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マスター:一塚 保
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:10人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2012/04/21


みんなの思い出



オープニング

●【桜】もどきのお邪魔虫!

 春。雪が融け、柔らかな風が吹き、暖かな日差しが降り注ぐ。
 テレビニュースでは、気象情報と共に桜前線の様子が連日伝えられている。例年、関東平野でソメイヨシノが見頃になるのは3月末から4月初め頃だが、ここ久遠ヶ原学園内でも、敷地内の桜が薄桃色の花を付け始めていた。

「よーし、プリントを配るぞー」
 今は、ホームルームの時間である。担任教師が、受け持ちの生徒達に1枚のプリントを配布した。
「全員に行き渡ったかー?」
 教師の問いかけに、生徒達からはーいと返事。頷いて、教師は説明を始めた。
「そろそろ、世間では桜が見頃になる時期だろう? お前達の中にも、花見をしたいと思っている者は多いだろう。そこで、だ――近々開催される花見関連のイベントや何かを、俺が個人的にピックアップしておいた。北海道の旭川がきな臭くなっている件はお前達も知っているだろうが、闘いばかりでは神経が磨り減ってしまうからな……息抜きは必要だし、仲間との絆を深めておくことも大切だと、俺は思う」

 一旦言葉を切り、教師は真面目な顔で生徒達の顔をゆっくりと見回した。一巡すると、ニヤッと笑う。

「…とは言ってみてもだ、お前達は撃退士――桜が満開だからといって、天魔どもが活動をやめてくれるわけじゃあないのは解るよな? 羽目を外すのもいいが、撃退士としての本分を忘れるなよ?」

***

「来た甲斐がありますね、これは!」
 東京都の某所を選んだ生徒が、見事な光景に目を輝かせる。
 住宅街の間に流れる川沿いに、延々と満開の桜並木が続いていた。右を向いても左を向いても。空を見上げても、川を見下ろしても。どこを見ても視界は桜の花びらに覆いつくされる。風がそよりと吹くだけで、桜吹雪が舞った。そうして散った桜の花は川へと降り注ぎ、花筏となっている。
 川沿いには各種出店が立ち並んでいて、桜の花の甘い香りだけでなく、香ばしいソースや醤油の香りなども漂っていた。
「たこ焼きと、ケバブと、あ、その桜茶っていうのもください♪」
 生徒は行列に並んで、注文を連ねる。
 桜祭りと言うだけあって、カップルや親子連れはもちろん、お昼休みのサラリーマンやOL、近所の中高生に溢れていた。みんな桜に気を取られてのんびりと、自然と行列ができていた。
「お、桜茶とは君、お目が高いね!」
 出店の兄さんもテンションが高い。生徒も調子に乗って注文を重ねていく。
「じゃあ、ついでにフライドポテトと、お好み焼きと……あれ、これは何ですか?」
 すると、そのお品書きに不思議な名前を見つけたのだった。
「おお、それかい? 今年は近所のお寺にある『お化け桜』が花をつけたってんだから、それで作ったんだ」
「お化け桜?」
 生徒は思わず聞き返すと、おおよ、と出店の兄さんは詳しく教えてくれる。
「そこの角を曲がったちょっと先なんだがね、十年に一度咲くって不思議な桜の木なんだ。しかしな、計算だと再来年に咲くはずだったのが、今年突然花をつけたんだ。それにあやかって、作った商品なんだよ!」
 とのこと。ちなみに商品名は、お化け桜のポップコーン。
「ほほぅ、それは興味深いですねぇ!」
 生徒はたこ焼きとケバブとフライドポテトとお好み焼きと桜茶とお化け桜のポップコーンを持って、話に聞いたお寺へ行くのだった。

 川を遡っていくと、古いお寺の敷地内に桜の姿が見える。
 確かに桜の枝には花が咲いているように見えた。
 しかし満開にはほど遠く、花は数えるほど。1、2、3、4……5つだけ。
 しかも、近づけないような立ち入り禁止の柵が張られて、警備員が一人立っている。
「どうしたんですか?」
 生徒が聞くと、警備員は飽きたように返事をした。
「ああ、お化け桜だね。結構見に来る人いるんだなぁ……。いやね、お祭りのついでにお化け桜を見に来た人が、眩暈を起こしたり気分を悪くしたりしているんだよ。酷い人だと、2、3日昏睡してしまった人もいてね。ボクァただの飲み過ぎだと思うんだけどね。いや、学生も襲われたかな……でもほら、お寺の住職さんとかは平気なんだから……。とりあえずそれで、お客が近づかないようにと、祭りの開催してる昼間はこうしているのさ」
「それは……お疲れ様です」
「それより君、全部一人で食べるの?」
 警備員は生徒が腕に抱えた食べ物の数々を指差す。そして結局、二人でのんびりと食べながら、お化け桜を眺めるのであった。
(「しかしこれは……怪しいですねぇ☆」)
 生徒が見ていると、風が吹いたところで、お化け桜の枝先から「花びら」が散ることはなかった。
 それどころか、風を受けて気持ち良さそうに、蝶が羽を羽ばたかせるように、なびかせているのであった。



