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マスター:文ノ字律丸
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
形態:
参加人数:25人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/08/20


みんなの思い出



オープニング

予告編サンプル
 ジジジ……

 世界が闇に包まれようとしている。
「この世界には救いがないのか」
 赤い月を見上げながら男はそう言いつのった。
 胸元から愛用のオートマチック拳銃を取り出して、おもむろにスライドする。
  
「おいおい、ようやく俺の出番かよ」
 よっこらせと番傘を背負った男は、茶屋を竹林の道をゆっくりと歩き出す。
 コキコキと首をならして、ふふと不敵に微笑んでいた。
 咥えていた団子の串をひょいと投げると、尾行していた男の眉間に突き刺さったのだった。

 ここに謎を解明する鍵があるはずだ。
 そういう博士の伝言を受けてやってきたのだが、罠に次ぐ罠でとうとう一人になってしまった。
「これは、これはあの古代遺産じゃないか! まさか、この力が働いて……」
 古い洞穴のような場所で考古学者風の女が、メガネをずり上げている。
 その手に持っていたのは、謎の四角い物体だった。
「古代兵器、キューブ……」

 夕陽を浴びた学校の屋上で、セーラー服と学生服が向かい合っている。
「好きだ!」
「だめだよ、お兄ちゃん……。私達兄妹なんだよ」
 そのセーラー服の言葉に、学生服はうっと息を飲み黙り込んだ。
「それでも俺は……」
 学生服は決意を込めた表情で、彼女を見つめた。

 エマージェンシーエマージェンシー……エラーエラー
 機械音が鳴り響く宇宙船内部で、男が最後の時を悟っていた。
「酸素も……残りわずかだな」
 男が手に持っていたのはいつも肌身離さず持っていた家族の写真だ。
「そうだなジョン、まだ諦めちゃいけないよな」
 男は最後の力を振り絞って、計器に手を掛けた。

 
●学園への交渉
「というような、映画の予告を制作したいのです。ご協力くださいませんか?」
 生徒会室に、セールスマンのような男がいた。
 応対したのは、女生徒だ。
「そう言われましても、現在役員の者は全員外出しておりまして。わたしはただ暇だったから留守を任されただけという」
「映画の予告はキャッチーであればあるほど、その興行収入に差が出ます。皆さんのお力をお借りできればそれは素晴らしいものができあがるかと」
「しかし、映画の内容がわかりませんし」
「いいんですよ。予告なんて、宣伝文句の延長のようなものです。皆さんの自由にやっていただければ。それを元に、本編の方も寄せていきますから」
「本当ですか? 詐欺じゃないですか?」
「嘘予告は詐欺じゃありません!」
「……嘘って言ってるし」
「これはあくまでも予告なんです。ただの宣伝ですから。本編にないシーンを使う予告なんてざらにありますから」
「いいんですか、そういうの」
「いいんですッ」
「…………」
「と、とにかく、ご協力ください。今回の映画の成功の鍵は、この予告にかかっているんです。どうかご協力のほどを」
 結局、帰ってきた役員が男から事情を聞き、学園に迷惑を掛けないのならば依頼を出してみればいいという沙汰がくだされたのだった。
 


リプレイ本文


 都内にある映画館のシアター。
 そこを貸し切って本日行われるのは、とある映画の『予告』完成試写会だという。
 この、とある、という曖昧な接頭語が示すとおり、今回予告試写が行われる映画はまだ本編のクランクインも済んでいない内容未知の映画だった。
 
 それはさておき、予告編試写である。

 がやがやと話し声。
 暗転。

 そして、ブザーが鳴る。

 
●世紀末
 ――世紀末。
 ――これは数奇な運命に導かれた、悲恋と宿命の物語。

 東欧のとある国の奥地、そこは森に閉ざされた未開の地。常に冬の気配が棲み着き、闇が息づく。
 ノインシュヴィートルンの城はそこに建っていた。
 辺境伯の地位を得て、一刻の城の主へと上り詰めたノインシュヴィートルン卿。彼の最後を知るものはいない。噂だけはある。彼は狼に食い殺されたのだと。

 ――真っ赤な瞳が開く。
 月も出ていない闇夜に、それだけが鮮やかに光り輝いていた。
 釘でふたをされていたはずの棺桶から、少女が起き上がる。
 長い、長い――永い眠りだった。
 吸血鬼マヒロ(蓮城 真緋呂(jb6120))は、辺りを見回してぼーっと薄く開いていた目を、自分の手の中に落として焦点を合わせていく。
 
 ああ……
 起きてしまったのだ、自分は。
 
「……奴も目覚めたと言う事か」



「世界には魔王というものがいるんですよ。根源悪と言いましょうか、絶対悪と言いましょうか、それとも必要悪……」
「彼女は、魔王が再び目覚めるまで眠りについていたんです、悠久の時をね」
「人間を護る……それは[彼]との約束。吸血鬼でありながら、人間の[彼]を愛した彼女は、人間を滅びから護ると誓った」



 荒廃した世界では、それを取り締まる法も軍隊も無く、あるのは弱肉強食という単純かつ明瞭な法則だけだった。カーストを定めるのは、生まれではなく実力に裏打ちされたその腕っ節だけなのだ。

「貴様、良くも、俺達が大切に育てた米を!」
「へっへっへ! こんな世の中でマトモに働いてられるかよォ!」

 とある町の広場で、銃声が鳴る。
 子供の目の前で、父親が撃たれる。
 悲鳴が響く。
「ぎゃはははは、この虎綱・ガーフィールド(ja3547)様に刃向かえばこうなるぜ、お前達もこうしてやろうかァ?」
 棘付き肩パッドを装備した屈強なモヒカンが、農具を武器に蜂起した民衆を殴り飛ばし、アサルトライフルを空に発砲していた。
「聞けぇーい愚民ども! 今から此処はジャジャ様が支配する! お前らは金や物や女をジャジャ様に収めるのだ!」
 虎網が叫び、民衆が恐怖する。
 虎網に近づく小柄な影。
「おい、少し聞きたいことがある」
 全身を覆った外套から見えた瞳は赤い。
「ああッ? なんか用か?」
 虎網の首を絞めて持ち上げたその影は、片手で投げ飛ばす。
 軽く、数十メートル吹っ飛び、壁にめり込んだ。
「てめぇー」
 起き上がって、襲いかかる虎網。
「……邪魔だ」
 突然の風が吹いて、フードが外れる。
 マヒロの冷徹な顔があった。
「もう許さねえぞォ」
 銃を持った同じ格好の仲間が、マヒロを取り囲む。
 虎網は分身をして襲いかかった。
 
「くっははは、化け物。吸血鬼よ、てめぇはそうやって恐怖をばらまくんだな。てめぇが救えるものなんてなにもねえ」
「黙れ、雑魚が」
「がはは、吸血鬼、てめえはそうやって、守るべきものにも銃を向けられるんだな。――う、う、うぐァあああああああ!」

