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マスター:星置ナオ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/07/02


みんなの思い出



オープニング

「ごめん。俺、好きな人がいるんだ」
 世間はジューンブライドだとかDWとか浮ついたシーズンだと言うのに、運命とは過酷だ。意を決しての告白だったのに。しかし。たった今、失恋が確定した谷地風香はそれでも必至に取り繕う。
「あ、あああ、そう、なんや。う、うまく、行けばええなあっ! ちなみに相手はは、誰やねん?」
 ここで意中の相手を聞いてどうすると思わないでも無かったが、スポーツで遅れを取ることもなく容姿でも一定の水準を超えているはずのうちを振ってまで思いを遂げたい相手が誰なのか。風香はどうしても聞いてみたくなった。
「俺、京極が気になってさあ。彼女、品があるよなあ」
 風香があっさりと応援に回ったと考え違いを起こした上でそうか、でへへへ、と笑いながら彼は告白した。
 しかし、聞かされた風香は笑顔をキープしたままでもその心中は決して穏やかではなかった。
 京極まみ子の名前に、絶望したのだ。風香の悩みの種。それは「バスト」である。それも大きすぎるのが悩みなのだ。
 まみ子は「スレンダーで小柄であらゆる服を自由に着こなせる」のである。この羨ましさを他人には分かって貰えない。言ったところで「嫌味?」と言われる。
 対する風香が如何ばかりかと問われれば、体育の授業でバレーや徒競走をする度男子から「おおお」と言われ、縄跳びをすれば胸の下が赤く腫れ上がり、狭い隙間では必ず引っかかる。何よりも肩が凝って仕方が無い。
「おっぱいが大きゅうてええことなんて、少ないというか。むしろあるんやろか」
 哀れ、絶望の中歩く風香。
 しかし、ふと視線が張り紙の前で止る。募集の告知である。

「辻村ーーーーっ!」
 授業も終わり掃除をしている辻村ティーナ(jz0044)が突然呼びかけられた。声の主は風香である。目は充血したままで、手に握りしめていた案内をティーナの前に差し出した。
「これ、一緒に参加せえへんか!」
「い、いきなり、なんやねん」
 風香の勢いに押されながら、ティーナは依頼書に目を通す。見れば村おこしのイベント参加者募集の案内だった。久遠ヶ原にもこういう平和な依頼が来るんだなあ、とちょっとだけほんわかとしたティーナだったが、読み進める内にこの依頼がなぜ、久遠ヶ原に届いたのか判った気がした。
「なんやこれ。この『豊年祭やるで。田んぼで泥レス参加者募集。できれば若くてグラマーな女性がええな。青年部部長 又野平助』としか読めへん依頼は。人の気も知らんとふざけとんのか?」
 びっくりするほどの大きさは無いとは言え、それでもそれなりのティーナにもなんとなくかちんと来るものがあった。
「せやけど、うちが行くにはちょーっと、不向きじゃあらへんか」
 風香のたゆんたゆんのぷるんぷるんのぽよんぽよんを見ていると、ティーナはさすがにそこまで及ばへんと認めざるを得ない
「そないなことあらへん。ここは『びしっ』と言わなあかんところやで」
 ティーナの言葉を遮って風香が叫ぶ。うーん、そないなもんなのかなあ、とは思うティーナなのだが。
「でも、1グループ8人まで、と書いとるで。他に心辺りはあるん?」
 いくら相手が一般の人でも2人対8人では、さすがに心許ない。
「よー見てみぃ。参加賞にも賞金が出るんやで。他にも参加してくれる誰かはいてるやろ。せやけど、同志で固めておきたいところやなあ」
 がし、っとティーナの肩を掴む風香。
「あ、ああ、うちの参加は折り込み済みなんやね……。で、うちも同志、と」
 うれしいんやら悲しいんやらよう分からへんけど、とりあえず「おもろそうやから、ま、ええか」と納得したティーナであった。 


