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マスター:火乃寺
シナリオ形態:イベント
難易度:難しい
形態:
参加人数:25人
サポート:5人
リプレイ完成日時:2013/02/17


みんなの思い出



オープニング

「久しいな、変わりないかアナイティス?」
「はい、こちらは恙無く。ミカエル様も、お変わりなく何よりで御座います」
 柔らかな声をかけたのは、四国は愛媛に在る筈のミカエル。それに跪き恭しく頭を垂れるのは九州は阿蘇大ゲート外縁部にゲートを構えるフリスレーレの主、天使アナイティス。
 共に穏健派である事もだが、他より随分と永く生きてきた女天使は相応に上位者との知己もあった。
 昔の思い出を語り合える相手、と言うのは派閥に寄らず貴重なものである。
「ふふ…そうだな。相変わらずだ」
 曾ては天界に在っての実力者も、今ではこの世界に押し込められているのが現状だ。
 笑みは自然皮肉と自重の入り混じった物となっていた。
 許しを与えられ、彼女は立ち上がる。
「とは言え、こちらは今少しばかり雲行きが妖しくなっていてね」
 具体的に何が、とは未だ掴めていない。だが漠然とした不穏な気配を、ミカエルを筆頭とする穏健派は感じていた。
「その事で、少しばかり協力して貰いたい」
 二人が現在居るのは、現実空間ではなかった。精神感応を利用した互いの精神の擬似連結――つまりは“夢”と呼ばれる精神世界である。
「私の様な非才の身、お役に立てるなら如何様にも働きましょうが…現在、我が身はメタトロン様の配下」
「解っている。だが、今は打てそうな手は何でも打っておきたいのだ。その点はメタトロン殿にも話を通してある」
 如何に上位者とは言え、穏健派の彼が過激派の天使に指示を出す事は難しい。自然、同様の立場に在る者達を使うしかない。
「でしたら一つ策…というより、小細工の域では御座いますが」
「よい、聞こう」
 はい、と頷き、女天使は続ける。その内容を暫く思案したあと、
「分かった、何でも良いと言ったのはこちらであるしな。子細は委せる」
「承知致しました」


 寝具に横たえていた身を起こす。閑かに目を開き、小さく息を吐く。
『フリス…ああ、今は湯浴みの時間かしら?』
『はっ、いえ、すぐに仕度して参ります』
 慌てて服を着込んでいる雰囲気の娘に、笑いを含みながら彼女は穏やかに言い渡す。
『いいわ、ゆっくり身を清めてからいらっしゃい。其れ程急ぎでもないですからね』
『しかし…』
『良いと言ったら良いのよ、さっぱりしていらっしゃい』
『は、はい』
 念話を終えた後、書き物机に向かい一筆したため、小さな筒を取り出してその中に蔵める。
 其れから十五分ほどして、入室を問うフリスレーレの声が部屋の外から聞こえてきた。

「ゆっくりしてきなさいと言ったのに」
「そ、そう云われましても母様が御呼びとなれば、その」
 普段は三十分以上湯浴みに掛ける娘を知っている私は、揶揄うように。
 後半はごにょごにょと言い募るフリスに笑いかけて、椅子を勧める。
「まあいいわ、お掛けなさい。一つ、やって欲しい事があります」
「ハッ、何なりとお申し付け下さい!」
 椅子に座りかけて、途中でバッと姿勢を正して直立不動の姿勢で受け応えた彼女に苦笑する。
「本当に、貴女はもうっ。ここに部下は居ませんよ?」
「…、ついその、日常の癖が」
 其れから顔を見合わせて、くすくすと笑いあう。自然に収まるまで待って、互いに向き合い腰を落ち着けた。
「そうですね、難しいといえば難しいですが、実際に行う事は単純でもあります」
 一言一句聞き漏らすまいと、真剣な顔をする愛しい子ににっこりと。
「ちょっとエインフェリア200くらい連れて、散歩していらっしゃい♪」
「…………………はい?」

 多分その時、私はとても間抜けな顔をして居たんだと思う。だって母様、物凄く笑われたもの。
 それから暫く、フリスレーレは拗ねた。


「一体なんだってんだい、こりゃ?」
「目的は不明、ですが無視するには大掛かり過ぎます!」
 九州はN県中央を抜ける国道、それをサーヴァントの団体さんが絶好調邁進中と報告が入る。
人類側が知る由も無いそれは、ゲートでのやり取りから二日後の昼食時の事であった。
「常在戦場大歓迎って言いたいトコだけど、昼飯位ゆっくり食いたいってのも正直なところだねぇ」
 途中で買い込んだバーガーを齧りつつ、対天魔対策司令室・九州支部の指令所に入った鷲ヶ城 椿に様々な報告が舞い込む。その中には副官や部下達が、彼女が居ない間に手配した指示等も含まれる。
 彼女が鍛え上げた彼らは、彼女が例え戦場で倒れても冷静に指揮を引き継げるよう育った。その成果を確認して頷く。
「即動可能な国家撃退士60余、既にスフィアリンカー達も転移の準備を整えつつあります。やや、数の上でこちらが不利ではありますが…」
「ふん、そうだねぇ…」
 一瞬思案し、浮かんだ考えを即決して発する。
「久遠ヶ原に緊急要請だしな。ガキ共の尻を2〜30ばかし、あたしに預けろってなっ」


