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マスター:飯賀梟師
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/12/17


みんなの思い出



オープニング


「けしからん……」
 職員室から覗く学園内には、まるで群を為したように学生たちで溢れ返っている。それ自体は何もおかしくない。勘定するのも億劫になるほどの学生がここには在籍しているのだから。
 だが、彼――高等部国語教員、押江学はそこに異変を感じていた。
 学生たちの表情を見れば分かる。明らかに浮かれている、と。
 気づけばもう十二月。そう、彼らはクリスマスや冬休みといった、年末の行事を心待ちにしているのだ。進級試験も既に終えた今、学生にとって恐ろしいものは天魔以外になくなった。
「学生の本分は、勉学のはずだ! 撃退士としての素質を備え、天魔と戦っている彼らの努力は認めよう。だがしかし――だがしかァし!」
 学はバッと勢いよく振り向き、次の授業の準備をしている教員たちを指差し、高らかに叫んだ。
「この有様は何だ! ただでさえ天魔と戦うために通常の学校よりは勉学が疎かになり得るというのに、学生たちは目先の楽しみばかりを追い求め、青春などという一時の幻、享楽に溺れ、本来あるべき姿を見失っている! これでは卒業後にまともな人間として生きることなど困難、否、不可能! ならばこの押江学……いや、全教員一致団結して学生に学生のなんたるかを――」
「熱くなりすぎですよ、押江先生」
 英語教員の女性が、資料を机で叩くようにそろえて立ち上がった。
「彼らは撃退士であるからこそ、戦うことへの恐怖と常に隣り合わせにあるんです。行事やイベントごとは、そういったものから解放してくれる、彼らにとっては貴重な癒しなんですよ、きっと」
 それだけ言い残し、英語教員は職員室を後にした。
 これに釣られるように、他の教員たちも担当の教室へと向かっていく。
 一人残された学は、胸の内の情熱を未だ高ぶらせていた。
「この押江学……。学生の真の喜びは学ぶことであると、勉学こそが至上の癒しだと、彼らに伝えてみせるぞ。絶対にだ!!」


 放課後。
 学に呼ばれ、数人の学生が空いた教室に集められた。
 その目的は……彼らに勉強を強要しようだとか、そういったものではない。
「えー、今から君たちには、君たちなりに、問題を作ってもらいたい」
 一つ咳払いした学は、大学ノートを一冊ずつ学生に配った。
 ここで学が考えたのは、冬休みの宿題を用意しようといったものである。
 だが、国語教員の学には、国語以外の問題を作るのは難儀だ。もちろん、彼も他の教員に相談したのだが……そこまでやるのは一教員としては出過ぎたマネだと諌められてしまう始末。
 だからこそ、普段学生がどの程度学習しているかを調べるのも兼ねて、学生自ら問題を作ってもらおうというのである。
「問題のジャンルは、国語、英語、数学、理科、社会……何でも構わない。ただし、二つ制約がある」
 また一つ咳払い。
「一つは、この学園や撃退士、天魔に関する問題は禁止。これらについては君らのよく知るものであるから、問題にする意味がないからだ。そしてもう一つ、外国語の科目は英語に限る」
「その理由は?」
 一人の学生が首を傾げた。
 教育熱心が過ぎるくらいの教員だ。
 あらゆる言語を問題に扱っても良いくらいなのだが。
「パソコンを使って問題を作成する関係で、日本語とアルファベット以外の変換が非常に大変だからだ。ハングルなんか特に、な……」
 単なる手間の問題であった。


リプレイ本文

※本リプレイでは、プレイングでいただいた問題を敢えてある程度伏せています。必ずしも不採用というわけでなく、後編に使用される問題の漏洩を防ぐ目的です。本リプレイは、いわゆる「ハイここテストに出まーす」のようなものだと考えていただいて結構です。



 空き教室に集められた生徒は合計八名。そのほとんどが高等部もしくは大学部の所属であり、唯一エイルズレトラ マステリオ(ja2224)のみが中等部であった。
 これはもちろん、生徒を集めた張本人である押江学の狙い通りといえよう。そもそも彼は高等部の教員であることから、当然のように高等部の生徒は集まりやすい。加えて、自ら課題を見つけ、調べ、研究する……もしくは教授の研究成果を聞く機会の多い大学部の学生ならば、誰かに教えるという行為に慣れており、興味を抱くであろうことは予測できたのである。
 そしてこれは好都合。高等部以上の学生ならば、彼らの作る問題の幅は広い。
 初等部の生徒に高等部向けの問題を作ることはほぼ不可能だが、逆ならば可能。
 そういったワケで、学は様々な学年に対応した問題を期待していたのだが、集まった問題は果たして……。


