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マスター:火乃寺
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
参加人数:25人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2012/09/14


みんなの思い出



オープニング

 夏。
学生といえば、夏休み。だがその輝かしい季節も、終わりを告げようとしていた。

「おねがーい、宿題写させてーーー!」
 部屋にけたたましくノックをした挙句、出迎えた私への第一声がこれだ。
「あんた…ほんっとーに、毎年、毎年――」
 多分眉間に一本どころではない血管が浮いてるだろう事は、間違いない。
「この時期にその用事でしか私を訪ねてこないだろ!?いい加減殺すか?ああぁ!!?」
 幼馴染をやって15年。小学生の頃からこいつはこうだった。
「あうあう、怒らないでー!もう頼れる人がいないのよぅ! キミちゃんは帰省中だし、りー君には居留守使われるしっ」
 ちなみにりー君とは、もう一人の幼馴染で、キミちゃんは女子寮で彼女と同室の子だ。
「そりゃ居留守くらい使うでしょうよ…あんたの行動パターンなんて、むかしっから丸分かりなんだから」
 頭を抱える。そうか、奴め、私に押し付けたのか。あとでしばく、泣いて許しを請うても許さん。
「おーねーがーいーっ、ね、ね?本当にもう、頼める人が居ないのーーーー!!!」
「分かった、分かったから…学食二ヶ月で手を打とう」
 ぱあっと表情が明るくなりかけた奴の先手を打って条件を提示する。
「そ、それわあんまりだと思うなー…ひ、一月で!」
「一月と三週間」
「一月と一週間!」
「だめ。一月と二週間半」
「いぢわるしないでぇ…幼馴染じゃないのよぅううう〜〜」
「もうあんたを甘やかすことは止めたの!」
 大事にしよう、人間関係。勿論懸命なる君達は、夏休みの宿題を自力で済ませていると信じてるよ。信じてるよ?

『で、で?そのあと彼とはどこまでいったのよ!?』
 受話器越しに質問攻めにしてくる親友に、頬が厚くなるのを覚えながら答える。
「…その、えっと…手を握られて」
 あの瞬間のことを思い出す。ゆっくりと近づく先輩の顔。優しげな眼差し。
 私はばくばくと爆発しそうな心臓の音を聞きながら目を閉じて―――。
「こ、これ以上はだーめ!っていうか、そっちはどうだったのよー?」
『…き』
 そこで止まる会話。先を促す為に私は聞き返す。
「き…何?」
『きか…ないで…うぇっ――』
 鼻をすすり、声を詰まらせる泣声が聞こえて、全てを察した。
「ごめん、私が悪かったから。何でも答えるから聞いて」
『リア充ばくはつしろーーー!!学校始まったらたかってやるぅーー!!!』
「言うに事欠いてそれか」
 夏の思い出、色々である。

訓練場として夏季休暇期間も開放されていた天と冥魔の廃棄された大ゲート跡。
真面目な、或いは戦いの魅力に見せられた生徒達の利用で終了間際のこの時期も賑わっていた。
「そっちにいったぞ」
「飛んで火に入る――オラァ!」
 篭手についた刃の一撃で切り裂かれ、地に伏せる下級天魔。
「つーかお前、もうちょっとリーチある魔具も使ったら?」
「何いってんだよ、この、拳でぶん殴るような近接戦闘がいいんじゃねぇか!わからねぇかなぁ、この快感っ」
「へえへえ、その内死ぬぞお前。近接だけじゃ対処できない相手も上位には出てくるんだからなー」
 やいのやいのと言いながら、湧き出てくる天魔をコンビネーションで倒していく高等部生コンビ。
 互いの戦術を埋め合うこともまた、生き残る術であった。

「それじゃ、行って来ます。父さん、母さん」
 少年は、手を合わせていた墓の前から立ち上がる。
「また冬休みには来るね。叔父さんと叔母さんは撃退士なんかやめて、養子にならないかって言ってくれたけど…」
 幼い頃に覚えた両親の声、言葉、そして背中。
「自分にしか出来ない事ならば、躊躇うな。弱音を吐いてもいい、泣き言を言ってもいい、気が済むまで吐き出したら、また顔を上げなさい」
 それは、父と母が事故に会う前に言ってくれた言葉だった。だから少年は背を向ける。
「僕に力があるのなら、それを活かす道を。何があっても、曲げません」
 この帰省で、改めて見つめ直した決意を胸に。少年は再び久遠ヶ原へと。

「結局、この夏中アルバイト三昧だったな」
 他の友人たちは、やれ一泊旅行(長期は認められ難い)や帰省。
 或いは集団合宿や、恋人や一歩手前の相手とデートやら祭りやらと夏を謳歌していたと言うのに。
「でもなぁ、生活費とかもろもろ考えたら、遊んでる暇もなかったし…と、お?」
 気がつくとマナーモードにしてあった携帯に着信があった。
「はい、もしもし?」
 暫く相手は無言。いたずら電話かな?と思ってきりかけた寸前。
『あ、あの!先輩!…わ、私と夏休み最後にデートして下さいっ!』
「…はい?」
 青天の霹靂と言うのはこの事だろうか。声は…たぶん聞いた事がある。
 夏休み前に知り合って、たまにバイト先に顔を見せていた子…だと思う。たぶん。
「あの、あの、それでですね、予定は…」
 向こうも恥ずかしさをごまかしたいのだろう、一気にまくし立ててくるデートプランに、呆然としながら頷くしかない彼。
「そ、それじゃぁ…今度の先輩のシフトの休みの日にっ」
 ぷつり。最後まで、こちらが禄に反応も返せないまま通話は切れた。
「…ええと?でーと…デート!? 俺が?なんで!!?」
 彼女居ない暦=年齢。初めて訪れた春、なのかも知れない。夏だけど。


