到着するやいなや主催の助平、じゃなく、又野平助氏に呼び止められた撃退士の面々。
「試合なんですけど、皆さんの準備ができ次第始めたいと思いまして」
なんとここで久遠ヶ原学園からもう1チームが送られて来ていることを初めて知った次第である。その上聞けば例年参加する参加者が今年は皆観客に回ってしまったとの事。折角だからじっくりと観戦したいというチームが続出したらしい。
荷物を置いて早速準備に掛かる、忙しい面々であった。
●
先鋒として学園指定の女子水着で現われた御影光(jz0024)は体の線が悲しいほど出ているのが切ない。恐る恐る田んぼの中に入るとくすぐったいような暖かさがある。試しにぴょんと跳ねてみると大きく泥は跳ね上がるし膝下までは浸かってしまう、と言う有様ではあるが移動に支障がある程ではないようだ。見ると相手の子も体操着姿でおずおずと田んぼに入っている。お団子に結った黒髪が印象的な子である。
促され開始線まで進む。一瞬の静寂の後。「レディ、ゴー」の掛け声で撃退士同士の技の応酬が始まった。
素手格闘の経験には乏しい光だが確実に先手を取った。そのまま相手の体操着に僅かに手が届かない。逆にその手を掴まれてしまう。光の体がふわっと浮き上がり、田んぼの中にばしゃっと落とされてしまった。
尚も泥まみれになりながら相手にタックルを掛けようとする光だったが、それをいなされ取られた手に電撃が走り、意識を失う。
そのまま前のめりに倒れてしまう。その窮地を救ったのがまみ子と、そして風香だった。
戦う前までは反発する感情しかなかったふたりであったが、どうも思っていた人物像と相手は違うような気がしてきた。
その気持ちを整理する意味でも拳を交えた第2戦目。
軽快にステップを踏んで攻撃するまみ子と豊かな胸をたわわに揺らしながら、00その前で小さく構えた拳でガードしつつままで打撃を払う風香の勝負は殊の外熱戦になった。
最後にまみ子が放った突きが風香を捕まえそのまま投げへと流れるように決まり、ここでようやく両者の間で決着が着く。倒れ込んでいる風香の手を取り助けるまみ子に拍手が送られる。だがしかし、これだけの熱戦にも関わらず男たちの視線が風香の胸やまみ子の脚へと向かうのを見て「べー」と舌を出す二人。
「男って」
「ほんま、しょうもないなあ」
同時に笑ってしまったら、なんだかわだかまりらしい物が消えていた。
●
「私が今まで培ってきた近接格闘術が、撃退士相手にどこまで通用するか……楽しみだ!」 泥田の中にあっても軽快なステップで登場したのは軍支給の迷彩ズボンにTシャツ姿でリリィ・マーティン(
ja5014)である。ぎらぎらと注がる視線に向かい手を振り感嘆の声を上げる。
「やはり日本人の勤勉さというのは素晴らしいな! 我々も見習わねばならん!」
どうもリリィ、注がれる視線が武士道に象徴される格闘への向上心と勘違いしているらしい。対戦する相手はイタリア人ハーフであると聞く。しかも同じ碧眼のブロンドである。それにしてもイタリア……と聞くとあまり軍事的なイメージが沸かない、が。
「我が愛する祖国の開発した近接格闘術“MCMAP”!通用するかは分からんが全力で行かせてもらうぞ!」
左胸に刻まれた海兵隊のロゴに掛けて負ける訳にはいかない。が。なぜだろう。リリィの掛ける技が悉く外されてしまう。そしてずで、っと泥の中に頃がされるリリィ。
「クソッ、最高だな全く……」
刹那に立ち上がると金の髪、そして顔に絡みついた泥を払う。上気したリリィの体を泥の重さを含んだシャツがぴったりと纏わり付き、それが妙に色っぽい。にわかに沸き上がる声援に一瞬だけ驚きの表情を見せるも、外し続けているとは言えマーシャルアーツの技の華麗さが感銘をされている、と、再び誤解し手を上げて応えるリリィ。汚れた軍服、とかある意味マニアックな気もするんだがそれが良い。
