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マスター:稲田和夫
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:10人
サポート:6人
リプレイ完成日時:2013/04/24


みんなの思い出



オープニング

 ホイッスルが試合終了を告げると、両チームの選手は一斉に整列、例をして解散した。ここは久遠ヶ原の一画にあるサッカー場。当然試合をしていたのは撃退士たる学園生たちだ。この日は小等部の部活同士による練習試合。
 マンモス校である久遠ヶ原には多くの同種の部活がある。スポーツ系の部活ならこうして対抗試合が組めるという訳だ。
 さて、試合が終了した際に開花直前の桜の梢を縫って飛んで来たのはサンバラト(jz0170)だった。襟元と袖の青い体操服を着ている。急いだためかいつも通りのストライプのオーバーニーソックスとハーフパンツの間には微かに汗が浮いていた。

 そのサンバラトを見た瞬間サッカー少年は露骨に嫌そうな顔をする。
「……何しに来たんだよっ!!」

「何って……」

 サンバラトは首を傾げた。
「今日試合なのに……また寝坊して何も用意できなかったよね……?」
 サッカー少年は言葉に詰まった。正にその通りだったからである。

「だから……これ」
 そう言ってサンバラトが差し出したのは大きめの弁当の包みだった。少年の表情が険しくなる。けれどこの弁当が無ければ彼は何も食べる物が無い。少年は仕方なく受け取りそこでようやく周囲のざわめきに気付いた。

『誰だよ、あの可愛い子……!』

『天魔みたいだけど……、てアイツ女友達居ないって言ってたじゃねーか! 畜生!』

『い、い、今あの子が横を通った時、ふわっと、ふわっと髪の毛が、いい匂いが……』

「……?」
 再び首を傾げるサンバラト。一陣の風が桜の花びらを舞わせる。
「じゃあ、僕はもう帰るから、頑張って……あ、今夜は生姜焼きだから……」
 そのまま翼で飛んで帰るサンバラト。後に残されたサンバラトと同じ寮の少年を周りの生徒が取り囲む。

「この野郎! あんな可愛い子の手料理を毎日食っているのか!」

「畜生! 生姜焼きだと!? 畜生!」

 凄まじい剣幕の部活の仲間たちに少年はたじたじだ。
「待てよ……待てってば……! アイツそもそも男だぞ!?」
 少年が怒鳴る。これで少しは冷静に戻ってくれると期待して。

『で?』
 が、部活の仲間たちは真顔で聞きかえす。

「え?」

『いや……男だから何?』
 
 チームメイトたちは相変わらず羨望の言葉を連呼する。このままでは練習どころではない。
 仕方なく少年は叫んだ。

「わかったよ! 来週は皆の分まで作らせる! だから今は練習しようぜ! 試合はもうすぐだろ!」

 一瞬の沈黙。そして、部員たちは雄叫びを上げる。

『男に二言は無いな!?』

「だけど。材料費とかは払ってもらうからな!?」

『1kまでは余裕!』

「即答かよ!」


 さて、その晩の事。サンバラトの寮の食堂では二人が向かい合っていた。
「20人分……? わかった。経費や手間賃が貰えるなら大丈夫。僕に任せて……」

 少年のほうは不機嫌な顔で眼前の生姜焼きをもっきゅもっきゅと食べている。紹介してもらった肉屋から安く買わせて貰った豚小間で作ったもので、もちろんサンバラトが用意したものだ。
「……一杯食べるね。お弁当少なかった……?」
 すると、少年は今度はサンバラトをきっと睨み。

「調子に乗るなよっ! 俺はお前の事なんか絶対に信用しねーからな!」
 
 サンバラトは少しだけ首を傾げ
「ご飯つぶ、ついてる」


「ちょっと、作り過ぎたかな……」
 そして、次の週末。サンバラトは何段にも重なった弁当箱を抱え散り始めた桜並木を歩いていた。
 容器は予め希望者から預かっていたものだ。
 流石にこの量だと先週の様に抱えて飛ぶわけにもいかなかった。重量は問題無いがバランスが悪過ぎるからだ。