 桜祭りの陰に、ひっそりと咲いた怪しいお化け桜。
 戦いに自信の無い彼は、他の生徒が現れるまで、ゆっくり食事を楽しむことに決めるのだった……。


リプレイ本文

●桜並木のその奥に。
 
 電車から降りると一陣の風が吹き、桜吹雪が視界を覆った。。
 駅の改札を出ると桜祭りの垂れ幕が目に入り、多くの来場客で右も左も賑わっていた。ほどなくして見つかる川の両岸には、桜が見事に咲き乱れている。水面に敷き詰められた花びらは見事な風景だった。
「綺麗ですね。お祭りの賑やかさが伝わってきます」
 紅葉 公(ja2931)が人混みを抜けながら歩いていると、その横で御国・雪村(ja4672)が溜め息をついた。
「桜といえばお花見か…」
 何かを思い出したようだ。
「…お花見といえば、毎年毎年、うちの家族は酔っぱらってもめ事を起こして。何が悲しくて、小学生の頃から土下座で謝罪をしなければならないのよ…」
 そんなトラウマの話題を呟いている。虎綱・ガーフィールド(ja3547)は話題をそらすように楽しげに声をあげた。
「最近は中華料理の屋台とかもあるのですなぁ」
 川の両岸には屋台が並んでいる。色とりどりの看板が立ち並び、そこら中に良い香りが漂った。楠 侑紗(ja3231)も鼻を動かす。
「お花見、お団子、お弁当。お花見、お団子、お弁当…」
 そして染 舘羽(ja3692)がお腹をさすりながら看板を眺めた。
「ホント、早く食べたいよね〜」
 染が名残惜しそうに通りすぎると、その横で徳利を傾けている虎綱がいる。
「虎綱さん何飲んでるの?」
「ん? 酒では御座らんよ?」
 と、染にも桜茶を一口あげるのだった。
 一向はそんな調子で、桜祭りの会場を味わいながら、早く仕事を済まそうとお寺へ向かって、奥へ奥へと進んでいくのだった。

 門を見つけると、警備員と生徒の姿があった。生徒は待ちきれなかったとばかりに大きく手を振って皆を呼び寄せる。
「みなさーん、こっちですよー!」
 一方で、警備員はやってきた十人をいぶかしんでいるようだ。
「まったく、今日は客が多い日だな」
 それに臆することなく、泉源寺 雷(ja7251)が一歩前に出た。
「私たちは撃退士だ。ここは任せてもらおう」
 威風堂々とした挨拶に、警備員も思わず素直に頷いた。それに加えて、藤玉 琴(ja7669)も質問を投げかける。
「監視してて変化はあった?」
 小さな藤玉の不遜な物言いに、警備員は威勢を取り戻したようにつっけんどんに答える。
「ここ数日、ずっと変化なしさ。あんたらも無駄骨かもな」
 そう言い放ちつつ、泉源寺の視線におずおずと警備員は下がっていった。
 楯清十郎(ja2990)が呼びとめると、
「警備員さんとあなたには、引き続き一般人が境内に入らないようお願いしますね」
 にこやかにお願いするのだった。
 警備員は頷くと、最後にお化け桜を指差した。
「あそこに見えるのがお化け桜さ」
 広い境内の少し寂しい場所に、ぽつりと裸の桜の木が立っている。その枝にはわずか五輪の花が咲いていた。楯がお化け桜を睨むと、咲いている五輪の花全てがディアボロであることを悟る。楯の面持ちに鬼無里 鴉鳥(ja7179)は横に近づき、
「汝、敵を把握したか?」
 と、五輪全てが敵であることを聞くのであった。
 目標であるお化け桜を目の前にして全員の気が引き締まる。
「ブリーフィングは覚えてるかい?」
 最年長の常木 黎(ja0718)が声をかけると、お互いの顔を見合って頷くのであった。
「ん、じゃあ手筈通りに…私ゃ狙撃に備えておくよ」 
 面構えが良くなったところで、常木は愛用の拳銃の手入れを始めるのだった。
 
