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マスター:稲田和夫
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/04/10


みんなの思い出



オープニング

 今日も、関東圏のどこかでは撃退士が天魔の眷属と戦いを繰り広げていた。
「来たぞ。全員、作戦は理解しているな?」
 夕暮れの商店街。突如出現したディアボロによって人々は逃げ出し今は無人となっている一画での戦闘任務。
 敵は一体であることが確かめられており、決して弱い相手ではないにしろある程度の訓練や経験を積んだ学園生なら6人で十分な相手だ。
 にもかかわらず、今回はこの教師が引率している理由は、彼の直ぐ側で震えている一人の生徒だ。
「いいか。相手はありふれたディアボロだ。甘く見ろとは言わん。だが、この人数なら悪戯に恐れる必要も無い相手だ……お前の役目は後衛からの支援だ。しっかり自分の役目をこなせばそれでいいんだ」
 だが、声をかけられた中等部の男子生徒は武器を握った手をガタガタと震わせており、頷くのが精一杯だ。
 教師はため息をひとつ、そしてディアボロの様子を確認し。

「正面から来るぞ!」

 ――学園のスタッフの分析通り、戦力は十分だった。学園生たちは時に拙い動きを見せながらも、持てる力を発揮して的確にディアボロを追い詰めて行く。

 そして――。

「――ケイスケ! お前の出番だ! 教えた通りに!」
 振り向いて叫ぶ教師。いや、教師だけではなく他のメンバーもケイスケを見つめる。

(行くんだ……! 今行かなきゃ、また……!)

 必死に武器を握り締め、何とか体を前に出そうとするケイスケ。しかし

「……ぁ」
 それも、彼の眼球が手負いになりながらも牙を剥くディアボロの姿を映すまでだった。敵を一目見たケイスケの足は、丸で本人の意思とは無関係のようにヘナヘナと崩れ落ちる。

「危ないっ!」
 生徒の一人が叫ぶ。

 教師は溜め息をつき――恐怖で動けないケイスケに代わってディアボロの動きを封じる。こうして5人の生徒は危な気なく敵を撃破。教師がこれ以上手伝うこともなかった。

 だが、ケイスケは最後まで一歩も動くことは出来なかった。


「天魔との戦いは依然厳しい状況にある。最終的な生徒個人個人の進路はともかく、現時点でアウルの素質を持つ者を遊ばせておく余裕はないのだ」

 ここは久遠ヶ原の一画にある会議室。問題のケイスケという生徒の担任を始め、関係のある教員が複数集まっている。
 今発言した議長役の年配の教師の言葉に他の教師たちも深刻な表情を見せた。
「私としては打てる手は全て打っておきたい……そこで、本日この問題を解決するのに相応しい教師に来て貰った!」
 
 コンコンと礼儀正しいノックの音が会議室の扉を叩く。
 
 議長は腕時計を確認して微笑む。
「相変わらず時間に正確な男だ。入ってくれ」

「失礼する」

 その直後、会議室の扉を開けて入って来たものに対する反応は見事に分かれた。

 ガタッ! と席を立つ者。咄嗟に光纏しちゃう者。手近な教師に抱きつく者……そして気さくに挨拶して、『彼』に直接面識がない者の反応を楽しむ者。

初対面の者に対するグレーターモノホーン(jz0171)のインパクトはやはり絶大なようだ。

「ひ、人が悪いですよ先生……というか。失礼ですが本当にウチの教師なんですか!?」
 教師の一人が思わず怒鳴る。

「どうも、相済まない事になった。……君は事情を説明していなかったのか?」
 証明書を提示しつつ、咎める様に年配の教師を見るモノホーン。
「なんの。この方が皆に手っ取り早く私の意図を理解して貰えるとおもったのでな」

