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マスター:稲田和夫
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/10/02


みんなの思い出



オープニング

 かつて、群馬県が『群魔』と呼ばれていた時期があった。悪魔アバドンを首魁とする冥魔の一大勢力は群馬県を制圧すると特殊な術式を用いて、群馬という存在を人類の意識から消去しておいて群馬の中でゆっくりと魂の収奪を開始したのである。
 だが、やがて群馬の存在は再び人類側に認識され、アバドンも最後には久遠ヶ原の学園生たちによって討伐。再び群馬は人類に奪還された。が、群馬に存在していた悪魔がすべて倒された訳では無く、幾つかの地域は以前冥魔の勢力圏となって残された。
 群馬県北群馬群榛東村もその一つである。この村の西部にある陸上自衛隊の相馬原駐屯地にゲートが存在することは既に2013年の時点で確認されている。
 そして、2014年も半ばを過ぎた頃群馬県内で散発する冥魔勢力による被害の背後に、この相馬原ゲートの悪魔が存在すると断定した人類側は、ゲート攻略作戦を発動するのであった。
 このゲートの攻略の任に当たっているのは、かつて、群馬解放作戦の折北部の片品村の解放戦を戦ったフリーや企業所属の撃退士からなる混成部隊、通称片品隊。指揮官は陸上自衛隊所属の撃退士である櫟(いちい)葉月一尉である。
 彼女が引き続き、群馬での戦いの前線に立つことを了承したのは、相馬原にいると目されるあるヴァニタスの正体を確かめたいというのが理由であった。


 午後、夕暮れも差し迫ったその時間、葉月は野外に設置された仮設拠点であるテントの中で焦燥感を押し殺していた。
 ここは、榛東村のある北群馬群の東の境界線に近い田園地帯である。既に群馬が解放されて一年近く。復興が進んでいる地域も少なくは無い。だが、ここ榛東村は未だに、冥魔のゲートが健在な支配領域であり、周囲には放置されて久しい荒れ果てた田園が広がる。
 そして、西側には駐屯地の周辺に広がる結界とそこから天に向かって一直線に伸びるゲートの光柱が確認出来る。
「……まだ連絡はないのか」
 相馬原駐屯地攻略作戦が正式に発令された後、まずハヅキが行ったことはセオリーに従っての情報収集だ。
 潜入部隊をゲート付近にまで接近させ、敵の戦力や配置についての情報を探り出す。だが、予定の時間を過ぎても部隊は帰還せず、光信機に連絡も無い。
 最早失敗した、というのは間違いのない所だろう。問題は如何にして部隊の安否を確かめ、必要なら、もしくは可能なら救出の手段をどう講じるかだ――。
 そんなことを考えながら、葉月は再び双眼鏡を西の方に向ける。と、そこにはゆっくりとこちらに歩いてくる複数の人影が写った。
「敵……!?」
 一斉に警戒態勢に入る撃退士たちだったが、それが待ちに待った潜入班のメンバーであることが解ると、仮設拠点に歓声が上がった。
 しかし、その歓声もメンバーが一人足りないことと、その訳が伝えられるまでだった。


 潜入班は深入りせず慎重な行動に徹していた。
 誤算は、ヴァニタスがまるで司令官であるハヅキの手の内を読んでいたかのような完璧なタイミングで部隊を襲撃した事である。
 ヴァニタスとの直接戦闘は避ける心算であった部隊は、手も足も出ず一方的に蹂躙された。しかし、ヴァニタスは女性隊員一人を捕虜とすると他の隊員を見逃し、ヴァニタスは支配領域内に存在する比較的原型を残している廃校を指定したというのだ。
「……『お前らじゃ楽しめねえ。俺はJKやJCと愉しむから、久遠ヶ原の生徒共を呼んで来い』と」
「罠の心算か! ふざけやがって!」
「だが、奴の要求を飲まなければ彼女が……」
「とにかく一尉の意見を聞きましょう」
 こう言われてハヅキは尋ねる。
「要求はそれだけか?」
「はい。ただ、タイムリミットは明日の朝までだと」
「……夜戦か」
 そう小さく呟いて、ハヅキははっとなった。
(これって……!)
 ハヅキの脳裏に訓練生時代の記憶が甦る。
 夜間に光源が確保できない屋内での人質救出ミッション。それは訓練生時代にあの人が実習で作り出した状況に酷似していた。
「犬養陸尉……!」
 それならば、ヴァニタスがあっさりと偵察隊を補足したのも説明がつく。彼女に戦術のいろはを仕込んだ男がヴァニタスになったのなら、この戦場で彼女が部下にどういう動きをさせるのかも手に取るように解るだろう。
「でも……何故」
 ヴァニタスになった、あるいはされた時点でそれは人間では無く冥魔の僕だ。
 しかし、だとしても今回の挑戦は何かが不自然だ。少なくとも冥魔全体は愚か、彼ら自身の利益にすらなりそうもない。
 無論、冥魔の性質を考えれば悪趣味かつ無意味な遊びに過ぎず深く考える事は無いのかもしれないが。
「彼女も久遠ヶ原の卒業生だったな……」
「久遠ヶ原……?」
 部下たちが、捕虜となった撃退士の話をしているのを聞いたハヅキは、ある事を思い出した――。