 
●桜もどきのお邪魔虫。
 
 自然と、お化け桜の監視を続ける組と、住職に話を聞きに行く組と分担ができる。
 話を聞きに行く組として、楠が率先してお寺の戸を叩いた。見習いの坊主が現れて、住職を呼び出してもらう。
 事情を聞いた住職は、柔和な笑顔で好意的に出迎えてくれた。
 率先して、楠が質問をする。
「なぜ10年に一度しか咲かないのか、他の桜とどう違うのでしょう」
 しかし、住職はぼんやりとしていてワンテンポ遅れた返事が戻ってくる。
「そればかりは分かりませんが、古い桜なので寝坊助なのかもしれませんね」
 なんだか肩透かしを食らうような答えだ。
 染が質問を続ける。
「お化け桜って古いんだよね〜? 関係の深い人はいるのかな〜?」
「そうですね…」
 住職はたっぷりと時間をかけてから、次の言葉を続けた。
「来歴などはなく、地元の方がいつの間にか語り継いでお化け桜と呼ばれ始めたようです。昔はよくお花見もされていたようですが、今は桜祭りが開かれていますからね。お化け桜を懐かしむのはご老人ばかりで、主役になることはとんと無くなりましたね…」
 と寂しそうに語った。しかし、結局のところ肝心な情報は得られない。
「それでは質問を変えさせていただきます。住職さんはなぜ襲われていないのでしょうか?」
 紅葉が横から聞くと、住職はん〜と首を捻りながら、
「私はお花見をしませんからね。大分お酒を飲んだ方が良くいらして倒れられたので、私としてはアルコールのせいなのではないか、と思ってもおりました」
 と住職は答えてくれるのだった。
 有力な手掛かりがないかと思うと、パン、と外から、一発の銃声が鳴り響いた。
 紅葉たちは住職に外へ出ないように言うと、すぐさま飛び出すのであった――。
 
 ――監視を続けていた一向の、その間である。
 警備員の言う通り、お化け桜に変化はなかった。監視を続けていても、風に乗って桜祭りの喧騒が聞こえていた。監視していた六人に、なんとも侘しい感じを与えた。
 そこで、穏便におびき寄せを試みたのだ。
「仕掛けてみようぞ」
 先陣を切っていた鬼無里が慎重に近づいていく。石を拾うと、虎綱がそっと声をかけた。
「鬼無里殿、気をつけてくだされ」
 鬼無里は微かに頷く。
「桜折る馬鹿 梅切らぬ馬鹿と言うではないか。桜は小さな傷からも傷み易い。細かな枝葉なら構わぬらしいが、桜の剪定など私は知らぬぞ」
 自分にも言い聞かせながら、柔らかい手首のスナップを利かせて石を放り投げた。放られた石は、放物線の頂点、音も立たぬ程度に花に確かに触れて戻ってきた。しかし、花に変化は無い。
 直接の接触にも動じぬ姿に、藤玉と泉源寺が挑発をしかけた。
「そんな所に花が咲いてたら、折角の立派な桜の木も見栄えが落ちるよね」
 藤玉の嫌味にもディアボロは反応しない。
「見え易い所の枝の、一番先に咲くから綺麗なのに」
 それでもやはり変化はなかった。どこ吹く風と言いたげだ。 痺れを切らした泉源寺が鯉口に手をかけると、怒気を込めて言い放つ。
「我々は今から貴様を攻撃するが、貴様がそこにいると大事な桜を傷付けてしまうぞ。それでも良いなら、その場でじっとしているがいい」
 しかし、凄みの利いた脅しでも一切反応がないのだった。
 さらに、藤玉は拾ってきた毛虫をお化け桜に這わせたり、枝を切り落とす振りをしてみるも、芳しい効果は得られない。
 悪戦苦闘する仲間達を、常木は後方で眺めていた。
「散らない桜は造花と一緒さ。侘びも寂びも無い」
 拳銃の準備が整ったところで、そろそろ自分の出番かと感じ、懐からスキットルの蓋を開けた。くっと一口飲むと、周囲に漂う酒の香り。常木の集中力が高まる。
 そこに、風が吹いた。桜祭りの開催される川辺から、桜の花が舞って常木の頬を撫でる。
「これこそが風流だよ」
 同時に、常木のスキットルから香った酒の香りがお化け桜の元へと届いた。するとどうだろう。三輪の花がふわりと飛び立つではないか。常木は慌てて照準を向け、御国もスクロールを広げる。
「なんぞあわただしいのう」
 突然枝から離れた桜の花へ、虎綱がすかさず忍刀を抜き放つ。ひらひらと風のように揺れる相手へ向けて、刃を閃かせた。
「おーう」
 脇を抜けようとする相手を追いかけ、その影をも忍刀は斬りつけた。
 その瞬間、一厘の桜の花は動きを止めて、隙を見逃さずに常木の弾丸が花を打ち抜いた。
「硬貨大の標的を拳銃でこの距離から…中々無茶だねえ」
 そう口元を楽しげに揺らしながら、目は笑っていなかった。
 
