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マスター:稲田和夫
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2012/12/28


みんなの思い出



オープニング

少年は目を覚ます。豪華な天蓋付きのベッド。カーテンを開ければ爽やかな朝日――ではなく魔界の夜明けがそこにあった。
 ベッドから降り、豪華な寝巻からおとぎ話の王子さまのような正装に着替える頃にはメイドがベッドメイクに訪れ、侍従が朝食を告げる。広い城内を歩いて食堂に到着すれば。

 ――父上がいつものようも微笑で。

「わが息子サンバラトよ。よく眠れたか? 今日は約束通りお前に面白い物を見せてあげよう。お前もそろそろ我々の戦について見識を深めなければならないからね」

 ――そう仰った父上の表情も、口調もいつも通り穏やかで……

「丁度生きの良い原住民を捕えたのでな。中々面白いぞ? そう……人間の親子だよ。ハハハ」

『――ッ!!!』
 サンバラトがこの夢を見るとき、いつもこの場面で目が覚めて朝になる。彼の精神が拒否しているのだ。この続きを再生するのを。
 それでも、この夢――いや回想の続きが断片的に再生される。
 
牢の中からこちらをじっと見つめる、外見だけなら自分とそう違わない年齢の――

 はぐれ悪魔の少年、サンンバラトは頭を振ってその光景を追い払った。
 狭い畳の部屋。布団は十分な暖かさはあるものの、かなり使い古されている。カーテンを開けなくとも既に久遠ヶ原学園の小等部用の学生寮のある一帯を照らす朝日が感じられる。
サンバラトは少し着古したパジャマの裾を引き摺りながら、この寮の共有の炊事場へ歩く。ここ最近は気温が下がり廊下の冷気が足裏から伝わってくる。
 少年はコンロにかけられた鍋に火を入れ暖まったスープを部屋に運ぶ。スープといっても、豚の脂身とキャベツ、後は野菜くずを入れただけの粗末なもの。これに近所のパン屋で半額や只で譲ってもらった固くなった古いパンを放り込んでふやかした物が朝食となる。

部屋に戻るサンバラト。まだ彼自身の登校までには余裕があった。しかし、彼のルームメイトにとってはそうではない。

「今朝は朝練。起きなくて良いの?」

 隣の布団で、すやすやと休んでいた少年がはっと目を開ける。その目が枕元にある時計を目にして大きく見開かれた。
「――!」
 少年は跳ね起きて身支度にかかる。
「僕に言えば、もっと早く起こしたのに……。君が自分で起きるって言うから」
 だが少年のほうは答えない。声は聞こえている。無視しているのだ。
 そこでサンバラトはふやけたパンの入ったスープ皿を差し出した。
「運動するなら食べなよ」
 差し出された皿を見つめる少年の表情が憎悪に歪む。乱暴に皿を奪うとそのまま廊下を飛び出して、炊事場のほうへ向かう。
「こんなもの……!」
「ここからサッカー場までの間にはコンビニしかないよ? そこでパンを買ったら、来月の合宿の参加費用にまで手をつけないといけないんじゃないの?」
 サンバラトの声は静かだ。
 少年の手が器を持ったまま震える。彼の心の中では、今月の予算とプライドが必死に涙ぐましい闘争に明け暮れているのだ。
 結局、少年は乱暴にスープを口につけると30秒ほどで平らげた。
「いってらっしゃい」
 玄関まで、見送りに来たサンバラトを振り返ると、少年は言った。
「悪魔……!」
 冬の朝日を浴びて、サンバラトの翼が黒い光沢を見せていた――

 階段を昇るサンバラトの足音が聞こえると、炊事場で鍋の前に集まっていた寮生たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ散り始めた。
 既に服を着ている者。まだ可愛らしいパジャマを着ている者など色々だが、共通しているのはしっかりとスープ皿を抱えていることだ。

