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マスター:稲田和夫
シナリオ形態:イベント
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/02/25


みんなの思い出



オープニング

「そこまでだ! 悪魔に魂を売り渡した操り人形め!」
 廃墟と化しそこかしこから火の手が上がる中、レザーレスハウンド(jz0215)はゆっくりと振り向いた。彼の濁った瞳に自身を包囲する十数名の武装した撃退士たちが映る。
 いずれもどこかの企業に所属するか、フリーランスで活躍している強者らしいことがその佇まいから感じられる。
「思ったより早かったなぁ……」
 ヴァニタスはニタリと笑ったが、次の瞬間には失望したような表情で再び前を向く。
「と、思ったら学生さんたちじゃねえのか。お呼びじゃねえんだよ」
 相手の真意を測りかね呆然とする撃退士たちを無視して悠々と立ち去ろうとするヴァニタス。
「逃がすか!」
 しかし撃退士たちがそれを見逃す筈もなく、彼らは洗練されたコンビネーションで全方位からヴァニタスに攻撃を開始した。
 セオリー通り、遠距離攻撃による牽制からの接近戦。幾ら強力なヴァニタスとはいえ、この数なら十分有利に戦える、そう確信していた撃退士たちのリーダーはその武器を振り下ろす暇も無く、凄まじい速度と質量に激突されそのまま血煙と共に吹っ飛ばされた。
 いや、リーダーばかりではない。
 同時に仕掛けた仲間も、遠距離で銃や弓を握っていた女性たちも――ヴァニタスを包囲していた撃退士数十名がまとめて何かに薙ぎ倒されていた。
「がはっ……何が……起きた!?」
 肋骨を砕かれ、内臓を幾つか潰されながらも辛うじて身を起こしたリーダーは見た。
 このヴァニタスの主要な武器として事前の情報にもあった巨大な鉄球が、柄の部分から伸びた長大な鎖によって振り回され空を切るのを。
「ヒャハ! 奥の手ってのは最後まで隠しておかなきゃなあ!?」
 どうやら振り回す瞬間に膨大な魔力で鉄球を強化していたらしく、周囲の破壊の痕跡は凄まじい。
「リーダー!」
 この時、残りの撃退士たちがようやく駆けつけたが鉄球の大回転で纏めて全滅した仲間の姿に茫然となるばかり。
 そこに、高所からレザーレスハウンドの部下である獣人たちの銃弾が放たれ撃退士たちは足止めを余儀なくされる。
「さぁて……それじゃあ、状況を始めるとするかァ」
 今度こそ悠々と歩みを進めるレザーレスハウンド。その視線の先には既に彼の部下によって占拠されたフェリーが埠頭に停泊していた。


 茨城港を襲撃したヴァニタスがフェリーを奪って出航したという知らせが入った時、久ヶ原学園に衝撃が走った。
 大抵の学園生は、転位装置によって各地へ赴くため忘れられがちかもしれないが、茨城県沖に浮かぶ人工島である久遠ヶ原学園に向かうには海路が基本となる。
 つまり、敵の狙いは一つしかなかった。
「……わかりました。直ちに船舶の手配をお願いします」
 このヴァニタスをずっと追っていた当事者という事で真っ先に学園から連絡を受けた櫟 葉月(イチイ ハヅキ)はゆっくりと電話を置いた。
 前回の相馬原駐屯地ゲート攻略戦でヴァニタスは捕えていた市民の大半をデビルキャリアー(DC)の亜種に詰め込み、そのDCを関東各地に逃走させた。
 当初は、別の場所に改めてゲートを開くためとも、他の悪魔の勢力下に鞍替えするための手土産とも言われていたが、今ならその目的は明らかだ。
「陽動、ですね」
 市民を分散させることでハヅキらの目を欺き、茨城港襲撃のための時間を稼いだのだ。
では、彼は何のために久遠ヶ原への直接攻撃などという大それた行動に出たのか。
 撃退士たる学園生と教師たちが常駐している久遠ヶ原にディアボロのみを率いてたった一人で殴り込みをかけるなど無謀以外の何物でもなく、端的に言って自殺と同義である。
 しかし、ハヅキにはその理由が解っていた。

 ――まあアレだな。久遠ヶ原ってのがそんなに良い場所なら、俺も一度見物に行ってみるか。
 
 ――あ、学園生の関係者なら大丈夫ですよ、陸尉! いつでも大歓迎です!

 それは、学園生時代のハヅキが休暇中に犬養陸尉に会いに行った際の他愛もない会話。
「……解りました。陸尉。これが最後の演習ですね」
 ハヅキは一瞬だけ寂しそうに微笑んでから、整列する部下たちのほうを振り返った。
「これが片品村以来あのヴァニタスを追跡して来た、我々片品隊の最後の戦いとなるだろう。作戦……いや、状況を開始せよ」
 ハヅキは敢えて言い直した。
 何故なら、これは犬養と自分の最期の演習なのだから。
 せめて、そう思わなければ悲しみに押し潰されてしまいそうだったから。
 

 リトルリッチ(jz0216)は今にも泣きそうになりながら飛び続け、眼下の山野を駈ける迷彩模様のDCを必死に追跡していた。
 彼女のヴァニタスは今にも撃退士たちとの戦闘に入ろうとしている。
 先ほどまでDCを護衛していたディアボロがこの場を離脱して飛び去ったのがその証拠である。あのディアボロは三体一組として生み出され、犬養の許にいる他の二体と感覚を共有している。犬養が撃退士たちとの戦闘を開始したため、合流しようとしているのだろう。
 彼女は当然、一刻も早くそこに駈けつけたい。
 だが、それは出来ない。
「中にいるニンゲンを……助けないと……!」
 真下のDCの中に彼女と知己があるニンゲンが居る訳ではない。
 だが、あれを放置して捕えられているニンゲンの身に何かあれば、その家族や親しい友人がどんな想いをするのか。
 それは、かつて天使と悪魔の戦いで最愛の父を失った彼女には良く解っていることだった。
 そして、彼女のヴァニタスがそれを理解した上で、彼女を遠ざけるためにディアボロに時間稼ぎを命じているのは間違いない。
「……いじわる、しないで……」
 少女は泣きじゃくりながら思う。
 これこそがあの男の復讐なのかもしれない、と。


 フェリーの甲板にてレザーレスハウンド、いや犬養萩臣は腕を組んで物思いに耽っていた。  
 あの日、人々を守る自衛官としての覚悟と誇りすら踏みにじられ、悪魔の操り人形として歪な生を与えられて以来彼は忸怩たる思いを抱えて生きていた。
 力を手に入れた当初は、いずれ悪魔の寝首を掻いてやろうという叛意もあったが、想像以上に強力な悪魔の支配にその機会は中々掴めず、彼はその苛立ちを自分をヴァニタスにした悪魔にぶつけることしか出来なかった。
 無論、彼の部下を殺したのは彼女の部下ではあるが、それが八つ当たりでしかないことは彼自身が良く解っていた。
 しかし、彼女はまるで他の誰かの面影を彼に見ているかのようで、どれほど嬲られても耐え続け、それが更に彼を苛立たせた。
 そんな時彼に、当時は人間の意識から隠蔽されていた群馬に近づいた人間を追い払うようにという命令が下される。
 当時彼を支配していたアバドンらが死に絶えた今となっては、上層部がどのような意図を持っていたかまでは解らない。
 しかし、彼は逆にこれをチャンスと考え盛大に暴れた。
 そして、久遠ヶ原の生徒たちは見事に群馬の解放を成し遂げた。
 彼はその勝利を密かに喜ぶと同時に嫉妬した。
 何故、人々を守るという事に誇りを抱いて軍人として生きて来た自分にはその力が与えられなかったのか。
 何故、彼ら学園生は天魔から人々を守る力を与えられたのか。
「……だからよ、俺に見せてくれや」
 遥かな水平線の彼方にある久遠ヶ原を見て、彼は口の端を釣り上げた。
「お前ら撃退士共が本当に天魔共から人間を守れるのかを、な」 


