致しましょう!」
対する彼女は笑顔を絶やすことなく、されどこちらも骸骨をモチーフにする杖を取り出す。
「もちろんよォ。一緒に楽しみましょうねェ……♪」
黒百合の笑みが深まった。
そして、そこが開戦の導だった。
ズンッ、と修練場に響き渡るふみ足の音。黒百合のそれだ。躊躇うことなく飛び出した彼女は、開いた距離を急速に詰めてゆく。
対するミリオール。しかし、相手の手練さは承知の上でのこの一戦だ。冷静に挙動を確認する。速い。けれど、まるで反応できない速度ではなかった。
側面を取るように動く黒百合に、回避をするために身体を反対方向へと運ぶ。
しかし、やはり回避にはやや足りないか。黒百合の鎌が敵の血を吸わんと迫ってくる。それをミリオールの繰り出した、斥的重力にる網が勢いを殺してゆく。斥力による網が、黒百合の鎌を防ぎ、されど防ぎきれはせず少量の血が宙を舞った。
苦悶の顔を浮かべる、も、ミリオールはすぐに体勢を切り替えた。もとよりこの程度は織り込み済み。決めるは、速攻のカウンター。
ミリオールが魔具をエネルギーブレードへ換装する。同時に冥界の影響を受けた装備が外され、天の力が開放される。
それを感じたのだろう。黒百合の顔が僅かに揺れた。
切り裂かれたミリオールの血の一滴が、音もなく黒百合のもとへ飛来した。瞬時悟る。これは攻撃だ。黒百合の前でその一滴から触手のようなものが生み出されてゆく。空蝉を使うべきか。――否。
「やっぱり、範囲を使うわよねェ……!」
バックラーを緊急活性化させる。専攻を変えて取得したものの一つだ。
が、それでも、体を襲う触手が周囲を蹂躙する衝撃をその盾で耐え切る。
「お返しさせていただくわァ……!」
受けきった後、すぐに踏み込む。ヘタを打てば自分が大きなダメージを食らう。ならばそれより先に、討つ。
いまのこのタイミングなら避けられることはないだろう。そう判断して、一つのスキルを選び取る。
接近。ミリオールは、避けることをしなかった。黒百合の思考に疑問が浮かぶ。
「これで勝てる相手じゃないことは端から解ってますワ!」
答えは手応えと同時に返ってきた。ミリオールは黒百合の口から噴出される飛沫に含まれたU.N.ウィルスを負ってなお、それと同時に百尾彗星を放っていた。なりふり構わない青光の瞬打は黒百合のもとへと届いた。彼女の体に、身体を蝕む光と共に。
代償にしたのものは、U.N.ウィルスにより動かなくなる身体と、この戦闘の勝利だった。
黒百合の奮うデスブリンガーが強かにミリオールへと襲いかかった。
「今回は、私の勝ちねェ……天使様ァ?」
笑みを浮かべる黒百合。ミリオールは、まだやり抜きたいという気持ちと、けれどどこか満足を覚えながら迫るその大鎌を視界にいれていた。
●其れは手加減にあらず。┌(┌ ^o^)┐なり。
黒百合とミリオールの戦闘が一段落着いた頃、こちらはランベルセ(
jb3553)。先に戦闘を終えた二人は治療をしながら修練場の隅へと行っていた。自身の鍛錬相手を頼むには些かタイミングが悪い。ぐるりと見渡し、他の相手はいないものか探す、と、新井司(
ja6034)とキイ・ローランド(
jb5908)は二人で固まり、なにやら相談事をしている。様子を見るに、あちらはあちらで模擬戦を行うらしい。それを割りいるというのも、なんだか躊躇われ、さらにグルリ。と、丁度一人の女生徒が修練場に入ってきた。
これ幸いにとランベルセは声をかける。
「おまえ、ひとりなら俺の相手にならないか?」
自身が専攻を変え、その修練の途中であること、特に今回の機会を利用し練習といえど経験を積みたいといったことを手短に話した。
その女生徒は快く承諾をした。名を、エルレーンと言うらしい。
おわかりいただけただろうか? 冒頭の彼女である。
一言二言言葉を交わすうちに、彼女が実力者であることを知る。その上で、模擬戦を引き受けてくれたのだ。手加減はあっても仕方ないだろう。
ランベルセはそう思った。そう、思ってしまった。
(手加減されるのは癪だが仕方ない。……いや、こちらは気にせず思い切りいけるのだから悪くないか)
心の中で一人ごちて相手をみやる。十数メートル。大した距離ではない。ではいつ飛び出るか。そのタイミングを測る。だが、その試みは、
「いざっ、しょうぶ!」
声高らかに宣言したエルレーンによってくじかれる。その彼女は変化の術により……巨大な┌(┌ ^o^)┐となってランベルセへと襲いかかる!