 マヒロは銃を向けてきた子供に無表情を投げ返すと、フードを目深にかぶり、広場を後にする。
「少し目立ちすぎだ、お前は」
 同行者の神凪 宗(ja0435)が腕組みで待っている。
 マヒロはふんっと鼻で笑って、通り過ぎる。
「嫌われてるのは慣れているんだ」
「見てみろよ」
 マヒロは振り返る。
 そこには、数人の人影が頭を下げている姿があった。感謝をしているのだ。マヒロはそれに返事をせず、立ち去った。



 眠りについてから何百年経ったのだろう。
「世界も随分と変わったものだな……」
 マヒロは感慨もなく呟く。



 ――ダンピール。
 吸血鬼と人間の間に生まれた存在をダンピールと呼ぶ。彼らはまた、吸血鬼を滅ぼす定めにもあった。

「吸血鬼が悪だというのは疑念を抱く余地もない真実です」
「人を殺すからか?」
「いえ、その存在自体が悪なのですわ」

 楊 玲花(ja0249)の襲撃は、奇襲と言えるほど用意周到なものではなかった。吸血鬼と出会ったから、出会ってしまったから、定めに従い殺す。
 封建制の社会のように旅人などほんの一握りしかいない世界で、二人はすれ違った。
 ボロ切れの外套に身を包んだ玲花と、顔まですっぽりと外套で隠したマヒロ。
「マヒロ」
 宗はぽつりと呟く。
「なに、珍しいことじゃない」
 ……吸血鬼はそういう定めだ。
 玲花は振り返りざまに棒手裏剣を打つ。二個、三個。
 マヒロは反転しながらそれを避けきり、玲花に迫る。
 二人は互いの瞳を重ねた。赤と黒。
 場所を交換するようにまたすれ違い、その一瞬で玲花は、闇で織りなした濃霧から取り出した棒手裏剣を、今度は五つ。
 マヒロは紙一重で避けて、けれど頬の皮を裂いていた
 垂れた血を舐める。

「どうして、あなたは人を助けるですか?」
「お前が吸血鬼を殺すのと同じ理由だ」
「……運命ですか?」

 そして、二人は道の上に立つ。
「……何かの冗談かと思いましたけど、吸血鬼にも変わり種が居るようで……別に血に飢えているわけでもなし、今は見極めさせて頂きますわね」
 玲花は、少し艶めかしい笑みを残して、マヒロとは反対方向へと行ってしまった。


 
「噂に聞いた変わりもんの吸血鬼だな! この伝説の武術家である俺に見つかったからには観念するんだな! 四の五の言わずに勝負しやがれっ」
 悪党集団や、退魔師を退けたマヒロの目前に現れたのは、龍人の姿をした悪魔。
 悪魔と言えば人間をたぶらかし死に至らしめる理不尽な存在のはずなのに、彼女は違った。人間を襲わないどころか、さきほど助けていたのだ。
 宗方 露姫(jb3641)、その存在はマヒロに影響を与える。

「俺はただ闘いたいだけなんだよ」
「お前、変わった奴だな」
「おいおい、お前がそれを言ったらおしまいだろ?」

「青龍武神風雷神拳の錆にしてくれる」
「さっきは、なんちゃら神拳って言ってなかったか?」
「え、あ、ああ……な、何でもいいだろ! 行くぞ」
 中段に構えた露姫は、小刻みなステップで間合いを詰める。そして、間合いに入ると拳を突き出す。厄介なのは、それを避けてもその次の動きを予測して更なる攻撃に変じるところだった。
 離れても尻尾で追い打ちを掛けてくる。
 たしかに厄介な相手だ。伝説というのは自称だろうが。
 マヒロは一気に距離を取った。
「はァーッ!」
 露姫は掌から、エネルギー弾を放った。
 マヒロは冷ややかな顔でそれを避ける。
「なかなかやるな、あの悪魔」
「宗、見ていないで手伝え」
「あの手のタイプは手出しをされると怒るんだよ」
「めんどくさい」

「きゃあーッ」
 空中に三回転して、地上に落下した。空中でくるくる回りながらチャイナ服に亀裂が入る。
 胸元と、スリッドから見える太ももはギリギリのチラリズム。


「み、見るなー」
「見られて恥ずかしいの、そのぺったんこ」
「うるせー、お前みたいな女の子女の子してる奴にはわかんないんだぁ〜」
「本当にめんどくさいのね……」
 思わず素が出てしまうマヒロ。


「あいつは、歓楽街に向かった。追うのか?」
「あなたはどうするのです?」
「これまでと一緒だ」
「そうですか」

 
 彼女との出会いこそ、もしかしたら旅の終わりの一つの形だったのかもしれない。
 そこは、町の歓楽街、大通り。
 祭り気分の人間が往来し、それを鈴なりに連なる提灯が照らす。
 二人は人間が流れる川の中で棒立ちになり、見つめ合っていた。

「善と悪で割り切るのはただの言葉遊び。あなたにはそれがわかっているはずです」
「さぁな」
「人は私達、吸血鬼に管理されて然るべき存在ですよ? 弱くて醜くて、愚かで傲慢で……さあ、見て下さい。こんなにも荒れ果てた世界――作ったのは人間でしょう?」

 力を持ったものが支配するのは世の条理。
 今こそ我々が世界を管理するべき。人は我々に飼われて、家畜として生きよ。
 織宮 歌乃(jb5789)の言葉に、マヒロは反吐が出ると返した。

「何を強がっているのですか? それとも自分が正義でありたいとでも?」
「清らかでありたいと思うのならば、私は世界を見ようとは思わない。外に出ないで、城に閉じこもっていただろう」
「では、なぜ?」
「決まってるだろ。世界を見たかったからだよ」

 マヒロはかすかに微笑む。
 そうですか、歌乃は少し気に入らないように呟き、微笑み返す。
「どうしてもこちら側に来ていただけませんか……」
 手近な人間の長い髪を捕まえて、
 ――引き裂く。
 赤が花火のように、――咲く。
 悲鳴。
 逃げ惑う人々。
 空気に混じった血が生臭く香った。
「……私達の喉の渇きは人の血でなければ癒えません。何時まで、堪えられますか? 守りたい人の首筋に、牙を突き立てたいという衝動を」
 二人は表情を変えなかった。
 静かに、悲しそうに微笑む。
 瞬間、火花が散る。
 二人の視線が組み重なり、太刀と大剣がぶつかったのだった……。


 マヒロの旅は、様々な人間との交差点だった。
 二人の同行者、宗と、露姫と旅をするマヒロ。
「これは、食べ物じゃないのか、宗?」
「まったく、お前と行動していると飽きないよ」
「ば、ばか、マヒロ、それは食べ物じゃない。食べちゃダメ! 宗、注意しろよ!」
「ダメなのか……」
「ははは、面白いなマヒロは」
 それは、つかの間の楽しい時間だった。


