「西と南が、全滅……。敵を目測すら、していないみたい。」
「精神的ショックで使い物にならない…。香りを操る天魔って予測だし、精神干渉か幻覚でも見たのかしら」
「幻覚か、洗脳か、神経毒か……興味深い。
気を引き締めて掛からないと。きっと、とても手ごわい相手……」
樋渡・沙耶(
ja0770)が借用してきた作戦時の地図を一緒に覗き込みながら、氷雨 玲亜(
ja7293)が言葉を交わす。
妙に事前情報の少ない依頼だった、しかも情報のガードも固いし。
「不審な所も多い依頼ですが、頑張ります。お姉さまの加護が私にありますように」
胸元から一枚の写真を取り出して、片手を頬に当ててうっとりと見つめるヴィーヴィル V アイゼンブルグ(
ja1097)。
昨今はそういった恋愛事情にも懐広い世情なのである。
「とてもいい匂いをさせる天魔か〜〜、どういう匂いなんだろうね〜〜」
余り事を重大に捕らえていないのか、あっけらかんとした口調で要 忍(
ja7795)が傍にいる二人の少女に語りかける。
「森でいい匂いを出す物…花か、果実?」
「ん、どんな相手かわからないけど、気をつけたほうがよさそうだね。とりあえず匂いに注意していこうか」
小首を傾げるイヴ・クロノフィル(
ja7941)に、猫野・宮子(
ja0024)は頷いた。
その時ちらりと、忍の豊かな胸と、イヴの年齢不釣合いな胸に視線を走らせてから目を逸らす。
西と南だけが壊滅し、北と東のチームが無事な事から、匂いは風に乗って散布されたのではないか?
そう考えた彼女らはスマートフォン等を活用し、当日の時間帯の風向き等を細かく調べ、その夜は風上が北から東へと変化しながら吹いていた事も確認済み。
構成は宮子・イヴペア、沙耶・ヴィーヴィルペア、玲亜・忍ペア。
それまでコートを着ていた宮子がばっとそれを脱ぎ捨て、何処からか猫耳と尻尾を装着して準備万端。
「魔法少女・マジカル♪みゃーこが万事解決しちゃうのにゃ♪」
元気のいい宮子の隣で、イヴはぱちぱちと拍手しながら森へと分け入っていく。
微笑ましい二人を見送りながら、残り二班も頷きあって探索を開始した。
それが、あんな目に遭うなんて――この時は知る由もなかった。
●
ガサガサと、草木を掻き分けて進む宮子とイヴ。
撃退士の身体能力がある為、障害となるわけではないが、小柄な少女達にとって鬱蒼と茂る森を歩くのは中々面倒だった。
「んー、確かいい香りがするんだっけにゃ? 匂いがしたら、風上に向かえば見つけれるかにゃー?」
「何か匂いを出すもの、原因って事は、風上にそれがいる可能性、大きいの…」
手掛かりが“匂い”と言う事もあり、可愛らしい鼻をやや突き出すようにして草木を掻き分けていく。
「…相手は、一匹だけとは、限らない気がするの。気をつけないと」
時折怪しそうな物相手に矢を放ってみるが、今の所目立った反応はなく。
「とりあえず北東方面に…にゃ? うに、よい匂いがするようにゃ。これがそうかにゃ?」
ひくひくと鼻を動かし、流れてくる風に混じる、甘い香りを嗅ぎつける。
それは嗅げば嗅ぐほどに、頭の中が痺れるような、ふわふわするような感じで……。
「あっちから流れ…ふぇ、ん…なにか、頭が重い…の」
「にゃ〜〜〜っ♪」
「ひぃやっ!?」
匂いの元へと向かう足が縺れ、よろけそうになったイヴの背後から、いきなり衝撃が襲う。
どうにか踏みとどまって首を回すと、既にちょっといっちゃった目をした宮子がイヴに抱きついてきたのだ。
「僕より年下なのに…こんな、こんな立派な物をもってっ!お仕置きにゃー!」
ぐわっし、と回した腕でイヴの立派な持ち物を掴んだその手が、秒間三千回(嘘)のダイレクトバイブレーションアタックを仕掛ける!
