.


マスター:火乃寺
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:11人
リプレイ完成日時:2012/02/16


みんなの思い出



オープニング


「ふぅ、今朝も寒いですね」
 コーヒー喫茶『雨音』の店前を掃除しながら白い息を吐く。久遠ヶ原商店街の一角にある店は、朝早くから営業し軽食なども提供している為、早出の人々にそれなりに利用されていた。
 そこの店長である男が箒片手に掃除を続けていると、早速来客の足音が聞こえてきた。
「おはようございます、今日も早出ですか、先生」
 店の前で互いに挨拶を交わす。相手は常連の高等部教師だ。だが、その表情を見ていぶかしむ。何か押し殺したような、重苦しい雰囲気を纏っていたからだ。ついぞ、見た事が無い様子である。
「・・どうかされたんですか? と、こんな所で立ち話もないですね、どうぞ中へ」


「娘の様子がおかしいんだ」
 開口一番、彼はそう言って切り出した。何でも、ここ最近そわそわと落ち着かなく、暦を見ては溜息をつき、彼が帰宅すると慌てて台所を片付けたりしていたそうである。そうして、室内には甘ったるい匂いが満ちていると。
「ははぁ、なるほど」
 暦を見て頷く。娘さんは確か高校一年生だった筈だ。妻を早くに亡くし、男手一つで育てたと前に自慢げに語っていた事もある。
 この月になって女生徒が浮つくイベントと言えば、一つしかない。微笑を浮かべて、彼は目の前の父親にコーヒーを差し出した。
「お年頃、という奴ですね。いい事じゃありませんか」
「よくないっ!断じてよくはないぞ!?」
 どんっ、とカウンターを力一杯叩き力説してくる相手に身を引きながら、心の中で苦笑する。(「父親というのは、こういうものですしね」)
「なので、ここ暫く娘の周囲を探ってみたんだ」
 ・・・・はい?
「生徒の内申付けとか、どうでもいい仕事を押し付けられていたのでな、丁度暇だったんだ」
 ちょっと待て。それは十分重要っていうか、将来に関わるだろ。
「登下校を監視し、校内での会話ももちろん盗聴し、娘の日記もこっそり確認してみた」
 だめだこいつ、早く何とかしないと。
「結果、悪い虫がついている事が分かったっ!!」
 どんどん、と更にカウンターを叩かれ、折角淹れたコーヒーがカップからコースターに零れていた。
「という訳で、そいつを排除したいんだが、どうしたらいいと思うかね?」
 彼は思った。(「その前にあんたを排除したほうが娘さんの為なんじゃないか」)と。


 その翌日。
 入口の鐘がカラコロと、聞きなれた来客の訪れを告げた。
「おや、いらっしゃい。久しぶりだね」
 やってきたのは、あの教師の娘さんだ。はにかんだ笑みを浮かべて、カウンター席に着く。奇しくもそこは、彼女の父親がいつも座る場所と同じだった。
「お久しぶりです、マスター。最近は来れなくてごめんなさい」
 彼女が小さい頃は、父親が留守の時に預かって遊んであげたりもした事がある。お兄ちゃんと呼ばれて、よく懐いてくれていたものだ。
「いや、君ももう高校生だしね。周りに楽しいことが一杯だろう?」
 それから暫く、近況の話題に花を咲かせた。彼女の表情はころころと豊かに変わり、今幸せなのだと十分に感じられる。
「そういえば、お父さんとは最近はどうだい?」
 さりげなく話題を振ってみる。昨日の事が、多少気になっていた。
「あ、はい。相変わらずです。いつも私のことばっかり考えて、自分のことは二の次みたいな。お母さんが死んでから、ずっとそう」
 少し困ったような微笑。同時に、親への信頼と愛情が窺えた。
「それは、嬉しいんです。嬉しいんだけど・・お父さん自身の幸せは、どうするのかなって」
「君の幸せが、お父さんの幸せになるんじゃないかな。なんて言う言葉では、もう駄目なんだね」
 こくりと彼女が頷く。
「私も、もう自分のことは自分で考えられます。それに、いつか私が・・その、け、結婚したり、なんかしたりしたら、お父さんが一人ぼっちになっちゃう気がして」
 頬を染めて後半を呟くように言った彼女は、恥じ入るように俯く。最近には珍しいくらい、純情な子だった。
「そっか。君もそういうことを考える年頃か。・・・・ひょっとして、いい人でも見つかったのかい?」
 からかうように言うと、ますます顔を染めて耳まで真っ赤になった。ちょっと突っ込みすぎたかもしれないとは思ったが、もう少し聞いておきたかった。
「ん、誰にも言わないから、感じとしてどんな人なのか、お兄ちゃんにも聞かせてくれるかな? 無理にとは言わないけれどね」
 応えるまでに、大分間があった。急かす真似はせず、カフェモカを注いで出す。やがて囁くように紡がれる声。
「えっと、その・・顔とかは違うけど、少し、雰囲気がお父さんに似てる・・・・かも」