「僕もそろそろ……」
 桜並木の間に立つ街頭時計で時間を確かめたサンバラトは自分用の握り飯を取り出すと、花びらの積もったベンチに腰かけて少しだけ休憩して食べ始めた。
 
 春風が一際強く吹き、桜の花びらを散らす。その瞬間――。

「……しまった」
 サンバラトは無言で指を舐めると、弁当を丁寧にベンチに置く。直後、薄いピンク色の街頭に突如として場違いな闖入者が。
 周囲に蠅の羽音の不快な振動が響く。

「サーヴァント……」
 サンバラトと弁当を包囲していたのは、青緑の金属光沢を放つ巨大なアオバエ型のサーヴァントだった。久遠ヶ原の敷地内に出現するということはかつての大規模ゲートから迷い込んだものだろう。
「……近道が、不味かったのかな……」
 今回飛んで行けないサンバラトが近道として選んだこの道は問題のゲート跡から割合近い位置にあり普段は人通りも少ないのだった。

「とにかく、戦わないと……」
 
 身構えるサンバラトの前で六匹の蠅は周囲を旋回しつつ、その口吻を突き出し……何かを同時に吐き出す。

「……ケーニヒス・ジャベリン」
 

 だが、その飛沫は黒いオーラを纏って出現したサンバラトの鎖付の槍の、広い刃に受け止められる。その汚らしい液体を浴びてもジャベリンの刃の鈍い輝きはいささかも曇らない。

「……あ……そんな」
 だが、サンバラトの顔がさっと青褪める。飛散した液体が一応魔装具である彼の体操着の一部を溶かしたせい……ではなく、その液体が付着した桜の幹が無残に侵食され始めたからだ。

「あれが、お弁当に当たったら……!」

 しかも、見れば蠅の一匹がサンバラトの食べ残した握り飯を長い口吻で舐め回している。他の五匹もあからさまに高々と積み上がった弁当に注意を向けていた。
 どうやらこのサーヴァント、食料に強い執着があるらしい。

「このままじゃ……」
 焦るサンバラトとじりじりと迫る蠅の群れを君達が目撃したのはその時だった。


リプレイ本文

弁当のリプレイ
「くしゅん!」
 桜並木に少女のくしゃみの音が響く。シルファヴィーネ(jb3747)は気を取り直していちごオレを啜りつつ、桜並木を歩く。
「うぅ……いったい何なのかしら、この時期目も痒くなるし……ん?」
 が、開けた道の先で何やら騒ぎが起きているのに気づき足を止めるシルヴィ。
 その彼女の真横を、何かが生理的嫌悪感を催す羽音共に飛び去っていく。
「何この気持ち悪いの……」
 うげっとなるシルファ。その視線の先では巨大な槍を構えた体操着姿の女の子? が群がる蝿を必死に追い払っていた。
「ちょっとどういう状況なのこれ!」
 一匹の蝿が背後から女の子に密着しようとした瞬間、ハルバードが春の日差しを反射して煌く。
 が、その刃は空を薙ぎ蝿は再び距離をとった。
 瞬く間に二人を包囲する蝿の群れ。
 
 さて、唐突だがこの時、サンバラトが休憩していた地点は丁度、十字路になっていた。この時シルファとは別方向から天険 突破(jb0947)がサンドイッチ片手に現れる。二人が包囲されている光景に突破は迷わず食べかけのサンドイッチを蝿に投げつける。
「蝿ども、狼藉はそこまでだ!」

 まるで、鳩に餌を撒いた時の様に、三匹が一斉にそちらへ向かう。その隙に二人の方へ駆け寄る突破。
「大丈夫か? か弱い女の子が二人も襲われているんじゃ、放っておけないからな」

「は、ハエ……食べ物の敵っすね! 手で避けて食べるにはデカ過ぎるんで成敗するっすよ〜!」
 続いてこの場に現れた天羽 伊都(jb2199)は叫ぶと剣を構えて光纏。突破に習ってサンドイッチを放る。