 サンバラトは共用のトイレで手早く身支度を済ませて鍋を確認しに行く。
「あ……っ」
鍋から残ったスープを掬おうとしていたのは眼鏡をかけた少年だった。手には参考書を抱えて、秀才で成績は良さそうだが要領は悪そうな感じだ。
「全部持っていっていいよ。僕はもう食べた」
「……う、うん……」
 眼鏡の少年は蚊の泣くような声でそれだけを言う。だが、よく見ると可愛い顔を俯かせ、必死にサンバラトの方を見ないようにしている。
「凄いなあ。年の瀬が近づくにつれて無くなるスピードが早くなっていくよ。しょうがないか。君たち人間はこの時期何かと物入りだものね?」
 鍋を手早く洗いながらサンバラトは一方的に話し続ける。
「食器は流しに戻しておくよう皆に言っておいてね?」
 逃げるように部屋に向かう、少年に後ろからサンバラトの声が飛んだ。

 余裕を持って寮を出るサンバラト。何気なく振り返って寮を眺める。

ここは久遠ヶ原に無数に存在する小等部寮の中でも特に格安な物件。解り易く言えば、天魔の襲撃などで両親を失ったなどで経済事情が厳しい生徒が集まっている寮だ。
 サンバラトは入寮した直後からこの調子だった。不自然ではないにしろ明らかに人外であると解る青白い肌。角と翼……。
 その気になればほぼ人間と変わらぬ外見を取ることも可能な彼はあえてそうせず、結果として寮生たちとの間には壁があった。
「……」
ルームメイトたちの態度を思い出してサンバラトの表情が一瞬曇る。気付いていないはずはないし、気にしていない訳でもないのだ。
「でも……僕はこうしなければ……」

 そう呟いて歩き始める。彼の炊き出しにルームメイトが預かるようになったのは数ヶ月前のこと。
前述のようにここの生徒はそう余裕があるわけではない。だが、年頃の少年にとって共通の趣味は大切コミュニケーションの手段だ。
そして、ここは学園都市久遠ヶ原。自由な校風も手伝って娯楽も多い。また、その規模ゆえに一つのクラス単位で見れば様々な生徒が集う、結果として普通に余裕のある子供に、この寮に住むような子供たちが付き合って思わぬ出費という事は多い。
 そういう誘惑に強い子でも、部活などに打ち込んだりしていれば何かと物入りになるもの。まして、今は歳末である。そういった出費は増加傾向だ。
 だが、デビルであるサンバラト自身はそう言った物からは超然としていた。無論、天魔には人間界の娯楽に楽しみを見出す個体も決して少なくはないのだが。彼はそうではなかったから。
 そして、食を単にエネルギー補給としか捉えていない彼にとって三食を今回のような低コストかつ、大量に作れて時間も節約できるもので満たすのは当然だった。
 在る時、育ち盛りで一日一食という無茶をして倒れたルームメイトに自分の分を分けた。
 それ以来、この奇妙な光景が日課となりつつある。
彼のルームメイトのように強硬な姿勢の生徒がいる一方、最近ではグループのリーダー格である生徒がカンパした食費をサンバラトに渡して来た。
 これで複数分を賄って欲しいという事だ。
「明日は土曜日か……何作ろうかな」
 サンバラト自身は一ヶ月同じメニューでも耐えられるが、普通の人間ではそうは行くまい。そろそろ塩と脂のスープにも限界が来ている。
 そんな事を考えながらサンバラトが、安い飲食チェーンが並んでいる一角に差し掛かった時、彼の目にある店の昇りが飛び込んできた。