リプレイ本文

 良く晴れた午後。茨城県沖を一路久遠ヶ原学園に向けて疾走するフェリーの真上。甲板上に並べられた銃火器の傍らでじっと蹲っていた一匹のアーミーハウンド、通称軍人犬は何か察知したように顔を上げ、銃器を構えようとする。
 その次の瞬間、海上を飛来した弾丸がその肩を貫通する。
 その軍人犬は苦痛の悲鳴を上げつつもライフルのスコープで、水平線の彼方から姿を現しつつある高速艇を確認する。その目に映ったのは甲板の上で、たった今発射したばかりのライフルを構え直すミハイル・エッカート(jb0544)の姿であった。
「……急所は外したか」
 仕留め損なったことを口惜しがるミハイル。
「とにかく撃ちまくろうぜ。頭を押さえて接舷させればこっちの勝ちだ」
 既に戦闘形態への変形を完了させていたラファル A ユーティライネン(jb4620)が構えるライフルの砲身から、粒子ビームのような形状に変質したアウルが迸り、フェリーの甲板に集まり始めた軍人犬たちの間を撃ち抜いた。
 ラファルの長距離砲は、先ほどミハイルの攻撃で負傷した軍人犬に直撃し、頭部を吹き飛ばされた軍人犬がゆっくりと甲板に崩れ落ちる。
 しかし、この段階では既に撃退士たちの高速艇も敵の射程内に入っており、軍人犬たちのライフルとロケット砲が猛然と火を噴き始め、海上には瞬く間に撃退士側とディアボロ側の銃火が飛び交う有様となる。
「やはり……そう簡単には行きませんか」
 片目を閉じて、敵の狙撃手に向けて発砲したRehni Nam(ja5283)は、敵の弾丸が頬を掠めた時、ふと気づいた。
「あれが他のディアボロたちを指揮している……?」
 レフニーの目に映ったのは、他の軍人犬より頑健な体格を持った漆黒の狼男である。彼女の判断通り、それがケルベロス・マスターサージャント、通称犬曹長であった。
「……よし」
 レフニーは小さく呟いたかと思うと、大きく息を吸い込み、フェリーに向かってこう怒鳴った。
「海中強襲部隊に連絡、次のコメットを合図に10秒間阻霊符切断! 底部より侵入開始せよ!!」
「レフニー!?」
「ああ!? そんなの聞いてねえぞ!」
 突然の事に唖然となるミハイルとラファル。
 無論、海中部隊など存在しない。これは敵の注意を逸らし次の攻撃に繋げるためのハッタッリである。
「……どうでしょうか」
 期待を込めた目でディアボロたちを見るレフニー。
 しかし、知能は高くても人間の言葉は理解出来ないのか、あるいはブラフを看破するだけの知能は持ち合わせていたのか、ディアボロたちは混乱した様子も無く統率の取れた攻撃を繰り返す――かに見えた。
「オイ、連中の様子がおかしいぞ」
 ラファルの言う通り、突然ディアボロたちが混乱し、何匹かが反対側の舷側へと向かい始める。
「レフニーさんのブラフが……通じたのでしょうか?」
 桜庭愛(jc1977)が嬉しそうに呟くが、レフニーは少しだけ恥ずかしそうに顔を赤らめながら首を振る。
「いいえ……多分左舷側の攻撃が始まったんだと思います」


 軍人犬たちの注意が右舷側に引きつけられる形になったのは、左舷側の撃退士たちが持っていたV兵器が、右舷側のミハイルやラファルらの持っていたものに比べて射程の短いものが多く先に攻撃を開始した右舷側に軍人犬の注意が手中したせいである。
 無論、軍人犬たちも完全に左舷を無防備にしていたわけではなく、ライフルを構えて警戒していた軍人犬と、ようやく弓の射程にまで到達したボートの上の鳳 静矢(ja3856)が激しい撃ち合いを始めていた。
「さて、場をかきまわすという目論見は成功したようだが……」
 険しい顔でフェリーを見上げる静矢。これに対し一匹の軍人犬がマシンガンを構え掃射を開始した。
「静矢さんっ!?」
 運転席に座っていた彼のパートナーである鳳 蒼姫(ja3762)が叫ぶ。
「大丈夫だ」
 しかし、静矢は蒼姫を抱いて素早く二人で身を伏せた。直後、その頭上の高速艇の窓ガラスが撃ち込まれた弾丸によって砕け散る。
「やってくれたな……」
 静矢は、ガラスの破片を浴びながらも穴の開いた窓越しに弓を番え軍人犬に狙いを定める。
 そして、軍人犬がマシンガンを撃ち尽くした瞬間矢が放たれ、見事軍人犬の胸に突き刺さった。
 しかし、その直後フェリーの屋根から顔を出した複数の軍人犬がロケット弾を一斉に高速艇に向けて発射する。
「うわぁ! この数、とても撃墜し切れませんよ!?」
 袋井 雅人(jb1469)が叫ぶ。
 袋井の放つ風の刃は、纏まって飛んでくるロケット弾の一発に奇跡的に命中したが、残りの弾はなおも高速艇に向かって飛来してくるのだ。
「アキに任せてください! 面舵いっぱいですぅ〜!」
 蒼姫がハンドルを限界まで右に切る。急な方向転換により、高速艇は左舷側が浮き上がるほど傾くが、おかげでロケット弾はギリギリ船を掠めるようにして海面に着弾。直撃を避ける事が出来た。
「やりましたぁ!」
 海面に着弾したロケット弾の爆発で拭き上がった水柱の水を浴びながら蒼姫が喜ぶ。
 しかし、その水飛沫の向こうでは一体の軍人犬がライフルを構え、蒼姫の頭部に照準を合わせていた。
「アキ!」
 真っ先に気付いた静矢が、再度弓を番えんと試みるが、そこに他の軍人犬がマシンガンを放つ。
「くっ……!」
 降り注ぐ弾丸に弾き飛ばされ、矢が海に落ちてしまう。
「鳳さん!」
 袋井も別の敵を抑えるのに手一杯で咄嗟には動けず、遂に軍人犬の指が引き金を引き、弾丸が蒼姫に向かって発射される。
「駄目ぇ……!」
 蒼姫も狙われていることにはすぐ気づいた。しかし、今現在高速艇を操縦しているのは彼女であり、その場を動くわけにはいかない。咄嗟に頭を大きく仰け反らせるが、軍人犬の狙撃はそれも計算にいれており、弾丸は蒼姫の脳天に向かって一直線に空を切る。
「やらせませんよ。弾丸も、貴方たちもここで止めます……!」
 その瞬間、黒井 明斗(jb0525)が射線に飛び込もうとする。しかし、ライフル弾の速度は速い。
「間に合わん……!」
 静矢が口惜しそうに叫ぶ。
「いいえ……間に合いました」
 だがそのまま蒼姫に命中するかに見えた弾丸は、黒井の手を離れて飛んだフローティングシールドに甲高い音と共に弾かれていた。
「やった!」
 袋井が叫ぶ。
 しかし、次の瞬間には軍人犬たちが高速艇に向けて一斉射撃を開始、雨あられと機関砲の弾丸を降り注がせる。
 面制圧を目的としたこの掃射は蒼姫の操縦でも回避し切れず、瞬く間に高速艇は弾痕だらけになっていく。
「黒井さん、すまない! 頼む!」
 弓を刀に持ち替えた静矢が叫ぶ。
「任せてください! これ以上船体は傷つけさせない!」
 黒井はフローティングシールドを展開したまま、高速艇の舳先に敢然と立ち塞がった。そこに当然の如く火線が集中するが、一発一発の威力が低い機関砲は、全身を強靭なアウルで覆った黒井に対してはそう簡単に致命傷を与えられない。
 そして、黒井を盾にした高速艇はそのままフェリーに急接近していく。
「横づけしますぅ! 黒井さん、振り落とされないでぇ〜!」
 操縦席で水飛沫を浴び、風に髪をはためかせながら蒼姫が絶叫する。
「心配いりません!」
 黒井は槍を逆手に持ち替えると、それをボートの重要な部分ではない箇所に突き刺して固定して、それにしがみついた
 直後、高速艇はフェリーの横腹に船体をこすりつけるようにして減速を開始する。
「止まってぇ〜!」
 高速艇はフェリーの舷側と激しく擦れ合い、火花を散らしながらも遂に停船を成し遂げた。
 これを確認した軍人犬は歯噛みし唸り声を上げながら、腰のアーミーナイフを引き抜く。しかし、その時には既に抜刀した静矢が、跳躍で甲板に着地していた。
「遅い……!」
 静矢の太刀が一閃し、軍人犬の上半身がどさりと甲板に落下する。
 他の軍人犬たちはナイフで一斉に静矢に襲い掛かろうとする。しかし、その瞬間静矢の前に黒い影のようなものが広がり、その中から袋井が猛然と飛び出した。
「何とか辿り着けましたね……久遠ヶ原学園には愛する恋人と大好きな友達がいます。自分の全てを出し切って必ず守りますよ!」
 軍人犬たちが袋井に襲い掛かるより早く、その足元の影から闇が水柱のように立ち昇り瞬く間に周囲を覆い尽くすと、ディアボロたちの視界を奪う。
 既に操縦席を離れ自身も魔法で軍人犬たちを攻撃していた蒼姫は、甲板の上の状況を見ると、高速艇に待機していた学園生と片品隊を振り返った。
「今ですぅ! 皆さん行ってください!」


