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マスター:はうつむり
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/05/26


みんなの思い出



オープニング

●笑顔が恐い。
「無い……! ここにも無い?! そしてここあ……ない!」
 一人の男子生徒が閑散としつつある放課後の教室で奇声をあげながら、奇行に走っていた。
 衣服を平手で叩いて回ったかと思えば、服のポケットを穴が開く勢いでまさぐり、今度は床に這い蹲って、トカゲのようにあたりを這いまわっている。
「無い……! 無い無い……」
 教室に居残っていた生徒達はその姿を見かねて声をかけようとしたのだが、次第にエスカレートしていく奇行になんて声をかけるべきなのか、周囲を荒らす行為をやめさせるべきなのか、それとも手を貸してあげるべきなのか、考えあぐねているようだ。
 だが、生徒達が行動しない理由はそれだけではない。
 机の上に腰を下ろし、男子生徒をじっと見つめ続ける少女の姿があったからだ。彼女はずっと男子生徒から目を話さず、見下すように眺め続けている。
 彼女が放つ無言の威圧は周りの生徒達も感じるほどであり、実際に視線を送られ続けている男子生徒が感じているであろう重圧は計り知れない。
 気まず過ぎる異様な空気に耐え切れなくなり、一人、また一人と生徒が教室を去っていくなか、不動の少女が動いた。
 ぴょん、とコミカルな動作で机から降りると、早足で這い蹲っている男子生徒に近寄っていき――。
「うげぇっ!」
 これが歩み寄る過程ですと言わんばかりの自然な動作で、わき腹を蹴飛ばした。
 肺から息を搾り出されたような悲鳴を上げ、男子生徒は悶絶する。
「いつまで、待たせるのかな?」
 この惨事には似つかない、とても聞き心地の良い柔らかな声で少女は告げる。表情も遠めで見れば笑っているように見えるかもしれないが、目が笑っていない。笑顔が恐い。
 いまだ痛むのだろうか、男子生徒は片手でわき腹を押さえながら立ち上がり、少女に向き直るが、目を合わせることができないのか、空いた手で頭を撫でながら挙動不審気味に俯いている。
「え、えっと……あの……」
「こっちを向け」
 怒気を隠そうとしない言葉に萎縮し、男子生徒の挙動はぴたりと止まる。
「……はい」
 遊ばせていた手をおろし、恐る恐る男子生徒は少女の顔に視線を動かした。
 いまだ恐ろしい微笑を浮かべる少女は一番最初に発した言葉を、再生するため口を動かした。
「いつまで、待たせるのかな?」
 男子生徒は脂汗を浮かべ、身体を、声を震わせた。
「も、もう少しだけ…――ぇえ?!」
 哀訴の言葉の途中で、男子生徒の視界と身体が一回転し、机と椅子が散らばる轟音が鳴り響いた。