!
カサカサという幻聴が聞こえそうなほど素早い動きで距離を詰めた┌(┌ ^o^)┐は、ランベルセの前でスキルを開放する。
┌(┌ ^o^)┐すぷらっしゅ。
エルレーン(と呼んでいいかわからぬが)を中心に、彼女よりやや小さめの┌(┌ ^o^)┐が周囲へ向けて四方八方に飛び去る。むろん、ランベルセに逃れる術はない。
「とんでけ!私のかぁいい┌(┌ ^o^)┐ちゃんたちーっ!」
「なっ!? これは!?」
予想外の攻撃だったのだろう。ランベルセがあたふたとする。慌ててシールドを展開するランベルセ。
「それくらいじゃ┌(┌ ^o^)┐ちゃんたちは止まりませぇぇんっ!」
嗚呼。無情なりや。そこには手加減など存在しなかった。
ハツラツと地を這う┌(┌ ^o^)┐たちは、そうまるで同人誌即売会で命を燃やす女性の方々の如く、いやそのスピードそのものを乗せてランベルセへと体当たりをかましていく。
ランベルセのシールドは、どうやらそれを耐え切るには、どうにもたりないものがあった。技術と言うよりも……群がるそれらに対する心構えが。
だが、今回の目的は防御を試すこと、ふらつく身体を叱咤し、盾を構える。
そんなランベルセに――いいのかいホイホイ受け防御しちまって、俺はノンケでも構わずに喰っちまう└(^o^└ )┘だぜ? そんな声が聞こえたとか、聞こえなかったとか。
気づけばエルレーンの背後には、巨大な┌(┌ ^o^)┐の分身がそびえ立っていた。続く記憶は、猛攻に打ちひしがれた末に倒れたことしか、ランベルセにはなかった。
●翳すは信念の盾。向かうは執念の拳。
司の頬を汗が伝っていく。
すでに何合のやり取りをしたのだろう。そう思案してみるが、それは目の前にある盾をどう切り崩すかに思考は奪われてゆく。一手のみならず、二手三手と考え動いてはいるがこの模擬戦を決定づける一打は生まれない。キイもこちらを油断なく視界にいれながら、盾を構え、まだ自身は倒れていないことをアピールしてくる。
「どうした? 自分はまだ立っているぞ?」
少し煽るように、言いつつ、半歩前へ。いつでもこいという証左。けれど、決して余裕があるわけでもない。しかし自分の思う自分の出来ることのために、耐えてみせると静かに心に誓う。
司が少し息を吐き、目を細めた。
――うん。今回は宜しくだよ、つかさちゃん
始まる前はそんな言葉をふんわりとした雰囲気で言っていたキイ。いまはその様子は見る影もない。油断なく見つめる瞳。その眼前に掲げられる盾。
自身の中で突撃のタイミングを測る。ここは、もう一度初撃を繰り返そう。それよりも、同じものをより速く。
息を吸う。吐く。止める――ここ。
弓を引く構えから放たれたのは、司の思いの丈を込める純粋な一打。それはすでに見せている。だからこそ、同じ挙動で他の技を見せ、戸惑いを与えさせた。だからこそ、ここで、少し同じ技にも変化を。
「穿つ。無塵回廊……!」
唸りをあげて一打がキイに迫った。
「くっ!」
苦悶の声を上げつつも、さすがか。これにキイは対応する。けれど受けそこねたか、やや大きく後退した。瞬時、キイの身体を光が包む。回復だ。さきほどから、こうして、多少の手応えも無に帰されるようなやり取りをしている。
(けど、こうして鍛錬し続けれるのも、いいものよね)
そう心に思いつつ。すぐさま次の構えを作る。操雷。己の身体を最適化させる電気を体に巡らせ、雷に匹敵する速さを得んする彼女のスキル。
もう一打、ゆく。
(っとと。まだ倒れるのはもったいないからね)
飛ばされた衝動を逃がしたキイはリジェネを発動してそう一息つく。敵は撃退士。自分のことを見て、その弱点をつかんと動いてくる。先もなんどか防御を誘導され、そこに釣られるようにして空いた隙を叩き込まれもしている。
そして、いま。
司が身を倒して接近してくる。今度はどこを狙う?
