.


マスター:はうつむり
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/04/18


みんなの思い出



オープニング

●ひとり、足りない。
 この世の終焉を表現するかのように、紅蓮に太陽は燃ゆり、空は朱く彩られていた。はらわたを髣髴とさせる薄気味悪い不定形な雲が素早く流れていく。
 吹きつける向かい風をその身に浴びながら、年端も行かない数人の子供達が町を目指し、走り続けていた。いつも感情を表情豊かに表現する彼らの顔には、色が無い。
「だから、いったんだよ! 行かないほうがいいって!」
 その中の一人が頬をつたう汗を拭おうともせず、ひたすら走りながら声を荒げる。
 彼の言葉に反応を示すものは一人もおらず、ただ彼と同じように走り続けた。
「はぁ……はぁ……」
 町の中にある小さな公園まで駆けてきた子供たちは遊具にその身を預け、しばらくずた袋のようにぐったりとしていた。
 全員の呼吸が落ち着いてくると、往年のガキ大将のような外見をした子供が小さく笑い始めた。
「あは、はは。やっぱりいたじゃねぇーか! 嗤う骸骨!!」
 嗤う骸骨、その言葉を聞いて全員が肩や身体全体を僅かに震わせて反応した。
「わ、笑い事じゃないよぅ」
 気弱そうな少女が震える身体を自分で抱きしめるようにして、視線を左右に走らせた。いまだ何かに追われているのではないか、と警戒するように。
「そうだよ……こんな危ないことにみんなを巻き込んで……」
 先ほど声を荒げた少年は精神的、肉体的疲労で精神が磨耗しきっているのか、消え入りそうな声で言う。
 確かにガキ大将が一番最初に「骸骨がでる」と噂されていた廃墟に行こうと皆に声をかけたが、皆嫌がる素振りを見せたものの、結局ついて来たではないか。嫌よ嫌よも好きの内、怖いもの見たさ。そういった感情が心にあったのだろう。
 そういった考えが過ぎり、ガキ大将は僅かに眉をひそめる。
「んなこといったってよぉ。おめぇらだって……」
「まって!」
 剣呑な雰囲気で語りだしたガキ大将の言葉を、少女がさえぎった。
 その場にいる全員の視線が、少女に集まる。
「ねぇ……? マコが居ないよ?」
 少女の言葉を聞いて、皆がいっせいに顔を見合わせお互いの存在を確認しあう。だが、名前が挙がった少女の姿はどこにも無い。
 存在すべき者の不在に気がつき、子供達の顔面が蒼白していった。

●少女は一人、救助を願い。
 朽ち掛けた木造の柱の影に、小さな体躯を丸めて、さらに小さくなっている少女の姿があった。
 時折聞こえる物音に身体を震わせて、息を荒くしている。
 逃げ行く子供たちからはぐれてしまい、一人廃墟に取り残されてしまったマコだ。
「やだよぉ……こわいよぉ……」
 嗚咽交じりの声で、マコは呟く。

『ケタケタケタケタカラカラカラカラ』

 薄気味悪い笑い声をマコは思い出してしまう。
 うっすらと汚れた白に染まった枯れ木のような身体をかしゃり、かしゃりと音を立てて動くその姿。折れてしまいそうな細手には断頭するにちょうどいい大きさの鉈が握られていた。眼球があるべき場所には闇が渦巻いていて、底なしの孔が開いていた。
 ああ、考えるだけで。思い出すだけで。気が触れてしまいそうになる。
 考えるのやめようと強く念じても、まぶたの裏に焼きついた恐怖の姿は消えず、何度も想起してしまう。
 はやくはやく誰か助けに――。悲痛の叫びを心の中であげたときだった。
 不意に、音がした。
 かしゃり、かしゃり、と。
「――ッ?!」
 マコの心臓が、本当に一瞬だけ鼓動をやめた。
 思い出したように心臓は脈打ち始め、爆発しそうな勢いで血流を体中に送り始める。
 嫌な汗が体中から噴出し、マコが着ていた衣服はぐっしょりと濡れ始める。
『ケタ……カラ……』
 サイコロが転がりまわるような音を立てながら、異形の足音は遠くなっていく。
 完全に足音が聞こえなくなると、少女は声が漏れてしまいそうになるのを必死に抑え、顔をくしゃくしゃにして涙を流し始める。
(だれか、だれかたすけてよぉ……)
 少女の心の叫びは、誰かの耳に届くはずも無く、虚空に飲まれて消えていくのだった。

