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マスター:いなばー
シナリオ形態:イベント
難易度:やや易
参加人数:25人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2014/01/14


みんなの思い出



オープニング

 年末。とある神社の社務所。大峰山 朝陽(jz0243)は宮司と向かい合ってお茶をすすっていた。
「初詣か、もうそんな時期なのね」
「そうなんだよ! 年に一度の晴れ舞台だよ!」
 プロレスラーみたいに脇をパシパシと鳴らしている。変にガタイが良いから余計にそれっぽい。正直ウザかった。
「何その無駄なテンション。普段どんだけ鬱屈してるのよ」
「お宮参りや七五三の若奥様もいいけど、やっぱバイト巫女だよ!」
「あんた本当に神職? もっと修行して心を綺麗にしなさいよ」
 今度はぶるるいと顔を振る。正直ウザかった。
「バイト巫女〜〜〜!!」
「そろそろ警察か。正月は留置所で過ごす?」
「でもねぇ、最近女の子の集まりが悪いんだよ」
「そりゃあんたみたいなのが上司じゃね。ここで働いてる神職さんも、あんたの事愚痴ってるわよ」
「朝陽ちゃん、バイト巫女してよ」
 満面の濃い笑顔を突き出してくる。正直ウザかった。
「コスプレは勘弁よ。高校時代の文化祭じゃ男装して変なファンがいっぱい付いたし、この前もコスプレ喫茶で酷い目に遭ってるのよ」
「バイト巫女はコスプレじゃないよ。神聖なお仕事さ!」
 拳を振り上げて力説する。正直……もういいや。
「あんた見てるととてもそうは見えないけどね」
「まぁ、人が足りないのは本当なんだよ。屋台もそんなに来れないらしいし」
「全部あんたの人徳よね」
 とは言え、この神社自体は良い神社だった。長い歴史を感じさせる立派な社殿と神木。小さいながらも杜もある。掃き清められた境内はちょっとしたグラウンドが二つは入る。
 祀っている神様は聞いた事のない名前だが、恋愛運、安産、病気平癒、学業成就、事業成功、金運と何でもありだった。
 普段はとても静かな環境で、朝陽のお気に入りの場所だった。休みの日は大抵暇なので、境内にあるベンチに腰かけてぼんやり過ごしたりするのだ。
「そうね、私に良い心当たりがあるわ」
「バイト巫女!!」
「あー、うん。そういうのも来ると思うわよ。久遠ヶ原の連中はやたらとノリがいいからね」
「バイト巫女キタッ!! 朝陽ちゃんの巫女服も用意しとくからね!」
「いや私は……」
 しかし宮司はもう部屋を飛び出していた。


リプレイ本文


 正月。
 彩咲・陽花(jb1871)と葛城 縁(jb1826)は心地良い陽の光を浴びながら、穏やかな心持ちで並んで歩いていた。
「んー……。今日も良い天気だね、縁」
「そうだねー。今年もよろしくね、陽花ちゃん」
「それ言うの、今年何回目?」
 陽花が微笑んで、縁の鼻の頭を軽く人差し指で押す。
 と、二人の目の前にでかい図体の男が飛び出してきた。
「バイト巫女!?」
 男の大声。
「「はい?」」
 男は陽花を指さしている。確かに陽花はいつも通りの巫女装束だけど……。
「いやー、自前の巫女服とは気合い入ってるね! さ、来て来て!」
「バイト? や、私は今はしてない……え、ちょ、えぇ!?」
 戸惑う陽花だがその男はお構いなし。
 二人が引っ張り込まれたのはこれから参拝するつもりだったそこそこ大きな神社。さらにその奥へと入っていく。
 気付いたら縁まで巫女装束。
 真っ赤な髪を結い上げて、呉服屋次女たる自身の着付けと陽花の指導でバッチリと巫女服を着こなす。
「一体何が始まるの?」
 着こなしたはいいが、説明がまだ何もない。

 木嶋香里(jb7748)は今日のバイト巫女の仕事に張り切って臨んでいた。
 皆さんに喜んで頂ける様に頑張らないと! 拳を握って気合いを入れる。
「そうだ、皆で着付けや着こなしを教え合っていきませんか?」
 香里が更衣室にいる女子達に提案する。

 そうしてくれると助かる。神埼 晶(ja8085)は着付けの出来る香里に手伝って貰って巫女になる。
「おー、これが巫女の衣装か」
 姿見の前でくるりと一回転する。実に嬉しそう。

