「恋人や妹と一夏のメモリアル……なんて僕の目が黒い内はさせるかぁ!」
ヒンメル・ヤディスロウ(
ja1041)は叫んだ。
「夏だ!!! 海だ!!! 遊ぶんだ!!!!」
清良 奈緒(
ja7916)も叫ぶ。だが、意味は解っていないらしい。
「リア充って何なのかわかんない! でもね! 牙2号がいるし、幸穂姉ちゃんもいるしみんなでロケット花火したい!」
「用意できましたですよぃ」
と氏家 鞘継(
ja9094)。
「こちら……も」
と華成 希沙良(
ja7204)。
「はて、私は身体を休めに来た……筈?」
大量の花火を持たされていた石田 神楽(
ja4485)は戸惑っていた。
何故か爆竹まで用意している雨宮 キラ(
ja7600)、そして木ノ宮 幸穂(
ja4004)はノリノリだ。
「行くぞ黒旗軍!」
●
「光様、ティーナ様! ちょっとよろしいですか?」
声を掛けられ振り向く中等部の御影光(jz0024)と高等部の辻村ティーナ(jz0044)。視線の先にいたのは逸宮 焔寿(
ja2900)である。
「ビーチに行かれる前にちょこっとの間、光様・ティーナ様と手を繋ぎたく思うのですが……いかがでしょう?」
「別にかまわんで?」
と辻村。
「ええ、私も‥‥構いませんが‥‥」
と光。
美少女三人は仲良く連れ立って、一旦荷物を置きにペンションへと向かう。
にっこにっこと満面の笑みの逸宮。
「焔寿、真ん中でご機嫌なのです☆」
ペンションに着き、三人は一旦分かれる事になった。逸宮はハンモックと白うさを持って昼寝に向かう。
ティーナもビーチでバーベキューの準備だ。
光は華やかな水着の女性も多い中、指定の水着を着込んで島へと踏み出した。
「おや、光殿。こんにちはだ」
そこに、今度は鬼無里 鴉鳥(
ja7179)が現れた。
顔見知りに声をかけられ、笑顔で挨拶する光。
「光殿がを目にしたのでな、折角なので此方に寄らせて貰った」
鴉鳥は光を見たままで、滝の方へ向かう結、マキナ真理亜たちのほうを示す。
「わざわざすみません。追いかけなくても大丈夫ですか?」
と、鴉鳥を気遣う光。
「光殿は?」
「ど、泥に……」
と光。
「ふむ……光殿は泥の方に興味がある様子か。良し、折角だ。一緒に行こう」
「美肌効果の泥ですか……光さんが興味があるのでしたら、私も」
ファティナ・V・アイゼンブルク(
ja0454)も光へ同行するようだ。
「御影さんも……つやつやの美肌に興味津々なの……」
光の顔見知りの根来 夕貴乃(
ja8456)も、やはり光に同行。
「根来さんも来ていらしたんですね。こんにちわ」
「泥……田んぼを思い出しちゃうけど……今回は温かいから気持ちよさそうなの」
そう言ってから、根来は光を見て。
「ないもの(胸)をねだるより……今ある肌を磨くの……」
その言葉は最近七歳児に打ちのめされた光の心にクリーンヒットした。
「根来さん!」
ガッシと根来の両腕を取る光。
「そうですよね……今、この肌を磨くことが大切ですよね」
やたら力説する光。
「……それじゃあ、のんびり浸かって、美肌になるの」
●
「いいなー……夏とか、ぼっちはそろそろアレだなぁ」
カップルを見て佐藤 七佳(
ja0030)はそう独り言を言った。
「若いからって無茶すると、歳取った時が酷いらしいですから……対策はきちんとしないと」
ともあれ、太陽が照りつけるビーチを散策するには準備が必要と、佐藤は木陰で日焼け止めクリームを塗り始めた。
「……ん、背中は日焼け止めのクリームが塗りにくいですね」
何気なくそう言って見たものの、誰も声をかけてこない……と思いきや。
「焔寿が塗って差し上げますね♪」
いきなり声をかけられ、びっくりする佐藤。そこに居たのは焔寿だった。
「ぼっちさんがいたので、お誘いしようかと」
ニッコリと笑う焔寿。
「ぼっちっていうなー!」
と叫びつつも、佐藤はありがたく申し出を受けるのだった。
「海海海海ーーー! すいか持ってくるから、すいか割しようよ!」
焔寿と佐藤は、浜辺で珠真 緑(
ja2428)と合流、ティーナも交えてスイカ割に興じていた。
「右、もっと右ですよ!」
と焔寿。
「行き過ぎや! 左!」
とティーナ。
「ちがーう! もっと真ん中!」
と珠真。
「全然わかりませんよー!」
目隠しされた佐藤が闇雲に棒を振り下ろすと、盛大に砂が舞い上がった。勿論すいかは無傷である。
それでも、四人が順番に挑戦している内に、ようやくスイカは割れた。砂浜に座ってスイカを食べる四人であった。
●
「深く深くどこまでも深く……」
右側のビーチにて、獅堂 遥(
ja0190)は一際深く潜っていた。他の生徒が集まっている場所を避けたので彼女に気付く者はいない。
――遥は、最初はただ自分の力の限界点を知りたかった。どこまで深く潜れるのか。まるで、海の底に自分の弱さを沈めるように。
――しかし、潜るにつれて変化する周囲の光景が遥を変える。
――黄泉の国に通じるのならそのまま私を捕らえて欲しい。この、弱い自分を。全て沈めて。この声が眩しい光に届かないのからこのまま連れ去られたい。この闇に溶けて逝きたい。
そんな想いが遥の中で強くなってゆく。
――よぎるは赤髪の王子と黒髪の少女の姿。泡となった人魚姫のように私も……消えたい。私などいなくても幸せだから。