●急げ、急げ、さもなくば。
 久遠ヶ原学園のマンション寮のロビーにて、斡旋所の女性職員と数人の生徒が集まっていた。
「夜に御免なさい」
 生徒が通う一般寮にて、斡旋所の女性職員が手当たりしだいに呼んだようだ。寝ていたところを叩き起こされたのか、可愛らしい寝巻き姿の者、髪の毛が寝癖で跳ねている者も居る。
「骸骨型のディアボロが数匹、発生した」
 淡々と、しかしどこか重々しい口調で女性教員は告げる。
 たかがディアブロ。そういった雰囲気を生徒が発していたのを感じたのか、女性職員は顔をしかめた。
「子供が一人、ディアボロが発生した廃墟に取り残されている」
 その言葉を耳にした瞬間、生徒たちの表情から油断が消えた。先ほどまでに無い、張り詰めた緊張感がその場を支配する。
「依頼が入ったのはついさっき。依頼主は行方がわからない子供の友達からだ。夕方に逸れたとのことだ」
「……時間ないっすね」
 寝癖だらけの髪をわしゃわしゃと掻く男性生徒の言葉に女性職員は頷いた。
「事は急を要する。手早く準備し、救助及び撃退すること。あなたたちの素早い行動に期待しているわ」
 生徒たちは撃退士らしい力強い面持ちで頷き、素早く散っていった。

●解説
 依頼主:マコの友人の子供たち。
 成功条件;マコの救出及び骸骨型ディアボロを全て撃退。

 敵は骸骨型のディアボロです。殺傷力は低く、体力も低いですが今回は5体です。
 彼らは弱いものを優先して攻撃しようとしてきますが、危害が加えられた場合はその限りではありません。攻撃を与えた場合、攻撃を与えたものに反撃しようと試みてきます。
 攻撃方法はその細身からは考えられないほどの怪力が加わった鉈による攻撃と、極まれに耳を劈くような笑い声を上げ、撃退士に『騒音』のバッドステータス付与を試みてきます。複数の骸骨達がいっせいに笑い声を上げた場合、重度の騒音(マイナス補正UP)が付与されてしまいます。
 彼らの出現する場所はライフラインの建たれている廃墟です。そして時間帯は夜です。当然のように明かりはありません。何らかの対策をしなければ、命中や回避に−補正が入ります。
 次に、マコは廃墟内のどこかに身を隠しています。早急に救助してあげてください。おそらく、撃退士であるあなたたちを見たらすぐに助けを求め、でてくる事でしょう。ですが、そこをディアブロたちが狙わないはずがないのです。用心してください。もし恐怖の対象である骸骨と遭遇してしまった場合、発狂して暴れまわったり、敵の注意を引くような大声を上げたりする可能性があります。。
 少女を速やかに救助し、ディアボロをすべて撃退してください。