『冬の定番! ほかほかの豚汁始めました』

 立ち止まって暫くそれを眺めた後、サンバラトはかくんと首を傾げた。
「トンジル……ってなんだろう」


リプレイ本文

どんな料理でも、地方や国、というか家庭の単位で好みや味付けの差というものはある。まして、豚汁のような典型的家庭料理ならなおさらである。
 その辺の齟齬を埋め、より安く良い食材を手に入れる為に、依頼を受けたメンバーは早朝から寮の食堂で打ち合わせを行っていた。
「へ〜、じゃあお出しの素はそんなに使わないの?」
 いきなりびっくりしているのは、みくず(jb2654)である。
「‥‥ダシの素は野菜とかから出るうまみに付け足す程度で良いと思うの。お味噌汁は野菜を一杯いれると、塩が薄くても美味しくなるのと同じ事なの」
「は〜、メモメモっと‥‥」
 マニア気質らしく、周 愛奈(ja9363)の語るテクニックを書き留める。
「そうそう、牛蒡と里芋も問題ですねぇ。最近は最初からささがきになっていたり、皮が剥いてあって確かに楽なんですが‥‥」
 海城 阿野(jb1043)も口を開く。
「そう、その分コストが上乗せされますからね。今回の主旨からすれば避けるべき。より安く良質な物を手に入れるにはその程度の努力は必要です」
 したり顔で頷く時駆 白兎(jb0657)。
「金額を抑えるのは大変ですよねぇ。気合を入れないと……」
 海城が言う。
「安くて美味しい豚汁をつくりましょう。出来るなら寮の皆さんの心も解きほぐして差し上げたいものですが」
 氷雨 静(ja4221)そう言ってから、ふと思いついたように。
「豆腐と油揚げはどちらをいれましょうか?」
「まあ、煮る前に炒める時、胡麻油を使いますから。今回は豆腐で作ってみましょう。さて、そろそろ開店時間ですね」


「五割り引きでお願いします」
「いやいやいや! 小間肉とはいえ、それはちょっと‥‥」
「四割五分では?」
「もともと安いんだし、せいぜい一割が限度だって!」
「四割三分」
「せめて、四割って言おうよ!」
「え? 今四割て仰いましたよね?」
「ああもう! 確かに久遠ヶ原の生徒で値切る子は多いけどさ!」
 恰幅の良い肉屋の主人は呆れたように言った。
「でも、競争の激しい久遠ヶ原界隈で、うまく行けば固定客が掴めるかも知れませんよ? その仲介料と思ってください」
 結局、目標の割引を達成した白兎。小間肉を包んでもらっている合間に他のメンバーの値切りをチェックする。
「‥‥豆腐がまだ高いですね。いまそっちに向かいます」
 だが、その時愛奈の声が聞こえた。
「待って。この豆腐なら賞味期限が迫っているから半額なの」
 このように、メンバーの値切り作戦は順調であった。


 さて、予定通りの時間に寮で集合したメンバーは買い出したものを並べ報告をし合っていた。
「申し訳無い。買い出しそのものは大成功だったんだけどね」
 と、農家から直接安く買った野菜を出しながら謝ったのはクリフ・ロジャーズ(jb2560)だ。
「交渉そのものは、上手くいったのですが‥‥」
 と和泉 恭也(jb2581)も言う。
 実際、和泉がまさしく天使の如き笑みを浮かべ、クリフが直接市場に出回らない様な野菜を買いたいと丁寧に申し出た時の反応は上々だった。
 その後、商店街に向かったメンバーと打ち合わせながら、安く買うことも出来た。
 問題は、和泉が特に機嫌よく対応してくれた農家に、この寮のことを伝えた時の反応である。
「ううむ、気持ちは解るけどねえ。野菜はやっぱり季節の物だから、いつも都合よく品がある訳では無いからなあ」
 更に、農家の方は続けて。
「それに、そう言う事情の寮の生徒さんならここまでくる足代も大変じゃないのかな」

 事情を説明し終えて謝る和泉。サンバラトは不思議そうな表情をした。
「どうしてそこまで? それに、貴方は……」
 じっと、和泉の『翼』を凝視するサンバラト。彼自身が天使を敵視する感情は無いがやはり驚いているようだ。
 ここで、和泉はにっこりと笑った。
「悪魔も天使もありません。我々はなかまでしょう?」
 
「まずは、こういうところで友だちができるように私もお手伝いするよ。もっと友だちができたら、あたしたちにも教えてね」
 優しく声をかけるみくず。言葉だけでなくサンバラトに合わせて翼を出している和泉と耳と尻尾を出しているみくずを、サンバラトは信じたようだった。


