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マスター:飯賀梟師
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/02/18


みんなの思い出



オープニング


 節分。
 それは、炒り豆を撒くことで一年間の健康を祈る行事。
 炒り豆は、射り魔滅、とされ、病気や災いを魔とし、これを射ることで滅する、との考え方が一般的。
 昔話などで見られる鬼を、ここでの魔に見立てられることが多く、豆撒きとは鬼役に対して豆をぶつける行事なのだ。
 しかし。あぁしかし!!
「な、なんだあれは!」
「豆だ、豆を撃ってきたぞォォ!」
 ある町の、中学校。
 この校庭に突如として出現した小鬼の群は、その手に様々な銃器を構えていた。
 ハンドガン、アサルトライフル、ガトリングガン、スナイパーライフル。
 武器を持つ小鬼というのは珍しくはないが、銃器である例は稀だ。
 しかも、よりにもよって、その弾丸は……炒り豆なのだ。
「オニワウチー!!」
「フクワソトー!!」
 そして、体育の授業でサッカーをしていた生徒目がけ、豆を乱射しだしたというのである。


「相手は鬼ですが、今回はあなたたちにも、鬼になっていただきます」
 状況を説明した斡旋所の女性職員は、ため息交じりに布きれを取り出す。
 黄色の下地に、黒のラインがストライプ状に入っている。
 いぶかしる撃退士達に、職員は説明を続けた。
「小鬼の出現した中学校で指定されているジャージは、ストライプ模様だそうです。生徒は何人も豆に撃たれていますが、自前のジャージを着ていた教員は見向きもされなかったとのことで」
 要するに、この布きれを身に着けて闘え、ということだろう。
 しかし疑問が残る。身に着けてしまえば、自分たちにも被害が及ぶのではないか、と。
 誰かが、そんな質問をした。
「これを身に着けなかった場合、小鬼らはあなたたちを無視し、生徒への攻撃を優先させることでしょう。小鬼は校庭を取り囲むように布陣していますので、その中心で数十人の生徒が取り残されています。戦闘中に避難させることは困難を極めるでしょう」
 それならば、生徒にジャージを脱ぐよう指示してはどうか、という考え方もできる。
 職員はその質問にも答えて。
「ジャージは上下共ストライプです。現地の気温は二度ですよ、二度。凍えてしまいます。それに……女子生徒にも、ジャージを脱げと仰るので?」
 男女合同の授業だったらしい。
 撃退士に配布された布きれは、男性のものはトランクスパンツ、女性のものはワンピースのような形をしていた。
 便宜上、鬼のパンツとでも呼ぶことにしようか。
「節分の行事に酷似する形にはなりますが、あなたたちが鬼になるので……作戦名は殺分、とでもしましょう」


リプレイ本文


「……何かこう、『責任者出てこい』と言う気分になるんだが……」
「ボヤいても仕方あるまい。ともかく、生徒の救出を急ごう」
 小鬼の出現したグラウンドから見て東側。要するに校舎方面では、南條 侑(jb9620)が悪態をついていた。その腕には、学校から拝借した暗幕が抱えられている。
 指摘を入れた鳳 静矢(ja3856)はというと。
「鬼役が鬼を退治するって間違っていると思いますが、その恰好も間違っているのでは……?」
 雫(ja1894)によるツッコミを受けていた。
 そう、静矢は、ラッコを模した着ぐるみに身を包んでいる。今にも頭を被ろうかという場面。何故そんな出で立ちに拘るのか。
 そこには、ちゃんと理由があったのだから、驚きだ。
「これならば見た目もストライプの割合的にもより目を惹きやすいはず。だから、良いのだよ」
 体型にほぼ関係なく、体積を増やすことが可能。それは表面積を増やすことにもなり、ひいてはより多くの鬼のパンツを装着できるということになる。
 何も、鬼のパンツだからといって、パンツのように利用せねばならないわけではない。上手く裂いて体中に巻きつければ、あっという間に虎柄ラッコ……略してトラッコになることができるのだ。
 これだけ派手に着飾れば(?)、嫌でも敵の目に入ることだろう。生徒に被害を出すわけにはいかない、つまり自らに敵の攻撃を集中させねばならない。ならば、これ以上の手はないではないか。あまりにもファンシーではあるが。
 果たして役に立つのだろうか?
 ……そう、役に立つのだ。