 依頼を受ける為に集まった者達を見回して、微笑む。放課後、closedの札を出して閉め切った店内、各々好きな位置に腰を落ち着かせて話を聞いていた彼らの顔は様々だ。
父娘のプライベートな部分は伏せるだけ伏せて話したが、それなりに察している者もいるかもしれない。
「で、一応私の方でもそれとなく調べては見たのですよね。あ、ご心配なく。あの方のような真似はしていませんから」
 件の教師から話を聞き、その悪い虫と呼ばれた学生の評判を聞き込んでみた。結果、『ちょっと強面で損はしているが、中々の好青年』だという。それをそのまま伝えてみたのだが。
「私の話、一切信じてくれないんですよね」
 困ったものだと肩を竦める。それだけならいい。
「なんていうか、娘さんが楽しみにしている日に彼を呼び出して話をつけるんだとか」
 そんな事をすれば、父娘の関係が確実に悪化する。
「で、依頼の本題です。見て見ぬ振りも後味が悪いので、あの方の暴挙を止めて貰えますか?」


リプレイ本文


 二月十四日、昼休み。
 カララン、とドアベルの音に顔を上げた彼は、来店者達に笑顔を向ける。
「こんにちはっ!」
「こんにちは」
連れ立って入店したのは、しのぶ(ja4367)と、滅炎 雷(ja4615)だ。どうやら緊急時の連絡用に、娘さんの方の連絡番号を尋ねに来たらしい。だが、依頼人からの返答はノーだった。
 そも、依頼は彼女に内密で彼氏の青年と相談して整えた物である。緊急時であっても極力知られない事が望ましい。その代わり、青年の方になら構わないと。
「そっか〜」
「しっかし、なんでこんなに日呼び出すのかなぁ」
 しのぶの言葉に苦笑しながら、「これはサービスですよ」と彼はホットチョコレートのカップを二つ、手渡すのだった。