リプレイ本文

●迅速に進む作戦会議

 寝静まった夜の住宅街を六人の人影が走り抜けていく。  
 その中の一人、久遠ヶ原学園指定制服をきっちりと着こなした黒井 明斗(jb0525)が口を開いた。
「皆さん、速度を落とさずに聞いてください」
 紫色の短い髪を風に靡かせ、生物的な動きを見せる二本の触覚を頭に生やしたパルプンティ(jb2761)も言葉を続けた。
「廃墟の情報を手に入れましたよーっ」
 二人は最低限の情報を得ようと、女性職員に様々な情報を聞いていたのだ。
「マコちゃんは淡色のワンピースを着ているらしいです。それと子供達が彼女を最後に見た場所なんですけど、とても大きな大黒柱があったそうですよ」
 黒井の言葉を聞いて春日 遙(jb8917)は程よく整った端正な顎に手を添えた。
「大黒柱……そこに隠れているのかな?」
 後藤知也(jb6379)も同意するように頷く。
「おそらくそうだろう。恐怖で動けなくなっている可能性もあるだろうしな」
「建物の大まかな構造も聞いてきました! ぼろっちくて狭い平屋らしいです。ただあまりに古すぎるとのことで内部地図は手に入りませんでした……」
 申し訳なさそうにパルプンティが二本の触覚を力なくうな垂れさせる。
 その様子を見て姫路 恵(jb8918)は優しく微笑んだ。
「上等ですよ。お二人ともありがとうございます。無闇矢鱈に廃墟を探し回るのは危険です。敵を見つけたら陽動組と救助組に分かれましょう。中は狭いようですし、そのほうが効率的ではないでしょうか?」
 姫路の提案に雅楽 灰鈴(jb2185)は頷いて返す。
「そやね。俺はみえるさかい、骨っこの相手は任せとき」
「私も頑張るですよーっ!」
 快活に言ってみせるものの、パルプンティは肩を僅かに震わせているように見える。
 後藤はパルプンティの様子を見て、苦笑いを浮かべた。
「俺も援護にまわろう。パルプンティ……震えているが大丈夫か?」
「骸骨が暗がりからぬっと出てきたら、ショック死しちゃいそうなくらい大丈夫です」
「あかんやん。それ」
 張り詰めた空気が一瞬だけ和やかになる中、春日はいつになく強い面持ちで居た。
「僕は救助を優先させます……必ず助け出してあげなくちゃ」
「そうですね。必ず助けだしましょう」
 静かな決意に黒井も頷いて同意する。
「私も救助に回ります。今もマコちゃんは恐怖に怯えているはずです……迅速に向かいましょう」
「ん。あれやないんか?」
 雅楽は遠くに見える廃れた平屋を指差した。