 悪びれもせずドヤ顔の年配の教師に向かって、若い女教師が怪訝な顔を向けた。
「まさか……このせ、先生を訓練相手に……!?」

「単純に言えばそういう事だ」
 年配の教師はそう言ってから。モノホーンの方を向いて事情を説明する。
 まず、問題の生徒がサーヴァントやディアボロの外見に対する恐怖心をどうしても克服出来ないでいることを説明して、更に言葉を重ねる。
「もはや、言葉による指導ではどうしようもあるまい。ぶっつけ本番で度胸をつけさせようと実戦にも二度、なるべく手強くなさそうなサーヴァントとディアボロの討伐に一回ずつ参加させたが両方とも失敗だ」

「実戦はリスクが高い。もう少し危険な状況に追い込まれればあるいは……とも考えられるがな。そんな天魔を相手にしたのでは協力する他の生徒や教師の危険が大き過ぎる」
「矛盾するようだが、安全に絶体絶命の状況に追い詰めるには……言葉は悪いが本人を状況で担ぐしかない。少なくとも、試してみる価値はある」
 そう言うと年配の教師はため息をついた。
「心得た。幸いこの学園の生徒は懐が広い。協力してくれる者もいるだろう」
 

 よりにもよって黄昏時、指定された部屋にぬっと現れたモノホーンは君たちを前にゆっくりと説明を始めた。

「以上だ……君たちにはこの生徒たちが恐怖を克服して戦場に立てるように筋書きを考えて欲しい」


「ちょっとケイスケ! 本気なの!?」
 昼食時、とある学生食堂にてケイスケの同級生であるアイカは思わず怒鳴り声を上げていた。中々の美少女だが、それだけにそんな大声に周囲の人々は驚いて視線を集中させる。

「うん……、来週の依頼が終わったら先生に相談してみようと思って……その、転校について」

「信じられない! 何よ……二人で戦おうって約束したのに!」

 そう言われたケイスケはつらそうに、顔を背けて。
「ごめん……でも、もうアイカは何回も実戦に出てるし……もう僕となんか……」

 ケイスケの弱気な言葉は、彼の頬が鋭く鳴る音にかき消された。

 無言で席を立ち走り去るアイカと打たれた頬を押さえ項垂れるケイスケを、打ち合わせのために食堂を訪れた君たちが目にしたのはその時だった。


リプレイ本文

「待って。貴女、倉山君の知り合いね?」
 学食の外に飛び出した篠川を陽波 飛鳥(ja3599)が呼び止める。飛鳥はまず自己紹介を済ませ手短に事情を話し、篠川の協力を仰いだ。しかし、話を聞き終えた篠川は懐疑的だった。
「本当に彼がいなくなっても良いの?」
「でも、どうせアイツは……」
 中々承諾しない篠川。
「なんか……他人事は思えないのよね」
「え?」
「私の……弟なんだけどさ。自分に自信がないからか、男の変なプライドか、物事が上手くいかない惨めさを自分だけで背負込みやがるのよ」
 篠川は黙り込んだ。
「……ただ傍にいて欲しいってだけのことに気づかないんだから」
 そう言って、微笑む飛鳥。
 自分の気持ちを解ってくれたと感じたのだろう。篠川は協力に承諾した。

「うむ……ここが職員室とやらか?」
 さて、飛鳥が篠川と話している丁度その頃ヴァレス・バストゥニ(jb4978)の方は職員室へ意気揚々と乗り込んだ。
「グレーターモノホーン教諭はおられるか!」
 思いっきり胸を張って、偉そうなヴァレス。

 ――が。

「依頼を受けてくれた生徒か。遠い所をすまない」

「わっひゃあ!?」

 ヴァレスは腰を抜かして現れた教諭を見上げる。
「む。すまん」
「お、驚いてなどない!」
 顔を真っ赤にして怒鳴るヴァレス。
「と、とにかく詳しい段取りが決まったゆえ打ち合わせに来た!