しかし、やがて強靭な撃退士の肉体にも限界が来た。仕方なく、海面へと上がる遥。
その頃、御堂・玲獅(
ja0388)は一人ペンションの中で忙しく働いていた。ペンションの管理、という名目で自分たちが雇われたことを意識しているのか、備品などをチェック。
更にペンションの保存されていた食料などを利用して手早く軽食を用意する。
それが済むと、ようやく水着に着替え、用意していたクーラーボックスを抱えて島の見回りに出かける。
島中を見回る御堂だったがトラブルは発生していなかった。溺れている人も、熱中症になった人もいない。御堂は安心して海でも眺めようと人気の無い砂浜に向かった。
そして、丁度水から上がって来た遥と顔を合わせたのである。二人は暫く沈黙して顔を合わせた後――。
「随分と、深く潜られていたようですね。お疲れ様です」
と、スポーツドリンクを差し出す御堂。
「遥はそれを受け取った。
●
「川の水は、海とはまた違った気持ち良さがあるぜ?」
滝へ向かう四人の少女。その先頭に立っているのはテト・シュタイナー(
ja9202)だ。
「ゎ、そんなに急いだら躓きますよー?」
神代 真理亜(
ja8454)がテトに言う。そして、滝を見た瞬間――。
「何だか凄く澄み切って……清涼に感じます」
おもわず表情を綻ばせた真理亜もテトに続いて走り出す。
その様子を見たマキナ・ベルヴェルク(
ja0067)がクスリと笑った。
「あ〜……も、暑い……」
機嶋 結(
ja0725)も滝を見て
「これは……、暑さが一気に無くなりそうですね……」
結はそう言うと、早速運んできたクーラーBOXを用意し始めた。
「ん、冷たっ……もう、何するんですかっ」
滝つぼに踏み込んだにテトは、後を追おうとする真理亜にいきなり水をかけた。
思わず叫ぶ真理亜。
「油断するほうが悪いってな。ほら、反撃してこいよ?」
真理亜は早速水を掬って、テトの方へ飛ばす。水しぶきが水着や、素肌に弾かれキラキラと輝いた。
「私一人では、時間かかって。……お願いします」
その光景を眺めていた結が、マキナに向かって自らの義肢を指す。それは、自分も滝で泳ぎたいという意思表示。
「……いいんですか? 私で」
マキナは、結が義肢の交換を人目につかないよう行うこと、それが隙を見せたくないからだということを何となく察している。
「……ええ、お願いします」
僅かに、微笑んで結は繰り返す。マキナもそれ以上は、何も言わず、そっと結の義手に触れた。
水音がかすかに反響する。
浅瀬で遊んだ後、岸に座り足だけを河に晒していたマキナに、遠くから結が声をかける。
「……マキナさんも、どうですか。こんなに水が綺麗なのに泳がないなんて勿体無いですよ」
だが、マキナは苦笑した。
「泳がないと言うより、泳げないのですよ……。知って、いますよね?」
それは、深いところまで許しあったもの同士での間でのみ通じる僅かな茶目っ気だったのか。
「うーしっ、大分遊んだな! ランチにすっか! 腹が減っては以下略ってな」
テトの言葉に真理亜と結も頷く。
「はい、結さんもお茶をどうぞ……いかがです? お気に、召しませんか」
真理亜の用意してきたランチに一同が舌鼓を打つ中、結のみ箸が進まない、というよりは味付けの濃いものしか食べていないのを見て、真理亜が尋ねる。
「いいえ……どれも美味しいのですけど……」
「結さんは、舌が子供ですから……」
マキナはそう言って、さっきからかわれたお返しとばかりにクスリと笑う。結は一瞬マキナを睨んだが……やはりすぐ微笑を零した。
「好みは人それぞれですから、大丈夫ですよ。これはいかがですか?」
真理亜は結の好みそうな惣菜を取り分けるが、ふと、テトの方を見る。
「と、動かないで下さいね」
そう言って真理亜はテトの頬に着いていた米粒を丁寧に拭った。
「お、おお……悪いな。気が効くじゃねーか」
テトが珍しくちょっと照れたような表情を見せる。真理亜とテトがお互いにクスリと微笑んだ。
●
ペンションに荷物を置いた千葉 真一(
ja0070)は末広菜穂(jz0121)こと通称にゃも子を見つけ早速挨拶。
「宜しく頼むぜ。釣りも出来るって話だけど、良さそうな場所聞いてないか?」
「右側のビーチにお魚がいっぱい居るみたいなのにゃも」
そう言ってにゃも子はペンションから持ち出した釣竿を振ってみせる。
「そんな道具で大丈夫か? 一番良いヤツを頼む」
「? よく解らないけれど、じゃあこっちの釣竿にするにゃも」
そこに、にゃも子を見つけた海原 満月(
ja1372)もやって来る。
「さあ、どちらが魚介を多く取れるか勝負なのです、にゃもにゃも娘」
「負けないのにゃも!」
ビーチについた千葉は、用意をしながら言った。
「素潜りで魚獲りってのも面白そうだが……まず、小魚を生き餌にして獲物を狙うか……しかし、小魚はどこだ?」
菜穂と潜る準備をしていた満月だったが、これを聞くと一計を案じた。
「見つけました。小魚といっても5cm以上はあるですが……」
どうやら生命探知で小魚を見つけたらしい。
「おお、すごいな!」
千葉は満月に礼を言うと早速釣り糸を垂らす。
「……来た来た来た……フィーッシュ!」
「ボクたちは潜って蝦とか狙うですよ」
満月はそう言うと菜穂共に海中へ。深く潜ると満月は、星の輝きを使用した。
(綺麗にゃも〜!)