 同日、放課後。
 青年からの連絡を受けた、影野 恭弥(ja0018)、鳥海 月花(ja1538)、司 華螢(ja4368)、しのぶ、雷の五人は指定された場所へと急ぐ。。
 目的地の人口河川敷は、陸橋のすぐ脇下。子供達が草野球に興じられるほどの広さのそこに、既に件の教師の姿もあった。
「・・何だ、お前達は?」
 腕組みをして相手を待っていた教師は、突然現れ自分の周囲を取り囲んだ学生達に怪訝な顔で見回す。そこに一歩、雷が足を踏み出した。
「娘さんの幸せの為を思うなら、話を聞いてくれないかな?」
 ぴくりと、眉を跳ね上げて教師は歳若い彼を睨みつける。
「娘さんの事が大事なのは分かるけどっ! 自分で自分の将来を決めさせてあげても良いじゃないっ!」
 雷に続いて、教師の斜め後方で勢い込んで言うしのぶ。台詞にやたら力が篭っているのは彼女の性分か。次いで、月花も自身と父の過去の確執を絡めて語りだす。口調は丁寧だったが、
「やりすぎなんですよ。親なら何をしても許されると思っているのですか?」
 教師を見る視線は控えめに表しても友好的と言い難く。彼女の何かを押し殺した雰囲気は、説得というにはいささか怪しい。
 その間、恭弥は何気ない、しかし慎重な足取りで教師の背後に立ち位置を確保する。彼にとっては、父娘間の感情の機微などさしたる興味もない。ただ依頼として受けたから、やるべき事をやるだけだ。
 華螢もまた、淡々と説得の様子を眺めながら思う。
(「地震・雷・火事・親父。・・手強いのは確かだろうけど。正直、理解不能」)
 親の情薄かった彼女にとって、教師の振る舞いが正しくない事だけは理解できたが、そこまでせしめる想いの強さが理解の外。だが同時に心の奥底で、それを羨む部分もあるのだが自覚はない。
「・・・・なるほど、よく分かった」
 腕組みをしたまま静かに学生達の言葉を聴いていた教師が吐き出した言葉に、一瞬説得が上手くいったかと期待する彼らだったが。
「あの小僧が漢と漢の話し合いを無視するだけに留まらず、仲間を募って私を潰そうとするような、性根の腐った輩だという事がなっ!!」
 最後の方は怒号の一喝である。この親父、彼らの話をてんで聞いちゃいなかった。大体話し合いと言うが、端から力尽くで彼氏を潰す気だったのだから、お互い様である。まぁ、最初から言葉でどうにかなるなら、こんな依頼を依頼人も出そうとも思わなかっただろう。
「怪我をしたくなかったらそこを退くがいい。嫌だと言うなら叩き潰して押し通る」
 怒りの形相露に、怒気を孕んだアウルを纏わせ踏み出す暴走親父。
「少しは頭を冷やせ、よね」
 華螢のこの呟きは、学生ら全員の代弁だったかもしれない。覚悟を決めて、それぞれが実力での阻止に構えを取る。
 一触即発の雰囲気の最中、突然高所から朗々と口上が響き渡った。
「昔の人は言いました。『人の恋路を邪魔するヤツは馬に蹴られてDeathれ♪』」
 昔の人は英語使わないと、若干突っ込みたい所はあったが。声の出所を見上げれば、陸橋の落下防止柵の上に仁王立つ一人の女丈夫、雀原 麦子(ja4615)である。
「とうっ」
 軽やかに陸橋から飛び降り着地する麦子。せいぜい高さは十メートル弱、衝撃も大したものではない。過程で風圧が彼女のスカートを捲り上げて、中身が見えたりしていたが。
「麦子さん、スカートっ!」
 そう叫ぶしのぶは、いつの間にやら雷の後ろで彼の両目を両手で塞いでいた。雷が若干残念そうな表情に見えるのは気のせいだろう。ちなみに親父と恭弥は、さして気にもせずしっかりと見ていた。
「見られても大丈夫なやつ履いてるから、のーぷるぶれむ♪」
 陽気にそう言い置いて、ビシリと木刀の切っ先を突きつける。
「そーゆーわけで。『馬の足の会』切り込み隊長(自称)こと、雀原 麦子が誅罰を下すわ☆」
 怒りのボルテージを上げていた親父も、これに多少毒気を抜かれた様子で彼女を眺める。
「それって、自称して何か得でもあるの?」
「え?いや、特にないけどね」
 どこかずれた華螢の突っ込みに、あっけらかんと返す麦子。というか、あの口上の為に今まで隠れてタイミングを計っていたのだろうか。
「酔っ払いなら、居酒屋でやってくれ」
 親父まで半眼で突っ込む。
「今日は酔ってないわよぅ。まだ」
 どこか拗ねた様に応える麦子。気を取り直して、続きを口にする。
「たとえ父親といえど、乙女の会話を盗聴したり、日記を見たり、あまつさえお風呂を覗いたりするとは万死に値するわ! 成敗してやるから、そっこになおれ〜♪」
「他はともかく、風呂は覗いとらんわっ!?」
 いきなり着せられた濡れ衣に思わず叫ぶ親父だが、
「・・・・お風呂まで覗いてたんですか」
 月花の履き捨てる台詞と女性陣からの視線がやたら冷たく突き刺さる。その様子に雷は苦笑し、恭弥は我関せずを貫いた。
「ええいっ、漫才に付き合っている暇はない! あの小僧を一刻も早く娘の傍から排除せねばならんのだ、私は!」
 今にも娘が奴の毒牙にかかり、穢されてしまうかもしれないと思うと居ても立ってもいられない。取り囲む学生達の隙間を抜けようとするが、その動きに合わせて彼らもまた囲いの位置を変える。一戦は避けられそうになかった。
「・・・・」
 ちらりと華螢が腕時計を見やる。ここまでのやり取りで、三十分弱が経過している。残り二時間半、長い放課後となりそうだった。


 僅差で機先を制し仕掛けるたのは阿修羅の内の一人、麦子だ。打ち下ろすと見せかけすれ違い、膝裏に一撃を加える。
「むっ」
 V兵器でもないただの木刀の打撃だが、膝裏は生身の人体でも鍛えにくい部位だ、ダメージは避けられない。だが彼も今日まで生き延びた熟練の撃退士、ただそれだけでは体勢を崩すに至らない。逆に二の腕を掴まれ、アストラルとは思えぬ膂力で振り回された麦子は地面に叩きつけられた。
「っ〜! こりゃきっつ〜い。しのぶちゃーん、へーるーぷみー!」
 衝撃に一瞬息が詰まる。地面を一転して体勢を立て直す彼女の声に、応えて繰り出されるしのぶの足払い。だが二度続けて足元への攻撃とくれば、流石にかわされてしまう。
「甘いな、所詮学せ――!?」
 鈍い打撃音。避けた先で待ち構えた月花の藍色を帯びる拳打が、綺麗に親父の鼻面に叩き込まれた。
「あぁ、良心が痛みますねぇ」
 内容に反して声音は棒読み感全開である。普段はぼんやりとした表情も、今はやたら嬉しそうなのは気のせいだろうか?
「気のせいです」
 そうですよね、ごめんなさい(脱兎)
 雷と華螢は、常に空いた隙間を埋める様に動き、突破をけん制する。教師の背後を取り続ける恭弥は、攻防には加わらず、自分が動くべき時を見定めていた。
 一進一退の状況は、しかし徐々に旗色は学生達の不利に傾いていた。確かに手数で勝る分に足止めは成功していたが、攻撃の殆どを受け止められるか、かわされてしまうのだ。反面、魔具なしのアストラルの打撃力では重さがなく、教師の攻撃も当たりはすれど痛打には至らないのだが、熟練と駆け出し、その経験の差が打たれ強さとして徐々に現れ始める。
 消耗戦の様子を呈しながらも、しのぶ、麦子を起点に連携して、雷、月花、華螢が凌ぐ。
 そのままいけば、負傷を回復させられる教師が圧倒していただろう。だがスキルを使おうと集中する度、恭弥は静から動へと即座に反応し、温存していた力を振るい妨げる。互いに、状況を決定付ける手札が掛けていた。
「てりゃっ♪」
 麦子がいつの間に仕掛けておいた吊りロープの罠も、完全に発動する前に手刀で断ち切られてしまう。
 華螢の放ったネットも一時的な撹乱にはなったが、ただのネットでは引き千切られて終わってしまった。天魔ほどではないが、撃退士というのも敵に回すと大概理不尽な生き物だ。
 打ち、受け止め、払い、かわし、取り付いては投げ飛ばされる。それぞれが説得の言葉を紡ぎ、拘束の機会を窺うが、教師は耳を傾けず、隙を中々に見せない。
 残り時間、一時間強。


「うわわっ!? きゃっ!」
 蹴りだした足首を逆に掴まれ、しのぶが投げ飛ばされる。
「しのぶ姉!」
 頭から落下しそうな彼女を、咄嗟に滑り込んだ雷が受け止める。その間隙を埋めようと麦子と月花が仕掛けるが、受け凌がれ、逆に体当たりで吹き飛ばされて、囲いに致命的な穴が開く。
「まずいっ!」
 誰かが叫ぶ声。そのまま振り切ろうと駆け出した教師の目前に、華螢が飛び出す。
「退きなさい!」
「退けません」
 毅然と正面に立ちはだかる彼女に、一瞬娘の姿がだぶる。その表情が泣いているように見えた。
「華螢ちゃん!?」
 接触、そして弾き飛ばされる小柄な体。その光景に数人が息を呑む。ダアトの彼女にとって、今の衝撃は大きすぎた。斜陽に染まる河川敷に転がり、立ち上がれないまま呻く。
 そして同時に、教師もまたその場に足を止めていた。
「何故だ! そうまでして何故邪魔をする!? お前達に、私たち父娘の事は何の関係もないだろうっ!?」
 抱える激情と混乱のまま喚く。彼はただ娘の為を想って行動していただけだ。その自分を、ここまでして歳若い学生達が邪魔をする理由が分からない。誰かに頼まれたのだとしても、程ほどで退けばいいではないか。
「・・・・そこ、まで、大事に思える、こと。多分、凄く良い、ことなんだと、思う」
 切れ切れの言葉が、彼の耳に届く。ようやく身を起こした華螢だ。
「でも、本当に、大事なら気づかなきゃ・・ダメ、なの。大事に思うこと、の、本当の、意味。傷つけてから・・気づいちゃ、遅い、の」
 他の者達が彼女に駆け寄る中、しのぶは足を止めて、大馬鹿親父を全力でぶん殴った。
「娘さんが大切なのは分かる。けど、自分が娘さんの幸せを壊そうとしているのが分からない?」
 華螢を助け起こしながら、雷は真摯に言葉を掛ける。
 その隣で、麦子は娘とマスターの会話を語って聞かせた。
「あと、これを言うのは娘さんには申し訳ないんだけど、ね」
 マスターが、彼女に誰にも言わないからと言って聞き出した言葉。彼ら学生達に教えた時点で、それは彼女に対する嘘になってしまっていたけれど。
「貴方が排除しようとした彼ね。娘さんが言うには、『お父さんに雰囲気が似ている』だってさ♪」
 教師は、ただ無言で学生達の言葉を聴いていた。だが最初のように、その言葉が届いていない訳ではない。全てを納得して貰えたとは思えないが、もうデートの邪魔をしに行こうとはしていないのだから。
 相変わらず彼の背後に立っていた恭弥が、これで依頼は終わりとばかりに肩を竦める。傷だらけの学生達にあって、彼だけは殆ど無傷に近かった。
「子離れしろとまでは言わないが・・・・自分の娘を信じられないなら、親失格だぞ」
 あとは興味もないとばかりに、背を向けて歩き出す。その背中に、
「親になった事がない小僧が、知った風な口を叩くな。・・だが、今回だけは覚えておこう」
 そして、残った学生達の負傷をスキルを用いて治療していく。魔装でない服の汚れや損傷はどうにもならないが、それ以外は痕も残さず完治してしまった。
「んー、これで一件落着・・・って、あーっ!!」
 いきなり素っ頓狂な声を上げて、しのぶが立ち上がる。
「な、なに、どうしたの、しのぶ姉?」
「親バカ親父のせいで、私のバレンタイン、すっかり忘れてたよっ!! ライ君、これからデートだよっ! GO〜GO〜っ!!」
 半ば引きずるように、雷を強制連行していく様を唖然と見送る一同。今からデートすると夜のデートになりますが、いいんですか学生さん・・・・。といらない突込みをして馬に蹴られてDeathりたくないので、筆者は見なかったことにしようと思います、まる。