●失っても、失いたくないモノ。
 ああ、いったいどこに落としてしまったのだろう。
 乱雑に散らばる机と椅子の山に身体を預けながら男子生徒は考える。
 彼女はもう怒って帰ってしまったようだ。
 こういった暴力は痛くは無い。というより日常茶飯事で慣れている。彼女と付き合ってから早数ヶ月、幾度あざを作ってきたことか――。
「うーん。そうじゃない。本当にどこに落としたんだろうか」
 付き合って初めてのデートでプレゼントした手作りの銀細工の指輪を男子生徒は拝借していた。
 依頼で偶然手に入れた珊瑚を装飾し、二日後に訪れる彼女の誕生日に再びプレゼントしようと思ったからだ。
 装飾加工は成功したのだが……、どこかに落としてしまったようだった。
「うかれて持ち歩いていたのが間違いだったんだ」
 愚行を悔い、額に手を当てる。
 今日の朝は確かにポケットの中に入っていたはずだ。傷がつかないようにリングケースにちゃんとしまって。でもどこかで取り出したような気がする。……どこで?
「そういえば携帯も一緒にポケットに入れたよな……」
 男子生徒はポケットを探って携帯を取り出した。
 もしかして、どこかで携帯を取り出したときに、携帯と一緒になって出てきて落っことしてしまったのか? じゃあ、どこで取り出した? 確か、昼休みご飯を食べるときにメールが来て……。
「……食堂!!」
 叫ぶや否や、男子生徒は手を使わずに起き上がって駆け出した。
 疾風のごとく廊下を駆け抜けて食堂に入り込み、自分が座っていた席のあたりを捜索する。
 机の上や下、椅子の下、床一体を調べまわったが、リングケースは何処にも落ちては居なかった。
 最後の望みを駆けて、食堂のおばちゃんに聞いてみたが……。
「落し物? うーん、ここには届いてないわねぇ」
 と、絶望を色濃くする答えが返ってきただけだった。
 その後も根掘り葉掘り広い食堂中を探し回ったが、見つからなかった。
 何処に言ってしまったのかまるで見当がつかない。
 近くにあった椅子に腰掛け、すっかり日が落ちて暗くなってしまった外を窓から眺める。そこには間抜けの自分の顔が写っていて、なんともやるせない気持ちになってしまう。その顔がまた陰気くさくて、気分が病んでしまう。
 落ち込む男子生徒とは裏腹に、夜空は美しい星空が広がっていた。
「……初めてのデートもこんな夜だったっけ」
 爛漫に輝く満月を眺め、ぼんやりと甘酸っぱい記憶を思い出す。
「受け取ってくれたときの顔、本当に可愛かったなぁ」
 二人で星空を見上げ、何てことも無い話をして、笑いあって。
 そして不意をついて、指輪を渡したんだっけ。
 嬉しさでにやけた口元を片手で隠し、頬を真っ赤にしながら受け取ってくれた姿は今でも鮮明に覚えてる。そしてその表情を良く見ようと、顔を近づけたらこぶしが飛んできたことも。
「……」
 すぐに手をだしてくる乱暴な子だけど、本当は純情で、素直で。
 だからこそ、男子生徒は今日、彼女が去り際に、男子生徒を投げ飛ばした瞬間の表情が忘れられなかった。
 今までに見せた事の無い、本当に落胆した様子の表情を。
「……どうにかして、見つけないとなぁ。恥ずかしいけど依頼、出すかぁ」
 椅子から立ち上がった男子生徒は重い足取りで、斡旋所へと向かうのだった。


リプレイ本文

●探し物をする前に。

 小鳥が囀りを交わす長閑な朝。雲一つない清々しい青空に浮かぶ太陽が、柔らかな日差しをおろしていた。
 陰鬱な気分になどなりはしないはずなのに、斡旋所の前にあるベンチに腰を下ろす青年の表情は酷く暗かった。
 依頼を受諾してくれた親切な撃退士達があつまり、日が遮られてうっすらと影が差し込み、青年はようやく顔を上げた。
「私事の依頼なのに手を貸してくれて、本当にありがとう」
 力なく微笑んでみせるその顔には覇気は無く、眼窩の下がうっすらと黒ずんでいる。
「……寝ていないのかい?」
 とても健康体とは思えぬ顔色を見かねた新柴 櫂也(jb3860)は男子生徒に問うた。
「ああ、依頼を出した後も探し続けたからね……」
「結果は……聞くまでも無いようだな」
 悲しげな吐息が混じる言葉に結果を悟り、雪之丞(jb9178)は呟く。
「それにしても失せ物一つに随分と大掛かりなことだねぇ」
 御琴 涼(ja0301)は自分以外に依頼を受諾した5人の撃退士の姿を見渡した。
 男子生徒は肩を落とす
「本当に不甲斐ないよ。頼んでおいて申し訳ないんだけど早急に探し出さなくてはいけないんだ。人は多ければ多いほど助かるんだ。……それにしても、大切なものをこうもあっさりなくしてしまうだなんて……」
 雪之丞は思慮するように顎を撫でた。
「一度失くし、見つからないようならその程度のもだった、ということかもな」
 雪之丞の言葉を聞いた男子生徒は深くうな垂れ、大きなため息をついた。
「……はぁ……そうなのかなぁ」
 どんどん小さくなっていく男子生徒に浪風 威鈴(ja8371)は近づいていく。
「ちがうと……思うよ……」
 途切れ途切れで微かな声にはどこか確信めいたものがあった。
 威鈴の言葉に同意するように浪風 悠人(ja3452)は頷いてみせる。
「うん。雪之丞さんもそういう意味で言ったわけではないと思いますよ」
「どういうことだい?」
 顔をあげた男子生徒の肩に涼は手を置いた。
「あんたの想いはその程度なのか、ってことだろ? 違ぇだろ? ならへこんでねぇでシャンと胸晴ってろや。……そしたら答えてやんよ。俺らも、な」
 そう言うと、涼は快活に笑ってみせた。
「そーですよ! ほら、立ってください!」
 パルプンティ(jb2761)が底抜けの明るさで男子生徒の手を握りしめて立つように促した。
 戸惑いを見せながらも立ち上がった男子生徒の背中に優しく手を当てて、櫂也は微笑んでみせる。
「確かに心配だけど、とにかくみんなで協力して探し出せば出てくると思うよ。なっ」
 活を入れるように軽く背中を叩いた。
 一瞬よろけた男子生徒は改めて、手を差し伸べてくれた撃退士達を見渡した。
「みんな……ありがとう」
 心なしか目を潤ませる男子生徒に雪之丞は告げる。
「礼はまだ早い。指輪を見つけ出してから聞こう」
「そうですよ! 簡単に落とす大事な指輪でも必ず見つけ出すのでご安心くださーい!」
 隙を狙うように吐き出された毒に男子生徒は苦笑いを浮かべる。
 明るいパルプンティの様子を見て、威鈴が静かに口を開く。
「悪気は……ない……」
「あはは……」
 当惑してはみせるものの男子生徒の表情は先ほどまでの鬱屈した翳りは消え去り、すっかりと明るくなっていた。