●震える少女に救いの手を

 無造作に開かれた観音開きの扉を前にして、どこまでも続く闇を黒井は睨みつけながら見渡していた。
 アウルを集中させ、廃墟内にいる生命を探知しているようだ。
「……四体、生命の確認ができました。三体が入り口付近を周回しています。奥にもう一体。まったく動かないですね」
 報告を受け、春日が口を開く。
「最後の生命反応がマコちゃんかな?」
「おそらく。ですが敵の可能性も十分にあります。用心して向かいましょう」
 後藤は札を取り出して、戦闘態勢に入った。
「作戦通り、敵を発見したな。誘導を開始する」
「後藤先輩みえへんやろ。明かり必要になったら貸すで」
「一応ペンライトがあるが心持たないな。そのときは頼む」
「さぁー! 頑張るですよー!」
 誘導組の三人が先導し、撃退士たちは建物に侵入した。
 暗闇でも視界を確保できる特殊ゴーグルを付けたパルプンティと雅楽はそれぞれ一体ずつ、巨大な鉈を細腕で持つ骸骨の姿を捉えた。
「骨っこめーっけ♪ ほんだ行こか?」
 嗤い声から耳を防ぐため、雅楽はイヤホンをつけ、猫を髣髴とさせる黒い影を体に纏わせた。雅楽が両手を広げると空間から無数の剣が現出し始め、目標の骸骨を切り刻まんと弾丸のような勢いで射出されていく。
 反応に遅れた骸骨は抵抗する間も無く、全ての剣による攻撃を受けてしまう。
 雅楽が攻撃を開始したのと同時にパルプンティも攻撃を仕掛けていた。
 身の丈を優に超える妖しげな大鎌を巧みに操り、骸骨を切り伏せる。
 骸骨は態勢を崩すが、すぐに立ち上がり、不気味に顎をカタカタと動かした。
「こ、怖くないですよ……!」
 触覚をかすかに丸めさせて、パルプンティは柄を強く握り締めた。
 ペンライトによるか細い光を頼りに、後藤も骸骨に攻撃を開始する。取り出した霊符から色鮮やかな桜の花びらが吹き乱れ、白い骸骨を彩るように命中していく。
 骸骨達の注意が誘導組に向かったのを確認すると救助組の三人は敵に気づかれないように用心しながら、乱戦が発生している区間を駆け抜けていく。
 黒井がペンライトを下に照らし、最低限の明かりを確保する。二人に先導してもらう形で春日も先に進んだ。
 戦闘音が遠ざかりはじめると、巨大な柱が3人の目の前に現れた。
 三人はお互いの顔を見合わせ、情報にあった大黒柱であることを確認する。
 黒井は再度、瞳にアウルを集中させて生命の存在を確かめる。
 大黒柱の裏側にじっと動かない反応を確認し、黒井は二人に頷いて見せた。
 意図を察した二人は足音を殺し、これまで以上に慎重な動きで柱の裏を覗き込んだ。
 渦巻く暗闇に何がいるかは分からないが、三人は確かにか細い息遣いを耳にした。
 刺激を与えないように、ゆっくりとした動作で姫路はペンライトを上げていく。
 明かりが照らされた先には淡色のワンピースを着た少女が耳を両手で塞ぎ、羊水で眠る胎児のように蹲っていた。
「君が……マコちゃんかな?」
 春日の優しい呼びかけに少女は僅かに体を震わせて反応する。おそるおそるといった様子でマコは頭を上げ、三人の撃退士の姿を視認した。
「あ、あ……」
 いくらか喉をひくつかせるマコの瞳は見る見る内に潤んでいき、大粒の涙が端からこぼれ始めた。
 幼い少女は計り知れぬ恐怖の中、必死に声をあげることを堪えていた。抑え付けていた感情が、少女の中で爆発的に膨れ上がる。
 号泣の予兆を察し、姫路が素早い動きでマコに近づき、口に優しく手を当てた。
 人差し指を自身の唇に当て、笑みを浮かべて見せる。
「静かに。もう少しの辛抱だから……ね?」
「よく頑張ったね。もう大丈夫、家に帰れるよ。安心して」
 柔らかな頬を伝う涙を黒井は優しく拭った。
「……マコちゃん。もう少しだけ目を瞑っててね」
 見るものを落ち着かせる優しい微笑みを春日は浮かべて、小さなマコの頭を撫でた。
「すぐに終わらせるから」
 力強く言葉をかけると、春日は前方の闇を強く睨んだ。
 ペンライトが照らす明るみに、緩徐な動きで薄汚れた白色が侵食してきた。
 かしゃり、かしゃりと不快な音を立てて、凶悪な鉈を見せつけるようにして気味の悪い骸骨が二体、現れた。
「この子は……傷付けさせないよ?」
 淡い光を身に纏い、春日は毅然たる態度で言い放った。