「自分の怪我は治さないの?」
ぼんやりと河川敷に座り込んでいた教師に、背中から声が掛かる。
「・・なんだ、まだ居たのか」
 ガサガサとコンビニの袋を提げた麦子が、その隣に座ると、袋の中から缶ビールを一本取り出して教師に差し出す。
「ま、とりあえず飲も☆」
「君、歳はいくつだ?」
 受け取りながら、かなり若く見える彼女に、教師としての使命感から言葉が出る。
「あ、私ってまだ十代に見える? それはそれで嬉しいけど、もうちゃんとした成人なのよ〜☆」
 笑ってプルタブを起こし、ぐっとビールを煽る。それを見て、教師も自分の缶ビールを開けて、一気に煽った。
「この痛みがなくなると、また頭に血が上ってしまいそうでな」
 それが最初の質問の答えだと知り、麦子はおかしそうに噴出した。
「なるほどー。ま、ほどほど時間が経ったら、一度家に帰ることね。そん時は傷もちゃんと直さないと、娘さんに心配掛けるよ」
「そのくらいは分かっている。・・あの子は、優しい子だからな」
「お、でたでた、親ばか発言♪」
 からかわれて憮然とする教師に、もう一本缶ビールを手渡し、自分も二本目を開ける。
「きっと、彼氏への気持ちに負けないくらい、愛情のこもったチョコを用意してるはずよ♪」
 たぶんね、と笑う麦子に釣られ、男の顔にも今日初めての笑みが浮かぶ。それは苦笑ではあったが。
「期待しないで置くとするよ」
 街影の向こうに太陽が沈みきるまで、二人の語らいは続いたという。


「親の愛って、いろいろな意味で凄かったね〜」
「ほんとだよね」
 他愛のない会話をしながら、日も暮れかけた街を歩く雷としのぶ。その前方から、こちらも二人と同じような若いカップルが歩いてくる。
「あ・・。ね、ライ君、ちょっと野暮用」
「へ? 何を・・って、なるほど」
 二人が、前方から来るカップルとすれ違う刹那。
「ちゃんとお父さんとお話して、自分の考えを伝えないとねっ?」
「えっ?」
 突然囁かれた言葉に振り向いた時には、声の持ち主と思われる少女は、一人の少年と共に駆け去っていく所だった。
 小首を傾げる彼女の後ろで、彼氏の青年は静かに二人の背中に一礼し、それから彼女に声をかけてまた歩き出す。

 Happy Valentine〜恋人達のささやかな幸せに祝福あれ〜



依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: God of Snipe・影野 恭弥(ja0018)
 挺身の巫・司 華螢(ja4368)
重体: −
面白かった!:10人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
怨拳一撃・
鳥海 月花 (ja1538)

大学部5年324組 女 インフィルトレイター
夜のへべれけお姉さん・
雀原 麦子(ja1553)

大学部3年80組 女 阿修羅
全力全壊・
しのぶ(ja4367)

大学部4年258組 女 阿修羅
挺身の巫・
司 華螢(ja4368)

大学部5年190組 女 ダアト
泥んこ☆ばれりぃな・
滅炎 雷(ja4615)

大学部4年7組 男 ダアト