『しかし、なんとも美味い話じゃねえか。戦う術を学ぶために俺もお前も軍隊なんてモノに入って必死こいてここまで来たってのによぉ。あのクソ忌々しい天魔共と戦うためには、普通の学生ライフをエンジョイするのが一番だとはな』
 それは、ハヅキがアウルに覚醒して久遠ヶ原への入学が決まった後の事。久し振りに会ったハヅキに犬養はそう言った。
『陸尉……』
 久遠ヶ原がかつて学園生に対しては軍隊並みかそれ以上の厳しい訓練を施していたのは有名な話である。そして、その方法がむしろ逆効果であったために現在の自由な校風となったことも。
『それもアウルとやらに目覚めていればの話だ。そうでなければ軍隊つっても奴らをぶっ殺すどころか、一発殴るのさえままならねえんだからな。つまるところ、俺達は……』
『無駄では、ないです』
 ハヅキは、真っ直ぐに犬養を見つめる。
『私が自衛隊で学んだことはきっと、これからの戦いでも役に立つ筈です。それに……ここで教わったことは技術だけではありません』
「ほう?」
 犬養は少しだけ微笑した。
『何のために戦うのか……勿論、久遠ヶ原の生徒たちだってその事は教わっている筈ですし、その気持ちは私たちに勝るとも劣らないものでしょう。それでも……私が陸尉から軍人として授かった矜持……軍人魂は、無駄ではない筈ですから』


 榛東村に建つ朽ち果てた廃校。月光が、錆びついて鈍く光る、巨大な鉄球を照らす。 
「なんとも美味い話じゃねえか」
 レザーレスハウンド(jz0215)は可笑しそうに呟き、縛られ目隠しをされた若い女性の撃退士に語りかけた。
「お前はどう思う? 俺達は……何だ、つまらねえ」
 女性が気を失っている事に気付いたレザーレスはつまらなそうに舌打ちする。その瞬間校舎の外から爆発音が響いた。
「遅えぞ」
 彼はニヤリと笑って窓の外を眺める。
 陽動部隊がこちらの注目を集めるためにわざと派手な真似をしたのだということは解っている。本命の救出部隊はもうここに向っている。その中に彼女もいるだろう。

「う……」
 レザーレスが立ち去って暫くした後、女性は意識を取り戻した。
 彼女は自身の傷を、別の誰かの流し込むアウルが癒しているのを感じ、目隠しをされているにもかかわらず頭を動かした。
「……大丈夫。もうすぐ、味方が助けに来る……そうしたら、あのヴァニタスを私が足止めするから……」
 すぐ、近くで幼い少女のものらしい声が響く。
「だ……誰!?」
「……」
 しばしの沈黙の後、声は応じた。
「私は……姫塚小春……フリーランス……だから」


