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マスター:稲田和夫
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
形態:
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/07/28


みんなの思い出



オープニング

 かつて、そこは相馬原駐屯地と呼ばれ、自衛隊の関東における拠点の一つであった。今ではすっかり荒廃し、敷地内にはかつて使われていた戦車などが野晒にされていたが、かつて兵舎だったと思しきその建物だけは原型を留め、内装を現在の主――冥魔の一団に相応しい禍々しい洋館の如きものに作り変えられていた。
 廊下を何人かの人間たちが追い立てられるようにして歩かされている。
「何故この人間という原住民はこうも愚図で脆弱なのか……もっと早く歩きなさい」
「面倒……何人かころしてやれば、もっと早く動く」
 しゃくり上げる子供や、立っているのがやっとという怪我人を家畜か何かのように追い立てながらメイド服を着込んだ悪魔たちは言葉を交わす。
「丁重に扱えよ? そいつらは『上』に献上させていただく大切な年貢なんだからよぉ。ゲヘヘヘヘヘ!」
 その様子を見てさも可笑しそうに笑うのは、かつて群馬奪還戦の折に幾度か確認されたレザーレスハウンド(jz0215)というヴァニタスだ。
「だが、それも面白そうだなァ? お? 丁度今にもくたばりそうなやつがいるじゃねえか」
 レザーレスは、足に怪我をして妻と娘に両側から支えられている男性をジロリと見た。
「折角だからそいつをやってみろ。どうせお前らも退屈してるんだろ」
 不快そうに顔をしかめる侍女たち。
 レザーレスの提案自体は魅力的なものだったが、この本来はヴァニタスというディアボロよりは上等とはいえ所詮は使い捨ての駒に過ぎない男が自分たちに対して尊大に振る舞うのが気に入らないのだ。
 しかし、このレザーレスハウンドというヴァニタスは彼女たちが何よりも敬愛し、何よりもお仕えし、何よりも守らなければならない主によって過分な力を与えられており、迂闊に逆らう事も出来ないのである。
 それでも、侍女の一人が溜息をつくと、鋭い爪の生えた手を伸ばし犠牲者を捕えようとする。だが、床にへたり込んでいた男性の妻が何か言おうとする前に、廊下の突当りにある階段の上から命令が飛んだ。
「やめ……て……!」
 人間も、悪魔も。その場にいた全員が一斉にそちらを、階段の上に立つリトルリッチ(jz0216)の方を見る。
ただ、レザーレスだけが相変わらず薄笑いを浮かべていた。


 かつては兵士たちの食堂であった筈の場所もまた、改造され相応の高貴な内装を持つ食堂と化している。
 中央に置かれたテーブルの上座ではふんぞり返ったレザーレスハウンドが並べられた食事をガツガツと貪っている。侍女たちにとって許しがたいのは、本来その位置に座るべき彼女らの主が、まるで執事のようにレザーレスに対して何かの報告を行わされている事だ。
 しかし、怒りと同時に侍女の中でも最年長のように見える女悪魔は湧きあがり疑問に内心首を傾げていた。
(一体、このヴァニタスは何を考えているのでしょうか?)
 彼女が把握している限り、この元自衛官だった男は何かの強い目的――例えば天界勢力に復讐したいなどの目的があってヴァニタスになった訳ではなかった。
 その目的は永遠の生命、あるいは自らの俗な欲望を満たすためとしか彼女らには思えなかった。
 で、あればこそ、こうしてこの男が未だこの群馬と呼ばれる一帯に留まっていることは不自然である。
 所々にこの相馬原のような悪魔の支配領域が残っているとはいえ、既に群馬は人間に奪還されている。先ほどのように人間を攫って来るにしても、さして大きな成果は望めずむしろ兵隊であるディアボロの被害が大きい。
 そして、もう少し状況が落ち着けば人間が本腰を入れて群馬県に残存している冥魔領の奪還に乗り出して来るであろうことも自明の理だ。
 つまり、レザーレスが上納する魂を増やしたいにしろ、単に安寧に惰眠を貪りたいにしろこの場所は不適当なのである。ゲートの破棄というデメリットも彼にとっては考慮に値しないだろう。何故なら、この駐屯地を覆うゲートを展開しているのは彼ではない。
 そして、彼の主であるリトルリッチですらない。侍女の一人である、彼女自身のゲートだからだ。
 だが、ここで彼女の思考は断ち切られた。
レザーレスがまた、彼女の主人に狼藉を働いたからだ。
「おやおや……口の端から折角の飲み物が零れちまったよ。おい、何をぼけっとしてやがる? とっとと綺麗にしろぉ! ……ナプキンを使うんじゃねえぞ、やり方は教えたよなァ?」
「……ひっ! ぅう……」
 リッチは、屈み込むと細いピンク色の舌でちろちろと、こぼれた飲み物を舐め取った――。