 椎葉 巴(jb6937)も大喜び。
「わーい、巫女さんだー! ずっとやってみたかったんだよねぇ」
 朱い袴をひらひらさせて、はしゃいでいる。
 人界の漫画が大好きなこの堕天使は、漫画で読んで憧れていた巫女服を着れて終始ご機嫌。
「やっぱ巫女服って可愛いね! みんなもすごく可愛い!」
 笑顔を絶やさず仕事にも熱意を見せている。

 深森 木葉(jb1711)は気合い十分。
 バイトとは言え神職と、三日前から肉食を避けて今日に備えていた。
 和服は慣れ親しんでいるので、巫女装束も完璧なのです。

 樒 和紗(jb6970)はワイワイと賑やかな更衣室を見渡してホッとひと安心。
(人手が足りないという話でしたが、随分と集まったようですね)
 初めての経験で少しだけ不安だったのだ。
 和服は着慣れているので、巫女服にはさほど違和感がない。この調子ならやっていけそう。

(悪魔であるわたくしが、仮とは言え神職に就くというのも可笑しな事かもしれませんね)
 そう思い至ってステラ シアフィールド(jb3278)は少し微笑む。
 その長い髪を自然な流れで肩口に垂らし、背中で丈長を使って一本にまとめる。左右に反った丈長が、凛とした風情。

 アティーヤ・ミランダ(ja8923)も巫女の衣装が気に入った。
「ホンモノですぜ、ホンモノ!! ホンモノの巫女服着れたら、次はホンモノの白無垢が着れる気がするぞ!!」
 テンションがやたら高かった。
 アティーヤの目が巫女装束の大峰山 朝陽(jz0243)の姿を捉えた。
「んも〜、ひなたんってば、やっぱコスプレ好きなんじゃな〜い。ウチ来れば嫌ってほど着せてあげるよ〜」
「それ本当に嫌だから。これもコスプレじゃないわ。巫女という、神聖なお仕事なのよ」
 しかしそう言う朝陽の頬は引きつっていた。

 そんな朝陽を優しく慰めてくれるのは炎武 瑠美(jb4684)。
「そうですか、宮司さんに押し切られてしまいましたか……。あの、愚痴があればお聞きしますよ?」
「瑠美さん、あんたいい人!」
 涙目ですがり付く朝陽。

 女子達が更衣室を出ると、水無月 ヒロ(jb5185)が朝陽を見付けてブンブンと笑顔で手を振ったきた。
「あけましてお……」
 ここで朝陽が巫女服を着ているのに気付く。
「もしかして大峰山さん……巫女コスプレに興味があったんじゃ……」
 などと衝撃を受けてよろめく。
「だから違うってば!」
 朝陽の弁解も水無月には届かない。

 一方の男子の方では、御神島 夜羽(jb5977)が一人不機嫌だった。
「クソッ、案の定最初に出されたのが巫女服ってのが気に食わねェな……」
 神職見習いでやって来たのに、職員は何の迷いもなく巫女服を渡してきたのだ。
 中性的な外見で見た目少女のようなので、こういう事がよく起こるとは言え、毎回毎回腹立たしい。

 神埼 葵(ja8100)も神職見習いとしてこのバイトに参加していた。
(お正月は色々入り用だもんな……うん、頑張ろう)
 若干所帯じみている。
 妹弟達にはバレずに来たつもりだったのに、思いっ切り妹の晶と鉢合わせる。
 片や巫女服、片や狩衣。お互い見慣れない格好。
「あれ? 葵兄、どうしたの?」
「あーうん、ちょっと? そっちは巫女さんのバイト?」
「そう。似合ってる?」
 袖をヒラヒラとさせてみる。
「うん、似合ってるよ、似合ってる」
 しかし変に気恥ずかしくて、あんまり見れない。挙動不審のまま別れる。
 着慣れない和服に緊張するし、ガチガチのまま仕事に向かう。

 さて、仕事を始めるに当たって、基本的な心得は知っておかないといけないだろう。広間で講習会が開かれた。
 一応知っている人も、確認の為に参加する。
 講師は宮司。
「あっ、あの人!」
 縁が声を上げる。陽花と縁をバイト巫女に引きずり込んだ張本人が目の前にいた。
「いやー、バイト巫女がこんなけいると壮観だっ!」
 初っぱなから言う事が終わっていた。意味不明にソワソワしていて見ててウザい。
「いいから講義してよ」
 巫女服の朝陽がうんざりしながら言う。
「ああ、その辺は大体で良いから、大体で」
 いい加減な講師だった。
「いいや、そう言う訳にはいかないだろう」
 声を挙げたのは井筒 智秋(ja6267)だった。
「あっ! 君詳しそうだねっ。後はよろしく!」
 無責任過ぎる宮司が手を振って姿をくらませた。
「やれやれ……」
 押し付けられてしまった。結局は誰かがやらなくてはいけないのだからと、井筒が前に出る。
 実際、書痴と呼ばれる人種であり民俗学を主に学んでいる井筒は、神道信仰ではないものの、この辺りの知識は並大抵の物ではなかった。
 と言う訳で一通り、おみくじの読み方から絵馬の書き方、参拝の仕方、その他諸々。参拝客に聞かれても答えられるように教えていく。
 それにしても、しきたり以外のバイトとしての心構えにも詳しい。
「こう言ったバイトは昔にもした事があるだけだよ」
 なのだそうだ。しかしそろそろ話が逸れてきた。
「……そもそもこの御神木と言うのは古代の自然崇拝が今に伝わる……」
「おっさん、話長いぞ〜」
 万事フリーダムなアティーヤが口走る。
「おっさん!?」
「早よ酒飲ませぇ」
 自由気ままな酒好きの桃香 椿(jb6036)も、酒瓶を抱きかかえて勝手な事を言う。
 教えて貰っていてこの言い草。
 とにかく最小限の事は伝えたのだしと、この場はお開き。

 さて、神社でのバイトメンバーで、一人だけ間に合わなかった人がいる。
 人というか堕天使である。
 命図 泣留男(jb4611)。通称メンナクは、バイトの受付窓口で職員と揉めていた。
「俺様のインパクトはそこらのガキを圧倒する!」
(訳:がんばりますからやらせてください!)
 彼の言ってる事はなかなか伝わりにくい。しかも彼は黒ずくめのロックな出で立ち。職員達は露骨に怪しんだ。
 結局はお気楽な宮司が認めて、狩衣にサングラス姿の神職見習いが生み出された。
 ちなみにサングラスを外させようと手を伸ばすと、思いっ切り仰け反ってかわすのだった。
「この封印は解いてはならない!」
 メンナク、よく分からない堕天使。


 いよいよ境内に出てお仕事である。
 晶はお守りを売る係に。
「いらっしゃいませー!」
 声を張り上げたら隣で陽花がギョッとした顔をしていた。
「……なんてお客を呼び込む巫女は……いないよね」
 誤魔化してみる。
「いないよね」
 少し強ばっている陽花の顔。
 やってしまった。
 まあ、呼び込みをするまでもなくお客は絶えず訪れた。宮司はアレだが、神社の評判は良いようだ。
 案内役が足りていなかったのでそちらにも回る。
(さっき屋台が出てたなぁ。たこ焼きがあったら買って帰りたいなぁ……)
(あ、初詣もして帰らないとな……)
 割と雑念が多い。

 宮司に引っ張り込まれた陽花と縁も働かざるを得ないように。
「わぅううっ。陽花さん、私達参拝に来たんじゃ……?」
 陽花は一応実家が神社な為、この手のバイトは得意である。だが、神社を継がず飛び出してきただけに、ちょっと複雑な心境だったりもする。
「どうしてこうなった。……あ、えっと、おみくじだね。はい、どうぞ。……悪かった場合はあそこに結ぶんだよ」
 縁は基本陽花のサポート役で、わたわたしながらお守りやおみくじの補充等をやっていく。
「各種お守りとおみくじの補充、やっておくねー。おっとと」
「はい、縁、慌てない慌てない。落ち着いてやれば大丈夫だよー」
 わたわたする縁のフォローも慣れたもの。
 落ち着いてくると縁は日頃バイトで鍛えた技術を如何なく発揮し、二人は見事なコンビネーションを見せるのだった。
「わふぅ〜……陽花さん、終わったら何か奢って欲しいんだよ〜」
 と、屋台をじーっ見る余裕まで生まれる縁。
「こーらっ」
 頭に軽く拳骨を入れてやる。
「うーん、それにしても何かとっても複雑な気分だよ」
 どうしても苦笑してしまう陽花だった。

 瑠美は緊張していた。
(沢山の方がいらっしゃるんですね。ちょっとパニックを起こさないように気を付けないと)
 予想以上の賑わいに涙目になる。
 でも、今日はみんなで協力し合って頑張ろう。と握り拳をするのだった。
 しかし沢山の人を相手にしているうち、パニックが起こりそうになってきた。
「はい、交通安全ですね。あ、こちらは安産で。学業成就と交通安全の御札ですか?」
 駄目だ! とその時、隣にいた御神島が手早く瑠美の分のお守りをさばいていった。
「あっ、ありがとうございます」
「おう」
 ちょっと照れくさそうに顔を背ける御神島。
 女と子供は必ず助けなきゃならないという信念を持つ御神島なので、これくらいは当然の事だった。