「ふぅ、問題を作るって、意外と勉強になったりするものね。とはいえ、流石に少し疲れたわ……」
 ペンを机上に転がした月臣 朔羅(ja0820)は、小さく息を吐いて自らの鞄を漁った。
 ガサガサとも、バリバリともとれる音を立てて取り出したのは、コンビニのビニール袋だ。中には予め買っておいたおやつがいくらか入っている。総じて甘いものが多い。
 元々料理もできる彼女であるから、おやつを自ら作ることも苦ではなかろう。だが今回は時間がなかった。材料をそろえて、一度帰宅して調理し、また戻ってくる。その頃にはすっかり月も傾く時間になっているだろう。
 彼女が作った問題は現在二問。化学に絞ってみたものの、どこから問を拾ってくるか、どのような文面で書くか、といった点が難しい。もう一つくらい問を作りたいところだが、その前に小休止だ。
「あ、アルファ崩壊……? なんだね、これは」
 朔羅の作った問題を覗き込んだ学が口にする。
 化学に於いては高等教育で教わるものだが、文系進路に進んだ者にとっては名前すら聞かないこともある単語であろう。
 教員である学ならば単語自体は聞いたことがあるだろうが、内容まで詳しく知っているというわけではないようだった。
 当然問題を作成した朔羅が、これを説明できないはずもない。
「アルファ崩壊というのは、放射性原子核がアルファ線を放出しながら自然崩壊する過程のことで、アルファ線はヘリウム4で構成されるので、元の原子核は原子番号が2だけ小さく、質量数が――」
「む、実によく勉強している。ウム、感心だな!」
(絶対ごまかしたね……)
 様子を横目に身ながら、龍崎海(ja0565)は胸中呟く。あの反応は間違いなく、話を理解できていない。
 だが見るからに教育熱心そうな教員だ。恐らく後で自分で勉強するのだろうが……。
 今、海が作っている問題は、朔羅と同じく理科の科目。だが、分野が違う。
 天文、生物、物理……。いわば、朔羅の担当する化学以外の分野を幅広く、といったところか。
「だいぶ高校生と大学生に偏っているけど、初等部向けのも入れた方がいいかな?」
 この場に集まった学生の所属や学年を鑑みると、問題の難易度は高めに設定したい気持ちに駆られる。しかしよくよく考えれば、学は対象学年を特に指定していない。ならば初等部、中等部向けの問題もそろえておくべきだろう。
 高等部の学生が初等部向けの問題が割り当てられることはない、と予測しつつも、たとえ高等部だろうと大学部だろうと、しっかい勉強していなければ間違えかねない問題にしておきたい。
 そこで考え付いたのが、星座に関する問題であった。
「お、君はなかなか、目の付け所がいいな。こういった基本的な暗記物は、高学歴の学生にも求められるからね」
 またも問題を覗いた学は、腕を組んでウンウンと頷く。
 冬に見られる星座は次の内どれか、といったものだが、選択肢次第で難易度は跳ね上がりもするし、簡単にもなる。
 これを覗き込んだのは、もう一人いた。
「あら、でもこっちの血液型の問題、もう一工夫するといいかもしれませんねっ!」
 アイドル部なる部活の部長を務める少女、川澄文歌(jb7507)だ。彼女が指摘したのは、血液型の遺伝に関する問題である。
「工夫というのは……?」
「両親の血液型だけでなく、祖父母の血液型まで指定すると、考える内容がぐっと増えてやり応えのある問題になると思います」
 現状、海が考えていた遺伝の問題は、例えばA型の父親とB型の母親から生まれる子の血液型は何種類考えられるか、というものだった。
 しかしこれは、両親の血液型がどのような遺伝経路を辿ったかによって答えは変化する。そういった、一種の縛りを加えることで、問題の幅は広がる、という発想だ。
「なるほど、いいかもしれないね。ええっと、そっちはどんな問題を?」
 一つ頷いた海は、文歌の問題を見せてもらった。
 彼女が担当する科目は数学。
 曰く、文歌は数学が得意というわけではないのだが、彼女なりに一生懸命考えた形跡が見られた。
 例えば、決められた複数の金額の金券を指定された金額分購入する際最も金券の枚数が少なくなる組み合わせを求める問題、平均速度を求める問題などである。
 中でも海が唸った問題があった。
「お、これ面白いね。紙を指定回数折った時の高さを求める問題」
 彼がそう言うのには理由があった。
 ただ単に高さを求めるだけならば、シンプルな計算問題でしかない。
 しかしそこには工夫があった。この問題の答えは、ある人物や建造物の高さだったり、ある地点からさる地点までの距離とほぼ一致する。だから、答えは数字ではなく、飽く迄例えだが学園長の身長、といったものが答えになってくるわけである。
 こうした、ただ答えを求める以外にも発見のある問題は遊びがあって楽しめるというものだ。
 理数系の問題でいえば、平田 平太(jb9232)の作るソレもあった。
 彼の担当は物理。文系に進む人間の中には、物理は自分の人生に必要のないものだと考える者もいるだろうが、それは間違い。意外なところで必要とされる場面もあるはずだ。
 ではどのような知識が必要になるか。例えば……。
「加速度……?」
「ええ、簡単に言えば……一秒あたりにどれくらい速度を増すか、という尺度です……」
 順番に問題を見ていた学は、平太の問題に目を落とす。
 加速度という言葉自体にはもちろん聞き覚えがあるだろう。だいたいの意味も分かるだろう。
「例えば、静止した状態から二秒後に秒速十メートルに加速したら、一秒ごとに加速するのは……」
「五メートルずつ、だね」
「それが加速度……。先生も、これならどこかで使う場面があるとは、思いませんか……?」
 確かに、と学は頷いた。
 絶対に使わない、という保証はない。今後社会に出るであろう学生にとってはなおさらだ。
 必要になった時に勉強する、では取り残される。
 それを鑑みると、必要ないかもしれない――でも必要かもしれない。そんな問題も、こうした宿題には必要なのは間違いなかろう。