「すっかり暑くなってしまったな。この間までは雪深い山里で戦っていたのが嘘のようだ」
 群馬県内、前橋市に近い復興が着々と進みつつある一帯にて。
 自衛隊所属であり、現在はフリーや企業の所属である撃退士たちで構成された混成部である通称『片品隊』の指揮官である櫟(いちい)葉月はゆっくりと水を飲んだ。群馬の夏は暑く、撃退士といえども水分は欠かせない。
 東北から南下して来たザハーク・オルスの残党と群馬の冥魔、そして人類により一時的な膠着状態に陥っていた片品村は、2月に決行された作戦によって東北の残党を率いていたディアボロが討伐されたことで解放されていた。
 指揮官を失い崩壊しかけた旧東北軍は撃退士の攻勢の前にあっけなく壊滅した。十分に余力を残した撃退士との戦闘を嫌った群馬勢は早々に片品村から撤退していたのだ。
 そして、依然群馬に残る冥魔との戦いに備えて片品村での戦いが終わった後も片品旅団の存続が決まった。
 だが、多くのメンバーが隊から離れたのも事実だ。その中でハヅキがあえて群馬に残ることを選択したのは彼女が指揮官だったからというのもあるが、本当の理由は別にあった。
「犬養陸尉……」
 片品村で彼女の前に現れたヴァニタスは、本当に彼女の知るあの人物だったのだろうか?
「もし、別の誰かがヴァニタスになって私を騙そうとしているのなら構わない……陸尉の仇は私が討つ……!」
 だが、もしあの化け物が本当に――彼女の知るあの人物なのだとしたら、自分はその事実に耐えられるのか、そしてあの人を、犬養萩臣を討つことが出来るのか?
 そう自問自答し続ける彼女の携帯に、冥魔の出現を告げる一報が入ったのはその時だ。
襲われたのは、復興作業に従事する作業員や関係者を乗せたバスだ。乗り合わせた作業員が携帯で慌てて通報してきた内容によると、突然バスの進路を塞ぐように現れた犬の頭部を持った人間が機関銃の威嚇射撃でバスを強制的に停車させたとのことである。
 厄介なことに、現場にすぐ迎えそうなのはハヅキ一人。
 彼女は急いで久遠ヶ原に連絡を取るのだった。


 かつて、冥魔の支配下だった頃とはちがい夏の日差しと入道雲が眩しい青空を飛行するリトルリッチ。彼女には自分が何を望んでいるのか未だに解らなかった。
 今の彼女に解っているのは彼女のヴァニタスが本当は何を望んでいるのか、だけ。
だから、彼女はこうして今、ディアボロと撃退士たちが戦う場所へ向かっている。
 見届けるために。記憶に留めておくために。
 彼女の父親が自身の部隊を最後まで愛し、運命を共にしたように。彼もまたそうすることを望んでいるから。
 それが、どれほど歪み果てた形であろうとも、きっと――自分と彼の贖いなのだから。
「ソガベ……」
 彼女が呟いたのは、バスを襲ったディアボロが下げているドッグタグの名だった。