●探し物はどこですか?

 落ち着いた男子生徒から、行動ルートと時間を聞き出した一同は役割を分担して捜索することを決定した。。
 櫂也が中庭周辺。パルプンティが教室周辺。雪之丞が演習場周辺。涼が食堂周辺。そして威鈴と悠人が男子生徒が再現するルート周辺の捜索となった。
「そうだ……写真とか……ある?」
 威鈴の言葉に男子生徒は首を振る。
「写真、は無いけど。口でなら伝えられるよ。リングケースの色は水色。大きさは子供の握り拳ぐらい。それと中には……」
 言葉に詰まった男子生徒の表情が少しだけ赤くなった。
「薄いピンク色の……、は、ハートがあしらわれたゆ、指輪が……」
「ハート……だな」
 指輪の特徴を反芻し、男子生徒の反応をお構いなしに雪之丞はメモ帳に書き込んでいく。
「どべたですねー!」
 悪意のない純粋な感想がパルプンティの口から容赦なく飛び出し、男子生徒は湯気が出るほど赤くなっていく。
 その様子を見て涼はからからと笑った。
「お熱いねぇ! なんとしてもみつけださねぇとな。んじゃま、何かわかったら連絡するわ」
 ひらひらと手を振る涼を皮切りにして、みな自分の担当する場所への移動を開始した。

 時刻は10時過ぎ。
 授業合間の休み時間を利用して中庭へと出てきた生徒がちらほらと確認できる中、櫂也は周囲を注意深く捜索しつつ、聞き込みを行っていたが、有益な情報は集まらず、いまとのころそれらしきものも確認できずにいた。
 ベンチに座りながら静かに読書を続ける銀縁メガネの少女が視界に映り、歩み寄る。
「ちょっといいかな。聞きたいことがあるんだ」
 事情と男子生徒の特徴と指輪のことを告げると、少女はぽんっと手を叩いた。
「あー、あのいつも殴られてる人ね」
「いつも殴られているのか……」
「私、ここで昨日も本を読んでいたから彼がここを通るのを見かけたわ」
「おお。じゃ、そのときこのぐらいのリングケースとか落としてはいなかったかな?」
「ううん。それっぽいのは落としてなかったわよ。代わりに携帯落っことしてあたふたはしていたけどね」
「……落とし癖でもあるのかな?」
 少女の話を聞き、櫂也は苦笑いを浮かべた。

 時刻は11時過ぎ。
 パルプンティは触覚をふよふよさせながら廊下を歩いていた。
 男子生徒の教室の前まで来ると、なんの躊躇もなしに扉を開ける。
「しつれいしまーす!」
 突然の来訪者に驚く生徒を数人を捕まえて、聞き込みを行ったが誰一人として有益な情報を持ってはいなかった。教室内も隈なくさがしてみたがそれらしきものは一切見つからない。
 教室から出たパルプンティはつかつかと歩を進め、男子トイレの入り口前で足を止める。
「ううーん。あとはトイレですね……いいや乱入しちゃえー♪」
 言うや否や扉を開け、中に入っていく。
「ぎゃあ!」
 ちょうど用を終えた男子は侵入者に驚きへんな声を上げた。
「あ、お気になさらずー」
「いや。いやいや……気になるよ……」
 個室もばんばん開けていくパルプンティの姿から離れるようにして男子はトイレを後にしていく。
 トイレ全体を隈なく探し、ついでに男子トイレから男子を追い払ったパルプンティは腕を組んだ。
「うーん。見つかりませんねぇ」