 陽はすっかり沈んで、ひんやりとした空気が制服を通り抜けて肌に、肉に、骨に沁みる時刻を迎えていた。
 集まった学生たちは概ね問題を作り終え、後は問題文におかしな点はないか、矛盾はないか、そういったチェックに取り掛かっていた。これが終われば晴れて解散である。
 前半は理数系の問題を見て回った学だが、この段階になって文系の問題を覗いて回ることにしたようで、最初に目を落としたのはサラ=ブラックバーン(jc0977)のものであった。
「む、なかなか独創的だね。こういうものには興味があるよ」
「はい、世界史の問題づくりなら任せてください!」
 文系の中で最も問題の幅が広い、世界史。世界各国の歴史に触れるわけであるから、幅広い知識が問われるこの科目。それ故に、影響力の大きな出来事に関する問題が多くなりがちであるが、サラはここに少し趣向を凝らしていた。
 それは、ともすれば美術の問題かもしれないし、音楽の問題かもしれない。
 サラは一種の芸術作品を取り上げて、これを問題にしたのだ。
「建築物に小説……。いずれも、一度は耳にしたことがあるものを選びました。雑学的でもあるかもしれませんが……」
 例えるならば、教会や聖堂。こうしたものは、建造された国や年代によって、その国、その時代ではどの宗教が栄えていたかを知る資料になりうる。
 宗教の違いが争いを生み、時に大規模な戦争に発展した歴史もある。こうした事実を学ぶこともまた、有意義だ。
「こうした知識を問うものこそ、勉強量に比例した結果が出るものだ。それに、ほとんど学年を問わないからね」 その横で国語を担当していたのが向坂 玲治(ja6214)だ。
 モノの数え方を利用した連想問題も作ってみた彼だが、どうもしっくりこない。作る上では楽しいが、このまま宿題として提出するには、何かが違う。
 そこで考え付いたのが、もっと実用的な問題だ。
「おや、敬語の使い方か」
「こういうの、あの時ちゃんとやっときゃよかったって、誰もが後悔しそうだからな」
 尊敬語、丁寧語、謙譲語に始まり、使う場面で様々な形に変化する敬語。どこでどのような言葉遣いをすべきかは、大人でも間違う場合が多い。
 一昔前ならば、「それはできない」という意味の敬語を「致しかねません」などと誤用する者も多かった。よくある間違いで、「了解しました」は目上の人間に対して使うものではない、というのもある。
 意外と難しいながらも実に実用性の高い問題であるといえよう。
「多種多様なる敬語、その人を敬う心、まさしく和! 和の心でござる! 拙者、この奥深き日本の文化をもっと取り入れたいのでござるが……」
 日本史を担当するタクミ・カラコーゾフ(jc0947)は、ロシア出身ながら相当の日本贔屓。十七歳の彼が、いったいいつ日本へやってきたのかは不明ではあるものの、基本的な日本語は身に着けているようだ。
 ただし、少々――いや、かなり時代錯誤的ではあるが。
 偏った日本語を反映させるかのように、彼が制作した問題にもまた、偏りが見られた。
「全問、戦国時代か……」
「左様! 拙者が愛してやまない日本の戦国時代! 忍者に侍、これこそロマンでござる!」
 紙に目を落として顎をしゃくる学の横で、タクミはキラキラと目を輝かせていた。
 玲治もまた興味を引かれたのか、問題を覗いてみる。
「えーっと、一、二……十問中全部か!?」
「な、何かおかしかったでござるか?」
 学と玲治は互いに顔を見合わせた。
 幅広い科目の幅広い問題を集める、というのが今回の趣旨。日本史でいくのならば、奈良時代、平安時代、室町に江戸、さらには明治維新以後の出来事と、取り上げられる範囲は広い。だがその中でも戦国時代にこうも偏っていては、学力を問うというよりも、趣味の世界だ。
「や、問題はおかしくねぇけど、もっとこう……なぁ、先生?」
「何でござるか! 拙者は忍者を愛するからこそ――」
 首をかしげる玲治だが、タクミには何がよくないのか分からない。
 それもそのはず、タクミにとって日本の歴史は、戦国時代以外の存在を知らないのだ。いや、江戸時代くらいなら知っているかもしれないが……。
 だから理解できないのだろう。
 しかしエイルズレトラの一言が、全てを変えた。
「忍者の発祥は平安時代末期……戦国時代より、三百年ほど前の時代です」
「なんと!」
 目を丸くしたタクミは身を乗り出す。
 忍者といえば戦国時代。その考えに囚われていた彼にとって、これは寝耳に水だったようだ。
 これで別の時代にも目を向けることができれば、一つの成長なのだが。
「君の方は、どんな問題を作ったんだ?」
 ひとまずエイルズレトラの問題で、全員が作り終えたことになる。
 彼が担当したのは、学の担当科目でもある国語だ。こちらもまた、言葉の正しい使い方を中心に据えた問題になっている。
「よく間違えやすい言葉を選びました」
「なるほど……汚名挽回、などというけしからん言葉を使う若者もいるからなぁ」
 往々にして、国語は文章の読み方、書き方が中心になりがちで、実生活で間違えやすい言葉を直すことは稀だ。
 ここまで問題を見てきて、概ねの傾向を見てみると、教科書から抜粋するような問題よりも、実際に使える知識を問う問題が多い。
 それが、撃退士――いや、若き学生が求める学習なのだろう、という結論を胸に、学はノートを回収するのだった。