リプレイ本文

 真夏の青空の下、銃を構えたアーミーハウンド(以下軍人犬と呼称)が停車したバスに近づこうとする。だが、軍人犬はその時、ぴくりと耳を動かす。彼の耳が遠くで鳴る金管楽器の響きを捕えたのだ。
 直後、衝撃波が彼を襲った。のみならずそれを防御する彼の周辺に突然幻影の蝶が出現して飛び回った。
 煩わしげに手を振り回す軍人犬。しかし、その濁った眼は今の攻撃を目くらましにしてバスと彼に近づきつつある6人の撃退士をはっきりと認識していた。
 間髪入れず、軍人犬の放った機関銃の弾丸が撃退士たちの周囲に飛来する。
「しくじりました」
 さきほど、遠距離から楽器で先制攻撃を仕掛けた只野黒子(ja0049)が呟く。長い前髪に隠れて表情は伺えないが、口惜しそうだ。
「今度は、私の番だ……これ以上バスには近付けさせない」
 文 銀海(jb0005)はそう言って、更にディアボロに近づく。銀海に照準を合わせようとする軍人犬だが、突然その動きが鈍った。直後、軍人犬は激痛に唸り声を上げた。
 銀海が敵の周囲に集中させたアウルが敵に重圧を与えているのだ。
「上出来だ。さて、これ以上やらせはせぬぞ?」
 攻撃が緩んだ隙に、ルナリティス・P・アルコーン(jb2890)が携えていたクロスボウの矢を放つ。その身体に天界の力を纏う矢を突き立てられ、もがく軍人犬。しかし、今度はその機関銃の銃口がルナリティスを狙う。
「……悪いけど、俺の相手をしてもらうよ」
 その機関銃を握る手に向かって、Zenobia Ackerson(jb6752)が双剣を叩きつけた。狙いが逸れ、弾丸があらぬ方向の地面と立木を抉る。
 不意を突かれた軍人犬だが、即座に腰のアーミーナイフを引き抜くと、ゼノヴィアと切り結ぶ。その太刀筋は鋭く。軍人犬が、先刻の銀海の術の影響をけており、更にゼノヴィアがハヅキの援護を受けているにもかかわらずゼノヴィアは防戦一方となる。
「市民を助けなければ……!」
 片刃の直刀を構えた雪之丞(jb9178)が、剣戟に弾き飛ばされ、体勢を崩したゼノヴィアを守るように軍人犬に挑んだ。
 やはり、押され気味になる雪之丞。しかし、ナイフの刃が彼女の体に突き刺さった瞬間、黒いアウルのようなものが彼女の体を覆い、攻撃を軽減した。
 振り返った雪之丞の背後に無言で立つ姫塚小春だ。
 恐らく、その瞬間彼女の存在に対して様々な疑念を抱いたのは雪之丞だけではなかっただろう。それでも、雪之丞は不信感を隠して。
「何者かは知らんが……手伝ってくれるのだろ? ありがとう」
 それに対し、小春は気弱そうに、というよりはどこか後ろめたそうに視線を逸らして小さく頷いただけであった。
 一方、軍人犬の方は業を煮やしたのかベルトから手榴弾を外すと、撃退士たちの方へ投擲する。
「爆弾か。厄介な武器だ。だが、それは使う側とて同じなのだよ……!」
 真っ先に反応したのは銀海だった。明らかに不自然な転がり方でこちらに向かって来る手榴弾に向かって飛鷲翔扇を投げつける。
 奥義が纏う風圧で手榴弾を押し返す算段である。だが、手榴弾を動かしている軍人犬の力が予想の他強力であったのか、あるいはこの場合は発生した風がアウルに似た性質のもので物理的な影響を与える力が無かったのか。とにかく手榴弾はそのまま転がって来た。