「吠える犬の恐怖に比べれば、天魔なんて……と言いたいけど、人それぞれだからねぇ」
 訓練前日という放課後。空き教室では九十九(ja1149)がそう言いながら赤い水性ペンキを溶かしたものをビニールに詰め、効果的な演出のための血糊を作っていた。
「あ、センセーだ!」
 手伝っていたアッシュ・スードニム(jb3145)が声を上げる。
「これ、明日の『台本』!」
 紙の束を差し出すアッシュ。
 教諭はそれに丁寧に目を通す。
「ふむ……これなら上首尾に運ぶだろう」
「わーい、褒められたー!」
 
 その後、教諭とアッシュも手伝って九十九たちは十分と思われる量の血糊を用意。いよいよ本番へ臨むのだった。


「あ、君、ちょっと訓練の人手が足りないんだ。付き合ってくれないかい?」

「えっ……でも、その、どうして僕に?」
 依頼当日、校舎から出て来た倉山に、まず長幡 陽悠(jb1350)が声をかけた。戸惑ってはいるが、長幡の人の良さそうな外見のせいかそれほど警戒している様子は無い。
 矢野 古代(jb1679)も続いて挨拶する。
「あー……君の事情は大体聞いていてね。良ければ一緒に来ないか?」
 そう言って傍らの篠川を示す。

「あ……」
 倉山は、今度は気まずそうに気を逸らしてしまう。どうやら篠川の前で情けない所を見せたくないらしい。
(やっぱりね……ま、ここは任せて)
 その様子を見た飛鳥は篠川にそうアイコンタクトして。

「その銃は誰の為に持ったの? ほら、しゃきっと背筋伸ばして、胸張って、もう一度頑張ってみない?」
 ぽんぽん、と倉山の頭を優しく叩く飛鳥。

「ん……怖いのよくわかるの」
 若菜 白兎(ja2109)もこくこくと頷く。
「でもでも、このままじゃ彼女さんとお別れになっちゃうの。それは駄目……なの」

「わかりました……僕でお役にたてるのなら……」
 倉山はようやく同意した。

「全く手間かけさせて……え……? 彼女……?! ちょ、ちょっと待って下さい!」
 篠川の叫びは(意図的に)無視され一行は訓練場に向かう。


「どうした! 天魔が怖くて撃退士が出来るか!? 腕立て10回、早くしろ!」
 訓練場所にアリシア・タガート(jb1027)の怒声が響く。
 
 厳密に言えば倉山が怯えている相手は天魔ではなく長幡とアッシュの二匹のストレイシオン。そして長幡のヒリュウだ。
 見た目が怖い、という倉山の反応は徹底していた。撃退士ならバハムートテイマーでなくとも知識として知っている筈の召喚獣ですら苦手意識があるらしい。

(んー、このままって言うわけにもねー、やっぱりボク達で一押しするしかないか、色んな意味で)
 こっそり呟くアッシュ。

「……そんな腑抜けた根性でよく撃退士なんぞやろうと思ったな……」
 流石のアリシアも一瞬怒りを忘れて呆れ、頭を抑える。だがすぐに気を取り直し。

「甘ったれるな!」
 アリシアの拳銃が乾いた銃声轟かせる。
 ひぃっ、となる倉山。
「召喚獣を見ながらもう20回だっ!」
「シィルまで腕立て伏せしなくて良いから……あ! ダメだよー、目をつぶったらー」
 アッシュが叫ぶ。

 呆れたアリシアが再度怒声を張り上げ様とした時古代が見かねて。
「少し、休もう」
 古代が差し出したのは吸収効率を上げるためにぬるくしておいたスポーツ飲料だった。


「……うまい」
 一気に流し込むアリシア。倉山の不甲斐無さに普段以上に声を張り上げたせいで物凄く喉が渇いていたのは秘密である。

「……実は俺も未だに怖いしビビってるんだ」
 休憩中、倉山は特に過去の体験などが原因ではなく純粋に天魔の容姿に対する恐怖心が克服できないと吐露した。

「ん……トラウマでもなく、ただ見た目の問題なら何とかなると思うけどねぇ」
 と九十九。

 古代が再び口を開く。
「けど、怖くなったら大切な人や約束を思い浮かべる」
 
 大切な人、という言葉に倉山がはっとした様子を見せた。
「俺が撃たなければ大切な人が傷つく『かもしれない』。約束が果たせない『かもしれない』」
 古代は最後に愛用の銃を構えて見せる。
「だから腹に力を入れて……目を逸らさずに撃つ」