「ふにゃぁっ、にゃああああああ〜〜?!」
年齢不相応に発達したそれは、感度の発達もいいのか、与えられる刺激に腰砕けになってへたり込むイヴ。
これ幸いと彼女を転がし馬乗りになった宮子は、うらやましいんだか発情してるんだか分からない上気した顔でにゅふにゅふと笑う。
「むぅう、悪いのはこの胸にゃ!この胸にゃねーー!みゃーこにも少し分けるにゃーーーっ!」
ずばっと胸元を覆う布部分を肌蹴て、零れだしたうらやましい物に頬ずりしながら続・ダイレクトアタック!
もみもみもみぐにゅぎゅむーーー!!
「ふわぁ…何だか、変な感じ…、宮子ちゃ…やぁ、なんかもじもじするの……っ」
茹ったタコのような真っ赤な顔で、いやいやと首を振り乱すイヴ。しかし、彼女にもきっちりと匂いの効果は及んでいた。
(はうぅ、胸が、身体があついのぉ…あふ…宮子ちゃん…イヴの胸で遊んでる…赤ちゃんみたい……かわいぃの…)
本幼い彼女には、自身に何が起こっているのかわからない。
ただ分かるのは、目の前の少女がとてもとても魅力的で、何かせずにはいられないという事のみ。
「この胸にゃっ、この胸にゃぁ!――ふぐっ!?」
突然頭を持ち上げられた宮子の唇に、ちゅぅっと音を立てて吸いたてるイヴ。
とろんとした笑みを浮かべて、突き出した小さな舌で彼女の下唇を舐めなぞる。
「宮子ちゃんばっかりずるいの…今度は、イヴの…番、なの」
むちゅぅうううう〜!
反撃のターンである。
「んん〜、んっ、むぅ〜っ!?」
「ぷは…、は、ぁふんっ…お口…美味しぃの…おかわりなの♪」
ディープなあれではない。が、呼吸する暇がないほど、啄ばむ小鳥のように何度も何度も押し付ける。
二人の間で豊かと、ちょっと小さいのとが潰れたりこすれあったり―※ミセラレナイヨ※―。
「はふ、ま、負けないのにゃっ、悪い胸にはこうしてやるにゃぁ〜」
かぷり。
滑らかな白いふくらみの上に、赤い歯型がいくつもの痕を印していく。甘噛みLVなので痛みはないけれど。
「はゃあ、やぁぁ…、それはずるぃの…宮子ちゃん、それだめぇなのぉ〜…」
少女達の仲睦まじい狂艶は、正気に戻る夕暮れまで続いたと言ふ。
●
沙耶とヴィーヴィル、二人はなんとも対照的であった。
何事も理論や合理で対処する沙耶と、夢想的と言うか妄想大爆発☆お姉さまラヴ♪のヴィーヴィル。
「北東から風で匂いが流された場合…こことここだから…。…あ、これ珍しい品種」
探索しながら、森の原生植物を調べたりして一時も無駄にすまいとする沙耶。
「はぁ、お姉さま♪ 早く戻って、お姉さまの麗しいお姿を拝見したいですわ…」
またも取り出した写真片手に、うっとり妄想していたりするヴィーヴィル。
お姉さまとやらは、普段どんな目に遭っているのかしら。今度ちょっと覗きに――え、だめ?
