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マスター:火乃寺
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/02/04


みんなの思い出



オープニング

 早朝、5:30――
 カラン、ガランカラン――
「はよーっす、てんちょ」
 いつもの様にいつもの時間。店のカギを開けて中に入った女性は、気の抜けたコーラのような第一声で挨拶をした。
「…おろ?」
 しかし、いつものように苦笑混じりの微笑で「おはようございます」とは返って来なかった。
「てんちょ? てーんちょ!」
 と、声を大にして呼びかけると、厨房の方からガタリと物音がしたと同時に、この店のマスター、壬生谷 霧雨(jz0074)が姿を現す。
「ああ、眞宮さんでしたか。今日は早いですね」
「早くないよー、ほら、時間」
 と、眞宮こと玖蛇象 眞宮(くたかた まみや)は店内の壁掛時計を指し示す。

 彼女は半年ほど前、生活費も尽き(支給されるお給料や報酬は殆どが当日の内にお酒に変わる)て、商店街近くの公園で空腹に泣いていた所に声を掛けられ、条件付でこの店で働くようになっていた。
 因みに条件とは、家計簿をつけてマスターに提出する事である。無駄遣いがあるとその分、お給料が減るシステムらしい。
(嘘書いてもどこからか調べ上げてくるんだもんなぁ…どうやってんだろ?)

「…確かに。今日は私が寝坊したせいですね」
「へー、めっずらしい」
 苦笑を浮かべてマスターが掃除を始めるカウンター前を通り過ぎようとして、ふと何かが気に掛かる。
 肩越しに首だけ振り返り、思った事をそのまま口にした。
「てんちょ、今日、化粧とかしてる?」
「は?…いえ、していませんが?」
「ほむ」
 今度は身体ごと振り返り、あごに指を当ててジーっと彼の顔を見つめ続ける。
「そんな所にいないで、早く着替えて――」
 と言う台詞の途中で、眞宮は彼の前に素早く移動し、掌をその額に押し当てた。
「わっ、あっつ!? てんちょ、熱あるじゃん!」
 驚きを上げる彼女に、その手をそっと退けながら霧雨は「問題ない」と笑ってみせる。
「これ位、何でもありませんよ。私たちの躰が常識を超えて丈夫な事は知っているでしょう」
「あのねぇ! 撃退士だって人間だし、病気もすれば体調も崩すよ!そんだけ熱あって平気なわけが…って」
 指をさして詰め寄る最中――
「大丈夫ですよ…だい…じょう、ぶ」
「ちょ、てんちょ!!」
 相手はずるずるとカウンターに崩れ落ち、そのまま意識を失う。いつもの笑みが張り付いたままなのが、彼の頑迷さを物語っているようだった。


『私は、もう貴方の姉には戻れない。この子の…どんな成り行きであれ、産まれたこの子の母として生きると、決めました』
『な、なにを…なにをいってるんだ、姉さん…? “それ”は、あいつが無理矢理姉さんに…だから、俺は…たすけ、に…』
『…貴方は貴方の道を見つけなさい、霧雨。愛しているわ』

「……―――」
 ゆっくりと浮上する意識。額に乗る、冷たく湿った感触に疑問を覚え、手で確かめ様としてそれを掴まれる。
「こーら、折角換えたげたんだから、とろうとしない」
 視線を動かすと、メイド風ウェイトレス服を纏った眞宮が、少し怒った心配そうな顔で座っていた。
「…ご迷惑をお掛けしたみたいですね。…そうだ、店は!?」
 ばっ、と体を起こした所で、ザーッと頭から血の気が引く感覚。急激な貧血に似た症状と共に意識が飛びかける。
 そのまま背中から布団に倒れそうな所を、さっと差し出された腕が受け止めた。
「何とか、私一人でやってるよー。ま、心配しなさんな雇い主! ちなみに、もうお昼ね。はい、これ」
「…お粥、ですか?」
「他の何に見えるってーのよぅ。これでも私、料理上手いの知ってるでしょ、てんちょ」
「…分かりました、ありがたく、頂きます」
 手渡された深皿とスプーンで少しずつ口元に運ぶ。程よい塩味と、載せられた梅干と紫蘇が胃袋の空腹を思い出させてくれる。
「じゃ、店に戻るから。無理して出てこようとしちゃだめよー、迷惑だから」
「しかし、一人では…」
 自身の体の不調は、考えていたよりも重いようだった。恐らく今日明日すぐには、治るまい。その間彼女一人というのは、流石にきつい筈だ。
「まー、なんとかなるっしょ」
「なりませんよ…そこの机の抽出しを開けて下さい」
「ほむ?」
 首を傾げながら、いつも彼が事務仕事に使う机へと歩み寄る眞宮。
 言われた段の抽出しをあけると、何かの用紙が収められていた。
「臨時アルバイトの募集要項です。それの通りに、斡旋所にお願いして頂けませんか」
「なーる。おっけ、任された。いやー、実を言うと一人じゃきつくて、逃げたくなってたんだー」
「貴女は逃げませんよ。それ位には、信用もしてますし、人を見る目も曇っていないつもりです」
 向けられる熱に浮かされた微笑に、言葉に詰まった眞宮は微かに頬を染め、足早に部屋を出て行くのだった。