 一方で西側。こちらには一般道に面した門がある。特に秋から冬にかけては持久走が行われることが多く、生徒はこの門から外へ出て、学校敷地の外周を回るのである。
 今回は、この門から突入することになる。
 道路に待機した撃退士は、三名。
「鬼が銃器とか物騒すぎるだろ……」
 日本人の感覚で言えば、鬼の武器といえば棍棒、斧、剣などの近接武器。西洋では弓を用いる者もあるが……銃器という印象はない。
 そんなことを感じてか、嘆息したのは獅堂 武(jb0906)。
「よくもまぁ、こんだけ豆鉄砲持ってカチコミかけたもんだ。まったく、俺らはハトじゃ無いっての」
 同様にボヤいたのは向坂 玲治(ja6214)だ。
 小鬼が携える銃器は、ただのソレではない。弾丸として使用されるのは、炒り豆だ。節分の時期に撒かれるアレだ。
 折しもこの日は二月三日。まさにタイムリーである。
「魔を滅ということで豆を投げるということは天『魔』の俺に対して投げるなら正解じゃ?」
「そういう問題じゃねぇっての」
 炒り豆の起源を辿り、ある意味小鬼の行いは正しいのかもしれないと感じた逢見仙也(jc1616)だが、武にツッコミを受けて納得した。
 ハーフとはいえ、天魔両方の血を受け継ぐ仙也は、今や人類側に身を置き、天魔に抗う存在。
 己を滅するのではない。敵を滅するのだ。
 彼ら西側のメンバーは、ともかく攪乱戦を仕掛ける算段だ。
 後は、東側のメンバーから突入の合図を待つばかりである。


「ぐ、ふ……!」
 いの一番に突撃した侑は、案の定一斉攻撃に晒されていた。
 ストライプ状のものを攻撃するという小鬼の習性は、侑の着用する鬼のパンツにしっかりと反応したのである。
 彼は、抱えた暗幕を生徒たちに被せることで被害の拡大を抑えようと考えたのであるが、こうも敵がひしめいていては、突破は難しい。
「気持ちは分かりますが、今は下がってください。チャンスは必ず訪れます」
 入れ替わるように前へ出た雫。彼女もまた鬼のレオタードとでもいうべきそれを身に纏い、突破口を作ろうと一騎駆けによる一撃をアサルトライフルの小鬼に叩き込んだ。
 今度は突出した彼女に攻撃が集まる。長くは持たないだろう。しかし、それでもまだ、侑がつけいる隙は生まれない。
 そんな時。
『キュゥゥゥゥーッ!』
 謎の声が響き渡る。
 小鬼の声にしては不自然。かといって、他の生き物がいるかといえば……。
「な、なんだあれは。虎か?」
「タヌキじゃねぇ?」
「いや、ラッコ! ラッコだ!!」
 いた。
 校庭の中心、小鬼による攻撃を受けていた生徒らが叫ぶ。
 そう、そこに現れたのは、虎柄ラッコの着ぐるみに身を包んだ静矢だったのである。
 弓を放って威嚇した後、刀を引き抜き、鳴き声という名の奇声を上げ、東側に展開した小鬼の群へ突っ込んでいく。
「オ、オニワウチー!」
 大柄なトラッコが突撃してくる。これにはさすがに面食らった小鬼の攻撃が一瞬止まり、銃撃は散発的になる。
 この好機、逃すわけにはいかない!
「やぶれかぶれだ」
 侑が駆ける。
 小鬼の群を掻き分けて。
「フクワソトー!」
 最後列に立っていたスナイパーライフル所持の小鬼が、侑を狙撃する。
「でェッ!」
 弾丸が放たれる瞬間。侑は地を蹴って飛び上がった。
 回避し、宙を舞いながら暗幕を展開。集団で一か所に留まる生徒らにそのまま被せた。
「これで目くらましになる。そこでじっとしていろ」
 簡単に声をかけ、今度は内部から小鬼を崩す。
 戦いはまだ、これからだ。
「豆鉄砲と言うには物騒な物が多いですね」
 雫が漏らす。敵の持つ銃器は実に多様。
 突進力に優れるアサルトライフル。自衛に適したハンドガン。制圧能力の高いガトリング。そして射程外から撃ちこんでくるスナイパーライフル。
 今現在対応可能な距離の敵で、潰しておきたいものは……ガトリングだ。弾幕を張られたのでは迂闊に進むこともできなければ、流れ弾が生徒を襲う危険もある。
『キュッ』
 その隣に並び立つラッコ――もとい、静矢。
 援護は任せろと言わんばかりだ。
 弓に持ち替えた動物――ではなく、静矢は、ガトリングガンを持つ二匹の小鬼の間を狙って矢を放つ。
 姿勢を低く駆ける雫。
 矢と並走する速力を見せた彼女は、回避行動に出た一匹の胴を横薙ぎ。
 そのままの回転で地を蹴り、もう一匹を一閃。
 明らかに小鬼の群が怯みを見せた。
 しかし、彼女を狙撃銃が狙っている。
「させない――!」
 侑が大瑠璃翔扇を投げた。それはアウルの光を纏って、狙撃小鬼の腕を切り落とす。
 これを見たハンドガンの小鬼が集まってくる。
「見るか? 俺の舞を」
 いくつもの光る剣が侑の周囲に現れると、その動きに合わせて空を滑る。
 集まる小鬼が、次々と切り刻まれ、傷ついてゆく。
『キュキューーーッ』
 ほんの一瞬だった。
 三匹の小鬼が、静矢の視点から一直線に並ぶ。
 これを見逃す男ではない。
 引き抜くような動作で振られた刀から、紫の光刃が飛ぶ。
 紫鳳翔だ。
 断末魔が、響いてゆく。