「…ん、これは…」
「あら、いい匂いですね。匂いって、これかしら?」
ほんのりと森の風に混じる、爽やかだが甘い香り。
警戒心を抱くほど強くはなく、気にしなければいつまでも嗅いで居たい様な。
「でもこれ…魔力が混じっています。やはり天魔が…」
「問題は、それが何処にいる…のか…、…?」
くらり、と。眩暈がした頭を、沙耶は抑える。目の前を警戒しながら進むヴィーヴィルの背中を追いめながら。
「…匂いが強くなってきましたね。この先が少し開けて……これは…!」
突如として森が切れ、視界が開ける。
そこだけぽっかりと開いた広場には多くの葉を茂らす樹が一本が立ち、周囲を色とりどりの花が咲き誇る。
「綺麗ですけど…見たこともない花々です。あの樹は…?」
「多分…オークの樹、だと…。ヴィーヴィルさん、下がって…」
先程よりも激しく襲う眩暈を堪えながら、薙刀を構えて前に出ようとする沙耶……が、ヴィーヴィルの目の前で崩れ落ちた。
「樋渡様っ!?」
「だ、ダメ…抑え、きれな…」
「樋渡様、一体どうし…きゃあっ?!」
抱き起こした彼女に、いきなり押し倒されて土の上に組み敷かれる。
「…ヴィーヴィルさん…可愛い…。ねぇ、沙耶のものに…なって?」
「え?い、いえ、私にはお姉さまがっ…じゃなくて、どうなさ…まさか…?」
壊滅した包囲チーム。精神的ショック…色々な事が彼女の中で、一つの結論が導き出す。
「まさか、壊滅原因って…。樋渡様?ちょっと落ち着いて…!?」
「…誰の物だって知らない…今から沙耶のモノにする。記憶も書き換えて…他の誰の事も忘れさせて、あげる…」
にたり、と微笑みかける沙耶。引き攣った表情でヴィーヴィル。
普段は抑えている独占欲が、発情によって顕在化し、マッドな沙耶ちゃんが現れた。
「…大丈夫、すぐ沙耶の事しか考えられなくしてあげる…から」
何処にしまっていたのか、電極やら小さなメスまで取り出して病んだ微笑で見下ろす。
「くッ、仕方ないですね、ちょっと痛いのを……痛っ!」
気付けに手加減した魔法攻撃をお見舞いしようとした腕に、何かが絡み付いていた。
それは植物の蔦の様に、一見された。視線で元を辿ると、それはあのオークの樹と繋がって…。
「しまっ…、な、何かが流れ込んで…まさか、毒…?」
蔦にびっしりと生えた棘、それが彼女の柔肌に刺さり、そこから何か流れ込んでくる感覚。
どくんっ!
「はっ?!あ、あああああああぁっ!」
それは匂いの元になっていた樹液。つまり、拡散される前の濃厚な原液と言ってもいい。
どくっ、どくんっ、どくっ――!
心臓が破裂に高鳴る。頭に血が上り、肌は上気して、体中が火照って火照ってたまらない。
下腹部に、ずくりと来る疼きが何度も、何度も襲い掛かる。
「だ、だめ…私にはお姉さま…が…っ」
状態急変したヴィーヴィルに、驚いて固まっていた沙耶。だが、唐突に痙攣は止まり、静かになる。
「…ヴィーヴィル、さん?」
がばっ!
「きゃっ」
いきなり跳ね上がったヴィーヴィルの上半身に、跳ね除けられるように尻餅をつく。
と思ったら、物凄い勢いで今度は彼女が押し倒された。
「え、え?」
「…んふふ、ねぇ、樋渡様? 愛は理屈とか理論で語れるものでしょうか?」
沙耶に跨り、微笑を浮かべるヴィーヴィル。乱れた髪が覆う表情には、怪しく歪んで。
「否、そんなものは断じて否です。愛は襲うものです、奪うものです、つまり力尽くで強引に既成事実を作っちゃったもの勝ちなのです!」
色々間違っていた。
「自分の事しか考えられなくしたい? なら全てを曝け出して、忘れられない位教えてあげればいいのです…♪」
「…えっと、ヴィーヴィルさん?」
発情していた沙耶ですら、一瞬正気に返るほどの変貌振り。
目の前で、纏っていた衣服をゆっくりと緩め、肌を晒していくヴィーヴィル…いや、銀髪緋眼の『雌』。
「大丈夫…これでもいつも考えていますから、実践でも遅れはとりません…」
沙耶の着衣に手をかけ、ゆっくりと忍ばせ。内に入り、たおやかな細指が未体験の―※おっと、詳細はここまでだ※―
「あ、…んっ、なに…それ、だめ…」
「はぁ…可愛い声です……樋渡様…ここは、どうですか?」
するりとスカートに侵入した指先が―――。
「あっ、ま、まって…、……っ」
「大丈夫ですよ。何も心配しないで…♪」
こういう場合、理屈とか知識も大事だが、雰囲気と言うか場を支配したものの勝ちである。つまり妄想万歳、えちぃ子最強。
「ほら、私のほうも触ってください。ふふ、熱くなってるでしょう?…そう、上手ですよ…んっ」
「あ、ん…ヴィーヴィル…ほしい…」
「ふは、ふ、う…覚えるの、早いんですね…。…はっ、はぁ…樋渡様……」
その間に、広場にあった樹が消えうせていた事を、彼女達は知らない。
●
ダアトの抵抗値は伊達ではありませんがね、HAHAHA!