リプレイ本文

●焔と和紗
「おはようございます」
「うおぉ、びっくりした!?」
 鼻歌混じりに出勤した直後に掛けられる挨拶に、眞宮は思わず身構えてしまう。
「あ、えーっと…焔君、だったっけ?は、はやいね?」
「ええ、四時くらいから」
「ちょ、早すぎるって!お姉さん、五時半でイイって昨日の顔合わせで説明しなかったっけ?あれ、したよね?」
 おっとりとした微笑を浮かべる星杜 焔(ja5378)から視線を外し店内を見渡せば、既に掃除はほぼ終えているらしい。姑の様に窓枠に指を這わせて見れば、埃の一つすら見当たらない。
(いつもより早く五時前に来たのに…店長以上の伏兵にでくわすとは油断ならねぇ)
 内心引き攣りつつ、あちこち見て巡る。
 厨房のレシピ通りの仕込み、器具も改めて手入れした様にピカピカだ。
「大分個性が強い厨房みたいですね」
「あー、元々一人で始めた店みたいだしねぇ…偶に私も使いづらいのよ」
 厨房に続いて入ってきた焔は、既にウェイター服に着替えていた。素早い。
 
 カランカラン――
「おはようございます」
 と、入り口から聞こえてきたのは、今日焔と一緒にシフトに入っていた樒 和紗(jb6970)の声。
 出迎えた状況と、店内の様子を見回し。
「…俺の仕事がなさそうです」
 と肩を落とした。

「焔は四時から…なるほど。では俺も次は」
 何処かノスタルジックな和服にエプロンドレスという服装で、卓子に持参した花を飾って回った和紗が戻ってきて発した言葉に、
「いや、君らの仕事に対する真摯な態度はよく分かった。だけどもっと遅くていいのよ?でないとお姉さんも四時出勤しないといけなくなっちゃうからっ!低血圧だから早起き辛いのよ、分かって!?」
「は、はぁ…」
「ええと…」
 必死な眞宮に、二人は戸惑いながら説得されてあげた。

 また別の日――。
「ほーん、料理、上手いもんだねぇ。お姉さんもそれなりに自身はあるけど」
 焔の手元を覗き込み、感心したように頷く眞宮。二人は厨房にいた。
 時間はお昼、つまり尤も忙しい時間帯である。
「いらっしゃいませ。二名様ですね、こちらへどうぞ」
 店の方からは、和紗が応対する声が聞こえる。
「おっと、戻らねば。じゃ、ここは君に任せるよ」
「はい、お任せあれ」
 店に戻ると、和服姿の和紗が切れのよい動きで店内を忙しく動き回る。凛とした姿に後ろで束ねた髪を靡かせ働く少女が、接客時に見せる笑顔に見惚れる男性客もちらほら。
「うーん、こっちはこっちで、いい客寄せ♪」
 次のシフト日、彼女目当てに来る客が増えて売り上げが少し増えたとか。

 一時の修羅場を抜け、お客が総て引き払う時間帯。店員の憩いの時間でもある。
「あ、眞宮さん」
「ん?」
 氷嚢とタオルを手に彼女が振り返ると、湯気を立てる粥の土鍋が焔から差し出される。
「これ、マスターに。今から様子見に行かれるんでしょう?」
「…そつがないねぇ、ほんとに。じゃ、ありがたく〜」
 奥に消える女性を見送り、カウンターに戻る。そこには焔が用意した賄いに箸をつける和紗があった。
 と、その最中に時折ゴソゴソとやっている。
「? 何をしているのかな?」
「あ、ええ…これなんですが」
 はたと我に返り、手元のそれを差し出してみせる少女。
「本日の…お勧め?」
「ええ、焔の得意料理などあればと。こういう機会ですし」
「そうだねぇ、それじゃ――」
 こうして残り二日、小さなイラストがメニューと一緒に飾られる様になった。