リプレイ本文


 熱気を含んだ空気が痛い。今年の豊穣を祈る祭りのすぐ横で異様な熱気を魅せているのは村おこしの目玉。田んぼで行われるレスリング、いわゆる泥レス会場。
「……って、こんなの聞いてませんよ!?」
 現地で渡された体操着に訳も分からないままに着替えさせられて先鋒として選ばれたのは沙月子(ja1773)。人混みが苦手な月子としては頭が混乱するような光景が目の前に広がっていた。
「豊年祭と聞いていたのに、しかも相手ってあの子なのですか?」
 学校指定の水着の姿で立っているのは剣の使い手と名が通っている撃退士・御影光(jz0024)であった。両サイドに縦のラインが走っている久遠ヶ原学園指定水着、一般的には「スクール水着」を着用している。ここへ来てよりやたらと胸周りの発育が良い子ばかりに会うが、一方の光を初めとする相手チームの面々はその主張が逆に穏やかである気がする。
 しかし。それはさておき正面に立つ光は月子よりも身長が低いことに気が付いた。これは嫌な展開になりそう、と思っていたら案の定というか、観客から送られる視線が月子の胸周りに集中している。月子は身長に比べると胸が豊かに見えてしまうのに飽き飽きしているのだ。
「もう、胸ばっかり見ないで下さい!」
 真っ赤になって抗議すると対峙している光もこくこくと頷く。だがしかし。状況がどうであれ相手にとっては不足無しと思い直すと俄然やる気が湧く月子だった。
 静かに開始の時を待つ。
「レディ、ゴー!」
 掛け声と同時に青い髪の疾風が月子の懐まで入り込んできた。だがそれを咄嗟にかわすとその手を取り相手の体を崩して投げる。
 ばしゃんと跳ね上がる泥。瞬時の事に呆然と息を呑むギャラリー。
 しかし。全身泥まみれになった光が急襲する。だがこれもなんとかいなすとその手を掴む。そして掴んだ手から迸る電光。1発目には入れる事ができなかった雷撃が光を撃つと、そのまま倒れ込んでしまった。
 泥の中へと落ちていく光。しかしすぐさま泥の中に入る二筋の影。

「谷地さん」
「まみ子……」
 倒れる光を受け止めた後、互いに意外、と言う顔を見せる。
「どうも誤解が」
「お互いにあった模様やねえ」
「とは言え思う所はまだありますから」
「あとは拳で語り合うって感じか。ええで」
 こきこき、と二人が拳を鳴らす。と同時に2回戦がスタートする。泥を浴びながらも軽快に動くまみ子はカモシカのような脚に風香の豪快に暴れ回るバストは衆目を集めた。
「男って仕方ない人達ですね」
「せやなー」
 拳を交えているとなんでお互いに恨みを持ったのかさえ分からない程で、戦いは楽しかった。結局、戦いはまみ子の勝利で終わった。泥だらけの体操着の肩がぜーぜーと吐く息に会わせて上下する。未だ倒れたままの風香の手を取り泥の中から救い出すまみ子。

「ええ戦いやったなあ」
 うんうんと頷き泥田の中へずぶずぶ入っていくのは辻村ティーナ(jz0044)。「で、うちの相手は」と見回すと、なんと、自分と同じ碧眼金髪の子が泥田の中を進んで来た。何やら戦いの場に出られた事に感極まっているように見える。
「よろしゅうお願いします」
 と、ここで開戦の声が響く。相手は高度な技の使い手だった。金の髪をなびかせながら的確に技を狙ってくる。一瞬ティーナの前から姿が消えたかと思うと泥の中で回転しながら膝を取りに来る。しかし今日のティーナはなんだか神がかっているように、かわせなさそうな技も寸でのところで回避しつづけた。
「ハンマーシュート!」
 水平方向に右拳を振り回したらそれがヒットしただけなのだが、とにかくティーナの正拳が入るのと同時に相手の蹴りがカウンターで入り、双方が泥を盛大にまき散らして沈み込んだ。もう、どっちがどっちなのかも分からない。
「お相手感謝する。いい闘争だった!」
 謝辞を交わし合うもどろどろ2名。


 二階堂 かざね(ja0536)はとにかく巨属性の組である。そこには巧妙に隠された秘密があろともである。
(自ら貧乳と認めた人達に負けるかー! 私は巨乳予備軍なんだ)
(こっちにいたら、あやかれそう)
 と言うかざねの心の声の実況はさておき、戦いの火蓋は切って落とされた。相手チームは薄い装甲……もとい軽量化されたボディを活かした機動力で来るだろうとの予測は完全に当った。ならば、相手を上回る機動力で翻弄する。しかもかざねは泥を纏うことさえ厭わない。ぶるんぶるんと自慢のツインテールを振り回すと、辺り一面泥の爆撃が降る。そして回転速度をどんどん上げる。まさに「かざねこぷたー」。いや、いまや「どろこぷたー」と化しているかざね。相手の攻撃を次々にかわすと一瞬の間に懐に入ると「かざねこぷたー投げ」を繰り出す。
 水泳用ゴーグルをしていてもなお降ってくる泥爆撃で攻撃が外れるのか、相手の攻撃が当らない間にかざねは2本目をヒットさせる。そして横を抜ける魔法のカウンターをかわすとぎゅーっと、抱きしめる。腕を楽に背中に回せる、と思った刹那。かざねは胸に仕込んだ存在を思い出し。全力を込める!
「きゃあああ」
 そのまま、泥の中へと押し倒して3本目をゲットするかざね。なんと最速の試合時間で勝敗が付いてしまった。
「バレたら許さんとこだった」
 こうして秘密は守り通されたかざねは、この日を境に巨属性側と認定され……た? とりあえずすれ違うフランシスカをタッチで見送り応援に徹する。そう、わたしは、こちら側なのだと繰り返しながら。