「お腹空いたな……」
 すっかり遅い時間になり、今から食事の用意をするのも躊躇われる。夕飯を食べ損ねたような気になって、海は呟いた。
 学校を後にした八人の学生は、寒さに身を縮こまらせながら小股に歩く。
 街はクリスマスの準備を進め、そこかしこに眩い装飾が施されていた。
「この時間ですし……出来合いの惣菜でも買って帰りましょうか……」
「あら、それなら」
 平太が財布を取り出して持ち合わせを確認すると、朔羅が閃いたように手を打った。
「これから皆でお茶なんてどう? せっかく集まったんだし、これっきりじゃもったいないもの」
「いいですね、賛成ですっ! 甘いものもほしいですし、喫茶店がいいかもしれないですねっ!」
 これに乗ったのが文歌だ。
 他のメンツも満更でもない……というより、どちらにしろ食べて帰るつもりだった者が多かったので、特に断る理由もない。
 この時期になると、冬季限定のスイーツが出回る。より豪華な見た目、味がしのぎを削り合い、上質なものがあちこちで食べることができる。
 が、クリスマスにはまだ早いし、時間も時間だ。パッと食べれて、暖まれる場所。喫茶店がベターだろう。
 彼ら八人の撃退士は、まるでどこにでもいる普通の学生のように、学校や勉強のことを互いに話し合いながら、光り輝く街の中へと消えていった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 歴戦勇士・龍崎海(ja0565)
 外交官ママドル・水無瀬 文歌(jb7507)
 異世界見聞録・サラ=ブラックバーン(jc0977)
重体: −
面白かった!:6人

歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
封影百手・
月臣 朔羅(ja0820)

卒業 女 鬼道忍軍
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
V兵器探究者・
平田 平太(jb9232)

大学部3年16組 男 インフィルトレイター
GEN-DAI NINJA・
タクミ・カラコーゾフ(jc0947)

大学部2年9組 男 鬼道忍軍
異世界見聞録・
サラ=ブラックバーン(jc0977)

大学部1年258組 女 阿修羅