 時刻は12時近く。
 気迫に満ちた大声や熱気で満ちる空間の中、雪之丞はざっと捜索したが発見できず。
 演習を終えて爽やかな汗をかく生徒たちに雪之丞は事情を伝え、情報を募った。
 首を傾げたり、周囲のものに聞いたりするばかりで、有益な情報は集まらない。礼を告げてほかの場所を捜索しようとしたところ、一人の生徒が声をあげた。
「あ、そういえば」
 すかさず生徒に向き直る。
「何か知っているのか?」
「うん。なんかそのリングケースを拾ったって聞いたな」
「もっと詳しく聞けないか?」
 端正な顔立ちから凛として発せられる言葉に、多少生徒は怖気づいたのか、尻込みした様子を見せる。
「う、うーん。確か食堂で拾ったって誰かが言っていたような。ごめん。誰がいってたかは思い出せないや」
「なるほど。礼を言う」
 ささやかながら情報を与えてくれた生徒に軽く一礼し、その場を後にする。
 今手に入れた情報を全員に転送し、周辺を捜索しながら食堂へと向かっていった。

 時刻は12時過ぎ。
 涼は食堂周辺を捜索した直後、雪之丞から連絡を受け、周辺の人々の聞き込みをメインに動いていた。
 10人近く集まって昼食を食べるグループを見つけ、声をかける。
「よぉ! ちょっとだけいいかい?」
 ほんわりとした印象を与える女子生徒がスプーンを銜えながら振り向いた。
「んー。なにー?」
「失せモン探してんだが、このぐれぇのリングケースとか見かけてねぇかね?」
「りんぐけーす? あ、みたよーみたみた。昨日黄色い帽子をかぶった男の人が落っこちてたリングケース拾ってたよ?」
 どこか気抜けした様子で答える女子生徒に涼はさらに質問する。
「その黄色い帽子をかぶった奴のこと、何かしら知ってることはねぇかね?」
「いつも中庭でサボってるよー」
「中庭、ね。サンキュ。助かったわ」
 礼を告げるとともに涼は全員にメールを送信。中庭へ向かうため食堂を後にした。

 時刻はほぼ同刻。
 威鈴は昨日通った道で行った行動を再現する男子生徒の周辺を満遍なく捜索し、悠人は周辺を歩く人々に情報を聞いてまわっていた。
 未だに何も見つからず、男子生徒から焦りが感じ取れ始めたとき、悠人はポケットにわずかな振動を覚えて携帯を取り出した。
 雪之丞と涼から連絡を確認して二人に告げる。
「誰かに持ち去られただなんて……。やっぱりもう、見つからないのかなぁ」
 深いため息をついて、男子生徒は悲しそうに表情を暗くする。
 威鈴は落ち込む男子生徒の頭に手を置いて、そっと撫でた。
「大丈夫……だよ……見つかる……」
「あきらめず探せば、きっと見つかるはずです」
 威鈴と悠人の気遣いに男子生徒は微笑みで応える。
「ありがとう、二人共」
「黄色い帽子をかぶった人物が持ち去ったそうです。そいつを探しましょう」

●探し物発見!!

 情報を受け取った櫂也は周囲を注意深く見直した。
「黄色い帽子をかぶった人……ね」
 どこにもそんな人物は見当たらない……と思った矢先、校舎からけだるそうに歩いてくる黄色い帽子をかぶった人物を発見した。
「見つけた!」
 素早く発見情報を全員に送信すると、櫂也は駆け出した。。ちょうど中庭を目指し、校舎から出てきた雪之丞と涼とも合流し、三人は黄色い帽子をかぶった人物を追いかける。
「ちょっといいかな?」
 櫂也の言葉に男はけだるそうに振り向いた。
「あー? なんだなんだ」
「これぐらいのリングケース、知らない?」
 リングケースのことを問うと、男は露骨に目を逸らした。
「あー……」
 しらばっくれ様としているのか、帽子を触りながら挙動不審にしている男に痺れを切らし、雪之丞と涼の二人も問い詰め始める。
「知っているなら素直に情報を吐いてくれないか?」
「金じゃ買えねぇ大事なもんなんだよ。素直に教えてくんねぇかな」
 目を逸らし、頭をぼりぼりとかいていた男はちらりと三人に目をやる。そして言い逃れができないことを悟ったのか、大きく息を吐いた。
「……興味本位拾ったんだ。んで中身見たら宝石の指輪じゃねぇーか。しかもハート型。こりゃ面倒になりそうだとおもってよ。食堂に戻すのも億劫だし、届けでんのも億劫だったからどっかの自販機の上に置いた」
 あまりにずさんで無責任な男に三人は思わず苛立ちを感じてしまう。
「その自販機がどこだか覚えているんだろうな」
「忘れたとはいわせねぇぞ……」
 静かな怒気を感じ取った男は冷や汗を流しながら答え始めた。
「あ、あー。そうだな。おそらく」
「おそらく?」
「いや、確実に屋上の自販機だったはず……」
「はずだぁ?」
「いえ、確かに屋上の自販機の上におきました!」
 最後は敬語になった男に櫂也はため息をついて、注意を促した。
「失せ物を拾ったら素直に届けでるんだよ。君が面倒でも誰かが悲しむことになるんだから」
「お、おう……すまねぇ。今度はそうするわ」
 男は頭を下げ、逃げるようにその場を去っていく。
「神経を疑ってしまうな」
「ああ。とりあえず連絡しねぇとな。メールでいいか」
 