どろどろになった体にめげずリリィは戦った。何が悪かったかと言えば運以外に考えられないのだが、とにかくリリィは敗北を期す。
「海兵隊よりも当面はここで訓練だな」
透けて見えるTシャツに集まる視線などに気付くことなく胸を張って敗北を受け止めるリリィであった。
●
開始前に準備体操を念密に行った根来夕貴乃(
ja8456)が観客の前で一礼する。
「できればグラマー募集ってなってたけど、スレンダーでも魅力があること……わかってほしいの……」
そしてだれにも聞こえない声で小さく呟く夕貴乃である。
泥よけにゴーグルを装備しながら声にならない声で小さく呟く。そのまま中央に向かって行くと対面するのは白銀のツインテールを艶やかに揺らす一人の少女。しかし、あれ? 作為的なほどバスト周りで明確な差があったチーム編成だったのに目の前の少女は。それは錯覚だったろうか。体操着の中にふたつの目立つ膨らみが上下している。
「事前に言っておくが。私は誰が何と言おうが巨乳だ!巨乳予備軍だ!」
着込んでいる体操着の中でその声に応えたのか膨らみが律儀に上下している。
「小さい方が動きやすくて有利なの……」
相手の顔を見た瞬間はスレンダーの魅力を二人で分かち合いたいと一瞬喜んだだけにちょっとだけ残念な夕貴乃は、それゆえに勝ちを取りたいと思った。それも観客さえ魅了するような勝利を目指した。こちらには軽快な機動力がある。
しかし、今回は相手が見事に噛み合ってしまった感があった。高速で動き回る夕貴乃の先を制するように相手は先に回ってくる。しかも泥だらけになったツインテールから発射される泥の弾丸と回転攻撃に翻弄されてしまう。
初撃は二人が同時に放ち相撃ちとなったものの、2撃目以降は相手の回転攻撃の前に夕貴乃の攻撃は届かず、逆に泥の中に弾き飛ばされてしまう。
「きゃあああ」
3回目の土が付いてしまい、夕貴乃は泥の中へとダイブしてしまう。なのに、痛打したはずの胸の痛みが少ない事が妙に悲しくもある夕貴乃である。そのまま立ち上がらずにしばし凹んでいると周囲からたくさんの拍手と歓声が降り注いできた。弾かれても弾かれても果敢に戦った夕貴乃と、自ら泥だらけになる事も厭わず戦い続け、はあはあと息を切らせている相手の選手に惜しみない拍手が贈られたのである。
●
持参したCDをプレイヤーにセットし、最大のボリュームで掛ける。魂を沸き上がらせる旋律に満足するとたたたた、と小刻みにステップを踏む。
「晶! ボンバイエ!」
自分に気合いを入れてだーっとダッシュで田んぼの中へと突進するのは神埼晶(
ja8085)。プロレスの入場シーンのように現われた晶が体操着に裸足、おまけに結構な美人である事に驚く観客が多かった。一方。対する相手の登場に息を呑む晶。それは知己を得た友人だったのである。しかもはち切れんばかりのバディをリングコスチュームを包んでの登場である。
だがしかし晶を刺激したのはばいんばいんと揺れている相手のバディではない。リングコスチュームを見た瞬間、晶の魂に火が点く。相手はガチで来ている。ならば受けきって耐えての魅せるレスリングを披露しよう、と。
「私は打撃格闘技が専門だけど、組み技や投げ技もOKだよ」
晶の宣言にこくんと頷くことで同意を確認する両者。
そして開始を告げる掛け声と同時に中央で衝突、そのままがっちり四つに組む両者。先手をとったのは晶だった。
「いくぜ、デロい……じゃなくてオクトパスホールド!」
つまり卍固めである。相手の手を取るとその体に足を絡ませ関節を極めようとする。だが、これは失敗に終わる。豊満な胸がするっと晶の腕から抜けていくと逆に背を取られて押し倒されてしまう。そのまま首関節を取られた晶は泥の中屁と沈み込む。背中に押付けられた相手の胸に圧殺されてしまいかねない。
こうなったら、とここまで封印していた打撃技の解除を極める。相手の首筋に向かい華麗に蹴りを叩き込む延髄斬り!