 ――ついに明かされる真実。
「まさかお前が!?」
 歌乃と相打ちになったマヒロの前には、宗がいる。
 月光を背に、その影は獣と化していく。
「クックック……。ハァーッハッハッハ!」

「残念だが、お前の運命はここで終わりを迎える。吸血鬼の根絶やし、それが目的だ」
 ――仲間の裏切り。

「あなたの方がよりマシのようですから。 手をお貸ししましょう」
 ――駆けつける仲間。

 ――物語はクライマックスへ。

 ――マヒロに待つのは、悲劇か、それとも……

「私は人間を護ると約束したんだ!」
 自らが生み出した炎の中にいるマヒロ。
 握った剣が紫電を宿し、うわあああああああと泣き叫びながら、大剣を振り下ろした。


●★☆┌(┌ ^o^)┐ちゃんのワクテカだいぼうけん☆★
 某県某市、┌(┌ ^o^)┐ちゃん(エルレーン・バルハザード(ja0889))ちゃんは、とってもべーこんれたす(BLって略しちゃダメだぞ☆)が大好きな女の子。
 今日もすてきな「せめ」と「うけ」(攻めと守りに非ず)をさがしておでかけ!

 おやおや〜みなれない本屋がありますよ?
 くだもの屋さんみたいななまえだね。
 ┌(┌ ^o^)┐ちゃんは、きょうみしんしん!

 はいろうかな……
 はいらないかな……
 うーんそうだね、はいっちゃおう♪
「はっ……べーこんれたすのかおりがするのっΞ┌(┌ ^o^)┐」
 あれれ、なんだかおかしいぞ〜、┌(┌ ^o^)┐ちゃんが、おみせにはいったとたん、じくうがゆがみはじめちゃった!

 時空間を形成していたファンデルワールス力が徐々に弱まり、ヒッグス粒子に影響を与えたためか、マクロ的な広がりがあった力場が崩れつつある。このままでは、事象の地平線上に成り立っていたシュヴァルツシルト半径の定数が乱れて、……まさか宇宙項が現実的に存在することになってしまうのか。博士、それでは不確定性理論が成立しないことに……。シュレディンガーの猫が微レ存? エントロピー増大にともない、宇宙が熱的死にッ!
 …………。
 …………。

 あらふしぎ! とってもすてきな「せめ」と「うけ」が!
「わーい! きちくうけ! よわきせめーΞ┌(┌ ^o^)┐」
 おきにいりが見つかったのかな?
 よかったね、 ┌(┌ ^o^)┐ちゃん。
 あれれ、もうかえっちゃうの?
 そっか、せんりひんを、はやく読みたいんだね。じゃあ、しょうがないね。
 気をつけてかえるんだよ。
 ばいばーい☆


●探偵
 そこは、山奥にあるとあるお金持ちのお屋敷。
 
 少女が招待状を手にバスを降りている。
 と、
「へぅ!?」
 ロングスカートに足を引っかけて転んだ。
 見事な転びっぷりに声を失っていた運転手が、慌てて声を掛ける。
「大丈夫ですか、お客さん!」
「だ、大丈夫、大丈夫」
 体を起き上がらせたRelic(jb2526)は、白いワンピースに白い帽子という清純派お嬢様の出で立ち。メガネを拾うと、ゴミを振るいながら顔にかけた。
「セリフ」
 Relicの後に降り立った少女がすれ違いざまに、そう耳打ちする。
「あ、そうだった……。こ、ここがキゼのいるお屋敷があるとこかぁー」
「その棒読みどうにかならないのか?」
「次は、きみの番じゃないのかい?」
 はいはい、そう言ってRelicの怒りをいなした少女の名前は緋打石(jb5225)。台本上では二人は面識がないはずなのだが、その設定を崩してしまうようなアドリブだ。
 もとい、緋打石は「台本など不要! 全てをアドリブで演じる!」を貫いていたので、ほとんどアドリブ。設定なんて無きがごとしだった。
「ここがあの富豪の土地か。これは吉報が期待大! 父さんの代わりに来て正解だったなー」
 数少ないセリフを、緋打石は棒読みする。

 館の中では、お客様を招いた晩餐が開かれている。
 Relicは、心配げに窓を打つ雨を見ていた。
「明日には止むらしいよ」
 話しかけてきたのは、Relicの隣に座っていた滅炎 雷(ja4615)だった。温和そうな青年で、この家の居候らしい。
「ふんっ、客に色目を使うのか、雷。さすがあの女の息子だ」
 上座に座っていた青年が口を開く。名前を日下部 司(jb5638)。この家の次期当主であり、出張中の当主に代わってこの家で好き放題していると、Relicは昼間ハウスメイドから聞き及んでいた。
 お金持ちを鼻に掛けて嫌な奴、という印象だが、今の一言でもっと印象が悪くなる。
「母さんのことを悪く言うのはやめてください!」
「なんなら、ここから出て行ってもいいんだぞ。お前に行くところがあればの話だけどな」
「くっ……」
 そこに割って入ったのは、千 稀世(jb6381)だった。オードブルを載せたワゴンを押して二人の間に割って入る。
「まあまあ、二人とも。せっかくの晩餐がまずくなる。さあ、席に着いてください」
 全員の前に皿を並べて、最後に奥のRelicのところに来た。
「やあ、久しぶり」
「とんでもないところに呼び出してくれたね、キミ」
「勘弁してくれよ。当主様が急な出張だったんだ。まあ気分を直して、ご馳走するから」
 Relicは友人である稀世の顔を立てて、不問に処すと告げた。
「うはぁ、これ本当にうまいのう。撮影用?」
「キミは本当にフリーダムだね」
 緋打石は、映画の撮影ということも忘れてぱくついていた。
 もう一人、撮影を忘れている少女がいる。雪夏(jb6442)だ。
「なんですか」
 とでも言うような目つきだった。
 どうやら、食事に夢中だったらしい。

 その日の雨は異常気象とも言うべきものだったと記憶している。
 雨、屋敷、と来れば、
 ――クローズドサークル。
 そんな単語が脳裏をよぎっても不思議じゃない。
 雨はますます強くなる。

 晩餐が終わり、食卓が片付けられた。
「稀世、ステーキはもういい。腹がいっぱいだ」
「かしこまりました」
 Relicはそんな会話を耳にする。
 だが、腹がいっぱいでそれどころではなかったのだ。
 ふぅー、とゆっくりしていると、唐突に話しかけられた。
「のう、Relic、コックさんとはどんな関係なんだ?」
「は? ただの友達」
「友達ぃ〜」
「大学の推理小説サークルの先輩後輩だったんだよ」
 Relicがここまで行っても、緋打石は信じようとしない。
 居心地の悪さを感じたRelicは部屋に戻ろうとした。
「自分も行く」
 どうやら、緋打石のジャーナリズム精神に火を点けてしまったらしい。
 噂をすれば影だ。思わぬタイミングで稀世とすれ違った。
「まったく、ご主人様にも困ったものだ。急にステーキが食べたいなんて言い出して…捨てるのは勿体ないから賄いにするか……おう、Relic、もう寝るのか」
「……そうだよ」
 Relicの素っ気ない態度を、緋打石がにんまり顔で見ている。
 稀世は肩をすくめていた。