リプレイ本文

N県、国道X号線近郊。
PM14:14、敵右翼と九州支部実働班32名、交戦。
PM14:15、実働班31名、敵左翼と交戦。

 スフィアリンカー達による転移により、各隊はそれぞれ目標とする敵左右隊、及び本隊を視認可能距離まで一斉転移を完了。
 統率の取れた国家撃退士のチームが迅速に敵左右へ襲い掛かった。
「無理をする必要は無い。我々の目的は足止めと切り離し。効率よく禦ぎつつ、押し込め」
 銀縁眼鏡を押し上げ、白いスーツを纏う銀髪の男が指揮を取るは、ルインズブレイドとアストラルヴァンガード、そしてインフィルトレイターで構成された左翼。
 前衛が徹底した防御陣を敷いた上で、先制長射程射撃で一方的に打撃を加えて行く。尤も、通用するのは初手だけなのは折込済み。
「どうせ右は無茶をするだろうからな。我々は後半に備えて耐え陵げ」
 部下達にそう声を掛け、手にするマグナムを構え、撃つ。直撃を受けた重装兵の大盾が大きく陥没し、蹌踉ける。
(さて、問題は中央。それ次第で作戦は制まるというのに…今回ばかりは司令は何をお考えなのか)
 チラリと男は右方、中央本隊へと向かう一団へと視線を向けた。

PM14:16、久遠ヶ原派遣隊、敵本隊と交戦状態に突入。

●戦端
 見た目は半透明な幽霊の如き天魔、エインフェリア達は異様なまでに音の無い陣容を彼らの前に展開する。僅かに足元が浮いている為、足音が無い。

 学園生達もやはり、初手において射程を保つ銃器がその砲火を切った。
(冥府の気が詰まった弾だ。受け取れ!)
 双方の前衛が衝突する寸前、後方から一線を引く弾丸がその威力を持って重装兵の大盾を穿ち、背後に隠れる本体に炸ける。
 威力が減じていた為一撃必殺とは行かぬも、目を見張るダメージを叩きだす。
 ニーリングポジションで翡翠 龍斗(ja7594)はスナイパーライフルのボルトを操作、生成された弾丸が装填される。
 練り上げた気にカオスレートが更に作用し、強烈な一撃となっていた。続けてもう一射と覗くスコープに天魔の動きが映る。
(…そう来るか)
 先ほど彼の弾丸を受けた天魔が下がり、後列から無傷の天魔と入れ替わる。
(まあいい、狙えるのを撃つだけだ)
 割り切り、気を練り上げる。

ドラグニールF87の弾丸が大盾に弾かれる。気にせず飯島 カイリ(ja3746)はトリガを引き続けた。
 的であるエインフェリア達にある人が想い起こされる。
(ふりすねぇ、いるのかな)
 人と言うには語弊が在るかもしれない、相手は天使に仕える使徒。
 間断の想起は然し、戦場という現実の前に意識を引き戻される。
(楽しいけど、今回は状況不利と見た方がいいのかなー)

(僕は僕の役目を果たすのみです)
 構えるオートマチックSA6の反動を抑えながら、立て続けにトリガを引き続ける。
 射程の関係上、天魔の射程圏内に踏み込んだマーシー(jb2391)は降って来た魔力弾に狼狽てて飛び退った。
「危ないですよっと」
 前衛が少ない為射線確保に支障は無かったが…それは同時に後衛にも攻撃が及ぶ事を意味している。
(ま、何れ避けえぬ事態という奴ですねぇ)
 意識を集中し、アウルを常より弾丸に注ぎ込み、放つ。
「この数でサーバント群を突破しろか…この司令を出した鷲ヶ城という人物は莫迦者か」
「ははっ、ズバッといいますねぇ」
 背後で射程ギリギリから鶺鴒を思わせる美しい和弓を放ちながらごちるケイオス・フィーニクス(jb2664)にマーシーが思わず噴出す。
(それとも、我らを信頼しているというのか、根拠も無く)
 だとしてもやはり莫迦者だな、と彼は思った。


「…司令、一つお聞きしてよろしいですか?」
「あん、なんだい?」
「何故、統率の取れた部下たちではなく、学園の援軍を要に用いられたのです?」
 司令室で次々に入る戦況報告。
その最中の副官の問いに、ニヤリと笑う椿。
「思いつき、或いは勘」
「……」
 無言でじと目を送る副官。
「そ、そんな目で見なくてもいいだろ。あたしの勘はよく当たるって」
「…確かに、これまではそうでしたが」
「まあ、最後まで見てなって。どうなった所で責任取るのはあたしだけなんだからさ」


衝突は、撃退士側に分が良いとは言えなかった。
天魔は重装兵を半数ずつに分けた二列横隊、更に後方に魔法兵の三列目が控え、そこから魔力弾が学生達の頭上に次々と降り注ぎ、爆ける。
その渦中を黒白の光に身を包み、顔や露出した肌に銀と緋の光紋を浮かび上がらせる小田切ルビィ(ja0841)がカエトラを顕現させ、駆け抜ける。
(――今回の不自然な展開軍の動き…何かの牽制と考えるのが妥当かね?もしくは…)
 思考の最中、ルビィは突き出されて来る二本のランスに中断を余儀なくされ一本を躱し、手にする鬼切で一本を弾く。
「今は考えてる場合じゃないか!」
 袈裟薙ぐ赤い刀身が、大盾とかち合い火花を散らす。
 その隣を疾駆するのは、戦うおでん、或いは美味しそうな紳士、オーデン・ソル・キャドー(jb2706)。
 おでんを愛すが故に被り物にまでしてしまった彼は、似つかわしくない戦場を大剣、ヴァッサーシュヴェルトを翳し突き進む。
(壁を破り、敵陣に楔を打てるかどうかがポイントですね)
 刀身を覆う流水が如きアウルに、降り来る魔力弾の威力を減じさせ対消滅する衝撃を持ち手に感じながら、待ち構え突き出されたランスの切っ先と叩きあった。

(突破に時間を掛けるのは得策ではないな)
 重装兵の側面に回りこもうと試み、然し別の天魔から突き出されたランスを鳳 静矢(ja3856)が大太刀・柳一文字で弾き、飛び退る。
 敵の陣形は守勢を維持し、後方の魔法兵による一斉撃をメインとしているようだった。
 彼は背後にダアトの亀山 淳紅(ja3856)、鳳 優希(ja3762)、六道 鈴音(ja4192)を庇う様な位置取りを意識していた。
 その隣で、同様に立ち回るRehni Nam(ja5283)の手に煌く白銀の聖槍。魔力で形成された金色の刃が少女のが放つ呪を高める。
「これでもくらうです!」
 降り注ぐ小型の彗星が次々と着弾し、粉塵を巻き上げる。巻き込まれた数体の天魔が膝をつき、掛かる重圧に躰を軋ませる。
 しかし、陣形維持を優先する天魔はそれを崩さない。

 学生達の攻撃に倍する量の魔力弾が、再び降り注ぐ。範囲優先で放たれる魔法は威力はそう高くないが、絨毯爆撃は避ける空間が殆ど無いのだ。
一見誰もいない場所に着弾する物も支援に飛び出そうとする者達にとっては足止めとなる。
辛うじて隙間を通す様に避ける者もいたが、被弾した者は生命力を容赦なく削られていった。
 せめてもの救いは、一斉攻撃で在るが故に回復の間が訪れる事だ。

「チィッ」
 アサルトライフルAL54で弾薬をばら撒きながら、赤坂白秋(ja7030)が舌打つ。
 体力を温存して機を待つ、それが彼らの方針だった。だが状況はそれが不可能であると告げる。
(時間を掛ければ掛けるほど、突破力も持久力も削られるって訳かい)
 迷ったのは数秒。
「…はっ!ジリ貧待つより一発勝負だな」
 シニカルな笑みを浮かべ、青年は叫ぶ。
「決死隊、突撃ッ!」

●突貫
 号令は、同時にもう一つの意味を兼ねる。

「いきますよ」
 長大にして繊細さを併せ持つ洋弓――魔界の狩人バルバトスの名を冠するそれが菊開 すみれ(ja6392)の手により引き絞られ、放たれる。
戻る弦に巻き込まれた風に、彼女の肩まで伸ばされた髪がふわりと流れ。

「風穴、ブチ開けますよ」
 これまでに無い過剰なまでのアウル。少年の一撃に込められるのは、護るが為の凡人の狂気。
「さよならですよ、死ね」

「ほいほい、気合いれてほんならいきましょかー!」
 虹色の淡い光を纏い、歌声の如き詠唱呪と共に淳紅の魔力が高まる。それに煽られ捲れ上がる魔法書の頁、描かれた楽譜や記号が奏でる様に舞い踊る。
「合わせますっ!」
 天魔の描かれし魔道書を介し、優希の魔力が集約、黒き三叉槍となってその手に現れる。
「了解っ、待つのはあんまり趣味じゃありませんしね!」
 鈴音の足元から吹き上がる紅蓮の奔流が龍の如くとぐろを巻き、天に掲げられた右手に集う。
「征け!」
 上段から振り下ろされた大太刀から、紫鳥が破壊の翼を広げ。
 矢が、銃弾が、光が、槍が、渦巻く炎が、黒き衝撃波が、誘われるが如く敵陣列一点へと殺到――その一端を飽和火力が嘗め尽くし。
 本隊前衛、そして決死隊と位置づけられた数名が開かれた活路に雪崩れ込んだ。
「道を開けろぉぉっ!!」
 十字槍から渾身の一撃を放ち、体当たりをする様に割り込む黒井 明斗(jb0525)。
 然し盾で受けられ、反撃されたそれを自身も天使と悪魔が掘り込まれた凧盾で受け陵ぐ。
「駄目押しだ」
 明斗の一撃に続くように、何時の間に距離を詰めていたアスハ・ロットハール(ja8432)が呟く。
 前面に展開せる魔方陣、その中央に焔紅の魔力を帯びた片刃の大剣を突き立てる。
 嘶く様に現れる幻影の馬身、跨がるは真紅の鎧纏い騎槍を手にする少女の貌。出現と同時突撃するそれの槍が正面の一体と、その後背にいた一体を貫き、共に霧散する。
「御武運を!」
「ああ」
 別の天魔が割り込まぬ間にと黒羽に包まれた魔術師は駆け抜ける。その背に癒しのアウルを送り、少年は再び迫る天魔と対峙した。

(…なるほど、ね)
 部下達の感覚を介して捉えた人間達の動きに、狙いを察するフリスレーレ。
 さりとて即座にそれに対応する陣形を整えられない。守備重点の布陣は、機動力と言う点で大きく劣った。
(数の不利からの選択か、力任せの我武者羅か。どちらにしても悪くは無い、イニシアチブは取られたようね)
 考えながら、自然と唇に笑みを浮かべる。何処か満足げに。
(だがそれも時間の問題。時は容赦なくお前達の勝率を下げる)
 彼女の命に答え、傍に控えていた巨躯の戦士を模った一体の天魔が進み出る。
『ニーシュトル、勇士らの相手を。存分に歓迎してあげなさい』
 一礼をするエインフェリアが、彼女に背を向けて戦場へと歩む。
古の異界、人であった頃の彼女の下、傭兵として戦った戦士の一人。
だが彼に最早自我など無い。素材とされた為、生前の外見が遺っているだけ。だとしても。
『今日まで付き合せて――すまぬ』


 集中砲火により活路を開いたは良い。
 だが天魔の陣列は、幾らか減じて尚圧倒多数を誇る。それらを相手取る学園生達は更なる劣勢を強いられる――筈であった。本来ならば。

 歌声が韻き、戦場一部を妖しき霧が押し包む。
ガシャリッ、ガシャッ、ドゥ――
「ねんねした子は起こさんといてなー!暴れとる子から片してや!」
 霧に包まれた重装兵達が次々と膝落ち、魔力の眠りへと誘われる。淳紅の呪によって。
 元来、戦において尤も重視されるのは数。普通であれば敵を倒して削ろうと考えるだろう。
だが一撃で倒せなかった相手は反撃をしてくる。結果それで自身が倒される可能性は消えない。
ならば如何する?
答えは、『一時無力化』。
彼の魔法は、短い時間ではあるが本隊が持ち堪え、逆に敵戦力を削る猶予を作り出す。
集団戦であればこそ、活きる手段もある。

 尤も迅速に動き出したのは機動力に優れる忍軍、カーディス=キャットフィールド(ja7927)。
 碧が虎の如きアウル(本人は猫と言い張っているが)を纏い疾駆する彼に、横合いから突き出されるランス。軽やかに躱し、返す刀とリボルバーM88で一撃。範囲魔術に巻き込まれ深手を負っていた天魔が脆く崩れ去り、光の塵と還る。
「そんな攻撃はあたりま…おっと」
 至近に着弾した魔法に飛び上がるように避け、
「まずは突破が先決ですね〜」
 もう一発で魔法兵を撃ち抜いてから、突破一番手を果たす。

「気休めではあるが、無いよりましであろう」
 飛び込んで行く者達を追いながら、術範囲に捉え、黒兎 吹雪(jb3504)のアウルが彼らの身をヴェールのように包み、加護を施して行く。
 一見幼い少女のような外見をした少年だが、これでも実年齢は三桁に上る。
 突撃の最中、龍崎海(ja0565)はランス数本を大剣でいなすオーデンに意識を集中する。
「助かります」
 謝辞を聞きながら、療しの光が彼の傷を塞いで行く。
 既に敵魔法射程にほとんどの者が踏み込んでいた。降り注ぐ魔力弾に、バックラーを顕現させ陵ぐ。
「させないよ」
 直後盾の消えたその手に、凝縮された光輝の槍が出現、躊躇得なく振り放つ。
 穴を塞ぐ様に動き始めた敵陣の一部を巻き込み、渦中を抜ける光槍。立て続けに二度放たれ、既に被弾していた魔法兵二体を光の塵へと還した。
「厄介なのは先に潰して行く」
 咲村 氷雅(jb0731)の意思に応え、今まさに魔法を放とうとしていた魔法兵三体が頭上に青光を帯びた無数の刀剣が降り注ぎ、その身を貫く。
 霧散する天魔と共に、その刀剣も消え失せた。

「何が目的か知らないけど、天使も悪魔もあっちこっちで忙しそうだねぇ」
 細身の大太刀がランスを叩き落し地を噛ませる。
 衝撃にふわりと舞い上がり流れる紅き髪。手にする蛍丸を即座に引き飛び退るは神喰 茜(ja0200)。血濡れが如き焔を纏う修羅の一人。
 楽しげに、剣呑に。笑う少女は紅が金色へ、纏うは更なる深紅。
「押し通るよ♪」
 敵中を次々と駆け抜ける仲間に続き、手近な重装兵に擦れ違い様一太刀をくれる。

「使徒を引きずり出す簡単なお仕事です、ってか?」
 ケラケラと笑いながら、麻生 遊夜(ja1838)が愛用のアサルトライフルAL54の銃口に、闇が集約される。
構えるそれは独自に改造、改良された彼専用、愛称を「A cynical(ひねくれ者)」。
銃身を運り、そして腕から肩までに纏わりつく赤の螺旋。
「まったく、ブラック企業も真っ青だな」
「ふふ…ですが、分かり易くていい」
 並び飛び込んだレイル=ティアリー(ja9968)が微かに笑みを浮かべ、手にするカッツバルゲルを繰り出す。
 大盾をすり抜ける刹那の一撃は、寸分狂い無く重装兵の胸元を貫き、優しき風は光の砕片を帯びて、そよぐ。
「ま、役割はこなすさ…キッチリとな」
「お願いします。こちらはそれまで、保たせますよ」
 遊夜が解き放った銃弾は別の天魔が構える大盾を貫き、本体を炸けさせる
「お前さん方には効果覿面だやな、こいつは」
 更に残りを叩き込み、道を切り開く。

 突撃を敢行する一隊側面に攻撃を繰り出そうとする重装兵、そこにルビィが大太刀を振り下ろす。
 放たれる漆黒の衝撃波がそれらを飲み込み、尤も被弾の大きかった一体を霧散させる。
「やらせないぜ。あんたらの相手は俺達だ」
「然し、これはキツイ」
 マスクの下で苦笑を浮かべながら、開いた間隙を更に斬り広げようと突撃するオーデンらを襲う魔力弾。
(敵大将に到達したとして、その指揮を削ぐまでどれだけ掛かるか…泣いていいですかね?)
 尤も泣くほど柔なメンタルではないし、マスクが在るから見えない彼であるが。
「突破の邪魔はさせない!」
 決死隊でありながら、森田良助(ja9460)は中々動こうとせず、穴を塞ごうと巡り込んで来る重装兵に、長射程から弾丸を叩き込み続ける。
 世界蛇ヨルムンガンドを冠する漆黒のライフルを手に、最後尾を務める心算だった。
 ダークショットを撃ち尽くし、手札を切り替え。活路を維持しようと務める本隊への魔法をその高い射撃精度で撃ち外らす。
「僕で、最後だよ!」
 他が突破するを確認し、本隊に周知させる様に叫んで全力で駆け抜けた。

●前哨
 正面に飛び込んでくる相手に遠慮をする筈もない。二m近い体躯を保つエインフェリアが、待ちかねたと言う様にその上背を上回る大剣を猛然と薙ぎ払う!
「うわっ!」
「くっ」
 先陣を駆けたカーディスがその一撃をぎりぎりで体を沈め滑る様に躱し、続いていた海が丸盾で受け止め大きく体勢を崩す。

 敵陣を突破した良助は即座に向き直り、決死隊に狙いを移した一部の魔法兵に弾丸を叩き込む。
「こちらは僕が抑えますっ」
「おう、じゃ任せるわ」
持ち替えた両刃の大剣、ブラストクレイモアを手にアラン・カートライト(ja8773)が大剣戦士へと左方から斬りかかる。
 甘いマスクに微笑を浮かべ、真紅の光纏の中、赤く染まる瞳を細め。
 直後、大剣戦士の背に叩き込まれる無数の銃弾!
『ガァッ!』
「背後がお留守だぜ?」
 背後に回りこんだ白秋は、アランと挟み込む様に天魔を捉え、その動きを翻弄する。
故に気づくのが一瞬遅れた。側面に滑り込む少女の挙動に。
 舞うは黄金の血火、突撃の勢いを上乗せした強烈な打ち込みが更なる闇を纏いエインフェリアの脇腹を突き抜く!
『――ッ!』
 辛うじて、戻した大剣で僅かに威力を削いだものの、大きく吹き飛ばされる天魔。意図せぬ距離が開いた事で、その戦術判断に刹那の断絶が生じる。
「これで沈めるのぜ!」
「好機だのう」
 その隙を見逃す事無く、体勢を立て直そうとするそれに遊夜が放つ銃弾や、吹雪が放つ雷の剣が射程を次々と叩き込まれる。しかし。
「まだ倒れないかよ」
 だが、茜が笑う。
「ううん、もう終わりだよ」
「詰みであろう」
 考えなしに、彼女は天魔を吹き飛ばした訳ではなかった。大剣戦士の背に立つ魔術師。
「正真正銘の切り札だ…貫け、バンカー!」
 右眼窩に渦巻く赤光が刹那に煌き、轟音が響き渡った。

●相対
『無茶をするものだ』
 爆け飛び、霧散する天魔。自身にまで及んだ爆発の威力に膝をつくアスハの真後ろから、呆れた様な声が掛かる。
「――ッ!」
 いつ接近されたのか、微塵の気配も無く現れたそれに青年の体が硬直する。首筋の左右は、既に二つの刃に挟まれていた。
「アスハ!」
 爆煙が流れ現れたその光景に、息を咽む撃退士達。
『余程の死にたがりか。望むなら、私の刃で断ってもよいが?』
「…僕は、彼女と、添い遂げる…ココでは終われん!」
『そうか』
 刃が離れる、と思われた刹那、強烈な衝撃に吹き飛ばされる。
『では、その彼女とやらの代わりに仕置き…と思うとよい』
 言い放ち、フリスレーレは回し蹴りを放った足を下ろした。

 一斉に動き出す学生達。一人が正面から使徒へと詰める。迎え撃ち繰り出される刃。
 小型の丸盾を媒介に、正面に展開される障壁。一撃を受けられたフリスレーレが微苦笑を漏らす。
『中々の技だが…もう少し良い物を使えば、更に良くなろうに、な!』
 双剣の次撃を受け止め、吹き飛ばされそうな衝撃に辛くも堪え、数歩押し戻される海。重さに表情を蹙めながら、使徒に応える。
「大きなお世話だよ。…ところで、この時期の大規模な行動、四国と関係が在るのかな?」
『唐突で脈絡も無い質問だな。それに――』
 狙い放たれた銃弾を避け、飛び退った使徒は海との距離を開ける。
『答えてやる暇も無い』

「まったく、アレの言い草ではないが無茶が過ぎるであろう?」
「僕に、他の、戦い方は…ない」
「やれやれ」
 呆れたように肩を竦める吹雪。会話の最中も彼の魔法がアスハの傷口を完全に塞ぎきる。
「言うておくが、次は無いぞ」
「わかって、いる」

「さあ、“猛銃”がお相手するぜ」
 銃弾を放った白秋がニヤリと笑い更に銃口を閃かせる。
何発かは直撃するも、それらは使徒の纏う鎧に阻まれ浅い。そこに背後から一撃が振り下ろされる!

振り向きもせず片手の双剣で受け止めた大剣。
『中々呼吸のあったコンビだ。が、一度見せた手は効果も半減よ』
「そいつは悪かったな。で?今日は新たな出会いでも求めに来たのか?」
『――よい出会いが在るなら、それもいいがな』
 逆手に持ち替えられた双剣がアランの脇腹を深く切り裂く。
「ッッ!」
『軟弱な男は趣味ではない』
 痛撃に表情を歪め後退する彼を追う使徒。その間に別の影が割り込む。
光と闇、互いに引き合う様に。
 茜が薙ぐ一撃を肩当で受け。使徒と視線が交わった直後に少女は身を捻る。その腹部を浅く刃が切り裂いた。
『猪武者かと思ったが。放つ鬼気に似つかわない動きをする』
 無傷ではないが、未だ余裕を崩さぬフリスレーレ。
「私だって相手によって戦い方は変えるよ」
『そうか。侮った事を詫びておく』
 数合斬り結び、互いに後方へと飛び間合いを取る。その瞬間、使徒の周囲を取り巻く赤き蝶。
「砕け」
 標的を押し包み、氷雅が展開させた蝶は次々と爆裂していく。だが威力はそう脅威でもない。
 問題は数瞬とはいえ、全周囲の視界を断たれる事。そしてそれを見越したように、赤髪の魔術師がその渦中へと飛び込んだ。

●抗戦
「舞うのです、蒼き鳳凰よ」
 優希の所作に誘われる様にアウルが蒼き鳳を形成、障壁となって飛来する魔力弾の威力を減じる。
「すまぬな、人の子よ」
 序盤は有用であったが、如何に自身から意識を外らそうとも範囲攻撃に巻き込まれる確率は0にはならない。
 然も突破口維持となってからは誰もが射程内に踏み込まざるを得なかったのだ。
 庇われたケイオスは飛び出し、少女の側面に回りこむ天魔にショットガンST5から実包弾をばら撒き、押し止める。
 防ぎ切れなかった余波で傷ついた優希に治癒の光を送り込むRehniだが、その力も多く残ってはいない。
「サーバントを連れてピクニック、寒い時期につき合わされる方は堪りませんね」
 バックラーを構え守りに徹するティアリーは、守備に徹しただけあって未だ余裕があった。
 今も再生のアウルが、彼の傷口を徐々に癒していく。だが、それも無限に続く訳ではない。
(私はともかく、皆さんはそろそろ限界ですね)

「あ…」
 後方でアサルトライフルを手に支援射撃に徹していたソーニャ(jb2649)は何かに気づいた様に攻撃を止め。
 はかなげな天使の如き雰囲気を纏っていた少女は、文字通りその翼を顕現させ、低空を羽ばたいて仲間の頭上を滑る。
 正直にいって危険な行為ではあった。だが突破時に大分減らされた魔法兵と、前衛のルインズやディバインの維持もあり、撃墜される事無く目的の場所に降り立つ。
「あたたた…」
 マーシーが深手を追い踞っていた。
「きみ、ボクにつかまって」
「へ?お、おわっ!?」
 小柄な少女の外見からは想像できない腕力で少年を抱え上げ、再び飛び上がる。思わずマーシーはその首に抱きついた。
「…くるしい」
「あ、ごめん」
 後方に搬ばれながら「あ、これちょっと役得?」などと考える少年であった。
 端から見ると情けない格好ではあるのだが。

(――あれは…フリスレーレさん!?)
 乱戦の最中、敵陣後方で敵大将と思わしき天魔と交戦する仲間。その光景を目にして鈴音は叫ぶ。
「双剣使いで接近戦主体のハズです、気を付けて!」
 嘗て一度見知った使徒の姿に思わず叫ぶ。だが少女の声は戦闘の喧騒に掻き消された。
「もうっ!敵の数が多いったら…しつこい男は嫌われるんだよ!」
 声を上げるすみれ。周囲で傷つき、疲弊して行く仲間の姿にその表情は険しく、祈るような視線を使徒と戦う仲間へと向けた。


突然、一糸乱れぬ統率を誇っていた敵陣に、大きな乱れが生じる。
それはアスハが、爆ぜる蝶の中に飛び込んだ直後の事。
「攻撃に転じますよ」
「よーしっ!そろそろこの戦いも終わらせちゃいます!」
 齎された好機に最大限の結果を導くべく、学生達は最後の力を以って一斉反撃へと転じる。
 急に統率を失い、混乱と本能に乱れた天魔の群れは、国家、学園、両撃退士達にとって脅威では失くなっていた。


 背後から襲った衝撃、直後叩きつけられた爆裂にフリスレーレの表情が歪み、数歩蹌踉めいて蹈鞴を踏む。身に纏う銀と紅に分けられた胴甲冑に無数の皹が走る。
『…あの程度の仕置きでは足りなかったらしいな』
 彼女の手に、双剣は無かった。手放されたそれは、アスハの両肩に深々と突き刺さって。
「……」
 何かをしゃべろうとして、果たせず。青年の躰は徐々に石化が進行していた。
『然う然う無茶をされては、こちらが適わぬ。暫し大人しくしていて貰おう』
「…――」
 完全に石化したのを確かめ、双剣を引き抜く。
『…大分消耗させられたか』
 あの瞬間、防御に全アウルを回した彼女の下から下級の制御は離れていた。再びそれを取り戻そうと意識を傾けかけ――

不意に側面から奔る黒の一閃。交差させた双剣に障壁を巡らせ、それを受け流す。
「遊びに来たって訳じゃないんだろ?――誰かの遣いで来たんなら、用件をいいな」
衝撃波に切り裂かれた大気の揺り戻しに白銀の髪を靡かせたルビィが鬼切で肩を叩きながら嘯く。
他の者もまた、使徒を囲みながらその反応を窺う。
戦いの最中に個々それぞれが感じ取っていたのだ。天魔に戦意はあっても、殺意が無い事を。

本隊を相手にしていた撃退士達にも余裕が出始め、彼だけではなく、他にもこちらへと駆け寄ってくる者達が数名いる。
『ふ…もう少し試されてはくれないのか?』
「もう趨勢は決したぜ」
 これは白秋。
『…確かに、ね』
 瞬間的に意識を全てのサーバントに繋げ、その残兵力を数える。
 既に半壊していた、あの短い時間に。右翼は未だ保っていたが、中央と左翼は最早挽回の余地がない。
『嘗てお前達の同胞と東の海上で見えた時より、磨かれてはいるようだ』
 左手の剣を収め、代わりにその手に小型の筒が現れる。
『これをお前達の指揮を取る者に渡して欲しい。我が主よりの書簡だ。部下を下げ、私はここで返答を待つ』
 空を滑り撃退士達の前に浮かぶそれに、警戒しながらアランが手を伸ばす。
「中、見ていいか?」
『否は無い。用心するは当然だろう』
 筒の蓋を捻り、収められていた書簡を取り出し――彼と、それを覗き込んだ数名が顔を見合わせた。


 戦場からサーバントは一体残らず姿を消した。駆逐され、或いは残存は使徒の転移によって退いて。
 百名に近い撃退士達に囲まれながら、フリスレーレは無言で立ち続ける。負傷した身で、これだけの人数で仕掛けられれば無事で済む訳は無いのは、彼女とて承知の筈。
(フリスレーレ…何時か見えた使徒。貴女はなぜここにいるのです?)
 使徒の思惑が分からず、じっとその表情を窺うRehniだったが相手の表情にも気配にも動揺は微塵も無く、ただ静謐だけがあった。
「――本気かい、この内容は。だとしたら正気を疑惑うね」
 人の輪が割れ、そこから数名の国家撃退士に囲まれた女が姿を露わす。対策室・九州支部司令、鷲ヶ城 椿だった。

『四の国に影在り。我、天使アナイティスよりまつろわぬ人の子らに提案す。彼の地を懸念する意思あらば、一時、我が子フリスレーレをそちらに預ける故、共に探られたし』

 それが書簡の内容。
『どう思われようと構わぬ。私は主の命に従うのみ』
 語る使徒の瞳の奥を覗き、鼻を鳴らす椿。
「ふん。気に入らないね。あたしは、そう云う目をした奴を見るとぶん殴りたくなるんだよ」
 その時、輪の中から別の影が一つ飛び出す。
「あっ!?待って!」
 隣に居た鈴音が肩を掴もうとして果たせず、飛び出した人影はまるで使徒を庇う様に椿の前に立ちはだかった。
 あろう事か、その手にする銃口をこの場の全撃退士を束ねる長に向けて。
「ふりすねぇを苛めたら、だめ!」
「へぇ…?ああ良い、動くんじゃないよ」
 見た目は幼い少女の険しい表情を面白がるように眺め、周囲の部下を制する司令。
「さて、お嬢ちゃん。そんな真似してただで済むとは思わないだろうね?」
『待て、その娘は関係ない。…カイリ、馬鹿は止めて退きなさい』
 声に、少女の肩が震える。初めて名を呼ばれた。
「いや!絶対に退かない!」
 何時の間に椿の手に現れていた拳銃が、少女の眉間にひたりと据えられる。
「ふう…じゃ、しょうがないねぇ」
『待て!』
 フリスレーレが双剣を再び手にする。それを目にした国家撃退士達も身構え。
 その時、学生らから更に数名が椿の前に歩み出た。

「申し出は確かに突拍子もないですが、最近の四国の情勢はおかしいと思います」
 使徒に問い、答えを得られなかった海だが、結果として彼の推測は当たっていた事になる。
「話を聞いてみるくらい、いいだろ」
 カイリの銃を抑え、下げさせながらルビィ。
「大方俺達を利用する心算なんだろうが…だったらこっちも利用してやればいい」
 腕組みをしつつ氷雅。
「……なるほど、久遠ヶ原も随分変わったもんだねぇ」
 そう呟いた椿の声は、何処か懐かしむものを含んでいた。
 しかし、次の瞬間には甘さを感じさせない笑顔で、ニヤリと笑い椿は銃を収める。
「責任はあたしが取るんだったね。分かったよ。今回はそこのお嬢ちゃんとあんたらに絆されといてやるさ。…ああ、拘束はさせて貰うよ?」
 前半は学生らに、後半は展開に戸惑う使徒へと。
『……了解した。従おう』

 拘束具を掛けられ、促されるまま歩き出す。心配そうに見上げる少女と、学生らの傍らでその足が止まる。
『…そなたらのお陰で、主の命は果たせそうだ。感謝を。――それと』
 カイリに視線を合わせ、
『毎度莫迦もいい加減にしなさい』
 叱責。だがその奥に別の想いも感じた気がした。だから。
「ごめんなさい♪」
 少女は、頬笑んだ。

PM14:42、負傷者を多数出したものの、対策室の戦勝にて本件は収束した。


「…あんた、それでいいのかい?」
 使徒との会合の席、全てを聞き終えた椿は瞑目し、そして問うた。
『構わない。かの地がどんな形であれ収束を見た後、我が主のゲートに囚れた全ての人間達の解放を約束する。そしてこの身は、貴公らに提供する』
「…碌な扱いはされないよ」
「それでいいのよ。私も主…母様も、救いなど望んでいない」
 苦虫を噛み潰したような顔を片手で押さえ、椿はソファに凭れ掛かった。
どんなに勝手な話だとしても、無条件に支配領域が解放される条件は無視できるモノではない。
「自殺に手を貸すみたいで、気分がわりぃな」
『…すまない。でも、私があちらにいる限り、強制的に誰かの使徒に据え換えられる可能性は消えない。そうなったら、母様は私を慮って何も出来無くなる』
「だったら、主も一緒にくりゃいいじゃないか」
『できないわ』
 頭を振り、頬笑む。全てを受け入れた微笑を。
『母様は天を棄てられない。例え今がどんなに間違っているとしても…嘗ての愛ゆえに。そして…死病を患われた母様は、もう長くない』
――だから、そう云う目をした奴を見るとぶん殴りたくなるんだよ。
椿は口の中でもう一度、そう呟いた。口にしないのは、意味が無いと理解しているから。

『私にとっての天使は唯一人。それ以外を主に迎える気はないわ。――結果が死であろうとも』


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 歴戦勇士・龍崎海(ja0565)
 戦場ジャーナリスト・小田切ルビィ(ja0841)
 夜闇の眷属・麻生 遊夜(ja1838)
 歌謡い・亀山 淳紅(ja2261)
 撃退士・鳳 静矢(ja3856)
 前を向いて、未来へ・Rehni Nam(ja5283)
 騎士の刻印・レイル=ティアリー(ja9968)
 鉄壁の守護者達・黒井 明斗(jb0525)
 開拓者・ツェラツエル(jb3504)
重体: −
面白かった!:15人

血花繚乱・
神喰 茜(ja0200)

大学部2年45組 女 阿修羅
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
幼心の君・
飯島 カイリ(ja3746)

大学部7年302組 女 インフィルトレイター
蒼の絶対防壁・
鳳 蒼姫(ja3762)

卒業 女 ダアト
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
闇の戦慄(自称)・
六道 鈴音(ja4192)

大学部5年7組 女 ダアト
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
リリカルヴァイオレット・
菊開 すみれ(ja6392)

大学部4年237組 女 インフィルトレイター
時代を動かす男・
赤坂白秋(ja7030)

大学部9年146組 男 インフィルトレイター
盾と歩む修羅・
翡翠 龍斗(ja7594)

卒業 男 阿修羅
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
微笑むジョーカー・
アラン・カートライト(ja8773)

卒業 男 阿修羅
セーレの王子様・
森田良助(ja9460)

大学部4年2組 男 インフィルトレイター
騎士の刻印・
レイル=ティアリー(ja9968)

大学部3年92組 男 ディバインナイト
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
新たなるエリュシオンへ・
咲村 氷雅(jb0731)

卒業 男 ナイトウォーカー
非凡な凡人・
間下 慈(jb2391)

大学部3年7組 男 インフィルトレイター
カリスマ猫・
ソーニャ(jb2649)

大学部3年129組 女 インフィルトレイター
氷獄の魔・
ケイオス・フィーニクス(jb2664)

大学部8年185組 男 ナイトウォーカー
おでんの人(ちょっと変)・
オーデン・ソル・キャドー(jb2706)

大学部6年232組 男 ルインズブレイド
開拓者・
ツェラツエル(jb3504)

大学部8年231組 男 アストラルヴァンガード