「ワふー! 美味しそうな匂いと、良い匂い、そしてちょっと嫌な匂いの正体が解りましたわー!」
 続いて低空ですっ飛んできたのはミリオール=アステローザ(jb2746)だ。
「ミ、ミリオールさん……?」
 以前の依頼で面識のあったサンバラトが驚く。
「こんにちわサンバラトさんっ、御無沙汰してますですワっ!」
 ミリオールは普通に挨拶を返したかと思うと、蝿の群れの前面でターンすると、アウルの波動を放ち蝿たちを牽制。サンバラトたちの間に立ちはだかる。
「あぁ、これは見てられない! 私も助太刀しようではないか! 行け、馬ゴン」
雨霧 霖(jb4415)もスレイプニルを召喚すると、蝿の群れに向かわせる。
「やれやれ……のんびりとデッキ構築したいんですけど」
 続いて、ウルス・シーン(jb2699)もそう溜息をつきつつカードを取り出す。
「カードイメージ・ロード・スキャニングOK……来い、命無き鋼鉄の魔竜よ! 展開し護れ!」
 ウルスの前面に現れた魔方陣から竜が現れ、咆哮。周囲にアウルの防壁を張り攻撃を防御した。こうして桜並木の中飢えたサーヴァントとの戦いが始まった。


「くっそう、ブンブンと!」
 苛立ちも顕に突破が叫ぶ。数の上では十対六だが、はぐれとはいえサーヴァントもそう容易な相手ではない。確かに攻撃力は大した事が無いものの、その飛翔で掻き回され爪でじわじわと生傷を受けるのはそう心地の良い物ではなかった。
 それでもサンバラトの弁当そのものは今の所無傷。それぞれの魔装や衣服もまだ深刻なダメージは受けていない。
「ふむ、こうなったら……最後の手段かな?」
 雨霧が首を捻る。
これまでの攻防、サーヴァントはとにかくサンバラトの弁当、というか一同の弁当や投げ出した残飯を優先的に狙っている。
 だが、例えばサンドイッチや握り飯をただ投げ出しても野生動物らしく丸ごと掻っ攫われるだけだ。
 確かに、それでも一時的に敵の数を減らす効果はあるわけだが。

「サンバラトさん、この大量のお弁当……きっと待ってる人がいっぱいいるんだよね。絶対守らないと……ね」
「え……?」
 サンバラトを見てにっこりと笑う御守 陸(ja6074)は、彼の弁当が入っていると思しきタッパーをゆっくりと開け始めた。

「そんな……、貴方のお弁当が……!」

「大丈夫です。いえ、僕は大丈夫です。家でも軽く食べてきましたから」
 そう言う陸は先刻とは打って変わって、機械のように感情を感じさせない。

「ようし、可愛い男の子の体操着姿のた……ゲフンゲフン、君のお弁当のために一肌脱ごうではないか! 皆いくぞー!」
 景気づけに叫ぶ雨霧の声に従って、数名を除く撃退士たちは一斉に自分の昼飯を地面に置き、散開するのだった。


 効果は覿面だった。蝿どもは大量の食物が一気に無防備になったのに気を取られ、用心のためにサンバラトの弁当の傍に残った数名以外の撃退士の動きに全く関心を示さなかった。

 まず一匹がスパイシーな香りに釣られたのか、陸のカレーに興奮を突っ込む。サンドや握り飯ならともかく、相手がカレーでは持ち去るわけにも行かず、結果この蝿は無防備な姿を晒す。
「腐っちゃうのはバナナだけでいいっすよ……!」
 興奮を突っ込まれたカレーが瞬く間に腐り始めるのに顔をしかめつつも伊都は蝿に高速の一太刀を浴びせた。
 
 蝿の方は慌てて反撃の爪を振るう。爪が伊都の胸を薙いだが、伊都の一太刀は蝿に深く突き刺さる。
「エンチャント。残念だったな、吹き飛ばせ!」畳み掛けるようにしてウルスの命無き鋼鉄の魔竜が機械の腕で強烈な一撃を蝿に加え、頭を叩き潰した。
「一匹やっつけたっす! 成敗完了!」
 伊都が叫んだ。
 