 何かを記帳している焔を横目に、和紗は店の奥に進んで行く。
 マスターの部屋は、地下にあると眞宮から聞いていた。何故地下なのか疑問に思わなくもなかったが。
「…おや?」
「失礼します…お加減は、如何ですか?」
「はは、大分落ち着いてきました」
 まだ顔色が優れないが、笑顔で彼女を応対する壬生谷は襦袢姿で起き上がっていた。どうやら帳簿のチェックをしていたらしい。
「今回は私の不摂生で、ご迷惑をお掛けしています。どうかよろしくお願いします」
「いえ、そんな事は。それよりもゆっくり休まれて下さい、無理はなさらず」
 と帳簿に目を向ける。
「あはは、眞宮さんと同じ事を言うんですね。分かっています、この後はすぐ休みますよ」
「そうですか…では、今日はこれで」
「ええ、お疲れ様でした」

●鈴音と恋
「おはようございますっ!」
 元気な一声と、
「おはようございます」
 落ち着いた声音が、店内に響く。
「はーい、おはよ。朝から元気ねぇ」
 溢れんばかりのエネルギーの塊のような少女、六道 鈴音(ja4192)と、長身にクールな表情で頭を下げる地領院 恋(ja8071)を出迎えた眞宮は、内心でホッと息を吐く。
(この子達はこの時間で大丈夫、と)
 初日の出来事が、まだ尾を引いていたらしい。
「地領院さん、玖蛇象さん、よろしくお願いしますっ!」
 過去にもこの店でアルバイト経験のある鈴音は、
(マスターが体調悪いなんて…ここは私が一肌脱ぐ所ね!)
 と自信を漲らせていた。その根拠がどこから来るのかは不明だったが、それが彼女の“らしさ”だと壬生谷なら微笑むだろう。
「こちらこそ宜しく。しっかり努めよう」
 更衣室で着替えた二人に、眞宮が掃除用具入れを指し示す。
「それじゃー、先ずは掃除から。厨房はやってるから、店と外をお願いねー」
「ん、分かった」
「任せて下さい!」
 掃除の間、恋は経験者であり店の常連でもある鈴音から、色々と話を聞かされる事になった。

 基本的に、鈴音はウェイトレスのみに専念した。料理は大分得意ではない為。
 必然、恋は料理の腕前もあり、厨房で働く時間が増える。
 それに――
「可愛い服は、嫌い?」
 背後から掛けられる声に振り向く。そこには、背伸びをしながら入ってくる眞宮の姿があった。
「いや、そんな事はないんだ。…ただ」
「ただ?」
 何処か、憧憬にも似た物を込めた視線が、店内でくるくると動き回る鈴音のウェイトレス姿に向けられる。
「アタシには、似合わないからさ」
「ふ〜ん。確かに、そのウェイター服は似合ってるしねぇ。お昼に来た女子、水をもって行った君の姿を見て目を輝かせてたわよ」
「…それはどういう意味でだろ」
「単純に、格好いいからでしょー」
 既に客も引き始める時間帯、
「ありがとうございましたっ!またのご来店を!」
 レジ精算をこなす少女の声が繰り返される。
「確かにかわいい子よね、あの子は」
「まあね」
「でもさ」
 微笑を浮かべ自分を見つめる彼女に、恋は首を傾げる。
「服で隠せたりはしないし、ない事にも出来ない」
「?」
「料理をしてる時の楽しそうな君。あの子を見る君。君が君と言う女の子だから」
 慈しむような眞宮の声音に、恋は戸惑う様に視線を外す。
「女の子って。アタシはそういう柄じゃ」
「そ・れ・に」
 何時の間に、と思えるほど素早く恋の背後に回った彼女は、いきなり思わぬ行動に出る。
「…!」
「こ〜の膨らみは、男じゃもてませんな〜!ええ、素晴らしい!」
 いきなり腕を回して、恋の胸を揉み始める眞宮に、恋の体が小刻みに震え始める。
「…殴る前に聞くけどさ、何やってるの?」
「ふっ、おっぱいという名の女体の魅力を堪能させて頂いております、大佐殿!」
「OK今すぐ死ね変態!」
 ドゴッ、と鈍い音と共にセクハラ野郎(この場合女郎か?)が厨房の床に撃沈する。
「な、なに何、何事!?」
 と覗き込みに来る鈴音に、恋は何事もなかったように手を払い、
「なんでもない、ちょっと害虫が出たから退治したとこ」
「!? Gでもでたの?!」
 飲食店の厨房でそれが出るのは拙い、と少女が慌てる。
「…それはでてないけど。というか、出ないで欲しい」
「?? あれ、眞宮さん、そんな所で寝てたらだめですよ!」
「…ふぁ〜い…」
 起き上がる彼女を見届け、釈然としないまま鈴音は店内に戻って行った。
「あたたた…本気で殴られた〜」
「当たり前だ」
 拳骨を喰らった頭をさすりながら、ふらふらと起き上がる眞宮に呆れた風に返す恋。
「そいつは失敬! まあさ、いいんじゃなーい?」
「何が」
「恋ちゃんは恋ちゃん。鈴音ちゃんは鈴音ちゃんだから。どっちも“らしく魅力的”って事よー。じゃね」
 笑いながら店に戻った眞宮は、今度は鈴音相手に雑談を交わし始めたようだ。
「…アタシ、らしく…か」