 発見情報を見たパルプンティは廊下を駆け抜け、階段を上っていく。屋上への扉を開けて外へ飛び出した。
 自販機を発見すると高く飛び上がって上を確認する。そこには小さな水色のリングケースが。
 つかみとって中身を確認すると、珊瑚のハートがあしらわれた指輪が顔を出した。
「見つけましたよー!!」
 
●夕暮れをバックに。

 日が沈みかけた時間帯。6人の撃退士と男子生徒は中庭にいた。
 協力して発見したリングケースと指輪を握り締め、男子生徒は涙を浮かべていた。
「ありがとう……本当にありがとう……」
「ほら、見つかったんだから泣くんじゃねぇよ!」
「ああ……」
「さ、見つかったんだし。連絡してあげな」
「きっと……待ってる……」
 櫂也と威鈴の言葉を聞き受け、男子生徒は涙を拭った。
「……それでは俺たちは席を外しますね」
「いつまでも仲良くな!」
 依頼を完遂した撃退士達は少し離れた場所に移動し、男子生徒を見守り始めた。
 しばらくすると、彼女と思しき少女が姿を現した。
「……見つかったの?」
「なんとか、ね。ほら」
 中身を見て、少女は顔を一気に赤くした。
「ハート型、ベタ過ぎたかな?」
 男子生徒の問いに少女は首を横に振る。
「……嬉しいよ」
 小さな小さな言葉。それを聞き逃した男子生徒は思わず聞き返してしまう。
「え、なに?」
 耳を近づけようとした矢先、気がつけば男子生徒は後頭部に痛みを感じると同時に赤く染まりかけた空を見ていた。
 少女が仕掛けたシャイニングウィザードが直撃したのだ。
「痛い?! なんで?!」
「失くした罰よ! ばーかばーか!!」
 罵りながら少女は体勢をかえ、男子生徒の腕を十字に固める。
「ご、ごめん! やめて! それは本当に折れるかもしれないからやめて!!」
 本気で痛がる男子生徒の姿と本気で技をかける少女の姿はなぜか微笑ましく、幸せそうに見えた。
 
「攻撃されるのが好きな人みたいに見えますねー」
 パルプンティの言葉に雪之丞は小さく頷く。
「そうだな……」
「あはは、暴力的なのはあまり感心しないけどね。まぁ怒っている姿が魅力的ってのは共感できるかな」
「なんだぁ? あんた、似たような経験あんのか?」
「まぁね」
 涼の問いに櫂也はいたずらな笑みを浮かべて見せた。
「……あの娘……嬉しそう……よかった……みつかって……」
 嬉しそうにプロレスの技をかける少女の姿を見て、威鈴はやさしい表情を浮かべた。
「そうだな……」
 どういうするように呟いた悠人は、指輪を発見し渡すことに成功した男子生徒の姿と、威鈴を見て、何かを決意したように強く頷いた。

 夕焼け小焼け。全てが橙色に染まる頃。撃退士達は各々の思いを胸に、幸せそうにするカップルの姿を見送るのだった。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

撃退士・
御琴 涼(ja0301)

大学部3年174組 男 ディバインナイト
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
白銀のそよ風・
浪風 威鈴(ja8371)

卒業 女 ナイトウォーカー
不思議な撃退士・
パルプンティ(jb2761)

大学部3年275組 女 ナイトウォーカー
撃退士・
新柴 櫂也(jb3860)

大学部3年242組 男 鬼道忍軍
秘名は仮面と明月の下で・
雪之丞(jb9178)

大学部4年247組 女 阿修羅