「今度こそ、ハエ叩きだっ!」
 突破も身近な蝿に大剣を振り降ろす。衝撃を受けた蝿はそのまま地面で足を震わせる。
「援護します……ファイア」
 そこに陸の弾丸が突き刺ささり二匹目も仕留められる。 


「これは……招かれざる客だね」
 桜木 真里(ja5827)は迎撃組を振り切って飛来した蝿に表情を強張らせた。
「「くっ仕方ない……こちらだピカピカの!」
 とにかく敵を引き離さなければならない。亜(jb2586)は自分の弁当の蓋を開けると、素早く翼を翻して飛び上がった。
「やれやれ、釣られたのは一匹だけか。でもこれで終わりだね」
 満身創痍の蝿に白扇を投げつける。が、蝿はひらりと回避して亜に肉薄した。
「にゃっ!?」

 素っ頓狂な声を上げてしまった亜の目の前に、蝿のドアップが迫る。昆虫にはさまざまな種類がおり、中には美しい物も多い。しかし蝿の、それも頭部のドアップは少なくとも好んで見たいものではないだろう。
「にゃーーー! キモいー!!」

 涙目で絶叫する亜。隙を見せた亜を蝿は六本の腕で捕獲。そのまま地面に着陸そして、その汚い口吻をぬっと突き出した。
「にゃ……っ」
 目の前でひくひくと震える蝿の突起に亜がガタガタと震え始めた。……蝿の名誉のためにのべておくなら、こいつの狙いは亜の傍らでひっくり返ってしまった彼女の弁当なのだが。
「や……やだやだー! キモいのやだよーっ!!」
 蝿に押さえつけられたまま必死に首を振る亜。しかし、傍目にヤバい光景は唐突に終わりを告げた。
 彼女自身の投擲した扇がくるくると戻ってきて、ドスっと蝿に命中したのである。

「あ……あれ?」

 満身創痍の蝿はそのままぽっくり逝ってしまう。気がつけば、心配そうな仲間たちの視線。

「お、オホン……ふ、計算通りだったね!」


 更に残りの二匹が弁当に突っ込むが。
「……それが当たるのは困るんだ」
 桜木が一匹目の飛ばした粘液を赤いマフラーで防ぐ。

「いけませんよね、沢山のお弁当、沢山おなかがすいてみんな悲しくなっちゃいます」
 二匹目は弁当に体当たりするも、牛図(jb3275)の張ったアウルの網に弾かれ、網目を貫通した粘液も牛図のお守り代わりのエプロンに弾かれてしまった。
「視覚的にも衛生的にも良くないし早く倒してしまわないとね」
 更に、桜木が火炎の爆発を引き起こし二匹を纏めて巻き込む。
 
 一匹は致命傷を負い倒れ。
「人のご飯を無理矢理取るのは駄目ですワ……撃ち貫け、スターメイカーっ」
 更に逃げようとした二匹目はミリオールの腕から伸びた黒く煌めく触手に貫かれ、無機物へと変性して、脆くも崩れ去った。


「この……もうカロリーブロックもないってのに!」
 一方、シルファヴィーネの方もしつこく向かって来る最後の蝿相手に奮戦していた。ハルバードを振るうが、今一歩で回避される。
「あ……!」
 その時後ろの方からサンバラトの声が聞こえて来た。振り向けば蝿が弁当まであと一歩と迫っている。
 咄嗟に手元を見るシルファヴィーネ。その手にはいちごオレ。

「……無理、有り得ない。これ無いと私しぬ」

「あっちへ行って……!」
 背後から再びサンバラトの声。

「……絶対責任はとらせるからね!」
 シルファは涙を飲んでオレを投げる。引っかかった蝿は弁当とはそっちに飛んで行く。
 そして、いちごオレを口吻で啜ろうとした蝿にフレイムシュートが連続で着弾した。
「虫には火、かな」
 攻撃した桜木が少し笑う。
 