 天魔との戦いから離れた日常では、彼ら・彼女らもまた普通の学生である事に変わりはない。
 理想や夢、将来の目的の為、様々な思いや考えで時を過ごす若者達、或いは、それを見守る大人達。人は営みあってこそ、それを護ろうという気概や奮起もあろうという物だ。
 今日は一つ、そんな彼らの日常を少しだけ覗いて見よう。


リプレイ本文



「あ゛づいー…」
 げんなりとした面持ちで歩く一人の学生。
 八月末、まだ猛暑の中の関東圏、夜さえ熱帯夜で高虎 寧(ja0416)はここ最近満足な睡眠が取れていなかった。
 そも人生最良の目的が『気持ちよく寝る事』と言い切る彼女にはストレスが溜まる一方だ。
 涼しげな寝床を探し、学園内を放浪する。

 しかし。
「…うー」
 図書室を覗き込めば、ひんやりとクーラーの利いた冷気が心地よい。
 ――だが駆け込みで宿題でも片付ける生徒だろうか、常よりも大人数で賑わう室内。
 衆目の視線に耐えながら、と言うのは流石に落ち着かない。
 さりとて教室はクーラーはあるが、休み中は節電の為切られている。
 申請すれば使えるだろうが、理由が『涼しい所で寝たい』ではまず許可は下りまい。
「…あ、そうだ」
 ふと思いつき、くるりと踵を返した。

やがて辿り着いた先は、北側校舎への吹き抜け通路の一つ。
「はぁー…冷たくて気持ちいい…」
 誰もいない校内の、誰もいない通路。
 校舎の間を吹き抜ける風が、日陰に程よく冷やされ流れてくる。
 腰を下ろせば石材の床が冷たく、日差しに火照った体に染み渡るよう。
「うん、ここなら…気持ち、よく…」
 落ちる瞼に逆らわず、やがて聞こえ出す小さな寝息。
寧の頬を、夏の風がそっと撫でていった。


 収穫は喜び。
「…ちょっと、作りすぎたわね」
 とはいえ需要と供給のバランスがある。取れすぎると困るのが世の常。
 一人でどうやったらと言う量のトマト、キュウリ、ゴーヤ、西瓜等の山を前に田村 ケイ(ja0582)は思案を巡らせた。
「…やっぱり、あそこかな」

 十数分後。
野菜を満載したリアカーを引いて訪れたのは、学園の食堂。
「これ一人で作ったのかい?大したもんだねぇ」
 食堂の調理師の一人、年配の女性がこんこんと野菜を軽く叩き彼女に笑いかける。
「うっかり作りすぎちゃったんで、使って貰えませんか?
今年最後の夏野菜キャンペーン的な感じで。余ったら貰ってもらって構わないんで」
 食堂と言っても多種多様な人種入り乱れる学園。国籍様々に若い女性調理師も居るし、男性も勿論いる。
「では寄付としてありがたく受け取らせて頂くよ。ただ、帳面に残さないといけないんだ。
 こっちに記名と、野菜の種類と数の確認を一緒にしてくれるかい?」

 そうこうする内にお昼時。
「はいサラダ一丁〜、チャンプルー一丁〜」
 何故か調理師に混じって食堂で働くケイの姿が。
 手伝いを願い出たら、割とあっさり受け入れられたのだ。味付けや盛り付けの監修は勿論調理師がやるのだが。
「へぇ…あんた、いい嫁さんになれるんじゃないか」
「そうですか。あまり興味は無いんですが」
「はっはっは、年に似合わず落ち着いてるねぇ」
 一段落ついて、帰路に着く。その途中でホームセンターに寄り、秋野菜の種を物色する。
「今回は育てすぎたから、少し少なめにしましょう…。さて、何があるかしら」
 食欲の秋に向け、また良い実りに恵まれますようにと。


「マグロ! 期待してくれよな!」
「期待するで御座る!」
 眩しい太陽に焼かれた白いコンクリートの堤防に、獅子堂 虎鉄(ja1375)と断神 朔樂(ja5116)は居た。
ここは久遠ヶ原人工島にある港湾の一つ。
今日は虎鉄が朔樂を誘い、そこで釣り糸を垂らす二人だった。
(昔は“あの子”と川釣りとかに行ったので御座るが…な)
 ふと過去の情景を思い浮かべる朔樂。無意識にお守りを握る。
 因みに彼、寝坊防止に夕べから港付近にある樹上で睡眠をとっていたらしい。

 しかし、マグロというのは早々釣れる物でもない。自然、待つ間の会話は多くなる。
「おいらは武力も大事だが、覚悟や意志の強さも重要だと思うんだ」
 遠く波間に浮かぶ浮きを見つめながら、虎鉄が口を開く。
「強さ、で御座るか」
 同様に波間を見つめながら、朔樂が目を細める。
 復讐心。それが彼の縁(よすが)であり目的だった。
だが学園で優しい人達との触れ合う内に、それが薄らいでいるのを自覚する。
(…でも、俺はそれを捨てる事は出来ない)
 醜いと言われても構わない。それは何者にも譲れぬ“意思”であり“覚悟”。
「武器を握る心の在り様が強いほど、いざという時勇敢になれるはずだぞ!」
「…そうで御座るな」
 邪気の無い満面の笑顔を向けてくる虎鉄に、朔樂もまた笑顔で返す。
(でも、ありがとう、局長。気遣ってくれて)

 今日の収穫をクーラーボックスに収める朔樂。
「もっと強い正義の守護者になりたい!」
 その横で唐突に叫びながら、封砲を海原に向け撃ち放つ虎鉄。着弾点から激しい水柱が立った。
 衝撃に気絶したか、海面にいくつかの魚影がぷかぷかと浮かぶ。
「あれマグロじゃね?」
「おお、どこでござるか?」
 最後の最後に目的の獲物を得る事は出来たが、既に釣りではなかった。
「晩飯とったどー!」
イソマグロ。比較的浅く陸地に近い場所で釣れる種類であった。
 泳いで回収した獲物を掲げ、二人して手を打ち合わせる。
 そこまでは良かったのだが。
「貴様ら、何をしているかっ!!」
 港湾警備の職員が飛んで来て、みっちり説教を食らう羽目になったのはご愛嬌である。


「それじゃー、いいよー」
「へへ…胸を借りるつもりでいくぜ…!」
 ギイネィアヌ(ja5565)が腰を落とし、両手を前に出す格好で半身にゴムナイフを構える。
 ここは学園にある修練場の一つ。ギィネシアヌに頼まれて、鬼燈 しきみ(ja3040)は近接戦闘の手解きを行っていた。

「せっ!」
 突進からまっすぐ突き出す。それをしきみはひょいと横に避け、伸び切った肘の辺りにゴムナイフの刃を当て摩り下ろす。
「つっ、この」
 回避されるのは予測していたギィネシアヌが、踏み込んだ足を軸に回し蹴り放つ。だが、その下からしきみの膝蹴りがそれを弾く。
「うわっ」
「はい、おわりだねー」
 跳ね上がった足を掴み、そのまま朽木倒しの要領でギィネシアヌを押し倒し、襟首を掴んでいた手が閃く。
心臓の位置にナイフが突き立てられた。
「ぎーねはまっすぐすぎだよー。もっと色々仕込まないとー」
「う…そんな事いわれてもだぜ」

 一時間後、二人の少女は揃ってベンチに腰掛けて休憩を取っていた。
「ほい、しきみちゃん」
「うぇーい」
 ギィネシアヌがクーラーボックスに用意していた濡れタオルとバニラアイスを手渡す。
 渡されたタオルを、しきみは少女の頬に押し当てる。
「む?」
「うにー、動いちゃダメだよー」
 結果的にやられっぱなしで地面に転がる事の多かったギィネシアヌは、あちこち汚れていた。
 しきみの意図に気づき、彼女もおとなしく従う。
「それにしても、しきみちゃん、何であんなに早く動けるんだぜ?」
 模擬戦闘中の彼女の動きを思い出し、疑問を口にする。
「んー。しきみちゃんは、感覚で動いてるからねー」
「そっか」

「あだだ…口の中切ってたんだった…!」
 格闘の最中、噛み切っていた口内の傷に冷えたアイスが染み、思わず咽るギィネシアヌ。
「…」
 その様子をじーっと見ていたしきみは、徐に顔を近づけ。
 ぺろり。舌で少女の頬を舐め上げる。
「うひゃぁ!?」
「アイス、ついてたー」
 思わず飛び退ったギィネシアヌに、しきみはにっこり。
「な、なんだ、アイスか…びっくりしたんだぜ」
 そのまま何事も無かった風に自分のアイスを食べるしきみに、気持ち若干の距離を置いてギィネシアヌは腰を下ろす。
「夏休みも、もうすぐ終わりかぁ…」
 見上げる空はどこまでも高く、小さな少女達を見下ろしていた。



「ふむ…」
 妙な身体のだるさに、アスハ=タツヒラ(ja8432)は眉を顰める。
(コンビニや外食ばかりだったせいかな…体調が優れない)
 だが彼は今まで自炊の“じ”すら縁がなかった。いきなり一人では無理なのは自明の理。
「こういう時は…」
 携帯を取り出し、相談に乗ってくれそうな相手を探す事にした。

「…パック加工される前の米、初めて買う、な」
 袋売りの米を持ち上げたアスハの言葉に、雨宮 祈羅(ja6473)は呆れた様に苦笑を漏らした。
「アスハちゃんよ…。
 お米くらいは、ちゃんと炊こうね?」
 二人が訪れたのは、学園から程近い市場の一つ。
 自炊に関してアスハから相談を受けた祈羅が、彼を引っ張って食材の買出しに来ていた。
 卵、鮭、ほうれん草等を買い込み、一路学園を目指した。

 家庭科室の使用申請は、割とあっさり下りた。
 食材を運び込み、祈羅の指導の下でアスハが料理していく。
彼がやらなければ意味がないのだ。
「メニューは卵焼きと、焼き鮭と、ほうれん草の胡麻和え!どっちも作りやすいし♪」
「魚を下ろす…なるほど、こうして捌くこと、か」
 時に指に刃が当たるが、そこは撃退士の頑丈さで傷一つ負わない。逆に包丁の刃が潰れる事はあったかもしれない。
「余計な事さえしなければ、素人だってマニュアル通りで十分食べれる物作れるんだから」
 調味料の分量を量りながら、祈羅が笑う。
 料理下手とか料理音痴というのは、その余計な事を加えて台無しにするタイプが大半なのである。
「卵を割る、…意外と難しい、な」
「卵割りは全ての基本、しっかりやるんだよ」
「分かった」
 暫くして、炊飯器が炊き終わりを知らせる電子音を響かせた。

「…食べれる、な」
「そりゃそうでしょうよ」
 不器用ながらも、自身で一から作った料理に箸をつけ、アスハが驚く。
 その様を微笑ましく眺め、祈羅も自分の分を食べ始める。
「うん、いけるいける♪ 後はレパートリーを増やしていくだけね!」
 遅めのランチを取りながら、二人は雑談に花を咲かせて。
「で、彼女とは何処までいったの?」
「…言わないと駄目、か?」
「今日の指導料代わりに、聞きたいなー?」
 にやにやと含み笑いなら突っつく。
「…この間、二人で海に――」
「ほうほう、――それで?」
 とある夏の日の午後であった。


「今夜はお祭りか」
 夕刻、体操着で日課のロードワークから戻ってきた神埼 晶(ja8085)は、浴衣姿の学生らを見かけて思い出した。
 だからと言ってやる事が変わる訳でもないのだが。
 そのまま部室へ向かい、鍛錬兼趣味でもあるキックボクシングの練習を始める。
「シッ!シッ!」
 サンドバックに牽制のジャブを叩き込み、ローキックへと繋げる。
「てりゃっ!」
 更にハイキックの軌道から変化させたミドルキックへ。
 その後も様々な打撃を打ち込んで、5R3分をこなして切り上げた。
「ふぅ…シャワー浴びてこよう」

 鍛え上げられ、引き締まりながらも女性らしい柔らかさも備える裸身に、流れ落ちていく水滴。
(あー、もうすぐ新学期か)
 ぼんやりと考えながら汗を流し、さっぱりした所で制服に着替えて寮への帰路に着いた。

「姉貴、練習終わったよ。今から行ってもいい?」
 道すがら携帯で話す相手は、晶が姉貴分と慕う女性。
「じゃ、今から行くね。あ、今日ね、姉貴の事を『残念』とか言う奴が居たから、裸締めで落としておいた」
『おおぃい!?』
 受話器の向こうからうろたえた声が聞こえたが、気にせず通話を切る。
 寸前に相手は何かを言っていた様だが、彼女は気づかなかった。

 彼女の前で特定の『残念』ワードの扱いには気をつけよう!
 お姉さんとの約束だ!(誰)

●夏祭
 門限、それは久遠ヶ原人工島に住まう全ての学生に定められた規則。
「花火…見たいなー?」
 両手を握って胸の前で揃え、潤んだ瞳で寮監を見上げる姫路 ほむら(ja5415)。
「…たまに思うのですが。君は自分が男と言う自覚はありますか?」
「当たり前じゃないですか」
 寮監は、苦笑して少年を見返す。
「ふぅ…巡回部には気をつけなさい。私が少し位目溢した所で、彼らに見つかっては言い逃れできませんからね?」
「やった! あ、じゃない。分かってます、気をつけまーす!」
「まったく…」
 肩を竦めて事務作業に戻る寮監に頭を下げ、ほむらは自室に戻る。
 同じ頃、逸宮 焔寿(ja2900)も同様の答えを貰い、喜び勇んで準備をしていた。
 だが、投げちゅーして寮監室から摘み出された小野 友真(ja6901)を始め、中等部は許可は下りなかった。


 背後の祭り会場から響く、祭り太鼓の音。
 黒を基調に刺繍模様の入った浴衣を纏い、柊 夜鈴(ja1014)はやってきた待ち人へ手を振る。
 駆けて来る二つの影。
「お、お姉ちゃん、そんなに走らなくてもお祭りは逃げないのですよー」
「だって、一度参加してみたかったのです!」
 走って来た為、少し息を弾ませて笑顔を見せる柊 朔哉(ja2302)。彼女と夜鈴は恋人の間柄だった。
 白地に青い葉草の模様が入った涼しげな浴衣姿にしばし見惚れる夜鈴。
 その後ろに続いてやって来たRehni Nam(ja5283)も胸元を押さえ乱れた息を整える。
(――とご一緒できないのが残念なのです)
 二人の様子に、彼女の心にある人の姿が一瞬浮かぶ。
(でも、今日はお姉ちゃん達と一緒。いっぱい楽しむのですよ!)