と目を見張る菜穂。
その周囲に魚が寄って来る。
(これで探しやすくなったです!)
二人は食材を集め始める。
「いっぱいとれたですね」
「いっぱいにゃも〜」
大量の海の幸をゲットした二人が海から上がる。
「わーっ、そっちもいっぱい採れてるねーっ」
その満月と菜穂に声をかけたのは艾原 小夜(
ja8944)だった。
艾原自身も採ったものをクーラーボックスに入れている最中だったが、二人の食材を見て頼む。
「ね、採った食材をスケッチさせてくれないかなっ? 二人がまたもぐっている間責任持って食材を見張ってるからっ」
艾原は手に持った水彩スケッチ帳と色鉛筆を示した。
●
光とファティナたちが連れ立って沼に着くとそこには先客がいた。年頃の女性にとって「美肌」というキーワードは抗い難い魅力を持っているのだろう。
「あ、一杯来たね。お肌にいいとなると、やっぱり興味あるよね。ついでに温泉気分でゆったりもできそうだし」
長時間でじっくり入ってしっかりと浸透させようと、温い泥に浸かっていたソフィア・ヴァレッティ(
ja1133)は光たちに挨拶して、水分補給用の飲み物を飲んだ。
「私は、ちょっと木陰で涼むよ。光さんたちも、のぼせないようにね」
ソフィアは泥から上がる。
「光さん。泥はただ浸かるより、塗った方がより効果があるとは思いませんか?」
「そういうものなのですか?」
きょとんとする光に、ファティナはニヤリと笑う。
「という訳で光さん、塗って差し上げますわね」
「きゃ!?」
いきなり、周囲の渓流に響く光の悲鳴。ファティナが泥をぺたりと光の素肌に押し付けたのだ。いや、それどころか、ファティナの手がイヤらしく蠢き、指定水着の隙間へと……
「ファ、ファティナさん……!?」
体をよじって逃れようとする光。
その様子を不機嫌なヴィーヴィル V アイゼンブルク(
ja1097)が叫ぶ!
「お姉さま! 光さんにえっちな事するぐらいなら、私にして下さい!」
「あ、ファティナさん……っ! そ、そこは……」
「ヴィー、光さんをしっかり抑えて!」
「……あ、く、くすぐったいですっ!」
「……は! どさくさに紛れてお姉さまと触れ合うチャンス!?」
自らも光に、というよりはファティナに絡んでいくヴィーヴィル。
「泥だぁーっ、遊ぶぜぇーっ! お? なーなー、なにやってんの?」
「お、おお〜なんかすっげえ……」
知り合いであるファティナたちについて来た七瀬 晃(
ja2627)はどさくさに紛れて眼福な光景を堪能した。
●
「皆でわいわいがやがやも悪くないけど、たまには独りで羽根伸ばっそかな」
荻乃 杏(
ja8936)は一人森の中を散策していた。
「イイ感じの滝を発見にょろり♪」
一方、戦部 小町(
ja8486)は森の中の誰もいない場所でゆっくり水浴びする。
「う〜ん、気持ち良いにょろ。マイナスイオンがタップリで居心地最高にょろ。ここなら……誰も来ないなら……もっとリラックスしても……」
開放感を満喫したくなった戦部は自身のお団子に纏めた頭髪を解き、更に水着を……だが、突然茂みの人影に気付いてしまった。
「だ、誰にょろ!?」
「ご、ごめんなさいっ。驚かせるつもりはなかったのだけれど……」
茂みから出て来た相手の姿を見て、小町は少しだけ安心。それは同姓……艾原だったからだ。しかし、その手にあるものを見て、再び小町は驚愕。
「ヌードデッサンにょろ!?」
「ち、違いますっ。書いていたのは森の動物や、風景ですっ」
艾原が見せたスケッチ帳の中身を見て、今度こそ小町は安心する。その時、川の上流の方から声が聞こえてきた。
「穴場だと思ったんだけど……意外に皆来てるんだね」
そこには、サンダルを脱ぎ、足だけを水に浸けて涼を楽しんでいた萩乃が苦笑していた。
●
女性専用と銘打たれた左のビーチは閑散としていたが、それだけにここを選んだ者は休暇を満喫していた。
「ちょっと小さかったかなー? 胸が苦しい……」
存分に、遠泳や水中散策を楽しんだ藍 星露(
ja5127)は、浜辺にシートを敷いてうつ伏せになり、日光浴を楽しみつつうつらうつらしている。
「……男性の目も無いことだし……」
と、水着のブラの紐を緩めようとする藍。
「覗きか!? 不届きな輩め……容赦なく叩き潰してくれよう!」
突然、叢雲 硯(
ja7735)の凛とした声。慌てて周囲を見回す藍。
「……何ての。本当に覗きがいればこのハルバードで叩き潰してくれるところだったのじゃが……」