「わたしも……怖くて動けなくなっちゃったり、目の前で吼えられて、泣いちゃったり……だから逃げない勇気が欲しいの」
 白兎も言う。
「お母さんやお父さん……大切な人を護れるようになりたくて、だから、今日の訓練にも参加させてもらったの」

「僕より小さいのに、凄いよ……」
 と倉山。

「先輩だってきっと大丈夫なの」
 唯一アリシアが怒らなかったのは射撃だ。
 白兎と同じ的を狙った時、目を閉じてしまった白兎が明後日の方向に撃ったのに対して、倉山は危な気無く命中させていた。

「弓の腕も悪くなかったしこれなら実戦も大丈夫なはずさぁね」
 弓を得意とする九十九もそう述べる。

「そろそろ続きだ!」
 時間を見てアリシアが声をかけたとき――異変は起きた。

「な、何でこんな所に!?」
 叫ぶ長幡の視線の先には廃墟の中に屹立し凶悪な表情で咆哮を上げるグレーター教諭の姿があった。
 白兎は倉山にしがみついて震え始めた――。


 戦闘は撃退士が有利に進めている。しかし、倉山は白兎を守っているのはともかく一向に前に出ない。

「タマ落としたか腑抜け野郎! ブルってんならとっとと逃げてやめちまえ!」
 演技抜きで苛立ちを顕わにしたアリシアが叫ぶ。

 やがて、タイミング良く教諭の攻撃で篠川が吹っ飛んで廃屋に突っ込んだ。
「アイカ!」
 少年は叫ぶが、結局動けない。


(無意識になのだろうが他の八名を当てにしてしまっているのだな)
 いかにもディアボロじみた咆哮を上げ続けながら教諭は推測した。

「ふっ……ふははは! これほどに脆いか、撃退士よ!」
 この時、打ち合わせ通りのタイミングでヴァレスが登場。

「あ、悪魔!?」
 腰を抜かさんばかりに驚く倉山。

「くそっ……最悪だっ!」
 いかにもな調子で吐き捨てる古代。……勿論ヴァレスとこっそりウィンクしあうのも忘れない。

「果敢な兵に並び、生まれたての赤子も兵士とは。力を持ちながら哀れよなぁ」
 傲然とした仕種でこれみよがしに倉山を見ながら嘲笑うヴァレス。

「……あっちの悪魔はわたしが……だからその隙に」
「え……白兎さん!?」
 ここで、白兎もしがみつくのを止めて前に出る。

「私も怖がってばかりじゃ駄目なの……!」
 駆け出した若菜はすかさず審判の鎖を発動する。

「こっちは任せて欲しいの! だから倉山先輩は彼女さんを……!」


 それからの一連の動きは倉山の目には丸でスローモーションのように映った。まず果敢にヴァレスに挑んだ若菜が、ヴァレスの引き起こした爆発で無残に吹き飛んだ。
「わ。若菜さんっ!」
「ふっ……ふははは!! これほどに脆いか、撃退士よ!」
 教諭が迫るが打ち合わせ通り古代が飛び込んで倉山を庇う。教諭の爪を受け血しぶきを(勿論、血糊である)上げ倒れこむ古代。それでも肘を突いて起き上がると教諭に照準を合わせた。
「ほう、その傷で我らに挑むか? なぜそうまでする! 大人しく屈せば一思いであろうに!」
 ニヤリと笑うヴァレス。
「決まってんだろ、生きなきゃ大切な約束も何も果たせねえからだ!」
 なおもアウルの弾丸を発射する古代。だが、それは教諭には効かず、逆に教諭の放ったアウルの弾丸が古代をも戦闘不能に追い込んだ(ように倉山には見えた)。

 一方、教諭は凶悪な赤い目で次の獲物を探している……ように倉山には見えたが実際には。

(頃合いか)
 と教諭。

(そろそろ篠川さんに向かって下さい)
 と飛鳥。

(ヴァレスさんお願いします)
 と、長幡。
 と、アイコンタクトしあう一同。そこ、笑わないように!