観察をし、見極め、判断しなければならない。司の身体から、光が漏れた。それは花びらのようにヒラヒラと舞いながら後ろへ去ってゆく。この技はまだみていない。
気を引き締める。距離はもう一気につまっていた。目の前を、光の花びらが乱舞する。散ってゆくそれらに紛れて、司の拳が迫ってくる。
やや体の外側を狙った一撃。外れるか。しかしそうでない距離である気もする。瞬時に思考し、しかし身体をそれをさばく体勢に入っていた。
「集灯瞬華、ねじ伏せる……!」
響きでた声は、裂帛の気合。そしてそれと同時に、司はもう一打、決めのその二打目を一打目によって空いたキイの身体へ突き込んだ。
● クールダウン
「……エルレーンもあれか、ああいう系統の女か……」
ランベルセがうず高く積まれた同人誌の山から顔を出して呟いた。その通りだ。そういう系統の女性なのだろう。
┌(┌ ^o^)┐職人は毎日の努力をいとわない。 そうだ。どこに用意をしていたのか、エルレーンは同人誌の束を勝負に破れたランベルセの続々と被せていったのだ。
ランベルセが幸いにも未だ┌(┌ ^o^)┐<センノウされずに済んでいるのは、彼の交友関係にあるのか。
「他人の性癖自体を性癖にするという複雑な趣味、理解しがたいのだが、なぜか人界には多いな……?」
事実は小説よりも奇なり。人界も天冥よりまた奇なり。
カサカサと寄った、┌(┌ ^o^)┐形態のエルレーンはそっと、追加の同人誌をランベルセの顔に被せた。
そんな不思議な光景をみつつ、黒百合とミリオールも少しの談話をしていた。
「はふー、大事になる前に治療ができてよかったですワ」
ほっと一息しつつも、ミリオールは自分の負った傷があった場所を撫でる。もう治療して回復はしたけれど、今回の敗北はまだすぐに思い出せる。
「あらぁ。まだ余裕があるなら、もう一戦くらいしてみるかしらァ、天使様ァ?」
そう言って笑う黒百合は本気なのか、それとも彼女なりのジョークか。
クスリ笑う可愛らしい姿からは、見る人次第ではどちらとでもとれそうだ。しかしミリオールは少しの苦笑を滲ませて断りを入れた。
「いまはまだ力が及びませぬワ。……次はきっともっと強くなって挑まさせて頂きますワ!」
悔しさは胸に。されどバネに変えて。
「遠慮しなくてもいいのよぉ……? でも、それはそれで楽しみに待っているわァ」
「今日はありがとです。とっても楽しかったですワっ!」
拳を交えど、修練が終えれば同じ学び舎の元に集うもの。二人はゆっくりと、笑顔でその日の鍛錬を終えていった。
「はい。司ちゃん。飲む?」
キイが手に持ったスポーツドリンクを司に手渡した。と、言いつつも、限界まで動き続けたせいか、体力というよりも精神面の疲労がひどかった。
「ええ、いただくわ。ありがとう」
座り込んだ二人は、休息をしつつも反省会を始める。フェイントへの対処、あるいはフェイントを頼りにしたところの手痛い反撃など、語りつくせぬだけで互いに互いを教えあう場面は多かった。
ひたすら倒れることはなく立ちはだかったキイ。そしてそれにとことん付き合い続けた司の両名は、途中で休憩を挟みつつでもあったためか、修練場に他に人影がなくなるまで居座っていた。
気だるさがピークへと達し、どちらともなく寝転がる。
天井を見ながら、互いの褒め合いをした。司の攻勢への気概、そこからの工夫交えた盾を崩すための攻撃。キイのどこまでも冷静で、静かながら苛烈な意思を持ってかざし続けた守りの盾。
粗方を話し終えたころには、もう使用可能時間の限界を迎えていた。
「もうすぐ閉館しますよー!」
入口から職員が呼ぶ声が聞こえる。そろそろ頃合だ。
「さて、今日はこれで終わり。ありがとう、ローランド」
「こちらこそだよ、司ちゃん」
軽く挨拶を交わして修練場から退場する。少し淡泊な気もするが、なに。これから依頼があれば共にする機会もあるだろう。これは日常も一つ。それくらいでも、丁度いいのかもしれない。
こうして、とある6人の撃退士のある日常の一コマが幕を閉じていった。