 左舷で激闘の末に船内への突入が始まっていた頃、右舷では未だに学園生たちの苦戦が続いていた。これはやはり、先に攻撃を始めた右舷に敵が戦力を集めていたことが大きい。
「ちっ……イカロスバレットじゃあ駄目か」
 フェリーの一番高い場所に陣取って指揮を取る犬曹長を睨みながらミハイルはライフルをリロードした。
 銃撃によって犬曹長を下に落とすという彼の目論見は残念ながら失敗したらしい。
 そして、その間にも敵の銃火は激しさを増し、高速艇はフェリーに近づけないでいた。
「せめて、もう少し接近しないと……」
 レフニーが僅かに焦りを滲ませた声で呟いた瞬間、狙いの外れたロケット弾が海面で爆発し、破片と爆風がレフニーを襲う。
「レフニー!」
 レフニーが爆風にあおられ、高速艇の船体に叩き付けられ、そのまま動かなくなったのを見てミハイルが駆け寄ろうとする。しかし、そこに容赦なく弾丸が撃ち込まれた。
「ちっ……野良犬のクセに手こずらせやがって!」
 業を煮やしたラファルは偽装を解除。内蔵していたフライトユニットを展開して甲板から飛び上った。
「あの真っ黒いのを狙えば良いんだな!?」
 ミハイルが頷いたのを確認すると、ラファルは一直線に犬曹長の方へと飛んでいく。それに気づいた何体かの軍人犬は、ラファルを撃墜しようと空にも銃口を向けるが、ラファルはそれを躱しつつ、遂に犬曹長の頭上に辿り着いた。
「思った通り。上と下に攻撃を分けなきゃいけねえ分弾幕が薄くなったぜ……食らいな!」
 ラファルの背面にミサイルポッドが出現。そのハッチが開き内部のミサイルが一斉に発射される。
 しかし、既にラファルの接近を察知していた犬曹長はミサイルを受けながらも怯むことなく近くに居た軍人犬二体と共にマシンガンを発射した。
「クソ、が……!」
 集中砲火を浴びたラファルの飛行ユニットが損傷を受け、火花が散る。勿論、ラファル自身の傷も深い。
 だが、ラファルは口の端から血を流しながらも、不敵に笑うと急降下を開始した。
「何をするつもりだ、ラファル!?」
 怒鳴るミハイル。
「だからさ……こいつを落としゃいいんだろ!?」
 加速したラファルはそのまま落下の勢いを利用して犬曹長に組み付く。すかさず、犬曹長はラファルに噛みつき血が盛大に飛び散る。
「もう遅えんだよ!」
 しかし、ラファルはそれをものともせず、再度加速し抱き合ったままフェリーの環境の屋根から、甲板へと落下を始める。
「やっちまえ、ミハイル!」
 ラファルの意識はそこで途切れた。
「ああ……?」
 と思ったのはラファルだけで、重傷を負って甲板に叩き付けられたと思った数秒後には彼女は目を覚まし、ガバッと顔を起こした。
 その彼女の眼前で、生命に満ちた大樹の芽のような幻影が揺らめき、次の瞬間にはアウルの粒子となって消え去る。
 一方、犬曹長の方はほとんど無傷ではあったが、まだ意識は朦朧としている様子である。
「これは……」
「ラファルさん、もう一度、飛んでください!」
 茫然とするラファルの耳にレフニーの怒鳴り声が響く。ラファルがそっちを見ると、さっき爆風を受けた筈のレフニーが立ち上がっていた。その表面の傷は、彼女の体を循環するアウルの力で煙を立てるかのような勢いで急速に再生している。
「合点!」
 リジェネレーションで再生したレフニーが生命の芽で自分を回復させた、というところまで理解したラファルは再度飛翔、間一髪仲間を救おうと殺到して来たディアボロたちから逃れることが出来た。
「お前らの戦果、無駄にはしないぜ! 鳥よ、獣よ、古の神々よ、敵を蹴散らせ!」
 戦闘当初から犬曹長を狙っていたミハイルは、この千載一遇の機会を逃さなかった。
 ミハイルが解放したアウルが、彼の持つ多種多様な銃の幻影を形作り、次いで光弾へと変じると、犬曹長と軍人犬の周囲を荒れ狂い、その中の一発が遂に犬曹長の側頭部を貫通した。
「この戦闘は、犬への、いや犬たちへの供養だな」
 ミハイルは、たった今倒された犬曹長のドッグタグが甲板に、ちゃりんと音を立てて転がったのを見ると、厳粛な表情でそう呟き、無言で犬曹長に向かって敬礼する。
 こうして戦闘を指揮していた犬曹長が撃破されたことで、甲板での戦闘の大勢は決した。
「さあ、ここは僕たちに任せて早く船内へ!」
 袋井は、片品隊の一人に切り掛かろうとした軍人犬の前にワープして出現すると、チェーンで相手を攻撃しながら叫んだ。
「すまん!」
 その撃退士はその足元のイワシには全く気付かず船内へと突入していく。
「……無駄になってしまいました」
 フェリーの甲板の上にばら撒いた計10匹のイワシに気付いた者は敵味方とも皆無だったことに、袋井は少し寂しそうであった。