 実際の調理で中心になったのは、愛奈と海城だ。知識と技術は同レベルらしいことを、二人は相談で確認。そこで海城が提案した。
「愛奈さんがサンバラトさんにくっついて豚汁の作り方を教えてあげてもらえますか? 多分、年が近い方が説明し易い気がします」
 これは、サンバラトが料理を覚えたい、と希望したせいである。
「‥‥愛ちゃん、お料理の経験はあるけどこんなに量が多いのも、教えるのも初めてなの。でも、何事も経験と言うから頑張るの!」

「‥‥予め火の通りにくいモノはああやって炒めておくか下茹でしておくと良いの」
 愛奈がサンバラトに解説する傍らで、海城は里芋の皮を剥き、塩でもみ洗いして茹でてぬめりを洗い落としてから切るよう指示した。
「これがある意味一番厄介ですよねえ……」
 苦笑する海城。
「大丈夫ですよ。何度か作ったことがありますしね」
 意外にも和泉は手慣れた様子を見せていた。
「こんにゃくはどうしましょう? 愛奈さん。私は薄切りで塩をしてから手で揉んで、水洗いの後、茹でるのですが」
「う〜ん、丁寧な方が良いとは思うけど、簡単な方が後で作り易いかもなの。湯通しはするとして、今回は手で千切るの」
 海城は、こんにゃくは全員で手で千切ってから下ごしらえをすることに決めた。
 その後、一同は愛奈と海城の指示を受けながら大根、牛蒡、人参の皮を剥く。
「河さえ剥ければ、後はそこまで大変では無い筈です、あ牛蒡はアクを抜くのを忘れないで下さい」
「野菜は火が通り易いから、なるべく小さめにした方が良いと思うけど、海城兄様はどう思うの?」
「そうですね。ただ、ネギはぶつ切の方が良いかな?」
「具も多いし、微塵切りにして薬味にするのもありなの」
「これは、まあサンバラトさんや他の人たちにも聞いてみましょう」
 どうやら、ネギは微塵切り派が多かったらしく、愛奈は腕を振るって手早く葱を刻む。
「後は炒めて、豆腐を入れアクを取りながら煮込むだけです。あ、数分したら入れて下さい」
「う〜ん、愛奈は、お味噌は火が通りすぎると美味しくないから本当に食べる直前に入れるの」
「ああ、そうか味噌汁はそうですものねえ……サンバラトさんも、お味噌を使うなら覚えておいた方が良いですよ」
「……シチューの肉みたいに長く煮込めば良い訳じゃあないのか。解った」
 真剣に説明を聞くサンバラト。
 ここで配膳をしていたみくずが調理場に顔を覗かせた。
「ちっちゃい子達はこういう事も自分でするんだね。大変なんだなぁ……今日はおねえさんたちが頑張るから、任せて!」

 白兎も、最低限の手伝いということで調理場の隅で人参を刻む。ふと、生ゴミを纏めていたサンバラトが自分を見ているのに気づいた。
「‥‥!」
 その時、全くの偶然ながら白兎の眼帯がはらりと緩んだ。下を向いての作業が多かったせいか。そして、近くで作業していたサンバラトが何事かと振り向く。
「見るなッ!」
 
 サンバラトは無表情にその大声を受け止めた後、言った。
「ごめん」
「……すみません、ちょっと取り乱したようです」
 白兎もすぐ冷静に戻って、淡々と調理を続けた。
 その後は怪我も無く、調理は順調に進んだ。

「……美味しくできたの!」
 仕上げにおたまで味を見た愛奈が満面の笑みを浮かべた。
「うん、凄く美味しい……、愛奈さん、これでみんなに仲良くなれるかな? 心の底からあったかくなってもらえるかな?」
 愛奈は胸を張った。
「美味しい物を食べて、怒っちゃう人はいないの!」


 配膳が終わった。みくずの発案で円卓を取ったが、やはり一部の生徒はクリフや和泉、みくずを警戒している様子だ。
「皆で食べたほうが料理はおいしいと聞きましたよ?」
 和泉も、雰囲気にには気付いている。だが、それでもそれに臆する事無く笑顔を浮かべる。この堂々とした態度は少なくともマイナスにはならないようだ。

「じゃあ、皆で言おうね……いただきます」
 皆、苦労しているだけあってこの言葉は素直に言えたようだ。そして、魔宴が始まった。

 食事が終わりに近づいたころ、さっきからみくずの耳としっぽが気になっていた眼鏡の子はついに口を開いた。
「ねえ……お姉さんのそれって……?」
「うん」
 にっこりと笑うみくず。
「コスプレじゃないよ?」

 ざわめきが広がった。今回の依頼には三名の天魔が参加していることになる。さすがに、豚汁を用意してくれた相手なのであからさまな態度は示さないが、空気が変わった、というのは誰もが感じたことだ。
 何人かは席を立とうとする。
「皆様、お茶が入りました」
 が、絶妙のタイミングで静が声をかけた。寮にあった粗茶を丁寧に配りつつ静は口を開いた。
「皆様にも色々な事情がおありでしょうが 、天魔であれば全て一くくりというのはいくらなんでも乱暴でございましょう 」
 お茶と、この一言でそそくさとその場を離れようとしていた生徒も取り合えず席に留まる。
「私も天魔の事件で両親を失っておりますが 原因となった個々の天魔に恨みを持ちこそすれ他の天魔――それも人類の味方となった堕天使やはぐれ悪魔の皆様にまで敵意を持ったりはいたしません……それは筋違いというものでございますよ」
 激昂して怒鳴る子――こそいなかったが、それでも寮の子供たちが静の話しを素直に受け入れたとは言い難い。難しい雰囲気である。
「……とは言え感情がついていかないということもございましょう。なので、まずは一番身近な方 ……こうして皆様の為に腕を振るわれているサンバラト様との仲を改善することから始めては如何でしょうか 」
 自分は既に片付けに入っているサンバラトを示して静が続ける。
「同族と戦っても人と共にあろうとするそのお気持ちはかけがえのないもの。例外を一切認めずその気持ちすら否定してしまえば、皆様が最も忌避していらっしゃるであろう人間を全て収奪の対象としか見ない天魔と何も変わりませんよ」
 ここで和泉が立ち上がる。
「いつか、自分も自分を偽らずに会いたい人たちがいます。きっと受け入れてもらえないけれど、彼のように胸を張って。逃げずに分かり合おうとしている彼の行いは素晴らしいと思います」
 そう言ってから和泉はサンバラトに手を差し出した。
「自分たちから、友達になりませんか?」
 サンバラトも手を差し出した。それが、感動であれ、反感であれ、混乱であれその場にいる寮のメンバーは一様に押し黙り眼前の光景から目を逸らそうとしなかった。

 ――ただ、それゆえその場にいた誰も、和泉と握手を交わしたサンバラトの表情に一瞬暗いものがよぎったのに気付かなかった。
 これは、和泉に問題があった訳では無い。
 もっと、別の、サンバラト自身の過去に由来する感情だった。

 みくずが傍らの男の子を振り向く。
「あたし自身悪魔に見えないって言われまくってはぐれ悪魔になった。同じモノ、をどうしても尊重しちゃうよね。見た目違うと、いっそう【違うものは仲間はずれ】みたいな感じだろうし」
 
 眼鏡の子はやや考え込むような顔つきになった。

 そう言えば、自分はどうなんだろうアウルの適正が発覚した際の周りの『人間』たちの反応はどうだったか?