そう言いながら、硯が藍の方にやって来た。
「ちょっと、そういう冗談はやめてよ?」
苦笑する藍。
「しかし、本当に誰もおらんの。……まあ、まったり過ごせるから良いのじゃが」
そして、藍がUVカットクリームを取り出すのを見た硯は。
「お互い日や潮に当たった肌をいたわりに、泥の方に行ってみぬか?」
「あら、じゃ女性同士ちょっと試してみる?」
笑顔になる藍。
「……これも一種の百合かのお」
ボソリと言う硯であった。
二人は連れ立って森へと向かう途中、右手のビーチを通りかかる。
「……俺は、アワビと伊勢えびに用がある! ただで食える機会を、逃して堪るか!」
ビーチから聞こえて来た気合いの入った叫びにそっちの方を見る藍と硯。取れたての鮑と伊勢エビを調理しに向かう月詠 神削(
ja5265)の姿があった。
「……覗き? リア充撲滅? 何それ、食えるの? そんなものやりたい奴で勝手にやってればいい。夏の海の正しい楽しみ方は、『食』だ!」
「……まあ、覗き騒ぎが起こらぬのもむべなるかな。みな色気より食い気かのう」
と硯。だが、藍は。
「……あ、ちょっと待……」
月詠に声をかけようとする藍。
「……ん? ――あっ」
しかし、月詠は藍に気付くと気まずそうに距離を取る
「あいつ……話したいんだけどな。ちゃんと」
小さく溜息をつく藍。
一方、立ち去った月詠の方も。
「……いずれはきちんと向かい合わなきゃ駄目なんだろうけどなぁ、あいつとも……」
(色々あるようじゃが、まあここはそっとしておくべきじゃろうな)
一人肩を竦める硯だった。
●
右側のビーチにある岩の屹立する岩礁では、一際大きな岩の上にさらしを巻いた少女が立っていた。御子柴 天花(
ja7025)である。じっと海を見つめながら御子柴がしたことは――。
全力で海に向かって悪口を叫ぶこと! 何事かと周囲が御子柴の方を見る。その多くの視線の前で御子柴は海にダイブ。そのままあわびと伊勢エビ探しに興じるのだった。
割と人の少ない、中央ビーチのひときわ大きな椰子の木の下では高虎 寧(
ja0416)が木陰に身体を投げ出して良い気分で昼寝に没頭している。
時々、楽しげに語らう男女の声が聞こえる気がするがそんなものは彼女にとっては心地よい子守唄にしか聞こえない。
「リア充発見! 攻撃!」
ついでに集団の騒ぐ声や、花火の爆発音も聞こえるが、やはり彼女の眠りにとっては何の邪魔にもならない。
気が付けば夕暮れも迫っている。
「……少し、火照ったわね」
海に入って体を冷やした高虎は、泥へと向かった。ファティナたちが集まっている所から少し離れた場所に暖かい泥を見つけ、ゆっくりまったりと心行くまで過ごす。星が輝き始める中をペンションへと帰り夕飯までの一時をうつらうつらと過ごすのだった。
●
「ふっ、まだまだだな知夏」
カルム・カーセス(
ja0429)は、自分の集めた食材と後輩の大谷 知夏(
ja0041)が集めた食材を見比べて勝ち誇る。
カルムと知夏の間で行われた食材調達勝負はどうやら僅差で大谷に軍配が上がったようだ。
「今回はカルムの勝みたいだね。あ、でも知夏は一杯イセエビ採ってるね。嬉しいぞ」
と天河アシュリ(
ja0397)。
「むー……あ! 先輩! あんな所に巨大タコが出現したっすよ!」
「こら、見え透いた嘘で気を逸らしてこっそり、獲物を移し替えようとするんじゃない!」
「ほら、二人ともそこまで! じゃあ、カルムにはご褒美だね!」
そう言うと、アシュリはスイカをカルムに贈呈。然る後、カルムをハグ。
「お。おう……」
しどろもどろのカルムに、知夏が早速突っ込む。
「先輩、一応他の人もいるんだから自重するっす!」
慌てて離れる二人。気を取り直したアシュリが調理を始めた。
「ふむ、どうやって調理するべきか……炭火熱い! よし、包丁でかち割ってみるか!……痛い!」
包丁で指を切ってしまうアシュリ。慌ててカルムがそこに駆け寄る。
「何やってんだ! ほらじっとしな、手当すっから」
優しく、アシュリを手当するカルム。やがて、何とか食べれる状態になった海の幸が食卓に並んだ。だが、アシュリは指の怪我のせいで食べる速度がぎこちない
「……食べさせて、欲しい……なぁ……」
と照れながらも彼氏にお願いするアシュリ。
「仕方がねえ。食べさせてやるから大人しくしてな……ほい、あーん」
「……あ〜ん……」
完全に二人の世界に入りかけた二人に知夏が叫んだ。
「イチャラヴ禁止っす!」
「ん? なんだ知夏もしてほしいのか? ほれ」
とカルムは苦笑すると知夏の口に食べ物を放り込んだ。
「なんかぞんざいっすよ!」
そう叫んでぽかぽかとカルムを殴る知夏。
「はは、痛い痛い……痛いっつってんだろ、このお転婆娘!」
お返しとばかり、知夏を拳でグリグリするカルム。
「手加減するっすよ!」
ようやく、知夏を解放したカルムは、ふと思い出し食材を探している時に見つけた綺麗な貝殻を取り出した。
「アシュリ、これ」
「あ、ありがとう……綺麗だね」
「だから、二人とも食べる時は食べる事に集中っすよ!」
またまた二人の世界に入りかけた、カルムとアシュリに、どんとテーブルを叩く千夏であった。
別の一角では天城 空牙(
ja5961)が、何故か炊飯器で米を炊いていた。どうやら、採った海鮮で寿司店を開こうという魂胆らしい。
傍らでは大崎優希(
ja3762)と天音 みらい(
ja6376)がバーベキューの準備をしている。
優希がてきぱきと並べていく食材は中々豪華だ。まずスズキやイシダイがまな板に置かれる。
「……思ったより採れました」
更にアワビやサザエ、イセエビも次々と調理台へ
「アワビ、サザエ、伊勢エビ、そこへなおれいいい」
そして天音が、米を炊くのを手伝っている間にエビやサザエが焼け始めた。
「うにゃー。美味しそうであるのことですよ! よ!」
と優希。
「さて、こんなもんで大丈夫かな」
空牙も魚の身を捌き終えていた。だが、その時どこからともなくロケット花火が飛んで来た!
「目標みーっけ。悪いけど八つ当たりになってもらおう」
攻撃したのは幸穂だ。ご丁寧にスキルまで使用した精密な攻撃にで空牙を狙う。爆竹の轟音が周囲に響いた。
「……恨みは……全く……ありません……」
希沙良もひたすら花火を発射。
「彼女さん来てないけど、それでも!」
雨宮も、空牙に彼女がいる事を理由に攻撃の手を緩めない。
「あいつら……っ!」
身を守りながら舌打ちする空牙。
「……ドンマイ」
と、空牙を慰める天音。だが、天音はこっそり黒旗軍の方に近づくと、自分もロケット花火を受け取って攻撃に参加した!
「弟よ、永遠なれ!」
その様子を見て優希は一人合掌した。
結局、空牙の準備した寿司店は無事だったこともあり、黒旗軍 1名は空牙からのデコピン一発ずつで済んだという。アウル込みだったが。
「きゃー! 紫影、こわ〜い!」
夕暮れの中央ビーチ。黄色い声を上げて、如月 紫影(
ja3192)に抱きついたのは小柏 奈々(
ja3277)。
黒旗軍は中央ビーチを二人で歩いている奈々と如月をカップルと判断したようで遠距離からロケット花火による攻撃を仕掛けて来ていた。
「静かなビーチだと思ったのですが……奈々、後ろに隠れて」
何発かが命中コースで飛んで来たので、それをV兵器で叩き落とす如月。黒旗軍も深追いはせず、素早く撤収した。
「奈々、怪我は無いか?」
だが、奈々はしがみついたまま離れようとせず、ますます体を密着させ、胸まで押し付ける。
「な、奈々……?」
焦る如月。如月にとって奈々はあくまでお友達であり、節度ある行動を心がけるべき相手なのだ。
「怖かったから……もう少しこのままでいさせてっ」
奈々はそう言うと、如月に密着したまま溜息をついた。奈々も如月に恋人がいる事は解っている。だが、紫影がぶれないことには何も始まらないのである。結局、奈々は満足するまで如月に密着し続け、その後は何事も無かったように如月を急き立ててペンションへ戻った。
勿論、こっそり如月の表情を見てどのくらい揺さぶれたか確認しながらである。
中央ビーチでカップルらしく歩いているのはメフィス・エナ(
ja7041)とアスハ=タツヒラ(
ja8432)である。
二人は、午前中は森の中の散策を楽しみ、夕方はこうして日没の海の光景を楽しんでいた。
「もしかして、アスハさん? 今日は彼女と一緒なん?」
途中でアスハは、夕飯の準備をしているティーナと出会い、挨拶を交わす。
「たまには二人で自然の中ってのもいいかもね?」
ティーナと別れた後メフィスは言い、突然足元の波打ち際から水を掬ってアスハにかけた。
「……こら!」
と言いつつもアスハの顔は笑っていた。
(彼女が楽しそうで良かったが……たまにはやり返してみるとしよう、か)
そして、アスハも水をかける。
「この……っ!」
そのまま暫く楽しそうにはしゃぐ二人。だがここで突然黒旗軍のロケット花火が!