「わたくしはヒップにも自信がありますのに、胸ばかりですか? もっと全体を見るべきでは……」
 ハイレグでスリングショット風のリングスーツを着込んだフランシスカ・フランクリン(ja0163)がゆさゆさと、たわわに実った二つの果実を揺らしながら前に進む。
 するとリング入場の音楽に合わせて黒髪に体操着の子が現われる。奇しくもここにレスリングを指向する二人が揃った訳である。打撃系が得意だけど組み技、投げ技もOK、との相手の趣向はまさに受けて返すプロレス魂を感じさせ、熱くなる気持ちが抑えられない。
 まずはフランシスカのベアハッグが決まる。胸に押されて相手が浮き上がるという状況に場内がどよめく。反撃のベアハッグは受けるが。
「む……胸があたるぜ、チクショー」
 1本を取った相手の方がダメージ多めに見える不思議。さらに卍固めがフランシスカに襲いかかる。が、それは決まる寸前で解いた。同時にその豊かな胸が雪崩のように移動するとまた盛上がりを見せる場内。反撃に泥の中に引き込んでのステップオーバー・トーホールド・ウィズ・フェイスロック。泥の中で上気しているうら若き女性の姿はなぜか艶やかさを感じさせる。
 そして。満を持してのフィニッシュ、マテマティカバスターが決まる。この技の恐ろしいのは同時に腕、脊髄、股関節を極める事だが、首の上に抱えて大きく開脚されるのもまた恐ろしい。その光景が妙に色っぽかったとは見ていた人の談。
 ただ色気の有無とは別の次元で互いに善戦を讃え固く握手を交す両名に惜しみない拍手が降り注いだのは言うまでも無い。


「おーっほっほっほ♪此れはわたくしが目立てる絶好の好機ですわ! ……え、泥レス? ちょ、き、聞いていませんわよ。え、えぇぇっ!? 」
 目立つ事間違いなし、と聞いてやってきた桜井・L・瑞穂(ja0027)はどうも肝心な事を聞き逃していたらしい。
 しかし、観客の視線が瑞穂の纏うセクシーなワンピース水着(白を基調に青と緑で彩られ、胸の谷間ははメッシュのシースルーで強調気味)に注がれている事に気がつくとまんざら悪い気はしなかったらしい。
「わたくしの姿から視線が離せないのは無理の無いこと。真打ち登場ですわ! わたくしの勇姿、特とご覧遊ばせ!」
 しゃなりしゃなりと腰を振り、胸元を大きく揺さぶって、すらっと伸びた脚を泥田の中に入れてみる。一瞬「びくっ」としてしまうがおくびにも出さずに前に進む。見れば前から歩いてくるのは久遠ヶ原在籍の友の顔ではないか。しかし。なぜ魔法少女風?
「こんな所で奇遇ですわね。しかし。勝負事に手加減は友情にも反しますこと。いざ尋常に勝負ですわ!」
 知人だからと遠慮は一切しない。むしろここで魔法少女風で殿方のハートをキャッチするとはさすがわが友、と感嘆する。もっとも、殿方でも受ける層がちょっと、いやかなり違う気もするけど。とにかく攻撃をかわすと即時にローリング・バック・クラッチで反撃をする。旋風のように回転し、相手の脚を持ち上げて自らはブリッジする。技の完成と同時に歓声が沸き上がる。ブリッジすることで瑞穂のラインがより一層際立って、シカもメッシュの隙間から覗きそうな気配さえ漂っているのだが、試合に集中している瑞穂は気が付かない。フォールを解き、歓声に応えて手を振る。
「あぁ、此の歓声…た、たまりませんわぁ♪」
 恍惚と身を震わせる瑞穂を横目に、しかし脚ごとお尻を持ち上げられるという辱めを受けた友の反撃はかなり手痛い物になった。
 捉えきれない速度で横に回ると一閃、今度は瑞穂が弓なりにホールドを受けた。その苦しむ姿が艶やかで、なんだか素敵空間と化したのだが、これ以上の詳細は省略。
「うぅぅ……わたくしが敗北するなんて……って、ウルぅ!?」
 次の登場を控えているウルブライエ・メーベルナッハ(ja0145)の張り出した青のビキニに顔を埋める瑞穂。よしよし、となだめながらも胸の隙間にすっかり泥をこすりつけられるウルブライエであった。
 しかし、目の前に現われた撃退士からはなぜか湯気が見えている気がする。服代には困らへん気もするし、それは羨ましいなあとウルブライエが思っている瞬間。試合が始まった。とりあえずタックルでもと思って突撃してみると、相手は巧みに避けていく。そして向かってくる拳。ならばと敢えて胸を張り出し胸によるガードを試みる……ウルブライエ以外にこれができる人は相当限られそうだが。
 しかし、相手は臆することなく踏み込むと「ぎゅむ」と胸を掴んでくる。
「はう」
 そのまま一気に押し倒されて一本を先行されてしまったウルブライエ。
「あかん。ほんまに強い人やで」
 油断をしていた訳ではないはずなのだが。しかしとにかく互いに攻撃が当らない。しかし。
「いっくでー」
 ジャンプした後大きな胸でそのまま押さえつけるボディプレスが命中する。これで流れが変わるか、と見ている皆も思った矢先。胸に圧殺されそうになるという経験が火を付けたのか、相手は猛攻撃に切り替わる。
「がんばれー!」
 かざねの応援が耳に入るもののがっちりとキャメルクラッチで固められた身は自由が利かない。しかも完全に胸を締め付けるようにぎゅっと掴まれてのホールドである。
 結局、運の天秤がウルブライエには傾かず、その後も一本を取られて負けが決まる。泥の中からけほけほと息をした後に「ちっちゃい胸の方がええっちゅう男の子は居るモンですよ、ねえ?」と言っちゃったウルブライエがまた火を付けちゃった感もあるのは否めない。


