とある夏の日の行楽地。ビーチにはたくさんの人出で、いや海から押し寄せるたくさんのヒトデで、賑わいではなくパニックが起こっていた。
目に鮮やかな黄色の軟体が星の形に広がり真っ青な海面を覆いつくし、一列5体5列編成で砂浜を目指しながら刻一刻と迫ってくる。
目的は人体。水着を着用した人間の捕獲、である。
「な、何ですか、あのヒトデの集団は!?」
目の前の光景に驚愕するソフィア 白百合(
ja0379)は、青地に白の水玉のビキニ姿でビーチの砂を踏んだ。
所謂紐パンの両脇は蝶々結びでちょっと危ない感じも匂わせつつ、バストを包む白が良いアクセントになっている。
自分たち以上に何が起きているのか分からないで海にいる一般人には
「早く海から上がってくださーい」
そしてビーチでこれから海に向かおうとする人々に強く制止を促しながら、ソフィアは砂上を駆けまわる。
今作戦メンバーの一人である礎 定俊(
ja1684)もまた、海パン一丁で砂上をダッシュしながら周囲の人々に避難を呼びかけていた。
彼の水着は動きやすさを重視したタイプのハーフパンツで、露出した肌は日焼けこそ少ないものの、入学前に野山を駆け回っていた山男の雰囲気はしっかりと身体に宿っている。
この姿では防御面にやや不安が残るが、致し方なし。迫りくるヒトデの脅威から人々を守らなければ。定俊はそんなことを考えながら、避難の誘導を続ける。
「まったく、無粋なディアボロだね。こんなのに海を台無しにされないようにしないと」
一方の高峰 彩香(
ja5000)はヒトデが迫る波打ち際を目指して、一直線に足元の砂を蹴った。
彼女も健康的な肌に際立つ赤のショルダーツーピースの水着を身に着けながらの参加、である。
水着が敵を引き付けるのに効果的であると分かっているなら、それを利用しない手はない。彩香は手の中に具現化させた魔具、忍苦無の柄を握る。
「折角のビーチなのに邪魔者がいるのは残念ね。退治しないと」
彩香の横に並ぶようにして簾 筱慧(
ja8654)が、海は波打ち際を目指して走る。
学園指定の水着でスイカと比べられるほどに膨らんだ豊満なバストを包み、それが足が砂地を踏むたびにゆさゆさと揺れるわけだが
「仕方ないよね、戦闘だしビーチだし」
と彼女もまた己の武器である飛燕翔扇を手の中に具現化させる。
とにかく自分たちが率先して敵の標的にならなければ、奴らが避難民たちの方に流れてしまっては事なので。
「水着を着てる人にしか興味がない、ねぇ?」
彼女たちの後ろで麻生 遊夜(
ja1838)が阻霊符を発動させ、ふむと考え込む。
「(まぁ天魔にも色んな奴がいるのは分かってることだし、今更だな。うん)」と一人納得し
「要するに水着でなければいい、と」
逃げ惑う人々に己が下に水着を着こんでいるのを見せ、こんな風にして肌を隠すようにと分かりやすく説明も加えながら、遊夜は周囲に避難を促していく。
その途中でにゃも子の姿を発見し「と言うわけでよろしゅうにさ、にゃもこさん」と今と同じことを彼女にも伝える。
「水着を着ている人をおそうディアボロ…え、えっち! えっち! そんなへんたい天魔、ころしてやるっ!」
海に浮かぶヒトデ群に向かって、エルレーン・バルハザード(
ja0889)。彼女もまた遊夜と同じく、忍び装束の下に水着を着こんでの参加である。
本音を言えば水着姿なんてぜったい人目に晒したくないところなのだが、これも作戦の内です。
仕方がないのでどこに何をとは言わないけれど、ちゃんと仕込んでいます。極厚のアレ、を。
まだ事態を把握してない風に佇む人々に向かって「バスタオルで肌を隠して早く逃げて」と危機が迫っていることを知らせる。
「なんか‥‥流されて着てしまった感があるんだけど」
水着を着用した己の姿を客観視しながら、夕凪 美冬(
ja0357)は呟いた。