「いきなり打撃はズルかったかな」
しかし、それは杞憂だった。泥の中から立ち上がると一閃。奇襲のタックルに体を崩した晶は首を下に担がれるとそのまま一緒にジャンプされた。晶は空中で股裂きと腕関節を極められたまま着地による重力を受けた……。
あるいは常人が受ければその身が危ぶまれる大技が決まり、晶の敗北が決定されたのだが、その身は大丈夫なのか。不安そうにしている観客に手で合図を送る晶だった。男性の観客の内何人かが鼻血を垂らして惚けているのがむしろ気になる所であったが。
最後はにっこり笑顔で握手を交す晶だった。
●
あと一敗でAチームの敗北が決定する。この窮地の中で前に歩を進めるのは猫野・宮子(
ja0024)である。相手は知った顔であることに気が付き合図を送ると先方は高笑いでそれに返答してきた。らしいと言えば非常にらしい。
「でも負けないからね。それじゃあ……魔法少女マジカル♪ みゃーこ(水着Ver.)出撃にゃ♪」
それまで纏っていたタオルをばーっと脱ぎ捨てる。下から現われたのはフリルで装飾された白のツーピース水着であった。そしてすかさず猫耳を装着する宮子。沸き上がる歓声に恍惚の表情を浮かべている友に、一撃を放つ宮子。
「先手必勝、マジカル♪ タックルにゃ〜♪」
だが友は、見て無いはずの宮子に対面するとローリング・バック・クラッチを極める。 ……というか、双方水着のままでこの技を掛けるとどうなるか。答は観客席にいる男性陣の鼻から溢れる鼻血が如実に物語っていると言えよう。
「「にゃ、流石に強いにゃね!でも僕も簡単には負けないにゃよー! 魔法少女は負けるわけにはいかないのにゃ♪」
泥を払い落としながら、ついでに先の勢いでツーピース水着の上衣を締める紐が解けている事にも気がつかない宮子である。高らかに笑う友の死角へと一瞬で水上歩行。機動力を十分に活かしてタックルに持ち込む。
「押し倒したらそのままマジカル♪固めいくにゃ♪」
マジカル♪固めとは。詳細は避けるがとにかく掛けられた相手は「ちょっと恥ずかしい気持ち」になってしまうような屈辱的な固め技らしい。後方で「あれは久遠ヶ原秘伝の」「あの技を知っているのか神崎……」と賑やかな解説が聞こえてくる。特に体のラインが出る水着では。
「あっ、ちょっと、まって」
強調せんがためにレースになっている胸の部分が危険水準になっている、っぽい。でも泥だらけなので「ごしごし」と目を凝らしても何が危険なのかは分からないのだが。
ここで勝負の趨勢は決定されていたのかもしれない。集中力を欠いたように相手の攻撃は宮子を逸れた。しかし宮子の2度目のマジカル♪固めが極まる。
試合終了と握手を交し、元の友情へと戻った二人に割れんばかりの拍手が降り注ぐ。ただし。泥だらけでマスキングされている両名が、自分の水着姿がどうなっているのかに気が付き真っ青になるのにはあと数秒を要するのだが。
●
「こざいくはむよう…いざいざ勝負、なのぉ!」
胸からパッドを取り出して叩き付けるエルレーン・バルハザード(
ja0889)の姿があった。先刻まで晶と共に技の数々の実況解説なども務めていたのだが、試合の熱気に当てられたのかもしれない。
「おっぱいのでっかさが……むいみなことを、教えてやるッ!」
いや、やはり違う部分で発火したのかもしれない。
「ほんまや。ちっちゃい胸の方がええっちゅう男の子は居るモンですよ」