「確かに厄介な武器やね……けど、なら落としたらエエ訳やしな!」
 バスのすぐ近くで、それを守るように立っていた葛葉アキラ(jb7705)は先程持ちかえていた弓から矢を放つ。手榴弾はその追尾性能こそ高いが、地面を転がるという性質上速度は早くない。
 矢は狙い違わず手榴弾に突き刺さり、その場で爆発させることに成功した。だが、直後に怒った爆風は凄まじく、撃退士たちは咄嗟に防御態勢を取る。同時にまたもや小春の奇妙なアウルが彼女らを覆う。
 だが、投擲と同時に駆け出していた軍人犬がバスに迫る。しかし、後一歩という所でその動きが止まった。
「危ない所やったね……」
 ほっと息をつくアキラ。彼女が念のため展開しておいたドーマンセーマンの五芒星が軍人犬の動きを止めていたのだ。
 ――が、ほっとしたのも束の間。軍人犬は今度はバスに向かって銃口を差し向ける。既にバスは銃の攻撃範囲内である。
「これも市民を助けるためだ……仕方が無い……!」
 咄嗟に軍人犬とバスの間に割って入る雪之丞。
「……だめ……!」
 と、小春が慌てて叫ぶ。すると、雪之丞の体に高密度の光が集中し弾丸の衝撃を相殺した。それでも弾丸の威力は凄まじく、雪之丞は衝撃で吹き飛ばされバスに叩きつけられるが、どうやら重体は免れていた。
「ひ、ひぃぃぃいいいいっ!」
 その時、突然バスの扉が開き数名の市民が逃げ出した。どうやら恐怖が限界に達して恐慌状態に陥ったらしい。バスの中から制止する声が響きくが耳を貸す様子も無い。
 当然、それは軍人犬の注意を惹いてしまう。銃口がそちらを向く!
 だが、その軍人犬の体に電撃が撃ち込まれる。初手の胡蝶が通用しなかったかことから敵の動きを防げるかどうかは五分五分と踏んでいた黒子は同時に、軍人犬の射線を自らの体で塞ぎながら敵の上半身に全身でぶつかって行く。
 あたかも、「護る」という気概をみせつけるように。
 やがて、ディアボロのナイフが一閃し、黒子は振り解かれ地面に叩きつけられたがその傷は小春の援護によるものか、浅い。
 それでも小春は心配そうに黒子に駆け寄ると、淡い光で黒子を包み、その体を癒し始める。
「……どうして、ニンゲンは、どうして……」
 自分を手当てしながら独り言のように呟く小春に、黒子が答える。
「そうあらん、という心情と……権利でしょうか」
 はっとした様子で黒子をじっと見る小春。
 直後、激昂し黒子に飛び掛かろうとした軍人犬の体を光の鎖が拘束した。
「捕えた……! 後は頼むぞ!」
「悪く思うなよ」
 まず、ルナリティスが再び弓を放ちカオスレートの差で大きく敵の生命力を削り取る。
「あんたも……元は人間やったんやんね……」
 どこか憐れむようにアキラは呟く。それでも彼女の放った矢は容赦なく敵の心臓に突き刺さった。
 軍人犬は、苦しげに咆哮するとそのままゆっくりと群馬の大地に倒れ伏した。
 その瞬間、小春の様子に注意していたアキラは見た。
 今にも泣きそうな彼女の表情と、彼女が繰り返しこう呟くのを。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」