リプレイ本文

「久しぶりだな、櫟。でも雑談は後でだ。状況を確認させて欲しい」
 文 銀海(jb0005)は、仮設陣地につくと、緊張した面持ちでそう要請した。
「貴女……失敬! 君は銀海だったか? 再びの協力、感謝する」
 櫟から改めて詳しい状況を聞いた一行の中で、最初に口を開いたのは意外にも一番寡黙そうな何 静花(jb4794)であった。
「廃校の見取り図はあるか? それと、通信機も貸して貰えればありがたい」
「ああ。地図はこれだ。そうか、光信機は使用許可が出なかったか。あれは、たの通信機器が使えない結界内用のものだからな」
 学園生たちは地図を見る。やがて、矢野 古代(jb1679)が唐突に質問を発した。
「……で、櫟さん。その訓練内容と同じ条件で最も不利なのは何処と予想される?」
 驚いた表情で櫟は矢野を見返した。
「櫟、もしこれがレザーレスハウンドの仕業なら、君の過去の彼との体験の中にヒントがあるかも知れない。何でも良い、何かあったら教えて欲しいんだ」
 今度は銀海にそう尋ねられ、櫟は納得した様子で腕を組んだ。
「そうだな……少し時間が欲しい」
 暫くじっと考え込んでいた櫟だったが、やがてペンを取ると廃校の地図に何かを書き込み始めた。


 櫟が絞り込んだ候補は二つ。一つは、狙撃に加えこちらに天魔やハーフなど飛行かのうな人員がいることを考慮して窓の少ない、もしくは無いような部屋。
 あるいは、こちらが場所を推理して来るであろうことも想定してもっと別な要素、例えば狭くて撃退士たちが不利になる場所に陣取るか。
 敵は例え、阻霊符を使用しても、その気になれば通常の建築物の壁など簡単に破壊できるからだ。
 これを受けて、学園生たちは当初の想定通り外から校舎を探索する班と、校内に侵入する班の二つに分かれる。
 そして、正解に辿り着いたのは――飛行して外から校舎を調べていた咲村 氷雅(jb0731)と彼に抱えられて飛んでいた山里赤薔薇(jb4090)であった。
 厳密には、二人が発見したのは捕虜となっていた撃退士のみ。彼女は三階の教室の一つで、縛られ転がされていた。
「あれだけ傷ついて、喪って……まだ終わっていないというの……」
 その光景に怒り、震える声で呟く赤薔薇。
「冥魔の残党共……許さない」

 一方、氷雅は冷静に相槌を打つ。
 赤薔薇はすぐにでも助け出したい所だが、何処に敵が潜んでいるか解らない。赤薔薇は当初の予定通り、通信機を操作し仲間に連絡を取る。
 氷雅はそれに頷きつつ、赤薔薇をベランダに降ろす。そこは教室内に放置された備品などの影になって、中からは見えない。
「……奴の目的は分からないし、正直興味も無い。こちらに関わるのは今回限りだろう。それでも……最善は尽くす」
 ぽつりと呟く氷雅。彼は自らをアウルの幻で覆い、闇に溶け込む。
 だが、その直後赤薔薇が鋭く息を飲む声が聞こえた。
「……っ!」