 交代で案内役に回った瑠美は、率先して迷子の対応を行なった。ここまで混雑していると、はぐれる子供も多いのだ。
 迷子の子供が寂しい思いをしないよう笑顔で対応。
 と、子供の前に神職の格好をしているのにサングラスをかけた男が屈み込んできた。メンナクだ。
「孤独の中で泣き出さないとはいいソウルをしているな、小僧」
 瑠美は若干引き気味でいたが、小さな子供は果敢にサングラスを引き抜いた。
「すげー、サングラスだー」
「やめるんだ!」
 苦しみ始めるメンナクが心配になって、瑠美が顔を覗き込む。
「大丈夫ですか?」
「くっ……お、俺の目を見るな!」
「え?」
「俺の目は刃、見る者を斬り倒す最終兵器!」
 と言って真っ赤な顔で目を逸らす。どうやらサングラスがないと恥ずかしいらしい。
 なんか可愛い! と思ってしまう瑠美だった。

 アティーヤはおみくじを担当していた。
「坊や、子供用おみくじもあるよ〜」
「あ〜、お兄さん大凶だね〜、珍しい。特に恋愛運が終わってるねぇ」
 しかし相手の青年は何故か嬉しそう。見た目セクシー系のアティーヤに鼻の下を伸ばしてる。
「後ろでカノジョがすげー怖い顔。……シラネ」
 そう言うアティーヤはおみくじを引かないのだろうか?
「恋愛運が凶より上に行かないからヤダ」
 だそうだ。

 木葉は参拝者にお守りをお分けする係。
「よくお参り下さいましたぁ〜」
 授与は両手を添え、礼儀正しく。
「お納め、おめでとうございますぅ」
 木葉は使う言葉がまず他のバイト巫女と一線を画していた。
 そんな木葉を見守る一人の男がいた。藤井 雪彦(jb4731)である。
 朝陽とお近付きに〜♪ とか軽い気持ちで神職見習いとして参加したら、可愛い妹である木葉を発見。
「コノちゃんが参加してる!?」
 最早ナンパどころではなかった。仕事すら放棄して木葉の見守りに専念する。
 スキル・明鏡止水を行使し、木の影に隠れてア○コ姉さん状態。
「……飛○馬。って冗談はともかくめっちゃハラハラするわぁ〜」
 明鏡止水の境地は乱れがち。
 交代で案内役に入った木葉も引き続き見守り。
 木葉は泣いている迷子を見付けてあやし始めた。
「大丈夫ですよぉ〜。すぐにお母さんが迎えに来てくれますぅ〜」
 なでなでと頭を撫でているが、一向に泣き止む気配がない。
 木葉の困っている様子を見て、藤井は忍法「霞声」を発動。
『社務所だよ〜。社務所前のテントでジュースとお菓子が貰えるよ〜』
 木葉に向かって姿は見せずにアドバイス。
「あ、そうでしたぁ。向こうで待ってましょうかぁ〜」
 迷子を連れてテントまで。やがて呼び出された親がやって来る。
「はぐれないように気を付けるのですよぉ〜」
 ここでようやく木葉は首を傾げる?
「さっきの声はどなたでしょ〜」
 今度は酔っ払いだ! いたいけな少女に絡む酔っ払いを引っ張っていって忍法「友達汁」で懐柔。
 変な感じにフレンドリーになった酔っ払いを見送っていると、後ろから視線。
 振り返り様に忍法「雫衣」でゆるキャラに化ける!
「はーい♪」
 しかしジト目の木葉が藤井に触れると、ザッパーと音を立てて変身が解ける。
「これアリなっしー?」
 藤井のセリフに無言で首を横に振る木葉。