自分の担当は後方支援が主だとは言え、そして一般人に被害が及ばないようにするための対抗策とは言え、何か別の手段があったのではないかという感は拭えない。
拭えないのだけれども。仕方がない。この期に及んで海に向かおうとする野次馬たちを呼び止め、何か羽織ってすぐに逃げるように、と語気を強める。
だがとにかく人の数が多すぎた。「早く逃げるんだにゃもー!!」とにゃも子も頑張ってはいるが、情報はうまく伝達されていないように思える。
事実、逃げる者がいれば逆に向かってくる者ありと、現場のパニックは一向に収まりが付く気配がない。
その時ガー、ピーッと耳の奥に障る妙に甲高い音が、その混乱の中を突き抜けた。
『天魔警報が発令されました。指示に従い海から離れましょう』
鴉乃宮 歌音(
ja0427)である。一見彼女、と言い間違えそうになる中性的な顔立ちの彼が、拡声器を片手に人だかりに向けて声を発した。
『ナンパなヒトデは貴女の身体が目当てです。上着やタオル等をお持ちの方は肌の露出を避けて下さい』
砂上を駆け回りながら同じセリフを定期的に繰り返し、効果的に警戒を促して回って行く。白パーカーを身に着けた彼は、ふと拡声器から口を離すと
「大いに賑わっているようで」
キャーとかワーとか。うん、元気な悲鳴だ。まだ被害が出ていない今のうちにちゃっちゃと片付けよう、と再び拡声器を口元に、彼は走り出す。その時
『これより久遠ヶ原学園生徒による対策が行われます。避難された方は応援御支援宜しくお願いします』
さりげない宣伝も忘れない。
●
敵の第一陣は、もう目の前まで迫ってきていた。
筱慧が放った飛燕翔扇が海面すれすれのところを舞い、その中央に位置していたヒトデに一発イイのを食らわせて戻ってくる。
続けざまに波打ち際で軽く飛んで見せた彩香が忍苦無の一撃をやや上方から敵に浴びせると、それまで躍動していたヒトデは急に力なく海の底へと沈んでいく。
奴さん、体力はさほどではないらしい。だがとにかく数が多い上に、波の不規則な動きが邪魔をしてどうにも的が絞り辛い。
二人が標的とする中央より左に狙いを定め加勢に加わった美冬も、アサルトライフルによる援護射撃を開始するがやはり苦戦しているようだ。
その横で遊夜が「落ち着いていこう」と銃口を敵に向け、ロングレンジで黄色の軟体に風穴を開ける。
とにかく接敵までに出来うる限りその数を減らしておくことが肝要だ。
定俊は波打ち際に付いたところで魔法書を掲げると、敵に向けて影の槍を次々に撃ち出して行く。
串刺しになったヒトデが海の底に沈んだところで、射撃による水飛沫が作り出した白い靄の奥から、第二陣のヒトデ群が姿を現す。
遁甲で気配断ちをしていたエルレーンがそこに切り込み腐女子蹴りを放つと、それをまともに食らったヒトデがすぽーんと気持ち良く空中に吹っ飛んでいった。
だがまわりの敵は彼女に目もくれず、依然波打ち際を目指しゆらゆらと進軍してくる。やはり露出度が高い者が優先されるようだ。
ソフィアは武器を握りながらも恥ずかしさを堪えて水着を着てきた甲斐があった、と
「どうにもインベーダーゲームだね、これは」
歌音が波打ち際を横に移動しながら、右端から順に第二陣のヒトデを仕留めて行く。
●
女性の悲鳴が上がる。海からだ。
第三陣の右端にいたヒトデが列を離れ、その女性を目指して海面を移動しているのが確認できる。
エルレーンが水着姿を晒して気を引けないかと忍装束に手をかけるが、敵を目の前にしてのそれは危険過ぎると彼女に制止を促し歌音が海に飛び込む。
その光景を目にしては、神経も過敏になるというものだ。
背後からは依然砂上を駆け回る人々の足音と、悲鳴にも似た声が聞こえてくる。
だが必要なこととは言えちらちらと後ろを気にしながらでは、到底戦闘に集中できない。美冬の引き金を握る指が自然と緩む。
弾幕の薄れたところを狙ったようにして、ヒトデ群がもう目の前まで迫ってきていた。