「このっ、このっ!」
 火傷にのたうちまわる蝿に、怒りに任せてハルバードを連続で振り降ろすシルファ。

「やっぱり、食べ物の恨みって怖いんだね……」
 苦笑する桜木だった。


「どーしてくれるの! わたし、しぬ。マジで!」
 戦闘終了後、シルファヴィーネがサンバラトに掴みかかっていた。
「ご、ごめんなさい……」
 サンバラトは謝るががくがくと揺さぶられる。
「他の飲み物で……? あっ……!」
 何かを言おうとしたサンバラトは突然硬直。そしてとっても恥ずかしそうに眼を逸らした……。
「?」
 シルファヴィーネ訝しそうに自分の服を見る。

「〜っ!?」
 一気に赤面するシルファヴィーネ。
 
 な、なんと! 
 
 シルファヴィーネの服が一部溶けて、明言は避けるがちょっといろいろな所が晒されていたのだ。

「あ、あの……」
 手を放し、俯いて震えている相手にサンバラトは恐る恐る声をかける。
 直後、さっと少女の手が振り上げられた。
 ぶたれる?! 咄嗟に身構える。しかし――

「こうなったら……血を吸わせなさい……!」
 がっしと少年の肩を掴んで、その首筋に口を近づけていくシルファヴィーネ。

「……え? あっ……だ、だめです……っ!」
 慌ててもがくサンバラト。
「いちごオレと洋服の仇〜ッ!」

 ……数秒後、流石に不味いと思った他の皆が二人を引き離したそうです。


「そうそう、ごあいさつしてません、僕は牛図ですはじめまして」
 戦闘終了後、まず牛図が丁寧に挨拶をした。
「……サンバラト、と言います」
「それで、お話は聞きました。まずお弁当を運ぶのを手伝いますね。それから、えと、皆でおはなみしませんか?」

「お花見……?」
 首を傾げるサンバラト。
 桜木が牛図は手分けしてサンバラトの弁当を持ちつつ目を細めて散り行く桜を眺めた。

「お花見っていうのはね……まあ、来れば解るかな。何といってもこんなに桜が綺麗だからね」


「あ、これも美味しいっすね! あ、これも! これそっちに残って無いっすか?」
 
 戦闘終了後、無事球技場に到着した一行はグラウンドの周囲に広がる桜並木で早速弁当を広げていた。
「まだ……? いえ、いっぱいありますけど……」
 行儀よく正座したサンバラトは、凄い勢いでお弁当(主にサンバラトが作り過ぎてしまった分)を食べている伊都に別の箱を渡す。
「当然っす! 運動の後の食事は最高っすからね!」
 にしても食べ過ぎだとはこの場の全員が思っているが、口には出さない。

「あ……御守先輩も、どうぞ……」
 ここで、折角のカレーをサーヴァントに食べさせてしまった陸にも自分の弁当を薦めるサンバラト。
「いえ、僕は大丈夫です。家でも軽く食べてきましたから」
 陸は、苦笑して辞退しようとしたが。

 ぐー

 陸のおなかの方は正直だった。

「……」
 真っ赤になって俯いてしまう陸。そこに改めてサンバラトが取り分けた弁当を差し出す。
「本当に、作り過ぎちゃったから……」

「えと、僕の方もいっぱいあるので、大丈夫です」
 牛図も気を効かせて自分の特大弁当を示す。
がそれぞれ沢山入った色気は無いけど夢と希望が沢山詰まったお弁当
「……。すいません、いただきます……」
 陸は申し訳なさそうに受け取り食べ始めた。

「牛図さん。そのタコさんウィンナーいただきたいのですワ!」
「あ、これですね。えと、どうぞ」
 桜の下でおかず交換をする悪魔と天使……。
「はふー、美味しいご飯に……お花におしゃべりに……今日も素敵な一日なのですワっ」
「「おはなみ」と言うのは楽しいですね。でも、大きくて邪魔になるから、にぎやかが少し減るのをまってました。こうやって誰かと一緒に笑えるのは嬉しいです」
「? 桜の方がずっと大きいから邪魔にはならないですワよ? 皆楽しいのが一番ですワっ!」
 しかし、当人たちは余り気にしていない様だ。