 今日の葵は絶不調だった。
 御神酒を渡そうとして升を落としかけたり、自分の足に蹴躓いたり。
 単に着物が着慣れないだけではなさそう。妹と出くわした動揺が未だに続いているようだ。
 それでも迷子の子供を見付けると本領発揮。子供の扱いには慣れている優しいお兄さんなのだ。
「さぁ、一緒にお父さんとお母さんを探そうか」
 こういう時、しゃがみ込んで相手の視線に合せて話をするのだ。そうすれば子供も安心する。
 神谷春樹(jb7335)は案内役として柔和な笑顔で参拝客の相手をしながら、全体を注意深く観察していた。
「迷子ですか?」
 葵に話しかける。
「うん、どうにか泣き止んではくれたんだけど」
 神谷はスキル・仮面職人で迷子に対応。人受けする表情を作り、それに相応しいキャラクターを演じ切る。
 そして手品を見せて子供の機嫌を取ってみせる。
「すごい!」
 子供は喜び、横で見ていた葵も感心する。
「お兄ちゃんはね、神様のお手伝いをしてるから不思議な力を持ってるんだ」
「ホントに?」
 子供が目をぱちくりとさせる。
「本当さ。君のお父さんお母さんもすぐに見付かるよ。だからね、君のお名前を教えて欲しいな」
「ぼく、いとうさとし。四才!」
 そうして子供から名前を聞き出した神谷は、子供を肩車して親と子、お互いが見付けやすいようにする。
「いとうさとし君の親御さんはいらっしゃいませんか〜」
 葵は声を出して親に呼びかけ、子供が不安げな様子を見せると励ました。そうやって二人で探すうち、子供を呼ぶ親の声が聞こえてきた。
「無事に見付かって良かったです」
 そう言って笑顔で親子を見送った後、神谷と葵は笑みを交わす。

 お金の計算はあまり得意ではないと、巴は案内役を買って出た。
 そして隙を見ては自分でもおみくじを引いてみたり。その結果に一喜一憂なんて。
 それでも真面目に仕事もする。社務所の前に設置したテントで、迷子の子供の相手をした。
 子供の扱いは割と得意。精神年齢が近いからとは本人の弁だ。
 巴が子供と話していると、おみくじの大凶はどうしたら良いのかという話になった。
 神社にある決められた場所に結べば良い、という意見が多い中で、持ち歩く方が良いという子がいたのだ。
「どっちなんだろう?」
 丁度向こうで井筒と宮司が話をしていた。井筒が神社の縁起を聞いていたのだ。
 巴が何の迷いもなく井筒の方へ駆けていく。
「どっちなんですか? 井筒さん」
「ああ、それはどちらでも良いんだ。自分を戒める意味で持ち歩いても良い」
「そうなんですか、ありがとー」
「走って転ぶんじゃあないよ」
 巴が去った後で宮司が口を開く。
「あれ? 宮司の僕に聞かないの?」
 端的に言って、貫禄の差だった。井筒が苦笑する。

 椿はまず巫女服の着こなしに問題があった。
 支給された巫女服では胸と尻のサイズが小さいらしく、胸元を大きく肌蹴た状態で着用していた。宮司が大喜びだったのは言うまでもない。
「しゃーないなー、寒かけん御神酒の方に行くわ」
 とか言いながら、自前の酒瓶を持ち込んでチビチビ飲みながら接客をするという破天荒。
「かぁー、酒に囲まれて仕事たぁ、巫女さんてええ仕事やなぁ♪」
 それは本来の巫女の在り方ではなかった。
 参拝客が来ると、
「いらっしゃぁい、金、銀、銅ってあるけどぉ、どれがええ?」
 と言って、丼、茶碗、お猪口のどれかを選ばすのだった。
 しかも実際に渡すのはお客の指定より一ランク上の器。そこに御神酒を注いで振る舞った。
「男ならぁ、一気にいこー、かんぱーい♪」
 そうして自分は丼で一気に飲み干すのだった。
 ちなみにこの対応は男に対してだけで、女性や甘酒を飲みに来た子供には普通に対応した。

 水無月は神職見習いとしてよく分からない事を考えていた。
(男性の参拝客は巫女さんで目の保養が出来るけど、その点、女性は損だよね)
 そうして、男性として女性参拝客の為貢献してみよう、と笑顔と愛想を振りまき参拝客への対応をした。
 巫女さんへのナンパの仲裁にも血道を上げた。
 椿に群がる男性客の前に立ち塞がる。
「酔った女性に付け込むなんて恥ずかしくないのかっ!」
 水無月の正論の前に男性客は敗退する
「もう大丈夫ですよ、桃香さん」
 と振り返った先の椿をよく見れば、胸が肌蹴、お酒で肌がほんのり桜色。女性に対する免疫の少ない水無月はドギマギして目のやり場に困ってしまう。

 ステラは、本職の方々がこんな事をするかは分かりませんが、と言いながら、鳥居の前で参拝客を出迎えた。
 姿勢良く立ち、挨拶は腰を四五度で保ちゆっくりとした動作で。
 そうした姿を見るだけで、参拝客も清々しい気持ちになるのだった。
 ただそうして挨拶するだけでは仕事とは言えないとも考えていて、周囲に目を向けて介添えの必要な人がいないか、迷子の子供がいないかの確認もしていった。
 境内へと上る石畳はそれ程の長さがあるわけではないがお年寄りには大変なもの。ステラの心配りは多くの人から感謝された。
「ああ、ありがとうございます」
「いいえ、これくらい大した事ではありません」
 静かに微笑む。
 そしてタイミングを見ては落ちている塵の処理もしていった。