 
●桜散れども、咲き乱れ。

 打ち落とした一体の他に、二体の桜の花型のディアボロが飛んでいる。いや、桜の花に擬態した毒蛾型のディアボロだった。一方で、お化け桜の枝の上には未だ二輪のディアボロが留まっていた。
 飛び立っている二体が、妙な粉を周囲へ撒き散らした。間近にいた虎網に加えて、少し距離を取っていた鬼無里や虎網、藤玉や泉源寺の距離まで容赦なく降りかかる。
「くっ」
 咄嗟に袖口で鼻と口を塞ぐも、四人はぴりぴりとひりつくような痛みが喉の奥に感じた。と同時に、体の痺れや急激な眠気に襲われる。
「これが…」
 痺れる体に鞭打ちながら、鬼無里が扱いやすい片手剣に手をかける。ひらひらと舞う蝶のような花目掛けて精神を集中させると、射程圏内に入った瞬間、居合いの要領で切り捨てるのだった。
 はらりと真っ二つになって落ちると、残っていた二体もいよいよ飛び立った。その頃には、銃声によってお寺から飛び出した仲間も、武器を構えて現場へ躍り出る。
「お願いします!」
 楯が虫取り網を構えて突撃した。網に阻霊陣も合わせて、毒蛾を絡め取るのである。
 ひらひら飛ぶディアボロへフェイントをかけ、横からと見せかけて縦に振り下ろす。上空へ逃げようと羽ばたかせたところに網が覆いかぶさった。
「楯さん! お上手です!」
 それに合わせて、御国がスクロールから光弾を打ち出した。虫取り網ごとディアボロを滅して仕留める。
 さらに、楯が発するオーラに二体が近寄っていく。正体を剥き出した毒蛾型のディアボロが、羽の先のトゲを使って楯をひっかこうと滑空してきた。それが返って単調な動きとなり狙いやすくなる。紅葉は忍術書を広げると、炎の玉を生み出してその軌道上へ打ち放った。
 火の玉が一体の羽を掠った。毒蛾はよろよろとその身を揺らし、動きに精彩を欠いた。おかげで、二体からの攻撃にも楯はブロンズシールドを構え、さらにヘルメットや儀礼服と十全な防備のおかげで掠り傷で済ませることができた。
 その隙に、駆けつけた楠が持ってきていた飲み物で鱗粉を吸った仲間達へうがいをして少し調子を取り戻した。
「あたしも頑張るよ〜!」
 染が鉤爪を構えて戦線へ躍り出る。傷ついた敵はひらひらと避けることを優先しているのかなかなか当たらない。
「えいっ! こらっ! まて〜っ!」
 染を弄ぶように、ひらひらと小さな毒蛾は攻撃を交わす。染に気を取られていたところを、泉源寺が反対側から挟み込んだ。気取られる間も与えず、刃を抜き放つ。片方の羽を捉えると毒蛾は成す術もなく高度を下げた。
 そこに、一際強い風が境内を吹きぬけた。川辺から一斉に桜の花びらが飛んでくる。それに紛れて、羽に傷を負っていた二体は地面へと降り立った。
 しかし、いまさらだ。常木は再び引き金を引いた。
「桜吹雪の中で死ぬならオツなもんでしょ」
 口元で呟く頃には、毒蛾は銃弾に粉々に打ち砕かれる。
「まぁ彼らにこの雅が理解出来ているかは知らぬがね」
 そして、調子を取り戻した虎綱と鬼無里が最後の一匹を取り囲む。
「桜を気に入るとは風情の何たるかも多少は知っているか。…とは、思いたいのだがな」
 見下ろしながら、止めの一撃を振り下ろすのであった。
 