咄嗟にアスハは花火を防ぐ。だが、別方向から花火がメフィスに向かう。咄嗟に持っていた荷物を構えるメフィス。
だが、その荷物は二人で楽しむために用意していた花火の袋であった。当然引火し、盛大な火花が上がる。
「あ゛……ってうぁぁっと!?」
メフィスがその袋を黒旗軍の方へ投げ返す。
慌てて逃げ去る黒旗軍。
「あーあ、二人でやろうと思って折角用意したのに……」
残念そうに唇を尖らせるメフィス。
「……え?」
その尖らせたメフィスの唇に、機嫌を取るようにアスハが優しくキスをした。
「何か、よりリア充を充実させてしまった気がする……」
退却しながら顔を顰めるヒンメル。後の祭りである。
「アスハちゃんとメフィスちゃんは、うん、ずっとお幸せに!」
雨宮に至っては、ご丁寧に寄り添う二人の頭上に、無数のロケット花火を飛ばして祝うのだった。
「……大分泳いじゃったね」
訪れる者も少ない中央のビーチで、伊那 璃音(
ja0686)と二人、心行くまで泳いだ浅間・咲耶(
ja0247)はこう言った。
「璃音……これって、デートって事でいいんだよね?」
何故、咲耶は今更こんなことを確認してしまうのか?
「ボクたちへの当てつけかあ!」
違いますよ。
咲耶はもうに璃音に告白済み。しかし、その返答は保留中。
夕暮れの中、璃音の水着を改めて眺めた咲耶は、照れていた。
(どんな水着を着てくるのか楽しみだったけど……)
自分でも、赤くなっているのは解るのだが、止められない。
「その……似合ってるよ」
「あ、ありがとう! 散々悩んだからそう言って貰えると嬉しいな!」
一方、璃音もそんな咲耶の様子にドキドキが止まらない。
(……少し早いかな)
波の音と雰囲気が決断を迫っているようだった。
(ううん……今なら、多分……大丈夫)
「えーと」
ようやく口を開く璃音。
「咲耶くん……隣で歩いて笑ってくれる咲耶くんが、嬉しくて、好きです。改めて……これからも宜しくお願いします」
咲耶の顔がほころぶ。だが、二人がいいムードになった瞬間――。
「お幸せにの気持ちを含めて、発射―!」
自分の恋人が来てないので誰かをいじりたくてしょうがなくなってる雨宮の発射したロケット花火が二人を祝福する様に、日が沈み、星が輝き始めた空を彩る。
思わず真っ赤になる二人。
「……何か、黒旗軍の主旨から外れていると僕は思うよ……」
撤退しながらヒンメルが言う。
一方、食材で盛り上がるグループから少し離れた位置にある海面に、ぷかりと星海レモ(
ja6228)の頭が浮き上がっていた。
「……やっぱり上手くいかない」
レモは同行している喜屋武 竜慈(
ja2707)に素潜りを教えてもらっていたが、体が浮いてしまい潜れないでいたのだ。
「コツは色々あるが、何事も思い切りよくやることが大切だ」
根気よくアドバイスする竜慈。だが、レモはそれを遮り。
「あのね。次は、手、繋いでも良い?」
やや、沈黙した後、手を差し出す竜慈。レモがその手を握り、二人は共に海の中へ。
(海はいいな……心が躍る)
と竜慈。
真夏の海中は、美しかった。その光景にレモは無言で目を輝かせ、魚や生き物を観察するために夢中で泳ぎ回っている。
(レモは元気だな……見ているだけでこっちが元気になりそうだ)
さて、素潜りも一段落した後砂浜で休んでいたレモは突然竜慈の方へ向き直ると、意を決したように問い詰めた。
「今日の僕の水着、似合ってないかなぁ?」
問われた竜慈は、一瞬まじまじとレモの水着を眺めた後、照れたように視線を逸らして。
「可愛いんじゃないか。語れるほど女の水着はよく知らないが……なぜ拗ねる。何か悪いことを言ったか?」
溜息をついて見せるレモ。
「ちょっと不安だったけど……ある意味予想通りの反応というか……水着だけ褒めるのは40点ってところだよ! せっかくのデートなのになぁ」
「というかこれはデートなのか…? デートは付き合っている男女でやるものだろう。まぁ、レモと一緒にいるのは楽しいからいいんだが」
レモはぷいっと横を向き、小さな声で呟く。
「気は利かない上に、鈍感! ……だけど、素直な言葉……そういう所は、好きなんだけれどね……」
「? 具合でも悪いのか?」
レモはまた溜息をついた。
●
「ちょーっと待ったあ!」
森の中に響く声。見ればこの暑いのに見ているだけでぶっ倒れそうな黒一色に身を包んだヒンメルが黒旗軍を自称する一団と共に突っ立っていた。
「……むぅ、なにやら不穏な空気」
と橋場 アトリアーナ(
ja1403)。
「僕は器量の小さい美少女! 台無しになれ!」
冷静に考えると、この場にいるのは女性ばかり。厳密な意味での『リア充』はいないと思うのだが、皆さんはどう思われますか?