「お、その曲」
「ええ、マスターが好きな曲です。お昼過ぎはいつも流れてて」
 店内の片隅に置かれた古めかしい二つのジュークボックス。今時見かけないレコード版の方を操作した鈴音に、眞宮が苦笑する。
「馬鹿の一つ覚えって言うか。あの見た目で結構古風なのよねー、てんちょってば」
「でも好きでしょ、眞宮さんも!」
「…んー、落ち着くいい曲なのは否定しないよ」
 カランカラン――
「いらっしゃいませー」
「いらっしゃいませっ!」
 異口同音に、来客を迎える二人。
「やあ、お邪魔するよ。彼の具合はどうかね?」
 やってきたのは、年配の教師。彼もまたここの常連だった。
「まあ、大分快方に向かってるみたいよー。ちょっと油断すると店に出ようとするけど」
「はははっ、昔から頑迷さは筋金入りだからなぁ。…この曲も、あの頃から欠かさずかけておるしな」
 開店当時を知る男性は、懐かしむように。
「さて、特製ブレンドを一つ貰おうかね、お嬢さん」
「はいっ、承りましたっ!」
 元気のいい返事に微笑を浮かべ、老教師はゆったりとカウンターに腰掛けるのだった。

●千鶴と神楽
 カランカラン――
「おはようございます」
「おはようさん」
 AM5:30。
「や、おはよー。同伴出勤かぁ、いいにゃー」
「なんでそうなるんや」
 眞宮の揶揄に、宇田川 千鶴(ja1613)が半眼で突っ込む。その隣で石田 神楽(ja4485)はにこにこと内心を窺わせない笑みを浮かべていた。
 アルバイト前の顔合わせの時に、眞宮は二人の関係を雰囲気で察したらしい。その後、鈴音から聞き出してもいた。
「更衣室は男女別無いから、交代で使ってねー」
「了解や」
「分かりました」
 と、手荷物をゴソゴソとはじめる千鶴。やがて取り出したのは、一着のメイド服。…持参した割には、サイズが彼女の物ではない様だったが。
(ふ、これは神楽さんに来て貰えちゅうフラグやねわかりま…)
「何を笑っているんですか、千鶴さん?」
 背後から、その肩を掴む神楽。その指に徐々に力がはいっていく。
「ところでそれ、随分とサイズが私にぴったりなようですが…」
 流石インフィルトレイター、一目で素晴らしい補足力!って、関係あるか?…まあ、あるとしよう!
「あたっ、いたたたっ!ちょ、神楽さん私病み上がりやてっ…いたいいたいっ」
「はっはっは…おや?」
 するっと手応えを失い、蹌踉ける神楽。見れば彼の手にメイド服が残り、涙目の千鶴は少し離れた場所に移動していた。
「空蝉ですか」
「お、覚えてろやーっ」
 ぱたたた、と小走りに千鶴は更衣室に消える。
「全く、仕様もない事を」
「ほっほーう、メイド服。いいねぇメイド服♪」
 横から掛けられた声に振り向けば、眞宮が目を輝かせて笑っていた。何かを企んでいそうな顔で。
「…着ませんよ、私は」
「いやまあ、それも面白いとは思うけどさ。旦那旦那、ちょいとお耳を拝借!」
 よってきた彼女にかすかな警戒心を抱きながら、その言葉を聴く神楽は、やがて微苦笑を浮かべる。
「…無茶はしないでくださいね」
「合点承知♪」
 と答えて、眞宮は更衣室へと入って行った。
 それから暫し――。

