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マスター:火乃寺
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:6人
サポート:5人
リプレイ完成日時:2013/01/13


みんなの思い出



オープニング

「先生…もう、無理です」
 背後から掛かる声に、アラサー女教諭、真道 要(まさみち かなめ)は振り向いた。
 戦場を俯瞰していた彼女は、斜陽を背にしていた為、顔の部分が陰になって表情はよく見えない。
「物理的にはともかく…もう皆、精神的にいけません。どうか撤退の指示を」
 全身びっしょりとぬれた様な姿で、大きなタオルケットを上から下まで包むように巻きつけている。裾を押さえる手が、堪えようも無いくらい震えていたのを見て取って、要は気まずげに視線を逸らした。
「それは分かっている、だが無理でもやらねばならん事もあるのだ。もし今回失敗すれば…」
「し、失敗すれば…?」
 恐る恐る、もう長い事この女教諭の下で対天魔チームの隊長を勤めてきた片口 信濃(かたぐち しなの:高等部三年)はこくりと唾を飲み込む。
「…来月から私の給料50%カット」
 ……はい?
「えっと、真道せんせい…それが撤退しない理由ですか?」
「うむ。当然だろう?」
 頭の中で何かが切れた音がした。
「知るかそんなん!? アンタそのせいで私らがどんな目にあったのか分かって…!?けふっ…けほっ!」
 ヒステリックに叫ぶ少女が呼吸を乱し、肩で整える姿を暫く見やって、要は深々と溜息をついた。
「片口君、知っているかね?」
「…何をですか」
 最早教師に対する敬愛の念など皆無にすわった目で睨み上げ返す信濃。
「一度汚れると、二度目からの被害が軽い」
「ふざっっっけんな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
 魂の叫びが、暮れ行く空に響き渡った。


 斡旋所は久遠ヶ原でも最も重要な施設の一つである。
 ここを経由して、学生たちは種々様々な任務に赴き、或いは日々の生活の糧稼ぎにアルバイトを探したりする。
 時には個人間の悩みの相談やら、万何でも屋みたい依頼が並ぶ側面もあるのだが。
「…あれ? これ再派遣要求? この依頼って、そんなに難易度高かったっけ?」
 事務処理方のアルバイトで詰めていた高等部の女子生徒が、回されてきた書類を確認し、持ってきた受付の男子生徒に尋ねる。
「いや、そうは聞いてない。討伐対象はサーヴァント、しかも大した戦闘力は持たないって、最初の報告書にはあったはずなんだけど」
 あ、でも…とふと何かを思い出したかのように呟く。
「なんか…汚れ専門チームが最初に出向いたって」
 もはや斡旋所の一部でも片口たちのチームはこんな通称である。泣いてもいいかもしれない。
「それは…なんかやな予感するわね…えっと、天魔の外観は大型のガマガエル? うぇ、これだけ私だったらいくのやだ」
 顔をしかめて、続きを読み進める。
「物理魔法両面において戦闘能力は並以下、ただ特色として異常なほど機敏で、移動時にジャンプすると最高20mの障害物を飛び越え、距離にして30mは移動する…か。攻撃当てるのが難しそうねぇ…。あら、まだ続きが…げっ」
 声に出すのを止め、視線だけでその先を確認する。見間違いかとお思い、目頭を押さえて更に眼鏡をかけなおして三度読み直した。
 が、記載は消えてなくなったりもしないし、誤植でもありえなさそうだった。

“なお、本天魔は粘着性の長大な舌を伸ばし、魔具を奪う。それだけでも厄介だが、魔具を持たない相手を今度は丸呑みにしてしまう。”
“内部に飲み込まれた者の話によると「もうお嫁にいけない」とか「…いいのよ、どうせ私なんて汚れなんだし」などとネガティブな発言が見られる。”
“とりあえず細部にわたっての聴取は、彼女らの精神状態を鑑み行わない事にした。”
“ただ、状況からして天魔の体内では腐食性の魔法効果があるらしく、被害にあった者達が身につけていた衣服…一般の物から魔装に至るまで区別無く溶かすらしい”
“魔装は学園に戻れば修復も可能だが、現地では不可能。あと寒い季節なのでそうなった場合は風邪を引くかもしれないので気をつける事(経験者談)”