「リア充のおでましだ、花束の準備はいいか? ファイアーッ!」
いきなり、ロケット花火を全部纏めて水平発射するヒンメル。派手な音を立てて花火がファティナや御影の方へ向かう。
「いでででででで!?」」
晃は女子に被害が及ばないようにと自分が盾になる。男である。
ファティナたちと行動を共にしていた宮本明音(
ja5435)は巻き込まれては叶わないと、逃げ回る。
だが、黒旗軍の誰かが特に狙ったわけでもないのに、ロケット花火が明音に迫る!
慌てて、逃げ出した明音だが、いきなり足を取られて落とし穴に!
「な、なにこれ!?」
「あ、わたくしの落とし穴……」
とヴィーヴィル。
慌てて這い上がろうとする明音! しかし、そこに狙ったようにロケット花火が!
「私が何したっていうんだよーぅ……!」
明音の絶叫は、爆音に掻き消されていった――。
「掃討せよとの司令官の命令とあらば出撃しますよぃ」
氏家はゆるく敬礼すると、背中に大型ロケット花火八基束ねた物を背負いファティナたちの方へ突撃!
「……その花火、自分が痛いだけじゃねえの!?」
冷静に突っ込む晃。
久遠 仁刀(
ja2464)が、とりあえずファティナや光を守ろうと前に出たが――、そんなことをするまでもなく、次の瞬間氏家は盛大に砂浜に掘られた落とし穴に落下した。
「銀髪姉妹として、お姉さまへの非道な行為は許可できません! 徹底抗戦します!」
落とし穴を掘った張本人であるヴィーヴィルがえっへんと腕を組む。
「こ……これはまずいですぜぃ」
慌てた氏家。取り合えず花火をパージしようとするが。
「騙して悪いが花火なんでな、散ってもらう」
冷酷に響くヒンメルの声。次の瞬間、穴の中から火柱が吹き上がった……。
「司令官殿、あたしの役目はこれまでみたいですぜぃ……ご武運を……」
あの中で黒コゲになった氏家が頭を垂れるのであった。
「さあ! 二発目……あれ?」
目を白黒させるヒンメル。氏家と同じようにパージ出来ないように細工した加速装置を取り付けた筈の石田が、何故かあっさり、それを外していたからだ。
「すみません……実は、これ、身に着けなかったんですよ」
にっこにっこと笑う石田。
「身の振り方は大事ですよね?」
気が付けば、肝心の黒旗軍は誰一人としてロケット花火を発射していない。それどころか、じわじわとヒンメルを取り囲んでいる。
「ヒンメルさん、ごめんね」
まず、背後から忍び寄ってきた黒旗軍の幸穂が謝罪しつつも満面の笑みでヒンメルを押さえつける。
続いて、やはり黒旗軍だった筈の希沙良もヒンメルにしがみついた。
「ヒンメル様を……剥きます……」
ぼそりと言う希沙良にヒンメルの顔が引きつった。
それでも、二人を振り切って何とか逃げようとするヒンメル。だが、突然何者かに足を掴まれ転んでしまう。
「えっ?」
何と、ヒンメルの足を掴んだのは、穴から這い出して息を吹き返した氏家だった。
「あたしが味方だと思ったら大間違いなのですよぃ」
「さあ、皆さん、寝返れば年中黒ゴスの黒姫の水着が見れますよ!」
ファティナはそう言うと、実に楽しそうに周囲に内応を打診した。まあ、すでに全員裏切っているのだが。
だが、絶体絶命のヒンメルはここでただ一人裏切っていない人物に思い当たる。期待を込めてその人物を見る。
「リア充って何なのかわかんない! でもね! 幸穂姉ちゃんもそっちだし、とりあえず、ボクはみんなと楽しく遊びたいの!」
そして、奈緒もヒンメルに襲い掛かった!