 やがて合流する面々。
「飲んで食べて遊ぶよー!」
 白地にピンクの蝶々模様をあしらった浴衣姿で、冷えたラムネ瓶を振り上げ元気一杯の藤咲千尋(ja8564)。
「年少組には俺が奢るから、遠慮せずな」
 加倉 一臣(ja5823)が気前よく大風呂敷を広げる。
「いいんですか? ありがとうございます」
 丁寧にお礼を述べ、ほむらはチョコバナナを奢って貰う。
「じゃー、おにーさんの分もおみたんの奢りって事で」
 レイン・レワール(ja5355)に着付けして貰った浴衣を着崩した百々 清世(ja3082)がどさくさに紛れる。
「年少組つったろ、ももたん」
「えー、おにーさん、おみたんより年下だしー?」
「そういう年少じゃねぇって」
 やいのやいのと言いながら、結局は清世の分まで奢る羽目になる一臣だった。
「えーと、えーと」
 暫くきょろきょろと屋台を見回し、朔哉もチョコバナナを所望する。
「それじゃあ俺は…」
 夜鈴の指が、屋台の端から端までをずらっと指し示す。
「ここからあそこまで」
「……」
 引き攣る一臣の顔が面白い。だが男に二言はないらしい。
(ふっ…次の入金まで持つかな…)

「あれやりたい!」
 突然、とある屋台に向かって夜鈴とRehniを引っ張って駆け出す朔哉。
「なになに?」
「わわ、待ってですよー、お姉ちゃん!?」
 やって来たのは射的屋の前。
 夜鈴が代金を払い、受け取ったコルク銃を朔哉に手渡す。
「よーし!」
 と、張り切って目をつけた景品に向けて構える朔哉だったが――。
 三発分あったコルク弾は次々と見当外れの場所へと飛んでしまう。
「あうう」
 撃退士というのは様々な面で超人である。
 その為、祭りの屋台ではわざと射線を狂わせたり工夫する事が認められていた。
 入れ替わり、今度は夜鈴が挑戦。
「あれが欲しいのか…?」
 こくりと頷く朔哉。
 構え、引き金を引く。外れたコルク弾はやはり射線が狂ってまっすぐ飛ばない。
「…」
 最初の弾道の狂いを計算、もう一発。
 今度は見事に命中し、景品が棚から落ちた。
「ほい、これ…うわっ!?」
「ありがとー、夜鈴!」
 受け取ったそれを手渡そうとした瞬間、ぎゅっと抱きしめられ目を白黒させる。
「あ、三人で射的やってるですー♪」
 そこに通り掛かったシエル(ja6560)。
紺地に鮮やかな向日葵模様の浴衣の裾を蹴立てて駆け寄る。
一緒に巡っていたレイン、紫ノ宮 莉音(ja6473)、澤口 凪(ja3398)も合流。
「どうせなら皆で勝負しましょう!」
 白地に黒い縦縞と竜胆柄の浴衣の袖を捲り上げ、意気込む凪。
 シエルも莉音も異論は無く。
「本業的に、みっともない真似は見せれませんので!」
 張り切った凪が先陣を切った。


「んー、むずかしいのです!」
「がんばれー♪」
 結局一発も当たらなかったコルク銃をくるくると器用に回しながら、莉音が声援を送る。
 既に二発を外し、最後の一発を構え集中していたシエル。その背に声がかかった。
「お、どしたんー?」
「う?」
 咄嗟に振り向いた矢先、引き金にかけていた指が引かれコルクが飛び出す。
「おっと」
 丁度その先に居た一臣のおでこに直撃した。
 落ちる途中のそれを掴み、シエルに投げ返す。
「おー、当たったから臣先輩が貰えるですー!って…売約済みですです?」
 その隣にぴったり友真が連れ添っていた。
 シエルの言葉に一臣が笑い、友真を見る。視線に少年は彼の肩を叩いて、
「へへー、売約済みなー♪」
「おーおー、臆面も無く言いやがるですー♪」
 照れ笑いしつも言い切る友真の脇腹を、肘でぐりぐり。
「どれ、景品にゃなれないが落とすなら任せろ」
 少し遅れてほむら、焔寿、清世、千尋も集まって来た。
 前の輪投げ屋台でヌイグルミを一つ確保していたほむらが、屋台の景品を覗き込む。
 男物の浴衣を着て髪を後ろでアップに纏めていたのだが、妙に色っぽい雰囲気が漂うのは何故だろう。
(ぁ…あれも可愛い)
 目に付いたのは隅に置かれたヌイグルミ。
「俺もあれ欲しいからやります!」
「そんなにいくつも部屋に飾るのか?」
 一臣に聞かれ、
「ち、違いますよ!彼女にプレゼントするんです!」
 むきになって言い返すのが逆に怪しかったり。


「これも美味しいのです♪」
「こっちも美味いでー♪」
 遠慮なく奢って貰い、屋台の甘食を極めるが如く食い捲くるのは友真と焔寿。
少女は林檎飴にわた飴、チョコバナナ諸々を両手にご満悦である。
 浴衣の腰帯に吊るされた白ウサが、その様子を微笑ましく見守っているようだった。
「ん、これ欲しいん?」
 友真が食べるわた飴を見つめる千尋。
「すいませーん、もう一つ下さい」
「わぁいゆーま大好き!!」
 受け取ったわた飴に、目をキラキラさせながら少年に抱きつく。
「うわっ」
「だーめ、これは俺の」
 その後ろから友真を抱き寄せる一臣。
「か、一臣さんっ!?」
「あっついなぁ、もうっ」
 一同に笑いが広がった。 
そんな中、隣に居る朔哉をちらりと横目に見る夜鈴。
「ん?」
 空いた彼女の手に自分の手を重ね、握る。
 気づいた朔哉は、柔らかな笑みを浮かべてそれを握り返し。
 繋がる温もりはお祭りの熱気に負けない位、熱く感じられた。