「…あんた、これ読んだ?」
「一応は」
 苦笑する少年になんともいえない表情を向けて、手早く書式を整えていく。
「とりあえず、この部分は伏せましょう。誰も来ないと困るし。私らにとばっちりきそうだし」
(伏せたら伏せたで、恨まれそうだけどなぁ…)
 などの思ったが口には出さなかった。不幸になるのが自分で無ければいいのである。究極の愛は自己愛なり、が少年のモットーである。
「よし、これでいいわ。データ入力は私がやっておくから、この書面は目に付く所に張っといて」
「ほいよ」
 真面目な学園生徒…が多いか少ないかは微妙な久遠ヶ原学園だが、そんな学生らにとって一番危険なのは斡旋所関係者なのかもしれない。


リプレイ本文

 遠目に見える湖畔を見下ろすちょっとした高台に彼らは居た。
「うぅ、見るからに、なんか、嫌な感じのカエルさん、です」
唯でさえ人によっては不気味に見える両生類が、人の二倍以上巨体なのだ。
その本質を知らなくても、ユイ・J・オルフェウス(ja5137)と同じ感想を抱いたかもしれない。
「何言ってんだ、蛙って美味いんだぜぇ…それが六匹たぁ、サービス良いじゃねぇかッ」
少女の隣でケラケラケラ!と革帯 暴食(ja7850)が哄笑する。
今回の天魔の情報に際して『なら魔具も魔装も最初から着けなきゃ良いんじゃね?』とばかりの思い切った恰好で。
「は、早く終わらせて、すぐ帰る、です」
だが、ユイにはとても共感は出来そうになかった。
(再派遣になるなんて、全く捉えられないほどの機敏さなのでしょうか)
(なんだろう、特に厄介な筈でもない相手に再派遣。ぬるぬるべとべとのサーヴァント、か…)
内心で小首を傾げる神月 熾弦(ja0358)。そこまで素早いというイメージがカエルに対してわかないのだ。
アニエス・ブランネージュ(ja8264)もまた、些か不審を抱いていた。彼女の中の何かが警鐘を発している。
(ともかく、油断せずいきましょう)
(とは言え、天魔を放っておくわけにもいかない)
気を引き締め、事に望む覚悟をする。
(魔装を溶かす…なんて恐ろしい能力だ!)
準備をしてきた替えのジャージやタオル等を点検し終え立ち上がるレグルス・グラウシード(ja8064)。
「役に立たないといいんですけどね…」
しかし大体に於いてこう云う場合は。
(唯の蛙なら造作も無い仕事なのだが)
今回の相手は武装を狙ってくる、更その上丸呑みか。
(なんとも下種というか嫌な敵ではある。今回は男はわたくしとグラウシード様の二人のみ、ここは漢として身体を張るところだな)
考えは中々に漢らしい蘇芳 更紗(ja8374)は生物学的に如何見ても“女性”なのだが。
本人は自分を漢と任じて疑わず、所作は女性然。中々に複雑な御仁であった。
「まずはわたくしが奴等を引き付けて見る、その行動と蛙の反応を見てから続いてくれ。婦女子をあんな物に丸呑みされては、わたくしの沽券に関わる」
「婦女子って…蘇芳さんもそうなんじゃ?」
女性のシンボル的一部に目をやって、レグルスが突っ込むが、
「何を馬鹿な事を、どこから如何見ても漢だろう」
取り合わず。
「あとわたくしが飲み込まれても構わず攻撃しろ」

そうして蘇芳を先頭に一気に高台を駆け下りた。


「来い!お前達の相手はわたくしが務める」
湖畔に三々五々していた蛙達、その只中に更紗は飛び込む。
『ゲッ』『グウゥ』
一斉に彼女に反応する天魔。内の一匹に接近し、纏う光纏からオーラを放つ。
『――ッ』
敵意を発して一匹の口が開き、弾丸の様にして飛び出してくる赤黒い長大な舌。
「ふっ」
始めから防御に徹する心算で顕現させていた蒼き長方形の盾が、受け流そうと傾けられる。だが。
「くっ、そうきたか!」
タウントは射程が短い。油を塗り摩擦を減らした上で受け流そうとしていた盾に、リーチが余った舌がぐるりと絡み、もぎ取る様に奪い去る。同時力場に引かれ、ヒヒイロカネもに大蛙の口の中へと消え去った。
「ッッ」
 更紗の小柄な肢体を、側面から伸びた舌が膝から肩まで巻きつく。一人で注目を集めた為、捕奪と捕縛が相次いで襲い掛かったのだ。
「わたくしの事にかま――」
 続く言葉の前に、彼女の姿は天魔の体内に飲み込まれた。