「行くぜ!」
 韋駄天。目にもとまらぬ速度で飛び出した武は、小鬼らの間を縫って、敵の布陣するほぼ中央まで突き進む。
 足が止まったその瞬間、前後左右ありとあらゆる方向から炒り豆が飛んできた。
 が、当然、西側担当は彼だけではない。
「小鬼退治に颯爽と、ってな!」
 鬼のパンツだけではない。虎柄の法被を羽織った玲治は、白銀の槍を振りかざして正面から切り込む。
 中から外から、敵を切り崩す。
 当然、豆弾は彼にも向けられる。
 二人への負担は大きい。だが、それでも耐えた。
 アサルトライフル、そしてハンドガンを装備する小鬼を二匹ずつ切り伏せた時点でも、弾幕はやまない。
 その頃、身を隠すようにこっそりと校庭の外側を進む者の姿があった。仙也である。
「そうだ、そっちに集中してろ」
 彼が狙うのは、スナイパーライフルの小鬼。射程外から精度の高い射撃を受けるのは面白くない。まずはなんとかコイツを潰してしまいたいところだ。
 そこで西側のメンバーが考えたのが、陽動である。
 今、武と玲治が己の身を砕いて敵の目を引きつけている。
 気づかれないように、不意を突いて……。
「ぬ、ぐっ」
 玲治が苦悶の声を漏らす。狙撃されたのだ。
 この瞬間!
「消え去れェッ」
 魔戒の黒鎖を振るう仙也。
 鎖は唸りを上げてしなり、スナイパー小鬼の脳天を叩きつける。
 グシャリと鈍い音と共に沈む。
「よし! とっとと片づけようぜ」
 歓声を上げた武の声に続き、玲治が飛び出してゆく。
 彼は、暗幕を隠し持っていた。東側のメンバーがそうしたように、生徒に被せて敵の目を欺くつもりだったのだが……不要になってしまった。
 否!
「オラよっ」
 思いきり、幕を放る。
 バサリと広がったそれは、小鬼の視界を一時的に奪った。
 そしてその幕を貫いて。
「こんな使い方もあるんだ。覚えとけよ!」
 まさにセコ突き。
 幕を隔てて、三匹の小鬼が倒れる。
 血しぶきが幕を染め、そしてやがては黒に帰る。
「……覚えちゃいねぇか」
 はらりと幕が落ちると、そこに倒れる小鬼と、呆然と立ち尽くす小鬼の姿。
 その首が、跳ね飛ばされた。
「いい仕事だな。俺も負けてられねぇ!」
 武の鉄扇だ。
 打ち付け、潰し、あるいは切り裂いて。
 荒々しい演舞が、小鬼の群を蹂躙していった。
「まだまだ、いい恰好させてもらう」
 仙也も、黙って見ているわけではない。その手に炎の球を練り上げると、小鬼の群へと放つ。
 炎陣球なる技だ。
 ガトリングを持つ小鬼を二匹、貫いて炎に包む。
 そこへ突撃する仙也。その両手に鎖を構え、二匹の首に一瞬で巻き付ける。
 鎖の端を両手で引っ張るようにして持ち、ギリギリと締め上げ、そして。
「滅べ」
 支点にしていた左手を、一気に振り下ろす。
 グキリ、と音。
 首の骨を折られた二匹の小鬼は、悲鳴もなく倒れた。