「皆でボクを裏切るのかあああああ!」
絶叫するヒンメル。
だが、まだ希望が潰えた訳では無い。光が心配そうに騒ぎを眺めている。
「み……みなさん。その、余りやり過ぎては……」
「光さん、話は変わりますが、喫茶店でパフェなど食べたくないですか?」
とファティナ。あからさまな買収である。光は同意こそしなかったが、動けなくなってしまう。遂に脱がされるヒンメル。
「見ないよ!」
ヒンメルの際どい所が晒されそうになったのを見て、慌てて晃が目を逸らして回れ右。だが、晃は着替えが終わったのを確認すると、ピコピコハンマーを取り出す。
「取り敢えず主犯はおしおきだ!」
ヒンメルの頭でハンマーが脱力するような音を立てる。
「くうう……く、屈辱だよ」
無理矢理に着せられた白いビキニ姿で悔しがるヒンメル。白いビキニ姿で悔しがるヒンメル。
「……折角当たったデジカメ……記念に記録なの」
橋場は着替えさせられ、ついでにどつかれるヒンメルの水着姿をしっかり撮影。
「どうしてこうなった……」
爆発に巻き込まれた後、ようやく動けるようになった明音は頭を抱えるのだった。
「そろそろ夕飯の準備をしない? 私が美味しいシーフードパスタを作るわよ! せっかく美味しそうな魚介があるんだから、活かさない手はないね」
そして、傍観していたソフィアの一言がきっかけとなり、黒旗軍も、銀髪姉妹の一味も共に撤収の準備に入る。
●
この間、右手のビーチでは波打ち際では狗月 暁良(
ja8545)が海を眺めて感心したように呟いている。
「お〜……海だな、海。取り合えず、夜に備えて自分の食べる分だけでもとっておくか……ん?」
ふと、陸の方を見る暁良。そこにはどさくさに紛れて、黒旗軍を巡る騒ぎから逃げ出して来た光の姿があった。
暁良は気さくに声をかける。
「光は、素潜りとか興味無い?」
暁良の言葉に光は改めて海を見た。
「そうですね……ちょっとやってみたい気もします」
こうして、暁良は光に潜り方を教え、二人は共に食材を採り始めた。
「綺麗な海だな。ハシャイで腹が膨れるのは良いコトずくめだ」
水に入りながら暁良が言う。
「でも、折角泥を浴びて、海で泳いだ分が無駄にならないよう食べ過ぎには注意しなければっ!」
「?」
何故か自分を引き締める光に首を傾げる暁良だった。
●
夜になり浜辺の各所でバーベキューの煙が立ち上り始めた。
「いっぱい食べるわよー! 海は大人数で楽しむものだと思うわ!」
ティーナや菜穂の用意したセットで存分にエビやサザエを焼きながら珠真ははしゃいでいる。
「バーベキューって争奪戦だと思ったけど……」
「いーっぱいあるから好きなだけ食べるのにゃも!」
菜穂の言う通り、海鮮は大量にあり、むしろ食べきれるかどうか心配なくらいであった。
「でも、肉はたりないわねっ!」
怪しく目を光らせる珠真。
「……まあ、皆どっちかというと魚介目当てやから……あ、肉まだあるで」
と、冷静に肉を焼くティーナ。肉は少ないのだが、それ以上に肉を食べる人が少ないので、争奪戦の心配はなさそうである。
こうして、夜遅くまでバーベキューの火が絶えることはなかった。
●
夜が明けた。
道場通いの経験があるせいか光の朝は早い。
「……素振りでも、して来ましょうか」
そんなことを呟きながら身支度をする光の前に、鴉鳥が現れた。
「おや、光殿も、朝は早いんだな……当然か」
そういう鴉鳥も既に身支度は整えている。
「……朝の稽古か。なら、その私も付き合わせてもらえると、嬉しいのだが……」
光は暫くきょとん、としていたがやがてにっこりと笑った。
ほとんどの生徒はまだペンションで寝ていたが、夏の早い夜明けの中を動き回っている者もいる。
「「いて欲しい」というだけで特に何をやれとも言われてないし、いつも通り報酬も少額……だがバイト名目で来た以上は働かないでいるのはどうも落ち着かんからな……」
仁刀はそう言いながら夜明けの砂浜を見回っていた。といっても、さすがにどのグループも片づけはきちんとしており、ごく僅かに残っていたものを集めるだけで済んだ。
仁刀は次にペンションの掃除をしようと戻る。
「体を動かしてれば、少なくともその間は余計な事を考えなくてすむし、それが人の役に立つことなら言うまでもない」
「おはようございます」
その仁刀を荻乃が出迎えた。荻乃も早く起きてペンションの掃除や後片付けを始めていたのだ。
「貸してもらったからにはきちんと元通りで返さないとね」
と荻乃。
「おや……光殿、少し手伝うか」
「そうですね」
稽古を終えた鴉鳥と光も帰って来た。
「終わったら、早起きした人たちで一足早く朝食にしましょうか? 軽食ですけど……」
と、御堂。
ペンションにコーヒーの香りが漂う。
「皆早いな〜」
香りで目が覚めたティーナが寝起き姿で起きて来た。
菜穂と満月は、まだ仲良く布団の中で眠っている。
(代筆:稲田和夫)