「ケ〜ラケラ♪ 更紗ちゃ〜ん一番乗りッ!これはうちも負けてらんないよね?よね?」
続いて飛び出してきた暴食が、撹乱する様に駆け、笑いながら叫びを上げる。
「さあ蛙ちゃ〜ん、うちを喰えるもんなら喰ってみなぁッ!ケラケラケラ!」
革帯だけで胸と腰を被い、両腕まで固定した彼女の姿にしかし天魔は特に感慨を抱く事も無い。
魔具も何も持たない彼女を即座に舌で捕らえ、大口の中へと蔵めていく。
彼女の唇がその瞬間、得たりとばかりに歪んだのにも気づかず。

 前衛二人が瞬く間に取り込まれ、しかし二人で敵の三手を潰した。
直後に空を黒霧を纏いし弾丸が奔り、一匹の顔面に炸ける!
「的中、次」
アイスブルーの眸が照準器越しに確認し、レバーを曳く。空薬莢を排出され一度地に跳ねて後、消滅。
しかしアニエスは見た、今撃ったばかりの大蛙が早くも身を起こし、彼女が居る方角をぎょろりと両生類特有の感情の無い眸で自分を捉えるのを。
戦闘能力が低くとも、相手は天魔。しぶとさはそれなりらしい。
(見つかったね)
狙撃銃を構えた膝立ちから直様立ち上がり、散弾銃へと換装する。
だがその時には、跳躍によって目と鼻の先まで接近されていた。
「うぁ、このっ」
ぐるりと銃身に巻きつく舌。抵抗空しく彼女の奪われ、飲み込まれる魔具。
(…まずいな、これ)
彼女はインフィルトレイター、そ技はほとんどが銃器を前提に構築されており、素手で扱える物は殆ど無い。
残された手は時間稼ぎの逃亡しかなくなった。
即座に背を向けて可能な限り全力で駆け出す。その背に、伸びる舌が襲い掛かった。

 熾弦の手に具現化される光輝の投槍。
普段はおっとりとした表情も今は引き締められ、振るう腕から一直線に巨大蛙へと吸い込まれ――と見えた刹那、天魔は軽やかに跳躍し、それを飛び越えて彼女の至近に。
「あっ!?」
慌てて向き直るも手にするハルバードに絡みつく巨大な舌。一瞬、引く者と引かれる者の均衡。
だが忽ちの内に彼女の体は斧槍ごと蛙の傍まで引き摺り寄せられる。敢えて手を離さずそれを選んだのだ。
「いまっ!」
魔具ごと手が飲み込まれると思われた瞬間、開放した手に再び生まれる光輝の槍。それを両手で掴み、体当たりする様に蛙に突き立てる。
『ゲオオオッ』
しかし一撃では仕留めきれない。効果が切れると同時に離れようとした少女の身に、太腿から腰まで絡みつく舌。
「い――」
叫ぶ間も有らばこそ、一瞬で引き込まれ熾弦の姿は天魔の内へと消えた。

 次々と仲間たちが飲み込まれていく。
「ああ、皆が」
「くそっ、速過ぎるっ」
機敏だとは聞いていた。だが此処まで悉く撃退士の先手を取る程だとは想像もしていなかった。(因みに機敏=INI)
今無事で居るレグルスとユイの目前にも、大蛙の巨体が迫る!
咄嗟に狼狽える少女を庇護ったレグルスの手から、蓮を模した先飾りを持つ杖が奪い取られ、天魔の腹の中に消えた。
「ま、魔具が無くたって!僕の力よ…天魔を砕く流星群となれッ!」
アウルにより産みだされた彗星が次々と降り注ぐ、その一発に叩き潰される。
「ユイ、今だ!」
「は、はいっ」
少女の掲げる石版、その前に生み出される煌く氷錐が一直線に天魔へと飛来する。
しかし天魔は、咄嗟に強靭な後ろ足で地を叩き、躰を横回転に跳ねさせてこれを避けて見せた。
「レ、レグルスさん!?」
「うわあぁっ!!」
お返しとばかりに、体を起こした蛙の吐き出した舌が少年の両腕ごと胴体に巻きつき、その躯を大口の中に受け止める。
「あ、あああ、あ…」
(み、皆、飲み込まれ、ちゃった)
ふるふると頭を振って後退る。
更紗は自分が飲み込まれても構わず攻撃しろと言っていたが、ユイの性格ではとても出来そうに無い。
必死に如何すれば言いか勘え続ける少女の後ろに、もう一匹の影がのそりと覆い被さった。
「ひっ!?」
気づき振り返った時には既に遅し。
「あれは、もうい――」
ばくん、ぎょっくり――
 