 今度は金魚掬いに突貫。
「てぇぃ…ありゃ?」
 破れたポイを持ち上げ、焔寿は目を瞬かせる。
「ははは、どれ、俺がお手本を」
 後ろで見守っていた一臣が挑戦するも。
「おみたん、ざんねーん」
「くっ…」
 百世は隣の屋台でゲットした水ヨーヨーをぽこぽこと一臣の頭にぶつけ。
「あははー!」
 面白がって千尋も清世にぶつけて遊びだした。
「次俺もー!」
 一臣に代わり友真が見事一匹を救い上げる。
「はい、敢闘賞です」
「お、ありがとな、凪ちゃん。へぇ、ウサギか」
 凪が差し出したのは、屋台で買ったソースせんべい二枚の間に梅ジャムを挟み、更に一枚を半月状に割って挟んだ可愛らしい駄菓子。
「皆さんの分もありますよ!」
 と、金魚掬いを観戦する面々におすそ分けして回った。


 レインは屋台で三人と自分のカキ氷を買い、代金を払って離れる。
 適当な所を見つけて腰を下ろし、冷たい氷菓を楽しむ。
「一口頂戴♪」
「いいですよー。あーんです♪」
 シエルはスプーンストローに自分のカキ氷を掬い、レインに一口。
 仲のよい兄妹の様に…外見的には姉妹にも見えたが。ともかく微笑ましい光景である。
「ん、美味い!じゃあこっち。はい、あ〜んして?」
 レインも自分の抹茶味をお返しした。


 少しの間、年下組の好きに遊ばせる事にして、年長組は集まって休憩。
「ふぃー、皆元気だー」
 言いながら焼き鳥にかぶりつき、甘辛いたれに舌鼓を打つ清世。
「まぁ、若いからなぁ。いや、俺たちも十分若いが」
 隣りに座った一臣が、清世の缶ビールに自分の物を打ち合わせ乾杯の代わりにする。
一臣と清世は躊躇無く空け、レインは酔わない程度に少量を。
「あ」
 何かに気づいて立ち上がるレインは清世の前に回り、彼の浴衣に手をかけ着崩れを直す。
「ふふ、似合うよ〜」
「えー、もうちっと緩めてもいいじゃん」
「だーめ。今夜位はきっちりしとく」
「うへーい」
「なんつーか…母だな、レイン」
 ごんっ。レインの拳が一臣の頭に振り下ろされた。
「オミは一言余計」
 そこに通りすがり晩酌する二人を見かた莉音。
「僕にもちょーだい♪」
 とねだって見るも、きっぱりレインと一臣にダメだしされるのだった。

 その頃。
「――という条件で、お考え頂けませんか?」
 暮居 凪(ja0503)が問いかける相手は、中等部寮の寮監の一人だった。
「…何度言えば分かる。私達の役目は規則を守らせる事であって、破らせる事ではない」
「それは重々承知しています。ですが折角のお祭の夜、少しの間だけ目を瞑っては下さいませんか?」
 提示した主催者の捕縛、及び彼女自身も含めた反省文の提出。
そして三十分の交渉の末。
「…巡回部の判断に委ねる。
彼らがそれで良いというならな。だが“今回”だけだ」
「ありがとうございます!」
 礼をして寮監室を辞し、次の場所へ。
『今は皆さんで花火を見られているのですか?』
 打ち込んだメールを送信、携帯をしまう。まだ行くべき場所は残っていた。


 夜空に咲く色とりどり、大輪の花火。
 人工河川敷でそれを見上げる者達の想いもまた、様々に。

「ふわー♪」
 咲き乱れる大輪の花火。その下ではしゃぎまわる焔寿。
「おっきいの!綺麗なんですー♪」
「うん、綺麗だよなー!」
 ほむらも空に咲く大輪の美しさに見惚れる。
「打ち上げめっちゃテンションあがる…!」
 二人から少し離れた場所では、両手を握り締め友真が歓声を上げる。
隣に立つ一臣が苦笑した。
「気持ちは分かるが、そのまま飛び出していくなよ」
「んー、それは分からんなー」
「やれやれ…」
 溜息と共に、少年の背後に回った一臣は背後から肩越しに腕を回す。
「こうやって押さえておけば、安心だな」
「うえ!?う、うん…そう、やな」
 急にしおらしくなった友真を腕の中に、二人は夏の夜の華を見上げる。

皆と花火を観賞していたRehniは、ふと視線を移す。
目の前には、しっかりと手を繋いで花火を眺める夜鈴と朔哉の二人が居た。
(…今度見る時は)
 二人の姿に自分とある人を重ね、ほうっと溜息をつく。
「どうしたの?」
「あ、な、なんでもないのですよ!?」
 少女の様子に気づいて訝しんだ朔哉に、慌てて誤魔化した。

「あ、皆で記念写真撮りませんか?」
 焔寿の提案に誰も否は無く、丁度友真が所持していたデジタルカメラで、通りすがりの人に撮影を頼む。
 祭りの一夜は、こうして過ぎていった。