 娯楽も何もない山奥では、人気が無くなるのも早い。
 ごそごそ、ごそごそ。
 動く影がある――
「あれを見つけなきゃいけないのに一体何処に行ったの!」
 雷はいらだち紛れに呟き、虚空に罵声を投げている。
 くそ……
 ここでもない……
 ふと、食堂の方にまだ灯りが点いているのを見つけた。
 なんだろう……
 覗いてみる。

 うわああああああああああああああああ――――
 その声にRelicは起きてしまった。
 
 食堂の前で誰かが倒れている。
 あれはたしか、日下部 雷。
「どうかしたのかい?」
「ひ、」
「ひ?」
「ひ、人が死んでるー!」
 そこには、顔を真っ青にして倒れている稀世の変わり果てた姿があった。

 第一の犠牲者。
 それを全員が目の当たりにする。
 Relicは腰が砕けて呆然としていた。
「おい、Relic、Relic殿!」
 Relicを揺すっていたのは緋打石だった。
「何があったのじゃ」
「キゼが……」
「犯人は? おい、しっかりせい!」
「そうだ……犯人!」
 Relicは立ち上がり、第一発見者である雷を見つけた。司と言い合っている。
「貴様が犯人だろ」
「ぼ、僕じゃない……。僕じゃないよ!僕は殺していないよ! 」
 そこへRelicは割って入る。
「今は一カ所に集まるべきではないんですか? 部外者が犯人ならなおさら、まずは身を守るべきだと思う」

「キミを殺した犯人を、絶対ボクが見つけ出すから」
 Relicはもう一度、稀世を見る。
「事件が解決するまで、泣かないよ……」

 一同が食堂に集められた。一同とはいえ、全てのハウスメイドは定時で帰ってしまっていたので、食堂には、司と、雷と、雪夏と、緋打石、Relicの五人しかいない。
「へ、部屋に閉じこもってれば安全だから戻ってもいいかな!?」
 雷はどこかそわそわしている。
「おい、犯人、逃げるのか?」
「僕は犯人じゃない!」
「じゃあ、あんな夜更けに何をしてたんだ」
「それは……」
「ほら、言えないじゃないか」
 Relicは一同を見回す。
「こんなはずじゃなかったのに」
 ふと、そんな声が聞こえてきた。
 振り返れば、平然とした顔の雪夏。
 聞き違いだったのだろうか。
「皆さんのお話を聞かせて頂けますか」
 と呼びかける。
 司がそれに反発した。
「あんたこそ誰なんだ。客だがなんだか知らないが、あんたが来た夜に殺人事件があった。ただの偶然か?」
「通りすがりの名探偵だ……覚えておけ!」
「ちょっと、キミ」
「推理サークルなんだから、得意なんだろ」
「そりゃ少しは」
「なら決まりだ。――ちなみにコックさんの毒殺であることがわかってる」
 ばかな! 自分で自分の料理に毒を盛るわけがない! と声が飛んでくる。
 それをRelicが制して、緋打石を向いた。
「キミ、どうやって?」
「ペロ……! これは青酸カリ! ……てな」
「舐めたのかい!?」
「冗談じゃ。匂いを嗅いだだけ。アーモンド臭」
 Relicはため息。
 気を取り直して、全員のアリバイを調査した。
「推理小説で第一発見者が犯人とかあんまりない!」
 という緋打石の言葉は取り合わないとして。

「全員アリバイがない」
 それは当たり前だ。個室で寝ていたのだ。あるはずがない。

 ――第二の被害者。
 全員が夜を食堂で明かしていた時だった。
 それは、何かが落ちた音。
 エントランスホールに駆けつけた一同が見たのは、さきほどトイレに行くと言って一人で食堂を出て行った司だった。
 真っ赤な血が絨毯を赤く染めて、さながらもともとそういう色だったのではないかと思ってしまうほど、大量の血。
 即死。
 それは紛れもない。
 Relicは呟く。
「今度は全員アリバイがある……」

 ――嵐の中の屋敷で起こる不可解な連続殺人。

 ――第三の被害者。

 ――二転三転する推理ショー。

 ――一体犯人は誰なのか。

「犯人はあなたにゃ」
 カット、はいテイク33、行きます。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
 噛むRelic。
 謝るRelic。

「これがダイニングメッセージ……てうわぁ」
「ダイニングメッセージ、Relicのミネラルウォーターで消えちゃったのう……」
 転ぶRelic。

「キミはわかってないんだよ………………なんだったかな」
 忘れるRelic。

 ――果たして予告は完成するのか?

 そして……。
 崖を前に真犯人との最終対決。
「やはり、アナタでしたか……あ、っと、へぶ」
 転ぶRelic。
 続行のque。
「まんまと騙されたんじゃ」
「いてて、逃げられないと思うよ」
 脈絡もなくタウントを発動させたRelicは、キラキラと輝く瞳がカメラ目線で向けられる。
「犯人はアナタだ」
 それは第三の被害者、雪夏だった。
「うん、計画したのは僕だよ」
 雪夏の不敵な笑みが崖の上に響く。
「計画したのは……?」
「どういう意味じゃ」
「ふふふ……」

 真犯人を追い詰めた時、Relicに更なる謎と絶望が襲いかかるのであった……。


●魔法少女
「どいて、どいて、どいてぇ〜」
 街の中を、人混みを掻き分けながら少女が、ぴょんぴょんと跳ねるウサギのような魔物を追っていた。半袖キャミソールの肩にはメロンの妖精。
「モーリー、あそこ!」
「うん、じゃあ行くよ、ナッキー」
 モーリーはナッキーの力を受けて光り輝いた。白昼堂々と半裸になり(光が守ってくれるから安心だね♪)、コスチュームを身につける。頭にはネコミミ。清純な白いワンピース。下はスパッツで守られている!
 パンツじゃないから(ry
「いっくよ〜☆」
 人間離れした跳躍で跳んだモーリーは、ウサギを先回り。
 ウサギの目の前に、杖を振りかざした。

「私、森田良子! ごく普通の小学6年生!  でも私、実は魔物をやっつける魔法少女なんだ☆ 今日もパートナーのナッキーと魔物退治! ナッキー、私に力を貸して!」

 モーリーの日常シーン。
 パンを咥えて登校中。
 男の子とぶつかった。
「いった〜い」
「君、大丈夫?」
 モーリー、手を差し伸べてくれた人を見る。
 それは、憧れの御曹司の先輩だった。
「先輩……ッ」
「なんだ、モーリーちゃんか」
「パンが落ちました」
「え?」
 モーリーは笑顔だ。
「先輩、パンが落ちました」
「……弁償させていただきます」