 何人かの撃退士が空を飛んだり、直接壁を走るなどして突入する中、山里赤薔薇(jb4090)は鉤付きロープを使用して、フェリーの右舷側を一生懸命よじ登っていた。
「少し遅れてる……急がなきゃ」
 しかし、山里が頭上を見た瞬間、満身創痍の軍人犬が血を流しながらも震える手でマシンガン此方に突きつけていた。
「……!」
 山里は咄嗟に手を放して、フェリーの壁面を蹴って高速艇に着地する。しかし、その直後、軍人犬のマシンガンが山里に降り注ぐ。
 だが、弾丸が山里に直撃する直前に、愛が全身にアウルを纏い、その身体を軍人犬に叩き付けて大きく吹っ飛ばした。
「たった一秒の間を外せばそこを起点に攻め込める。あなた方が軍人なら私は武術家。間を外させるのこそ武の真髄ですよ♪」
 強烈な一撃に今度こそ絶命した軍人犬に不敵に言い放つと、愛は甲板にひらりと降り立ち、次いで山里の足元に跪いた。
「大丈夫だよね? さあ、早く行って。私たちの学園を守ろう」
「あ、ありがとう……でも」
 山里はお礼を言いながらも、困ったようにフェリー壁面を指さす。鉤付きロープは途中から切断され短くなっており、撃退士のジャンプ力でもギリギリ届かなくなっていた。
「大丈夫。私に任せて!」
 跪いたまま自身の肩と手を示す愛。ようやくその意図を理解した山里は少しだけ微笑んだ。
「うん……お願い」
 直後、まだ散発的に銃声が響く甲板の上に、愛のトスでジャンプした山里が短くなったロープを伝い無事降り立った。
 山里は一度だけ下の愛を振り返る。そして、愛が手を振ったのを確認すると何かを決意したように呟いて、一気に駆け出した。
「犬養さん……ここで終わらせます」


 戦闘の中心は船内へと移行しつつあった。そこかしこで片品隊と軍人犬たちが繰り広げる銃撃戦の音や爆発音が船体を揺るがす中、突入した学園生たちは遂にフェリーの車庫へと到達した。
「開きませんね……」
 車庫へ繋がる自動ドアを操作していた雫(ja1894)はそう呟くと、険しい表情で彼女の後ろで身構える他の撃退士たちの方を振り向く
 そして、何人かの学園生が無言で同意を示すと、彼女は小さく頷いた。その直後、彼女の全身を巡るアウルが魑魅魍魎を思わせる禍々しいものに変じ、無骨な大剣が紅の禍々しい闘気を帯びる。
 雫はそのまま大剣を扉に叩き付けた。頑丈な鉄の扉はまるでダンボールか何かのように容易くひしゃげ、吹き飛び――そしてその扉の向こうから数個の手榴弾が撃退士たちの足元に転がって来た。
「しまった!」
 雫は咄嗟に叫ぶと、大剣による受け防御の体制を取り自分が盾になろうとする。
 しかし、手榴弾はまるで意志があるかのように不自然な転がり方で学園生たちの背後や足元などに到達すると一斉に爆発した。
「室内への突入としちゃあ、落第点だな! ヒャハハハ!」
 爆炎の向こうから響くレザーレスハウンド……いや犬養萩臣の嘲笑。そして、黒い影が弾丸のように扉の向こうから飛び出し学園生たちに襲い掛かる。
「気を付けろ!」
 真っ先に気付いた咲村 氷雅(jb0731)は黒いアウルの剣を形成して振るう。それによって発生した黒い竜の波動が猟犬型の犬曹長に襲い掛かる。
 しかし、犬曹長は跳躍してこれを回避すると壁を利用した三角飛びで、後衛の学園生たちに狙いを定める。 
「このディアボロは私が食い止めます……!」
 ユウ(jb5639)はそう叫ぶと飛び掛かって来た犬曹長を真正面から受け止めた。犬曹長はその巨体でユウに圧し掛かって押し倒し、その鋭い牙をユウの首筋に突き立てんと咢を開く。
「……!」
 しかし、両手で握った武器の柄で犬曹長の首を抑えるユウの全身が黒いドレスのようなオーラに覆われたかと思うと、その頭部に悪魔を思わせる二本の角が生え、一旦は押し込まれたユウが再度敵を押し返し始める。
「……はぁっ!」
 そして、遂にユウの大鎌が犬曹長を弾き飛ばした。壁に叩きつけられつつも素早く体勢を立て直して床に着地する犬曹長。
「仕留めさせてもらうよっ!」
 物陰に潜んでいた川澄文歌(jb7507)が犬曹長の死角から、蒼い光を纏った衝撃波を放った。
 素早い動きを得意とする犬曹長も、この死角からの奇襲には反応し切れず。衝撃波を受けて吹き飛ばされてしまう。
 しかし、倒れつつも起き上がった犬曹長は、その爪から黒い炎のような魔力を噴出させ四肢を緊張させた。
 その魔力が闇の力を強化して纏っていることに気付いたのは、文歌の事を常に気遣っている水無瀬 快晴(jb0745)である。
「文歌! 気を付けて!」
 快晴が咄嗟に放った黒いアウルの一撃が、犬曹長の纏った黒い魔力を打ち砕く。
 そして、犬曹長が戸惑った隙に、文歌は攻撃を避けることが出来た。
「ありがとう、カイ」
 二人はお互いに笑い合い、それぞれの目的のために一旦アウルを用いてその気配を消すのだった。