フラグである。俗に死亡フラグとか自滅フラグとか言うあれだ。誰が立てたとは言わない。
だがそれに応えなければ天魔の名が廃る!と思ったかどうか定かではないが。
☆フラグ補正により抵抗目標値 3されました☆
気がつけば周囲を複数の樹木型天魔に囲まれ、玲亜と忍に当社費三割り増しの発情アロマが襲い掛かっていたりした。
「要さん、要さん…っ、ねぇ、こんな依頼なんて止めて…」
傍らにいた忍に飛び掛るようにして襲い掛かる玲亜。
「…初対面で馴れ馴れしいのもなんだけど…まずは身体から仲良くなるのもありよね?」
忍は匂いに対抗する為に持っていたはずのアロマハンカチを投げ捨て、濃厚な口付けを交わす二人。
「んふぅ、はぐ、ふ…むぐ」「あむ、んっ、くん…」
絡み合いながら、邪魔だとばかりに着衣を脱ぎ捨て、脱がしあって。
斑に照らす木漏れ日の中で、互いの舌が、指が、柔肌の上を滑り、引掻き、時に深く深く……。
「きゃうっ、か、なめさ…そこ、な…っ」
「大丈夫、女の子相手は初めてだけど…扱い方は自分の身体で慣れてるから…」
若干気になる言い回しと共に、蕩けた笑みで顔を埋め。舌が、ゆっくりとなぞり――。
「あっ、あああぁ、ん、んっ!」
涙と涎と歓喜の笑みを浮かべて、ビクビクとのけぞる玲亜。
普段冷静な彼女からは、とても創造できないほどに…蕩け乱れた表情で震える舌を突き出し、上げる艶声。
「はぁ、はっ、わ、私だって……」
「…っ、やるわね、玲亜さ…んんっ!」
やられっぱなしではいられないと、玲亜は忍の肌を撫で這わせ、―※諸兄のご想像にお任せします※―
●
――やがて、日が暮れる頃。
出発地点に集まった総勢は、揃って表情がなんと言うかこう、あれだった。
「うう、僕は何てことしたんだろ。イヴちゃん、ごめんねっ」
「ううん、イヴも…その、ごめんなさい、なの…」
顔を真っ赤にして、ひたすら互いにぺこぺこ謝る宮子とイヴ。
「あら、樋渡様。そんな所にいないで、こちらに来られては?」
「…いい、沙耶はここでいいから…」
一人だけにこやかなヴィーヴィルに声を掛けられ、びくりと身をすくませて一歩後ずさる沙耶。
脅えた子リスのような目で相手を見つめていた…何があったのだろう。
「う〜ん、まさかあんなに強力だったとはね〜」
あっけらかんと笑う忍、その傍らで。
「…あの天魔…殺す、殺す、殺すころす殺すころすコロス……」
座り込んだ格好でぶつぶつと呪文のように繰り返す玲亜は、ざっくざっくと木の枝を地面に突き立て続ける。
「あ、は、あははは……(暫くそっとしとこう…うん)」
●
後日――。
「そうか、ご苦労だった。樹木型…オークの樹か。原型は樹精ドリュアス…ドリアードと言った所か。
香りは花を咲かせて…ほう、蔦の様な触手で直接注入も…ふむふむ。風で飛ばすという事は、指向性はないのだな」
報告書を片手にデスクで頷く女教師。
「風向きさえ見誤らなければ対策は立てられそうだな。
…ああ、探索中の詳細な報告はなし、と。うむ、まあ、あれだ。強く生きてくれ」
「「「「「「いう事はそれだけかーーーー!!」」」」」」
乙女の怒り(?)が教務室の一つを、派手に吹っ飛ばしたと言う話。
女教師はその事については不問に付した。
「まあ、小事だ。はっはっはっ」