●状況開始
 教室に入って来た犬の頭部を持つ獣人型のディアボロは、携えていた小銃を人質に向けた。今は目隠しを外されている人質は、必死にもがいて、這ってでも逃げようとするがどうする事も出来ない。獣人は、まるで弄ぶように銃口をチラチラ動かしながら、引き金に指をかけ――
「うわあああああああああ!」
 赤薔薇が叫びながら窓を破壊し、一直線に獣人と人質の間に割って入る。
「くそ……!」
 舌打ちする氷雅であったが、選択の余地は無い。発砲を開始したディアボロの周囲に幻想的な蒼い燐光を放つ蝶が舞い始めた。
 だが、氷雅の幻蒼蝶に認識を撹乱されなお、弾丸は赤薔薇の小さな体に次々と突き刺さって行く。
「くぅっ……」
 激痛に呻く赤薔薇。それでも、彼女は肩を抑えふらつきながら、なおも人質に接近しようとする。自分の母校の後輩が、命がけで自分を掬おうとする姿を見て、人質の眼に涙が浮かんだ。
 しかし、その直後無慈悲な鉄球が背後の壁を粉砕、異様な巨体が現れた。
「何だよォ……JCにしちゃあ、つまんねえ身体だな」
「お前……はっ!」
 赤薔薇が目を見開く。一方、レザーレスはニヤリと笑い満身創痍の赤薔薇と、為す術の無い人質を見下ろす。
「つまんねえから、殺すとするかァ」
 鉄球が横方向に振り被られる。
「不味い……!」
 氷雅は援護に入るべく、校内に飛び込もうとする。だが、突然あらぬ方向から放たれた魔力の弾丸が氷雅の身体に着弾、そのバランスを崩させる。咄嗟に攻撃が来た方向に目を向けた氷河が見たのは、ふわふわと壁面を這って来る亡霊のようなディアボロである。
 そう、この校舎は敵の巣窟なのだ。
 何とかバランスを立て直して墜落を免れた氷雅が見たのは、赤薔薇と人質に向かって振り降ろされる鉄球――そして、教室の入り口から飛び込んで来た何花が鉄塊に向かって突っ込んでいく光景であった。
「静花さんっ! 無茶はよせっ!」
 古代は怒鳴りつつ、躊躇せず銃を抜き放つと、凶悪な鉄塊に向けて素早く発砲する。
 金属が弾かれる甲高い音が響き、僅かに狙いを逸らされた鉄球は実に危ない所で二人の頭上をかすめる。
 この感に距離を詰めた静花は、無言で大地を踏みしめ、振り抜かれた鉄球の先端に必殺の掌底を打ち込んだ。
「やっとJSのお出ましかァ! 漲ってきたぜェ!」
 下品に喚きながら、鉄球を持つ手に力を込めるレザーレス。
「く……!」
 静花が呻く。レザーレスの圧倒的なパワーに徐々に押されているのだ。
「オラ、どうしたァ? 顔色わりいぞぉ?」
 静花の顔色は光纏の影響だが、劣勢なのも事実である。みしり、と嫌な音を立てて静花の脚が床にめり込み始める。
 しかし、レザーレスが更に押し込もうとした瞬間、飛来した扇がその朽ちた肉体を風圧でよろめかせる。
「静花っ!」
 扇を再び手で掴んだ銀海が叫ぶ。
「謝謝、銀海……仕切り直しか……!」
 一旦飛びさがって距離を取る静花。一方のレザーレスはそれを追うでもなく平然としている。

「ふわふわとよく動く……」
 その頃、窓の外では校舎の外では氷雅が亡霊相手に手こずっていた。亡霊と言っても実態が無い訳ではないが、ふらふらと動いて攻撃を回避するのが厄介だ。
 魔法の威力はそれほどでもないが、早く倒さなければ味方の援護に入れないという状況が氷雅を焦らせる。
「!」
 剣戟を躱した亡霊が氷雅の懐に飛び込む。襤褸布の下から手が突き出されるが――。
「させません」
 校舎の中からアステリア・ヴェルトール(jb3216)の放ったアウルの弾丸が亡霊に直撃する。たまらず奇声を上げて仰け反ったその体を遂に氷雅の刃が十字に切断した。