冷刀マグロオオマサンを片手にヒトデをすり潰しにかかっていた定俊が、敵に囲まれたかと思えばあれよと言う間に張り付かれてしまう。
「変態なヒトデに取りつかれるのはお断りだよ」
彩香もまた定俊と同様にヒトデに張り付かれそうになったところで、間一髪迎撃に成功する。
続けざま定俊の傍で蠢くヒトデを彼女はアウルを込めた足蹴りでもってすっ飛ばすと、次なる敵に標準を合わせる。
「もっとマシな剣を用意するべきだったよっ」
後ろに追い込まれながらも美冬はナイフを取り出すと、その切っ先を敵の軟体に深々と突き立てた。
そんな彼女に襲いかからんと今しがた上陸を果たしたヒトデが、四肢ならぬ五肢をうにょんと伸ばして飛び上がる。
「大サービスだ、吹っ飛びな!」
その腹に遊夜が放ったシルバーマグの強装弾が見事命中し、ヒトデは空中で破裂した。
肉片を派手に散らす様を満足そうに、遊夜もまた次なる標的へと銃口を向け引き金に指をかける。
左、右、中央とまるで舞踏を楽しむかのような動きで、鮮やかに敵を粉砕していく。
「大丈夫です! どうか落ち着いて行動してください!」
ビーチにわらわらと湧いて出たヒトデに危機感を募らせ悲鳴を上げる人々に向かって、ソフィアが一瞬攻撃の手を緩める。
その隙に付け入り宙を飛んだヒトデが彼女の肩にべったりと張り付き、後から迫ってきたヒトデが脇を抜けて一般人のいる方へと向かって直進して行く。
「させませんっ!」
肩にヒトデを張り付かせたままにソフィアは砂を蹴ると、そのヒトデの腹にスタンエッジを叩き込む。衝撃で砂に沈み込んだそれは、すぐにびくりとも動かなくなった。
一方その頃、海では歌音が逃げ遅れた女性の身体を後ろから抱きかかえながら、ヒトデとの距離を保ちつつ岸辺を目指していた。
「流れた水着はあとで探してあげるよ」
そうして岸辺に戻ったところで女性に前を隠すようにと脱いだパーカーを手渡すと、メンズビキニの水着姿を晒した歌音は前線目がけて颯爽とビーチを駆けていく。
女物じゃないから期待した男諸君はごめんなさい、と心中そんなことを思いながら幻視を展開させると、ソフィアが引き離しに成功したヒトデに瞬時に標準を合わせ、歌音は引き金に指をかけた。
「数がおおけりゃいいってもんじゃ、ないんだからねッ!」
浅瀬にてエルレーンが迫りくる敵に光刃を斬り込ませ、その身体を真っ二つに裂いた。
しつこく定俊を取り巻くヒトデ群を雷遁・腐女子蹴で打尽し、波打ち際まで戻ったところで忍装束を脱ぎ捨てる。
「残念だけど、これ以上先にはいかせないから」
第四陣、そして最後列のヒトデ群に向かって筱慧の扇が海面を舞う。トドメは仲間に任せての連携を重視したその攻撃は、各個撃破を効率的なものにした。
一時乱れたかに思われた戦局は、見る間に終息へと向かって行く。
そんな彼女は目の前の闘いに夢中で、自分の背後にいたエルレーンが嫉妬の炎をじりじりと燃やしていることなどには気づかない。
●
「助かったんだにゃも。あまり助けにならなくてごめんなさいだったんだにゃも」
避難民のガードに当たっていたにゃも子が、メンバーに頭を下げる。
そんなことないよ、とメンバーはにゃも子を、そしてお互いを労う言葉をかける。
彩香がいつもの賑わいを取り戻しつつあるビーチはその砂を蹴り
「どうせだからっ」
そう言って楽しそうに、海を目指して駆けて行く。
「そうね、折角来たんだから」
そんな筱慧の後に、他のメンバーも続く。
「行かないんだにゃも?」
「‥私、当分海はいいわ」
ちょっと青い顔をした美冬が、げんなりとした様子でそう答えた。
「うぐぐ‥っ」
その傍では同じくビーチに残ったエルレーンがそそくさと忍装束を身に纏いながらに美冬の胸が意外と大きいという事実を発見し、やはり一人胸の内で嫉妬の炎を燃やすのであった。
(代筆: 月路 麻人)