 大蛙の体内。そこは当然ながら光源など無く、生臭い臭気漂う肉の袋だった。
(こ、この…破廉恥なッ)
最初に飲み込まれた更紗、その衣服は直後に周囲から次々と噴出してきた、どろりとした腐食液を浴びて用を做さぬほどに溶け、穴だらけ。
それだけならどうという事も無かった。外見は如何あれ、彼女の精神は擬う事なき漢であったのだから。
問題は――
(ふぅっ…そ、そんな所…)
飲み込まれ液を浴びてすぐ、周囲から彼女の手足に絡みつく大小様々な管の様な物。それは飲み込んだ対象を疲弊させる為に備えられた天魔の器官。
精神吸収を容易にする為なのだろう、物理的より精神的に相手を責める方向で試作されたのが、この大蛙であった。
(だが、堪えていれば外の仲間が――)
そう彼女が考えている時既に、全員が飲み込まれているとは想像の外。
実質は一分ほどなのだが、それより遥かに長く感じる時間の中、更紗は全身を這い回る管の感触に身悶え続けた。

 暗闇の中、微かに浮かび上がるのは無数の口、口、口――。
躯や腕に巻いていた革帯は既に溶け崩れ、液状となってその肌を流れ落ちていた。無数の管に全身を撫で回されながら暴食は舌をだらりと垂らし、笑みを浮かべる。
「腹減った、目の前に喰いモンがあるッ。喰うっきゃねぇっしょこいつぁッ!」
言葉と共に、肉体の防衛限界を超えたアウルが彼女の体内に駆け巡る!
その眸は狂気に染め、その身に狂喜を孕み、されど浮かべるは慈愛にも擬う頬笑み。
開かれる顎は、全てを慰撫する人の舌、全て愛する飢餓の牙、全てを喰らう大なる欲罪!
「暴ォォォ食を喰おうなんざぁ、46億年くれぇ早いんじゃねぇかぁッ!?ケラケラケラ!」
グチュリ、ガツ、ガツ、ガッ、ブチブチッ――!!
『!!?!グゲェルルルロオオッ!?』
腹から食い破られる等、恐らく初めての…そして最期の経験になるだろう大蛙が、その激痛に飛び上がって激しく地を転がりだす。
だが食い千切り肉を咀嚼する暴食に、天魔の肉体は受ける激痛を衝撃波として胎内の彼女に弾き返す!
「ケラケラケラ、効かねぇッ」
口内に広がる、天魔の物とは違う鉄錆の味。彼女は吼える様に、謳う様に雄叫びを上げる。
「死亡フラグってのはなぁ、喰うためにあんだよぉッ!」
そうして再び、愛しい肉に喰らい突く!
――ボッ!
白い腹を見せて仰向ける蛙、四肢を痙攣させながら。その中央から真っ赤に濡れた人影が、破れた腹から立ち上がる。

 自失していたのは僅か、はっと周囲を見回せば暗闇に漂う臭気に眉を潜める。
(飲み込まれたんですね…)
ここは大人しく救助を待って…と考えていた矢先。
ズルリ…
(ひっ!?)
魔装に覆われている筈の場所、その肌を直接何かに撫で上げられ、びくりと震える。
(な、何が…あぁ!?)
手で自身の躰を確かめれば、身に着けていた鎧や服は半分以上が溶け崩れ。
そこに絡み付いてくる、管、管、管――。
(いやああああああああっ!?!)
柔肌を舐め這い、絡みつき、絞り上げてくるおぞましい感覚に少女は狂乱す。
光の鎖が管を炸けさせ、拳に乗せたアウルで肉壁を殴打する。その度に反ってくる衝撃波に、己が身を傷つけながらも。
そして、無数の彗星が天魔の頭上に降り注いだ。

(…ふぁ…うくぅぅ)
全身に亘る夥しい管の感触に、ぶるりと肢体を震わせるアニエス。
(く…先に向かった面々が撃退されたのって…原因がこれって解っていた筈だよね…黙ってたな受付…っ)
敏感な部分に撒き付いたそれを追い払う様に、躰を縮め込ませる。
(こんな目に遭うって解ってて…はっ、うぅ…帰ったら覚えておくんだね…ふふ、ふふふふ…)
底冷えする様な笑みを浮かべながら、必死に遅い繰る感覚に耐え続ける。その最中も、視線で飲み込まれた筈の魔具を彼女は探し続ける。
普通なら光纏の明るさ程度ではとても見通せない腹の中…しかし彼女にはそれを見通すスキルがあった。
(…!見つけた)
蠢く管の置く、煌く旭緋色のその金属は。手に取り、アウルを送り込めばその手にずっしりと甦る愛用の得物。
その内に精製される銃弾に込める、昏き闇。それは彼女の怒りの具現でもあったかもしれない。
(先ずはこの不快な思いのお返しからだ、ね!)
迷う事無く、トリガを引き絞った。