「久遠ヶ原の撃退士を呼びつけた理由が分からない。単に戦闘を楽しみたいのか?……それとも私達を試しているつもりか?」
 戦闘が一時的な膠着状態になったことで、銀海は敵に語り掛けるきっかけを持った。無論、常に人質と赤薔薇の様子を気にしながらではあるが。
「もし……もし、貴方が犬養陸尉なら、答えてくださいっ!」
 櫟も問う。
 だが、レザーレスはククッと喉を鳴らす。
「これは冥魔としての圧倒的な力を手に入れた俺様の暇潰し……単なる興味さ。お前ら撃退士如きが本当に天魔共と戦って、人間共を守る事が出来るのかというな」
「くっ……」
 その尊大な物言いに唇を噛む櫟。だが、矢野は何かに気付いたのか真っ直ぐにレザーレスを見つめて言った。
「皮無。お前がヴァニタスであっても此処まで好き勝手する権限は無い筈だ」
「ククク、そう思うか? 俺はそこらの死体人形共と違って御主人サマには恵まれてるんでね」
 ゲラゲラと嘲笑うレザーレス。だが、古代は腕を真っ直ぐに伸ばして、銃を相手に突きつけた。
「なら――お前は、『何を信じているんだ』?」
 レザーレスの貌から笑いが消えた。レザーレスもまた自身の小銃を構え答える。
「言っただろう? 俺は興味があるのさ。ここが悪魔に好き放題蹂躙されて、人間がほとんど皆殺しになった後、ようやく駈けつけて、さも英雄のような面でアバドンを追っ払って見せたお前らが、本当に人間共が『信じるのに』値するのかなァ」
 そう言ってから、レザーレスは傍らのディアボロを一瞥してこう付け加えた。
「俺だけじゃねえ。こいつらだって知りたい筈だ」
 「……」
 矢野の表情が険しくなり、引き金にかかった指に力が入る。問答の時間は終わりのようであった。
「……君が私達を試しているというのなら、私は自分の闘い方、仲間を守るための戦い方を見せるだけだ!」
 そう叫ぶと同時に銀海はアウルで形成した防壁を矢野に纏わせる。
「助ける為に力を尽くします――決して、殺したいと言う想いが元ではないのだから」
 直後、真っ先に動いたのは矢野、ではなくアステリアであった。彼女の放った極彩色の花火の如き爆発が容赦なくレザーレスとディアボロを飲み込んでいく。当然、人質と赤薔薇に影響はない。
「二人とも、ナイスフォローだ……!」
 攻撃に紛れて、矢野は一気に敵陣に突っ込む。彼の狙いは只一つ、味方の救出に他ならない。
(だが、どちらを……!?)
 僅かに躊躇する矢野。しかし、その迷いも辛うじて身を起こした赤薔薇と視線が合った瞬間に晴れた。矢野は素早く人質となっていた撃退士を抱え上げる!
 獣人の小銃が、素早く離脱しようとする矢野に襲い掛かる。しかし、弾丸は銀海の付与したアウルに阻まれ、致命傷には至らない。
「人の獲物を、横取りするんじゃねえ!」
 レザーレスは苛立っているというよりはむしろ、心底楽しむように再びあの鉄球を振り回そうとする
「許さない……」
「お?」
 その時、赤薔薇がゆっくりと起き上がった。その小さな掌にはアウルが収束している。
「お前の、興味や戯れでこれ以上人を傷つけさせないっ! 私たちの敵は冥魔だけじゃない! これ以上誰もお前の戯れになんか付き合わさせない!」
 怒りと共に赤薔薇が放ったアウルの火球がレザーレスに炸裂する! 
「うおお、怖い怖い……ッ!」
 この隙に、人質を抱えた矢野は遂に離脱に成功する。
「おいおい、そう簡単に逃げられると思ってるのかァ!?」
 今度は小銃を構えるレザーレス。
「やらせん……」
 その時、戦場を氷雅のアウルによって作り出された幻影の桜の花が覆う。その幻影の中を氷雅が舞う。
 まず、ディアボロに斬撃が一閃。鉄球を盾代わりに構えたレザーレスにも一閃! そして――。
「手応え……ありだ」
 自身が何を斬ったのかは今の氷雅には認識できない。が、彼は自身のアウルが導くままもう一度、刃を振り抜いた。
「やった!」
 銀海が叫ぶ。技を終えて着地した氷雅が振り向くと、力尽きたディアボロがゆっくりと崩れ落ちる最中であった。続いて、間髪入れず静花が飛び込む。
「やっぱりこの顔色悪いJKはこの俺様と遊びたいみてぇだな! 態々制服まで着てよ!」
 だが、静花は一切応じず、一気に距離を詰めていく。
「まだ殴られ足りねえのか!?」
 再び振り回される鉄球。これに対し、静花は再度掌底を放つ。
「それは通用しねえ筈だったよなあ!?」
 再度激突する鉄球と掌底。再び為す術も無く静花が押される――かに見えた。
「!?」
 レザーレスが訝しんだ。明らかに静花のパワーがさっきより上がっているのだ。
「こいつは……」
「何故……とは問わん。戦いでは」
 初めて静花がその重い口を開く。更に、静花の掌底が鉄球を僅かにではあるが押し返す。
「だが、見せてやろう。これが、人間のお前が捨てた『人間』の底力だ」
 遂に、静花の掌底が鉄球を弾いた。手からもぎ放すには至らなかったが、レザーレスは体勢を崩す。
「立てるな」
「うん、だいじょうぶ」
 その隙に、渾身の一撃を入れた赤薔薇も静花と共に離脱する。
「例え、お前が陸尉であっても、これ以上は!」
 最後に櫟が射撃でレザーレスを牽制。こうして、撃退士たちは後は逃げるばかりになったのであった。
「ククク……成るほどなァ……」
 だが、レザーレスはむしろ心底楽しそうに笑うばかりだ。
「火事場の、何とやらか……まあ、いいだろう。『今回は』ここまで。『状況終了』、だァ」
「なんだと……これはっ!?」
 その瞬間、銀海が叫んだ。
「くっ……皆気をつけろ!」
 銀海のこの時教室の周囲に大量の反応を感知した。それこそ校舎中のディアボロが集まって来たかのようであった。
 咄嗟に身構える撃退士たち。しかし、ディアボロは一体一体が決して弱い相手ではなく、レザーレスもまだピンピンしているように見える。
「どうすれば……」
 銀海が呟く。だが、その時文字通りの『闇』が突如周囲を覆った。
「な、なんこりゃあ!? 何にも見えねえな〜?」
 あからさまに動揺するレザーレス。あんまり動揺し過ぎて却って怪しいくらいだ。
「……早く! ここからなら逃げられる……」
 闇の中に少女の声が響き、闇の一画がぼうっと光るそこに立っていたのは少女であった。
「あれが……あいつの言っていた姫塚か……?」
 氷雅たちはとにかく駈けた。