「何か……身元が解る物があればええねんけどな……」
 アキラは、骸と化した軍人犬を検分していたが、やがて錆びついたドッグタグを見つけて拾い上げた。
「これだけでも……埋めてあげた方がええんかな」
「すまないが、それはこちらに引き渡して貰えないだろうか」
 とハヅキ。
 最もだと思い、同意しようとするアキラ。だが、この時じっと傍らに立つ小春の様子に注意していたゼノヴィアが、何か言いたそうだが言い出せないでいる小春の肩に優しく手を置きながらこう述べる。
「出来たらで良いんだけど……小春に渡してあげて貰えないかな。何か訳ありみたいなんだ」
 ハヅキが答える。
「……事情があるというなら、私の方で認識票の内容を控えておけば済む話だが……理由を聞かせてもらいたい。……そもそも、君は学園の撃退士では無いようだな」
「うん。俺も、出来ればそれは聞きたいな」
 ゼノヴィアも口を挟む。
「この依頼に参加する前に読んだ資料だと、このディアボロはまだ群馬に居る悪魔とヴァニタスの手勢らしいけど……その、答えたくない質問なら申し訳ないけど、彼らと何か関係があるのかい?」
 一方、ルナリティスの問いはより感銘直截なものだ。
「言いたくないなら二度は問わぬが、あのディアボロはもしくはかのヴァニタス―レザーレスハウンドと何か縁故でもあったのか? 何と無く戦闘を躊躇っていた様だが」
「あ……あにの、違う……い、イトコ? の、形見だから……それ……ソガベ ユキオは、私の従弟の名前……昔、仲よくして貰った……」
 小春の言葉には所々、覚えた言葉をそのまま諳んじているような雰囲気が混じる。
「ユキオオニイサンは……群馬で自衛隊に居て……行方不明に……」
「確かに、認識票はソガベとなっている。だが……」
 ハヅキが不信感を表明しようとした時、すかさず黒子が割って入った。
「群馬を巡る混乱は、冥魔がこちらの意識からその存在を隠していたせいもあって相当なものだったようですね。曖昧な所があるのは仕方が無いのではないでしょうか」
 そう言いながら、黒子はルナリティスに向かって片目をつぶって見せる。嫌、前髪に隠れて見えなかったのだが、多分そんなアトモスフィアだったのだ。
「確かに……私が引き篭もり気味だった間に情勢が動いていたのもあるが……群馬が人類の手に奪還されていたのがいつの間に感がある。一体いつ情勢が変わったのだったか……学園の撃退士である私でも首を傾げるくらいだ。フリーランスであればなおさらであろう」
 今度は、ルナリティスが小春に目配せした。きょとんとしていたが、やがて気付いてこくこくと調子を合わせる小春。
 色々と穴だらけではあるが、かといって正しい所もありハヅキは黙る。ゼノヴィアもそれいじょうは聞かない。
 やがて、ハヅキは必要な事をメモすると認識票を無言で小春へと手渡した。頭を下げて立ち去ろうとする小春に、ゼノヴィアが何かの紙切れを差し出した。
「……?」
 不思議そうに見上げる小春にゼノヴィアは照れ臭そうに頭を掻く。
「上が斡旋所の番号。困った事があればいつでも連絡するといい。下は……少し辺鄙な所にある秘湯の場所だよ……何だか、温泉好きそうだから」
 人里離れた秘湯、という言葉に小春の表情が微かにだが輝いた。
「あ、ありがとう……あの、ぜ、ぜ……のび……」
「あ、名前呼びにくかったらゼノと呼んでくれ」
 優しく笑うゼノヴィア。小春は認識票を大切そうに持ちながら。
「……わかった。ありがとう、ゼノ……」
 そして立ち去ろうとする小春に背後から銀海が声をかけた。
「大したことではないのだけれど……きみは、まだ群馬にいるつもりなのか?」
 小春はしばらく黙った後、小さく頷いた。
「……まだ、やらなくちゃいけないことが、ある、から……」
「そうか。なら、また会うかも知れないな」
 怪訝そうな顔をする小春に銀海は微笑んで見せた。
「私も、群馬には来る事が多くなりそうだから、聞いてみたくなってね」
「なぜ……?」
「あのディアボロを見ていると……郡魔……あの戦いは、本当の意味ではまだ終わっていないのかも知れない。そう、思うんだ」
 リッチはじっと銀海を見つめると、静かに踵を返した。