(ちょ、まってこれちょ!?)
飲み込まれたレグルス、服を溶かされるまではまあ予想の範囲だったのだが。
絡み付いてくる管が、なんかその気のせいと思えない位後ろの方に集中して。
(うわあっ、やめろ、このおッ!)
涙目になって、拳に込めたアウルを以って肉壁を乱打する。反って来る反動等お構いなしに。
そして渾身の一撃が今――
「のっほおおおおおおっっ!?!」
天魔、人、同時に決まったらしい(合唱)

(これはだめ、ですっ)
ぎゅっと抱きしめ庇護うのは、母から受け継いだ一冊の本。
既に衣服は釈かされ、全身を這い回る管に泣きじゃくりながらも踞るように。
(きらいです、カエルさん、なんか、きらいです)
先端に撫で擦られ、ぞくりと走る悪寒。巻きつき這い上がってくるそれを必死に振り払い。
吐き出される瞬間を必死に祈りながら待ち続けた。


「…けふっ…漸く、か」
最初に吐き出される更紗、立ち上がってみれば全身にどろりとした粘液に包まれ、滴り落ちる。
今し方自身を吐き出した大蛙を見ると、
『グゲェプッ』
何か満足げにしている。
「おのれ、わたくしをあんな目にして於いて…! はっ、他の者は…」
天魔の動きに警戒しながらも周囲を見回せば、
「!革帯様ッ!?」
「おー、更紗っちゃん無事出てきたねぇ」
血塗れで横たわるのは暴食、天魔を食い破り屠ったはいいが、反動のダメージで動けなくなっていたのだ。
彼女に駆け寄ろうとした瞬間、降り注ぐコメットに粉砕される一匹、内部から破裂する一匹!
「うう…ぐすっ」
顔を真っ赤にしてよろよろと死骸から這い出してくる熾弦、そしてレグルスは――
「…傷は、傷は浅い…大丈夫、大丈夫だ…」
震え声で、自身の瘡を療しながら周囲を見回し…青褪めていた顔色が一転、火を噴いたように茹で上がる。
目の前に、素晴らしい三つの
「はは、は、はだ、はだ――!」
「いいいやあああああああああ!!!!」
その横っ面にインパクトを乗せた拳が叩き込まれた!
「ぎゃああああああああっ!?!」
かなり遠くまで吹っ飛ばされる。ところで少年的にプラスマイナスで言えばどっちだ?
「ふぅ…グラウシード様が悪い。漢たる者が婦女子の裸を嘗め回すように見る等と」
「あうっ」
べちゃり、台詞の途中で別の一匹から吐き出されるユイ。暫くぼんやりしていたが慌てて周囲を見回す。
「み、皆、いたぁ…あ」
ふとレグルスの姿が目に入る。男、の人の、裸…?
「――!?」
泣きたかった、と言うか泣いた。
「…神月様、革帯様の治癒を。オルフェウス様も泣くのは――」
ぎんっ、とまだ生存している天魔二匹に凶眼を向ける。
「この婦女子の大敵を屠ってからです」
「う…ぐす、はい」
そこへ一匹に飛来した散弾が炸け、蛙の頭を吹き飛ばす。
「…許さないよ?」
怒り心頭に来過ぎて虚ろな目をしたアニエスが、ふらりと銃を構えながら合流した。


 総掛かり(殴り飛ばされて気絶した少年除く)の乙女の怒りの下に、最後の一匹も粉々になるのにそう時間は掛からなかった。
それぞれが持参していた着替えやタオルで隠すべき場所を隠し、ヒヒイロカネを回収、ヒールで可能な限り傷を塞いだものの完全治癒には及ばず。
因みに少年にはこの場で見た事は忘れないと命の危険が危ないととっぷりと数名が諭したといふ。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:11人

撃退士・
神月 熾弦(ja0358)

大学部4年134組 女 アストラルヴァンガード
Le premier ami d'Alice・
ユイ・J・オルフェウス(ja5137)

高等部3年31組 女 ダアト
グラトニー・
革帯 暴食(ja7850)

大学部9年323組 女 阿修羅
『山』守りに徹せし・
レグルス・グラウシード(ja8064)

大学部2年131組 男 アストラルヴァンガード
冷静なる識・
アニエス・ブランネージュ(ja8264)

大学部9年317組 女 インフィルトレイター
屍人を憎悪する者・
蘇芳 更紗(ja8374)

大学部7年163組 女 ディバインナイト