 門限を守り、岐路に着く者達もまた。
「そろそろ時間だね、送って行くよ」
レインはシエルと手を繋ぎ、シエルは凪と手を繋ぐ。そして。
「僕でもいいですか?」
 月明かりにふわりと微笑を浮かべ、掌を上に差し出す莉音。
「あ、はい…いいですよ」
 躊躇いがちに、凪はその上に手を重ねた。
「家族みたいですー♪」
「ふふ、そうだね」
 シエルの言葉に、四人で笑い合う。
 それから暫く、雑談を交わしながら夜道を歩く。
「凪さん何月生まれ?」
「えっと…九月です」
「じゃあ僕が弟だね」
 莉音の言葉に、ふと視線を逸らす。
「どうかした?」
「…ちょっと前までは、弟と。こうやって帰れてたなぁって思い出して」
 戻り始めた記憶の欠片。
「…そっか」
 少女に何があったのか、莉音は無論知らない。だがこれ以上は聞くべきではないと感じた。
 彼も思い出す。昨年、故郷であったお祭りと花火。
 今年は、都に賑やかな夏は来なかった。
(…お盆の集まりが無いのは、助かったけど)
『封都』。学園では今の京都をそう呼んでいる。
(皆が居たから戦えた。全部じゃないけど救う事もできた。次こそはきっと…)
「いっ!」
 凪の悲鳴に、はっと我を取り戻す莉音。
「ああ…ごめんなさい」
 慌てて力の入っていた手を緩め、謝罪する。
「どうしたの?」
「莉音君、どしたのです?」
「いや、なんでもないんだ。ごめんね、凪さん」
「いえ…大丈夫です」
 皆それぞれに、何かを抱えて。

「また機会がありましたら、一緒に遊びましょう!おやすみなさい!」
 凪の寮の前で、別れの挨拶を交わす。その頭を、レインが優しく撫でた。
「うん、また遊ぼうね。おやすみなさい」
「はい!」
 寮に入っていく後姿を見届ける。
「それじゃあ、僕もここで。おやすみなさい」
 莉音とも別れ、やがてシエルの家の前に到着した。
「今日はどうもありがとうです!夏休み明けからもよろしくですっ」
 一杯の笑顔で、レインに抱きつくシエル。
「ふふ、よろしくします。一緒に花火見れて良かった」
 そんなシエルに微笑み、ぎゅうっと抱き返し。そうしてレインも帰路に着いた。



 別の道では千尋と、彼女を送る清世の二人。
 帰りがけ、林檎飴を買って千尋に手渡す。
「皆には内緒よー」
 自分の分は散々一臣に奢らせたので、彼の財布に全然余裕があった。
「あはは♪ ももちゃんおにーさんと二人だけの秘密ー!」
 指を唇に当てて、小声で囁き微笑む清世に千尋は楽しそうに笑う。
 はぐれない様に手を繋ぎ、人混みを縫って行く。
「たーまやー!」
 打ち上がり始めた花火の下、齧り掛けの林檎飴を振り回してはしゃぐ千尋。
「んじゃ、少しゆっくり歩いていくかー。門限には間に合うよーに」
「うん!」
 手を引かれながら、何とはなしに思い出されるのは実家の兄の姿。
 その面影が、清世の背中に重なる。
(…えへへ、お兄ちゃんが増えたみたいだなー)
 花火に照らされ、地に写る影が寄せては離れ。河川敷沿いの道を二人はゆっくりと歩いていた。


 やがて花火も終わる。
「よし、そろそろ帰るか。巡回部に気をつけながらな」
「そやなー、また反省文は嫌やし」
 周囲を警戒しながら土手をあがる一同。
 だが上りきった直後に複数の人影に囲まれてしまう。
「うお!?」
 その中から一人が前に進み出た。
「こんばんは。良い夜、でした、ね?」
 月明かりに煌く眼鏡の縁。
「暮居…さん?」
 朔哉とRehniが目を丸くして彼女を見つめる。
暮居の隣にもう一人。腕に巡回部の腕章をつけた女性。
「彼ですか」
 全員を見回した後、女性はひたりと一臣に視線を止めた。
「そうです…。逃げなくてもいいですよ、友真君」
 こっそりほむらと焔寿を連れてその場を抜け出そうとしていた友真を、暮居の声が止める。
「や、やー、さっきの花火めっちゃ綺麗でしたね!」
 引き攣った笑顔で、話を逸らそうとする少年。
「大丈夫ですよ、話はついてますから。ね?」
「今回限り、だからな」
「分かっています」
 班長らしき女性が顎をしゃくると、二人の巡回部員が一臣の腕を両側から拘束する。
「ちょ、何がどうなって!?」
「安心して下さい、私も付き合います」
 説明をする手間を省き、友真と夜鈴に顔を向ける暮居。
「友真君と夜鈴君は、皆さんをちゃんと送り届けて下さいね。では、おやすみなさい」
 連行されていく一臣を、呆然と眺める六人。
「…ああ、そうか」
 ぽん、と。成り行きを見守っていた夜鈴を手を叩く。
「僕らの身代わりに…売られたな」

 結果として、字数の軽減は認められず。
 八人分、九万六千字の反省文を一臣と暮居が分担、四万八千字ずつ書かされる事になった。
「…夏休み中に終わるかな、これ」
「知りません…。ああ、そこ、字が間違ってますよ」
 これもまた夏の思い出…?