 その後は殲滅戦。残党狩りとも言える。
 小鬼らを滅した撃退士らは、ようやく生徒たちを解放したのであった。
「ったく、しっかりしろっての」
「男でしょう? 静かにしなさい」
 中には、怪我をした者もある。
 仙也や雫は、己の技や持参の器具で治療に当たっていた。
 豆に撃たれたという精神的なショックか、痛みによる錯乱か、大げさに痛がって見せる者も多く、二人はやれやれとため息。
 一方で、無傷だった生徒も多かったので。
「ね、ね、写メ撮ろうよ!」
「えっ、スマホ教室じゃん」
「じゃあじゃあ、触ってもいいよね?」
 女子生徒は、トラッコに殺到していた。着ぐるみの愛らしさは、テーマパークのマスコットを想起させる。
 複数の女性に囲まれる鳳 静矢(既婚者)。ファンサービスをしたいところだが、しかし、だがしかし、脳裏に妻の顔がよぎる。
 あまりおかしなことはできない。
 だから。
『キュッ』
 サムズアップをし、トラッコは逃げた。
 撃退士ならではの、恐ろしい速度で。
「あーぁ、行っちゃった」
「もうちょっと遊んでくれてもいいのにねー」
 と、残念そうな生徒たち。
 それを見過ごせなかったのが、武だ。
 未来ある女子生徒の笑顔は、守らねばならない。
 誰も彼も笑顔にさせ、護る。
 今こそ、己の誓いを執行する時!
「まぁまぁ、そう悲しい顔するなよ。ほら、オニーサンが一緒に写真を――」
「ラッコがいい!」
「そうそう、ラッコがよかった!」
「な……」
 獅堂 武(一七歳男性)、女子中学生の言葉に撃沈。
 誰かの笑顔を守ることも、まして己の笑顔を守ることもできないのか。
 自暴自棄になりそうなその心を救わんと動いた者があった。
「やられたな。ま、子供ってのはそんなもんだ」
 それは、玲治なりの慰めであった。
 気を落とすな。そう言って、武の心を軽くさせようという、小さな優しさであったのだが。
「わーっ、カッコイイ!」
「せ、背中触っちゃったあぁっ」
 野性味溢れる玲治の風貌は、どうやら中学生にウケがよろしいようで、今度は彼の周囲に女子が殺到する。
 めんどくさそうな顔の玲治だが。
「い、いいんだ、俺なんて、そう、俺は……」
 武はショックを受けていた。
「いじけるなよ?」
「そうそう。玲治も言ってたが、子供なんてそんなもんだ」
 入れ替わるように、侑や仙也がフォローを入れる。
 あぁ、自分には仲間がいる。助けてくれる友がいる。
 そう思うと、武は妙に嬉しくて……。
「うぉぉっ! ありがとう、ありがとう二人とも! 今夜は是非飲もう! ……オレンジジュースで」
「もうちょっと気の利いたものはないのか」
 二人の肩を組み、すっかり上機嫌な武。
 呆れ顔ながらも、まんざらでもなさそうな侑。そして仙也。
 そんな様子を観察しながら治療行為を終えた雫は。
「……男って、どうしてあんな感じなのでしょう」
 とため息。単純だなぁ、と思わなくもない。
 当然、そこに混じる気も毛頭ない。
 そんな時だ。
「あ、あの、手当ありがとう」
 最後に治療を施した男子生徒が礼を言ってきた。
 それに悪い気はしなかった雫。中には殊勝な男もいるものだ、と感心したのも束の間。
「それで、俺、す……好きになっちゃいましたァ! つ、付き合ってください!!」
 などと真っ赤な顔で叫び、首を垂れ、手をビシッと差し出して来たのだから、始末が悪い。
 しかも周囲では、他の男子生徒が歓声を上げたり指笛を鳴らしたりしながら、面白おかしくはやし立てている。
「興味ないです」
 と、冷たく言い放ち、彼女はその場を離れる。
 その背中には、先ほどの武、侑、仙也のやっていたやりとりがそっくりそのまま聞こえてくる。
 あぁ、くだらない。
 何度目かも分からないため息と共に、呟いた。
「豆ではなく、塩でも撒いておきましょう」


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: その心は決して折れない・南條 侑(jb9620)
重体: −
面白かった!:3人

歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
桜花絢爛・
獅堂 武(jb0906)

大学部2年159組 男 陰陽師
その心は決して折れない・
南條 侑(jb9620)

大学部2年61組 男 陰陽師
童の一種・
逢見仙也(jc1616)

卒業 男 ディバインナイト