「良かろう。さぁ疾く済ませるぞ! さあ、我が眷属よ!」
 ヴァレスはそれはもう高笑いしながら今度は長幡(の近く)を爆発させる。盛大にやられてみせる長幡。確実に悪化していく状況に倉山の顔が絶望に染まる。

「ごめんよ……倉山君、後は任せた……ストレイシオン……」
 最後の力と引き換えにストレイシオンに命令した長幡ががっくりと倒れた。そんな主人を見て龍は悲しげな咆哮を上げ……倉山にアウルの防壁を付与する。
「これは……」
 呆然とする倉山。その倉山の目がストレイシオンと合った。ストレイシオンは何かを訴えているようだ。

(やっぱりお前頭良いんだな……)
 笑いというか、表情を綻ばせない様長幡さんは必死でした。

「長幡さん……! く、お前の相手はボクだ! シィル!」
 その長幡を今度はアッシュと彼女のシィルが守るように立つ。その間、飛鳥は動けない篠川を守ろうと教諭に攻撃を仕掛け、逆に跳ね飛ばされ廃墟に突っ込んだ。明日香はすかさず這い出ようとしたが足を押さえて呻く。
 瓦礫の下敷きになった飛鳥の脚は無残に潰されちの……鮮血が飛び散っていた。
 教諭はそんな飛鳥の前を悠然と横切り、飛鳥同様血(糊)の海の中で無防備に気絶している篠川の方へ。

「篠川さんを……! 今は貴方しかいない……!」
 飛鳥の言う通りだった。見れば他の仲間も全滅していた。だが、この場に及んでも倉山は動けない。
「どうして……どうして、何で僕、こんな事に……」

「無力を嘆くか。良い! 実らぬそれも我らの肴になる」
 忘れずに倉山を挑発するヴァレス。

(やっぱり、駄目なの……ケイスケっ!)
 薄目を開けていた篠川が唇を噛む。

(いや、まだ諦めるのは速かろう。少々手荒だが、すまん)
 教諭がその掌で篠川を掴んで吊り上げる! 咄嗟に剣を倉山の足元に投げた飛鳥が叫んだ。
「呑まれるな、倉山ケイスケっ! 篠川さんを失う事と奴の見た目……本当に怖いのはどっち!?」

 雑木林に周辺に飛鳥の声が響き渡る。

(センセーもみんなも中々の名演だねっ! ……さて、ここまでは少年誌的な覚醒イベントが演出出来たけど……これで吹っ切れて一歩踏み出せるなら良し、無理なら……仕方ないかな)
 アッシュもじっと注目する。


 倉山の心臓がドクドクと脈打つ。彼は自身の耳でその音を聞きながら飛鳥の投げたショートソードを拾った。

「やっぱり、怖い……怖いけど……っ!」

 ――守れない方が、もっと怖い

 倉山の脳裏に先輩撃退士たちの言葉が甦った。

「だから腹に力を入れて……目を逸らさずに……」
 倉山はそう矢野の言葉を反芻しつつ駆け出した!

「篠川を放せえええええええええっ!」
 絶叫しながら切りかかる倉山。銃を使わなかったのは篠川への誤射を避けるためだ。

 教諭は攻撃を受けて篠川を開放。だが、反撃で倉山を弾き飛ばす。
 
「はぁ……はぁ……」
倉山は荒い息をつく。確かに篠川は開放されたが今度はこの自分が狙われているのだ。だが、最初の一歩を踏み越えた倉山は、改めて長幡のストレイシオンの魔力が自分を守っているのを感じる。
 何とか倉山が銃を構えた時、今度はアリシアが発破をかけた。
「ウーラーッ!(Oorah)!!」
 大声で倉山の注意を引くアリシア。