しかしエルレーンの炎上に相手は全く気が付かないままで、一段とヒートアップするエルレーンであった。
背中にロングコートを丸めて背負うと水着の上から紐で結わえるエルレーン。実はこれ、空蝉の術に使うために持ち込んだのだがいずれにしてもまた耳目を引く戦いの幕がまた開いた。
布団を背負った少女対今にも紐どころか水着ごと弾け飛びそうなお姉さんの対決である。
エルレーンの攻撃を受けるために飛び込んでくる青いビキニ。だが意に反してかむしろそのビキニにエルレーンの鉄の爪ががし、っと食い込んだ。
「でっかいじゃくてん、ぷらぷらさせてるほうが悪いんだよぉ!」
完全に八つ当たりのような気もするががしっと掴んだままのエルレーン。なんとなく、見ている方が痛くなってくるような絵面でもある。
続く相手の攻撃もかわしキャメルクラッチで反撃するエルレーン、って指ががっしり青のビキニをホールドしているし。まさにヒールを体現し勝利を得たエルレーンであった。それにしてもアイアンクローが食い込んでも物ともしない、全く何でできているのか丈夫な水着ではある。
●
そして最終戦。勝てば五分の引き分けになるわけで、外の面々の応援を受け、いざ出陣するのは……。
「今日はメイドはお休みです」
いつものメイド姿を脱ぎ捨てて体操服に着替えている氷雨静(
ja4221)である。
「やるからには全力です」
滑り止めの軍手を嵌めて脚にはかんじき、視界潰し対策にはサングラスと、完全防備で立ち向かう静の前に立ち塞がるのは久遠ヶ原でも一二を競う豊穣の胸をもつ友であった。
「この度はよろしくお願い致します」
礼儀正しくぺこりと一礼する静である。だが一撃目は障壁に阻まれて逸れていった。
「そんな貧相な身体で私に勝つことは出来ませーん」
言われた瞬間に静の心に火が灯る。
「65AAは65ArcAngelの略! すなわち65人の大天使です!」
思わず絶叫したカミングアウトと無茶振りに「だがしかし、おれは好きだぞ」と声が飛ぶ。しかし、この両者が戦いに圧倒されたか皆は次第に声を失う。いや、ばいんばいんとかどがどが、とかすごい効果音の前に圧倒されたのかもしれないが。しかし、この好勝負を狙ったように運命の神はバランスを傾かせてしまった。橙魔壁を展開し鉄のガードを繰り出した静なのに、相手はその魔壁を越えてラリアットを炸裂させて来たのだ。
しかも、二度も。
「くぅ……流石ですね」
その言葉に片手を高々と掲げられ、ついでに胸をぼんぼーんと張り出されて。
「ひんぬーがきょぬーに挑むなど無謀だったのです!」
奮起を促すためなのか挑発するようにウィーと雄叫びを上げる友だった。
「貴方様は確かにお美しいです」
それは十分に認めている点である。
「私は確かに胸はないですが……でも大和撫子らしい体型と存じます」
何度倒れても、泥を噛んでも立ち上がる静。その言葉に打たれたように割れんばかりの拍手が降ってきた。
突進してくる友の手を軽く掴んでいなす。合気道の小手返しであるがそれが綺麗に決まり泥の中へと誘った。
結果は3対5でAチームの敗北が決まってしまった。胸の大きな子たちが勝ってしまった訳だが。帰りに水浴びをすると何もかもがどうでも良くなってみんなで洗いっこなどをして。
とりあえず何人かは苦い汗も涙も夕日の中に溶かした一日になったとか。