●不気味に嗤う、嗤う。

 救助班がマコを発見したのとほぼ同時刻――、陽動組は入り口付近を徘徊していた三体の骸骨の注意を引くことに成功し、交戦を繰り広げていた。
「脆そないに見えるねんけど硬いなぁ!」
 雅楽の攻撃をその身で防いだ骸骨はがむしゃらな動きで鉈を振り回す。放たれた一撃は雅楽の右肩を掠めて地面に振り下ろされた。
「いっつっ……」
 右肩が熱くなるのを感じ、苦悶の声を漏らしながらも態勢をすぐさま立て直し、拳を握り締めてアウルを集中させる。
「喰らえや」
 言うや否や、雅楽はボールを投げる要領で腕を振りぬいた。小さな符が骸骨にめがけて飛んでいき、華奢な胸部に触れた瞬間――小さな火花を発生させた。遅れて炸裂音が鳴り響き、硝煙の香りと共に黒煙が上がる。
 胸骨を砕かれた骸骨は首をかくん、と一回だけ動かして、枯れ枝が風に倒されるようにして地面にくずおれた。
「あと四体やな」
 撃破に成功した雅楽を見て、パルプンティは触覚をぴょこぴょこと動かした。
「私も負けていられませんね!」
 骸骨の鉈がパルプンティの細首を跳ね飛ばそうと横一線に振るわれるが、パルプンティは器用に柄で受け流す。そして流れるような動きで反撃に移り、大鎌を横一線に振るった。
 攻撃を受け流された骸骨に避ける暇などあるはずもなく、大鎌の一撃を諸に受けてしまう。
「くびちょんぱっ!」
 骸骨の首を捕らえたパルプンティの大鎌は、白く淀んだ骸骨の頚椎を寸断した。残された胴体は再び攻撃に転じようと腕を振り上げて、膝から崩れ落ちた。その身に何が起きたのか考えるように数秒静止したのち、その身体は音を立てて瓦解した。
 半円を描く骸骨の頭部が落下して砕けたのにすこし遅れて、救助班が戦闘を開始した。
 黒井を中心にして、円を描くように光が展開されていく。漆黒の闇が払われ、辺りは清浄な光に包まれていった。
「こんな小さな女の子を襲うだなんて、絶対に許しません。覚悟しなさい!」
 整った眉を顰めさせ、黒井は怒りを顕にして二体の骸骨を睨みつける。
「黒井さん、春日さん。戦闘は任せました。私はこの子を安全な場所へと退避させます」
 姫路の提案に春日は耳栓を詰め込みながら答えた。
「お願いするよ姫路ちゃん。もしこいつらの嗤い声をまた聞いてしまったら、マコちゃんの精神が持たないかもしれないからね」
「わかりました。すぐに戻ってきます。どうかお気をつけて」
 目をぎゅっと瞑るマコを抱え、姫路は出口へと素早く駆けて行った。
 骸骨の一体が首をゆっくりと動かし、姫路へと視線を送るが目の前に現れた後藤によって視界は遮られる。陽動組は三体目の骸骨の討伐にも成功したようだ。
「お前の相手はそっちじゃない」
 突如現れた後藤に気をとられた骸骨は、接近する春日に気がつくことができず、杖による強烈な打突を受けてしまう。
 かしゃり、かしゃりと数歩後ずさりをした骸骨の口が音を立てて開いた。
 同じようにもう一体の骸骨も口を開けたかと思えば、二体の骸骨は一斉に顎の骨格を震わせ始めた。
『ケタケタケタケタカタカタカタカタ』
 サイコロが転がり回るようなチープで不愉快な音が建物全体に響き渡った。
 耳に入り込んだ嗤い声は頭蓋にまで到達し、頭の中で跳ね回るボールのように反響して、猛烈な不快感を覚えてしまう。
 事前にイヤホンと耳栓をしていた雅楽と春日の二人も例外ではなく、思わず動きを止めてしまう。
「うぐっ……」
 苦しむ撃退士達の姿を見た骸骨は愉快そうにかたかたと笑い、一体は攻撃を仕掛けた春日に、もう一体は光を放つ黒井に目掛けて突進した。
 回避を試みようとする春日と黒井だが脳内で響きまわる嗤い声のせいで反応が遅れてしまい、骸骨達の振る凶撃をその身に喰らってしまう。
「くっ……! いま、回復します!」
 痛みを堪えながらも黒井は味方のアウルの動きを補助し、自己回復能力を促させる。
「あーまだくわんくわんしますー……」
 触覚がめちゃくちゃな動きをしているパルプンティは多少のめまいを覚えながらも、骸骨に向かって大鎌を振り下ろした。
 騒音で苦しんでいるとは思えない威力で、大鎌は骸骨の体を肩から腰にかけて斜めに両断した。
 最後に残った一体は再び口を動かそうとするが、飛び込んだ雅楽が斬撃を浴びせてその動きを止めさせる。
「喧しいわ! 黙っとれ!」
 続けて放たれる後藤の援護射撃に堪らず骸骨は態勢を崩してしまう。好機と見た黒井は間合いを詰め、槍による刺突を放った。
「これで……おしまいです!」
 七曲している矛先は骸骨の腰骨を砕き折って貫通した。
 かしゃり、と最期に寂しげな音を立てて骸骨の身体は崩れ去った。