「きゃ〜、ナッキー、先輩から千円もらっちゃった☆」
「もう、モーリーったら、朝からハイテンションだなぁ」
 モーリーの肩の上には、小さくて丸いメロンの妖精ナッキーがいた。
 妖精の力によって、モーリーは魔法少女へと変身するのだ。
「やぁ! ボクは愛と夢の魔法使者ナツキメロン、略してナッキーさ!  人々から発せられる負のオーラ《瘴気》から生まれる魔物を狩るため、 今日もパートナーの魔法少女モーリーと大活躍☆  頑張れモーリー! ボクと契約したキミは最強無敵だ! 」
 ナッキー(夏木 夕乃(ja9092))は、手乗りメロンだった。

 何気ない日常のシーンと、緊張の非日常シーンが交互に合わさって、OP映像を構築している。

 ――男の娘系魔法少女、ここに爆☆誕
 ――サービスシーン満載!? 
 ――魔法少女って言っちゃったから少年でも関係な(ry

『〜TheMagicGirl〜魔法少女モーリー』

 ――この気配は。
 モーリーが何かに気づいた。
「気付いたかい、モーリー」
「うん、街の方……だよね。行かなきゃ」
 街には巨大な影があった。人々は虚ろな目。操られているのだ。
「大変、ナッキー」
「うん、モーリー、戦って」

♪モーリー変身のテーマ

 モーリーの体が半裸になり、手の先に、足先にカラフルなライトが纏わり付いて布に変化し、全身タイツの亜種に挿げ変わる。と、どこからともなく、装備が飛んできて、今度は全身フルアーマー装備。動きにくいので圧縮。ミニマムサイズのそれはなぜか可愛くなっていた。
 ――ネコミミワンピース魔法少女のできあがりだ。
「魔法少女、モーリー参上!」
 杖を振りかざして、キラッ☆

『少年でも関係な(ry』

「私の街を許せない。これでも喰らえッ。ナッキー。フルバーストチャージ、シューッ」
 長距離砲魔法術式が発動し、巨大な影が一瞬にして粉々に。
 ……被害も大きそうだが。
 敵は去った。

 そして、また日常に戻る。
「あ、御曹司の先輩だ」
「やあ、モーリー」
「千円ちょうだい」
「今日は何も理由なく集るんだね」
 ナッキーは、スクール鞄の中からその様子を見て、やれやれと嘯くのだった。

 しかし、モーリーはこの時知らなかった。
 彼女の大好きな街の影で、巨大な陰謀が動き出していることに……。


●アクション系住宅リフォーム「匠-TAKUMI-」
 都会から少し離れたベッドタウンの高級住宅地の奥に、ひっそりと建っているのが今回の物件。
 一見、普通の平屋一階建ての豪邸だが、全体から禍々しい邪気を放つ事で有名なこの物件には挑戦者が後を絶たず、やってくるたびに裸足で追い返してしまうという最凶の施設。
 まさに悪魔の城。要塞。
 そんな人が入れない家に頭を抱えた依頼人の元に、あの匠が遂に動き出す!
「なるほど、なるほど。たしかにこれは無理っぽい」
 匠(海城 恵神(jb2536))から飛び出した弱音。
「ってか、私、もうちょっと簡単なの想像してた」
 そして妄言。言い訳。
 だが、匠は足を踏み出す。
「え、やっぱり行かないとダメ?」
 だが、匠は足を踏み出す。
「これ見てよ。見るからに危ないぜ」
 匠よ、早く行け。
「なに、その上から目線。ってか、そのナレーション風、何それ。おもしろ。ぷっ、ギャグだったりする?」
 匠よ、殺す。
 絞め殺す。
 血の一滴、残らず雑巾絞りにしてやる。
「はい、すみません」
 匠は足を踏み出す。

 ――襲いかかる、振り子斧。
 ――そびえ立つ針山。
「この家を救わなければ……」
 まるで踊るような動きで、断熱効果のある壁紙に張り替える。一枚、二枚。それはまさに匠の匠たるゆえんの動きだった。

 ――四方八方から矢が飛び交うリビング。
 ――突然怒り出すおじいちゃんロボット。
「私が! この家を呪縛から開放してやるんだっ……! 」
 ダイニングテーブルを倒し、薄型フラットディスプレイのテレビを倒し、おじいちゃんロボットを倒し、矢の盾にすると、更なる家具を製造。

 ――そして、舞台は屋根に。
 ――そこには、この家の秘密がッ。
 そして、新事実!
 瓦屋根は……滑るのだ。
「あ、うわああああああああああああああああ」

 愛と正義とロマネスク、
『匠-TAKUMI-』
 ご期待ください!


●SF1
 世界は、時として不条理な法則が支配していることがある。
 そこには大した意味は無く、あるのは無情という二文字だけ。
 コジロー(ラテン・ロロウス(jb5646))は回想する。なぜこうなってしまったのかを。その原因を……。
 そう、あの時だ。
 マンホールにあるはずだと思っていた蓋がなかった。
 落ちてしまったのだ、その穴の中に。
 ――ワームホール、と呼ばれるものが理論物理学にはたびたび登場してくる。それは数学的に生まれた理論に外ならないが、それをタイムマシンの一つのモデルタイプだと考える学者は未だ多い。
 つまり、ワームマンホールだった。
 コジローは自分の手を見てみる。
 そこにあったのは、毛むくじゃらの手。
 羆の手だった。
「どうしてこんなことに」
「……秘密を知ってしまったな」
 かちゃり。
 コジローは殺気を感じて振り返る。
 そこにいたのは、銃を構えた羆だった!


●SF2
 時は、銀河歴FF28年。
 人類は宇宙外交に成功し、今では連盟の一席を担うような存在になっていた。
 宇宙船の事故を処理し、人命救助などを行う組織があった。
 その組織に所属しているコジローは『大型宇宙船撃墜』の一報を受け、優雅に飲んでいた紅茶を置いた。
 長年の相棒に呼びかける。
「出撃だ、ラテン・ムサシ・ロボD3」
「ピッポー」
 だが、それは人類の存在をかけた闘いの幕開けだった。
 