 そうしてステラに出迎えられた中には地領院 夢(jb0762)と麻倉 弥生(jb4836)の二人もいた。
 夢は桃色に花の舞う振り袖を、弥生は淡い黄色の生地に美しい様々な花が織り込まれた振り袖を着ていた。艶やかな二人組。
 二人とも礼儀作法はきっちりと。
「参拝作法、お姉ちゃんに教えて貰って知ってるよ」
 手水で手を注ぐのは右から、お参りは二礼二拍手一礼と。
(今年も頑張ります)
 夢がしたのはお願い事ではなかった。神様に頑張りますって宣言なのだ。
「弥生さんは何かお願い事とかしました?」
 弥生の顔を覗き込んで笑顔。
「去年は大きな病気も怪我もなく、また可愛い友達が出来たりととても充実した一年でした。今年もよろしくお願いします。と祈りましたよ」
「可愛い友達!?」
 途端に夢の顔が赤くなる。
「じゃあ、他の所を回っていきましょう」
 照れたように弥生の手を引く。おみくじの交換所へ。
 バイト巫女の陽花に声をかける。
「おみくじお願いします。二人分」
 カシャカシャと御神籤箱を振る。
 渡されたおみくじを見ると、夢の物は大凶!
「い、いいもんっ。ここで悪い運を使い切ったんだからっ」
 一方の弥生は大吉。夢が大凶を引いたのを見て、自分のおみくじをそっと巾着袋に隠す。
(見せた時の反応が容易に想像出来ますから)
「ね、弥生さんの結果はどうでしたか?」
「大した事はありませんでしたよ」
「えー、なんで隠すんですか? 教えて下さいっ」
 そんな夢の頭を優しく撫でてあげる弥生。
「もーっ、誤魔化さないで下さい」
 ふて腐れる所がまた可愛い。この可愛い友人に幸せがありますように。そう願う弥生だった。
 結局弥生は教えてくれず。諦めて、自分の大凶のおみくじを決められた場所に結んでおく。
 これで良し。
「今年も楽しい一年になると良いなっ」
「はい、夢ちゃんこれを」
 弥生は夢に、家内安全、無病息災のお守りをプレゼント。
「わぁ、ありがとう弥生さん。大事にしますね」
 こうして二人の幸せな時間が過ぎていく。

 米田 一機(jb7387)と蓮城 真緋呂(jb6120)は二人並んでお参り。
 白の振袖姿でお洒落してみた真緋呂に、
「いつもの私服と違って晴着って迫力出るっていうか。白って意外だったけど似合ってる、綺麗だね」
 と思ったままの感想を告げる米田。
 面と向かって綺麗だなんて言わてしまう。
「さ、早くお参り行こう」
 と照れ隠しをする真緋呂。
 お参りの後はおみくじを。ここには和紗がいるのだ。
「和紗さん、巫女姿似合う! 写メしなきゃ!」
 おみくじそっちのけで激写を始める真緋呂。
「……おぉ、あけましておめでとう。なんかやっぱり、和服似合ってるな」
 米田は米田のペースで、いつもの和紗とは違う巫女服を記念に一枚スマホに収める。
「おみくじ引きに来たんですよね? 何、俺の写真を撮りまくってるんですか! 特に真緋呂!」
 しかし真緋呂の激写は止まらない。シャッターの電子音が響き続ける。
「やめて下さい! 何枚撮れば気が済むんですか! 本当、いい加減に!!」
 涙目で拳を振りかざしてようやく止める。
「もう、さっさと引いて下さい」
 御神籤箱を突き出す。
 そしておみくじを引き終わった米田と真緋呂に、和紗は買っておいた身体健全のお守りをプレゼント。
 大事な友人。怪我なく過ごして欲しいとの願いを込めて。
「ありがとう、和紗さん」
 友人の心遣いに少し胸が熱くなる真緋呂。