「……とにかく曽我部自衛官の件については、照会してみる。真偽はすぐに解る事だ」
 どこか、釈然としない表情で呟くハヅキに、アキラが相槌を打つ。
「……でも、小春ちゃん戦っている間ずっとつらそうやった。最後は、ごめんなさい、ごめんなさいって……全部が本当ではないかもしれへんけど、やっぱり何か事情があるのも間違いないで」
「そもそもどうやって、あのディアボロが『従兄』の変質した存在だと知ったのか……など色々疑問も多いがな」
 ルナリティスが呟く。
「まあ。それなら攻撃を躊躇ってこちらの支援に集中していた理由としては一応通じるが……出てきた言葉が『ごめんなさい』というのは何か不自然な気もするな」
「そうやね……あの表情と口調は倒さなければいけない事を謝っているのとも違うような気がしたんよ」
 アキラが同意する。
「とにかく、今は判断材料が少な過ぎる。一尉、不躾な質問になるが今回のディアボロの背後にいるらしい、レザーレスハウンドなるヴァニタスについての情報が知りたいのだが」
 とルナリティス。
「私からもお願いしたい」
 と銀海もハヅキを見る。
 しばし、考え込むハヅキ。彼女の脳裏にかつて片品村での戦いで共に戦った学園生、そして今日ここで身を挺して市民を守った学園生の姿が思い起こされた。
「……多分に個人的な事情の上、まだ確証も無いのだが――結論から言えばレザーレスハウンドと名乗るヴァニタスは群馬に駐屯していた陸上自衛隊の三等陸尉で、私の上官であった犬養萩臣という人物である可能性が高い」
 淡々と述べるハヅキ。
「そして、犬養陸尉がヴァニタスとして活動している以上、ディアボロたちが彼の部下の肉体から作り出された可能性も高い、というのが私やこの件に関わっている幹部たちの意見だ……恐らく、さっきの曽我部自衛官の所属を照会すれば、何かが解るだろう」
「なるほど、大体の事情は分かった。では、さきほどの少女――姫塚小春については何か心当たりはないのか?」
 今度は雪之丞が質問する。
「いや。あの少女についてはなにも解らん。以前温泉旅館で起きた天魔の襲撃に関わっていた、ということ把握しているが――ちょっと待て」
 雪之丞の質問がきっかけで何かを思い出したのかハヅキが険しい表情になる。
「そう言えば、レザーレスハウンドは悪魔かヴァニタスかは不明だがリトルリッチという者と行動を共にしていた……いや、私はこのリトルリッチも片品村で一度だけ直に見たことがあるのだが……まさか!? いや、しかし……」
 小春の髪の色は紫。そして、ハヅキが一度だけ見たリトルリッチの髪も艶やかな紫であった。通常は、髪の色だけでは何の意味もないだろう。
 しかし、こう様々な状況が符合して来ると――ハヅキはじっと考え込んだ。
 いや、ハヅキだけでなくこの場にいる撃退士たちがある可能性に思い当たっていた。
「もし、小春が冥魔なら……何故自分を助けたのだろう……」
 小春に治療された傷跡を押さえながら雪之丞が呟く。
「『人間は弱いのに強い』か……小春が冥魔のリトルリッチだとしたら、どういう意味で呟いたんだろう?」
 ゼノヴィアが独り言のように呟く。
夏の午後の陽ざしの中静寂を取り戻した農道でただ蝉だけが戦闘終了を受けて再び鳴き始め――ふと、黒子が呟いた。
「信条、と権利……だからだぜ」
「む、なにか言ったか?」
 聞き返すルナリティスに、黒子は何も言わず首を振って見せた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 拳と踊る曲芸師・Zenobia Ackerson(jb6752)
 鬼!妖怪!料理人!・葛葉アキラ(jb7705)
重体: −
面白かった!:4人

新世界への扉・
只野黒子(ja0049)

高等部1年1組 女 ルインズブレイド
男だから(威圧)・
文 銀海(jb0005)

卒業 男 アストラルヴァンガード
理系女子・
ルナリティス・P・アルコーン(jb2890)

卒業 女 ルインズブレイド
拳と踊る曲芸師・
Zenobia Ackerson(jb6752)

卒業 女 阿修羅
鬼!妖怪!料理人!・
葛葉アキラ(jb7705)

高等部3年14組 女 陰陽師
秘名は仮面と明月の下で・
雪之丞(jb9178)

大学部4年247組 女 阿修羅