 ――宇宙船の墓場と呼ばれる場所での戦闘。
 ――コジローは大砲の操縦桿を握る。
「ああ、問題無い。操縦は頼む」
「フェ〜」
「任せたぜ、相棒」
「ピポポ」

 ――鳴り響く緊急信号
「何事だ!」
「フェ〜」

 ――投影される電子文字。
 ――【ラテンパイプガコワレタ】
「ピピピ」
「分かった、切り替える」
「フェ〜」

 ――次から次へ襲いかかる、正体不明(アンノウン)の敵船。
「ウワー!」

 ――そして、ようやく大型宇宙船に辿り着く。
 ――宇宙戦艦内部に突入か!?
 ――だが、それは敵の思惑通りだった……


●スパイ Scene1
 ――世界への挑戦者?
 ――一体なんのつもりだい?
 ――それで、誰を当てるつもりかな?
 ――彼に任せようじゃないか。

 ビル群が屹立する都会。
 ビジネスマンが往来する真昼のストリートの向こうでは、六車線のセントラルロードがある。交通量の激しい道路だ。クラクションが定期的に鳴り響き、それ上塗りするような喧噪が上がる。どうやら銀行強盗らしい。
 ショーウィンドウのガラスに寄りかかるようにして、一人の男がいる。
 ミハイル・エッカート(jb0544)だ。
 ジャケットの内側から、ケータイを取り出す。
 ケータイのディスプレイには、クリス・クリス(ja2083)という名前が映し出されている。
「なんだ?」
「退屈なの?」
「ああ、退屈だな。この町にはもう飽きた」

 ――彼、とは誰なんです?
 ――そうか、君は情報部に転属してから日が浅かったな。
 ――彼は、伝説のスパイだよ。

 表向きは製薬会社の看板を出している、オフィスビルの一室。
 小分けされたスペースにパソコンがある。
 そこに映されていたのは『ミハイル・エッカート』の名前と、現在の経歴。スパイ衛星で中継されている、彼の現在の様子。ケータイを耳に当てて、退屈そうに雑踏を眺めている。口に咥えているのはシガータブレットだ。タバコは吸わない性格らしい。
 パソコンを操作して、ズームをした人物の胸には『クリス・クリス』という社員証があった。
 タイトスカート、スーツ姿の、キャリアウーマンだ。
 うふっ、という笑い声が漏れて聞こえた。
「本当に退屈そうね、伝説のスパイさん。少しディナーでも?」
「それは……ふんっ、楽しみだな」

 高級ホテルの最上階。
 薄暗い店内では、暖かめの間接照明が焚かれている。全面ガラス張りで、夜景が一望できた。
 ミハイルがナイフとフォークを動かしながらローストビーフを口に運んだ後、シャンパンを飲み干した。
 ミハイルの前には、ドレス姿の女性がいる。
「世界への挑戦者ね。露系のテログループか。なるほど。それはどうでもいいが、」
 ミハイルは改めて目の前の女性を見る。
「ところで似合ってないぞ、ドレス」
 ミハイルから漏れた本音。
 台本にはない言葉に、クリスは「はぅッ」と息を詰まらせてから、カメラを意識して余裕ぶる。全体像が見えていない観客にはチンプンカンプンのアドリブだ。
「し、仕方がないの、ここはドレスコードがあるんだから」
「それじゃ、仕方ないな」
「……ボクだって、もうちょっとすればこんなドレス似合うように」
「で、仕事の話だが」
 クリスが脱線しかけたのを、ミハイルが戻した。
 気を取り直すような間が開いた後、
「そうね」
 クリスは咳払いをして続ける。
「ミハイル。情報部も貴方を遊ばせてる余裕はないの」
 テーブルの上には、『ボスミッションNO.009』のカードが置かれている。
「資料は手元にあるわね? 標的は軍産複合体の総帥……その正体はテロリストの親玉って奴よ」
「おいおい、軍産複合体だって? 政治も絡んでるのか? ただのテログループだろ?」
「ただのテログループじゃないから厄介なのよ。そうでなかったら、あなたになんか頼まないわ」
「俺一人じゃ荷が重い」
「あら、弱音?」
「客観的に見て、だ」
「そうね、私もそう思うわ。だから、今回は、可愛い子猫ちゃんと一緒に仕事してもらうわね。あら。お礼なんていいのよ」
「子猫?」
 不意に、ミハイルの肩に手が乗る。
 ハッとして、ジャケットに手を入れたミハイルは、ショルダーホルスターに忍ばせた銃に手を掛けて立ち上がった。
 だが、背後に立った人影の方が早かった。
 手が伸びてくる。
 ――しまっ
「初めまして、凄腕スパイさん。お会いできて光栄よ」
 その人影は、ただ握手を求めてきただけだったのだ。
「グロリア・グレイスです。よろしく」
 サングラスを外した奥に見えたのは、金色の瞳。
 ぴしっとしたパンツスタイルのスーツに身を包んだ女性、グロリア・グレイス(jb0588)だった。
 ミハイルは銃から手を外し、その手でグロリアの手を握る。
 ……まさか気配無く背後に立つとは。
「なかなかやるな、子猫ちゃん」
「ご心配なく、子猫でも爪と牙は研いでおくものよ。良いパートナーになれるといいわね」
「ああ」
「ところで、今日は親子で会食だったのかしら?」
 グロリアの視線を追ったミハイルは、その先に、グラスに注がれたオレンジジュースを飲んでいるクリスがいるのに気付いた。
 二人に見られてクリスがした、にこり、と笑っている顔がなんとも幼げだ。
 
 ……ジジジ
 ――配役ミスだよな〜?
 ――ハァ? 可愛いからいいじゃん。うおおおおおおお。
 ――あの、すみません、情報部の方、音声入っちゃってます。
 ――な、なんだって!?

 クリスのアップが映ったので、思わずテンションが上がってしまった裏側の声が聞こえた。(後で修正されるらしいです)
 
「や、俺は独身だから。勘違いするなよ! どっかのロリコン共と一緒にすんな!」
 その台詞は真に迫っていたと言う。


●スパイ Scene2
 ――世界は誰かの手にゆだねられるべきなのだ。
 ――そう、それは誰かではない。我々だ。
 
「スパイが紛れ込んでいる?」
 元々炭鉱だったアジトの暗がりで、雪室 チルル(ja0220)が机をバンと叩いて憤っていた。
 目の前には白いスーツを着た男。煤けて汚れている場所には似合わない服装だった。
「でも、そんな情報をあたし達に流して、あんたは大丈夫なの?」
「ええ、全ては世界のためですから」
 にやりと笑った男になんの悪意も疑わず、チルルはふんっと鼻で笑った後、部下に指示を飛ばした。
「北のスラムへ出撃する。あたいも行く!」

 何故ばれた……。
 ミハイルがまず思ったのはそこだった。
 ここは敵司令部よりもはるかに遠い北のスラム。兵站基地になっている情報を受けて、やってきたのだ。まさか、その情報自体が罠?
「……ちっ、ありえなくはないな」
 ミハイルは、ホテルで寝ていたところを襲撃された後、スラムの入り組んだ土地を利用して逃げていた。
 ホルスターから銃は抜いて、すでに構えている。
 いつ敵と遭遇しても大丈夫なように。
 爆音。
 何かと思って、振り返れば黒塗りの車がスラムの薄い建物を突き抜けてやってくる。明らかにミハイルを狙っての特攻だった。
 フロントガラスに銃弾を一発、タイヤに向かって一発。
 だが、怯みもせず走ってくる。