「どうだい? 飲み物はいかがかな?」
 霖が亜に紅茶とコーラを示す。
「ああ、折角だからいただこう……ふむ、大人数での御花見……中々」
 優雅に紅茶を飲む亜だったが。

「にゃー!?」
「わー!? また出た!?」

「どうした!? また蝿叩きが必要か?」
 女性二人の悲鳴に慌てて突破が駆けつける。其処にはごく小さな一匹の蝿……ではなく虻が呑気そうに花に取り付いていた。

『……』

 気まずい沈黙。やがて、それを破るように霖が。
「ど、どうだろう! 後で皆で記念撮影でもしないか!」


「お疲れ様。接戦でしたね。おかげでデッキの参考になりました」
 試合終了後。汗を拭きつつ戻って来たサンバラトと同じ寮のサッカー少年にウルスが挨拶。
「誰だ……? お前の知り合いかよっ?」
 近くにサンバラトがいるのを見て少年は声を荒げる。
「はいはい、悪魔だからってそうつっけんどんにしないでくださいね」
「ごめん……でも……」
 事情を説明するサンバラト。
「……俺が頼んだ訳じゃねーけど……ありがとうございました」
「いえいえ。どういたしまして……まあ、苦労する気持ちはわかりますよ」
 苦笑するウルス。

「もしかして、貴方……は……? ニンゲンと……の」
 少年が去った後、サンバラトはウルスの方を見た。
「そうだったら、友達にはなれない?」
 ウルスが聞く。
 サンバラトはゆっくりと首を振った。


『う、うまい!』

『畜生! 生きてて良かった!』

 試合終了後、念願の弁当にあり着いたサッカー部員たちから歓声が上がった。

「あ……そんな……」
 単なる自炊のつもりで料理を覚えたつもりのサンバラトの方が戸惑っていた。

「でもすげーよな。嫁に行ったら、いい奥さんになれるな!」
 突破も改めて言う。性別には誰も突っ込まない。

「本当に凄いと思うよ」
 桜木も優しく言う。

「ボクにもお弁当……ジュルリ」
 と、いきなり伊都がジト目でサンバラトを見る。
「え……?」
「今度は僕にも作って欲しいっす!」
 力いっぱい叫ぶ伊都。
「え……別に、都合が会えば構わないですけど……」
「本当っすか!? 絶対っすよ!」

 ……こうして、休日のお花見は終わった。その夜、サンバラトは食堂に霖が撮影した記念写真が貼りつけた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 真ごころを君に・桜木 真里(ja5827)
 冷徹に撃ち抜く・御守 陸(ja6074)
 黒焔の牙爪・天羽 伊都(jb2199)
 思いを胸に秘めて・雨霧 霖(jb4415)
重体: −
面白かった!:4人

真ごころを君に・
桜木 真里(ja5827)

卒業 男 ダアト
冷徹に撃ち抜く・
御守 陸(ja6074)

大学部1年132組 男 インフィルトレイター
久遠ヶ原から愛をこめて・
天険 突破(jb0947)

卒業 男 阿修羅
黒焔の牙爪・
天羽 伊都(jb2199)

大学部1年128組 男 ルインズブレイド
撃退士・
亜星(jb2586)

小等部6年1組 女 バハムートテイマー
撃退士・
ウルス・シーン(jb2699)

大学部4年324組 男 バハムートテイマー
ファズラに新たな道を示す・
ミリオール=アステローザ(jb2746)

大学部3年148組 女 陰陽師
でっかいひと・
牛図(jb3275)

高等部3年4組 男 陰陽師
撃退士・
シルファヴィーネ(jb3747)

大学部1年164組 女 ナイトウォーカー
思いを胸に秘めて・
雨霧 霖(jb4415)

大学部3年54組 女 バハムートテイマー