●状況終了
「姫塚……こんな所でまた会うとは思ってなかった。相変わらず突然現れるんだな」
 疑いは隠し、にこやかに接する銀海。
「いんはいも……元気そう……」 
 だが、姫塚はそう挨拶した後はいつものように俯いて黙り込んでしまう。
「もう、本当のことを話してくれても良いのではないか……?」
 次に、櫟が口を開く。
「それは、さっき氷雅が倒したディアボロのタグだな? この前会った時に君が持ち去ったドッグタグの持ち主は確かに実在して自衛隊に在籍していた……だが、彼に妹などいなかった」
(やっぱりか……)
 銀海は驚きを感じなかった。
「答えてくれ。君はいったい何者だ? 何故、かつて相馬原にいた自衛隊員たちのタグを集めている?」
 やや、口調が強いのは、彼女の所属する自衛隊が関わっているせいだろうか。
 だが、姫塚はそれには答えず、代わりに手に持っていたものを赤薔薇に差し出す。
「……それ、私の!」
 どうやら、廃校内での激しい戦闘の最中に落としてしまっていたらしい。
「……大切な、もの、なの……?」
 おずおずと聞く姫塚。
「……ありがとう。とっても大切なもの……家族の形見だから」
 ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめる。赤薔薇。
「……!」
 家族、という単語に僅かに姫塚の表情が変わる。それを見ていた氷雅は感じた。
(あいつの言う通り、悪い奴ではないのか……)
「何か事情があるなら、力になれるかもしれんぞ? まあ、ここに来るのは今回限りのつもりだが……」
 だが、姫塚はこれに対してこう答えた。
「大丈夫……もう、力にはなってくれた……今回は、この結果が、彼の、望みだから」
あるいは、女の感か。姫塚が誰の事を言っているのかを理解した櫟が叫ぶ。
「待て!」 それはどういう……!やはり、あの人は!?」
 だが、その時にはもう姫塚は、彼女の主張する所の、小天使の翼を広げて飛び去って行った。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 新たなるエリュシオンへ・咲村 氷雅(jb0731)
 遠野先生FC名誉会員・何 静花(jb4794)
重体: −
面白かった!:3人

男だから(威圧)・
文 銀海(jb0005)

卒業 男 アストラルヴァンガード
新たなるエリュシオンへ・
咲村 氷雅(jb0731)

卒業 男 ナイトウォーカー
撃退士・
矢野 古代(jb1679)

卒業 男 インフィルトレイター
撃退士・
アステリア・ヴェルトール(jb3216)

大学部3年264組 女 ナイトウォーカー
絶望を踏み越えしもの・
山里赤薔薇(jb4090)

高等部3年1組 女 ダアト
遠野先生FC名誉会員・
何 静花(jb4794)

大学部2年314組 女 阿修羅