「自分とは違うタイプと接するのって、慣れるまで時間かかるかもしれない。でもさ、見た目の怖さよりも、悪意や、そう言った感情を腹に隠し持ったヤツの方がよっぽど怖いと思うけれどね」
 クリフが独り言の様に呟く。
 
 決して……排斥するようなものでは無かったが、撃退士となるであろう自分をみくずの言う同じモノ、として見てくれただろうか?
 眼鏡の少年は、みくずとクリフの言葉を聞いてそう思った。
「だから、俺に言わせればサンバラト君は悪い人じゃないよ」
 そう言って、クリフは優しく少年の頭に手を伸ばす。少年がびくっとしながらも、逃げようとしないのを見て、クリフその頭を撫でてやった。

 みくずが続ける。
「でもね。この学園はそれでも受け入れてくれる。そしてこの学園で自分に出来る事を見つけることが出来る 。自分を偽らないサンバラトくんは立派だと思うよ……天魔が嫌いなの、わからなくないけど、理解もしてあげて」
 もしかしたら、はぐれ悪魔や、堕天使だけではなく自分達もまた、この学園の中でこそ受け入れられる存在なのかもしれない。少年はふと、そう思った。

 無論、少年たちが一様にそう思ったわけではない。一連の会話を未だに反感に満ちた表情で聞いている者もいる。
 しかし、この豚汁作りという名のサバトが、それまでとは違った何かをこの寮にもたらしたのは事実だったようだ。それがどう変化していくのかはまだ解らない。解らないからこそ、希望を捨てるべきではないのだろう。
「申し訳ございません。お茶が冷めてしまいましたね。淹れ直して参ります」
 再び、穏やかな表情に戻った静が席を立ったのを機に、その日はお開きとなった。


 再び、サンバラトの回想。悪魔にも趣味の範囲で料理やら酒を嗜む風習はある訳だが、その役を担当している魔族は興味本位で調理場を除いたサンバラトに言ったものだ。

 ――ぼっちゃん。料理っつーのは後片付けまでが料理なんですぜ? ゲハハ、なに、人間共の受け売りですがね!

 という訳で、サンバラトはさっきの話で心境に変化の合った眼鏡の子数名、それと緊急の依頼が入ったせいで、他の7人と入れ違いに到着した並木坂・マオ(ja0317)と共に後片付けを終えた所である。

「いやーっ、本当に今日は申し訳ないっ! 後片付けだけでも頑張るッ!」
 とマオ。
「まあ、思ったより早く終わったから」
 特に、サンバラトは気を悪くいた様子は無い。片づけまで気が回った撃退士は居なかったが、彼らのおかげで何人かの寮生が手伝ってくれたのだから、結果オーライ、という訳か。
 さて、最期に冬とはいえ置いておきたくない生ゴミを抱えたサンバラトが、冬の澄んだ夜空の下を集積所に向かうと、木の下に人影が立っていた。
「これを渡し忘れていました」
 白兎が人差し指で掲げて見せたのは、例の肉屋のメモ。育ち盛りの少年にとって肉が手に入り易くなるのは、ありがたい。
「僕は別に、戦争を起こした国の人がすべて悪いとは思っていません。さっきのことは、無関係です」
「……ありがとう。みんな、喜ぶと思う」
 僅かに微笑むサンバラト。

 後日、撃退士には満額の謝礼が支払われたという。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: ウェンランと一緒(夢)・周 愛奈(ja9363)
 ドラゴンサマナー・時駆 白兎(jb0657)
 手段無用・海城 阿野(jb1043)
重体: −
面白かった!:2人

魔に諍う者・
並木坂・マオ(ja0317)

大学部1年286組 女 ナイトウォーカー
世界でただ1人の貴方へ・
氷雨 静(ja4221)

大学部4年62組 女 ダアト
ウェンランと一緒(夢)・
周 愛奈(ja9363)

中等部1年6組 女 ダアト
ドラゴンサマナー・
時駆 白兎(jb0657)

中等部2年2組 男 バハムートテイマー
手段無用・
海城 阿野(jb1043)

高等部3年27組 男 ナイトウォーカー
天と魔と人を繋ぐ・
クリフ・ロジャーズ(jb2560)

大学部8年6組 男 ナイトウォーカー
愛に満ちた翼・
和泉 恭也(jb2581)

大学部3年218組 男 アストラルヴァンガード
サバイバル大食い優勝者・
みくず(jb2654)

大学部3年250組 女 陰陽師