 犬曹長が学園生たちと交戦している隙にエイルズレトラ マステリオ(ja2224)は他の学園生より一足早く車庫の内部に突入していた。
「ペットをけしけかけても良かったんですかねぇ? ほら、肝心のあなたががら空きですよ!」
 犬養は突然頭上から響いた声に反応して頭を上に向ける。
 彼が見たのは翼も生やさずまるで空中を走るようにして此方に向かって来るエイルズレトラの姿であった。
「何時かの三流手品師か? 隠し芸はもう飽きてんだよ!」
 犬養は嘲るように叫ぶと、片手に構えたサブマシンガンを空中のエイルズレトラに向けて掃射し始めた。
「三流かどうか……あなた自身の身体で確かめさせてあげますよ!」
 僅かに怒気を含んだ声で言い返すと、エイルズレトラは見事な空中機動で弾丸を回避、そのまま犬養の懐に飛び込み、愛用のケーン(ステッキ)を犬養の上半身に向けて突き出した。
「効かねえな!」
 しかし、甲高い金属音と共にケーンの先端が弾かれる。僅かに眉を顰めたエイルズレトラは、犬養がその巨大な鉄球を素早く動かしてケーンを弾いたことを理解した。
「図体の割に……」
「どうしたァ? もうタネ切れかァ! ステージは始まってもいねえぞ!」
 犬養はそう叫ぶと、グワっと口を開いてエイルズレトラの首筋に噛みついた。
「!」
 牙を深く突き立てられ、大きく目を見開くエイルズレトラ。
「まったく……下品な上にせっかちな人ですね」
 しかし、エイルズレトラの声はまだ余裕を失っていない。
「……ああ?」
 犬養が怪訝そうな表情を見せる。直後、犬養が噛みついたエイルズレトラの体は一瞬にして無数のトランプと化して崩れ去る。
 そして、犬養が虚を突かれたその一瞬を、気配を消して攻撃の機会を伺っていた青柳 翼(ja4246)は見逃さなかった。
「その隙、狩らせて貰います!」
 稲妻の如き速度で犬養の側へ駆け寄った青柳は、犬養の鉄球を持つ方の腕を狙って大鎌を一閃させる。
「……痒いじゃねえか、コラ!」
 しかし、犬養の身体は頑丈だった。青柳の一撃は、武器を取り落とさせるどころか浅い傷ををつけるに留まる。
「浅い……!」
 青柳は、素早く飛び下がり間合いを離そうとする。だが、青柳が着地した瞬間、鎖の先端についた鉄球が青柳の真横から飛んで来た。
「え……!?」
「お前ら、ヌルいんだよォ! ……こんなモンか? こんな程度なのかよぉ!?」
 嘲るような、同時に問いかけるような響きを持った叫びと共に、犬養は奥の手である鎖付きの大鉄球を振り回し始めた。
「まるで扇風機みたいですね……えっ!?」
 軽口を叩いて攻撃に移ろうとしたエイルズレトラの顔がすぐさま引き攣った。
 当初はその外見に相応しく、極めて鈍重に空を切るだけに見えた鉄球は、犬養の魔力を注ぎこまれ数秒後には広範囲を薙ぎ払う超高速の嵐と化した。
 エイルズレトラも、いつもの余裕を捨て回避に専念するしかない。
 肉眼ではとらえきれぬ速度で自在に振り回される鉄球は壁や床を削り、学園生を無差別に殴打していく。
 だが、暴威を誇ったこの攻撃も、魔力の消費の関係で長くは使えないのか文字通り嵐が過ぎ去るように収束に向かい、やがて、崩れて穴だらけになった壁に鉄球がめり込むことで一旦終わりを告げる。
 その瞬間、満身創痍ながらも、愛用の大剣を構えて鉄球に耐え抜いた雫が動く。
「相馬原の時といい苦汁をなめさせられましたが……今度はそうはいきません!」
 そう叫ぶと雫は身の丈ほどもある大剣を大上段に構え、跳躍した。
 雫の、視線の先にあるのは鉄球と持ち手を繋ぐ鎖、鉄球が壁にめり込んだことで目一杯まで伸び切ったそれである。
「断つ!」
 犬養が攻撃を終了させたことと関係があるのか、それまで鈍く輝いていた鎖が光を失った所に振り下ろされた雫の刃は、甲高い金属音と共に鎖を途中から断ち切った。
「てめぇ……!」
 それを目の当たりにした犬養は大きく目を見開いて歯噛みした後――歯を剥きだしてほくそ笑んだ。
「だから……てめェらは甘いってんだよォ!」
 そう叫んだ犬養は鉄球の柄であった金属の棒を投げ捨てると鉄球に向けて掌をかざす。
 その先端から、黒く輝く魔力の鞭のような物が伸びたかと思うと、壁にめり込んだままの鉄球に絡みつく。
 そして、犬養がその手を引くと鉄球は実体のある鎖に牽引されるかのように、壁から引き抜かれ宙に浮いた。
「やはり撃退士なんぞ、只の雑魚共だったってことだなァ! もう飽き飽きしたぜ! このままミンチになりやがれ!」
 犬養はそのまま、鉄球を一旦加速のために引き戻す。既に一度目の鉄球による暴風で最初に突入した学生たちの多くは、甚大な被害を受けている。間髪を入れず二度目を受けることは敗北にも繋がりかねない。
 学園生の誰もがそう感じた時、車庫の中に山里の決意を込めた声が響き渡った。
「やろう」
 何 静花(jb4794)は無言で頷くと、その場で両足を開いて床を踏みしめ、静かに呼吸を整えた。
「ハッ、そんなにミンチになりてえかよぉ!」
 嘲笑いながら犬養が鉄球を繰り出す。
 その瞬間、何は普段は眠そうに見える半目をカッと見開いて、飛来する鉄球に全神経を集中した。
「亡者は欲によって動く。ならば成すべきことを……」
 戦闘中に喋るのは静花の趣味ではない。故に、これは恐らく彼女が集中した際に思い浮かんだ無意識の呟きだったのだろう。
 そして、その集中故に静花は鉄球が伸び切り、加速する直前の刹那の一瞬を見極めることが出来た。
「成す……!」
「何だとォ!?」
 奇跡的に、というべきか静花は真正面から襲い来る鉄球を捉えていた。
 一見したところでは単に鉄球の直撃を喰らって吹き飛ばされているようにも見えるが、その白い手袋を嵌めた両手は万力の如き力で腹部に食い込んだ鉄球を押さえつける。
「今だ……!」
 間髪を入れず、山里が大鎌を振り上げ静花が固定した大鉄球に振り下ろす。
「固い……!」
 甲高い金属音と共に反動で痺れる両手に、山里が顔を顰める。
 しかし、その山里に向かって静花が無言で頷いて見せる。
「わかってる、静花さん……もう一度!」
 静花と山里を覆うアウルが一際大きく輝いた直後、山里は今一度大鎌を叩き付ける。やはり鳴り響く甲高い金属音。しかし、先ほどとは違う手応え。
「無駄な事をしやがってよぉ!」
 犬養はここで恐るべき筋力を発揮した。静花が掴んだ鉄球を静花ごと空中に持ち上げ、振り回したのだ。
 しかし、彼の言葉とは裏腹に静花と山里の行動は無駄ではなかった。その証拠に、鉄球の表面には小さなヒビが生まれていた。
「お前、いつかの顔色の悪いJKじゃねえか! 早く手を離さねえと、只でさえ貧相なその体が煎餅になるだけだぞォ!」
 犬養はそのまま鉄球を壁に、静花ごと叩き付けた。
「ぐっ……!」
 凄まじい衝撃に歯を食い縛る静花。その口の端から血が零れ落ちる。
 だが、彼女は決して、そう愚直なまでに鉄球を離そうとしなかった。まるでそれが自分の答えでもあるかのように。
「まだ……だ!」
 今一度、静花アウルが燃え上がった。二度の衝撃に既に突きかけた筈の力を振り絞って静花はしっかりと鉄球を押さえつける。
「そうか……人間ってのは……そうだったなァ」
 犬養の目が僅かに細まった。
「だがな……結局は無駄なんだよォ!」
 今度は静花を床に叩きつける犬養。
「……っ!」
 再び、背中を強打された静花の唇から血が吹き上がり、遂に鉄球を離そうとしなかった指がゆっくりと離れる。
「くだらねぇ……くだらねぇぜ! 未熟な学生共がアウルなんぞに目覚めてみた所で何も変わりゃしねえ!」
 そのまま鉄球を持ち上げようと魔力で編まれた鎖を引く犬養。
「ああ?」
 しかし、魔力の鎖は気が付けばその輝きを弱めていた。どうやら鎖を構成していた魔力が尽きようとしているらしい。
「ちっ……」
 犬養自身の魔力はまだ無尽蔵にある。繋ぎ直せば済む事だ。
 そう考えて犬養が一旦鎖を解除。再度鎖を構成しようとした瞬間、突然その腕にアウルが変質したカラースプレーのようなものが吹き付けられる。
「そう、私達は学生だから自らの未熟さを理解している……でもレザーレスハウンド、いえ犬養さん、貴方は自らの力を過信していたんではないですか?」
 空間が揺らいだかと思うと、スプレー缶を構えた文歌が険しい顔で犬養を睨みつけながら現れる。
「てめぇ……!」
 文歌を睨み返しながらも、鎖を構成して鉄球を取り戻そうとする犬養。しかし、彼の手から発生する筈だった魔力の輝きは、文歌の吹き付けたインクのようなアウルに阻害され、鎖が作り出せない。
「封じられた……だとォ!?」
 絶叫した犬養は、今度は直接鉄球を手で掴もうと駆け出した。
「上出来だ。後は任せな。小隊HOUND DOG隊長、影野恭弥。野良犬の相手は猟犬が勤めよう」
 銃声が鳴り響き影野 恭弥(ja0018)の放った銃弾が鉄球に着弾する。その銃弾はアウルによって酸のような反応を示し、鉄球を腐食して煙を上げさせた。
「文歌……いや、皆がくれたチャンス、無駄にはしない!」
 ここまでの戦闘によって出来た瓦礫と船内の照明によって出来た影がゆらりと揺らめき、その影はやがて人の形を取る。
「後は任せたよ、カイっ!」
 文歌がそう叫んだ瞬間、影の手から緑色に輝くアウルの刃が伸びた。
「これは……ここで破壊する!」
 快晴が全力で振り下ろしたNight Catの刃は束の間鉄球自体が纏う魔力に干渉されバチバチと火花を散らしたが――やがて先ほど山里によって作られ、影野の銃弾で広がったひびに食い込み、遂に鉄球自体を両断した。