「くそっ、装甲車か!」
 舌打ちしたミハイルは裏路地から、裏路地に逃げた。
 
「目標捕捉、情報にあったとおりです」
「そのまま前進して。突っ込めー」
 チルルは無反動砲を車の窓から出してぶっ放す。
 爆発。
 
 街の特徴ゆえ、地形把握も難しかった
 ミハイルは、あっという間に三台の装甲車に囲まれてしまう。
「武器を捨てなさい!」
 チルルの声に、ミハイルはゆっくりと銃を足下に置いた。
 敵側の緊張が一瞬和らぐ。
 その時、
 ――急加速的なエンジン音。
「な、なんなの?」
 その混乱に乗じて、ミハイルは愛銃を拾い発砲した。建物の屋上から狙いを定めていた狙撃手は地上に落下し、反乱の意思をくみ取ったテログループの面々は銃口をミハイルに向ける。
 四方で銃声が鳴る。
 その刹那、ミハイルは何かに捕まって宙へ飛んだ。
 掴んでいたのは先端に返しの付いた頑丈なワイヤー。ミハイルを回収したのはクレーンの付いた軽トラだった。

「畑違いと侮るなかれ!運送屋だってなぁ…ガッツさえありゃあスパイと一緒よ!!」
 助手席に移動したミハイルが見たのは、輸送班のリーダー伊藤 辺木(ja9371)。
「無茶するな、あんた」
「お前さんほどじゃないだろ?」
「で、どうするんだ?」
「決まってるだろ。逃げるんだよ」
 軽トラは街を突っ切り、木々の茂る森に突入した。
 
「森か……。改造軍用装甲車があるでしょ、BTP-2000、あれを使うわよ」
「しかし、チルル隊長、あれはまだチューンナップが」
「いいから、突撃ぃ―」
「い、イエス、マム」

「なんかすごいの追ってくるぞ」
「知らないね。俺は突っ走るだけさ!」
 悪路をもろともしない軽トラが逃げる後ろでは、障害物を片っ端から破壊していく迷彩模様の軍機が数機、速度を上げていた。
 ドーザーや、クレーンで応戦しながらもミハイル達は逃げる。
 その追いかけっこは、森から、洞窟から、滝壺まで続き、ついに追いかけていた装甲車隊の先頭が壊れて道をふさいでしまい、後続が続かない。
 修理に手間取っているようだった。
「覚えてなさいよー」
 負け惜しみが岩の露出してきた森の奥に響く。
「おい、目の前……崖だぞ、お、おい!ちょっ……待て! 落ち……る!? 」
 目の前には崖。
 落ちたら、一巻の終わりだ。
 ミハイルはここまでかと目をつむった。
「ハッハー!見たか我らの底力!トラックにほんのちょっとの愛情改造燃料でぇ!!水や空の一つや二つがなんぼのもんじゃーーーっ!!」
 軽トラが空を飛んでいる。
 なんてこった。
 ミハイルは ぐったりと呆れ笑っていた。

●スパイ Scene2.5
 夜の闇にひっそりと建つビルの前にグレイスの姿があった。
 腕時計から撃ち込み式アンカーのワイヤーを発射する。
「よし」
 しっかりと撃ち込めているのを確認してから、それを伝って地上三階の排気口から侵入した。
 喫煙室らしき場所の屋根から降りると、赤外線ゴーグルを使ってセンサーをかいくぐる。監視カメラを避けながら、制御室の厳重なロックを解除して中に入る。
 グレイスは制御板に近づき、センサー類に誤信号を送る機械を取り付けた。
 これでセンサー類はうまく作動しないはずだ。
 汗一つかかずに大仕事をやってのけたグレイズは次に、小型コンピューターを取り出しデーターを一括で保存しているハードウェアに接続。システムにハッキングをして、そこから情報を探った。
 データ量が多いが、自動検索システムを使えばそんなもの障害でもない。
 ――見つけた。
「これね……」
 グレイスは舌なめずりして、その目的のデータを覗くためにクリック。
 だが、次の瞬間、焦りも躊躇もしなかったグレイスの顔が青く赤く変わったのだ。
「こ、こんなことって……」
 その絶望に満ちた声。
「Darn it! なんて事なの……!」
 
 その頃、ミハイルは軽トラで空中遊泳をしていた。
 ケータイが震える。
 そこには、『kitty』の文字。
「もしもし」
「こんにちは。ご機嫌いかが?」
「んああ、空でも飛んでるような気分だ」
「そう。それは結構ね」
「どうしたんだ?」
「敵の本拠地に侵入したのよ。ミハイル。私達が敵に回した相手は思っていた以上に……危険だわ」
「そうか、くくく、だったら俺たちを敵に回したことを後悔させてやろうぜ」


●スパイ Scene3
 爆発。
 炎上するガソリンスタンド。
 闇を切り裂く火柱。
 また爆発。
 それを背後に、ミハイルに迫るのはチルルだった。
「それをこっちに寄越しなさい。さもないと、この子の血を見ることになるの」
 チルルは拳銃の銃口を、クリスのこめかみにつけていた。クリスには手錠と足かせが付いている。
「これをお前らに渡したら、何千万、いや何億の死者が出る」
「じゃあ、この子を見捨てるのかしら」
「いや、人質は返してもらう」
 低い姿勢で迫ってきたミハイルは、チルルが放った銃弾を三発避けて直進する。
 チルルはクリスを蹴飛ばすと、銃をミハイルに目掛ける。
 ミハイルは腹に一発受けてなおも止まらない。

 銃を捨てて、ナイフに切り替えるチルル。
 手首から拳銃を二丁取り出して両手に持つミハイル。

 二人は接近戦を演じる。
 ミハイルの中国拳法にも似た動き。
 対してチルルは、小さな頃からたたき込まれた暗殺術だった。
 
 やがて、血の海で起き上がるミハイル。
 起きようともしないチルル。
「人質、返してもらうぞ……」
 ふらふらになりながら、気絶しているクリスを担ぎ、足を引きずりながら長い道のりを歩いて行く。
 パチパチ。ガソリンスタンドの炎は消えそうもなかった。

「まだ監視を続けますか? 消すなら今のうちでしょう。――そうですか。仰せのままに、閣下」
 白スーツの男が、車の中からミハイルの背中を見ている。
 その手の中には、ミハイルが敵組織から奪ったはずの最終兵器が握られていたのだった……。