 ごと、がたん、ごとっ!
『ちょ、いきなり何するんや!?』
『ふっふっふ、いいではないかいいではないかー♪ お、空蝉で逃げるかー? しかし、もう下着姿じゃ外にも出られないにゃー♪』
『この、変態っ!』
『いや、お姉さんそっちの趣味はないから。序でに旦那には了承済みよー』
『な!? あ、あの狸―!!』
 口論と、人が揉み合うような音が聞こえてくる。
「さて、次は外ですね」
 何事もないように、神楽は店内の掃除を済ませて行くのだった。

 ぽん、と放り出されるように更衣室から誰かが飛び出してくる。
 丁度掃除を終えて戻ってきた、神楽の目の前に。
「はっ、はぁ、はぁ…て、あっ」
「ふむ、やっぱり千鶴さんの方が似合いますね」
 メイド服姿に着替え(させられ)た千鶴の姿をニコニコと眺める神楽に、ぼふっと顔を紅潮させて言葉を無くす千鶴。
 暫く声も出せずパクパクと口だけを動かし、完全にパニック状態に陥る。
「ふぅ〜、いやあ、いい仕事できたよー」
 続いて満足げな笑みで出てくる眞宮に、神楽は疑問を一つぶつける。
「ところで、サイズが違う筈でしたが」
「あ、それ直した。私、こっちの方も得意なのよー」
 と自前の裁縫道具セットをとりだす彼女。どんだけ神針子ですか。撃退士能力の無駄遣いである。
「それと今クリーニング店の親父さん来てさ、着替えのウェイトレス服とか神楽君のウェイター服以外出しちゃったから♪」
「なっ、ちょ、まちいや!?つまり今日一日…」
「うん♪ 頑張ってね、メ・イ・ドさん♪」
「これも身から出た錆びですねぇ、諦めましょうか」
 二人の煮ても焼いても喰えなさそうな笑顔に囲まれて。
「あ、あんたらっ、覚えてろやー!!」
 魂の叫びが店内に木霊した。

 その一日、好奇(といっても可愛らしい彼女の姿に対する好意的)の視線に晒され続けた千鶴は、初日で一週間分疲れたような気がした。
「ううぅ、は、恥ずかしかった…」
 がっくりとカウンターに突っ伏す、閉店後の店内。
「でも似合ってましたよ」
 厨房から賄いをもって出てくる神楽だが。
「黙りっ、この狸!」
「はっはっはっ」
 勢いよく彼の襟首を掴み、がくがくと揺さぶる千鶴。しかし神楽の笑顔も手にする料理も小揺るぎもしなかったという。
 無論だが、次の日は普通にウェイトレス服を渡された。
「まあ、収穫もあったしねー♪」


 後日、鈴音と恋のシフト日に二人は雨音を訪れていた。
「いらっしゃい、宇田川さん。私の働きっぷりを目に焼き付けるといいですよ!」
 やはり根拠はないが自信満々に言い切る少女に、ふわりとした笑みを向ける。
「うん、参考にさせてもらうわな」
 ぱたぱたと注文を取りにいった鈴音に続いて、恋が注文した品をもって二人のテーブルにやって来る。
「恋さん、ウェイトレス姿すればえぇのになぁ。ウェイター姿も格好えぇが、六道さんとお揃いとか可愛いと思うよ?」
 との言葉に、恋はふるふると首を振ってみせる。
「こっちがサイズぴったりだし…可愛いのはね」
 と、その背後からにやりと笑う眞宮が現れる。
「あ、そーそー!可愛いと言えばね、これ♪」
「え、何々?」
 丁度そこへ戻ってきた鈴音と恋に、眞宮は携帯の待ち受け画面を見せ付ける。
「なっ!?」
「おや」
 それまで会話を聞いているだけだった神楽が、そこで反応する。
 画像に写っていたのは、赤面しながら接客をするメイド姿の千鶴であったといふ。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

黄金の愛娘・
宇田川 千鶴(ja1613)

卒業 女 鬼道忍軍
闇の戦慄(自称)・
六道 鈴音(ja4192)

大学部5年7組 女 ダアト
黒の微笑・
石田 神楽(ja4485)

卒業 男 インフィルトレイター
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
女子力(物理)・
地領院 恋(ja8071)

卒業 女 アストラルヴァンガード
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター