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マスター:火乃寺
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:6人
サポート:5人
リプレイ完成日時:2013/01/21


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオは初夢シナリオです。
オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

今でない時。此処で無い場所。ボタンを少しだけ掛け違えた、世界。


「何でだよ…」
 少年は、この世の全てを呪う様な声音を押し出し、呻く。
「何でお前がここにいるんだよ!?―――っ!」
 折り重なる瓦礫の上、一人立つ少女は槍を手に悲しげに見下ろす。
少年はそれを見上げ、叫んだ。周囲で激しく燃え上がる戦場の火の手に、呼んだ少女の名はかき消される。
「ごめんなさい。貴方が此処に来るって聞いたから…私は此処に来たの」
「退いてくれっ!俺は…俺はあいつと決着を付けに行くんだ!!」
 頭を振る少女に、少年の顔が歪む。渇望、後悔、そして諦めの綯い交ぜになったそれを。
「…貴方こそ、退いて欲しい。そうでなければ――」
 光の翼がふわりと少女の背に広がり、音も無く軽やかに少年の目前に降り立つ。
 その切先が、惑いなく彼に向けられ構えられる。
「どうしてだ…どうしてぇっっ!!!」
「私は、貴方を殺さなくてはならない。彼を守る為に」
「黙れぇええええええええ!!!!」
 そうであろうと分かっていた。そうであって欲しくなかった。自らの内に渦巻く嵐そのままに、少年は得物の大剣を振り翳し、地を蹴る。
 嘗て少年が愛した少女に向けて。そして、今は人類を脅かす天界の使徒となった敵に向かって。
「…ごめんなさい」
 応じた彼女の穂先が僅かにゆれ、跳ね上がる。
 金属同士のぶつかり合う甲高い音が、戦いの開始を告げた。


 一合、二合、三合…打ち合う二人の刃は、そこに過去の面影を移ろい映す。
 学園で初めて出会った二人。肩を並べ戦場を駆けた日々…想い通じ合わせ、共にある事を誓った日。

(でも、私はそれを裏切った)
 どうしようもなかった。あの人は抵抗も出来ないくらい強く、激しく私の心に入り込んで。
 気がつけば少年よりも、あの人の姿を求めて戦場に出るようになった。
 そして求められた時、私は否という答えを持たなかった。
 本当は、此処に少年の憎悪を受け止め、罵られる為に来た。でも―――。

 彼の表情を見た瞬間、私はどうしようもなく暗い悦びに自分が満たされるのを感じた。
 彼が、まだ私を想ってくれていた事を知って。
 浅ましい私、卑怯な私、醜い私。
 自分の、女としてのどうしようもない業の深さを、彼に会ってようやく悟った。
(先に逝きます、―――)
 彼女が受けに構えた槍の柄を、黒い鉄塊とも言うべき大剣が半ばから断ち切り。
 振り下ろされる刃の前に、静かに目を閉じる。最後に思い浮かべた名は、しかし少年の物ではなかった。


「…なんで……どうしてだよ…お前は…お前はぁあああああ―――っ!!」
 冷たくなっていく躯。少年が取り戻せたのは、空っぽになった肉の器に過ぎない。
 抱きしめ、少女の肩に顔を埋める。そこは少年の刃によって切り裂かれ、赤い肉と骨と臓物の断面を鮮やかに覗かせる。
 噴出した自身の血に顔の下半分を染めた少女の顔は、しかし不思議な微笑に満たされていた。


リプレイ本文

夢あれかしと。

●我道求纏
 振るわれる黒き焔は理想を砕くか、握り潰すか。
迫りた紅蓮の斬旋を却け、轢殺の求道者――マキナ・ベルヴェルク(ja0067)――は凝視る。
強き眸にて過去の我が身を拘える絆――大炊御門 菫(ja0436)を。
「私達撃退士は、人を救う為に在る」
 言葉応えず、瞬下の踏み込みで繰り出される破壊の偽腕。手にする杖で受け止める菫の周囲に具象する黒焔縛鎖。
「っ!」
 がら空きと成った胴に叩き込まれるマキナの一撃!
「ぐぷっ!?」
 魔装越し、内部に波及する衝撃に血反吐を唇より溢し。
次の瞬間、振り絞った気力を叩きつけ、我が身捕らえる縛鎖を砕き自由を取り戻す。
手の甲で口元を拭い払う。血化粧が片頬を染め。身を包み込むアウルが負傷を徐々に修復し始める。
「守るべき者を見捨て、救うべき者を戮し、ただ只管敵を打倒する…何もかも破壊した先に何がある?」
「……」
 軍服を身に纏い、吹き上がるアウルに白き髪を舞い、黄金の眸は睥睨す。
偽りの神を称する少女は無言でその言葉を弾き返す。無意味、と断じるが如く。
駆ける漆黒は再び、相対する少女に拳を繰り出す。菫はマキナにとって矛盾の顕在、何時かの祈りそのもの。
今度は打ち払い、脇に巡りこんだ菫の一撃がマキナの腰部を捉え、衝撃に退かせる。
「踏み来た道を忘れ、ただ先へ往くのは、ただ歩いているだけだ」

漆黒が奔り、紅蓮が爆け、交じり合って離れる。
やがて交差の後、背中合わせに動きを止め――
「ごふ…ぅぶっ」
 ――黒髪の少女が膝をつき、白髪の少女が崩れ落ちた――

 勝敗を決したのは運…と言ってしまえば其れまで。
マキナの攻撃が途中潰されなければ、立場は確実に逆転した。
「――ねぇ、私の今までは、何だったと言うのですか」
 視界に被さる影に、唇が震える。認められる筈が無かった。今という結果を。
「」
 見上げる影が何か言った様だったが、既に耳は音を拾う事が出来ず。
胸に詰まっていた何かを、吐き出す様に。
 ――あぁ、いっそ誰かが答えをくれれば良いのに――
声無き呟きを最期に、幕は下りた。

●想失葬華
「遥ッ!!」
 模糊と見上げていた空から、一人のヴァニタスが視界を下ろす。
映ったのは…痛切な表情を浮かべ、忍刀を構える人――炎條忍。
「忍だけは今でもその名を呼んでくれるのね」
 あの人も…皆さえ、そう呼んではくれなかったのに――。
淡く頬笑む獅堂 遥(ja0190)の頭髪から覗く、紅角。
白とも桜色とも見える髪を流れる風に委せ、佩いていた独特な刀の鞘を払う。
「Damn!もう止めろ、止めてくれ!」
 叫ぶ少年の号びに首を振り、櫻舞の修羅が趨る。刃が打ち合う硬質な音が、悲鳴の様に空気を震わせた。

 曾て少年と共に関わった依頼で、少女は悪魔に掠われ――、救いに奔れど、再会は最悪の形で。
其れからは幾度、相対し刃を合わせただろう。
「元が恋人であれ教え子であれ、もう人でないものには容赦なしね。私達も見習うべき?」
 紅の眸を細め、それらの戦いを懐かしむ。噛みあう得物の向こう、少年の貌が歪む。
「私は弱かった、人である事さえ捨てた、だからもう還れはしない…貴方の手の元に」
 差い打ち払い、大きく間合いを取る。
「私を見て欲しかった、認めて欲しかった…もう忘れてしまったけど、たぶん」
響き合う剣戟。まるで最期の時と惜しみ、或いは愛しむ様に。
「俺は認めていた、忘れて堪るかよ!!」
 奥歯を噛み締めて構える少年の姿に、曾て学園で出会った人々の影。
「…私を見て、あれこれ交錯する皆を見てて楽しかったわ。結局は、倒すべき相手なのにね」
「遥ぁああ!!」
 飛び込んでくる忍。大上段に振り上げた刃を征ち下ろせば、彼を一刀の元に両断できただろう。
ふっ、と柄を握る力が抜け。ゆっくりと背後に落ちる、刃。
「なん―」
「今までありがとう、忍」
 邪気の無い、透徹した笑みを浮かべ。少年を抱きしめ、受け入れた。
「けど」
 迫り上がる物を溢れさせる唇。動かし、耳元で囁きかける。
「私の名は…遥ではないわ。…ヴァニタス…貴方の、敵…」
 躰から抜け出て逝く生命。
「最愛の敵で、在り続けたかった…最期の敵が貴方で…良かった」
 感覚が殆ど失われた自分を抱き返す忍の、温もり。
「逝くわ…また、地獄で……ね」
 音もなく解け、アウルの砕片へと転化され。舞い散る桜花の如く、やがて地に残る事無く失せ果てる。
何も遺らなかった手の平。握り、地に幾度も打ちつけ。
「……――!!!!」
 哀号は遠く、そして虚ろに響き渡った。

●黒白抱戯
『往くか』
『はい』
 コートに黒いマフラー。口元を隠し、流したままの長髪を照らす斜陽。
背を向けたまま、石田 神楽(ja4485)は主の思念に応える。
『貴様はこれまで製った我が眷属の中で、尤も愚昧で在る』
 嘆息交じりのそれに、彼は最後にもう一度振り向き頭を垂れた。

 予め約していた訳ではない。だが二人はそこで申し合わせた様に出遇った。一見40mを空け、対峙する。

さぁ、戦いましょうか――
――せやね

 言葉ではなく想いで交わし。神楽と宇田川 千鶴(ja1613)は楽しげに互い頬笑んでいた。

男が銃を抜くと同時に霞む女の姿。千鶴は崩壊した建造物に身を蔽す。
(気配を消されましたか…ですが)
 相手は、自分に接近しなければ有効な手を持たない。視界の端に掛かる影に銃口はオート補正でも有るかの如く追尾、銃弾を弾き出す。
アウルを用いた攻撃は老朽化したコンクリート程度なら軽く粉砕、貫通する。だが手応えは無く。
夕暮れから夜闇へと変わる廃墟の町。鳴り響く銃声は、霞む影を幾度か捉える。
(一つ、二つ…)
 其れは千鶴が用いた、空蝉の代償に散ったコートの数。
 相変わらず気配は掴み難いが、其れは確信。違わず、近場の物陰から飛び出す影にトリガを引き絞る。
同時に彼の体を切り裂く白色の扇子。発動する術が、身を一時的に縛り上げる。
(狙いはこれですか…三つ)
 直後見た、爆け散る端布。それで空蝉は尽きた筈だ。
意識を研ぎ澄まし、再来襲した扇子を身の捻りと強化した腕で弾く。だが周囲に濃密な雰を発生させながら、持ち主の元へ返る。
迷い無く撃ち抜く。今度こそ、其れは標的に的中り体勢を崩させた。
しかし致命打には及ばず、千鶴はすぐさま遮蔽物の陰に転がり込み、追撃を避ける。
(ふふ…流石やなぁ)
 自由にならぬ躰で、覆う霧越しに自分を捉えた男の腕前を嬉しそうに評する。肩口に貫通した銃創から、出血が身を染めて往く。
(次は、届かせるで)
 手にする得物を忍刀へ変え、女は最期の距離を詰める。愛し人との。

 霧向こうに映る影は意外にも真正面から。反応するに気づいたのが遅く。
咄嗟に向ける銃口の下を、低く陰がすり抜ける。スライディングの要領で足元に辷り込んだ千鶴の両脚が神楽の両足を挟み込み、身を捻る。
「くっ」
 青白い地獄の騎士が、閃く。

「…おしまい、やな」
「そうですね」
 馬乗りになった千鶴から喉元に押し付けられる刃。少し力を込めて押し込めば、致命傷となるだろう。しかし。
背から胸元へと覗く大鎌の切先。手から転がり落ちる刃。例え殺せても、殺せなかっただろうけれど。
「楽しかった…な。おやすみ、神楽さん…」
 どこか満足げな、甘える様な微笑を浮かべ――彼の胸へと沈む。
「…おやすみなさい。よい夢を。――『また明日』」
 抱きしめ、さらさらとした柔らかな髪をなでながら、男もまた微笑のままに事切れた。

●相恋愛燐
 其れは一通のメール。
「ったく…仕方の無い馬鹿野郎が」
 差出人の名に、加倉 一臣(ja5823)は目を細めた。そして学園から姿を消した。
(誰かに討たせたりはしない。お前の命は俺のモンだろ?)
――友真。

 遠目にその影を確認した小野 友真(ja6901)の胸中に満たされる、狂喜。
瀟洒な装飾の黒いコート、黒と両腕の金色のアウルを纏い、夕日よりも紅の眸を煌かせて。
愛おしむ様に、人を棄てて尚棄てる事の出来ない銀の指輪に口付ける。
足音が立ち止まる。キャンドルライトを思わせる柔らかな光を纏い、真剣な目差で自分を見つめる眸。
「ちゃんと最期まで俺ん事見てくれるなんて、感激やな」
 愉しそうに彼に笑いかける。
揃いのピアス、指輪。今も二人の想いは変わらないのに、立つ場所は遠く。
(ヒーローになりたい…その目の輝きに惹かれたのに)
 何があって使徒と成ったか、今更問うて意味は無い。一臣もまた笑顔を返した。

 同時に駆け出す二人。一臣が右に、友真が左に。その中央で爆ける手榴弾。一臣の放った其れが二人の間に白き壁を作り上げる。
煙越しに数発の弾丸が、互いの身を掠めあう。二人の能力傾向はよく似ていた、精度は高く、回避に向かず。
なれば導き出される形は、只管撃ち合い続ける――銃弾を用いた、殴り合い。
「ぐっ」
 一臣が蹌踉ける、肩を撃ち抜いた正確な一撃に。
「肩から、て前からの約束やしな」
「ふっ、そうだったな」
 反撃の一撃をステップで躱した――と思った瞬間、太腿に走る衝撃。
「お前の癖だ」
「やったなっ」
 互い譲らぬ正確な射撃の応酬、肩に腕に、腰に足に――どちらも、顔だけは狙わなかった。
「くく…ははははっ」「ふ…あははははっ」
 戯れが如く二人は笑いあい、距離を詰める。
少年の手がコートの襟にと見えた直後、一臣の眼前を覆う黒。一瞬だけ失われる、姿。
「俺が見えへんくて寂しかったー?」
 してやったりと薄い笑み。布地を払いのけた一臣が見た其れは、自身の懐に。銃口が涵りと、彼の胸に押し当てられる。
「ああ、寂しかった」
 一拍遅れ、持ち替えた銃を少年へ――

銃声が連なり、轟き亘る。

 膝をつく。二人ほぼ同時に。
上背の勝る男が、少年に押し被さる様に互いの肩に頭を預ける。
(やっぱ一臣さんは強いな…憧れて、よかった)
 甘える様に摺り寄る。声は出せなかった。首の風穴から、血と共に呼気も漏れ出してしまうから。
「……ばーか」
 其れが聞こえたかの如く男は苦笑し、少年の頭を血塗れの手で優しく撫でる。胸部から溢れだす物に半身を濡らし。
「…さきに…ま…て…」
(うん…俺もすぐ逝くから)
 男の手が落ちる。少年は未だ温かさの残る頬を、何度も、何度も…最期の瞬間まで触れ続けて。
ゆっくりと、押し倒され重なり合った。

●感無涙遠
「…だーりん、嘘、だよね」
 幾重知れずとなってから、ずっと求め、捜し続けた。目の前に居るのは、大好きな人の筈。
相手にとっても自分は――新崎 ふゆみ(ja8965)はそうである筈だった。
「ねえ、ふゆみだよっ、わかってるんだよね…お願い、返事してよぉッ!」
 だがレグルス・グラウシード(ja8064)から返るのは、冷たく凍った視線。少女は、怖じる様に後退る。
少年の手が高く振り上げられ、降り来る魔力の彗星が次々と少女の立つ大地を襲う。
「きゃあああっ」
 防御し、そ堪えきれず吹き飛ばされる小柄な躰。痛みを耐えて起き上がる視線の先、無情に立ち続ける姿。
「お願い、だーりんっ!正気にもどってよお!」
 戦ってでも取り戻すしかない。覚悟と共にその手に顕れる朱色の刃持つ刀。

 撃退士になった理由は、お金を稼いで母に楽をさせてあげたかったから。
思いを胸に一人ぼっちで学園にきた少女に訪れた、「王子様」との出会い。
やさしく、あたたかく、いつも笑顔があった。
其れが今、凍りついた無情を持って、彼女を殺そうとしている。

 一気呵成に距離を詰める少女に、少年は後退しながら応戦する。
渾身の一撃を天魔の翼を刻印された凧盾と防壁が辛うじて受け止め、再び降り掛かる彗星を掻い潜り、回復の間を与えまいと必死に繰り出される、斬、斬、斬――。
少女には、或いは現実味が無かったのかもしれない。
だって在るはずが無いから、大好きなだーりんとこんな…殺し合うなんて。