「昔アメリカの偉大な将軍がこういった! 『勇気とは1分だけ長く恐怖に耐えることである』! 耐えろ! 今耐えなかったらお前は一生タマ無しだぞ!」

「うわあああああああああっ!」
 絶叫。
 
 倉山の銃の発砲音が林に木霊した。


「お疲れ様でした」
 長幡が教諭に言う。

「……お疲れ様ですグレーターモノホーン『先生』」
 古代も汗を拭きつつ教諭に挨拶する。
「今回も君たちの力を借りた事で良い結果になった。感謝する」
「いえそんな……ところで、先生。その、可能ならば少しだけもふもふさせてもらいたいのですが……」
「もふもふ……? ああ、別に構わぬが……」
「本当ですか!? では!」
 早速教諭の体をもふもふしてみる古代。しかし……

「ムキムキですね……」
「まあ、そうだとは思うがな」
 
 倉山は草むらに倒れてじっと動かなかった。演技では無く本当に気絶している。
 
 倉山の弾丸を全身に受けた教諭が血を吹きながら地面に倒れヴァレスがで適当にやられて見せた時、倉川は限界が来たのか気絶したのだ。

「……人間といえど撃退士と聞けば、勇猛果敢に天魔に噛みつくとばかり――だが、そうか。感情とは正負を併せ持つもの。倉山とやら。お前の魂の秤の傾き、しかと見せて貰ったぞ」
 演技を終えやたら厳粛に頷くヴァレス。

「もう大丈夫だと思うの」
 若菜が笑った。

「俺だって戦う時は今でも怖い……でも、護るべき人を護れない時があるのならそれが一番怖い。彼もやっぱりそうなんだよな」
 と長幡。

「本当にありがとうございました!」
 礼儀正しく頭を下げる篠川。

「何だか私の弟の幼かった頃と似てるのよね」
 飛鳥が呟く。
「ま、そんな弟も何時の頃からか「僕が姉さんを守る」なんて言い始めたんだから、きっと彼ももう大丈夫よ」
「……仲が良さそうで、その羨ましいです」
 少しだけ笑う篠川。
「ち、違うわよっ!? ヘタレな弟持ってた身だから、そういう不満は理解出来るかなっていうだけっ!」
 顔を真っ赤にして否定する飛鳥。
 今度は彼女が黙殺された。

「それじゃあ、君達の未来に幸多からん事を」
 ちょっと天使っぽく締めるアッシュだった。


 後日、次の依頼の物色するためそれぞれ斡旋所を訪れた八人の生徒はすでに解決されたある依頼の報告書を目にする。
 その書類には山間部に現れた多数のサーヴァントを撃退する依頼のMVPとして倉山ケイスケ(学籍番号○○○……)と表記がなされ、傷だらけで仲間や篠川と笑いあう倉山たちの記念写真が添えられていたのだった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 大虎撃破・アリシア・タガート(jb1027)
 優しさを知る者・アッシュ・スードニム(jb3145)
 撃退士・ヴァレス・バストゥニ(jb4978)
重体: −
面白かった!:7人

万里を翔る音色・
九十九(ja1149)

大学部2年129組 男 インフィルトレイター
祈りの煌めき・
若菜 白兎(ja2109)

中等部1年8組 女 アストラルヴァンガード
金焔刀士・
陽波 飛鳥(ja3599)

卒業 女 阿修羅
大虎撃破・
アリシア・タガート(jb1027)

大学部6年37組 女 インフィルトレイター
約定の獣は力無き者の盾・
長幡 陽悠(jb1350)

大学部3年194組 男 バハムートテイマー
撃退士・
矢野 古代(jb1679)

卒業 男 インフィルトレイター
優しさを知る者・
アッシュ・スードニム(jb3145)

大学部2年287組 女 バハムートテイマー
撃退士・
ヴァレス・バストゥニ(jb4978)

高等部3年31組 男 陰陽師