 その後一機と真緋呂は屋台巡り。
「今日は正月だし、お年玉も入ったし。いいよ、何でもこの米田さんがご馳走してあげよう」
「やったっ!」
 るんるん♪ と真緋呂は屋台を巡っていく。
 たこ焼きにお好み焼き、焼きそば、甘酒、お団子に……と。いつもながらの大食いだ、と一機は呆れ顔。
 一方で、碧鷺 悠里(jb8495)は屋台でベビーカステラを売っていた。
 それなりに人通りのありそうな場所に設備の手配を頼み、今日に備えていたのだった。
 さらに通常のベビーカステラの材料とは別に、激辛激苦激甘用の材料を用意。
 激辛激苦激甘!? そう。碧鷺にはちょっとした企みがあった。
「普通にバイトするだけじゃつまらねぇし、軽く悪戯でもしながら楽しんどくか。さてさて誰か面白い反応をしてくれるのか」
 ベビーカステラには幾つか激辛激苦激甘の物を混ぜておくのだ。
 さらに撃退士かカップルが来た時にはゲームを勧める。
「ゲーム?」
 真緋呂が首を傾げる。
「そう。カステラ二〇個を一分で食べるんだ。成功したらカステラをプレゼントする」
 ただし、食べるカステラというのは全て通常の物ではないのだが。
「面白そうね」
 真緋呂は乗り気。
「うーん、嫌な予感がするなぁ」
 米田は乗り気でない。
「私はやるわ」
 ゲーム開始。真緋呂がベビーカステラを口に放り込む。途端に目が白黒。苦い!
「これって!」
「ギブアップ?」
 碧鷺がニヤニヤと笑う。それを見て真緋呂の闘争心に火が付いた。
「いいえ!」
 どんどん口の中に投入する。辛い! 苦い! 甘過ぎる!
 しかしついに食べ終える。どうだ見たかという顔。
「負けた負けた。じゃあ、これ約束通りのカステラ」
「ありがとっ」
 まぁ、そのカステラも全部普通じゃない物なのだが。
 そんなこんなで多くのカップル達を驚かせて楽しむ碧鷺だった。

「ああ、酷い目に遭ったわ」
「自業自得な気もするけどね」
 米田と真緋呂はさらに屋台を巡っていく。
「それで、今日はどんなお参りをしたの?」
 米田の問いに真緋呂は答える。
「それはね……一機君のらきすけが治りますようにって」
「ええ?」
 思わず焦ってしまう米田。
「……は冗談で、一樹君や皆がいつも無事でありますように、って」
 ここで一息置く。
「だから、ちゃんと無事に帰って来てね、一機君?」
「うん、分かった」
 と、笑みを浮かべる米田。
「それで、一樹君はどんなお参りを?」
「せめて自分の周りだけでもいい事ありますように。そう祈った」
「そっか」
 二人で歩いていく。

「……何とか帰って来れた」
 それが黒羽 拓海(jb7256)の感慨だった。
(いきなり家に来たのも驚きだが、病み上がりに一服盛るとは……わが義妹恐るべし、だな)
 とため息。
 そして隣にいる天宮 葉月(jb7258)に目をやる。
(お陰でクリスマスは図らずもすっぽかしてしまったし、今日は今までの埋め合わせも兼ねて、大抵の希望は叶える事にしよう)
 その葉月は大いに張り切っていた。
(よし、初詣は一緒に過ごせる! クリスマスに自分で誘っておいて義妹に拉致されるような不甲斐ないお兄ちゃんには、たっぷり奢って貰いましょう!)
 奢って貰うだけが目的ではない。しっかり振袖を着てちょっとだけアピール。
(振袖着て初詣っていつ振りだろ? 実家だとこの時期は巫女のお仕事忙しかったからなぁ)
 そんな葉月を見て、
(それにしても葉月の振袖姿は新鮮だな)
「よく似合ってる」
「え?」
「いいや」
 口からこぼれた言葉に慌てる黒羽。
「ありがとう」
 うれしくなって笑顔の葉月。
 さて、まずは参拝。ちゃんとした作法で。手と口を清めて、お賽銭を入れて鈴を鳴らして二礼二拍手一礼。
「大事な人達が元気で居られますように」
 と葉月。
 今年も大切な存在を護り抜けるよう黒羽は願う。また心配させないように、願うだけでなく精進しないとな。心に決める。
 それにしてもこの神社は混んでいる。黒羽は手を伸ばすと葉月の手を握った。
 驚いた顔の葉月に、
「はぐれると不味いからな」
「そうだね」
 恋人ではないが、お互い大切な存在。微妙な距離。
 そして出店巡りをする。
「全部拓海の奢りでね♪」
 それはもう覚悟していた。財布の中身も万全だ。二人で過ごす楽しいひととき。
 そして出店巡りが終わる頃、葉月は黒羽を呼び止める。
 今回はそう言う空気でもないし、渡せなかったプレゼントじゃなくてお守りを渡そう。
「はい、お守り。こないだ大怪我したし安全祈願だね」
 軽く黒羽の胸を叩く。
「あんまり心配させないでね」