「ぁ…」
 視界が、ゆっくりと落ちてく。空中で一撃を放った少女の胸元へ、星を思わせる輝きが吸い込まれ。
機械的に攻撃と回復を反復す少年に、少女の刃は終に届ききらなかった。
 どさりと落ちる躰、力が抜けて逝く、命が脱けて逝く――
「夢、だよ…ね?」
 止めの一撃を振り下ろそうとする、だいすきな、だいすきなひとに。一縷の、最期想いを掛けて。
「…だって、だーりんがふゆみを殺そうとするわけ、ないじゃん…☆」
 頬笑みに、一筋が流れ。次の瞬間、其れは真っ赤な物へと塗り替えられた。

『終わったか?』
『…はい』
『では戻れ。それ以上時間を無駄にするな』
 思念に頷き、地に横たわる屍に一瞥を呉れて。何の感慨も無く、歩き去る少年。
最後に一滴だけ――伝う物を不思議そうに指先で掬った。

●狭愛殺撫
――どうして?何故?
その思いだけが胸中に渦を巻く。
「止めてくれ。俺はお前を傷つけたくない」
 淡々と、来栖 千瑛(jb0870)は、今まさに自身を殺そうとする者へと発する。だが。
「だって、ちぃが他の人に殺されるなんて絶対厭でしょ」
 蕩ける様な笑みを浮かべ、来栖 千絢(jb0871)は実の兄へ刃を向ける。
「俺達はお互い支えあって生きてきたじゃないか。これからもそれで良いだろ?」
 弟への言葉に、返るのは必殺を期した短剣の刃。其れを必死に躱し続ける。
「俺を傷つけたくないなら、抵抗しないで」
 姿を消し、唐突に思わぬ場所から繰り出される刃。
「大丈夫だよ、ずっと傍に居る。俺だってちぃが傍に居ない毎日なんて、考えられないから」

 千絢には、兄が命に関わるような戦場に出るのが理解できなかった。何時か誰かに殺されるかもしれないのに。
「ちぃ、俺のこの力はお前を守る為にあるんだ」
 弟を傷つけぬように、刃のみを弾き返す兄の力ない一撃。
「俺を守るため?俺は自分よりちぃのことが大切だよ」
 ちぃに誰かが傷を一つでもつけることは赦せない
なら――苦しまない様に、俺が一瞬で楽にしてあげる。
家にも連れ帰ってあげる、誰にも触らせないで、ずっとずっと大事にする。
ちぃの寝顔は、子供の頃から俺だけのだもんね。

 少年の想いは、破綻していた。破綻しているが故に、破綻に気づけない。気づけなければ、止まり様が無い。
「ね、だから…ちぃの心臓をとめるのも、俺だけの特権だよね」
「ちぃ…」
 遠かった、互いに同じ“ちぃ”と呼び合い、ずっと一緒に生きてきた。其れなのに今はとても――
闇に閉ざされる、世界。そこで、自分を抱きしめるもう一人の自分。
「俺の全部はちぃ。ちぃの全部は俺になれる」
 背に巡された少年の手に、刃が振り翳される。
そして、深く深く…刃は命の臓へと届き貫く。
「――っ…、馬鹿、だな…ちぃは」
 それでも今は、こんな近くに居る弟。ふっと柔らかく頬笑みを、震える手を弟に巡す。
「お前がそう言うなら…俺の全部をお前に上げるよ…」
――愛しい愛しい、俺の、片割れ……

 その最期までを、刃をつきたてたまま看取った少年は。
「今夜も々夢を見よう、ちぃ」
 物言わぬもう一人の自分を抱え、二人だけの世界へと――家路へと。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

撃退士・
マキナ・ベルヴェルク(ja0067)

卒業 女 阿修羅
双月に捧ぐ誓い・
獅堂 遥(ja0190)

大学部4年93組 女 阿修羅
黒の微笑・
石田 神楽(ja4485)

卒業 男 インフィルトレイター
真愛しきすべてをこの手に・
小野友真(ja6901)

卒業 男 インフィルトレイター
ひょっとこ仮面参上☆ミ・
新崎 ふゆみ(ja8965)

大学部2年141組 女 阿修羅
撃退士・
来栖 千絢(jb0871)

大学部3年186組 男 ナイトウォーカー