「やりやがった……やりやがったなァ!」
 怒号とも歓呼ともつかぬ声を上げながら、犬養は素早くナイフを引き抜いて両手に握り締めた。
 同時に、それまではユウとの戦闘に専念していた犬曹長が唸り声を上げると、力づくでユウを振り解き強引に犬養の方へ向かおうとした。
「行かせない……!」
 しかし、犬曹長が四肢を緊張させ一気に犬養のもとまで跳躍しようとした瞬間、犬曹長の足から床にうつ伏せになったユウの足元まで、屍蝋のような不気味な色合いの輝きが走った。
 直後、強引に跳ぼうとした犬曹長の四肢の肉に、絡みついた魔糸が食い込み骨ごとそれを切断する。
 それでも、犬曹長はさきほどと同じように咆哮すると、全身に黒いオーラを纏う。そして、そのオーラをジェット気流のように噴出し強引に犬養の方へと吹っ飛んだ。
「おっと……!」
 その進路上に位置していたエイルズレトラは慌てて身を捻り、紙一重の所で犬曹長の突進を回避する。
 直後、犬養の傍らに降り立った犬曹長は瞳のない眼でじっと犬養を見上げた。
「ああ、フルハシか。悪かったなァ……ここまで付き合わせてよ」
 歯を食い縛って首を持ち上げた犬曹長だったが、その時、傷口に刺さっていたトランプのカードが爆発。体の後ろ半分を吹き飛ばされた犬曹長はそのまま地面に倒れ今度こそ動かなくなった。
「メインイベントはこれからですからね……水を差されては困るんですよ」
 エイルズレトラは改めて犬養に向き直り不敵に笑った。
 そして、この時咲村が車庫を離れたことに気付いた者は居なかった。


 船内で軍人犬の掃討に当たっていたハヅキは目の前の戦闘に集中出来ないでいた。
(本当にこれで良かったの……!? このまま陸尉が討たれれば、私はもう二度と……!)
 だが、その迷いが隙を生んだ。
「しまった……!?」
 軍人犬のナイフを受け止めるハヅキに、もう一匹が切り掛かる。
 その時、空中に突如銀色に輝く無数の十字剣が出現。それらが軍人犬に降り注ぐ。
「これは……」
 茫然とするハヅキの前で刃は消滅したが、アウルによる重圧を受けた軍人犬の切っ先は鈍りハヅキは攻撃をいなすことに成功する。
「一尉を援護しろ!」
 更に、片品隊の攻撃が殺到し、軍人犬たちは絶命した。
「何故ここに? おかげで助かったが……」
 現れた咲村にハヅキが質問する。
「迷いを抱えたまま戦う事は無い。お前も決着を見届けるべきだ」
 躊躇するハヅキ。
 しかし、部下たちは彼女に頷いて見せた。
「……わかった」


 影野を始めとする久遠ヶ原方面からの部隊が車庫に突入し、レザーレスとの交戦を開始する中、一足先に飛行で車庫の天井に潜んでいたジョン・ドゥ(jb9083)は憐れみという感情すら湧かない、といった風情で犬養を見下ろしていた。
「無駄を生来嫌う悪魔が、命を捨てに来るとは……久々に本物の無駄を見たぞ。愚かな。実に、愚かな」
 そう呟くと、ジョンは天井を蹴って落下を開始すると同時に、その手に王笏を模した黄金色の槍を出現させ、更にそれを闇すら飲み込む漆黒のアウルで包む。
 しかし、ジョンが犬養の脳天に狙いを定めた瞬間、阻霊符が張られた船の天井を強引に突き破って翼の生えた狼の姿の犬曹長が出現、ジョンに真横から襲い掛かった。
「貴様……!」
 ジョンは咄嗟に攻撃の矛先を犬曹長に変えたものの、犬曹長は薙ぐように降られたジョンの王笏を躱すと、逆に闇の力を纏った牙をジョンの首筋に突き立てた。
「ぐ……!」
 闇の力によって通常よりも深い傷を受けたジョンは視界が急速に暗くなっていくのを感じる。
 しかし、彼が意識を失う直前、アウルが彼の体を駈け廻って、その意識を回復させた。
「人質でもいるなら別だけど、万単位の覚醒者がいる学園に襲撃かぁ。何を考えているのだか……!」
 自身も飛行しながら、ジョンに対してアウルを送り込みつつ龍崎海(ja0565)が呟く。
「Go ahead ! Катюша !(ゴ−アヘッド! カチューシャ!)お前の暴れっぷりを見せてやろうゼ!」
 続いて長田・E・勇太(jb9116)の騎乗したスレイプニルのカチューシャが犬曹長に体当たりを行い、ジョンは犬曹長の牙から解放された。
「助けられたな」
 そのままジョンは空中で体勢を立て直すと、改めて地上へ着地し犬養へと挑むのだった。