●朗らかに笑う、笑う。

 月明かりに照らされる外に出た姫路は抱えていたマコを降ろした。
「ここなら安全だから。お姉さん、すぐに戻ってくるからね」
「大丈夫ですよ。もう終わりました」
 姫路が後ろを振り向くと、耳に手を当てたり、頭を押えながら廃墟から出てくる撃退士の姿が映った。
「ほんま、うざかったわ。なんやあの声。まだ耳に残っとるような気ぃする」
「強さ的には対したこと無かったんですけどー……」
「最後のあれが強烈だったな……」
 額に手を当てて後藤はため息をついた。
「もう倒されたのですか……?」
 速い撃退士の帰還に驚く姫路に、春日は苦笑いを浮かべる。
「うん。ただ、あの嗤い声を5体いる内に使われていたとしたら……こううまくいかなかったかもね」
 嗤い声――その言葉を聞いたマコが不安そうに口を開く。心なしか小さな身体がまだ震えているようだ。
「まだ……お化けいるの……?」
 怯える少女に黒井は優しく微笑んだ。
「もういないよ。僕たちが全部倒したからね。だからもう大丈夫」
 もう大丈夫、先ほどもかけられた言葉だが骸骨が全て倒され、頼もしい撃退士に救助された今、これほどマコを安堵させる言葉は無いだろう。
 泣き出すことも許されなかったマコは目の前にいる姫路に思わず抱きつき、声を上げて泣き始める。
「こわかったよぉ! こわかったよぉ……!」
「勇気を試すなら、もっと優しいところにしておけばよかったわね」
 姫路はマコの頭を優しく撫でる。
 それでも泣き止まないマコに春日が近づいて、腰を下ろして目線を合わせる。
「もう怖くないよ。泣かないで、折角助かったんだから笑った方がいいよ」
 春日が浮かべる柔和な微笑みはマコの中に渦巻いていた恐怖を振り払った。
「ひぐっ……えぐっ……。うん……うん。ありがとう。お兄ちゃん達、本当にありがとう……」
 泣き止み始めたマコを見て、雅楽は穏やかな口調でその行動を窘めた。
「もう危ない事すんなよ? 嫌やった嫌やて言えや」
「……うん。もう二度とこんなことしない……。ごめんなさい……」
「いいのよ。やんちゃしちゃう時期だってあるんだから。ただ、もうこういうとこには来ちゃ駄目よ。妖怪はいつだって、脅すだけの存在なのよ」
「うん……」
 自分の行動を反省し、流れる涙を拭いながらマコは俯く。
 後藤はその小さな頭に軽く手を乗せた。
「本当に良く頑張ったな」
 暖かく大きな手のひらはマコの気持ちを和らげ、安堵させた。
 少女に言葉をかける一同を見てパルプンティも何か言おうと歩を進めた瞬間、戦闘が終わり気が抜けたせいなのか、今まで落ちそうになっていたのがとうとうおちたのか、原因は一切不明だが着慣れていないショーツがずるりと脱げ落ちた。それに思いっきり足をとられてパルプンティは地面に突っ伏してしまう。
「うぎゃっ!」
 全員の視線がパルプンティに集まり、一瞬だけ静寂が訪れる。
 誰と言わずに小さな笑い声が上がった。すると笑いは連鎖して広がり、マコも、撃退士達も心地よい笑みを浮かべた。
 パルプンティは愉快に笑うみんなを見渡して、最初どんな反応をしたらいいのか戸惑ったが、気がつけば自分も笑顔になっていた。
 廃墟に広がった薄気味悪い嗤い声に負けず劣らず、痛快で明るい笑い声が静寂を切り裂いて広がっていった。

 了


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
符術士・
雅楽 灰鈴(jb2185)

高等部3年2組 女 陰陽師
不思議な撃退士・
パルプンティ(jb2761)

大学部3年275組 女 ナイトウォーカー
魂に喰らいつく・
後藤知也(jb6379)

大学部8年207組 男 アストラルヴァンガード
音は心、心は魂・
春日 遙(jb8917)

大学部5年197組 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
姫路 恵(jb8918)

大学部2年252組 女 鬼道忍軍