 気がつけば依頼と試験勉強に追われ、今年の夏は終わろうとしていた。
(15歳の夏は今年しかない!思い出を今から作るんだ!)
 一念発起した菊開 すみれ(ja6392)は行動を開始した。

 ――しかし。
 夏は海!と勇んで出かけてみれば、既に時期外れ。
 閑散とした浜辺に閉店した海の家。これ見よがしに漂うクラゲ。
 普通のクラゲは撃退士にとって脅威でもなんでもないが、流石に泳ごうという気分にはなれなかった。

 ならばと、今度は夏休み最後の縁日に出かけてみれば、突然の雷雨豪雨に縁日は中止。
 傘もなかった為ずぶ濡れになった姿で、とぼとぼと来た道を戻るしかなかった。
「…!」
 雨が上がって暫く、河川敷沿いの土手道を歩いていた時に突然大きな音が響き、鮮やかな虹彩が雨上がりの夜空を染める。
「わぁ♪」
 夜空に咲き乱れる、大輪の華。門限に間に合うぎりぎりまで、それを楽しむ。
 一つだけだが、夏らしい体験が出来た事に満足出来たのだった。

 だが、最後のダメ押しが待ち構えていた。
「ひぃ〜ん」
 涙目必死にこなしていくのは…夏休みの宿題。
 あれだけ試験勉強はしたのに、宿題には一切手をつけていなかった不具合。
 始業式は今日。
「まだ間に合う、まだ午前一時だから、あと6時間っ!」
 …量的に見て、どう足掻いても終わる筈はなかったのだが。
 彼女の新学期は、こうして始まったのだった。強く生きて下さい…。


 旅は良い物です。
「己が脚で世界を広げ、己が眼で世界を見、己が全てで世界を知る。楽しいものです」
 夏休み、地図も持たずに本土旅行にでたレイル=ティアリー(ja9968)は、好奇心と風の向くまま気の向くままに放浪していた。
 無論、学園がそこまで長期の旅行を認める事は滅多にない。ならば何故?
「道に迷ったとかでは在りません。決して。そも、目的地なんてないですし」
 襟元を正し、きりりと引き締めた表情で一人誰ともなしに語る。
 つまりは、そういう事らしい。
 名も知らぬ山の、流れ落ちる滝の前。休憩がてら涼をとっていた彼は、再び腰を上げた。
 既に食料はつき、適当な山菜などで誤魔化していたが、そろそろ温かいご飯が恋しい。
 とりあえず、川沿いに山を下れば町に出るだろうと中りをつけて進んでいるだけだった。

 暫くして、どうにか整備された国道らしき道に出た彼は、ヒッチハイクを試みる。
 交通量はそれほど多くないようだったが。
「しかし、夏季休業の間に久遠ヶ原に帰れるのでしょうか?」

 結果はともかくとして、帰還した彼がみっちりと説教を食らったのは言うまでもなかった。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:19人

先駆けるモノ・
高虎 寧(ja0416)

大学部4年72組 女 鬼道忍軍
Wizard・
暮居 凪(ja0503)

大学部7年72組 女 ルインズブレイド
cordierite・
田村 ケイ(ja0582)

大学部6年320組 女 インフィルトレイター
幻の星と花に舞う・
柊 夜鈴(ja1014)

大学部5年270組 男 阿修羅
獅子堂流無尽光術師範・
獅子堂虎鉄(ja1375)

大学部4年151組 男 ルインズブレイド
茨の野を歩む者・
柊 朔哉(ja2302)

大学部5年228組 女 アストラルヴァンガード
W☆らびっと・
逸宮 焔寿(ja2900)

高等部2年24組 女 アストラルヴァンガード
読みて騙りて現想狂話・
鬼燈 しきみ(ja3040)

大学部5年204組 女 鬼道忍軍
オシャレでスマート・
百々 清世(ja3082)

大学部8年97組 男 インフィルトレイター
君のために・
桐生 凪(ja3398)

卒業 女 インフィルトレイター
銀炎の奇術師・
断神 朔樂(ja5116)

大学部8年212組 男 阿修羅
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
懐かしい未来の夢を見た・
レイン・レワール(ja5355)

大学部9年314組 男 アストラルヴァンガード
主演俳優・
姫路 ほむら(ja5415)

高等部2年1組 男 アストラルヴァンガード
魔族(設定)・
ギィネシアヌ(ja5565)

大学部4年290組 女 インフィルトレイター
JOKER of JOKER・
加倉 一臣(ja5823)

卒業 男 インフィルトレイター
リリカルヴァイオレット・
菊開 すみれ(ja6392)

大学部4年237組 女 インフィルトレイター
夜の帳をほどく先・
紫ノ宮莉音(ja6473)

大学部1年1組 男 アストラルヴァンガード
恋人何それおいしいの?・
シエル(ja6560)

大学部1年153組 女 鬼道忍軍
真愛しきすべてをこの手に・
小野友真(ja6901)

卒業 男 インフィルトレイター
撃退士・
雨宮 祈羅(ja7600)

卒業 女 ダアト
STRAIGHT BULLET・
神埼 晶(ja8085)

卒業 女 インフィルトレイター
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
輝く未来の訪れ願う・
櫟 千尋(ja8564)

大学部4年228組 女 インフィルトレイター
騎士の刻印・
レイル=ティアリー(ja9968)

大学部3年92組 男 ディバインナイト