「見えて来た! ここから先はあたい達の独壇場よ!」
 犬曹長が龍崎と長田に抑えられたのを確認した雪室 チルル(ja0220)は、大剣を振り被って犬養へと全力で振り下ろした。
 しかし、犬養は素早く両手のナイフをクロスさせることで恐るべき速度と重量を持つチルルの斬撃を真っ向から受け止めて見せた。
「あぁ!? テメェのじゃねえ! 俺様の……いや、俺様たちの独壇場なんだよ!」
 火花を散らしながら激しい鍔迫り合いを行う犬養とチルル。そこに今度はマキナ・ベルヴェルク(ja0067)が飛び込んで来た。
「解りました、陸尉。この喜劇が貴方の望みだというのなら……全てを以て幕を引きましょう」
 マキナの手が黒い焔を宿す。そして、その拳から放たれた一撃は犬養が主より与えられた魔力の防壁も、異形のヴァニタスと化すことで手に入れた、朽ち果ててはいても強靭な肉体を貫通し、その内臓を直接撃ち抜いた。
「ぐぼぉ……!」
 犬養が口から体液を吹き出す。しかし、
「効かねぇんだよ!」
 勿論、ヴァニタスとはいえ効いていない筈は無い。しかし、何が彼を突き動かしているのか、一旦は怯んだかに見えた犬養は次の瞬間にはまず首を伸ばしてチルルの肩に噛みついた。
「きゃあああ!」
「どきやがれ!」
 犬養はその恐るべき咬筋力で、チルルを持ち上げるとそのまま振り回して投げ飛ばす。続いてナイフを構え直し、こんどはマキナへと切り掛かった。
「偽神! 一旦下がるんだ」
 しかし、その瞬間突如犬養の背後に出現したアスハ・A・R(ja8432)が手にした刀でその背に切りつける。
「次から次へと……よぉ!」
 だが、犬養はまず右手のナイフで見事にアスハの刃を受け止める。そして、その隙に一旦飛び下がろうとしたマキナに向けて、素早く左手のナイフを投擲した。
「……!」
 しかし、マキナも只では退かず咄嗟に苦無を投げ返していた。
「くっ……!」
「いてぇじゃねえか!」
 お互い肩に相手の刃を受け、同時に呻く二人。
「偽神!」
「仲間の心配をしている場合かァ!?」
 今度はアスハに顎を向けた犬養は、咄嗟にパイルバンカーを活性させたアスハの腕にその武器ごと強引に噛みつく。
「ぐっ……」
 激痛に顔をゆがめるアスハ。
 しかし、犬養の顎がそのままアスハの腕をかみ砕こうとした瞬間、今度は二丁拳銃を構えたZenobia Ackerson(jb6752)ことゼノヴィアが相手の胴体に連続で弾丸を撃ち込んだ。
「ぐおっ……」
 犬養がよろめいた瞬間に離脱するアスハ。
「何気にあんたとは初対面だな」
「なんだテメェは……」
「……された事を考えると強くは言えないが、あまりあの子を泣かせないで欲しいね」
 リッチの名前を出された犬養はここで初めて動揺を見せた。
「テメェ……!」
「なっ……!?」
 そして、次の瞬間激昂した犬養はゼノヴィアの首を空いている方の腕で掴み、持ち上げて見せる。
「くっ……は、離せっ!」
 首が締まるほどの強さではないが、ゼノヴィアは身動きを封じられた形となってしまう。
「チッ! 折角盛り上がってたところに水を差しやがって……このままテメェは盾にしてやるよ! どうだァ! お前ら攻撃出来んのかよ!?」
 犬養は学園生たちが躊躇しているのを見ると、舌打ちして空いている方の手をポケットに突っ込む。
 そして、その手が空中に向けて振られた瞬間、無数の手榴弾が車庫の床にバラ撒かれた。
「所詮この程度かよ! なら、まとめて死にやがれ!」
「これがお前の奥の手か……」
 アスハはその手榴弾が事前の情報通り、地面を転がって相手を追尾するものだと看破した。
「ならば、是非も無い……!」
 アスハの蒼い髪が一際その輝きを増した。そして、アウルの力で空中に飛び上ったアスハの周囲に蒼く輝く雨雲のようなものが広がっていく。
(蒼刻光雨は無識別での使用が基本だが……)
 発射準備を整えたアスハは、僅かに悩むような表情をしつつ捕えられているゼノヴィアを見た。
(いや、今回は、威力はさほど必要ない……行ける筈だ!)
 そうこうしている内にも手榴弾は車庫の中に散らばる学園生たちの方に向かい不自然な転がり方で近づいていく。
 だが、次の瞬間アスハが空中から発動させた蒼く輝く雨のような光弾が手榴弾の上に降り注ぎ、それらを誘爆させた。
「何だ……こりゃあ!」
 犬養が絶叫する中、瞬く間に車庫が爆炎に包まれた。
 アスハは手榴弾が、犬養に捕えられているゼノヴィアを巻き込まない範囲に転がるまで計算しており、おかげでゼノヴィアも傷を受けずに済んだ。
 そして、この瞬間を狙いジョンが一足飛びに犬養に接近、ゼノヴィアを捕えている方の腕に王笏を模した輝く槍を突き刺した。
「これは戦ですらない。石を水に沈めるのと同じだ」
「ぐ、あ、あああああ!」
 激痛に呻く犬養。光の力を纏ったその一撃は犬養の片腕を完全に破壊しており、握力を失った腕からゼノヴィアが脱出を成し遂げる
「すまない……!」
 ゼノヴィアは素早くその場を離れると――何かを気にするかのように天井を見上げた。


 犬養が片腕を破壊された瞬間、それまで龍崎、長田との戦闘に集中していた犬曹長は遂に犬養への接近を試みた。
「行かせるカ! タクティクスの基本は各個撃破ネ! カチューシャ」
 長田は地上に居る犬養と犬曹長の間に立ち塞がるような位置に陣取ると、カチューシャに衝撃波を放たせる。
 しかし、それは紙一重で躱され車庫の壁に穴を空けるに留まった。
「まだまだネ!」
 今度は自身の拳銃を連射する長田だが、犬曹長は弾丸を回避しつつ、逆にカチューシャに組み付いた。
「Shit……!」
 咄嗟に相手を離そうとカチューシャに命令する長田だが、遂にカチューシャはその喉笛を食い破られて消滅する。
「どうやら、間に合ったネ……!」
 だが、長田は召喚獣が破壊された激痛と、地面に落ちた衝撃に意識を失いかけつつも不敵に笑った。
 何故なら、彼が犬曹長と戦っている隙に龍崎が犬曹長を射程に捕えることに成功していたのである。
「ここだ……雪室さん、頼んだよ!」
 犬曹長が地上に着地した瞬間、その足元から龍崎の発生させた光の鎖がしなり瞬く間に犬曹長を拘束する。
「龍崎さんったら最高ね! その位置がドンピシャよ!」
 その瞬間には、既にチルルがアウルを限界まで己の剣に収束させていた。
「纏めって吹っ飛べーーー!」
 犬曹長、そして犬養がほぼ直線上に位置した瞬間を狙ってチルルが一気に大剣を振り抜く。彼女の大剣から放たれた白い閃光のようなアウルによって、犬曹長は胴体を貫かれ絶命する。そして犬養も大きなダメージを受けた。
「ククク……ハハハ……いいぜ、いいぜぇ!」
 にもかかわらず、何故か笑う犬養。そこに真正面から再びマキナが仕掛けた。
「――望みの物は目に出来ましたか、陸尉。そう、此処が貴方の終焉です」
 犬養はそれには答えず、ニヤリと笑う。そして無事な方の腕をマキナの黒い焔を纏った腕と激突させる。
 直後、二つの拳が激突したことによる凄まじい衝撃波が空気を揺るがし――マキナの拳がみしりと嫌な音を立てる。
「……!」
 そのまま吹っ飛ばされるマキナ。
 そして、受け身を取ったマキナが起き上がると同時に、犬養の腕がぐしゃりと内部から潰れ、だらんと垂れ下がった。
「……せめて、良い夢を」
 マキナがそう呟いた瞬間、倉庫に悲鳴のような声が響き渡った。
「陸尉!」
「どうやら、間に合ったか」
 それは、ハヅキと彼女を説得して連れて来た咲村であった。
「おやおや……これじゃあ、無様なところは見せられねえなあ……」
 犬養はそう言うと、最後に残った武器である牙を剥き出し、学園生たちの方に向かって走り出す。
「……もう、十分だろう。そろそろくたばれ」
 そう言い放った影野の全身を漆黒のアウルが覆い――それはやがて地獄の番犬ケルベロスを形成、そしてその頭の一つが、黒炎弾を放つ。
 しかし、犬養は足で素早く床を蹴ってこれを回避。一気に影野との距離を詰めケルベロスの頭の一つを一瞬で噛み砕く。
 これに対し、ケルベロスはその爪を振り下ろすが、犬養はその前足を噛みついて止め、噛み千切り、強烈な回し蹴りで二つ目の頭を蹴り飛ばす。
 そして、三つ目の頭が反応するより早く、犬養の顎がその喉元に食らいつこうとした瞬間、乾いた銃声が響く。
 自身の放った弾丸が犬養の首に命中したのを茫然と見たハヅキは、よろめく犬養と目が合う。
 犬養の目は確かにこういっていた。
 ――よくやったな
 まるでかつての演習で犬養が自分を褒めてくれたように。
「大した……モンだったぜ、なあ……」
 犬養が影野に嗤う。
「ああ、安心して逝きなよ、軍人さん」
 そして、影野のケルベロスの最後に残った頭が黒炎弾を放ち、犬養の胴を貫く。
 ハヅキの絶叫が響き渡った。


「よく、我慢したね」
 ゼノヴィアの優しい声が響く。
 学園生たちが天井を見上げる中、その黒い巨大な翼を広げたリトルリッチが、戦闘の余波で破壊され、青空が見えるフェリーの天井からゼノヴィアを伴ってゆっくりと犬養の側へ降り立つ。
「結局来やがった……興醒めだぜ」
 だが、犬養は舌打ちすると最後に残った手榴弾を取り出す。
 学園生たちに緊張が走る中、咄嗟に飛び出した山里が、犬養がピンを抜く直前に彼の頭を優しく抱え自分の膝に乗せた。
「あ……?」
 虫の息だった犬養が流石にきょとんとした表情を見せる。だが、山里は構わず犬養に話し掛けた。
「感情の狭間で揺れて苦しかったでしょう。もう休んで、犬養さん」
「……!」
 僅かに犬養の目が動揺し、やがてふっと笑う。
「そんなんじゃねえ、そんなんじゃねえよ……」
 苦笑する犬養。その顔にぽたりと一粒の涙が零れる。
「お前……」
「あれ、どうしてかな……私JKになったのに」
 山里の表情は前髪に隠れて見えない。だが犬養は小さく呟いた。
「そうか、お前もあの時のか……大きくなったってことだな……ククク、ハハハハハ! これならまあ、心配はいらねえか」
 笑い続ける犬養の手から手榴弾が零れ落ちる。そして、犬養はリッチに向かって顎をしゃくって見せた。
「……あ!」
 弾かれたように駆けだすリッチ。彼女が傍らに座ると犬養は自身のドッグタグを口で咥えてリッチに差し出した。
「はぎおみ……わたし……わたし……」
 だが、犬養は首を振る。
「お前が何か言う必要はねえよ。俺は、結局のところ手前の情けなさを棚に上げて、腹いせに暴れただけさ。ま、折角だからそいつらも纏めてお前に預けるぜ」
 そう言ってから犬養は、リッチが全身にぶら下げている錆びつき鈍く輝く無数のドッグタグを見た。
「……後は、俺は親父って柄でもねえんだが……すまなかったな……ハヅキもよ」
「――!」
 その言葉で堰を切ったようにリッチの目から涙が零れる。
「うわああああ――!」
 続いて、ハヅキが犬養に駆け寄った。
 犬養はそんな二人を穏やかな目で見つめ、最期にこう呟いて事切れた。
「へ……、全く女運が良いんだかわるい、んだか……な」
 青柳は敬礼して、それを見送る。
「陸尉、貴方の心意気は僕たちが引き継ぎます」
 一方、学園生たちの陰からこれを見届けたエイルズレトラは憮然とした表情で呟いた。
「……それで、結局彼は何がしたかったんでしょうね……ま、最早どうでも良いことですけど」
「死ぬつもりの負け戦なら配下を引き連れず、独りで来れば良い……冥魔にもなり切れぬ、獣以下か」
 そのエイルズレトラに答えたのは、終始威圧的な空気を纏ってたジョンである。
「初見だったが。貴様は狗ですら無かったと百獣の王が保証しよう」
 犬養の亡骸に向かってそう吐き捨てたジョンは興味を失ったとばかりに踵を返すと、天井の穴から飛び去って行った。


「ありがとう。君のおかげで私は陸尉と個人的に決着をつけることが出来たのだと思う……」
 ハヅキは咲村に頭を下げていた。
「いや、勝てたのはお前の援護のおかげでもある」
 咲村が敢えてハヅキを迎えに行ったことが、ハヅキ個人にとっても全体の戦局にも良い方向に影響を与えたのだ。
「君はこれからどうするの?」
 一方、青柳はリッチにそう尋ねていた。
「僕はいつか学園に来て欲しいと思ってるよ」
 続いて、ずっとリッチの肩を抱いていたゼノヴィアも真剣な表情を見せる
「もし、俺の心配している通りのことをしようとしているのなら、君の父が……そして彼等が何を想い戦い続けたのかをもう一度考えて欲しい。大切な誰かを失う悲しみを知る君が同じ想いを、俺や君の帰りを待つあのメイド達にもさせるのか」
 ハヅキの側から離れ、リッチの方に来た咲村も口を挟む。
「死んで罪から逃げるか……生きて罪と向き合い償うか。お前が決めることではあるがな」
 しかし、リッチはそっとゼノヴィアから離れるとその漆黒の翼を広げた。
「……わからない。あなたたちはわたしを受け入れてくれる……でも、全てのニンゲンがそうとは限らない……」
 リッチの視線の先では、ハヅキが静かに犬養の亡骸の側に佇んでいる。
「でも……あなたたちの所に行こうとは思う。……それが、はぎおみの最後の望み……そこで、わたしは、じぶんをニンゲンたちに委ねる……」
 上昇するリッチ。
「待って! どういう意味なんだい!? リリス!」
 リッチはそれには答えず、大切そうに犬養のタグを握りしめる。
「彼の体はあなたたちに返す……でも、彼の魂は、もう少しだけ……」
 そして、リッチは加速して飛び去る。
「あっちは、学園島の方角じゃあないかな……」
 青柳が呆然と呟いた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: God of Snipe・影野 恭弥(ja0018)
 Eternal Wing・ミハイル・エッカート(jb0544)
 新たなるエリュシオンへ・咲村 氷雅(jb0731)
 紡ぎゆく奏の絆 ・水無瀬 快晴(jb0745)
 絶望を踏み越えしもの・山里赤薔薇(jb4090)
 遠野先生FC名誉会員・何 静花(jb4794)
 拳と踊る曲芸師・Zenobia Ackerson(jb6752)
重体: 遠野先生FC名誉会員・何 静花(jb4794)
   <ヴァニタスの鉄球を真正面から受け止めた>という理由により『重体』となる
面白かった!:13人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
撃退士・
マキナ・ベルヴェルク(ja0067)

卒業 女 阿修羅
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
蒼の絶対防壁・
鳳 蒼姫(ja3762)

卒業 女 ダアト
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
『力』を持つ者・
青柳 翼(ja4246)

大学部5年3組 男 鬼道忍軍
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
新たなるエリュシオンへ・
咲村 氷雅(jb0731)

卒業 男 ナイトウォーカー
紡ぎゆく奏の絆 ・
水無瀬 快晴(jb0745)

卒業 男 ナイトウォーカー
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
絶望を踏み越えしもの・
山里赤薔薇(jb4090)

高等部3年1組 女 ダアト
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
遠野先生FC名誉会員・
何 静花(jb4794)

大学部2年314組 女 阿修羅
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
拳と踊る曲芸師・
Zenobia Ackerson(jb6752)

卒業 女 阿修羅
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
大切な思い出を紡ぐ・
ジョン・ドゥ(jb9083)

卒業 男 陰陽師
BBA恐怖症・
長田・E・勇太(jb9116)

大学部2年247組 男 阿修羅
天真爛漫!美少女レスラー・
桜庭愛(jc1977)

卒業 女 阿修羅