「ウィィィィィィッ!」
 田園一帯に響き渡る響き渡る雄叫びと共に、おとなしめのビキニに身を包んで登場したのはアーレイ・バーグ(ja0276)である。テンガロンハットにブルロープを振り回し雰囲気は満天である。
「JAPにステイツの物量を見せつけるのでーす」
 明確な意思にも関わらずうおおおお、と言う歓声が湧き上がったのはステイツの物量をはっきりと形として表に出しているせいであろう。主として胸的意味に置いて。
 対面する相手はアーレイの知己を得ている子だった。いつもはメイド服なのに今日は女子体操着で身を包んでいる。見ると深々と頭を下げている。
 どんな時でも相手に礼を失わないのがジャパンの美意識なのかもしれないがこの場この時に限ってのこの戦いは覇権を賭けた戦いとも言える。
 開始、の掛け声とともに相手の障壁をアーレイのクリティカルな一撃が打ち砕くとそのまま抱え込んでのバックドロップをお見舞いする。そして落下と同時に激しく揺れるアーレイのバストの迫力に、沸き立つ観衆。
「くぅ……。流石ですね。でも。こちらから参ります! お覚悟を!」
 刹那の間に手を取られたアーレイが、相手の動きに導かれて体幹を崩す。はずそうにも相手の手にはめられた軍手が巻きつきそれを許さない。そのままどかんと言うしぶきをあげてアーレイは田んぼの中に放り込まれた。
 だが。胸の谷間ですくい上げてしまった水をまるで滝のようにさばーと水音を響かせて立ち上がるアーレイ。
「さすがは同盟国と言いましょー。でも所詮ここまでです」
 再び拳を突き上げ牡牛の角を象るサインを作る。
「ウィィィィィィぃ!」
 相手が作り出した魔法の障壁を破り一撃。
しかし相手の根性はさすがとしか言いようもない。泥だらけになりながらも立ち上がる小さな少女に会場中から拍手が湧き上がる。
 だが。そんな空気をかき消すように白い肌の腕を水平に伸ばしくるっと周回させるアーレイ。遂にフィニッシュ技であるラリアットを叩き込むと、二人重なるように田んぼの中へと倒れこんだ。そしてばしゃーんと大きく上がる水しぶきが決着を告げていた。


「おつかれさんでしたー。ほな勝利のポーズ!」
 勝った後で記念の写真をみんなで撮っておくことにするも、頭の上から下まで泥にまみれて誰が誰なのか俄かにはわからない有様である。
 シャッター音が鳴ったの合図にして、「これより男子禁制」の看板をしつらえた川に向かって皆走り出す。
 レスリングスーツの奥まで入った泥を洗おうとしているフランシスカを男性に見られたらまさに事故。一方かざねはちょっと距離を置きつつも、一緒に水浴びしたらなんとなくご利益ありそうと思ったりも思わなかったり。アーレイ、フランシスカ、ウルブライエに風香と揃った光景は女性の目から見ても圧巻だった。
「あれだけ大きいと日常生活が不便で仕方ないでしょうねえ。ナニゴトも程々が一番だと思います」
「不足せず満ち足りている。まさにわたくしの事ですわね」
 ぽろり的な瞬間を写した写真が一切ないことのチェックを終えてようやく安堵した瑞穂の高らかな笑い声がこだましていた。


依頼結果