 
●桜に酔う。

「お前さんたち、よくやった!」
「さっすがですよ〜ぅ!」
 最後の一体が倒れたところで、寺門を見張っていた警備員と生徒が走って駆け寄ってきた。その気楽な物言いに、張り詰めていた緊張が解けていくのだった。その声に、寺の中から住職たちも出てきたようだ。
「おお、無事に解決していただけましたか」
 住職はしわくちゃの顔をさらにくしゃくしゃにして、一人一人の手を取り例を言った。加えて、坊主たちが全員へお礼の品を手渡していく。
「桜祭りのちょっとした甘味の詰め合わせですが、解決してくださった方々にお渡ししようと思っていましてね。いやあ、お化け桜もいつもの姿に戻りました。改めて礼を言わせてもらいます。ありがとう」
 深々と頭を下げると、裸になったお化け桜を見て住職は満足そうだった。
「花が咲かなければ愛でられぬと言う訳でもなしだ。これはこれで、な」
 鬼無里も満足気にお化け桜を見た。
「ふははは!休めるときは休む。さぁ飲めぃ!」
「これもこれでよかろ」
 虎綱が着流しの袖に腕を組んで大きく頷いた。
「動いたらお腹空いたよ〜。虎綱さん桜茶ください〜」
 染がお化け桜どこれではなく、虎綱にお茶をせがむ。虎綱はその言葉に大きく笑って、皆を振り返った。
「ふははは! 休めるときは休む。さぁ飲めぃ!」
 それを合図に、お花見気分が一気に噴出されるのだった。
「花見をしたいってコト?」
 戦いの合間にいつの間にか薄暗くなった境内に、藤玉が明かりを灯す。
「怪我人を連れて花見に繰り出すのは気が引けますからね。僕はすぐに直せますから」
 鱗粉を吸い込んだ仲間に聞いて回ってから、楯は自分の掠り傷の手当てを済ませて買出しへ出かける。
「屋台の美味しそうな香りが堪りませんね」
 一緒に出た楠と紅葉、染も大騒ぎだ。また、屋台で食べ物を買い込んでいると泉源寺とすれ違ったようだった。戻ってみれば、そこに泉源寺の姿はない。
「泉源寺さんはどこへ?」
 しかし、誰も知らなかった。お花見の楽しみ方も人それぞれなのだろう。その証拠に、境内にはお寺の住職たちも、初めてお花見をしようとどんちゃん騒ぎに混じっているのだ。
「たこ焼きどうぞ〜」
「お好み焼きもありますよ〜」
 紅葉と楯が配っていく。
「咲いて散るまでが桜の見頃、さ」
 シニカルに構える常木に、楠と住職が乾杯を促す。
「お化け桜が咲いたら、また見に着ましょう」
「ええ、お待ちしおりますよ」
 楠の言葉に住職が微笑む。さらに横にいた御国が慌てて乾杯をすると、間違って常木のスキットルを口にしてしまう。飲み込む前に慌てて常木が奪い取るも、御国は匂いだけで酔ってしまったのか常木に抱きついてしまった。
「お花見って楽しいじゃないですか〜」
 こうして夜は更けていった。

 無事にお化け桜のお邪魔虫がいなくなった境内には、本物の桜の花びらがこれでもかと散りばめられる。
「先人たちも皆、こうしてお花見をして楽しんだのですね」
 桜祭りを楽しむ楠は、お化け桜に座る自分へ悠久の歴史を感じるのだった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 筧撃退士事務所就職内定・常木 黎(ja0718)
 雪の城主・楠 侑紗(ja3231)
重体: −
面白かった!:5人

筧撃退士事務所就職内定・
常木 黎(ja0718)

卒業 女 インフィルトレイター
優しき魔法使い・
紅葉 公(ja2931)

大学部4年159組 女 ダアト
道を切り開く者・
楯清十郎(ja2990)

大学部4年231組 男 ディバインナイト
雪の城主・
楠 侑紗(ja3231)

大学部3年225組 女 ダアト
世紀末愚か者伝説・
虎綱・ガーフィールド(ja3547)

大学部4年193組 男 鬼道忍軍
死を見取る者・
染 舘羽(ja3692)

大学部3年29組 女 阿修羅
撃退士・
御国・雪村(ja4672)

大学部1年81組 女 ダアト
斬天の剣士・
鬼無里 鴉鳥(ja7179)

大学部2年4組 女 ルインズブレイド
命を繋ぐ者・
泉源寺 雷(ja7251)

大学部4年240組 男 阿修羅
撃退士・
藤玉 琴(ja7669)

中等部1年10組 男 アストラルヴァンガード