 香里は宮司の許可を得て、御神木に近い、人通りから外れた所で野点をした。
「皆さん、温かいお抹茶とお饅頭をどうぞ♪」
 バイト巫女として、参拝者に神社の厳かな風情を楽しんで貰いつつ、お抹茶で暖まって貰う。それが香里の心遣いだった。
 自分で薄茶を点てて紅白饅頭と共に振る舞った。
 喧噪に疲れた参拝客は、ここで一息入れるのだった。
 疲れたのは参拝客だけでなかった。
 意に染まぬバイト巫女に疲れ果てた朝陽が野点会場に現われる。
「私も一服頂けるかな」
「どうぞどうぞ♪」
 お茶を口にし、深く息をつく朝陽。
「大分お疲れですね」
「そうね。やたら忙しいし、あの宮司が皆にちょっかい出さないように見張ってなきゃ行けないし。はぁ〜」
「後、少しですよ」
「まぁでも、やりがいもあるけどね。参拝客もバイトの皆も、こうして新年を迎えられたのは喜ばしい事よ」
「そうですね」
 喧噪の中にも感じる神社の静謐が二人を包む。


 ようやく時間が来てバイトは終了。
 そこへ水無月が皆で記念写真を撮る事を提案した。せっかくの衣装だしと。
 皆に異存はなく、屋台でのバイト組も含めて本殿前で記念撮影となる。
「皆、若いね」
 などと一人境内の外で仕事の後の一服を愉しんでいた井筒も捕まった。
 そして並んでパシャリとするのだった。

 記念撮影の後。葵は少し迷ってから晶に声をかけた。
「一緒に帰ろうか。何か甘い物でも食べに行こう」
「いいの?」
「他の皆には内緒だよ」
 と笑みを見せる。内心、かなり嬉しい。

 木葉は最後まで残って境内を掃き清めた。そして拝殿にて今日一日の感謝を行なう。
「今日も無事、一日を終える事が出来ました。明日もまた新しき一日が迎えられます事を……」


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:10人

冬の怪談士・
井筒 智秋(ja6267)

大学部8年301組 男 ダアト
STRAIGHT BULLET・
神埼 晶(ja8085)

卒業 女 インフィルトレイター
言葉は何よりも強く・
神埼 葵(ja8100)

大学部9年221組 男 ディバインナイト
単なる女のコ好き?・
アティーヤ・ミランダ(ja8923)

大学部9年191組 女 鬼道忍軍
絶望に舞うは夢の欠片・
地領院 夢(jb0762)

大学部1年281組 女 ナイトウォーカー
ねこのは・
深森 木葉(jb1711)

小等部1年1組 女 陰陽師
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
愛って何?・
ステラ シアフィールド(jb3278)

大学部1年124組 女 陰陽師
ソウルこそが道標・
命図 泣留男(jb4611)

大学部3年68組 男 アストラルヴァンガード
惨劇阻みし破魔の鋭刃・
炎武 瑠美(jb4684)

大学部5年41組 女 アストラルヴァンガード
君との消えない思い出を・
藤井 雪彦(jb4731)

卒業 男 陰陽師
和装の陰陽師・
麻倉 弥生(jb4836)

大学部3年229組 女 陰陽師
優しき心を胸に、その先へ・
水無月 ヒロ(jb5185)

大学部3年117組 男 ルインズブレイド
能力者・
御神島 夜羽(jb5977)

大学部8年18組 男 アカシックレコーダー:タイプB
釣りガール☆椿・
桃香 椿(jb6036)

大学部6年139組 女 アカシックレコーダー:タイプB
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
撃退士・
椎葉 巴(jb6937)

大学部1年95組 女 ルインズブレイド
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
シスのソウルメイト(仮)・
黒羽 拓海(jb7256)

大学部3年217組 男 阿修羅
この想いいつまでも・
天宮 葉月(jb7258)

大学部3年2組 女 アストラルヴァンガード
揺れぬ覚悟・
神谷春樹(jb7335)

大学部3年1組 男 インフィルトレイター
あなたへの絆・
米田 一機(jb7387)

大学部3年5組 男 アストラルヴァンガード
和風サロン『椿』女将・
木嶋香里(jb7748)

大学部2年5組 女 ルインズブレイド
遥かな高みを目指す者・
碧鷺 悠里(jb8495)

大学部2年73組 男 ナイトウォーカー