●全てを総括しての宣伝
『全ての物語はやがて真実に辿り着き』
『そこにあるのは希望か絶望か』
『先の読めない展開に、全世界絶賛』
『観客動員数60億人』

 実際に見た観客へのインタビュー。
 興奮冷めあらぬ様子で劇場から出てきたのは稲葉 奈津(jb5860)。まだ出来てもいないのに、その演技力でもって見てきた観客を装っている。その目には涙。監督の要求以上の演技だ。
「はい。こんな映画見たことないです」
 ――どんなところが?
 その突っ込んだ質問にぴくりと口の端を歪ませた奈津だったが、すぐに表情を戻す。
「とにかくっ、全私が泣いた! こんな映画は見た事ないわっ!」

 強引な締めの後、真っ暗な背景に、
『coming soon』
 の堂々とした文字。
 シアターは明るくなった。


●試写を終わっての感想
 鳴り響いた拍手。
 制作陣の涙。

「映画撮影って初めてなんだけど大丈夫だったかな?」
「良かったと思いますよ。可愛かったですし。全体の構成は監督さんの責任ですわ」
 不安げなチルルをあやした玲花。
 並木坂・マオ(ja0317)もうなづいている。
「ん、あ……もう終わった?」
「とっくだよ〜」
「うん」
 宗を、エルレーンと、クリスが笑っている。
「自分の雑魚っぷりは映画史に名を残すでござるな」
「僕の慌て方も中々だと思うよ」
 虎網と雷。この二人の目の付け所が似ていた。
「森田さん、可愛かったですよ」
「今さらながら、配役反対だったよね? はは」
 良介は、夕乃に向かって諦めの笑み。
「やっぱ、軽トラが空を飛ぶ。夢があっていいなァ!」
「あれ、スタッフが泣いたらしいぜ。どうすんだってな」
 辺木の豪快な笑いに、ミハイルは肩をすくめて笑った。
 それを傍目に、グレイスが一言。
「翼があれば、なんだって飛ぶことができるのよ」
「あああ、推理、最後までしたかったかな〜」
「本当に推理モノ好きだな……でも、自分で作った料理食って死ぬなんて、謎解き無いと間抜けな奴だな、俺」
 Relicと稀世は思い思いに映画を回想している。
「もっと、ネタを盛り込みたかったな」
「あれでも十分だろ」
 恵神から漏れた言葉に、露姫が呆れた。
「警察、来なかったのぅ」
「予告だから、終わらせたらダメだったんだろう。大人の事情って奴だ」
「ちなみに、宇宙へは本当に行った……嘘だ」
 真顔で嘘を吐くラテンに、緋打石と、司は青筋を立てる。
「殺陣もう少し長かったですよね」
「おもしろかったよね」
 歌乃と真緋呂は、互いに視線を酌み交わし、うふふと笑い合っていた。

 その時、黒かったスクリーンに突然何かが浮かび上がる。
 それは、ビーチに立つ歌音 テンペスト(jb5186)だった。イメージビデオだ。
 全身に来ているのは水着ではなく、モザイク。
 
 亀甲縛りに継ぐ、三角木馬。
 音声無しだというのに、なんて破壊力。
 シアター内の空気が白くなっていく。

 観客動員数全米最下位
 煎餅が泣いた
 先の見えない展開
 映像化不可能といわれたあの作品が遂に待望の映画化中止
 ベストセラー不完全映画化
 全米が震動した
 アカデミー賞有人候補
 いつやるの?居間でしよう!
 私は具になりたい
 飛べない蓋はただの蓋だ
 寝室はいつも一つ!
 あなたは死なないわ……和菓子が守るもの

 一秒一秒で切り替わる宣伝文句。
 それは今流行の、サブリミナル効果。

 シアター内の空気が白く、さらに白く、純白に!

「よくやるわ……」
 奈津が思わず呟いてしまう。
「これを踏み台にハリウッドに進出するの」
 歌音の声と、ボリボリという音だけが良く響く。
「あ、ポップコーン無くなっちゃった」
 雪夏は残念そうな声で悄げたのだった。

 ともあれ制作陣が満足するような映画が完成。
 依頼は成功で幕を閉じた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: アルカナの乙女・クリス・クリス(ja2083)
 セーレの王子様・森田良助(ja9460)
 Eternal Wing・ミハイル・エッカート(jb0544)
 撃退士・グロリア・グレイス(jb0588)
 仲良し撃退士・Relic(jb2526)
 常識は飛び越えるもの・海城 恵神(jb2536)
 激闘竜姫・宗方 露姫(jb3641)
 主食は脱ぎたての生パンツ・歌音 テンペスト(jb5186)
 新たなる風、巻き起こす翼・緋打石(jb5225)
重体: −
面白かった!:11人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
『九魔侵攻』参加撃退士・
楊 玲花(ja0249)

大学部6年110組 女 鬼道忍軍
魔に諍う者・
並木坂・マオ(ja0317)

大学部1年286組 女 ナイトウォーカー
凍気を砕きし嚮後の先駆者・
神凪 宗(ja0435)

大学部8年49組 男 鬼道忍軍
┌(┌ ^o^)┐<背徳王・
エルレーン・バルハザード(ja0889)

大学部5年242組 女 鬼道忍軍
アルカナの乙女・
クリス・クリス(ja2083)

中等部1年1組 女 ダアト
世紀末愚か者伝説・
虎綱・ガーフィールド(ja3547)

大学部4年193組 男 鬼道忍軍
泥んこ☆ばれりぃな・
滅炎 雷(ja4615)

大学部4年7組 男 ダアト
撃退士・
夏木 夕乃(ja9092)

大学部1年277組 女 ダアト
しあわせの立役者・
伊藤 辺木(ja9371)

高等部2年1組 男 インフィルトレイター
セーレの王子様・
森田良助(ja9460)

大学部4年2組 男 インフィルトレイター
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
撃退士・
グロリア・グレイス(jb0588)

大学部7年322組 女 鬼道忍軍
仲良し撃退士・
Relic(jb2526)

大学部6年107組 女 ディバインナイト
常識は飛び越えるもの・
海城 恵神(jb2536)

高等部3年5組 女 ルインズブレイド
激闘竜姫・
宗方 露姫(jb3641)

大学部4年200組 女 ナイトウォーカー
主食は脱ぎたての生パンツ・
歌音 テンペスト(jb5186)

大学部3年1組 女 バハムートテイマー
新たなる風、巻き起こす翼・
緋打石(jb5225)

卒業 女 鬼道忍軍
この命、仲間達のために・
日下部 司(jb5638)

大学部3年259組 男 ルインズブレイド
自爆マスター・
ラテン・ロロウス(jb5646)

大学部2年136組 男 アストラルヴァンガード
闇を祓う朱き破魔刀・
織宮 歌乃(jb5789)

大学部3年138組 女 陰陽師
力の在処、心の在処・
稲葉 奈津(jb5860)

卒業 女 ルインズブレイド
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
【流星】星を掴むもの・
千 稀世(jb6381)

大学部6年248組 男 ナイトウォーカー
非公式A級ハンター認定・
雪夏(jb6442)

高等部3年27組 女 バハムートテイマー